――キュゥべえが、いない。
巴マミがそれを確信したのは、今週に入って二体目の魔女を倒した後の事だった。
(……やっぱり、グリーフシードの回収にも来てくれない)
主を失い、消えゆく結界の中。
マミはソウルジェムの穢れを移したグリーフシードを手に、浅く唇を噛む。
ここ数日、マミはキュゥべえの姿を見ていなかった。
否、それどころかテレパシーでの呼びかけにも応えず、完全に行方不明と化しているのだ。
元々神出鬼没ではあった彼の事。最初は『そういう時もあるだろう』と暢気に構えていたのだが、早く捜索に出るべきだった。
彼の役目でもある使用済みグリーフシードの回収にも現れないとなれば、何かトラブルがあった事は火を見るよりも明らかだ。
マミにとってキュゥべえは命の恩人であり、同時に長い時間を共に過ごした大切な友人でもある。
その安否が分からないという現状は、彼女に確かな焦りを齎していた。
(まさか魔女にやられたなんて事は……無いわよね)
考えかけ、首を振った。
キュゥべえの死を考えたくなかったという事もあるが、そもそも彼は魔女に関してマミよりも深い知識と経験を持っている。
魔女の攻撃を軽々と避ける姿もよく目にしており、早々後れを取るとは考え難かった。
(……単なる無視、違う、キュゥべえはそんな事しない。なら、誰かに捕まった? 魔法少女が? 何の為に……いえ、それならテレパシーで助けを求めてくれる筈。ああでも、それすら届かない場所だったり……)
不安を糧に次々と悪い想像が膨らみ、落ち着きなくうろうろと歩き回る。
結界が完全に消え去り、元の風景を取り戻した路地裏。変身している事も忘れたまま徘徊するマミの姿は酷く浮いていたが、幸いな事に目撃者は無く。
(ああもうっ。こんな時、誰かに聞けたら……!)
かつて佐倉杏子と袂を分かって以来、マミはたった一人で魔法少女としての活動を行っている。
無暗に他者の領域を侵さぬよう、他の魔法少女との接触は慎重になっていたのだが、今回はそれが仇となったようだ。
キュゥべえ以外に深い付き合いのある友人も無く、誰かに相談する事も出来ない。積み重なった焦燥が、濁りとなってソウルジェムに降り始め、
――「あなた達の仲は深まり、そして……」――
「……っ? ……ぁ、いえ、居る……わよね……?」
ふらりと、唐突に立ち眩みを起こす。
危うくバランスを崩しかけたが、壁に手をつき身を支え。そうして顔を上げた時には、マミの脳裏に一人の魔法少女の姿があった。
(そうよ。カフェで魔女と戦った後、連絡先を交換したじゃない……)
友達となったばかりなのに、何故すぐに思い浮かばなかったのだろう。
マミは首を傾げつつも、いつの間にか取り出していた端末を操作し、登録されている彼女の番号を呼び出した。
「……保澄さん……」
……長らく無人のままだった、
そこに表示されている保澄雫の名前に、無意識の内に小さな笑み一つ。
少しずつ焦りが和らいでいく感覚に気付きつつ、マミは通話ボタンへと指を伸ばした。
■
今回の時間軸において、巴マミとの関係をどうするか。
暁美ほむらは、未だにそれを悩んでいた。
「…………」
放課後。
学校での活動を終えたほむらは、街中を歩きがてらに考える。
ほむらにとってマミは、頼りになる戦力であると同時、何とも扱いに困る存在だった。
優しく正義感に溢れ、並大抵の魔女では歯が立たない程の強さを持ちながら、精神的には年相応の脆さもある。
良くも悪くも『模範的な魔法少女』であり、それ故繊細な対応を求められる場面が多々あった。
例えば彼女の抱える孤独感。
両親を失い杏子とも別れ、近しい者はインキュベーター以外に無い。他人に魔法の事を明かせず、深い友も作れない。
そんなマミにとって、本当の仲間足り得るまどかやさやかの存在は強い光と映ってしまう。
その為インキュベーターによる魔法少女への勧誘には賛成の立場を示し、それを阻もうとするほむらに対し敵意を向けるケースも多い。
マミの望みとほむらの目的は、半ば反目し合う状態にあるのだ。
そしてまどか達のどちらか一方でも魔法少女になってしまえば、後に魔法少女の真実が明らかとなった際に酷い事になる。
己の導きにより後輩に魔女化の運命を背負わせてしまったという責が、マミの心を磨り潰す為だ。
失踪や引き籠るくらいであればまだいい。
時には自らの手でけじめを付けようと無理心中を図る事もあり、そうなれば様々な意味で最悪の結末を辿る事となる。
(……けれど、今回は状況が大きく違っている。まどか達を原因として敵対する可能性は、無い)
さやかの転校。
そして、ジャジメント製アクセサリーによるインキュベーターの干渉阻止。
現状では、例えマミが強く望んだとしても、まどか達を魔法少女にする事はほぼ不可能だ。
それはマミと協力関係となるにあたり、最も大きな障害が無くなった事を意味していたが――これはこれで、新たな問題が浮上する。
(私と接触すれば、おそらくインキュベーターはマミの前から姿を消す。それが彼女にどんな影響を齎すか)
赤信号に立ち止まり、溜息。
この時間軸において、ほむらは既にジャジメントと関わりを持っている。
マミと協力関係を結べば、自動的に彼女とインキュベーターの縁も切れる事となる。
ほむらとしては大歓迎ではあるが、マミとしては堪ったものでは無いだろう。
その姿が見えなくなった場合、大きく取り乱すだろうとは容易く予想が付いていた。
(流石に、錯乱とまではいかないでしょうけど……何かしら拗れるのは絶対ね)
原因が己にあると知られれば、恨まれる恐れもある。
本当に扱いづらい先輩だと、ほむらは眉間のシワを指で押さえた。
(……とはいえ、顔を合わせない訳にはいかない。機を見て動くしかないか……)
青信号。
ひとまずの結論を出すと同時、一度思考を切り上げる。
悩ましい問題である事に違いは無いが、過剰に神経をすり減らすほどでもない。
まどかの下に例のアクセサリーがある今、ほむらの精神には幾分かの余裕が生まれていた。
(あの子が魔法少女にならないと確信できるだけで、ここまで息がしやすくなるのね……)
インキュベーターが如何に厄介極まる存在か、改めて分かろうという物だ。
ほむらは凝りの取れた気のする首筋をさすり、敢えて歩みを遅くする。
……街中をのんびりと歩くなど、何時以来だったろうか。ふと考えたが、思い出せず。
「……まどかと、ショッピングに来た事もあった筈なのに」
呟き、自嘲する。
さて、己は彼女とどの店に入り、何を買ったのだったか。
ほむらは訪れた気まぐれのまま僅かに残った記憶を辿り、立ち並ぶ店々をぐるりと見まわして――。
「……!」
――唐突に、視界の端を見知った顔が擽った。
それは明るい色の髪をくるくると巻いた、豊かな胸部を持つ少女。
先程まで扱いに悩んでいた巴マミの姿だ。
あちらはまだほむらの存在に気付いていないらしく、隣を歩く友人らしき少女に何某かを話しかけている。意識して雑踏に紛れつつ、二人の様子を窺った。
(珍しい。彼女が誰かを連れ立っているなんて――、っ!)
よくよく見知らぬ少女を観察すれば、その片手に光る小さな指輪が目に付いた。
――魔法少女として間違えよう筈も無い。待機形態となったソウルジェムだ。
ほむらは軽く息を呑むと、魔力の隠蔽を徹底し二人の様子を観察する。
(……他所の街の魔法少女?)
これまでの繰り返しの中で、近辺地域の学校とその制服は大体把握している。
少女の纏う制服は見た事が無く、杏子のような外様だとはすぐに分かった。
(巴マミにあんな知り合いが居るだなんて話、今まで一度だって聞いた事は無い。この時間軸だけの関係……かしら)
いきなり出現した新たな登場人物に、警戒の念が湧く。
マミと仲の良い魔法少女。要素だけを見れば様々な面でプラスの存在である筈なのだが、前回のバッドエンドを引きずっているのか、どうにも嫌な予感が拭えない。
知らず渋面を作ったまま、静かに聴力を強化。前を歩く二人の会話を盗み聞く。
「――ですか、保澄さん」
雑音の中から彼女達の会話を狙うのに多少苦労はしたが、何とか拾い上げられた。
保澄――ほむらは聞こえた名前を小さく噛み含み、一定の距離を保ち一層耳をそばだてる。
「……あの、さっきも言ったけど、やっぱり敬語やめない?」
「いえ、でも高校生の方だった訳ですし……」
「魔法少女としてなら、あなたの方が年季も実力も上でしょ? それに出会いも出会いだったから、違和感が凄いの」
「……そ、そう?」
……どうやら、彼女達が知り合ったのはつい最近の事らしい。
マミは年上の友人の頼みに暫く渋っていた様子だったが、最後には受け入れたようだ。
ほむらの良く知る口調に戻り、居心地悪げに身動ぎを一つ。しかしその口元には、照れの混じった笑みが小さく浮いていた。
そうして、ぎこちなさが残る会話の端々から、ほむらは少しずつ情報を集め続け――その内に、二人は並木道の片隅にあるベンチに揃って腰かけた。
歩き疲れた……という訳では当然無く、腰を据えての話をする為だ。
「――じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか。さっき、メッセージで話した事なのだけど……」
「……キュゥべえの事、だよね」
「!」
マミ達に続き手近な木陰に隠れたほむらの片眉が、小さく跳ねた。
「ええ……私、ここ最近あの子の姿を見てないの。最初はいつもの気まぐれかなとも思ったのだけど、テレパシーすら通じなくて……」
――インキュベーターが、既に巴マミのもとから離れている?
ほむらの胸裏に混乱が渦巻くが、それが表に出る前に抑え込み。
勘付かれない程度に身を乗り出せば、保澄という少女の――雫の暗い表情が目に付いた。
「誰かに聞くにしてもこの辺りの魔法少女は私だけだから、頼れるのは保澄さんしか居ないのよ。あなたはキュゥべえと会える? 最近何か変な様子とかは無かった?」
「えっと……」
「……心当たりがあるなら、お願い。キュゥべえの事が心配なの」
マミの真剣な様子に、雫は暫く口をまごつかせ、やがて申し訳なさそうに切り出した。
「……ごめんなさい。それ、たぶん私のせいだと思う」
「え?」
「巴さんは……その、キュゥべえがジャジメントに近づけないって話、聞いた事ある……?」
それを聞いたマミはぽかんと目を丸くすると、困惑した顔で首を振る。
ほむらでさえ、前回の時間軸で初めて耳にした話だ。やはりマミにも知らされてはいなかったらしい。
「意味がよく分からないのだけれど……ジャジメントって、スーパーとかの?」
「……ええ。詳しくは知らないけど、キュゥべえは魔法少女の願いでジャジメントに関係してる人への干渉を禁止されてるみたい。それで私、あそこでアルバイトしてるから……」
「え、えぇ……?」
流石に、すぐには受け止めきれないようだった。
マミはあちこちに視線を彷徨わせつつ、己の中で話を整理しようと小さく唸り。
「……つまり、キュゥべえはジャジメントのアレルギーみたいなもので、それでジャジメントでアルバイトをしてる保澄さんとお友達になったから、私の所に来られなくなった……って事?」
冗談でしょう?
そう言って欲しいと言外に語っていたが、雫は無情にも首肯する。
「そう。だから――またキュゥべえと会えるようにする為には、私との縁を切らないといけない」
「え――」
そう告げられた瞬間、マミは酷く傷ついた顔をして。
雫も目を伏せ、二人の間を冷たい風が吹き抜けた。
*
「……そういうの、あまり面白く無いわ」
「ふざけてる訳じゃない。私がバイトを始めた後、友……知り合いもキュゥべえと会えなくなったって大騒ぎしてたから。その時、色々聞き回って調べたの」
懐かしげに目を細める雫に、嘘は無いのだと悟ったのだろう。
マミは揺れる瞳で雫を見つめ、膝に置いていた手を無意識の内に握り締めた。
「保澄さん、その……それは絶対なの? 縁を切るだなんて、そこまでしなくても良いんじゃ……」
「たぶん間違いない。私と交流ある魔法少女は皆キュゥべえを見てないらしいけど、一回会ったきりの人の所には、今は普通にキュゥべえが来てるって話だから……」
「……そう、なの」
力無く首を下げれば、二本の巻き髪が前に垂れる。
マミにとって雫は、久々に得る事の出来た友人足り得る存在だ。
キュゥべえの件があるとはいえ、この始まったばかりの関係を断ち切りたくは無かった。
とはいえ、己の為にジャジメントのアルバイトを止めろと言えるほど、傲慢になれる筈も無い。迷いと躊躇いが胸を埋め、心を重く押し潰す。
雫はそんなマミに何かを告げようとしたが、思いとどまったように口を噤み。代わりに深い溜息を吐き出した。
「……本当にごめんなさい。私にとってはキュゥべえが居ないのが普通だから、それがおかしい事だってすっかり忘れてた」
「いえ……」
「巴さんがキュゥべえに会いたいと望むなら、私は今すぐにでも消える。今後顔を見せないよう気を付けるし、アドレスやメッセージのログも消す。それできっと、元に戻るわ」
「っ」
それを聞いたマミは、反射的に端末へと触れた。
意識にあったのは、その中にある
――保澄、雫。
「…………」
……やっと、無人ではなくなったというのに。再び、現れたと思ったのに。
また、削除しなければいけないのか。
また、手放さなければならないのか。
やはり己は、一人きりでなければいけないのか――。
(――寒い)
身体が、芯から冷たくなった気がした。
マミは自覚なく震える指先に気付くと、そっと身体の影に隠し。雫とは目を合わせないまま、呟くように問いかける。
「……キュゥべえは、無事なのよね? 誰かに捕まったとか、大怪我を負って動けないとか、そう言う事では無いのよね?」
「え? ええ、単に私達と会えなくなってるだけだから、今もどこかで元気にしてると思うけど……」
困惑混じりにそう返されれば、マミはどこか必死さを滲ませながら、雫へと詰め寄った。
「じゃあ、ね? もう暫く、このままでいられないかしら」
「巴さん……?」
「……これで保澄さんとお別れっていうのはイヤだもの。あの子には悪いけど、切羽詰まった状況でないというのなら……もう少しだけ、あなたと仲良くしていたいのよ」
キュゥべえを放置するという罪悪感はある。
しかしこのまま雫との繋がりを断ってしまう事は、マミにとっては身を切るようなものだった。
そんな様子に目を白黒させる雫を他所に、マミは縋るようにその手を握った。
「それに、ええと……何かの弾みというか、新しい魔法少女の願いが上手く作用して、保澄さんと別れなくてもキュゥべえと会える状況になるかもしれないし……だから、その……ダメ?」
苦し紛れの言い分だとは、自分でも分かっているのだろう。
マミの瞳には不安の光が揺れており、雫に彼女が年下の少女である事を強く意識させていた。
雫は小さく苦笑を零すと、彼女の冷たい指先を温めるように包み込む。
「……巴さんがそれでいいなら、ダメじゃない。私も、これっきりは寂しいから」
「保澄さん……ありがとう……」
「でも、このままだとキュゥべえには会えないっていうのは覚えておいて。それに、付き合いが長くなれば縁も深まって、もっと会い難くなるかもしれないし……」
「……ええ、分かっているわ」
マミはしっかりと頷いた。
雫と離れたくないのは本心だが、さりとてキュゥべえと離れたままで居たい訳でも無いのだ。
いずれは、何らかの決断を下さなければならない時が来るだろう。
だが、それはもう少し後でいい。もう少しだけ、この一人きりでは無い時間を味わっていたかった。
そうして繋いだ手のぬくもりを感じつつ、暫し浸り。
「ふふ。キュゥべえの事、後回しにしちゃった。流石にあの子も怒っちゃうかしら」
「……それは無いと思う。アレに限っては、絶対」
それは何気ない一言だったが、返った声は予想以上に固い物だった。
しかし浮かれていたマミはそれに気付く事は無く、そのまま機嫌よく談笑を続け――。
「――?」
ふと、怪訝な表情を浮かべた雫が並木へと振り返る。
その中の一本から、妙な気配を感じた気がしたのだ。
「……どうしたの?」
「いえ……何か、あそこの木陰で魔力みたいな――」
――瞬間、黄の旋風が奔った。
間髪入れずに生み出されたマミのリボンがうねりを上げ、雫の指さした場所へと殺到したのだ。
まるで鞭を張るかのような音が響き、その樹の幹が締め付けられる。
瞬きをする暇さえ無かった。そのあまりの早業に雫の目が点となる中、マミは悠然とその樹の裏へと回り込んだ。
「……これは……」
そこにあったのは、リボンにより幹へ縛り付けられていたグリーフシードの姿だ。
まだ殆ど穢れの溜め込まれていない、まっさらな物。
孵化の危険は無いと確信したマミがリボンを解けば、さくりと地面へ突き立った。
「……それ、グリーフシード? やっぱり見滝原じゃよく落ちてるんだ……」
「…………」
「……巴さん?」
遅れてやってきた雫が魔力の正体に納得を見せる一方、マミは無言のままグリーフシードを拾い上げ、目を鋭く細めた。
しかしすぐに力を抜くと、にこやかに雫へと振り返る。
「まぁ、魔女が孵る前に見つけられて良かった……という事にしておきましょう」
「え、うん……?」
「そろそろ場所を移しましょうか。少し寒くなってきたし、せっかくだから私の家に招待するわ」
楽しそうに歩き出すマミにどこか白々しさを覚えたものの、特に問いただす程のものでも無く。
雫は小さく頭を振って気を切り替えると、マミの後に続いた。
「そうそう。実は昨日チーズケーキを作ってみたのだけど、中々美味しく出来たと思うの。少し余ってるから、よかったらどうかしら」
「……じゃあ貰おうかな。代わりにコーヒーを淹れてあげる。喫茶店の娘として、ちょっとは自信あるから」
二人は穏やかに笑い合い、陽の落ちかけた道を歩む。
その途中、マミの視線がほんの一瞬だけビルの影へと向いたが――それきり振り向く事も無く、彼女達の姿は再び街の雑踏へと紛れて行った。
*
(……勘付かれたか)
先程マミが視線を向けた、ビルの影。
片腕に嵌めた盾を無形の魔力に戻しつつ、ほむらは小さく息を吐く。
――先程、雫に存在を気取られた瞬間。咄嗟にほむらは時を止め、隠れた木陰より離脱していた。
マミの判断の速さはよく理解している。事実、その数舜後には既に拘束のリボンが伸びており、少しでも判断が遅れていれば、ほむらは今頃樹に張り付けとなっていただろう。
一応、手持ちのグリーフシードを身代わりとして残してきたが――そう簡単に騙されてくれるとは思えない。
流石にほむらの正体までは看破してはいないだろうが、何かしらの違和感は与えてしまった筈だ。
(本当に、厄介な先輩)
最早、これ以上の盗み聞きは不可能だろう。
深追いをすれば今度こそ気付かれ、強引に彼女の前へと引っ張り出される事となる。
それ自体は構わない。
多少の不信は与えるだろうが、それだけだ。挽回は可能な範囲であり、如何様に丸め込む事は出来る。
……しかし。
(……問題は、あの保澄という少女)
彼女がマミとインキュベーターの縁を切る原因を担ってくれたのは、有難い事ではあった。
結果として、マミに最も近づけるポジションは奪われてしまったものの、彼女に恨まれる心配が無くなったという点は非常に大きい。
現状から見れば、その存在は有益であると言えるのだが――。
「ジャジメントで働いている、ですって……?」
それはほむらにとって、決して看過できない要素だった。
アルバイトという事は、単なるスーパーの一店員というだけなのかもしれない。
高校生というのが本当ならば、そちらの方こそが自然であり、ほむらもそうであって欲しいと願っている。
……だが、もし。
もし彼女の言うジャジメントが、裏の顔に関わるものであったとしたら、それは。
(迂闊に接触すれば、またバッドエンドに存在を知られるかもしれない――)
それは、あらゆる意味での最悪だ。
叶うならば、考え過ぎ、思い過ごしと切り捨てたかった。
しかしバッドエンドに纏わる恐怖が、楽観的になる事を許さない。許してくれない。
(…………)
俯こうとする顔に手を当て持ち上げれば、指の隙間から去り行く雫の背が見えた。
遠くで揺れる、淡い髪色。
ここであれを吹き飛ばせば、全ての懸念は消えるだろうか。
ほむらは徐にレーザー銃を取り出し、雫の後頭部に照準を合わせ、
「……っ」
……だが、そんな短慮を犯せる筈も無いのだ。
ほむらは苦々しげに黒い長髪をかき上げると、身を翻しビルの影先へと消えていく。
強く踵を打ち鳴らす音が、暗がりの中に響いていた。
『巴マミ』
年上だと分かった人には基本敬語。
過去の色々から大きな孤独感をこさえており、一人で頑張りつつも仲間に飢えている面が窺える。
キュゥべえをとても心配していたが、無事だという事が分かって安心。もうちょっとだけ雫とこのままで居たいようだ。
何故か最近、気づくと携帯端末を握っているのが悩み。私依存症なのかしら……。
『保澄雫』
マミさんが魔法少女やキュゥべえの真実を知らない事を察した。
キュゥべえが居ないのがデフォルトとなっているため、他の魔法少女にとってはそれが異常事態である事を失念していたようだ。
マミさんが年下の中学生である事は分かっているが、その振る舞いと魔法少女としての実力差から、敬語を使われるのも居心地が悪い様子。この子ほんとに調整受けてないの……?
本来、神浜から見滝原までは学校帰りの買い食い感覚で寄れる距離では無い。しかし雫は空間結合のおかげで楽ちんちんである。
『暁美ほむら』
追加された新イベントと新キャラにおっかなびっくり。
まどか達が魔法少女にならない事がほぼ確定したので、色々と気が楽になっているようだ。
しかしマミさん周りのアレコレや雫のジャジメント関係疑惑により、心労は据え置き。
雫がスーパーの食品売り場でウインナーを焼いてる感じの人である事を祈っている。
『
ティロ・フィナーレでティロ・ドッピエッタでティロ・セントドッペリオンにレガーレ・ヴァスタアリアがボンバルダメントしてピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットだぞ!
絶対何か捻ってるに決まってんだろ!
マミしずに洗脳が絡むのはマギウスリスペクトです。