超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

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2´話 格好悪い所を見せちゃったわね

雫の持つ端末の反応が、消えた。

 

ホンフーがそれに気づいたのは、暁美ほむらの情報書類を入手した後、上条恭介に関する『野暮用』を終えてすぐの事だった。

 

 

「妨害電波……いや、魔女が出たのか?」

 

 

雫を呼び出そうとした端末が示すノーシグナルを前に、そう呟く。

 

敵対する何者かに始末された、とは考えなかった。

空間結合魔法を持ち、前の時間軸ではワルプルギスの夜からも逃げ切った彼女を確実に仕留められる者などそうは居ない。

時間停止が可能な暁美ほむらであれば分からないが――反応が消える前後に『相乗り』は確認しておらず、彼女の関与はおそらく無いと見て良い筈だ。

 

何より、仮に雫が死亡していたとしても端末の反応は残ったままとなり、壊されたら壊されたでその記録が残るようになっている。

しかし雫の端末はそのどちらでも無く、唐突に反応を消している。

 

今この状況において、それは魔女の結界に入った事による可能性が極めて高い。ホンフーは、そう断じた。

 

 

(魔法関係であれば、完全に任せた方が良いかもしれないが……)

 

 

ちら、と脇に抱えたほむらの情報書類を見る。

 

魔女が現れたのであれば、気付いた彼女が戻って来てもおかしくは無い。

未だ彼女に対する準備は殆ど出来ていないに等しく、ひとまず静観すべきなのだろうが――そこに雫が居るのなら、話は別だ。

 

 

(……万が一には、備えておくべきか)

 

 

ホンフーは書類を懐にしまい込むと、最後に雫の端末反応があった場所へと走り出す。

 

気付かれないよう透明化の能力を纏っておきたい所ではあったが、それをすれば時間停止に対応できなくなる。

必要ならば使用を躊躇うつもりは無いが、一度それで痛い目を見ている以上、魔法の種火の解除には慎重となっていた。

 

 

(……あんな事になるのは、もうゴメンですしね)

 

 

脳が欠損していた時のおぞましい感覚が朧げに浮かび、げんなり。

しかし警戒は一層深く重ねつつ、現場となる別棟へと移動。人気のない入院フロアへと足を踏み入れた。

 

 

(魔女の気配は……まぁ、やはり分からないか。だが……)

 

 

どうにも、不穏な気配は感じた。

 

それが魔女によるものかは分からないが、この場所には何かがある。そう確信するだけの、淀んだ空気。

不審者注意と書かれた謎のポスターに目を細めつつ、ホンフーは端末の反応を追って歩を進めて行く。

 

 

(……この階、敬遠されるようなウワサでもあるのだろうか。随分と静かな――、っと)

 

 

カツン、と。フロアに小さな音が反響する。

何者かの足音――瞬時にそう察したホンフーは咄嗟に廊下の角へ身を潜め、気配を断った。

 

 

(小さく、軽い……女性か、子供か)

 

 

……『相乗り』が発動している感覚は無い。

ほむらか、それとも違うのか。気取られないよう用心し、こちらへ近づく足音の主を窺った。

 

 

(……あれは)

 

 

やがてホンフーの目に、一人の少女の姿が映る。

 

速足で廊下を進む彼女は、やがてとある病室の前で立ち止まると、徐に片手を差し向ける。

するとその中指に嵌る指輪を中心として、眩い光が迸り――。

 

 

「――っ!」

 

 

それを見たホンフーは僅かに逡巡。

しかしすぐに透明化の能力を纏い、姿を消した。

 

――そして、光が収まった時。そこには、少女の姿も見当たらず。

人の気配も影も無くなった、無人の廊下。ここではないどこかで、扉の閉まるような音が静かに響いた。

 

 

 

 

 

 

「――やぁっ!」

 

 

一閃。

雫の持つチャクラムが振り抜かれ、目前に迫る使い魔を両断した。

 

丸ネズミのような姿をしたそれは、あっさりと消滅。キュゥべえの顔が描かれた謎のチップを撒き散らす。

しかしすぐに新たな使い魔達が何処より湧き出し、雫に向かって頭から突進した。

 

牙や角も無く、さして脅威にはならない攻撃に見えたが、素直に受け止める訳も無い。雫はひらりと躱すと、それらの進路にチャクラムの輪を置いておく。

使い魔達は魔法により空中へと繋げられたその穴を潜り、遠くに積み重なるケーキの山へ次々と突き立って行った。

 

 

「さっきから、しつこい……」

 

 

藻掻く使い魔に目を向ける事も無く、雫は改めてチャクラムを構え、溜息交じりに呟く。

 

彼女の眼前には無数の使い魔が蠢いており、先程の個体と同じく突進の構えを見せていた。

どうやら、この使い魔達は動くものに頭から突っ込んでいく性質があるようで、執拗に雫へと追いすがって来るのだ。

 

 

(一体一体は弱いけど……こう絶え間なく来られると、流石に疲れる)

 

 

今まさに揺れるマフラーに反応した一体を切り捨て、空間結合により一度ケーキの山影へと身を隠す。

使い魔達は突然消えた雫に驚いたのか、右往左往と周囲へ散らばった。

彼らの鼻は、イマイチ利きが悪いらしい。

 

 

「ふぅ……」

 

 

ソウルジェムの浄化がてら、一息。

周囲への警戒は絶やさぬまま、魔女の反応を探る。

 

 

(……うん。かなり近い所までは、来てる)

 

 

反応はそう遠くない場所を示している。

おそらくは、そこが結界の中心部。魔女の待ち構える最奥だ。

 

雫は疲れに緩みかけた気を張り直すと、使い魔達の気配が途切れた隙にケーキの山影より飛び出して――。

 

 

「……っ?」

 

 

――その寸前、新たな魔力反応を感知した。

 

魔女や使い魔の淀んだそれとは違う、澄んだ物。

その正体に気付けぬ程、雫も愚鈍では無かった。

 

 

(――見滝原をテリトリーとしている、魔法少女)

 

 

魔女が孵化する際の魔力を察知したのだろう。

居ないとは思っていなかったが、予想以上に速い到着だ。徐々にこちらへ近づいてくるその反応に、雫の眉間にシワが寄る。

 

 

(……逃げる? 一応、任務中ではあるし……)

 

 

原則、ジャジメントの任務中は無関係の魔法少女との接触は厳禁だ。

今回はホンフーの個人的な都合のようだが、その制約は守っていて損は無いだろう。

 

……とはいえ、テリトリーを侵犯したのはこちらの方だ。

魔法少女にとって、己のテリトリー以外での魔女討伐は重大な敵対行為である。少なくとも、雫が主に活動する神浜においてはそうだった。

 

見方によっては既に接触しているとも言え、ならばせめて事情説明だけでも行っておけば、トラブルにならずスムーズに縁を切れるかもしれない。

雫は空間結合による逃げ道を作りつつも、どちらが波風立たないかを思考して、

 

 

「っ、なっ……!?」

 

 

答えを出す前に、空間が歪む。構築していた逃げ道が、弾けるように掻き消えた。

 

そして突如として世界が流れ、加速。

一歩も動かぬまま、強制的に別の場所へと運ばれて行く。

 

 

(空間移動は、慣れてるつもりだけど……!)

 

 

状況の変化に身構える雫の前に、大きな扉が現れる。

そのノブに触れる者さえ居ないまま、それは勢いよく開け放たれ――気づけば、雫は見知らぬ広間の中心に立っていた。

 

 

「……私から先にやる、って?」

 

 

呟きに答えるように、周囲の物陰から使い魔達が現れる。

先程とは違い無暗に突進はせず、雫を取り囲む動きを見せていた。

 

 

(魔女は……あれか)

 

 

チャクラムで牽制しつつ目を走らせれば、少し離れた場所に足の長いテーブルが見えた。

その周りに添えられた椅子には可愛らしい人形がちょこんと座り、一層目立つ魔力を放っている。

 

――お菓子の魔女。とある魔法少女は、彼女をそう呼んでいた。

 

 

「っ――!」

 

 

それを認めた雫は瞬時に空間結合を行使し、人形の背後へと跳んだ。

 

そして一切の躊躇なく両のチャクラムを振り下ろすが――人形の影より使い魔が湧き出し、チャクラムへと突進。使い魔の頭が刃の腹を押し、その軌道が逸れた。

人形を掠めて落ちた刃がテーブル上のティーカップに命中し、粉々に叩き割る。

 

 

「――!!」

 

 

するとそれに気分を害したのか、人形が叫び声のような音を放ち、膨張。

可愛らしい外見が醜く膨れ上がり、危険を感じた雫は咄嗟にその場から消え去って――。

 

 

「っ!?」

 

 

――ガチン。

人形の口から飛び出した大きな顎が、寸前まで雫の居た場所で噛み合った。

 

おそらく、それが本当の姿なのだろう。

手足の無い大きな身体に、尖った鼻先に華を咲かせたピエロの顔。何とも形容しがたい容貌をしたその魔女は、獲物を捕食出来なかった事に頬を膨らませ……やがて雫の姿を見つけ、嬉しそうに舌を出す。

 

 

「う……!」

 

 

それは一見して愛嬌のある表情であったが、雫の目には酷くおぞましいものと映った。

 

全身に走る怖気を抑えつつ、チャクラムを投擲。続いて魔女の死角へと転移させる。

当然、チャクラムは魔女に気付かれる事無く命中し――しかし斑点混じりの黒い表皮に弾かれ、あらぬ方向へと跳んでいく。

 

 

(固い……! なら、顔の部分は――)

 

 

――そしてチャクラムを回収し、再び魔女に狙いを定めた時には既に。

視界一杯に、開かれた大きな顎が広がっていた。

 

 

「――――」

 

 

無意識。生存本能に従い、ただ転移する。

 

遠くでガチンと音が聞こえ、同時に背中から何処かのケーキの山へと落ちた。

そこでようやく思考が再動。慌てて身を起こせば、遠方できょろきょろと辺りを見回す魔女と目が合い――即座に上空へと転移した途端、真下を黒い帯が通過した。

雫に向かい、魔女が突進をかけたのだ。

 

 

(は、や――あんな、身体でっ……!?)

 

 

顔に飛び散るクリームを手で防ぎつつ、空間結合を繰り返して身を隠す。

 

雫の固有魔法が違うものであったならば、今頃頭を食い千切られていただろう。

そのコミカルな姿形に似合わぬ殺意溢れる挙動に、冷や汗が流れる。

 

 

「……こういうのから離れたくて、ジャジメントに付いたのに」

 

 

小さく愚痴る一方、しっかりとチャクラムを握り直し。

そしてその輪の中を上空と繋げ、魔女の様子を俯瞰する。

 

 

「~? ~?」

 

 

魔女は雫を完全に見失っていたが、未だ捕食を諦めてはいないようだ。

使い魔と共に周囲をうろついては、ウキウキと手近な物陰を覗き込む事を繰り返していた。

 

 

(まるで、かくれんぼで遊んでるみたい……)

 

 

とはいえ、追われる身としては堪ったものでは無い。

雫はチャクラムに魔力を込めると、遠くの空間を魔女の近くへと繋げる。この場に隠れたまま、魔女へと攻撃を加える為だ。

 

 

(何度か転移を繰り返して、顔に直撃する軌道へ持っていく……)

 

 

精度は多少落ちるだろうが、あの突進の前に身を晒すよりはマシだろう。

攻撃が効けばそれで良し。すぐに己も転移し、必殺の魔法(マギア)を放ち仕留め切る。

 

雫は軽く呼吸を整えると、チャクラムを大きく振りかぶる。迸る魔力が刃に沿って流動し、宙を切り裂く時を待つ。

そしてありったけの勢いを付け、眼前に開いた空間へと投げ放ち、

 

――瞬間、大きな破裂音が轟いた。

 

 

「――なっ!?」

 

 

雫の身体が驚きに硬直し、その間を縫って結合先の空間内に小さな何かが飛来する。

正確に視認は出来なかったが、魔法少女である雫にはその正体がすぐに分かった。

 

 

(魔力の、弾丸――?)

 

 

それは瞬く間に魔女へと迫り、着弾。

貫くまでには至らなかったが、その巨体をくの字に圧し曲げ、吹き飛ばす。

 

その威力に目を瞠りつつ射線を辿れば、そこには一つの影が立っていた。

 

おそらく、先程感じた魔力の主――見滝原の魔法少女だろう。

彼女は銃口から煙を吹くマスケット銃を捨てると、新たな一丁を生み出し魔女に向ける。

 

その佇まいには隙というものが見当たらず、雫にも歴戦の気配を感じさせ――。

 

 

「――誰か、近くに居るのでしょう?」

 

「!」

 

 

結合された空間越しに声をかけられ、雫の肩が小さく跳ねた。

こちらがかの魔法少女を補足していたように、雫の存在も彼女に気付かれていたらしい。

 

 

「まぁ、誰かといっても魔法少女なのでしょうけど……隠れているというのなら、そのまま邪魔をしないで貰えると助かるわ」

 

「…………」

 

 

雫は返事をするでもなく、ただ黙り込む。接触をするべきか否か、未だ迷っていたのだ。

 

見滝原の魔法少女はそのような無言の反応を気にするでもなく、体勢を立て直した魔女を静かに睨み続ける。

先の銃撃により幾らかのダメージを受けたようだが、未だ討伐には程遠い。魔女も己を傷つけた魔法少女を憎々し気に睨み返し、大口を開けて威嚇した。

 

 

「……それなりに頑丈なようね。でも、これは耐えられるかしら?」

 

「~~ッ~~!?」

 

 

魔法少女はそう呟くと、爪先で軽く地面を叩く。

すると地中より無数の黄色いリボンが伸び、魔女の身体に巻き付き拘束。その自由を奪い――直後、無数の弾丸が殺到する。

魔法少女の周りにはいつの間にか大量のマスケット銃が浮かび、絶え間ない銃撃を浴びせかけていた。

 

 

(凄い……)

 

 

幾つもの魔力が弾け、光と粉塵が舞う。

それらは苦痛に悶える魔女の姿を覆い隠す程に広がり、雫はその圧倒的な光景に僅かな間目を奪われ――。

 

 

「ッ――!?」

 

 

ぽん、と。

無防備を晒していたその肩に、突然何者かの手がかけられた。

 

 

 

 

 

 

(……出て来ない、か)

 

 

ちらり。魔女への銃撃を続けながら、その魔法少女はとあるケーキの山を見る。

 

そこからは微かな魔力反応――魔法少女の気配が感じられ、何者かが隠れている事が見て取れた。

当初は知り合いかとも思ったが、その魔力パターンには覚えが無い。新しく魔法少女となった者か、他所の街からの流れ者だろうと予想していた。

 

 

(グリーフシードが目的なら、そろそろ横やりが入るかとも思ったけど……それは考えなくて良さそうね)

 

 

グリーフシードを巡る魔法少女同士の争いは、彼女にも何度か経験があった。

今回もその類を警戒していたが、隠れている魔法少女に、不意打ちや漁夫の利を狙おうとする動きは感じられない。

 

……とはいえ、沈黙を保ち続けている事は気になる所ではあった。

何らかの意図があるのか、それとも声を出せない状態なのか。さて。

 

 

(……とりあえず、全ては魔女を倒してからね)

 

 

でなければ、落ち着いて話も出来ない。

見滝原の魔法少女は疑問をひとまず横に置き、向ける銃口の先へと意識を戻す。

 

そこは銃撃による煙幕が立ち込め見通す事は出来なかったが、魔女を縛り付けているリボンは解かれていない。

 

つまり、敵は未だ健在。

リボンが新たなマスケット銃を形作り、ずらりと並ぶ。彼女の固有魔法の応用だ。

 

 

(でも、あれだけの攻撃を撃ち込んだのだから、ダメージ自体は与えて――、っ!)

 

 

煙幕の中から勢いよく何かが飛び出し、思考が中断される。

 

一体何が――などと、戸惑う愚を犯す事も無く。

魔法少女はそれが魔女であると一瞬の内に理解すると、再び無数の弾丸を撃ち放つ。

 

それらは次々と魔女の身体に炸裂。決して小さく無いダメージを与えるが、その勢いは止まらない。

苦し気な表情を浮かべつつ、大好物を前にしたかのように舌なめずりをした。

 

 

(拘束は解いていないのに、何故――!)

 

 

魔法少女は強く歯噛みしつつ、もう一度リボンを差し向ける。

それらは素早い魔女の進路上に網を張り、今度こそその身体をきつく締め上げて――。

 

 

「~~~~♪」

 

「なっ!?」

 

 

――拘束した魔女が口を大きく開いた瞬間、その中から新たな魔女がずるりと飛び出した。

 

それはまるで、脱皮の如く。

容易くリボンから脱出した魔女は、傷一つ無い玉の肌を引きずり突進を再開する。

 

 

「再生能力……!?」

 

 

あまりの出来事に放心した魔法少女であったが、それも一瞬。

魔女の高速移動に完全に対応し、今度は口を抑えるようにリボンでの拘束を試みる。しかし。

 

 

(嘘……!)

 

 

何度繰り返そうとも、魔女の突進を止める事は出来なかった。

隙間なく顔を覆いミイラの状態にしようとも、ほんの僅かな隙間からピエロの顔が現れるのだ。

 

致命的なまでに、相性が悪い――魔法少女の顔が、焦燥に歪んだ。

 

 

(距離をっ――!)

 

 

背後に飛び退りつつ、魔女の目前にリボンの壁を編む。

魔力で構成されたそれは決して破れぬ盾となり、魔女の衝突を歪曲しながらも受け止め――編み込みの隙間から僅かに飛び出た鼻先の華から、また新たな魔女が飛び出した。

 

 

(これもすり抜けるというの!?)

 

 

最早、彼我の距離は幾許も無い。

 

出し惜しみをしている場合では無く、魔法少女は己の眼前に固定砲台を編み込み、魔力を充填。それが完了するまでの隙を作る為、銃撃とリボンの拘束を重ねた。

 

 

「~~~~!♪」

 

 

……しかし、やはり魔女を止めるに至らない。

ダメージも拘束も、脱皮の一つで無意味となってしまう――。

 

魔法少女はリボンの壁を幾重にも隔て、絶対防御を編み敷いた。正真正銘、最後の盾だ。

 

 

「……っ」

 

 

一枚、二枚。

魔女が壁に衝突し、そして突破する音が、徐々に魔法少女の下へと近づいていく。

 

必殺の魔法(マギア)の魔力充填は、まだ足らない。

祈るような気持ちで壁を見つめ、必死に魔力を送り込む。

 

そうする内に、最後の壁が大きくしなりを上げた。

ギシギシと黄色の壁が歪曲し、魔法少女のすぐ近くにまで迫り寄る。

 

 

(もう、ダメ――)

 

 

未だ魔力は足らなかったが、もう猶予は無い。

魔法少女は固定砲台に足をかけ、発射の為の(魔力)を流し、

 

 

「――あ」

 

 

――ぴょこん、と。

 

限界まで歪んだ壁の隙間から、真っ赤な華が飛び出した。

魔法少女の眼前で揺れるそれは瞬く間に膨張し、魔女の生まれる気配を見せつける。

 

最早、止める術は無かった。

 

砲台から必殺の魔法(マギア)が放たれるよりも先に、現れた顎が己の頭部を食い千切る。

魔法少女の瞳には、その光景が視えていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――かすり傷でも、致命傷。

 

 

 

 

「……え?」

 

 

斬。

その光景が現実のものとなる間際、上空より丸い刃が降り落ちた。

 

それは流星の如き軌跡を刻み――膨張した華の根元。壁から突き出た魔女の鼻先を、鮮やかに切り落とす。

すると、華の中より飛び出そうとしていた魔女の動きがぴたりと止まり。重力に引かれ地に落ちた。

 

――そこは当然、固定砲台の真正面。

 

一瞬遅れ、砲口から放たれた必殺の魔法(マギア)が魔女の身体へと直撃し、炸裂。

 

動かず、回避の動きすら見せないままに。

かの巨体は、跡形も無く魔力の塵と消えたのであった――。

 

 

 

 

 

 

結界が、消える。

 

 

「――……」

 

 

命の危機に対する恐怖と、それを脱した安堵。

両方が同時に彼女の心を襲うものの、戦いが終わったという実感は無かった。

 

一体、何が起こった?

突然の状況変化に感情が追い付かず、無心のまま足元に転がっていたグリーフシードを拾い上げ――。

 

 

「……っ」

 

 

揺らめく世界が病院の廊下を描き直した時、少し離れた場所に立つ人影に気が付いた。

瞬時に隠れていた魔法少女の存在を思い出し、即座にそちらへと向き直る。

 

 

「……、……」

 

 

淡い髪色をした、同い年くらいの少女だ。

何処か所在無げな表情を浮かべる彼女は、困惑とも警戒ともつかぬ様子で佇んでいた。

 

その片手には、大きなチャクラムが握られており――見滝原の魔法少女は己を助けたものの正体を悟り、ようやっと肩を落とした。

 

 

「……邪魔をしないで――なんて言っておきながら、格好悪い所を見せちゃったわね」

 

「……え、と……」

 

 

魔法少女の装いを解けば、彼女も自然とそれに続く。

どうやら、敵意は無いらしい。掌に隠していたリボンを完全に消し、笑みを浮かべた。

 

 

「あなたが居なければ、私はただでは済まなかったわ。助けてくれて、ありがとう」

 

「……いえ。私は、別に……」

 

「よければ、お礼にお茶でもどうかしら。お互いに、話が必要だろうし……」

 

 

お菓子の魔女のグリーフシードを掲げながら、礼にかこつけそう提案する。

 

先の一件についてと、これの所有権の相談。そして互いの事情と、テリトリーに関する諸々。

見知らぬ魔法少女同士が出会ったのなら、それらの話し合いは必須事項だ。

 

 

「……、……分かった」

 

 

少女も暫く迷った様子を見せ、やがて小さな頷きを一つ。

 

その際、やけに背後を気にしていたが、視線を追っても特に見えるものは無かった。

多少疑問に思ったものの、すぐに忘れ。少女を伴い、入院フロアを後にして、

 

 

「――あ、自己紹介をしていなかったわね」

 

 

初対面において、一番大切な事をなおざりにしていたと気付き、反省。

 

振り返りつつ、豊かな胸部に手を添えた。

 

 

 

 

 

「――私は巴マミ。この見滝原にテリトリーを持つ魔法少女よ、あなたは――?」

 

 

 

 




「おざなり」と「なおざり」の違いを知った2020初頭。
マギレコのアニメ、凄く雰囲気出てて良いですねぇ。大好き。


『ウ・ホンフー』
上条恭介に対し、既に何らかのちょっかいをかけたらしい。
脳みそを削られた事がトラウマになっているのか、時間停止魔法を更に警戒しているようだ。
今どこで何をしているのだろうか。とんと見当が(略)。
【認識】さやか・杏子・雫・ほむら・みふゆ・調整屋・マミ
【理解】さやか・杏子・雫・ほむら・みふゆ・調整屋・マミ
【  】マミ


『保澄雫』
ポジション的にアニメ登場が期待されている神浜の魔法少女。必殺技は空間結合を繰り返しチャクラムを乱舞する【ミリアドゥ・メーゼ】。
お菓子の魔女を追う内に、マミさんと遭遇、結果的に助ける形に。
何故かやたら背後を気にしているが、透明人間が居るとでもいうのであろうか。まっさかぁ。

結界内における空間結合の仕様は、ホテルフェントホープ脱出編の描写とミラーズ雫の描写から。まぁ大体合ってるでしょう、多分。
ひっそりタグにも入ってたりしてるんで薄々気付いているとは思いますが、これからメイン組に入ります。ご了承くだち!


『巴マミ』
みんな大好きマミ先輩。時が戻って生き返ったので、やっとこさ初登場の重役出勤。
原作どころか、別媒体や外伝作品など全部含めても間違いなく最強格の一人。めちゃつよ。
メイン武器はマスケット銃……かと思いきや、実はリボン。様々な武器や物の形に編み上げる事が出来、劇場版ではほむらが気付けないレベルの精巧な分身すら作り上げていた。
しかし精神的には年相応な部分が強く、魔法少女という立場の重圧に悩みを抱える描写が多い。まぁ比較対象がまどかやほむらのスーパーメンタルなんで……。

お菓子の魔女に対しては、ほむらが「絶対に勝てない」と断言する程非常に相性が悪い。
とはいえ作品によっては普通に撃破してたりするので、「一人では高確率で負けるけど、絶好調時か二人以上で挑んだ時はあんまり負けない」という感じかもしれない。
いやでも絶好調時が原作マミでは? ほむは訝しんだ。


『お菓子の魔女』
かつて「お母さんがこの世でいちばん美味しいと感じるチーズケーキ」を願った少女。
母親への悪意と愛憎に塗れたその願いは、母親が目の前で殺害された事でその意味を失った。
「なぎさが助けるから、お母さんは死なないのです!
 なぎさが願わなかったから、お母さんは死んじゃうのです!」


『お菓子の魔女の使い魔』
ナース帽を頭に乗せた丸ネズミのような姿をした使い魔。いつもチーズを探しており、捜索係と保存係に担当が分かれているらしい。
他にも看護係と呼ばれる頭身の高い個体も居り、カルテか何かで殴りかかったりしてくる。不良ナースかな。
マギレコにおいては頭部がスタンプになっていて、目に付くもの全部に突進してはチーズかどうかを判断し、それぞれ「チーズ認定印」「チーズじゃない印」をスタンプするそうな。雫のチャクラムには後者が捺印された。


『キュゥべえの顔が描かれた謎のチップ』
いわゆるカースチップ。一時期お菓子の魔女の使い魔から収穫できた。
魔法少女を強化する際やたらと必要だが、調整屋さんは一体どこにどうやって使っているのだろう。謎だね。

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