超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

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17話 何を願ったんだか、忘れちまったよ

「――うんそう。恭介、やっぱ明後日くらいから行けるって。学校」

 

 

夜。

自室のベッドにだらしなく寝転がる美樹さやかは、携帯端末を片手に嬉しさ溢れる笑みを浮かべた。

 

 

『そうなんだ。じゃあ、お医者さんからのお墨付き貰えたんだ』

 

「いやー、それが強引に押し切ったみたいでさ。早く好きなだけヴァイオリン弾きたかったんだって」

 

『あはは……上条くんらしいね』

 

 

通話相手の鹿目まどかも小さく笑い、穏やかな談笑が続いていく。

 

魔女、バッドエンド、ついでに暁美ほむらの事――数多くの気を揉む出来事が並ぶ中、こういった元の日常に回帰する時間は、二人にとって非常に有り難いものだった。

テレパシーではなく、電話での通話もその一環。近々退院する上条恭介の事を話の種に、最近ささくれの目立つ心を癒やしていた。

 

 

「まぁでもずっと寝っぱなしで体力も落ちてるかもだし、学校じゃよろしく頼みますぞー保健委員大明神様」

 

『もう、またそんな事言って……。さやかちゃんが全部助けるつもりのくせに』

 

「いやーほら、あたし幼馴染だけどヒラだからさ。それに恭介もあたしなんかより、可愛いまどかに付き添われた方がよっぽど……、…………」

 

『……自分で言って自分でダメージ受けるんだね……』

 

 

時折新たな擦り傷が付く事もあるが、それはさておき。

 

つい数日前まで当たり前のように過ごしていた時間であるが、今になってみると、とても大切なものであった事が良く分かる。

魔法少女としての戦いに身を投じているさやかにおいては、特に。

 

 

(……うん、守りたいな。やっぱり)

 

 

そうしてまどかとのやり取りを楽しむ内、ごく自然にそんな事を思う。

 

それは巴マミの言葉の反芻、しかし一方で、それよりも尚深い所に落ちたような気がした。

はて、一体何が違うのか。何気ない雑談に興じる傍ら、己の胸裏をぼんやり探り――。

 

 

「……うん?」

 

 

――こん、と。窓を叩く何かの音に、その思考を散らした。

 

 

『えっと、どうしたの? 何か変なこと言っちゃった……?』

 

「んー? や、何か窓に当たったのかな――って……」

 

 

閉められたカーテンの隙間。ちらりと覗く窓の外に、小さく光が反射した。

それを見たさやかはほんの一瞬首を傾げた後、すぐに表情を硬くして。

 

 

「あーっと……うわ、もうこんな時間じゃん」

 

 

多少、白々しく。彷徨う視線を窓から少し上にずらし壁掛け時計に目をやれば、僅かに夜半を過ぎていた。

そろそろ床に就かなければ、明日の授業に差し障るだろう。

 

 

『あ、ほんとだ。おしゃべりしてると、あっという間だね』

 

「じゃあ今日はこれくらいにしときますかー。恭介復帰したらよろしくね、色々」

 

『うん、おやすみなさい……さやかちゃんも、頑張って』

 

 

おそらく、様々な意味が込められていたのだろう。さやかは慮りを感じる言葉に笑みを浮かべ、通話を終えた。

そうして携帯端末を棚に置き――打って変わって険しい目つきで、窓を睨む。

 

 

「……終わったけどさ、何か用?」

 

 

不機嫌を隠さず言い放ちカーテンを捲れば、窓の横にもたれ掛かっている人影が一つ。

夜闇に溶けるような黒髪と、同じく昏く冷たい瞳。

 

右手に赤く染まったハンカチを巻いた暁美ほむらの姿が、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

右手の傷を治して欲しい――。

そう言ったほむらが外したハンカチの下には、生々しい大きな傷跡が刻まれていた。

 

未だ涎のように血液を流し続けるそれを見たさやかは、すぐに窓を開けると慌てた様子でその手を握り、部屋の中へと招き入れる。

……痛みか、それとも他の感情によるものか。真剣な様子で治癒の魔法を行使する彼女に、ほむらは軽く眉を顰めた。

 

 

「……随分バックリいっちゃってるけど、何があったの? 魔女?」

 

「…………」

 

 

彼女とは現状協力関係である以上、話さない理由は無かった。

そして少女が嘘や秘密を非常に嫌う性質である事は、これまでの繰り返しでよく理解している。ここで黙すれば、禍根の種を残すだろう。

 

……かと言って全てを正直に話せば、それはそれで大きな不和を招きかねない。

バッドエンドと遭遇した不運は個々の巡り合わせによるものだが、彼が見滝原を訪れた理由そのものは、ほむらにある可能性が極めて高いからだ。

 

ほむらは少しの間目を伏せ、言葉を吟味し――やがて、改めてさやかを見る。

 

 

「……バッドエンドに会ったわ」

 

「はぇ?」

 

 

呆けた声が漏れた。

 

 

「交渉を持ちかけたのよ。もしかしたら、こちらに有利な展開に運べるかと思ったけど……」

 

「ちょ、ちょちょちょ……! な、何やってんのよあんた!?」

 

 

理解が及んださやかが大声を上げるが、今の時間帯を思い出し口に手を当てて。

階下で就寝している両親を気にしつつ、ひそひそと顔を寄せる。

 

 

「あいつは倒さなきゃいけない敵でしょうが……! 何考えてんのよ!」

 

「戦いを回避する為だった。佐倉杏子にはああ言ったけれど、争いを避けられる可能性があるのならば試すべきだもの。敵が強大ならば、特に」

 

「だからってあんな奴と話し合うって……殺し屋なんてやってる奴だよ? そんなのとまともに話なんて――」

 

「――ええ、するべきでは無かった。少しでも奴との歩み寄りを考えた私が間違っていたわ、本当に」

 

 

言い募るさやかを遮り、はっきりと言い切った。

その目にはバッドエンドへの強い敵意が窺え、さやかも気圧され口を噤む。自然と、治療を終えたほむらの右手に視線が向いた。

 

 

「……それ、さ。ダメだった……んだよね?」

 

「……相容れないと、悟ったわ。きっとその敵意を見抜かれたのでしょうね、攻撃を受けた」

 

「え、大丈夫なの? 例の洗脳ってやつとかされてない……?」

 

「平気よ」

 

 

心配と疑念が入り交じる視線に、嘆息と否定を返し。掻い摘んだ説明をしつつ、右手の調子を確かめる。

握り、開き、捻り。しかし痛みや違和感は特に感じず、小さく礼を言い残した。

 

 

「……つーか、ほんとに危機一髪って感じじゃん。それ……」

 

「残念ながら、危機は継続中よ。……あの男、どうやら私に目を付けたみたいだから」

 

「は!? ど、どういう事?」

 

「時間を操る魔法が御眼鏡に適ったみたい。今後は優先して追ってくるでしょうね、きっと」

 

 

それは正しく、嘘は一つも含まれていなかった。

……最も、目を付けられた時期に関して些かの誤解を与えるかもしれないが、それは聞き手側の問題だ。ざわつく心に言い訳をする。

 

 

「……それって、その、恭介は……」

 

「……話しぶりでは興味は薄れていたみたいだけど、狙いは外れていないでしょう。私達に繋がる手がかりとして、あなたと親しい彼は有用だもの」

 

 

バッドエンドの様子からして、ほむらと杏子の素性はまだ調べがついていないのだと窺えた。

 

しかし、やり取りの中で名前の出たさやかと上条については、深い所まで探られている可能性が高い。

現状において、バッドエンドに最も接近しているのは二人であると、ほむらは確信していた。

 

 

「魔法少女であるあなたはともかく……普通の人間である彼は、私以上に危うい立場に居るのは確かね」

 

「そんな他人事みたいに……! 恭介が何かされたら、芋づるであんたも――」

 

「ええ、だからこそ私も彼の周辺には注意するつもりよ。今も、『印』は追っている」

 

 

そう言って魔力を奔らせ、中空に見滝原の地図を投影する。

 

すると、街中より離れた山の中――ジャジメントの実験施設のある場所に、光点が点滅している事が見て取れた。

言うまでもなく、バッドエンドの現在地だ。

 

 

「……見ての通り、今は街には居ない。まだ上条恭介に危害は及んでない筈よ」

 

「何か部下みたいのが居たりするんじゃ?」

 

「それが出来るなら、既にあなた達は捕まっているんじゃないかしら。理由は分からないけど、今の奴は一人で動いていると見ていい」

 

「…………そう」

 

 

その言葉にさやかは一つ息を吐くと、居心地悪そうに目を逸らす。

おそらく、己と上条の存在が足を引っ張っているとでも思い、自責の念に駆られているのだろう。

 

 

(……これでは、インキュベーターを詰れないわね)

 

 

嘘は言わず、かといって正確でもない事実で都合の悪い真実を覆い隠し、恩着せがましく言葉を重ねる。

己の嫌う存在と同等の行為をしている事に苦いものが込み上げるが、溜息と共に吐き捨てた。

 

 

「とにかく、あなたも気をつけておきなさい。バッドエンドは、私達が思うよりも近くに居る」

 

「……胸に刻んとく」

 

 

さやかは真剣な表情で頷き――ふと、何かに気がついたかのように片眉を上げた。

 

 

「……あのさ。その話、杏子にはもう話したの?」

 

「まだよ。多少、話す内容をよく考えないといけないもの」

 

 

彼女はあなたよりも敏いから、という本音は舌裏に隠し。

それに気付かぬさやかは、杏子が交渉の件を知った際に起こり得るであろう惨状を想像し、小さく顔を引きつらせた。

 

 

「あー……何かリボン的なのある? もし何かあったら、それでお墓作っとくけど」

 

「……笑えない冗談ね。それに、リボンはとうの昔に捨てたわ」

 

「ふーん? ……まぁ、ちゃんと戦うって決めたんなら、杏子もそんなに――って」

 

 

ふと見れば、既にほむらの姿は跡形も無く消えていた。用は済んだという事らしい。

 

 

「……そういうとこだかんね、ほんと」

 

 

相変わらずの冷淡さに、最早怒りすら湧かず。さやかは小さな嘆息を残し窓を締めた。

外の夜闇がガラスの内に充満し、澱んだ顔を反射する。恐怖と不安の滲む、酷いものだ。

 

 

「…………」

 

 

自然と、視線が棚の上の端末に向いた。

そうして無意識の内に手が伸びかけたが、すぐ抑え込み。力なくベッドへと倒れ込むと、まんじりと天井の明かりを眺め続ける。

 

……消灯は、それから暫く経っての事だった。

 

 

 

 

翌日。

目の下に薄く隈を作ったさやかは、その日一日忙しなく周囲に気を配り続けた。

 

登校中、授業中、休み時間さえも。

きょろきょろと怪しい人影が居ないか確認し、学校を欠席し街を飛び回っているほむらへ定期的にテレパシーを繋げ、バッドエンドの場所を確認する。

教師には落ち着きが無いと叱られ、辟易したほむらに途中から無視されるなど空回り目立ったが、それでも止めるつもりは無かった。

 

さやか自身、己の魔法少女としての実力が、杏子やほむらに一歩も二歩も劣っているとは自覚している。

そんな自分がバッドエンドという魔女以上の化物から大切な人を護る為には、用心に用心を重ねても尚足りない。焦りにも似た感情が、頭の中を圧迫していた。

 

 

「……さやかちゃん、大丈夫……?」

 

「朝からずっと様子がおかしいですけれど……何かお悩み事ですの?」

 

 

当然、その様子は級友達の目にも奇異に映ったようだ。

特にまどかと仁美は心の底から心配した様子を見せ、机に突っ伏すさやかの背へと手を添える。

 

 

「んー……ちょーっとねー……。今が頑張らにゃあならぬ時なのですよ、さやかちゃんは」

 

「……それで何故そんな挙動不審になるのか分かりませんが……ええと、それは上条さんに関わるもので?」

 

「当たらずとも遠からず……かな。まぁ色々と気を張ってなきゃダメなんすわ……」

 

 

目を擦りつつ放たれたその言葉に、仁美は僅かに表情を曇らせる。

しかしそれに気付く者は無く、まどかはこっそりとさやかへテレパシーを繋げた。

 

 

(……あの、もしかして昨日のお話で、何か煽っちゃった……?)

 

(違う違う。まどかには癒やされたんだけど、あの後に辛気臭いのが来てさ……)

 

 

言いかけ、さやかの視線が仁美に向く。

 

昨夜の一件を伝えようにも、今は長話が出来るタイミングでは無い。

さやかはまた後で話すとだけ伝えテレパシーを切り上げると、多少わざとらしく大きな伸びをした。

 

 

「ま、そんな心配しないでよ。大した事じゃないからへーきへーき」

 

「……それなら、よろしいのですが……」

 

「……?」

 

 

仁美の曇った表情に気づいたまどかが首を傾げた時、授業のチャイムが鳴った。

 

 

「あら、もうこんな時間。ではまた後で」

 

「あ……う、うん」

 

 

それにより仁美も己の席に戻り、表情の理由も聞きそびれ。

そして授業中にさやかから事のあらましを聞いた後には、疑問はすっかり頭の中から吹き飛んでいた。

 

 

 

 

「――ま、そんな訳で。今日のパトロールは、一人でやっとくよ」

 

 

ほむらからの話を知り、更に酷く心配し始めたまどかに、さやかは笑ってそう告げた。

 

その笑みはまどかへの慮りと同時、多分の強がりも混じったものだ。

無論、彼女もそれを見抜き、さやかへの同行を望んだものの――当然それが受け入れられる筈もなく。

放課後を迎えた瞬間、さやかは呼び止めるまどかの声を振り切るように学校を後にした。

 

 

(……流石に、今回ばっかりはなぁ……)

 

 

そうして夕焼け混じりの街中を一人寂しく歩きつつ、溜息を吐く。

 

本音を言えば、まどかには魔女退治の際のように側にいて支えて欲しいという気持ちはあった。

しかし己と共に居る事で、バッドエンドに目を付けられたら目も当てられない。上条と共に捕らえられ人質とされる光景を幻視し、一段と心が重くなる。

 

 

(――……ねぇ転校生、恭介の方は――)

 

(無事よ。信用できないなら自分で確かめなさい)

 

 

急激に上条への心配が湧き上がりほむらへ確認を取れば、全てを言い切る前にそう遮られた。

以降は幾ら呼びかけてもまた無視をされ、ぴくりと目元が引きつった。

 

 

(や、まぁあたしが悪いんだけどもさ……)

 

 

心配が祟っての行為とはいえ、流石にイタズラ電話じみた事をしているという自覚はあった。

さやかは気まずげに頬を掻き……少し悩んだ後、進行方向を変更。上条の元へと足を向ける。

 

以前とは違い、ほむらの事を全く信用していない訳ではないが、しかし不安なものは不安なのだ。

 

 

(今日の午後退院だったから……もう家に戻ってるかな)

 

 

今頃は、退院後の私物整理や学校の準備で忙しくしている筈だ。若干の嬉しさが込み上げるものの、今はその時ではないと気を引き締める。

 

ともかく、警戒が必要なのは彼の家を中心とした住宅街だろう。

さやかは学校の時と同じく、周囲へ気を配り始め――。

 

 

「……うわ、不審者が居る」

 

「えっ、どこ!?」

 

「オメーだよバカ」

 

 

唐突な言葉に思わず臨戦態勢を取れば、呆れたような声が投げつけられる。

見ると、通りがかった住宅街近くの自然公園――そのベンチに寝転がっていた杏子が、何とも冷たい視線を向けていた。

 

 

「きょ、杏子!? 何でここに……」

 

「あたしがどこに居ようが勝手だろ。つーかあんたこそ何してんのさ、きょろきょろきょろきょろ……万引きでもして逃げてんのかい」

 

「する訳無いでしょ! 警戒してんのよ、あのバッド――」

 

 

そこまで口にした刹那。目を鋭く細めた杏子が、さやかを強く睨みつけた。

すると瞬時にその喉から声が奪われ、ヒューヒューと空気の素通りする音だけが虚しく響く。

 

バッドエンドにも行った、魔法による沈黙の暗示だ。

 

 

「……! ……っ!?」

 

「……こんなとこでアレの名前叫ぶなって。ほんとに出てくるかもしんないだろうが」

 

「――んぐっ!? あ、あー……!」

 

 

やれやれ、と忠告混じりに再びさやかを見やれば、すぐに声が戻り。

小さくない混乱を残しつつも、杏子に恨みがましい目を向ける。

 

 

「び、っ……超ビビったぁ……! あ、あんたねぇ……!!」

 

「あんまり煩いとまた黙らすよ。アレはもう話せるようになってたらしいが、あんたは一生解けないかもね」

 

 

流石にもう一度声を奪われたくは無く、口にしかけた文句を渋々呑み込んだ。

そうして杏子を睨んでいると――ふと昨夜のほむらを思い出し、ピクリと眉が跳ねた。

 

……先の口ぶりからして、杏子は既に例の説明を受けているようだ。

見た限りでは、彼女の目に赫怒の色は窺えないが、さて。

 

 

「その……さ。あんたも、転校生からの話……聞いたの?」

 

「あん? ああ、朝にテレパシーで大体ね。アレに探り入れたとか聞いて、目が覚めちまった」

 

 

そう言ってあくびをする彼女に、含むものは感じなかった。

 

どうやら、ほむらは上手く誤魔化し切る事が出来たらしい。

ほっと安堵の息を吐くと、杏子は訝しげな表情を浮かべた。

 

 

「……あの話、何かあんの?」

 

「い、いや別に……って、あれ。じゃあもしかして、あんたも恭介張ってたり……?」

 

 

言い訳代わり。思いついた事をそのまま口走れば、杏子はバツが悪そうに舌打ちを鳴らす。

彼女がこの住宅街近くの公園に居た理由を、期せずして言い当てたようだ。

 

 

「……あんた『も』って事は、同じ事考えてたのか。こんなバカと思考回路被るなんて、一生の不覚だ」

 

「……あのさ、幾ら菩薩のさやかちゃんといえど、そろそろホントに怒るからね……?」

 

「悪いね。アレの洗脳が抜け切ってないのか、隠し事や我慢があんまり出来なくなってるのさ」

 

「結局本音って事じゃん!? つーかそれあんたなら魔法で解けるでしょ!」

 

「人は騙せても自分は騙せないんだよ、あたしの魔法は――っと」

 

 

杏子は熱り立つさやかをからかい混じりに笑うと、ベンチから立ち上がり伸びを一つ。

どこかから取り出した菓子を齧り齧り、軽い足取りで歩き出した。

 

 

「ま、ともかくだ。あんたの幼馴染だっけ? 周り、ちょっとばかしうろつかせて貰うよ。構わないだろ?」

 

「…………まぁ、良いけどさ」

 

 

少し悩むも、すぐに頷く。

マミの墓の件を通じ、さやかの杏子を見る目は変わりつつあった。

 

 

「いや、でもあの反射能力とかどうすんのよ。あれがある限り、こっちからは何も……」

 

「――少し、思いついたことがある。見立が正しければ、きっと――……」

 

 

そこまで口にして、さやかを見る。

すると何かを懸念するように眉を顰め、小さな嘆息を残し歩みを早めた。

 

 

「……何よ」

 

「なーんか、無茶しそうな気がするからね。今は教えないどく」

 

「は? 意味わか――あたっ」

 

 

食べ終えた菓子の空箱が、さやかの顔に投げつけられる。どうやら話す気は無いらしい。

 

あまりにぞんざいな態度に青筋が立つが、ぐっと堪えて我慢の子。

拾い上げた空箱を付近のゴミ箱へと荒々しく叩き込み、杏子の背を追いかける。

 

 

「……よく分かんないけど、何か考えてるのは分かった。でも、恭介や他の人達は巻き込まないでよね」

 

「あー……」

 

 

その何とも言えない返しにさやかの柳眉が逆立つが、すぐに「落ち着けよ」と遮られ。

 

 

「まぁ、場所を移しゃ大丈夫だろ。元から人だらけの場所で戦うつもりもないしな」

 

「……絶対だかんね。絶対!」

 

 

重ねて念押しすれば、杏子はうんざりとした表情で小さく鼻を鳴らした。

 

 

「わーったよ。ったく、そんなに他人の事ばっか気にしてご苦労なこった」

 

「あたり前のコトでしょ。前も言ったけど、魔法少女は……」

 

「あーはいはい、世の為人の為正義の味方ね。立派立派」

 

 

多少は打ち解けた二人ではあったが、魔法少女としてのあり方に関しては未だ理解し合えていないようだ。

 

とはいえ、既に慣れたやり取りなのだろう。さやかも眉こそ顰めたが、それ以上に激昂する事もなく、足元の小石を蹴飛ばすだけに留め。

それきり、暫く互いに沈黙。足音だけが静かに響く。

 

そうして、自然公園を抜けようとした折――ぽつりと、杏子が呟いた。

 

 

「……あんたはさ。キュゥべえにも、誰かの為に願ったのかい」

 

「え? そりゃ、まぁ……そうなる、のかな」

 

「ふぅん……」

 

 

その声音はどこか乾いたもので、空虚さすら感じさせるものだった。

 

まるで、こちらを責めるような、或いは哀れんでいるような。

怒りよりも居心地の悪さが勝ち、さやかの歩みが鈍り。そんな自分に気付き、苦し紛れに問い返す。

 

 

「そ、そういうあんたの方はどうなのさ。色々言ってるけど、どんな願い……を……」

 

「…………」

 

 

だが、それは杏子の琴線に触れたようだ。

彼女はぴたりと足を止め、顔だけをさやかへ傾ける。

 

その瞳には、赫怒ではない何かの色が浮かんでいた。

しかしさやかは、その色の名を知らず、故に黙し。ただ、引き込まれた。

 

 

「……さぁね。何を願ったんだか、忘れちまったよ」

 

 

明らかな嘘。

杏子は薄く笑い、「でも」と繋げ。

 

 

「自分の為に願っとけば良かった……とは思ったかもね」

 

「……それって……、」

 

 

その時、何と声をかけようとしたのか。さやか自身、はっきりとはしていなかった。

 

何かを言わなければならない――そのような、義務感にも似た情動に衝き動かされるまま。

さやかは杏子の瞳と真正面から向き合い、そして――。

 

 

――瞬間。二人のソウルジェムが大きく一度、脈動をした。

 

 

「っ!? これ……!」

 

「ああ、魔女だ。チッ、何処にでも湧きやがる――!」

 

 

杏子は舌打ちと共にソウルジェムに魔力を通し、魔法少女の装いに変身。

唐突に現れた淀んだ魔力の下へと、さやかを置いて駆け出した。

 

 

「ちょっ! あたしも行くって!」

 

「いいよ来なくて! こっちはほっといて、さっさと愛しの幼馴染クンのとこにでも行ってな!」

 

「それ色んな所で言われるけどそんなに分かりやすいかあたし!?」

 

 

先程までの神妙な空気は何処へやら。

赤と青。互いに怒声を投げ合いながら、二色の魔法少女が空を駆け抜けて行った。

 

 

 

 

――そうして、彼女達が立ち去った後。

自然公園の一角から、小さな何かが這い出した。

 

 

「――――」

 

 

銀の身体と、硝子の目。

歪なクモの形をしたそれは、さやか達の消えた方角をただ静かに観測し続けていた――。




『美樹さやか』
みんな大好きさやかちゃそ。見滝原チームのヒーラー担当。
何か回復魔法と言うより再生能力という感じが強い。影の魔女戦が強烈すぎたのだ……。
とはいえ流石にまどかやゆま程では無いにしろ、四肢の接着くらいなら普通にこなせるレベルにはありそう。
だって同人誌とかだと手足どころか股間から(略)。


『鹿目まどか』
みんな大好きまどか様。見滝原チームのメンタルケア担当。
魔法少女になった場合の固有魔法って何になるんだろう。
媒体ごとに大体とんでもねーことやっててよく分かんないぜ!


『志筑仁美』
みんな結構好きなんだろ。知ってるんだから。
上条恭介の為にアレコレするさやかを見て、乙女心が決意を固めたようだ。


『暁美ほむら』
ほむほむほむほむ。見滝原チームの……何担当?
今更だけど、本SSは未来人の存在するパワポケ世界が混じっているので、時間遡行魔法の性質もそれに合わせて少し変わってます。
いやまぁ元々媒体ごとに平行世界移動だったりそうでなかったりするんで、実は何も変わっていないのかもしれないけど。
つーかパワポケ世界の時間遡行解釈も大概ワケわかんないんで、そもそも何一つ合っていない可能性があるのでは?
ほむは訝しんだ。


『佐倉杏子』
みんな大好きあんこたん。見滝原チームの助っ人外国人枠。
一回さやかと打ち解けると急速にデレまくる。単にそういう性格なのか、殊更にさやかが気に入ったのか。
ちなみに、本人は冗談めかしていっているが、ホンフーの洗脳が多少残っているのは本当。
気を抜くと万引きにさえ自然と幻惑魔法を使いかけるため、ホンフーへの憎しみとソウルジェムの濁りが嵩んでいるようだ。


『銀色のクモ』
TXに比べて随分な重役出勤じゃねぇか……。


一歩一歩行くぞ……。

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