超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

38 / 55
8´話 不幸中の幸い、なのかしら?

――魔法少女の願いとは、大抵が即物的なものである。

 

何かが欲しい。

何かになりたい。

嫌いな何かを排除したい。

好きな何かに近づきたい――その他諸々。

 

少し手を伸ばせば叶う願いを望む者は数多く、何某かの大望や、本当の奇跡を願う者はあまり無い。

この現代社会を生きる彼女達は、良くも悪くも現実的な価値観で生きている為だ。

 

インキュベーターも願いの内容に助言はすれど教唆煽動はせず、ありのままの形で叶え続けている。

故に、魔法少女は人間を逸脱する存在にも関わらず、その殆どが普通の少女の枠にある。

能力では無く、根幹、そして在り方が、非凡の域に届いていない。

 

――だからこそ、人間であるウ・ホンフーの手が届く。

彼は彼女達がただの少女である事に、大きな感謝を持っていた。

 

 

 

 

「ぐ……ッ……!」

 

 

苦悶の声が、薄暗い室内に落ちる。

床に蹲り、息を荒らげているホンフーのものだ。

 

抑える胸からは濃い灼熱が奔り、耐え難い激痛が全身を駆け巡る。

しかしその苦痛とは裏腹に、顔には深い笑みが浮かび、まるでそれを歓迎しているようにも見て取れた。

 

 

「……よ、し。これで……」

 

 

ふら付きつつも立ち上がり、掌を掲げる。

そして目を閉じ、集中。未だ胸に燻る灼熱を、異能力としてその身に纏う。

 

 

「ドゥームチェンジ――アトモ・アラビアート」

 

 

呟いた瞬間、漆黒の火花が散った。

ホンフーの掌より生まれたそれは、幾度となく弾けながら空間を走り――炸裂。爆炎と極彩色の煙を撒き散らし、部屋の一角に焦げ跡を刻む。

 

――超能力では無く、魔法の力。つい今しがた、魔法少女からコピーしたものだ。

 

 

(科学爆発……魔法でありながら理に則るとは、ある種面白くはある)

 

 

反動の眩暈を抑え込みつつ、すぐ傍に倒れている白衣の少女を見る。

完全に意識を失っている様子の彼女は、ここ神浜の魔法少女の一人だ。

 

その願いは、『危険な実験から助かりたい』。

どうやら、彼女は過去に有毒な気体を生み出す科学実験を行い命を落としかけた経験があるらしく、そこをキュゥべえに付け込まれたようだ。

 

ホンフーが魔法をコピーするには、魔法少女の願いをもう一度叶える必要がある。

そのため彼女をデス・マスによって洗脳し、有毒ガスを発生させる実験を行わせ、瀕死の状態まで追い込んだ。

そうして個室に充満するガスをストームレインの能力で吹き飛ばし、彼女を救出。願いを叶え、魔法の種火に火を入れたのだ。

 

 

「……では、記憶処理の方を宜しくお願いしますね」

 

「…………」

 

 

少女を隅のベッドに寝かせ、開け放たれた扉の横に佇む梓みふゆへと声をかける。

罪悪感を堪えるように俯く彼女からの返事は無かったが、ホンフーは気にする事も無く。

背後で扉の閉まる音を聞きながら、悠々とその場を後にした。

 

 

 

――ホンフーが見滝原市を後にして、暫し。

神浜市へと移動した彼は、現地の魔法少女を用いて、様々な魔法のコピーを繰り返していた。

 

魔法をコピーする手順は判明したとはいえ、超能力のそれとは違い未だ不確定な要素は多い。

今後、本命である暁美ほむらの時間遡行魔法を前にした際、必ずコピーが成功するという確証はどこにも無いのだ。

確実性を高め万全に近づける為、そして己を把握する為。実証実験は必須の工程ではあった。

 

――そこで目を付けたのが、神浜である。

 

この街は他所と比べて魔法少女の数が圧倒的に多く、加えて梓みふゆを始めとした魔法少女の協力者も幾人か在住している。

特に七年もの長い間神浜で活動していたみふゆの人脈は相当に広く、彼女の一声で『練習台』は幾らでも集まった。

 

後はデス・マスを用い魔法の詳細と願いを聞き出し、容易い者から叶えて行く。

そうする事で多くの魔法をコピーし、少しずつ知識と経験を積み重ねていた。

 

 

(これで六つ。今の所、コピーを失敗するような事は無いが……)

 

 

検証の為に利用している、ジャジメント所有の支援施設。

その休憩スペースにて、ホンフーは壁にもたれて息を吐く。

 

魔法の種火に火を灯す度、そして魔法を使う度。ホンフーの身体には、大きな負担がかかっていた。

繰り返す内に慣れはしたが、克服したという訳でも無い。未だ燻る身体の火照りを鎮めるべく、冷えた水を喉へ流し込んだ。

 

 

(……只人の身体が良く叫ぶ。やはり、相当に強引な所業であるようだ)

 

 

紙コップを持つ指先が、疲労に震える。

 

桧垣を含めた専門家の見解では、魔法のコピーに際する苦痛は摩擦のようなものらしい。

何せ、理外の力である魔法を、コピーを通して超能力の枠に押し込んでいるのだ。

何処かで無理が出るのは当然であり、ホンフーにおいてはそれが肉体への負担という形で表れているとの事だった。

 

そしてソウルジェムが無い分、魔法の行使で生まれる穢れ――反動もまた、直接心身へと降りかかる。

代わりに魔女化の心配は無いようだが、こうなればソウルジェムがあった方が楽だったのではと思わずにはいられない。

 

 

(いっそ全身サイボーグにでもなれば、この苦労も無くなるのでしょうかね)

 

 

とはいえ、それは武人としての終わりを意味している。

現状この苦痛による後遺症や死の気配も見られず、そこまでの手段を取る必要性は無いとすぐに思い直す。

心身の酷使程度で留まるのならば、それで済ませておけばいいのだ。

 

 

「まだ猶予はある、それまでに……」

 

 

呟きつつ、壁に埋め込まれている時計を見る。

そこには現在時刻の他に電子カレンダーが表示されており、前回の時間軸で暁美ほむらと戦った日までは、数週間ほどの期間が残されていた。

 

彼女の目的と見られるワルプルギスの夜は、まだ遠い。

 

 

(こんな試行錯誤、本当なら全部に片を付けてから、彼女の研究と並行して行うべきなのですが)

 

 

しかし、そう順当に物事が進むとは思っていなかった。

 

前回痛い目を見たのは、ホンフーだけでは無い。

件の戦いでほむらもまた修羅場を経験し、学習と成長をしている筈なのだ。

下手を撃てば、今度こそ逃げ切られる恐れもある。

 

だからこそ、そう何度も無い機会を無駄にしてはいられない。

捕縛の成否は別として、次に顔を合わせた際、チャンスがあれば確実に魔法をコピーできるよう準備しておく――それが、理想であった。

 

 

(彼女の願いが、実現可能な範囲である事を祈るばかりですね……)

 

 

ほむらの仲間足り得る存在には『全て』手を下しており、見滝原の状況も『駒』からの情報により逐次把握している。現状は極めて有利と言える。

しかしほむらの願いにおいては一切の干渉が許されない部分であり、それが一抹の不安として胸に燻り続けていた。

 

 

(……まぁ、考えた所で無意味に過ぎる。今はただ、整えるのみ)

 

 

――暁美ほむらを、時間遡行を、決して逃がさぬその瞬間を。

 

くしゃり。

ホンフーは紙コップを握り潰すと、魔法の練習がてら科学爆発の魔法で塵にする。

そして反動で痺れる指先を軽く擦り、休憩スペースを後にした。

 

今日集められた『練習台』は、先の白衣の少女で最後だ。後は手に入れた魔法の把握と、反動の検証を行う予定である。

 

また相当に心と身体を痛めつける事となるだろう。

うんざりはすれど、しかし止まる気は毛頭無く。それどころか小さな笑みさえ浮かべ、揺れる足音を通路の壁に響かせた。

 

 

 

 

 

 

薔薇園の魔女。

それは暁美ほむらにとって、それなりに印象深い相手であった。

 

と言っても桁外れの難敵であったり、ハコの魔女のような厄介な特殊能力を持っているという訳ではない。

ただ、毎回どうにも邪魔なのだ。

 

思い返せばいつもそう。

インキュベーターの追跡途中や、まどかを諭している最中など。タイミングの悪い時にばかり現れる。

 

――そして今回もまた、志筑仁美を巻き込むという傍迷惑な事をしでかす始末。

 

やはり、狙って喧嘩を売って来ているのでは無いのか。

魔女というものなど元々迷惑の塊のような存在だと分かってはいるが、そう疑わざるを得ないほむらであった。

 

 

「チッ……!」

 

 

ビューン、という間の抜けた銃声に、舌打ちが混じる。

同時、レーザーに貫かれた髭毛玉――薔薇園の魔女の使い魔が無残に弾け、綿埃として散らかった。

 

しかし、それも周囲にひしめく一体に過ぎない。

新たに補充された個体がすぐにその穴を埋め、構えた剪定鋏をほむらへ向ける。

 

 

(……キリが無いわね。一度、仕切り直したい所だけど――)

 

 

ちらと、脇に抱えた仁美を見る。

 

この薔薇園の魔女の結界に呑まれた際、ほむら共々使い魔の波に流された彼女は、気を失ったまま未だ覚醒の様子を見せてはいない。

 

正直なところ文字通りのお荷物であったが、これだけの敵数だ。

邪魔だからと言って何処かに放置すれば、目を離した隙に群がられるのは目に見えている。

かといって見捨てられる筈も無く、ほむらは仁美を守り続けながらの戦いを強いられていた。

 

 

(せめて、起きて歩いてくれれば――いえ、それはそれで邪魔か)

 

 

目を覚まし、混乱する仁美を宥めている余裕など無い。

ならば、このまま大人しく気絶していてくれた方が幾らかマシか。そう思い直しつつ、ほむらはエネルギー切れを起こした銃から手を放す。

 

当然、使い魔達はそれを好機と飛び掛かり――その鋏の切っ先がほむらへ届くより先に、自由になった手が盾へと触れた。

 

カシャン。小さな音に共に世界が色あせ、時が止まる。

そうしてほむら達以外の全てが停止した中、宙に止まる銃を回収。続いて盾よりピンの抜かれた爆弾を落とし、集る使い魔の輪から離脱した。

 

 

「いちいち手間ね……!」

 

 

仁美を抱え直し、魔法を解除。

途端巻き起こる爆発と使い魔達の断末魔を背に、ほむらは結界内を駆け抜ける。

 

薔薇園の魔女を仕留めに行く気は無かった。

片腕が塞がったままでは、被る行動制限は多い。せめて仁美を安全な場所まで送り届けるまでは、攻勢に出る事は難しいだろう。

 

幸い、結界内の構造はこれまでの時間軸で多少なりとも把握している。

ひとまず外界に脱出するべく、外界と繋がる場所へと急ぎ向かい、

 

 

「――っ、!?」

 

 

――突然、足元の土が弾け飛ぶ。

見れば地面から茨の蔓が飛び出し、ほむらの身を捕らえようと伸びていた。

 

 

(っ、この――)

 

 

瞬時に時を止めようとするも、仁美の身体に阻まれ僅かに遅れ。その隙に足首に巻き付いた蔓がしなりを上げ、ほむらの身体を振り回す。

 

咄嗟に仁美を放さないよう抱きしめるが、それにより碌な抵抗も出来ず。

暫く遠心力に耐えていると、やがてあらぬ方向へと放り投げられ、建造物に激突。強く背中を打ちつけた。

 

 

「っが、は……!」

 

「っ、ぅ……、……」

 

 

ほんの一瞬、息が止まった。

 

しかしその甲斐あってか仁美に怪我は負わせず、彼女を抱きしめたままどうにか着地。

痛みを堪え顔を上げれば、そこにはまたも使い魔達の群れがあり、剪定鋏を擦り鳴らす音が幾重にも響いていた。

 

 

(油断……いえ、判断ミスか)

 

 

ほむらは小さく溜息を吐くと、盾に触れた。

今度は使い魔など無視して、時を止めたまま突っ走る。仁美を抱える腕に力を籠め、再び盾の機構を作動させ――。

 

 

「――彼女を守って!」

 

「!」

 

 

突然轟いたその声に、反射的に身体が動いた。

仁美を庇うように抱え込み――その直後、後方より飛来した無数の魔力弾が使い魔達に降り注ぐ。

 

 

「く……!」

 

 

轟音が連続し、土塊が高く舞い上がり。吹き荒ぶ砂利と衝撃波が身を叩く中、必死に身を伏せ耐え忍ぶ。

 

一体何が起こった……などと、今更考えるまでも無い。

飛んで来た使い魔のヒゲを盾で弾きつつ、ほむらは苦々しく顔を歪めた。

 

 

「粗方、片づいたみたいね」

 

 

そうして立ち込める土煙が収まる気配を見せた頃。

穴だらけの地面に、一人の少女が降り立った。

 

黄色を基調とした衣装に、橙色のソウルジェムが目立つ髪飾り。

ほむらにとってこれ以上なく見慣れた姿をした彼女は、仁美を抱えるほむらを静かに見据える。

 

 

「初めまして……で、いいのかしら。見知らぬ魔法少女さん?」

 

 

少女――巴マミは、未だ煙の燻るマスケット銃を杖と突きつつ、薄く笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

(本当に、タイミングの悪い……!)

 

 

やはり、今夜もパトロールは行われていたという事だろう。

 

こうなる予想はしなかった訳では無いが、あまりに早い到着に焦りが募る。

努めて平静を装いつつ顔を上げれば、髪と同じ色の瞳と目が合った。

 

 

「……見滝原の魔法少女ね。一応、感謝しておくわ」

 

「流石に一般の人が居るのに見過ごす事は出来ないもの。……その子、怪我は?」

 

「無事よ。擦り傷くらいは負っているでしょうけど」

 

 

空気は張りつめていたが、マミから敵意の類は感じられなかった。

テリトリーへの侵入者に対し随分と柔らかい反応だが、おそらくは仁美を守っていたが故だろう。

 

魔法少女としてこれ以上ない正道に立つマミにとって、人助けは何よりも優先されるものである。

そんな彼女に、仁美を守る姿はどう映ったか。未だリボンで拘束されていない事が、その答えを示していた。

 

 

(……不幸中の幸い、なのかしら?)

 

 

望まぬ邂逅ではあったが、最悪からは遠い。

ほむらは殊勝な態度を心掛け、意識して仁美を気にする素振りを見せておく。

 

 

「……見滝原の管理者として、私に色々と言いたい事があるのは分かっているわ。けど――」

 

「ええ、まずは魔女をどうにかしましょうか」

 

 

マミがそう言い終えた直後、幾つもの銃声が重なった。

同時にほむらの黒髪が宙に浮き、背後で使い魔の悲鳴が響く。正確無比なマミの射撃が、忍び寄っていた使い魔を撃ち抜いたのだ。

 

 

「戦闘は私が担当するわ。あなたはその子の方をお願いできるかしら」

 

「……このまま討伐に付き合わせるつもり?」

 

「ごめんなさいね。流石に、あなたから目を離したく無いもの」

 

 

そう言ってマミは僅かに眉を下げるが、妥当な判断ではあった。

むしろこの場に縫い留められないだけありがたい。ほむらは仁美を背負い上げると、颯爽と歩き出した彼女の後に続き――目前を過る薔薇の花弁に、足を止めた。

 

 

「…………」

 

 

ひらりひらりと舞い落ちるそれらを辿れば、少し離れた場所に鉄柵で囲まれた花畑が見えた。

おそらく、先程の銃撃が幾つか着弾したのだろう。柵は見事に歪み切り、内側に植えられていた薔薇の花は土と混ぜられ、無残な姿を見せている。

 

それを視認した瞬間、ほむらはマミの服裾を摘まみ引き留めていた。

 

 

「待って。あまり離れないで」

 

「……? どうし――、っ」

 

 

静かに仁美を横たえるほむらにマミは怪訝な表情をしたが、それもすぐに理解へと変わった。

周囲の空間が歪み、景色が引き絞られていく。魔女が何らかの行動を始めたのだ。

 

 

「……鼻が利くのね」

 

「この魔女、あちこちにある薔薇を大切にしているようだから。それが壊されたとなれば、怒って何かしてくると思ったのよ」

 

 

無論、予測では無く経験則である。

 

徐々に魔女の反応が大きくなる中、マミはマスケット銃を両手に構え、ほむらは盾に手を添える。

そうして空間の歪みが限界まで大きくなった瞬間、捩じれた景色を引き裂き異形の巨体が現れた。

 

 

「嘛瘰! ワ埀死ノ嘛瘰――!!」

 

 

蝶の羽根と触手の生えた臓物のような身体に、無数の薔薇が浮いたヘドロ状の頭部。

一目でおぞましきものと判断できるであろうそれは、激昂を隠す事なく激しい唸りを上げている。

 

薔薇園の魔女、その形貌だ。

 

 

「懿吽畆ヨ廐楙!!!!」

 

 

眼球の無いその視線がほむら達を捉えた瞬間、無数の触手が空を裂いた。

呼応するようにどこからか現れた使い魔達も群れを成し、庭を踏み荒らす無礼者を仕留める為に襲い来る。

 

――だがそれは、魔女にとって致命的なまでの悪手であった。

 

 

「下がって! あなたはその子を――」

 

 

マミがマスケット銃を振り上げた瞬間、全ての時間が停止する。

それを成したほむらは焦る事も無く、盾より取り出したレーザー銃を薔薇園の魔女へと向けた。

 

 

(自分から来てくれるなんて、ラッキーね)

 

 

こうなれば、守勢に回る必要も無い。

呟きつつ、使い魔から触手まで手当たり次第に光線を発射。そして最後に頭部を狙い「…………」少し考え、羽根を撃つ。

 

 

「――守って、っ!?」

 

「!? 圍ギ!? 僞ァ婀婀ァ蛙!?!?!?」

 

 

カシャンと時の流れが戻れば、途端に全ての触手と使い魔が弾け飛んだ。

同時に蝶の羽根にも無数の穴が穿たれ、薔薇園の魔女は堪らず墜落。真下にあった薔薇の花壇を自身の肉で押し潰し、悲痛な叫びを轟かせる。

 

 

「これ、あなたが……?」

 

「せめてものお手伝いよ。見滝原の魔法少女さん」

 

 

つまりは、マミの顔を立てた形だ。

言外にそれを読み取ったマミは小さく苦笑。すぐにリボンで大砲を作り出し、魔力を注ぐ。

 

 

「――ティロ・フィナーレ!!」

 

 

劫。

落ちた撃鉄が火花を散らし、放たれた特大の魔力弾が空を割る。

 

その先にある薔薇園の魔女を守るものは何も無い。

地に伏せ、藻掻き。迫り来る破滅の光をただ見つめるしか無く――。

 

――薔薇園の魔女は、ひしゃげた薔薇と共に呆気なくその命を散らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

空間が揺らぎ、街並みが元の姿を取り戻す。

 

外界はバス停の事故で騒ぎになっていたらしく、ほむら達の出現に気付く者は居なかった。

二人はこれ幸いとすぐに喧騒から遠ざかり、人気の無い場所へと移動する。言葉は無くとも、行うべき事は互いに理解していたのだ。

 

 

「――巴マミよ。あなたは?」

 

 

口火を切ったのは、マミの方だった。

 

油断なくほむらを見つめているものの、刺々しさはやはり無い。

ほむらはそれに安堵の息を吐き、改めてマミへと向き直る。

 

 

「……暁美ほむら。最近この街に越して来たのだけど……ごめんなさい、魔法少女としての話は機会を改めて貰ってもいいかしら」

 

 

申し訳ない表情を作りつつ、仁美に目を向け背負い直す。

あれだけの戦闘があったにもかかわらず、彼女は未だ気絶したままだ。マミも特に渋る事も無く、微笑みを一つ。

 

 

「ええ。もう遅いし、その辺りに放っておく訳にもいかないものね。警察の場所は……」

 

「平気よ。彼女とはクラスメイトだから、直接家まで送っていくわ。……それとも、あなたが連れて行く?」

 

「……いいえ。彼女を守ったのはあなただもの、最後まで任せるわ」

 

 

そうして互いの連絡先を交換し、翌日に再び機会を設ける事を約束する。

 

口約束ではあったが、既にほむらは魔法少女の装いを解き、その身に纏う制服を晒していた。

見滝原中学校、女子制服――マミが普段纏っているものと同じもの。

同じ学校の生徒であると分かった以上、無理に追うまでも無い。魔力パターンも把握しており、逃げられる事はまず無いとマミは確信していた。

 

 

「それじゃあ、また明日。学校でも会えるかもしれないわね」

 

「……そうね」

 

 

テレパシーでの出席確認をされそうだ、と思いつつ。

ほむらは別れの挨拶もそこそこに、足早にマミの前から立ち去って――。

 

 

「――いけない。忘れものよ、暁美さん」

 

「え……?」

 

 

マミはふと思い出したかのように手を打ち、懐から黒い宝石を取り出した。

グリーフシード。見間違えようの無いそれをほむらへ差し出し、にっこりと笑う。

 

 

「……さっきの魔女の? あれは私じゃなく、あなたが……」

 

「そっちじゃなくて、言ったでしょ? ――忘れもの」

 

「――……!」

 

 

僅かに視線が揺れた。

 

グリーフシードをよく見れば、それは薔薇園の魔女の物では無かった。

先日尾行した際に、身代わりとして残した一つ。マミはそれを半ば強引に押し付けると、ほむらが何かを言う前に離れ、端末を握ったままの手を振った。

 

 

「おやすみなさい、暁美さん。その子の事お願いね」

 

「…………」

 

 

マミは最後にそう残し、立ち去った。

ほむらはその背が視界から消えるまで見送ると、そっと手中のグリーフシードへ目を落とす。

 

 

「……釘差しか、お目こぼしか。どちらかしら」

 

「ひぃぃ……さやかさぁん、腕がぁ……」

 

「……はぁ」

 

 

呟きに返った寝言に溜息を吐き、ほむらも仁美の家へと足を向ける。

 

魔女との戦闘で時間をかけすぎた。早く送り届けなければ、警察を呼ばれてしまうかもしれない。

両親からの連絡か、仁美のポケットから響き始めた端末の振動音に、ほむらの歩みも自然と早まり、

 

 

「……?」

 

 

――ふと、振り返り。先程のマミの姿を思い出し、首を傾げた。

 

しかしすぐに頭を振ると、今度こそ振り返る事無く帰路に就く。

 

星の少ない夜空の下。

バス停に集うサイレンの音が、いつまでも木霊していた。

 

 




『ウ・ホンフー』
魔法を使いこなすべく色々頑張っている。さあ、練習、練習!
大量の魔法少女が居る神浜で結構な人数を練習台にしているが、デス・マスでいい感じにしているので騒ぎにはなっていないようだ。
超能力で魔法を動かしている形の為、無理がすんごい。しかしソウルジェムが無いため魔女化は起こらず、魔法の暴走も無い。
現状唯一の超能力と魔法を両立できる存在である。



『梓みふゆ』
ホンフーにお願いという名の脅迫をされ、神浜の魔法少女を集めさせられている。
罪悪感が凄まじく、ソウルジェムがみるみる濁る。しかしその分のグリーフシードはきちんと報酬に上乗せされるそうな。
なお、ホンフーは彼女の魔法も習得しようとしたが、『夢の中で自由になりたい』という捉えどころのない願いであったため後回しにしたようだ。



『白衣の魔法少女』
神浜中央区代表のベテラン。固有魔法は科学爆発。
イケメンが会いたがっていると聞きホイホイやって来て酷い目に遭ったが、みふゆの魔法で全てを忘れ、首を傾げつつも日常へと戻って行ったようだ。
神浜の魔法少女の中で一番好きです。



『暁美ほむら』
マミとの接触に慎重になっていたのに、魔女のせいでエンカウントしてしまい凄く困った。
結果的には何とか穏便に纏まりホッとするが、雫の事を考えると胃が痛い。
仁美には結構な苦労をかけられたものの、雫の情報やマミへの第一印象ブーストなど、迷惑以上に役立ってくれたので好感度は上昇。
彼女の両親にはバス停で待ってる内に寝てしまったと説明し、お稽古に疲れている事を匂わせてあげたようだ。



『志筑仁美』
色々大変な目に遭った一般お嬢様。夢でマギレコ13話を視聴していた。
実はほむらが使った爆弾の音で一回目が覚めたのだが、その後すぐ蔓に投げ飛ばされたため再び気を失った。目が覚めたら全部忘れた。
後日、ほむらの言葉を受けた両親がお稽古を減らしてくれて喜んだそうな。



『薔薇園の魔女』
まどマギ界の一面ボス的な魔女。
結界内の薔薇を何よりも大切にしており、それを踏み荒らす者は誰であろうと許さない。
自分から魔法少女に喧嘩を売っては、あっさりと倒される姿が各種媒体で散見される。
とはいえ、マミに一撃入れられるあたり結構逞しいと思われる。



パワプロアプリでパワポケコラボですってよ、奥さん!
毎回遅くてゴメンね。まったりお待ち頂けると助かります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。