超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

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二周目
1´話 頑張った子には、ご褒美が必要だ


保澄雫は、少しばかり不機嫌であった。

 

 

「…………」

 

 

見滝原総合病院、その待合室。

数多の患者や見舞客が行き交うその一席で、彼女はぼんやりと天井を睨む。

 

病院特有の清潔に過ぎる香りがどうにも合わず、落ち着かない。

身分としては患者でも見舞客でも無い事もあり、居心地の悪さがのしかかる。

 

 

(……それに、病院って良い記憶もないし)

 

 

この病院での事では無いとはいえ、かつて己が看取った者の姿を思い出し、気さえも沈んだ。

 

まったく、何故己がこんな所に来なくてはならないのか――。

ともすれば溢れ出そうになる愚痴を溜息と変え、雫は自然と現状に至る経緯を振り返っていた。

 

 

 

 

 

『至急、私を見滝原総合病院に運んで欲しい――』

 

 

とある日の朝。

いつも通りジャジメントの物資運搬任務に向かおうとしていた最中、その命令は下された。

 

命令主は、雫の上司……という事になっているウ・ホンフー。

唐突かつ強引なそれに、雫も(普段以上の)警戒や疑問を抱かざるを得なかった。

しかし拒否権などある筈も無く、雫は渋々それを了承。ホンフーを伴い、見滝原の地へ降り立つ事と相成った。

 

未踏の地という事もあり多少もたついたものの、誤差は数分にも満たない。

僅かな時間で見滝原総合病院へと到着した後、ホンフーは即座に手近な看護師を捕まえると、雫に待機とだけ告げ歩き去って行ったのだ。

 

結果、雫は何の縁も無い病院で一人待ち惚ける羽目に陥った。

運搬任務で物騒な兵器類を運ぶよりは遥かに楽とはいえ、ホンフー絡みである以上どうにも緊張感が拭えず、病院の居心地の悪さもあり精神的には疲弊する。

 

よもや、あのホンフーの顔が恋しくなる時が来ようとは。何だか物凄く「ドロりん」とした気分になる雫であった。

 

 

(……っていうか、あの人が会いたい人って、誰)

 

 

気を逸らしがてら、考える。

 

命令を下した時、彼は「まだ行き会えるかもしれない」と零していた筈だ。

さて、それはこの病院に勤める医師なのか、それとも来院している誰かであるのか。

或いは退院を目前としていたり、反対に死期の近い入院患者という線もある。

 

 

(……珍しい能力者の人、とか?)

 

 

ホンフーと雫の付き合いは、決して長くはないが短くもない。

遺憾ではあったが部下として扱われる内、彼が何かしらの能力者を探しているという事は、雫も薄々察してはいた。

 

もしかしたら、その「何かしら」が見つかったのかもしれない。

特に確証がある訳でも無いものの、彼の一連の急ぎ様から、ぼんやりとそう思い――。

 

 

「……ん……?」

 

 

ふと、妙な気配を感じた。

 

否、それは気配とも呼べないような、微かで幽かな空気の乱れだ。

この待合室の清潔な空間において、違う色が一滴。僅かに広がり、薄霧のように揺らめいている。

 

 

(……小さすぎて、よく分からないけど……魔力、かな)

 

 

空間を統べる魔法を持つ雫で無ければ気付きもしないような、小さな魔力。

それはここより少し離れた別棟から漂ってきているらしく、自然と通路の先を目が追った。

 

 

「…………」

 

 

少しばかり、迷う。

 

しかし、そこに魔力があるのであれば、それは魔法少女の領分だろうと言い訳一つ。

雫は携帯端末を取り出しホンフーへ軽く報告を入れた後、そそくさと居心地の悪い待合室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「――やはり、一足遅かったか」

 

 

重病者用の入院フロア、その一室。

もぬけの殻となった室内――つい先刻まで暁美ほむらが居た筈のそこを眺め、ウ・ホンフーは肩を落とした。

 

 

(ここに来るまで、何度か時間停止が挟まれた。彼女が既に動き出している事は分かっていたが……素早いな、流石に)

 

 

時間遡行後、状況把握に手間取っていた己と違い、覚醒直後には既に行動を開始していたらしい。

そのベテランとも言うべき手際の良さに、いっそ感心すらしてしまう。

 

 

(……ま、こちらが初心者である以上、後手は仕方が無い。とりあえず、『相乗り』が正常に作用すると分かっただけでも、収穫と考えるべきかしら)

 

 

時間遡行という現象を経ても尚、ホンフーの胸裏で燻る魔法の種火は今も変わらずそこにあり、時間停止という現象への『相乗り』を可能としていた。

 

どうやら、『認識』と『理解』の手順は記憶と共に引き継いでいるようだ。

ホンフーはその事実をもって己を慰め――しかし最悪の場合、種火を習得していない状態にまで巻き戻っていた可能性もあったと今更ながらに思い至り、少しばかり背筋が冷えた。

 

 

(ううん……逸ってますかね、これ)

 

 

思えば、自身の状態把握を切り上げほむらの下へ急ぎ突撃した事も、随分な浅慮であった。

 

求め続けた時間遡行を体験した事で、冷静さを欠いていた――。

ホンフーはそんな未熟を晒した己を恥じつつ、軽く瞑想。呼吸を整え、丹田に籠った熱を吐く。

 

 

(……落ち着こう。おそらく、彼女の方はまだ私に気付いてはいない。ならば、状況はこちらが有利ではある)

 

 

何せ、前の時間でホンフーはほむらに討ち取られているのだ。

加えて時間遡行という壁も挟んでいる。彼女もまさか、死人が時を越えて追って来ているなどとは、夢にも思っていないだろう。

 

故に、今のほむらはこれまでの時間軸同様、ホンフーの存在を想定しない行動を取っている筈だ。

それはホンフーにとって、大きな隙を晒し続けているも同義。焦る必要は無いのだと、ひりつきの残る心に言い聞かせる。

 

 

(まずは、私自身の状態を完全に把握しておくとして……次に情報収集か)

 

 

前の時間軸では、桧垣のメールを始めとして暁美ほむらに関する幾つかの情報は持っていた。

しかし当然、この時間軸に移動した際に全て失われている。ある程度は記憶しているとはいえ、もう一度深く洗い直す必要はあった。

 

 

(それを考えれば、今彼女を取り逃したのは運が良かったとも言える……なんて、カッコ悪い詭弁よね)

 

 

一人肩を竦め、苦笑い。

 

そして最早用の無くなった病室を後にすると、洗脳し外に待機させていた看護師に対し、暁美ほむらの情報書類を隠すよう(・・・・)命令する。

すると看護師は虚ろな目のまま頷き、生気の無い足取りで歩き去って行った。これで数刻後には、ホンフーの望む情報を持って戻ってくる事だろう。

 

ホンフーはにこやかにその背を見送ると、廊下の窓際に背を預け、一息。

そうして看護師の帰りを待ちつつ、何気なく窓の外へと目を向けた。

 

 

(……あぁ、ここだったか)

 

 

遥か階下に広がっていたのは、見覚えのある中庭だ。

そこは入院患者用の憩いの場として開放されているようで、点滴スタンドや松葉杖、車椅子に乗った者まで、多種多様な様相の者が行き来している。

 

以前訪れた時と違い、流麗なヴァイオリンの音色は聞こえない。

ホンフーはそれを僅かに惜しみつつ、何となしにその光景を眺め続け――。

 

 

「……おや? あれは――……、っ」

 

 

その中の一点に目を付けた瞬間、懐の携帯端末が小さく震えた。

 

見れば雫からのメッセージが入っており、極々小さな魔力反応を感じたので調査をするとの事だった。

 

 

(魔力……)

 

 

自然と暁美ほむらの姿が浮かぶが、何一つ痕跡を残さず引き払っていたあの病室を見る限り、関係しているかは微妙な所だろう。

 

元々、病院とは人の死と絶望が近く、魔女が発生しやすい施設だ。

ほむらの痕跡と捉えるよりは、使い魔の一匹や二匹が突然湧いたと見た方がしっくりと来る部分もあった。

 

ホンフーは少しの間顎に指を当て、検討し。

 

 

(まぁ、一応見て貰っときますか)

 

 

しかし、すぐに結論は出た。

 

可能性としてはさして大きくは無いが、ほむらと無関係だと断言できる訳でも無い。

放置するのも引っ掛かりが残る為、『魔法少女の気配を感じたら手を引け』とだけメッセージに残し、調査の許可を伝えておく。

 

最も、ジャジメントの任務は基本的に秘密が徹底されている。

特に魔法少女にはテレパシーという独自の通信手段がある為、無関係の魔法少女との接触は元から御法度である。

これまで数々の任務をこなしてきた雫であれば、言われるまでも無く他者との接触を避けて立ち回ってくれるだろう。

 

 

(とりあえず、あちらはあちらで任せましょ。……こちらもこちらで、見つけたものがありますしね)

 

 

端末をしまい、再び窓の外を見る。

見下ろす中庭の端。花壇と木々の合間に、車椅子に乗る少年の姿があった。

 

……以前、見た事のある顔だ。

しかしその様子には、当時の明るさは見る影も無い。酷く陰鬱な空気を背負い、片腕を固めるギプスをじっと見つめている。

 

ホンフーはそんな彼の様子に目を細め――無意識に、己の胸へ手を当てた。つい先刻まで、深い銃創が穿たれていた場所だ。

 

 

「――頑張った子には、ご褒美が必要だ」

 

 

脳裏を過る、青き魔法少女にそう呟いて。

ホンフーは、件の少年――怪我をしていた頃の上条恭介へと、朗らかな笑みを差し向けた。

 

 

 

 

 

 

(反応では、このあたりだったと思うけど……)

 

 

別棟。

小さな魔力反応を追い、ある入院フロアの一角へ足を踏み入れた雫は、静かに周囲を見回した。

 

先程までの人気の多い場所と違い、随分と閑静なフロアであった。

入院患者の為のフロアである以上、当たり前と言えばその通りなのだが――どうにも不気味な印象が拭えない。

ふと見れば、廊下の壁には何故か『不審者注意』と書かれたポスターが貼られており、それが一層寒気を煽る。

 

 

(……早めに確認して、終わらせよう)

 

 

軽く二の腕を擦りつつ、足を速める。

 

反応はもう、すぐそこにまで迫っていた。

雫は多少警戒を強め、探査魔法を研ぎ澄ませ――。

 

 

「……? あれは……」

 

 

ある病室前の壁。空白となっているネームプレートの真横に、小さく光る何かが見えた。

 

どうやら、魔力はそれから漂っているようだ。

雫は念の為ソウルジェムに魔力を回しつつ、ゆっくりと近づき――その正体を認めた瞬間、ぽかんと目を丸くした。

 

――そこにあったのは、壁に刺さった黒い宝石。

休眠状態となっている、剥き身のグリーフシードであった。

 

 

(えぇ……? 何で、こんな所に……)

 

 

思わず首を傾げる。

 

グリーフシードとは魔女を倒さなければ出現せず、自然発生する代物では無い。

このように単体で落ちている事など、普通は無い……筈だ。

 

 

(誰かが敢えて放置して、魔女が孵る事を狙ってるとか……?)

 

 

穢れの溜まったグリーフシードを放置し魔女の孵化を待ち、再度それを討伐し浄化に使う。

様々な意味で危険の伴う、あまり褒められたものでは無い方法だ。

 

雫もそれを忌避する側の一人ではあったが、好んで行う魔法少女に心当たりが無い訳でもない。

先程ホンフーから返って来たメッセージの事もあり、改めて探査魔法を張るものの――しかし気配はやはり無く、雫が一人きょろきょろ不審を晒しているだけだった。

 

 

(……本当に、ただ落ちてるだけ?)

 

 

どうにも納得できない状況ではあった。

 

とはいえ目前に広がっている以上、放置しておく訳にもいかない。

雫は何とも言えない表情で首を傾げながらも、封印処理を施すべくその手を伸ばし――。

 

 

「っ、きゃあ!?」

 

 

――だが、ほんの少しだけ、警戒が過ぎたようだった。

 

間近で雫の魔力を浴び続けた事が刺激となったのだろう。

突然グリーフシードが大きく脈動したかと思うと、その内より淀んだ魔力が噴き出した。

 

雫は咄嗟に変身し、グリーフシードを砕こうとするが――その寸前、魔女の結界が発生。

展開する空間の歪みに呑み込まれ、気付いた時には何処とも知れぬ異世界へと放り込まれていた。

 

 

「しまったッ……!」

 

 

魔女が、孵った。

 

失態だ。過度に警戒などせず、さっさと封印処理をするべきだった。

病院という場所で魔女を復活させてしまった事に、強く歯噛みして。

 

 

(……ダメ、後悔は後!)

 

 

せめて犠牲者が出る前に、魔女を討伐しなければ。

雫は頭を振って気を取り直すと、生み出したチャクラムを構え、周囲の様子を確認する。

 

まず目につくのは、積み重なった巨大な菓子の山と、天より垂れるクリームの壁だ。

下を向けば地面すらもが焼き菓子で出来ており、この結界は菓子によって構成されているらしい。

 

とはいえ食欲に繋がる筈も無く。甘ったるい匂いに胸焼けを起こし、眉を顰めた。

 

 

(魔女の気配は……よかった、まだ追える)

 

 

探査魔法が示した反応に安堵の息を吐き、雫は砂糖でべたつく地を蹴った。

 

空間結合魔法により手早く魔女の下に跳びたい所ではあったが、魔女の結界内ではそれも難しい。

魔女の支配する空間への干渉は魔力消費が激しく、また空間の歪みにより狙った場所に繋げられない可能性もあるからだ。

 

短距離ならばともかく、長距離の空間結合は正しく賭けとなり得る。

もどかしくはあったが、己の足を使う事が一番確実な方法であった。

 

 

(あの人を呼べれば、すぐに終わるだろうけど……)

 

 

あの人――ホンフーの助けがあれば、バジリスクの能力で結界ごと魔女を殺せるだろう。

 

しかし取り出した端末のアンテナ表示は見事に0本。

これでは連絡を取る事も出来ず、助けを呼べる筈も無し。

 

 

(……いえ、これは私の不始末。私一人でどうにかしなきゃ)

 

 

雫はチャクラムを握る手に力を籠め、より強く一歩を踏み出す。

そして集い始めた使い魔達を振り切り、積み上げられた菓子の奥へと突入して行った。

 

 

 

――外界。

結界に接近する新たな魔力の気配には、未だ気付かぬままとして。

 

 




1ダッシュ話、と読む。パワポケダッシュだ!

あけましておめでとうございます。今年ものんびり宜しくお願い致します。
マギレコアニメまでもう少しですって、楽しみっすねぇ。


『保澄雫』
マギアレコードに登場する魔法少女。空間結合魔法の使い手であり、本SSではジャジメントの協力者となっている。
事故で致命傷を負った想い人の居る病院へ駆けつける為、キュゥべえに願いを捧げた。今回はその時の事を思い出してちょっぴり機嫌が悪くなっているようだ。
時が戻っても友人とは喧嘩中のまま。YESプチりん、NOTちみりょー。


『ウ・ホンフー』
パワポケにおけるラスボス2号。コードネームはバッドエンド。
ワクワクのまま勇み足でほむらを追いかけたは良いものの、タッチの差で取り逃がしてしまった。しかしそのおかげで多少冷静となり、何やら準備に動き始めたようだ。
ほむらにはまだ存在を気取られていない。


『ほむらの入院していた病院』
名付けて見滝原総合病院。明示されてない部分が多いので、本SSにおいてはかなり設定作ってます。
上条恭介が入院仲間だったり、なぎさ母が入院していた場所だったり、病院関連のイベントはほぼこの病院に一纏めにしました。ご了承ください。
まぁほむらが居た時点で難病にも対応できる大きな病院という事になるので、重篤の恭介やなぎさママが居てもおかしく無いよネ!

……とか思ってたら、マギレコのアレコレで実は殺人が起こってたり魔女が生まれてたり、結果的にヤベー病院になってしまいました。どうすんべ……。


『グリーフシード』
魔法少女の成れの果てにして、魔女の卵。これに穢れが溜まり過ぎると、魔女が孵化してえらい事になる。
割と色んな所に落ちてるけど、それぞれどういった経緯で落ちるに至ったのだろうか。
今回落ちていたのはお菓子のアイツ。


『不審者注意のポスター』
うーん、まいったなぁ。なぎさちゃんの様子見に行ったら、変な事になっちゃった。
思わず倒しちゃったけど……これ、どうしようかなぁ。使っちゃうのも、何か申し訳ないし……。
……あ、そうだ。ママの居た所に連れて行ってあげよう!
なぎさちゃんのママは悪い人だったけど、ちゃんと殺してあげたから、もう問題ないよね。うんうん、それが良い、そうしよう。

壁に刺して……これでよし、と。
ワタシはきっと、なぎさちゃんの味方だったから。これも、喜んでくれるよね――。


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