超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

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11´話 見捨てるの、凄く嫌な気分

鹿目まどかは、それなりに社交的な少女である。

 

幼馴染のさやかの背に隠れている事が多く、控えめな面は目立つが、他者との交流を避けている訳では無い。

 

楽し気な会話が聞こえれば混ざりに行き、誰かが困っていれば手を差し伸べる。

そのような彼女を嫌う者は居らず、クラスメイトの殆どと友人関係にあった。

さやかや仁美のように深い絆を結んだ者こそ少ないとはいえ、まどかはごく自然にクラス内に溶け込んでいたのだ。

 

そして、最近クラスに転入した暁美ほむらとも、短い期間で随分と仲を深める事が出来ていた。

殊更に相性が良かったのだろう。まどかは、彼女とならばやがて深い絆を結べるとも思っている――のだが。

 

 

(……どうしよう)

 

 

朝の教室。一時限目の始まる少し前。

胸元のアクセサリーを指で遊びつつ、まどかは物憂げな溜息を吐いた。

 

その原因は、まさにそのほむらの件。まどかは現在、彼女に対してある疑惑を持っていた。

 

 

(ほむらちゃんって、魔法少女なのかな……?)

 

 

――つい昨日。まどかは何の前触れも無く、非日常の一幕を垣間見た。

 

魔法、魔女、使い魔――。

渦中からは遠い浅瀬での邂逅であれど、それらの存在はまどかに大きな衝撃を齎し、記憶に深く焼き付いている。

 

そしてその中で出会った、保澄雫という魔法少女。

使い魔の凶刃から守ってくれた彼女は、己を魔法関係者だと疑っていたような気配があった。

 

その理由はおそらく、ほむらが作ったというこの『かっこいい』アクセサリーなのだろう。

これに注がれた雫の視線を思い出しつつ、まどかは金属の表面に刻まれた魔法陣をそっと撫でる。

 

 

(……聞いていい、のかなぁ)

 

 

ストレートに「あなたは魔法少女なの?」と聞くのは流石にちょっと……という羞恥心はともかく。

もし本当にほむらが魔法少女であるのなら、無理に問い質さず打ち明けてくれるのを待つべきではないのか。

 

魔法を秘密にしている事には、そうするだけの理由があるという事だろう

そしてそれは、このアクセサリーを渡された理由や、雫が別れ際に残した忠告に繋がっている気がしなくもない。進んで聞くには怖くもあった。

 

 

(うぅ……今日、普通に挨拶できるかな……)

 

 

迷い、好奇心、不安、期待。

様々な感情が入り混じり、どうにも落ち着かない。

まどかは未だ空席のほむらの机を眺め、きゅっと縮まる胃を抑え。

 

 

「……ごきげんよう。そんな難しい顔をして、どうなさいましたの、まどかさん」

 

「ひゃ」

 

 

突然背後から声をかけられ、肩が跳ねる。

 

振り返れば、そこには心配そうに眉を下げた志筑仁美の姿があった。

どうやら、無意識の内に渋面となっていたらしい。妙な悲鳴を上げてしまった照れ隠しも兼ね、愛想笑いで誤魔化した。

 

 

「お、おはよう、仁美ちゃん。えっと、少し眠くて」

 

「あら、夜更かしでも? ……悩み事でしたら、相談に乗りますけれど」

 

「ううん、そういうのじゃないから大丈夫。電話してたら遅くなっちゃっただけだから」

 

 

一応、嘘では無い。

昨夜もさやかとの日課である通話は行っており、それなりに遅くまで話し込んでいたのは事実である。

 

……その際、仁美と同じような心配をされた訳だが、そんなに自分は感情が表に出やすいのだろうか。気になるまどかだったが、さておき。

 

 

「それなら良いのですが……電話というのは、さやかさんと?」

 

「……うん。あっちでも元気にしてるみたいだけど……仁美ちゃんとも、話したがってたよ」

 

「…………」

 

 

仁美の感情を考えれば、酷い事を言っているのだろうとは分かっている。

しかしまどかにとっては、二人ともが大切な親友だ。強引にならない程度に、仲直りのきっかけは作って行きたかった。

 

仁美にもその気持ちは伝わっているのだろう。

彼女は軽く目を伏せた後、何故かちらりとほむらの席を見つめ――小さく笑みを浮かべた。

 

 

「……そうですわね。私も、そろそろお二人に混ぜていただこうかしら」

 

「! う、うんっ、さやかちゃんも喜ぶよ!」

 

 

一瞬呆けたまどかだったが、すぐに我を取り戻し。喜び勇んで何度も頷く。

 

少しは気持ちの整理が付いたのだろうか。

何にせよ、また皆揃って談笑できる。誰よりもそれを望んでいたまどかは、穏やかな笑みを浮かべて――。

 

 

「……私だって、修羅場の一つくらいはこさえて見せますわ、ほむらさん」

 

「仁美ちゃん?」

 

 

その小さな呟きに、一瞬で不安感に塗り替わる。

 

仁美はすぐに「冗談です」と悪戯に笑ったものの、まどかとしては堪ったものでは無い。

一体ほむらと仁美に何があったというのか。先程とは別の意味で縮こまる胃を抑えつつ、まどかは彼女の登校を待った。

 

……しかし、ほむらが教室に現れる事は無く。

まどかが視線を注ぎ続けた机は、ホームルームが始まっても空席のままだった。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 

放課後の家路に、溜息が落ちる。

 

結局、この日ほむらは学校に来なかった。

魔法に関しての問いかけを出来なかった消化不良と、しなくて済んだ安堵。

一日中抱え続けた複雑な心境に、心のみならず身体まで疲弊してしまったようだ。ずっしりとした倦怠感がのしかかり、足裏が地面に擦れる。

 

 

(何かあったのかな、ほむらちゃん)

 

 

担任の早乙女からの報せでは、入院していた病院に何某かの用があったらしいが――何となく、まどかはそれを嘘だと感じた。

 

一応メッセージを送ってみたものの、返って来たのは早乙女から聞いた理由と、心配への礼文のみ。

問い詰めたくはあったが、さりとて嘘だという確信がある訳でも無く。まどかは素直に引き下がらざるを得なかった。

魔法に関しての問いかけなど、以ての外だ。

 

 

(……どうするか、今夜さやかちゃん達に相談してみようかな)

 

 

ふと、思い立つ。

 

せっかく、また三人で話せる事となったのだ。

無論、魔法の事は伏せるつもりであるものの。疑問を聞き方という事で、何かしら良い方法を求めてみるのも良いかもしれない。

 

……そう、修羅場云々を防ぐ意味も込めて。まどかの目が、自然と遠いものとなる。

 

 

(まぁ、せめてこのアクセサリーについては、ちゃんと聞いておきたいもんね……)

 

 

悪いもので無いとは信じている。

だがそれはそれとして。アクセサリーがどのような物なのか、非常に興味があった。

 

雫の反応を思い出す限り、刻まれている魔法陣に秘密がありそうな気がするのだが、さて。

 

 

「う~ん……やっぱり、よく分かんないや」

 

 

取り出して眺めてみるも、当然まどかに読み取れるものは無し。

何となく不思議な気配を感じるような、気のせいであるような。

まどかは繊細に絡み合った図形に改めて感嘆しつつ、しげしげと観察し――。

 

 

「……?」

 

 

そうする内、魔法陣の一つが淡く光った。ような気がした。

 

それはほんの一瞬の出来事であり、日光の反射による見間違いともとれるもの。

まどかは首を傾げつつも、アクセサリーを胸元へと戻す。

 

 

「――あぅっ!?」

 

 

――瞬間、強い衝撃が首筋に走った。

 

同時に静電気が弾けたような痛みが肌を貫き、まどかは反射的に首筋を抑え、しゃがみ込む。

 

 

「いったぁ~……!」

 

 

虫でもぶつかり、肌が裂けたのだろうか。

恐る恐ると首筋に当てていた掌を見ると、そこには血や虫の死骸といったものは無く――代わりに、見慣れぬ『何か』が張り付いていた。

 

 

「……えっ、と?」

 

 

紋章。そうとしか表現できないものだった。

 

民家がモチーフとなっているらしきそれは、物質とも気体ともつかず。

まどかの手中でふわふわと揺れている――。

 

 

「な、なにこれ……?」

 

 

それは『魔女の口づけ』と呼ばれるものであったが、当然まどかは知る由も無い。

どう反応するべきかも迷い、頭が困惑と混乱に支配され、

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

胸元から、強烈な光が迸る。

 

それはまどかの手にあった口づけを瞬時に焼き尽くしたが、なお収まらず。

慌てて胸元を開ければ、その光はアクセサリーの魔法陣から放たれていた。

 

 

(やっぱり、ほむらちゃんは――、っ)

 

 

確信を得ると同時、またも何かが弾ける音がした。

咄嗟に目を向ければすぐ傍に口づけの残骸が漂っており、まどかの見ている前で溶けるように掻き消えた。

 

 

(――私のこと、守ってくれてる……?)

 

 

 

この意味不明な状況において、それはたった一つの縋るべきものに見え。

まどかはアクセサリーを強く握り込むと、断続的に響く衝撃音に強く目を閉じ、身を守るようにしゃがみ込む。

 

数秒か、数分か。渦巻く混乱と恐怖にそれすらも分からないまま、まどかはただ耐え続け――やがて、ぴたりと音が止まる。

 

 

(……お、終わった……?)

 

 

目を閉じたまま耳を澄ませるが、異常は聞こえず。

まどかは震える呼吸を整えつつ、恐る恐ると涙に濡れた瞳を開き……思わず呆け、絶句した。

 

目に映る景色が、全く別の物へと塗り替わっていたからだ。

 

 

「え? えっ? え……!?」

 

 

見慣れた通学路。その道が消え、色とりどりの石畳となっていた。

住宅や塀が消え失せ、美しき並木となっていた。

空が砕け、斑のステンドグラスとなっていた――。

 

……単なる移動では無い。場所どころか、世界その物が変わっている。

それを確信した時、まどかの脳裏に昨日聞いた雫の言葉が蘇った。即ち、

 

 

「――魔女……使い魔……?」

 

 

――己は今、それらに見初められている。

ようやっと状況を理解したまどかの背後で、何かが近付く音がした。

 

 

 

 

 

 

強めの風が、桜の花弁を舞い上げる。

砂埃と共に空を流れるそれは、くるくると踊るように輪を描き。何処かへ、景色の果てへと消え去ってゆく。

 

 

「…………」

 

 

保澄雫はそんな光景をぼんやりと眺め、座る鉄塔の縁から投げ出した足を遊ばせる。

 

眼下に見える地面は遠く、落ちればただでは済まないだろう。

しかし魔法少女である以上はその心配は無く、むしろ良い景色が観られると好むものは多かった。

 

そして、雫もその一人。特に彼女は空間結合魔法を持つ事もあり、そのフットワークも軽い。

気分転換や思考に耽る際には、よく街を見下ろせる場所へと跳んでいた。

 

 

「変わった形のビル、多いな……」

 

 

雫の目に映る見滝原の街並は、彼女の住む神浜よりも大分発展したものだ。

開発計画が盛んなのだろう。海外の大都市や、100万ドルの夜景すらも既に拝見した身ではあったが、その個性的な街並みには素直な感嘆を覚えていた。

 

……しかし反面、雫の表情には小さくない陰りが揺れている。

知っているのだ。この景色は、遠からず瓦礫の山と変わってしまう。

 

 

(ワルプルギスの、夜……)

 

 

遭遇し生き残った者は居らず、地図に残った街も無い。

正しく災厄の化身とも言えるかの大魔女が、見滝原へと襲来する――。

 

それを知らされたのは、昨日にあった巴マミとの会話。

この街に住むというもう一人の魔法少女――暁美ほむらなる少女について、説明を受けている場での事だった。

 

 

(来るの、三週間くらい後って話だけど……)

 

 

正直なところ、雫も完全に信じ切れてはいない。

しかし見滝原の管理者であるマミが信じる姿勢である以上、それに値する根拠や理由があるのだろう。

様々な意味で外様である雫に、挟める口は無かった。

 

 

(……どうしよう)

 

 

そしてその件について、マミは雫に何も望まなかった。

 

戦いへの協力要請は無く、反対に逃走を促す事も無く。

淡々と事実だけを伝え、判断を雫の意思に預けていた。

 

――本音を言えば、関わりたくなど無かった。

 

そもそも雫はあくまで部外者に過ぎず、他所での大事に首を突っ込む必要は無いのだ。

 

だが何よりも、魔女との戦いから距離を置きたいからこそ、雫はジャジメントにも協力している。

ただの魔女でさえ本当は嫌なのに、何故伝説の大魔女にまで立ち向かわねばならない。

 

協力の求めが無いのならば、このまま見滝原を離れるべきだ。

非難される謂れも無く、それが最も無難な選択肢である――筈、なのだが。

 

 

(見捨てるの、凄く嫌な気分……)

 

 

ワルプルギスの夜が伝え聞くそのままの存在ならば、きっと多くの被害が出るだろう。

もしかすると、マミさえも命を落とすかもしれない。

 

ならば魔法少女として、そして友人として、協力を申し出るべきではないのか。

見滝原を守る為に行動するべきではないのか。

 

知らぬ振りでこの街を去るのが一番だと分かっているのに、そんな迷いが心を苛む。

果ては、こうして罪悪感任せに見滝原を訪れて、意味も無くその風景を眺めている――。

 

 

「……はぁ」

 

 

中途半端。進むには気が引け、戻るには気が咎める。

こんな時でさえも『己の居場所』を定められない自分に、嫌気が差す。

 

 

(……あ。そういえば、まどかさんの事忘れてた……)

 

 

考える内にふと気づき、頭を抱えた。

 

ワルプルギスの夜の話に気を取られ、まどかに魔法の存在を教えた事の報告をすっかり忘れていた。

ほむらが彼女を気にかけているという推測が合っていれば、今頃トラブルとなっていてもおかしくはない。

 

 

「会ったら、ちゃんと謝らなきゃ……」

 

 

友人への魔法バレは王道であるが、無関係の者が行うのは無粋でしかないのである。

 

もう遅いだろうが、今からでもマミへ連絡しておくべきだろう。

溜息を重ね、雫は取り出した端末からマミの番号を呼び出して――。

 

 

「――っ」

 

 

瞬間、魔力反応を察知した。淀み穢れた魔女のものだ。

 

すぐさまその方向に視線を向ければ、そこは住宅街に程近い一角のようだった。

場所的に、既に何人かの民間人が巻き込まれているだろう。雫は魔法少女の装いを纏いつつ、今まさにマミの名前を映した端末を耳に当てた。

 

 

「……くっ」

 

 

しかし、出ない。

繰り返すコール音の最中にテレパシーでの連絡も試みたが、そちらも反応は無し。

 

雫は出そうになった舌打ちを噛み殺し、すぐに己の居る空間を切り取った。

その結合先は、当然魔女の反応があった場所だ。

 

 

(巴さんに任せたかったけど……!)

 

 

連絡が付かない以上は仕方が無い。

 

マミが管理するテリトリーは、昨日の内に把握した。

魔女が現れた場所はその範囲内にある筈であり、人命を優先する彼女であれば、先に対処に動いたとしても怒る事は無いだろう。

 

……こういった場面で見ない振りを出来れば、見滝原を見捨てられるようになれるだろうか。

雫はふとそんな事を思いかけ、それこそ見ない振りをした。

 

 

 

 

 

 

その魔女の紋章は、通りに並ぶ建物の狭間でひっそりと輝いていた。

 

雫が軽く魔力を流せば容易く結界は口を開け、周辺の景色を全く別の物へと塗り替える。

既に慣れ切った光景であったが、油断はしない。雫は両手に構えたチャクラムを揺らし、警戒態勢を取っておく。

 

 

(……魔女の結界にしては、まともね)

 

 

ステンドグラスの空に、綺麗に並んだ石畳。

その横には鮮やかな並木道と植え込みが広がり、空の異常を除けばよく整備された自然公園のようにも見えた。

 

魔女が形作る世界とは、大抵が見る者を不安にさせる不気味な世界だ。

しかしこの結界においては、そんなおどろおどろしい空気は少なく、むしろ美しいとも言える様相を呈している。

 

これが魔女の趣味なのか、それとも餌を油断させる為の擬態なのか。

気にはなったが、悪趣味でないならそれに越した事は無いと切り替える。

 

 

(使い魔はまだ来ない。侵入にはもう気付かれてると思うけど……)

 

 

ひとまずは敵襲が無い事を確信し、警戒はそのままに石畳を蹴った。

 

魔力の反応から、大まかな魔女の位置は分かっている。

とはいえ、いきなりその中心部に突貫する訳にもいかない。安全策として小刻みなテレポートを繰り返し、確実に魔女への距離を詰めて行く――と。

 

 

「……?」

 

 

結界の奥へと進む内、風景のあちこちに妙な物が置かれている事に気が付いた。

 

それはこの美しい景色には不釣り合いの工作物。

植え込みの合間に隠れ建つ、箱作りの小さな家――いわゆるダンボールハウスである。

 

かなり精巧に作られたその家々は、空間結合で移動する度必ず視界のどこかに引っ掛かる。

所詮は魔女の世界。意味不明なシンボルはあって当然とはいえ、何度も目に付けば徐々に注意は向いて行く。

 

 

(……使い魔の家、とか?)

 

 

家の中にみっしりと詰まる小さな化物を想像し、鳥肌が立った。

 

このまま通り過ぎ、後から奇襲されてもつまらない。

雫は一度足を止めると、慎重にダンボールハウスの一つを覗き込み――薄暗い部屋の中に座り込む男性を見つけ、目を見開いた。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

あかね……あかね……あかね……

 

 

咄嗟に駆け寄り呼びかけるが、男は虚ろな目で虚空を見つめ、ただ何事かを呟き続けるだけ。

その首筋には家をモチーフとした口づけが刻まれており、魔女に捕まった被害者である事が見て取れた。

 

 

(幻覚か何かを見せられてる? 怪我は……無いみたいだけど)

 

 

だが、何故このような場所に――と、そこまで考え、嫌な予感が脳裏を過る。

 

 

(これ、もしかして今までにあったダンボールハウスにも……?)

 

 

流石にその全てにとは思いたくは無いが、可能性は高い。

雫はこれまで見かけたダンボールハウスの数を思い出し、顔を顰めた。

 

 

(……全員を探し出して助けるとなると、時間がかかりすぎる。今は魔女に集中した方が良いか)

 

 

魔女を討伐し結界が消え去れば、捕らえられた人々も自動的に解放される。

結果的に放置してしまう事になるのが気がかりだが、この男性を見る限り、すぐに危害を加えるタイプの魔女では無いのだろう。時間的な猶予はある筈だ。

 

雫はそっと男性から離れると、一刻も早く魔女の下へと向かうべく駆け出して――。

 

 

「っ!?」

 

 

――バタン。

突然、ダンボールハウスの壁が跳ね起き、雫の進路を塞いだ。

 

 

「なっ――!」

 

 

反射的にチャクラムを振り、ダンボールを切り裂いた。

しかし開いた壁から何かが侵入し、チャクラムを振り抜いたままの左腕へと飛びついた。

 

緑の髪が目立つ、無機質な人形。おそらく、この結界の魔女の使い魔だ。

 

 

「こんな時に……っ!?」

 

 

呟いた直後、同形の使い魔達が津波の如く押し寄せた。

雫は咄嗟に背後の男性を掴むと、空間を切り繋ぎこの場から脱出。並木近くの石畳へと着地する。

 

その際、同時に手を離された男性が鈍い音を立てて転がるが――心を砕いている暇は無い。

空いた右腕ですぐに使い魔を掴み、引き剥がそうと力を籠める。

 

 

「このっ、離れて――、っ!?」

 

 

――力任せに引っ張られた人形の首が、雫を向いた。

 

緑髪の間から見えるその顔は、子供の落書きのような纏まりの無い物だった。

どれが鼻か、どれが口かも分からず、ただ黒い線の集合体にも見える。

 

……その中にあって、ひとつ。

瞳と分かる真っ赤に塗られた一対の点が、じっと雫を見つめていた。

 

 

「――――」

 

 

その不気味な赤はまるで血の色のようにも思え、雫の動きがほんの一瞬固まった。

使い魔はそれを逃す事なく、よりしっかりと目を合わせ。

 

 

「――オ寐ぇ做ん」

 

 

――赤い瞳を細めた、そのおぞましい笑みを見た瞬間。

 

魔法を受けたと自覚する事さえ許されず。雫の意識は、深い深い闇の中へと落ちていた。

 

 




『鹿目まどか』
色々とワクワクドキドキしている。現在ちょっとしたピンチ中。
アクセサリーにより魔女からの洗脳を免れ、ほむらを魔法少女と確信。おまけに好感度も上がった。
これからアクセサリーを肌身離さず身につけると決心した。持ち物検査の日はどうしよう……。


『志筑仁美』
まだ失恋を引きずっているが、ほむらの言葉により少しずつ前を向き始めたようだ。
ほむらさんが足掻いているのなら、私も勇気を出してみますわ!!!
ただ、ほむらと会話した夜を思い出そうとすると、何故だか頭痛がするらしい。


『保澄雫』
ワルプルギスの夜の襲来を知り、こちらもこちらで物凄く悩んでいる。
それはもう悩みに悩んで見滝原でぼーっとしていたら、魔女に遭遇しこんな事になってしまった。
最近あやかからの連絡頻度が増え、端末の電池の減りが早い。


『男性』
ごく普通のサラリーマン。帰宅途中に魔女に捕まり、数日間に渡り生気を吸われ続けている。
可愛い妹と過ごす、良い夢を見ていた。


『ダンボールハウス』
いつかどこかでバッドエンドを迎えた少女。その成れの果て。
人を洗脳しては体内に取り込み『家族』にし、その生命力を吸い取っている。
本来であれば死ぬまで搾り取るのだが、その寸前に誰かが被害者を結界外に叩き出している為、結果的に人死にはたった一人に留まっているらしい。
第3話ぶり久々の登場。前回はどっかの時間停止持ちに瞬殺されたが、今回はのびのびとその能力を発揮している。
「あれ? アカネハウスがありません!! 何もかも無くなってます!!」


アカネハウス再建まで凄い期間空いちゃった。

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