超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

32 / 55
3´話 そんなに良いものでもないけど

レーザー銃数丁。

大型レーザー銃数丁。

おそらく爆弾であろう投擲兵器が数点。

用途不明の電子機器が数点。

明らかにジャジメントからの盗品であろう大型兵器やクモのパーツが数点に、その他諸々――。

 

改めて訪れたレジスタンスのアジトは、ほむらにとって正しく宝の山であった。

 

 

(……時が変われば、色々出てくるものね)

 

 

時の止まった世界。

アジト一室のベッドの下から這い出たほむらは、引っ張り出した予備のロケットパンチをしげしげと眺め、小さく息を吐いた。

 

前回の時間軸では冷たい目を向けたであろうそれも、今となっては兵器の一つと目に映る。

己の常識は、随分と大きく更新されてしまったようだ。使用法の見当もつかないロケットパンチを放り投げれば、レジスタンスの一人の頭に当たる直前でぴたりと止まった。

 

 

(……最初の時、金庫以外にもちゃんと調べていれば……)

 

 

前回は金庫を暴いた後に一度撤退した事でレジスタンスの警戒を深めてしまい、レーザー銃以外の武器を盗めなかった。

最初にもう少し深く探っていれば、あの時点でこれらを入手出来ていたのに――傍らに積んだ大型レーザー銃を眺め、後悔しかけ。

 

 

(――いえ。前回はこれらがあった所で、あまり意味は無かった)

 

 

すぐにそう思い直す。

 

前回の時間軸における最大の敵、バッドエンド。

彼の持つ機械故障の超能力や化け物染みた身体能力を前に、果たしてこれがどこまで通用した事やら。

 

レーザーを軽々と避けていたバッドエンドの姿を思い出し、レーザー銃を見る目が若干冷える。

 

 

(まぁ……奴以外が相手ならば、強力な武器となる事は間違いないか)

 

 

そもそも、あれはバッドエンドこそが異常だったのだ。

少なくとも、魔女との戦いにおいてレーザー銃は非常に役立っていた。それは忘れてはならない。

 

そう、だからこれらは、対ワルプルギスの夜においても確かに有用な筈――ほむらはそう己に言い聞かせつつ、大量の武器を抱えてレジスタンスのアジトを後にした。

 

 

(取り残しは、おそらく無し。ここにもう用は無い)

 

 

流石に個人が携帯する武器までは奪えていないが、アジト内にある武器類は根こそぎ浚い取っている。

ついでに『TX及びクモ強奪計画』も跡形も無く灰にして、今のレジスタンスは素寒貧。

ジャジメント実験施設の襲撃などといった余計な事は、全て実行不可能となっている筈だ。

 

ほむらはそんなレジスタンス達をちょっぴり憐れんだが、すぐに興味を失くした。

そして盾に押し込めないサイズの武器をしっかり抱え直し、歩き出し――。

 

 

(……そういえば、先程巴マミの魔力反応があったわね)

 

 

ふと思い出し、足を止め。街中を振り返る。

 

前回はほむらの奮闘虚しく死亡した巴マミであったが、この時間軸ではまだ生きている。

レジスタンスのアジトへ到着し、潜入のタイミングを計っている途中、ほむらは彼女の魔力パターンを察知していた。

 

……とはいえ、それは感知範囲の縁を掠めたようなものだ。

反応を返す間もなく一瞬で消え去っており、今となってはその残滓も無い。

 

 

(この辺りは巴マミのテリトリー内だし、巡回でもしていたのかしら)

 

 

幾度となく時を繰り返してきたほむらであったが、巴マミのタイムスケジュールを正確に把握している訳でも無い。

人の行動とは、誰かが小石を蹴飛ばすだけでも大きな変化を遂げてしまう。そんな物を完全に予想し管理する事など、神や悪魔にも困難極まる所業である。

 

ほむらは暫し街中を見つめ……やがて小さく首を振ると、止めていた足を動かした。

 

 

(……今の時期なら、彼女の天敵もまず現れない。積極的に干渉する必要もまだ無いか)

 

 

巴マミの天敵――即ち、お菓子の魔女。

マミの魔法と非常に相性が悪く、彼女の死因となるケースも相当に多い魔女だ。

 

何故かほむらの居た病院に出現する可能性が高いが、今の時期に現れた事は殆ど無い。

大体においてグリーフシードからの孵化という形で出現する為、何かしらのイレギュラーでも発生しない限り、一定の時間的猶予が存在するのだ。

 

 

(出来れば、孵らない内に彼女が見つけて処理してくれるのがベストだけど……それは高望みでしょうね)

 

 

お菓子の魔女をグリーフシードの内に発見する事は、時間遡行を繰り返すほむらであっても難しい。

休眠状態のままでは探知が難しいという事もあるが、一番の理由は、グリーフシードの落ちている場所が時間遡行の度に変遷している為だ。

 

屋上などの分かりやすい場所に転がっている事もあれば、インキュベーターに回収され孵化直前まで隠されている事もある。

ほむらもかつては早期発見に躍起になっていたが、今では孵化に合わせて対応した方が効率的だと学習していた。

 

おそらくは、バタフライエフェクトの一種なのだろう。

しかし何が原因でこんな変化が起こるのやら。過去何度も首を捻ったが、結局答えは出ていない。

 

 

(……まさか、既に誰かが過去改編を行い続けているなんて事は……)

 

 

バッドエンドのような存在が居た以上、あり得ないとも言い切れなかった。

一度、腰を据えて考える必要があるかもしれない。

 

 

(とはいえ、それも後々の話ね)

 

 

湧き上がりかけた不安は、マミの件と一緒にひとまず横に置き。

 

街外れを進み、目に付いた適当な廃屋を今回の拠点と選び、侵入。

その一室に魔法を施し、振り子が揺れる例の部屋に模様替え。いつもの拠点の完成だ。

 

そして全ての武器を運び入れると、ほむらは盾の中より小さな金属の球を取り出した。

 

それは武器と一緒に盗み出した、クモのパーツ。

足と頭のもがれた腹が、天井より落ちる照明を鈍く反射する。

 

 

(これを利用すれば、もしかしたら――)

 

 

レジスタンスのアジトを漁っている最中、少し思いついた事があったのだ。

 

ほむらは続いて盾から工具を取り出すと、パーツの隙間へと突き立てる。

止まったままの世界の中に、機械を分解する音が静かに響き始めた。

 

 

 

 

 

 

彼は一体、何を考えているのだろう。

香りのよい紅茶を啜りつつ、保澄雫は心中で溜息を吐いた。

 

 

「……口に合わなかったかしら。この辺りでは、一番のお気に入りのカフェなのだけど……」

 

 

すると、その晴れない表情を察したのか、体面の席に座る少女――巴マミが気まずそうにそう零す。

雫ははたと我に返り、慌てて首を振って否定した。

 

 

「そんな事ない。うちで出す紅茶よりも香りが濃くて、凄くおいしい」

 

「そう、良かった。うちで……って事は、保澄さんは家が喫茶店だったりするの?」

 

「……純喫茶を。コーヒーとミルクセーキは評判良いけど、紅茶は普通」

 

 

つらつらと何気ない会話を繋げる傍ら、改めてマミを観察する。

 

はじめは大学生くらいにも思えたが、雫よりも背は低く、単に雰囲気が大人びているだけのようにも見えた。

とはいえ、まさか年下という事はあるまい。特に意味は無いがその豊かな胸部を見つめながら、先程の魔女との戦いを思い出す。

 

 

(あれはベテランの戦い方だった。魔女とは相性の悪さが目立っただけで、実力的には多分私よりも強い)

 

 

ジャジメントの任務に触れる中で、その辺りの観察眼は多少培われている。

雫が対応できなかった魔女の動きを完全に見切っていた時点で、少なくとも相当の強者である事は間違いないだろう。

 

 

(……確かに、『この人』が興味を持ちそうではあるけど……)

 

 

ちらり、と。雫は己の背後に視線を向ける。

そこには、ただ何も無い空間が広がるだけ。人や物は何一つとして存在しない。

 

――だが、雫はそこに一人の男が立っている事を知っていた。

 

彼女がマミとこうしてお茶を楽しんでいるのも、全ては彼の命令だ。

 

彼は姿を消し、気配を断ち、落ちる影すらも拭い去り。

マミに気付かれる事なく、この場で息を潜め続けている――。

 

 

「――……」

 

 

……やはり、非常に落ち着かない。

雫は零れそうになった溜息を、温かい紅茶で押し戻した。

 

 

 

 

 

 

(――巴マミ。前回では、会う事の出来なかった魔法少女か)

 

 

雫の背後。

透明化の能力を纏ったウ・ホンフーは、雫の対面に座る少女を――巴マミを眺め、目を細める。

その視線に温度といえるものは無く、ただ興味と値踏みの色が濃く浮かんでいた。

 

 

(見た限り、相当の才はあるようですが……少しばかり、脆そうですねぇ)

 

 

先程遭遇した魔女との戦いの最中、彼女は最後の最後で動きと思考を止めていた。

ホンフーの手助けが無ければ、そのまま死んでいた事だろう。

 

 

――そう。病院で起きた、魔女との一幕。

死に瀕した巴マミを救ったのは雫では無く、彼の一撃によるものであった。

 

 

マミの結界突入に巻き込まれたホンフーは、姿を消したまま彼女の背後をつけ、途中で雫と合流。

そして空間結合で戦いの様子を観察していたのだが、マミの劣勢を察すると雫のチャクラムと魔法を借り、バジリスクの即死攻撃を魔女に見舞ったのだ。

 

目前で失われる命を、黙って見てはいられなかったのだ――などといった理由では勿論無く。

それは巴マミという少女の持つであろう、ある情報が目当てであった。

 

 

(……あの赤い魔法少女は、巴マミの事をよく知っていた。ならば、この子もまた彼女の事を知っている筈)

 

 

前回ホンフーを追い詰めた、三人の魔法少女達。その内、赤い魔法少女の詳細だけが未だ掴めていない。

 

今回の時間軸において、ホンフーは彼女達の奮闘劇に付き合う気は無かった。

可能であれば、出会う前の段階で『対処』するつもりであり、こうして雫に接触させたのもその為だ。

 

デス・マスで強引に聞き出すのが最も効率的ではあったが、ほむらに洗脳のやり口を知られている以上、直接行使するのは不安が残る。

もし現時点でマミとほむらに繋がりがあった場合、彼女の異常からこちらの存在が露見する恐れがあるからだ。

そうなれば当然彼女は強い警戒心を持ち、非常に面倒な事態となりかねない。

 

多少手間ではあったが、外様の存在である雫に聞き出させる方法が、最もリスクの少ない方法であった。

 

 

(さてと……では、お願いしますよ)

 

「っ」

 

 

トン、トン。

雫の肩を小さく叩き、催促の意思を伝える。

 

突然のそれにびくりとその肩が跳ねたものの、幸いマミは気が付かなかったようだ。

雫はまたもチラチラと背後に意識を向けるが、それ以上の指示が無いと分かると渋々マミに向き直り、口を開いた。

 

 

「……あの、それで……魔法少女としての話だけど……」

 

「……そうね。じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」

 

 

マミの方もタイミングを計っていたのか、全てを言い切る前にそう引き継いだ。

互いの背筋が自然と伸び、空気がゆっくりと張りつめていく。

 

 

「改めて自己紹介をするわね。私は巴マミ、見滝原市にテリトリーを持つ魔法少女よ。さっきはこの周辺地理の把握をしている途中、魔女の反応を感じて駆け付けたの」

 

「……地理の把握?」

 

「ええ。元々あの病院周りは伊津見さん――別の魔法少女のテリトリーだったのだけど、最近私に引き継がれて……まだ、色々慣れてなかったから」

 

 

その辺りの事情は、あまり愉快な話でも無いのだろう。テリトリーの譲渡が成立する時は、つまりそういう事なのだから。

マミも詳しく説明する気は無いらしく、一度話を切ると雫の言葉を待った。

 

 

「……保澄雫、神浜の魔法少女。あの病院には知人を送って来ただけで、テリトリーを犯すつもりは無かった。そうしたらグリーフシードを見つけて……対処を迷っていたら、孵化させてしまった」

 

「一応聞くけど、意図的にでは無いのよね?」

 

「ええ。剥き身の状態で落ちてたから、警戒して時間をかけすぎた……」

 

 

マミは雫を少しの間鋭く見つめ、やがて視線から力を抜いた。嘘は無いと信じたようだ。

 

 

「……見滝原ではよくある事なの? グリーフシードがそのまま落ちてるのって」

 

「そんな事は無いけど――……まぁ、何かはあったのでしょうね。あそこで」

 

「……?」

 

 

雫が疑問の視線を向けるが、マミは答えず。代わりにグリーフシードを取り出すと、そっと机の上に置く。

今まさに話題に上がっていた物だ。

 

 

「それはさておき、今の話。私としては、これはあなたの物だと思っているわ。テリトリーの件や魔女の孵化は不可抗力だったみたいだし、何より私が生きているのは確実にあなたのおかげだもの」

 

「……でも、それは……」

 

 

マミを助けたのはホンフーであり、自分では無い。

そう告白したい所であったが、それが彼の望む展開でない事だとは理解している。雫は俯き、消極的に首肯した。

 

そんな様子を誠実であるが故と勘違いしたのか、マミは柔らかな笑みを一つ。雫の前にそっとグリーフシードを差し出した。

 

 

「……少し様子を見ていただけで孵化したのなら、きっと遠からず同じ事になっていたわ。そうなったら病院の人に被害が出ていたかもしれない。あなたがそれを防いでくれた……とは考えられない?」

 

「…………」

 

 

悩んでいる事柄とは外れていたが、その言葉は後ろめたさを多少なりとも軽くした。

おまけに背後のホンフーからも背中をつつかれ、雫は迷いつつもグリーフシードを受け取っておく。

 

 

「……ごめんなさい」

 

「気にしないで。さっきも言ったけど、私はむしろ感謝しているもの」

 

 

目を合わせない雫にマミは微笑み、紅茶を一口。

そして空気を変えるためか、通りがかりの店員に菓子の注文を追加し――ふと、何かに気付いたように手を叩く。

 

 

「そういえば、保澄さんの時間はまだ平気? お友達が病院に居るなら、早く戻った方が良いんじゃ……」

 

「――それはずっと放っておいていい。そもそも友達じゃないから、あの人」

 

(もしもし? 後ろ後ろ)

 

 

当の本人が背後に居るというのに、堂々と言い放ったものである。

 

マミはぱちくりと目を瞬かせ困惑するが、雫は努めて知らんぷり。そして小さく息を吐くと、机の下で拳を握る。

そろそろ、切り込んでも良い頃合いだろう。

 

 

「……それより、私も見滝原の魔法少女には少し聞きたい事があるんだけど、いい?」

 

「え? ええ……構わないわ」

 

 

緊張しながらの問いかけに、マミも少し姿勢を正し頷いた。

 

 

「……今、話に出た人。魔法少女じゃないんだけど、魔法の存在は知ってる人なの。それで、以前会った魔法少女を探してるみたいで」

 

「ええと……この辺りには、今は私くらいしか居ないけど……」

 

「聞く限りでは、巴さんじゃないみたい。確か、赤い装束で――」

 

 

予め聞かされていた、ホンフーが探しているという魔法少女の特徴を伝える。

 

……どうにか、その魔法少女が見つからないよう誤魔化せないだろうか。

雫はふとそう思ったが、強まる背後の気配に断念した。

 

 

「……心当たりはあるわ。少し前まで私と一緒に居た子だと思うけど……でも、その人はどうして彼女を探しているの?」

 

「いつ、何があったとかは教えてくれなかった。お礼をしたい、とは言ってたけど……」

 

 

とはいえ、それが額面通りの意味であるかどうか。雫的には若干どころでない不安が残る。

マミもマミで些か怪訝に思っているらしく、二人揃って首を傾げる。

 

 

(……まぁ、相手も魔法を知っているとはいえ一般の人みたいだし、魔女から助けたりしたのかしら……?)

 

 

マミの抱いたそれは、ホンフーの素性を知らぬ以上、自然な想像ではあった。

 

……かの少女は、優しさを取り戻せたのだろうか。

疑問ではあったが、そうであったらいいという願いが、自然とマミの背を押していた。

 

 

「……保澄さん達が探してるのは、たぶん佐倉杏子という魔法少女ね。今は風見野の方で活動していると聞いているわ」

 

「っ……良いの? どんな人が探してるのか知らないのに、そんな軽率に教えて……」

 

「命の恩人の頼みだもの、無下には出来ないわ。……いえ、正直、ちょっと不安になってきたけど……」

 

 

雫がこうまで言う知人とは、一体どんな人間なのだ。

今更ながらに選択肢を間違えた気分になり、マミの顔が引き攣った。

 

 

「えっと……まぁ、『お礼』がそういう意味だったら、止めてあげてね? 彼女、あんまり手加減とかしてくれないだろうから」

 

「……、……、……、……わかった」

 

 

むしろ、その魔法少女が殺されないかどうかが心配なのだ――そう返したい衝動を呑み込む事に、雫は酷く苦労した。

 

そうしてちらりと振り向き、そこに居るであろうホンフーに何某かを訴える視線を送る。

しかし当の本人は透明状態を良い事に反応すらせず、携帯端末で手早く風見野市の位置を調べていた。

 

 

(……見滝原のすぐ隣か。長旅にはなりませんね)

 

 

最も、雫が居る以上は距離などあって無いような物なのだが。

ホンフーは大体の情報を記憶すると、そのまま雫へ適当な所で話を切り上げるようメッセージを送る。

 

赤い魔法少女――佐倉杏子とやらの所在が知れたのならば、マミにはもう用は無い。

後は風見野に跳び、この街に来ない内に杏子への対処を行うだけ。雫の端末が震え、呼び出し音が小さく鳴った。

 

 

「もしかして、今ウワサしてた人から?」

 

「……ええ。向こうの用は済んだみたい」

 

「そう。……注文したお菓子は、私の独り占めになりそうね」

 

「少しくらい待たせても平気。あっち、急いでる雰囲気じゃないし」

 

 

雫は「ジトりん」と背後を睨んだ後、紅茶のカップを傾ける。

メッセージには、急げとは書いていなかった。ならばこの一杯を味わい切る程度の余裕はあるだろう。

その言外の主張に、ホンフーも特に急かす事なく苦笑と共に見守った。

 

 

「保澄さんは、これから風見野に行く事になるのかしら?」

 

「私の魔法は空間結合――移動系だから。多分、合流したらすぐに向かわされる事になると思う」

 

 

雫の言葉に同意するように、軽く肩が叩かれる。

嫌そうに眉を顰めたその表情に気付く事なく、マミは興味深げに目を細めた。

 

 

「応用の利く良い魔法ね。幅広い戦法が出来そうで、羨ましいわ」

 

「そんなに良いものでもないけど……それに応用っていうなら、巴さんのだって」

 

 

リボンを自在に操り、銃や壁をも作り出すあの魔法。

まさに応用の塊とも言える技術であり、今思い出しても感嘆しきりだ。そう褒めれば、マミは多少照れたように微笑んで、

 

 

「何とかリボンで戦えるよう、必死に勉強したもの。せめて、最初からちゃんとした武器を持っていたら……」

 

 

マミは新人であった頃の苦労を滲ませ、溜息一つ。小さな愚痴を呟き落とす。

 

それは誰の耳にも届かないような、囁き声にも満たないものだった。

雫も聞き返す事も無く、些事として流し――しかし、この場にはもう一人。それを聞き取る程の耳を持った者が居た。

 

ウ・ホンフー。

武人として研ぎ澄まされた彼の聴覚は、吐息と紛う程の呟きを逃す事なく拾い上げ――。

 

 

 

(――あの事故から『助けて』って願いが、どうしてリボンになったのかしら)

 

 

 

 

 

 

 

――その情報が脳に届いた瞬間。身体の中心で、熱が弾けた。

 

 

 

 

 

 

「ッガ、アアアッ!?」

 

「っ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 

ホンフーの全身に凄まじい衝撃が奔り、炸裂。

 

堪らず叫び、激痛と共に意識が明滅。立っている事も出来ず崩れ落ち、雫達の机を巻き込み倒れ込む。

同時に椅子とティーカップが床に投げ出され、そのけたたましい騒音に衆目が集った。

 

 

「な、なに……?」

 

「――……」

 

 

突然の出来事に飛び退き、混乱するマミが雫を見るが、返る答えは無い。

慌てて駆け寄って来る店員の声を聴きながら、二人揃って横倒しになった机を見つめ――やがて、そこに出現する何者かを目撃する。

 

――最早、透明化の維持すらままならなくなった、ホンフーの姿だ。

 

 

(っ、何やってるの、あの人……!?)

 

 

誰もが驚きに目を瞠る中、真っ先に事態を把握した雫が前へ出る。

少し遅れてマミも続き、荒い呼吸を繰り返しているホンフーを介抱すべく、訳も分からぬまま手を伸ばし、

 

 

 

「――起きろッ!!

 

 

 

――その声が店内に響き渡った瞬間、その場に居合わせた全ての者が倒れ伏した。

店員も、客も、魔法少女も。分け隔てなく意識を失い、深い眠りへと落ちてゆく。

 

 

「――ぁ……?」

 

 

当然、それは雫も例外ではない。

声に込められた能力――デス・マスの存在を知っていた為か、数舜の抵抗は見せたものの……すぐに瞼を落とし、身を倒す。

 

死屍累々。そのような光景の中で、ただホンフーの荒い息だけが静かに響き続けた。

 

 

「く……な、にが――……!」

 

 

そして多少なりとも呼吸を落ち着かせた後、ホンフーは周囲の状況に目もくれず、己の胸へと手を当てる。

 

そこに盛るは、異能力の灯。

瞬間的に噴き上がったそれが彼の全身を包み込み、魂を削るが如き強烈な苦痛を塗り付けたのだ。

 

余りにも突発的な事態であった為、平静を取り繕う事も出来ず。

結果として、無理矢理に騒ぎを抑えつける事態となってしまったが……それを気にする余裕は、今のホンフーには無かった。

 

 

「――……」

 

 

ホンフーは徐に目前に掌を差し出し、集中。

そうして件の能力を発動させれば、そこには漆黒色の帯が――黒いリボンが出現していた。

 

 

「これ、は」

 

 

自然と、ホンフーの視線が倒れたままのマミへと向く。

思い出すのは、先刻あった彼女と魔女との戦い。その光景をなぞるように意思を込めれば、リボンは彼の思うがままに伸縮した。

 

……色こそ違うが、掌にある物はマミが使っていた物と同一のものに見えた。

それはつまり、己が彼女と同じ能力を扱っている証左であり。

 

 

「……魔法、ですって――?」

 

 

――何度試みても不可能だった、魔法のコピー。

 

求め続けた願いの結実が、ホンフーの掌中で揺れていた。

 

 




『暁美ほむら』
レジスタンスへのカツアゲに精を出す中学二年生。何かの工作を始めた。
繰り返す時間遡行の中でマミさんに苦手意識を持ったらしく、どう接するべきがと頭を悩ませる描写が色々な媒体で散見される。
お菓子の魔女の出現やホンフー達とマミとの接触など、よく知るタイムラインを乱された事には未だ気付いていないようだ。


『保澄雫』
年下の魔法少女に畏まる高校一年生。騒ぎの鎮圧に巻き込まれ倒れる。
実家は純喫茶を営んでおり、雫も強い思い入れを持っている。ただミルクセーキはそんなに好きじゃないとの事。
マミには好印象を持っているが、同時に申し訳なくも思っているようだ。
こんな子が居る喫茶店の常連になりてぇよぅ。


『巴マミ』
年上の魔法少女に先輩ムーブをする中学三年生。知らない内に魔法コピーの条件を満たしてしまった。
かつて家族諸共事故に遭い、どこからともなく現れたキュゥべえに『助けて』と願った結果、たった一人だけ生き残った。
得た魔法がリボンという事もあり、新人時代は相当に苦労をしていた様子。部屋には銃の構造を記した本や戦術に纏わる本が並べられており、重ねた努力が窺える。
雫には好印象を抱いており、杏子の情報を漏洩。風見野でクシャミが一つ轟いた。


『ウ・ホンフー』
ついに魔法のコピーに成功した年齢不詳。現状嬉しさよりも困惑が勝っているようだ。
ほむらに己の存在がバレないよう慎重になっていたのだが、派手にぶっ倒れて目立ってしまった。急いで鎮圧したものの、騒ぎがほむらに悟られないかヒヤヒヤである。


『レジスタンス』
今回は武器どころかそれ以外の機器も盗まれ、ウルフェンに連絡したら物凄く叱られた。
当然ながら兵器実験施設への襲撃もお流れとなり、泣きながら見滝原を後にしたそうな。


『伊津見さん』
本名は伊津見 尹縫。マギアレコードに登場する魔法少女であり、故人。
とあるホストに熱を上げており、色々あって魔女化。犬の魔女へと変貌し、夢遊の亡霊と呼ばれる魔法少女に討伐された。
見滝原の病院周りにテリトリーを持っていたらしく、死亡後はマミの管理下となったようだ。


『ほむらが周回する度に起こる変化』
本SSでは、未来人の一人であるパワポケ6の主人公が色々した事によるバタフライエフェクトが原因という事にする。した。
ほむらが周回し試行錯誤する度に、バタ(略)によりその世界の未来も若干変わる。
その影響で毎回6主の名前や趣味やポジションや肌の色や打法や女の子の好みが僅かに変わり、過去に跳んだ後の展開も毎回違ってくるようだ。
彼が例のミニゲームを失敗して何某を漏らした場合、上条恭介はギタリストになるしマミはほむらにアイドルにされる世界になる(適当)


ずっと放置してた魔法コピー関連に触れるの巻。忘れてないもん!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。