超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

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5´話 頑張って、ね……?

風見野市。

見滝原市よりそう離れていない場所にある、中規模の都市だ。

 

その街並みは近代化が進められているものの、見滝原程の積極的な開発は行われていないようだ。各所には年季の入った施設も多く残っており、昔情緒を濃く醸し出している。

 

しかし決して寂れているという訳でも無く、人足はそれなりに多いものだった。

特にとある商店街には老舗が並び、隠れた観光スポットにもなっている。

 

――そのうちの一つ、通も唸るというラーメン屋にて。

佐倉杏子と梓みふゆは、二人並んでラーメンに舌鼓を打っていた。

 

 

「おいしい……」

 

「だろ? 店構えはオンボロだが、味に関しちゃ風見野イチさ」

 

 

思わずといったみふゆの呟きに、杏子は得意げに笑みを浮かべた。

 

 

「あんた上品なニオイさせてるし、こういうトンコツくせーとこ嫌がるかなーって思ってたんだけどね。結構馴染んでんじゃん」

 

「まぁ、ラーメンは好きな方ですから。友人に中華料理店の子も居ましたので、よく通っていました」

 

「ふぅん……そこ、うまいの?」

 

「……50点ですね」

 

 

苦笑いでの採点に、杏子は「そ」とだけ返し。

それきり特に会話を続けるでも無く、揃って丼を傾ける。

 

そうしてスープの一滴すら残さず食べ終えた後、爪楊枝を咥えた杏子はみふゆを流し見た。

 

 

「さて、腹も膨れた事だし、そろそろ本題入るか」

 

 

それは何気ない声音であったが、小さくない警戒が窺える。

杏子は口から引き抜いた爪楊枝を弄びつつ、背筋を正したみふゆの目を覗き込み。

 

 

「――ジャジメントだっけ? あたしを雇いたいって、どういう事よ」

 

 

ぱきん。指の隙間で、木屑が跳ねた。

 

 

 

 

 

 

杏子の前にみふゆが現れたのは、今より一時間ほど前。

空きっ腹と軽い財布に舌打ちを鳴らし、手近なATMを探して風見野を彷徨っていた最中の事だった。

 

 

『佐倉杏子さん、ですよね? 少しお話があるのですが……』

 

 

ジャジメントの遣いを名乗る彼女は魔法少女であり、杏子にとっては無断で己のテリトリーに侵入した礼儀知らずに他ならない。

その胡散臭さ、そして空腹の苛立ちもあり、話を聞く気にもなれず。

適当に脅しつけて帰らせようとしたのだが――変身する寸前、みふゆから差し出された封筒を見て、気が変わった。

 

中身は分厚い札束が一つ。お近づきの印だというそれに当然杏子は警戒したが、興味は生まれた。

 

しかし同時に、杏子の腹がくぅと鳴り。

まずは腹ごしらえをしてからと、みふゆを引きずりこのラーメン屋へと訪れたのであった。

 

 

 

「……ワタシは単なるメッセンジャーですので、詳しい事は知らされていないのですが」

 

 

杏子に続き空になった丼を置きつつ、みふゆは言葉を選ぶように目線を彷徨わせる。

 

 

「どうも、上司の一人があなたを見初めたようで……あなたに、ある依頼をしたいとの事です」

 

「はぁ? スーパーが魔法少女に何頼むんだよ。魔女が万引きしてっから防いでくれって?」

 

「……分かりました。まずは、ジャジメントの詳しい説明が必要みたいですね」

 

 

そうして語られたジャジメントの実態は、杏子にとって突飛に過ぎた。

 

そもそも彼女の認識では、ジャジメントとは『誰もが知っているメジャーな会社』程度の存在だ。

それが殺し殺されの裏社会と密接な関りを持っているなど、そう簡単に信じる事は出来なかった。

 

……しかし、己の懐に収まる大金の重みが、妄言と一蹴する事を阻んでしまう。

 

 

「あー……いや、それがホントだったとしても、何でわざわざあたしなのさ。ジャジメントとの関わりなんて、店を遠目で見たくらいしかねーぞ」

 

「さぁ、ワタシには何とも。風見野の魔法少女の中から指名するくらいですから、ちゃんと理由はあるのだと思いますが……」

 

 

二人揃って首を傾げるが、答えは出ない。

杏子は暫く胡乱気な表情でみふゆを睨んでいたが、本当に何も知らないのだと察すると、大きな溜息と共に頬杖を突く。

 

 

「……で、その依頼ってのは?」

 

「それは受けて頂けると取っても?」

 

「正直怪しいにも程があるが……お近づきでこれなら、払いは相当良さそうじゃん。身体売れとかそんなんじゃなけりゃ、考えるくらいはしてやるさ」

 

 

杏子は軽く己の胸を叩いたが、それは懐の金と乳房のどちらを指したものなのか。

みふゆは気まずげに咳ばらいを落とすと、依頼内容の一部を映した端末を杏子へと掲げた。

 

 

「詳しい説明はキチンと頷いて頂いてからとなりますが、種類としては護衛任務となるそうです。ある方に付き守って欲しい、と」

 

「……キナくせー。つーかこれ期間未定って書いてあるけどさぁ、その間ずっと狩場から離れろって?」

 

「結果的にはそうなりますね。ですが、それに足る報酬は用意されている筈です」

 

 

その言葉に報酬の欄を見れば、そこには先程受け取った札束を軽く超える額が記載されていた。

加えて、定期的に一定量のグリーフシードを支給するとも記されており、杏子はみふゆに猜疑塗れの半眼を向ける

 

 

「疑うのも分かりますが、全部本当ですよ。ワタシがジャジメントに協力するのも、それが大きな理由なので……」

 

「…………」

 

 

杏子は暫く黙考した後、小さく鼻を鳴らし。みふゆの手から乱暴に端末を奪い取った。

 

 

「ま、色々気にはなるが、とりあえずは釣られといてやるよ。餌がニセモノだったら、食い千切って逃げ出しゃいい」

 

「……そうですか」

 

 

出来ると良いですね、それ――そんな言葉を飲み込み、代わりに罪悪感の混じった溜息を一つ。

直後に杏子の持つ端末が小さく震え、画面に依頼の詳しい内容が追加されていた。

 

 

「おお、ハイテク。えーっと……げっ、行くとこド田舎じゃねーか」

 

「護衛対象の方は、農業高近くで開業医をしている方だそうですから。確か、名前は――」

 

 

みふゆは杏子と共に端末を覗き込み、映る文章を指でなぞる。

そうして、やがて該当部分に辿り着き――静かに、その名を読み上げた。

 

 

 

 

 

 

「……む~ん、む~~ん、む~~~ん……」

 

 

朝。

クラスメイトの揃い始めた、教室の一角。

 

ぐったりと机に突っ伏した美樹さやかは、珍妙極まる呻き声をあげていた。

 

 

「……さやかちゃん。やっぱり踏ん切り付かない?」

 

「む~~~~~~~ん……」

 

 

それを案じた鹿目まどかが優しくその背を撫でるが、逆に呻き声が長くなる。

そんなさやかに苦笑しつつ、まどかは机の反対側に肘をつき、向かい合う。

 

しかし何を言うべきかを迷い、結局かける言葉は出ず。そのまま暫く無言の時が過ぎた。

 

 

「……いやー、覚悟は決まってんのよ。でもイザってなるとさ~、どうにもさ~……」

 

 

沈黙に耐え切れなくなったのか、唸るのを止めたさやかがそう愚痴る。

何ともハッキリとしない物言いだったが、まどかには伝わったようだった。額をコツンと突き合わせ、柔らかい微笑みを向けた。

 

 

「うん、本当は私も寂しいけど……でも、さやかちゃんの決めた事だもん。応援してるから、ね?」

 

「うう、まどかぁ~……! やっぱあたしの嫁になってくれ~!!」

 

「きゃあっ!?」

 

 

がばちょ。

唐突に抱き寄せられたまどかが悲鳴を上げるが、さやかはそれを気にせず、かいぐり回す。

 

いつもの日常。その騒がしい様子に、近くのクラスメイトも明るく笑い――。

 

 

「…………」

 

(……仁美ちゃん?)

 

 

……しかし、少し離れて立つ志筑仁美の笑みにだけ、僅かな陰りが窺えた。

それに気づいたまどかは、さやかに抱きしめられながらも声をかけようとして、

 

 

「――はい、静かに! 朝のホームルームを始めます!」

 

「わわっ」

 

 

直後、不機嫌な様子で扉を開けた担任の早乙女に遮られ、慌てて自分の席へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

『――カレーとは、スイカカレーですか、カレードーンですか? はい中沢君!』

 

『えっ!? ええと、センス〇を貰えるかもしれないカレードーンの方がまだマシ――』

 

『そう、どちらでもよろしい!! カレーの味なんかで女性の魅力が決まると思ったら大間違いです! 女子のみなさんは、くれぐれも裏メニューを選ぶような野球人とは――』

 

 

 

(……今回も、長くなりそうね)

 

 

朝のホームルームの始まった、教室の外。

早乙女に廊下での待機を命じられていた暁美ほむらは、柱に背を預け溜息を吐いた。

 

ほむらの転入初日、クラスメイト達への紹介前に挟まれる愚痴説教。

これまでの繰り返しの中で毎回必ず行われている事ではあるが、ほむらはこの手持無沙汰な時間があまり好きでは無かった。

 

何せ、見滝原中学校の教室は全面ガラス張りである。廊下に一人立つほむらには、方々の教室から好奇の視線が向けられていた。

慣れているとはいえ居心地が悪い事この上なく、視線を彷徨わせれば教室内のさやかとほんの一瞬目線が噛み合い、思わず逸らす。

 

……感傷が、胸をよぎった。

 

 

『――あ、それから、今日はみなさんに転校生を紹介します。じゃ暁美さん、どうぞ』

 

(やっと……)

 

 

そしてようやく愚痴が終わり、早乙女の招きに従い教室へと足を踏み入れた。

途端クラス中の視線が一身に集まるが、足取りを乱す事も無く早乙女の横に立ち、軽く頭を下げる。

 

 

「暁美ほむらです。これから、よろしくお願いします」

 

 

そう言って薄く笑みを浮かべれば、拍手が返る。

その中には当然まどか達の姿もあり、今はまだ純粋に歓迎の様子を見せていた。

 

 

(……二人とも、まだ魔法少女にはなっていないようね)

 

 

叩かれる彼女達の手にソウルジェムの指輪が無い事を確認し、心中で息を吐いた。

 

今回、ほむらは初日から今日に至るまでインキュベーターの姿を確認できていなかった。

おそらくは、レジスタンスとの一件で間接的にジャジメントとの関わりを持った為だろう。

 

姿の見えない奴ら程、不安を煽る物は無い。まどか達の魔力反応から魔法少女となっていない事は分かっていたが、やはり懸念は残っていたのだ。

 

 

「はい、黒髪の映える美人さんですね。ええと、座席はあそこで大丈夫?」

 

「……ええ、問題ありません。ありがとうございます」

 

 

一先ずの安堵を胸に、早乙女の案内に従い席に着く。

 

次に行うべきは、まどか達との関係作りだ。

ほむらは今後のタイムラインを確認しつつ、いつものように素知らぬ顔で早乙女の話を聞き流し――。

 

 

 

「――さて、そんな訳でクラスメイトが一人増えましたが……残念ながら、全員揃うのは今だけになっちゃいますねぇ。今日で美樹さん、最後ですし」

 

 

 

(――――――、?)

 

 

――流しかけたその会話の意味を理解するまで、数秒の時間を要した。

 

続く言葉も耳に入らず、ぽかんと呆け――そんな置いてけぼりの様子を見かねたのか、隣席のクラスメイトが顔を寄せる。

 

 

「えっとね……クラスに美樹さやかって子がいるんだけど、何か急に転校する事になったらしくてさ。そんでウチの学校来んの、今日が最後なんだって」

 

「え……、……っ!?」

 

 

咄嗟にさやかへと目をやるが、先程の話を否定している様子はない。

クラスメイト達も皆事実として受け入れているようで、一周遅れの混乱がほむらを襲う。

 

 

(さ――美樹さやかが、転校……!? なんで、そんな――)

 

 

確かに、これまでの時間軸でも、美樹さやかを始めとした関係者達に多少の変化が起きる事はあった。

しかしそれは体調不良などの些細なものであり、転校のような大きな変化を見せた時間軸には覚えがない。

 

ほむらは必死に動揺を抑え込み、冷静を装った瞳でクラスメイトを見返した。

 

 

「……そう、タイミングが悪かったのね。どうして転校するの?」

 

「んー、何か幼馴染がどうこうとは聞いたけど……詳しい事は分かんないや。気になるなら、本人や仲良しの鹿目さんとかに聞いてみたら良いと思うよ」

 

「ええ、そうするわ。どうもありがとう」

 

 

それを最後にクラスメイトとの会話を切り上げると、早乙女の話に意識を戻す。

もっとも、話題は既に他へと流れており、すぐに興味を失ったが――その脳裏では、今後の方針が目まぐるしく組み直されていた。

 

 

 

 

 

 

「鹿目まどかさん。先生から聞いたのだけど、あなたがこのクラスの保健係よね?」

 

「う、うん、そうだけど……」

 

 

ホームルームと地続きに始まった一時限目が早めに終わった、休み時間。

ほむらは殺到するクラスメイト達を躱し、さやかと談笑していたまどかへとそう話しかけた。

 

彼女の保険係という立場と、退院直後であるほむらの状況は相性が良い。特に体調不良と嘯きまどかと接触する手口は、常套手段と化していた。

 

 

「保健室の場所を聞いておくのを忘れていたの。病気の事もあるから、念の為に教えておいて欲しくて」

 

「あ、そっか……じゃあ時間もあるし、案内するよ」

 

「んー、ならあたしも行こっかな。転校生と話せんの、今日だけだもんね」

 

 

まどかに続き、さやかもそう言って席を立つ。

言われずとも、転校の件を聞くため元から誘うつもりではあったのだ。渡りに船と、ほむらは二人を伴い教室を後にした。

 

 

「いやー、何かゴメンね? あたしのせいで転校生デビューにケチ付ける感じになっちゃって」

 

 

軽い自己紹介を交えながら保健室へと向かう最中、さやかは軽い調子でそう謝った。

その様子はほむらの知るさやかと何ら変わりなく、これから転校するなどとは、やはり信じられなかった。

 

 

「いいえ、仕方のない事だもの。でも先生から何も知らされてなかったから、驚いたわ」

 

「まぁ割と急な話だったからね。手続きとかもまだ全然で、ちょっとゴタゴタしてんのよ」

 

「……転校の理由を聞いてもいいかしら。言いにくい事なら、いいけれど」

 

 

ストレートな問いであったが、さやか相手であれば好手であると知っていた。

彼女は特に気分を害した様子もなく、照れたように頬を掻く。

 

 

「あー……と、ね。あたし幼馴染が居るんだけど、今怪我で入院してんのよ。それも結構ひどいやつで」

 

「……もしかして、上条って人の事かしら。私が退院する少し前、同い年の子が大怪我で運ばれたとウワサになっていたわ」

 

 

自分でも白々しさを覚える相槌であったが、さやかは知っているなら話は早いと頷き一つ。

 

 

「そそ。で、その怪我、完全には治んないかもって具合でねー……でも、もしかしたら何とかなるかも、って話になってさ」

 

 

初耳だ。これまで一度も見た事の無い展開に、ほむらの眉が僅かに跳ねた。

 

詳しく聞けば、上条の腕を治せる凄腕の医者が見つかり、病院の伝手で診て貰える事となったらしい。

しかしその医者の居る病院は見滝原より離れた遠方にあるらしく、集中して治療を受けるにはこの学校を離れる他は無かった。

 

無論、上条はそれを即決し――何故か、さやかもそれに付いていく運びとなったそうだ。

 

 

「…………」

 

「……あっ! えっと、違うんだよ? さやかちゃん、ストーカーとかそういうんじゃなくて、頼まれたんだって! 上条君と、パパとママに」

 

 

ほむらの呆れと困惑を察したのだろう。

それまで静観していたまどかが慌ててフォローに入り、情報を付け加える。

 

 

「あのね、治療に使うお薬が神経とか精神を不安定にするものみたいで、ストレスを感じすぎると悪い事になるらしくて……」

 

「まぁ心の拠り所ってヤツ? まだ大怪我はしたまんまだし、転校先の学校でも支えて欲しいって言われたら応えるしかないっしょ」

 

「……ご両親は反対しなかったの?」

 

「昔っから家族ぐるみで仲良かったからね。恭介ん家が色々出してくれるってのもあったから、最後にはあたしの決断に任せてくれたよ」

 

 

さやかはそう言って、からからと笑う。

しかしその裏からは未だ躊躇いの陰が見え、彼女にとっても突然の提案であった事が窺えた。

 

 

(……転校の理由としては、あり得ない話では無い。でも――)

 

 

どこか、引っ掛かりを感じた。

 

ヴァイオリンに全てを捧げていた上条恭介が、腕の治療に飛びつくのは理解できる。

だが、それにさやかを巻き込むような男だっただろうか。真っ先に助けを求めるほど、彼女を特別視していただろうか。

 

これまで彼らの恋愛事情に散々手を焼かされた身からすれば、どうにも納得し難いものがあった。

 

 

「――暁美さん、あそこが保健室だよ」

 

「っ!」

 

 

そうして首を捻っている内、目的地に到着したようだ。

まどかの人差し指の先を追えば、廊下の一角に保健室のプレートが見えていた。さやかの件は一旦横へ置き、元の目的へと思考を切り替える。

 

 

「ありがとう、助かったわ。……美樹さんも、答えにくい事を聞いてしまって悪かったわね」

 

「んな事ないって。むしろ迷惑かけたの、こっちだしさ」

 

 

そう申し訳ない顔を作るさやかを他所に、ほむらは懐に忍ばせていた物を取り出した。

 

それは銀色に輝く、二つのアクセサリーであった。

菱形をした金属には精巧な魔法陣のようなものが描かれており、その美しさにまどか達から感嘆が漏れる。

 

 

「良かったら貰ってちょうだい。お礼とお詫びの代わりよ」

 

「え……わ、悪いよ。こんな高そうなの……」

 

「気にしなくていいわ。趣味で作ったものだから、お金なんてかかっていないの」

 

「うっそホントに!? まんま売りもんじゃんこれ……」

 

 

ほむらが半ば強引に二人へと押し付ければ、二人揃って驚きの表情を見せる。

手作りというのは嘘では無い。もっとも、趣味というより企みが故の産物であったが。

 

 

「それに元々、友達が出来たら贈ろうと思っていたから……ダメ、かしら」

 

「あ……えっと、じゃあ……貰っちゃおっかな。ありがとう、暁美さん」

 

 

そういってはにかむまどかに「ほむらでいいわ」と返し。アクセサリーがその懐へと収められたのを見届け――心の裏で、ほくそ笑む。

 

 

(……これで、インキュベーターとまどかの縁は切れた筈。おそらく、目を付ける事さえ出来ない)

 

 

まどか達二人へ送ったアクセサリー。

それらは先日、レジスタンスのアジトから盗み出したクモと『TX』のパーツを材料としたものだ。

 

ある願いにより、インキュベーターはジャジメントと関わりを持つ者に近づけない。

前回においては、直接の関係を持たなかったまどかですら多少の影響を受けた程だ。ジャジメントの製作物たるクモと『TX』が、その影響範囲外にある筈が無いのだ。

 

加工し幾つかの魔法を刻んだとはいえ、ジャジメント由来の物品であるという事実は消えない。彼女があのアクセサリーを持つ限り、あの獣の干渉からは守られる事だろう。

贈り物を受け取ってもらえるよう、角の立たない振る舞いをした甲斐があったというものだ。

 

 

(さて、そっちは良いとして……)

 

 

ちらと、まどかと同じくアクセサリーを喜んでいるさやかを見る。

 

やはり、彼女の転校の件に関してはどうしても気になっていた。

絶対に引き留めておかねばならない、という理由は無い。戦力として頼るには不安定な部分が大きく、前回のような凄まじいイレギュラーが起きない限りは、不利益を齎す可能性のが高いのだから。

 

……ただ、状況に大きな見落としがあるような気がしてならないのだ。

 

 

(まぁ、だからと言って干渉のしようが無いのだけれど……)

 

 

事態は既に、ぽっと出の転校生という立場でどうにかできる段階を越えている。取れる選択はこのままさやかを見送る事だけだ。

ほむらは纏わり付く無形の不安を溜息と共に吐き出し……それを見咎めたまどかが、心配そうな表情を作る。

 

 

「どうしたの、ほむらちゃん? もしかして、具合悪くなっちゃった……?」

 

「……そうね、そうかもしれないわ。少し保健室で休んでいくから、二人は教室に戻っておいて」

 

 

無論、嘘だ。

少し考えを纏める時間が欲しいだけであり、このまま仮病で早退する事も視野に入れていた。

 

そうとは知らぬまどかは付き添いを提案するも、当然ながらそれは拒否。

ほむらは別れの挨拶もそこそこに、保健室の扉へ手をかけて――。

 

 

「――いや。まどかは一緒に居てあげなって」

 

「え? わあっ!?」

 

 

突然、さやかがまどかの背を押し出した。

ほむらは咄嗟につんのめる彼女を抱き止めると、抗議の視線をさやかへ返す。

 

 

「……何のつもりかしら、美樹さん」

 

「あれよ。まどかと仲良くしてやって、的な?」

 

 

さやかは気まずげに笑いつつ、言葉尻に寂しさを滲ませる。

 

 

「あたしは恭介が居るから良いんだけどさ……まどかはほら、一人置いてっちゃうじゃん。それが心配でねー」

 

「そんな事無いよ。仁美ちゃんやクラスメイトの皆も居るし……」

 

「いやほら幼馴染ロスっていうかね。まどかも寂しいって言ってたでしょ」

 

 

照れながらの言葉にまどかは口ごもり、目を逸らす。

 

 

「だから、新しい友達と……ほむらと仲良くなってくれたら、ちょっとは安心できるかなって」

 

「……私にあなたの穴埋めをしろと?」

 

「いやそういうんじゃなくて――いやそういう事になるのか。まぁいいじゃん別に細かい事は!」

 

 

さやかは誤魔化すように、或いは強がるように笑うと、ほむらの肩をバシバシ叩く――寸前、ほむらの体調不良(という嘘)を思い出したのか、無理やり狙いを外してズッコケかける。

 

 

「と、とにかく、せっかくだからじっくりお話でもしときなよ。先生にはあたしから言っとくからさ」

 

「いえ、私は――」

 

「いいからいいから。まどかの事、あと任せた!」

 

 

 

――あと、任せたっ――!

 

 

 

「……っ」

 

 

……前回の時間軸における、さやかの最期。

あの一瞬が鮮やかに脳裏を過り、走り出すさやかを止めるチャンスを見逃した。

 

そうして去り行く彼女をほむらはただ眺め――気づけば、その背に声をかけていた。

 

 

「あのっ、美樹さん!」

 

「お?」

 

 

さやかは立ち止まり、こちらを振り向いてくれたものの。さて、何を言えばいい。

かつての己が蘇ったかのように迷い、焦り、目を彷徨わせ……やがて、それを絞り出す。

 

 

「――頑張って、ね……?」

 

 

……らしくもない、苦し紛れの一言。

 

さやかはほんの一瞬きょとんとした表情を浮かべると、擽ったそうに噴き出して。

銀色のアクセサリーを掲げ、屈託のない笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

『――という訳なので、近々あなたの所に子供が三人届きますから』

 

「は?」

 

 

夜。開業医としての仕事を終えた後。

突然電話をかけてきた友人にそう告げられた桧垣東児は、彼にしては珍しく間の抜けた声を零した。

 

 

「……えー、それはつまり、『仕事』の依頼という事で?」

 

『紹介と言った方が正しいですね。後でデータを送りますが、患者とその付き添い、あと私が個人的に雇ったあなたのボディーガードです』

 

「……患者の方はともかく、ボディーガード? レジスタンスあたりが動きましたか」

 

 

うんざりとした溜息が、端末の通話口にかかる。

 

現在でこそジャジメントから離れ穏やかな暮らしをしている桧垣であるが、過去には外道としか言いようのない所業も数多く行っている。

また研究者として非常に有能であった事もあり、復讐やその能力の利用を目論む者達から狙われやすい立場でもあった。

 

しかし聞こえる声は軽く笑い、その懸念を否定する。

 

 

『いえいえ、これはこちらの都合によるものです。居ると邪魔になり、消すのも面倒が起きる。故に穏便な島流し、といった具合で』

 

「はぁ……しかしそれなら、混黒あたりにでも送った方が良かったのでは? 風の噂では、大掛かりな実験が始まると聞いていますが」

 

『あれとは完全に別件なので。それにご褒美で酷い目に遭わせるのも、ねぇ?』

 

「あなたの事情を把握していない以上、同意も相槌も返せないのですがね……」

 

 

そう呟いた桧垣であったが、友人の『紹介』を断るつもりは無かった。

 

彼の取り組むしあわせ草の研究のためには、多くの治験データが必要なのだ。

患者の受け入れを拒む理由は無く、ボディーガードに関してもあって困るものでは無い。桧垣にとっては、メリットしかない提案であった。

 

 

「……まぁ、いいでしょう。子供のボディーガードとは些か気にはなりますが、費用があなた持ちである以上贅沢は言いませんよ」

 

『あら、良かった。その子は才に関しては確かなので、期待していていいですよ』

 

 

では、彼女達が戻ってこないよう、お願いしますね――。

 

友人は最後にそう残すと、手早く通話を断った。

唐突に始まり唐突に終わった会話であったが、既に桧垣も慣れたもの。気分を害した様子もなく、黙々とスケジュールの調整を開始した。

 

 

(まったく、今回はどのような暗躍をしているのやら――おっと)

 

 

そうして往診時間の入替に頭を悩ませていると、端末が小さく振動する。

おそらくは、先程友人が言っていたデータだろう。着信したメッセージには、簡単な経緯と先程話題に上がっていた三人のプロフィールが添付されていた。

 

『上条恭介』

『美樹さやか』

『佐倉杏子』

 

さて、この子供達はかの友人に――ウ・ホンフーに何をやらかしたのだろう。

桧垣は多少の興味と共に、彼らのデータに目を通し始めた。

 

 

 




『佐倉杏子』
ラーメン大好きあんこちゃん。ホンフーの暗躍によりド田舎に飛ばされ、ひっそりと退場。
生活費は非合法なアレで稼いでおり、万引き窃盗ATM強盗何でもござれ。ただそんな自分が好きでは無いらしく、いつもなんか食べてる描写にストレスの影が見えなくも無い。
今後は桧垣の身を守りつつ、同じく飛ばされたさやか達と仲良くなったり、パワポケ13主人公の彼女候補になってトゥルーになったりバッドになったりするんじゃないでしょうか。
ゆまの居る街には行っていないので、まだ独り身。


『梓みふゆ』
意外とぽんこつみふゆさん。でもカリスマはちゃんとある。
ジャジメントに協力する魔法少女の一人。少し変わった『幻覚』の固有魔法を持ち、精神攻撃に纏わるアレコレがメイン任務。
たまに魔法少女の勧誘も頼まれるが、ジャジメント自体がそこまで魔法少女に注目していないため、頻度は少ないようだ。
今回は自身の魔法少女に嫌われる性質を自覚しているホンフーにより、杏子に対するメッセンジャーとして抜擢された。
とても美味しいラーメンに感動したが、何故か地元の50点ラーメンが恋しくなったそうな。


『美樹さやか』
とっても可愛いさやの丞。今回の時間軸では最初からほむらを認めた。
ド田舎へ治療に赴く上条恭介を支える為、転校を決める。
恭介やその両親、果ては主治医からも恭介の付き添いを熱心に頼まれた為その気になってはいるが、心の奥底では妙な違和感を抱えており、躊躇いが残っているようだ。
今後は田舎でのんびり恭介を支えつつ、近校の野球部の応援団になってパワポケ13主人公を応援したりするんじゃないでしょうか。勿論チアガールで。


『鹿目まどか』
みんな大好きまど神様。幼馴染達の転校にしゅんとなっている。
しかしほむらという新たな友人を得た事で、若干元気が出た。
ほむらのアクセサリーを貰ったので、キュゥべえは干渉する事が出来なくなったようだ。
おまけにギリギリ発見もされておらず、そもそも存在自体知られていない。ほむらちゃん大勝利!
実は彼女だけまだホンフーと会っていない。


『暁美ほむら』
孤独のRTA走者。さやか達の転校にチャートが崩れて大混乱。
それはそれは怪しんでいるが、状況的に静観するしかないので、大人しくさやかを見送った。
クモと『TX』の外装を加工してキュゥべえ避けのアクセサリーを制作。まどかとさやかに渡し、干渉を防ぐ事に成功。
アクセサリーには『印』など幾つかの魔法を刻んでおり、GPSとしても機能するらしい。あっ、やちよさんだ。
前回のさやかをだいぶ引きずっているらしく、妙に気遣ってしまう自分に困惑している。さやかの分のアクセサリーを作ったのも、完全に無意識だったようだ。


『志筑仁美』
ゆっくり化してない仁美ちゃん。さやかと恭介の転校にしゅんとなっている。
最初はさやかに嫉妬もしたが、冷静に考えた結果恭介の為に転校までは決断できない自分を自覚し、ショックを受けたようだ。
戦わずして勝つ……それがさやかさんの強さですのね……。


『上条恭介』
モテモテのヴァイオリニスト。たぶん今時間軸で一番しあわせなヤツ。
既にホンフーからの洗脳を受けており、治療にはさやかの支えが必要だという強迫観念に取りつかれている。
田舎に行った時点で元に戻るが、さやかへの感謝は残ったそうな。
今後は田舎でのんびり療養しつつ、二年目くらいに腕も治ってさやかと一緒の応援団に入り、パワポケ13の主人公をヴァイオリンで鼓舞したりするんじゃないでしょうか。


『ウ・ホンフー』
暗躍する魔法青年。今は神浜とかで色々やってる。
上条恭介やその関係者を洗脳し、さやかを見滝原から排除。杏子も彼自身が雇う事で、見滝原に訪れる可能性を潰した。
恭介に桧垣を紹介し、薬のせいで不安定になるだの何だの吹き込んだ。しかし薬の原料であるしあわせ草は使うと突然やる気が上がったり特殊能力付いたり色々不安定になるのは間違いないので、嘘はついていない。
おまけに桧垣の腕も確かで完治が約束されているので、さやかへのご褒美である事も間違いない。
なんて誠実な男なんだ……!


『桧垣東児』
結構ファンの多いリセット座談会メンバー。善人では無いが悪人とも言い難い。
ホンフーから突然色々と押し付けられ、どうしたもんかと思案中。
今後は恭介の治療がてらしあわせ草のデータを取りつつ、ボディーガードの杏子と共に開業医として暮らしていく事でしょう。でもたぶんルートによっては酷い目に遭う。


『風見野市』
杏子がテリトリーを持つ都市。見滝原と程近い場所にあり、割と物騒。
魔法少女もそれなりの数存在するが、ホンフーは見滝原にやって来ないならいいと、数人を除きスルーした。


『早乙女先生&中沢』
Q・スイカカレーってどんな味がするんですか???
A・スイカとカレーの味。あと水っぽい。スイカのしゃぐしゃぐした部分にカレーのルーがからみあっています。ほら、美味しそうでしょう? ……ええ?


杏子! さやか! 恭介! パワポケやろうぜ!
毎回遅くてごめんね。これからもまったりお待ちください。
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