超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

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19´話 往こう。願いを、叶えに

――風。

 

 

「…………」

 

 

強い風が、吹いていた。

 

さあさあと、ひゅうひゅうと。

曇天の下。見滝原市の街に吹き付けるそれは街中に並ぶ木々を揺らし、木の葉や桜の花弁を乱雑に舞い上げる。

 

歩けない程ではないが、暴風の域に程近く。

道行く人々も己の頬を叩くそれに身を竦め、時折小さな声も上げている。

 

まるで街全体が何者かの威圧を受けているかのような、落ち着きのない空気――。

高層マンションの屋上に立つ保澄雫は、そんな街の様子を固い表情で見下ろしていた。

 

 

「……はぁ」

 

 

胸に詰まった息を吐き、握る携帯端末に目を移す。

その画面には一つの名前が表示されており、指のかけられた通話ボタンが今か今かと押される時を待ちわびている。

 

雫は風に乱れる髪を抑えつつ、じっとその名を睨み続け――やがて意を決し、通話ボタンを押し込んだ。

 

 

「……っ」

 

 

知らず、息が止まる。繰り返されるコール音が緊張を積む。

しかし決して逃げ出しはせず、端末をゆっくりと耳に当て、

 

『――雫ちゃん!?』

 

「!」

 

 

予想よりも早く繋がった通話に、大きく肩を震わせた。

つい反射的に通話を切りそうになるものの、ぐっと堪え。一呼吸の間で動揺を呑み込み、口を開いた。

 

 

『うぇっ!? な、何でぇ!? 何で雫ちゃんの方から電話してくれて嬉し――じゃない、ええとあのー、そう、ごめんなさいだよねっ!? 何回言ったか自分でも分からないけど、ほんとにごめんなさい! あのダーツの事わざととかじゃなくて、いやそれはそれでダメダメだけど! というかあたしに日本列島ズバーンっと出来るくらいダーツの腕があったら良かったんダーッ! ……あっ、違う、違うよ!? 今のは文章に起こした時に分かる系のダジャレじゃなくて! あたしそういうのは電話じゃなくてちゃんとメッセージでやるしっていうか今はそういう話じゃなくていや謝りたいっていうのはそういうのでえっとあのーそのぬわあああああああああ』

 

「――……」

 

 

……が、その間に怒涛の如く押し寄せた言葉に、閉口する。

 

何とも懐かしい騒がしさ。

雫はどこかホッとしている己に気付き、無意識の内に目を伏せた。

 

 

「……落ち着いてよ。前みたいに、すぐには切らないから」

 

『うぇぇぇ……だって、だってぇぇぇ……』

 

 

――毬子あやか。雫の友人であり、ここ一ヶ月ほど仲違いをしていた少女。

 

雫は謝りたいという彼女の連絡を尽く無視し続けている。そんな状況の中で突然電話がかかってくれば、確かに取り乱しもするだろう。

じわりと罪悪感が滲むものの、気遣うのも違う気がした。

暫くそのまま、あやかのぐずり声をただ聞き続け……そうして落ち着いたタイミングを見計らい、今度こそ口を開いた。

 

 

「――五日後」

 

『ふぇ?』

 

「五日後の夜、会うよ。話とか色々、全部終わったら……その時に」

 

『え? え? 何、どういう事?』

 

 

唐突な提案にあやかは戸惑っている様子だったが、聞こえない振りをして。

雫はもう一度見滝原の街を見下ろし、端末を握る手に力を籠めた。

 

 

「……あやかが私に謝りたいって言うように、私もあやかに言いたい事がある」

 

『うっ、か、覚悟は出来てマス……』

 

「うん――だからそういうの、ちゃんと向き合って伝え合いたいの」

 

 

きっぱりとそう伝えれば、喜びと不安がないまぜになったような吐息が一つ。

そして少しの間沈黙が続き――やがて小さく、『うん』とだけ返った。

 

何故五日後なのか、今では駄目なのか。聞きたい事は多々あっただろう。

しかしあやかはそれらを問いかける事は無く、雫もそれ以上は何も話さず通話を切った。

 

 

「……これで、後戻りなし」

 

 

緊張が解け、力が抜ける。

屋上の手すりにぐったりと肘を突き、大きく息を吐き出した。

 

再び街を見つめるその表情はやはり強張っていたものの、瞳には確かな光が揺らめいており――突然、それが真横に滑る。

 

 

「――誰と話していたのかしら」

 

 

いつの間にか、雫の隣に暁美ほむらが立っていた。

時間停止魔法を使ったのだろう。気配も足音も無い出現にも特に驚く事は無く、雫はその静かな瞳を見つめ返した。

 

 

「……前に言った、私の友達。全部終わったら会おうって話してた」

 

「そう、ならいいわ」

 

 

ジャジメントへの連絡でなければ何でも良いとでも言うように返し、ほむらは雫と同様に街を見下ろす。

否、正確には街では無く、空の向こう側だ。この曇天の奥に居る何者かを捉え、睨んでいる。

 

その正体など、今更聞くまでも無い。吹き付ける風が冷たさを増した気がして、雫は小さく肩をすくめた。

 

 

「……教えた組織のアジト、行って来たの?」

 

「ええ。大漁……とは言えなかったけれど、実入りはあったわ。裏の人達って皆レーザー兵器とかを持っているの?」

 

「たぶん大体は。作れるところは限られてるけど、手に入れる手段は多いみたいだから」

 

「ふぅん……」

 

 

ほむらは生返事を返しつつ、懐から取り出した金属の塊を――とある武装組織から盗み出したばかりの小型レーザートラップを見る。

 

雫とジャジメントの関係が明らかとなってから、ほむらは雫からジャジメントと敵対している武装組織の情報を聞き出していた。

それらはかつてのレジスタンス同様のゴロツキ集団ではあったが、強力なレーザー兵器の類を所持している者達だ。

暴力団や違法宗教団体に盗みへ入るよりも有益である事は間違いなく、ほむらは折を見ては組織のある市外へと足を延ばしていた。

 

 

「……本音を言えば、『TX』のような兵器も手に入れたいけど、それは欲張りなのでしょうね」

 

「知ってるんだ……。ああいうのはジャジメントの関連組織か、そこから強奪できるような大きい勢力しか持ってないから。手を出したらそれなりの騒ぎになるし……ほむらさんの魔法でも、流石に何か気づかれるかもしれない」

 

「――ええ、気を付けるべきね。本当に」

 

 

心底からの後悔と実感の籠った言葉に雫は怪訝な表情をしたが、ほむらはそちらに目も向けず。

そうして揃って無言のまま、暫く風の音だけを聞き続け――その時、二人の端末が同時に震えた。

 

 

「……巴さんから。そろそろ良いって」

 

「ちょうどいいタイミングで帰って来れたみたいね。じゃあ、行きましょうか」

 

 

そう言って屋上の出入口へと向かうほむらに、雫も続く。

 

これから、雫とほむらは下階のマミの部屋に集まる予定となっている。

もっとも、いつものお茶会のような明るいものとは行かないだろう。しかしマミ手作りのお菓子が用意されるのは変わりないらしく、その準備が整うまで待っていたのだ。

 

 

「…………」

 

 

そうして、屋上を去る間際。雫の耳に、哄笑のような音が聞こえた気がした。

 

最後に一度振り返り曇天を見上げるも、目に映るのは分厚い灰色ばかり。

特別なものは何も無く、哄笑の音も聞こえない――。

 

 

「……風の反響、だったらいいのに」

 

 

雫は溜息を風に流すと、今度こそ扉を閉め、先を行くほむらの背を追った。

 

 

 

――見滝原にワルプルギスの夜が襲来するまで、残り五日。

立ち向かうべき魔法少女達は、それぞれの準備を進めていた。

 

 

 

 

 

 

「はい、今日はマスカルポーネのタルトよ。どうぞ召し上がれ」

 

 

マミの部屋。そのリビング。

見るからに手の込んだタルトを手に、部屋の主たる巴マミはにっこりと笑みを浮かべた。

 

 

「わ、凄くおいしそう……!」

 

「ラフランスが安かったから使ってみたの。さ、鹿目さんもどうぞ」

 

 

マミは目を輝かせる鹿目まどかの賛辞に笑みを深め、人数分のタルトを配置する。

ほむら、まどか、雫、そしてマミ自身。それがこの場に集った全員だった。

 

 

「ありがとうございます。何かいつもマミさんにご馳走になってて、申し訳ないなぁ……」

 

「気にしなくていいわよ。私達をダシに自分の食べたい物を作ってるだけだもの、この人」

 

「そっ……んな事は無いわよ? お菓子作りは元々趣味だし、皆が喜んでくれる物をちゃんと考えて……」

 

「巴さん、キッチン借りていい? 実家からコーヒーセット持って来たんだ」

 

 

窓の外とはまるで違う、穏やかな空気。

やがて流れ始めたコーヒーの香りも手伝い、それぞれがリラックスした様子で雑談を楽しんでいた。

 

……とはいえ、それが一時のものであるとは誰しもが分かっていた。

タルトの量が減るにつれ交わす言葉数も減り、四つの皿が空になった時には空気も固く強張ったものとなり。

カチャカチャと、マミが空皿を重ねる音がいやに大きく響く中。まどかの瞳が、ちらりと窓の外に向いた。

 

 

「凄い風……ねぇほむらちゃん、これって、その……」

 

「――ワルプルギスの夜の影響よ。あと五日もしたら、街まで来るわ」

 

 

言い淀みつつの問いかけにしっかりと返され、まどかは言葉に詰まった。

ほむらは口をつけていたコーヒーカップを置き、彼女の視線を受け止める。

 

 

「……こうやってゆっくり出来るのも、これが最後になるでしょうね。この天気の調子だと学校も近く臨時休校になるでしょうし、きっと避難警報も出る」

 

「……やっぱり戦うんだね、その魔女と」

 

「ええ。それが、願いだから」

 

 

力強いその宣言には、覆しようの無い決意があった。

まどかはマミと雫にも目を向けたが、強弱はあれど似たような光を目に宿し、少しの言葉程度で変わる意思では無いとすぐに悟る。

 

 

(……私が、魔法少女だったら――)

 

 

感じる疎外感のままそんな事を思いかけ、止めた。それが望まれていない考えであると、まどかは既に知っている。

そっと、胸元のアクセサリーに手を這わせた。

 

 

「えっと、私に何か手伝える事って、あるかな……?」

 

 

その問いかけに、ほむらは少し眉を寄せ。

しかしアクセサリーを見て表情を戻し、まどかを見つめた。

 

 

「――無事でいて。安全な場所で自分を大切にしてくれれば、それだけで良いわ」

 

「ほむらちゃん……」

 

 

それが心底からまどかの身を案じたが故のものであるとは、まどか自身も分かっていた。

とはいえ彼女の心根が素直に納得してくれず、小さくない罪悪感が沸き上がる。

 

するとその様子を見ていたマミが苦笑し、会話を繋いだ。

 

 

「魔法少女にとって、守るものがあるっていうのは大きいもの。鹿目さんが背中に居てくれるからこそ、私達は頑張れるのだから」

 

「マミさんも……でも……」

 

「……なら、もしもの時に周りの人達を助けてあげて」

 

 

まどかが口籠っていると、今度はどこかきまり悪げな雫の呟きが落ちる。

 

 

「私達がワルプルギスの夜と戦っている間、もしかしたら討ち漏らした使い魔とかが避難所まで行くかもしれない。そしたら……家の魔女の時に私を助けてくれた時みたいに、そのアクセサリーで」

 

「そうね。倒すまでは無理だとしても、身を守る程度の機能は刻んだつもりだわ。その隙に私達を呼んでくれれば、皆助けられる。……それでは、駄目かしら」

 

「……ううん、そんな事ないよ」

 

 

あからさまな気遣いではあったが、その役割はまどかの罪悪感を幾分かは軽くしたようだった。

家の魔女の一件で、雫の助けになれていた事もあったのだろう。表情の陰りは完全には消えなかったものの、まどかはアクセサリーを握り締め、ぎこちなく頷いた。

 

 

「ごめんね、変な事言っちゃって……みんなの事、信じて待ってる」

 

「……ありがとう。あなたの気持ちが付いていてくれるなら、きっと何とかなるわね」

 

「そ、そうかなぁ? ……そうだったら、嬉しいな」

 

 

その応援にまどかの表情が緩み、部屋の空気もほんの少しだけ和らいだ。

魔法少女であろうとそうで無かろうと、彼女の笑顔は周りに力を与えてくれる。同じくホッとした様子のマミ達を横目に見つつ、ほむらは再びコーヒーカップに手を伸ばした。

 

 

(……いっそ、保澄さんに頼んで見滝原外に逃がしてしまうのも手だけれど……)

 

 

これまでの時間軸では、それは悪手に等しいものだった。

予めまどかを別の場所に逃がしたとしても、インキュベーターの干渉を防ぐ事が出来ないからだ。

 

彼らはまどかにワルプルギスの夜に関する情報を与え、巧みに絶望と無力感を煽る。

そして心優しい彼女は、どれだけ忠告しようとも、故郷やそこに住む家族と友人達が救われる事を願ってしまう。最早何度見たかも分からないバッドエンドである。

 

しかし現状においては、そのインキュベーターからの干渉は完全に防がれている。

まどかは何も願えず、魔法少女になる事も無い。彼女の心全てを無視すれば、例えワルプルギスの夜に敵わずとも彼女の命を助ける事は出来るのだ。

 

……けれど。

 

 

(――そうなったら、まどかはきっと笑わなくなる)

 

 

インキュベーターの言葉が無い分、多少はマシな展開になるのだろう。

だが、彼女の心には大切な人と場所を失った悲しみと、そして己が無事である事への罪悪感と悔恨が残り続ける事となる。

 

分かるのだ。鹿目まどかとはそういう少女であり、だからこそほむらも惹かれたのだから。

そして彼女の犠牲を是とする妥協は、今のほむらの視界には無かった。

 

 

(……ねぇ、保澄さん。あなたの魔法、見滝原に住む人達全てを別の場所に移動させる事は可能かしら)

 

(え? 流石にちょっと難しい……っていうか、いきなりどうしたの……?)

 

 

一応テレパシーで訪ねてはみたが、当然ながら返ってくるのは否定の意。

 

やはり、まどかを救うにはワルプルギスの夜を越えねばならない。

ほむらは検討しかけた案を早々に忘れ、生まれかけていた余計な迷いを捨て去った。

 

 

(……ああ、まどかさんのためにって事? みんな一緒に見滝原の外にとか、そういう)

 

(ええ。少し考えてみたけれど、上手くはいかなそうね)

 

 

ほむらの表情から、おおよその考えを読み取ったのだろう。

雫は微笑まし気な視線を送り、続いてまどかに目を向けた。

 

 

(とても優しい子だよね。心の底から私達を心配して、力になりたいって思ってくれてる)

 

(…………)

 

(彼女が――ほむらさんにとっての、居場所なんだね)

 

 

そうだとも、違うとも言えなかった。

ほむらは答えを誤魔化すようにカップを傾け……しかし既に中身が空である事に気付き、テーブルへと戻し置く。

ふと目線を上げれば、いつの間にやら雫の手にコーヒーポットが握られていた。

 

 

「おかわり、いる?」

 

「………………頂くわ」

 

 

溜息交じりに頷けば、嬉しそうな微笑みが返った。

どうしてかいたたまれなくなったほむらは、コーヒーを注ぐ雫から目を逸らし、何やらマミと話し合っているまどかに意識を向ける。

 

 

「――そうだ、鹿目さんはどこに避難するかは決まっているの?」

 

「えっと、確か見滝原小だったと思います。多分、家族みんなで体育館の方に――」

 

 

今回こそ、この終わりの見えない迷宮から彼女を連れ出す事が出来るだろうか。

 

武器の面で言えば、レーザー兵器をはじめオーバースペックの物が幾つかある為、これまでの時間軸よりは充実していると言っていい。

そして最大戦力のマミも存命であり、雫という便利な魔法を持つ協力者も居る。

無論、その程度の利でワルプルギスの夜を打倒できるとは思っていないが――戦力的には決して悪くない状況なのだ。

 

……しかし反対に、大きな不安要素も明確に存在している。

 

 

(佐倉杏子の不在……そして、それを行った者――)

 

 

見滝原から佐倉杏子と美樹さやかを排除した、何者か。ほむらは未だ、その影すら掴めていない。

 

日々警戒しても動きは無く、雫を問い詰めても何一つの情報も無かった。形の見えない不気味さだけが募り続ける。

最早、単なる偶然と済ませたくもあったが――この世界が、そんな陳腐な肩透かしを許してくれる筈が無い。

現実は常に覚悟と予想の上を行く。ほむらはそれを、よく知っていた。

 

 

「…………」

 

 

もし。

 

もしも、姿の見えない何者かが仕掛けて来るとするならば。

それはいつで、何処になる? 己であれば、一体どうする?

 

……そんなもの、考えるまでも無い。

そう、その時その場所となるのは、きっと――。

 

 

「――はい、どうぞ」

 

「っ……」

 

 

目前に差し出されたコーヒーカップに、ほむらの思考が中断された。

 

 

「風、やっぱり強いね……」

 

「…………」

 

 

ざあざあと、びゅうびゅうと。

部屋の外。吹き荒ぶ風は、今もなお勢いを増し続けている。

 

受け取ったカップに目を落とせば、深みのある黒に見慣れた鉄面皮が映り込む。

ほむらにはそれがどこか罅割れているようにも思え、垂らすミルクでかき消した。

 

 

 

 

 

 

「――魔法のコピーには、『認識』『理解』『願い』の三工程が必要である」

 

 

無機質な部屋に、微かな呟きだけが響く。

 

 

「コピーに成功した魔法は、超能力の場合と同程度に劣化する。

ソウルジェムの穢れに値するものは、心身への負荷という形で現れる」

 

 

窓辺にもたれるウ・ホンフーは、一人手中の端末に目を落とし、映し出される文章を読み上げる。

独り言。酷く淡々とした声音のそれは、しかし己への強い読み聞かせでもあった。

 

 

「負荷の大小の制御は不可能。ただし骨折や発狂などの大きな影響は見られず、あくまで軽度の鬱や末梢神経の痺れなどの小さな範囲に終始している。しかし戦闘行為においては若干の不安要素足り得る為、注意が必須。

 桧垣先生曰く、私のホルモンバランスが女性に近い事も何らかの影響を及ぼしている可能性があり――」

 

 

口にする情報と記憶を何度も擦り合わせ、間違いが無いと確信する作業を繰り返す。

 

過分、或いは完全な杞憂とも言える行為ではあったが、疎かには出来ない。

これから成すべき事の為には、たった一つの勘違い、思い違いすら、絶対に許容してはならないのだから。

 

 

「――『願い』の工程。その条件の成立においては、私個人の情報に依存している部分もある」

 

 

その項目に差し掛かった時、端末を握る力が強まった。

 

 

「即物的な願いに関しては、そのまま叶える事で問題無し。だが他人や立場の関わる願いにおいては、私が同じように認識している別の存在と置き換えられるケースがある」

 

 

例えば『大切な友人に会いたい』という願いの場合、ホンフーが友人と認識しているジオットに会う事でも成就し、『思い出の場所に行きたい』という願いの場合、それはホンフー自身の思い出の場所に行く事でも成就する。

 

特定の個人や場所を指している場合でも、成立の為のハードルは低い。

雫の『ふーにいの所へ連れて行って』という願いが、その墓に運んだ事で成就した扱いとなったのがいい例だ。

 

おそらくは、魔法と願いが紐付けられているためだろう。コピーする魔法の劣化に合わせ、『願い』自体も劣化するのだ。

ホンフーにとっては不安の孕む要素であると同時、ありがたい誤算でもあった。

 

 

「取得に成功した魔法は28種類。

 1、巴マミの『リボンの生成』。願いは『命を助けて』。リボンの耐久力・操作性の難が劣化と見られる。

 2、保澄雫の『空間結合』。願いは――……」

 

 

その後もホンフーは情報の確認を続けていく。

ひとつひとつ、どんな小さな事でも思い出し、確かなものと刻み付け。そして情報全ての精査が終わった時には、随分と時間が過ぎていた。

 

 

「フー……」

 

 

細長い溜息と共に、窓の外を眺める。

 

夕暮れ時を大きく越え、夜闇に変わり始める時間帯。

暗紫色の雲の向こうに残った僅かな紅が疲れ目に沁み、ホンフーは思わず瞼を抑えた。

 

 

(……ここまで、だな)

 

 

魔法のコピーに関しては、時間の許す限りの検証を行いそれなりの形には出来た。

しかし全てを把握し切れた訳では無く、不確定要素も数多い。準備万端、とは口が裂けても言えないだろう。

 

とはいえ、事態はこの上なく順調に推移しているのもまた確か。

先日、雫が勝手な行動を起こそうとした時は多少焦ったものの、『駒』からの連絡により未遂で終わらせられた。

見据える道は、均されている。

 

 

「――往こう。願いを、叶えに」

 

 

ゆっくりと目を開く。

 

先程目を刺した紅は夜に溶け、星々の輝きも雲に遮られ届かない。

孤独な月だけが、ひとつ。闇に沈むまいと抗うように、昏い夜空に浮いていた。

 

 




『保澄雫』
全てが終わった後、あやかと仲直りする約束をした。
ほむらの武器収集に協力している。ジャジメントの任務により世界中を飛び回っている為、敵対組織の情報もそれなりに持っているようだ。
約束通りほむらにコーヒーをふるまえてニッコリ。……あっ、ミルク入れるんだ……ふぅん……。


『暁美ほむら』
武器収集のラストスパート中。自衛隊の迎撃ミサイルは最後に頂くタイプ。
雫の協力の元、レジスタンスのような組織からパワポケ武器を盗み回っている。おそらくウルフェンあたりから相当恨まれてると思われる。
杏子とさやかを田舎に流した誰かをかなり警戒しているようだ。


『巴マミ』
最近お菓子を作る機会が多く、体重計に乗るのが怖いようだ。
先輩なので肩肘張っている部分はあるが、自分より年上の雫が居るのでちょっぴり気は楽。
雫が紅茶を勉強していると聞き、ご馳走になる機会を心待ちにしている。


『鹿目まどか』
自分だけ戦いの輪から外れてしまう事に罪悪感を持っているようだ。
家の魔女との事を思い出し、もしもの時はせめて避難所に居る人達を助けようと決めた。
仁美が仲間外れになっている事も申し訳なく思い、マミに頼んでタルトを包んでもらった……のだが、悪くなる前に渡せる機会来るかなぁと不安がっている。

実は彼女だけ、まだホンフーと会っていない。


『毬子あやか』
電話が切れた後、雫と仲直り出来るかもしれないと物凄く喜んだ。
せっかくなので本当に万人が爆笑するめっちゃ面白い仲直りギャグを考えたが、流石にどうかと思ったので永久封印したようだ。
神浜で雫の帰りをいつまでも待っている。


『ウ・ホンフー』
全ての準備を整えた。
コピーした能力が劣化するように、魔法と紐付けられている魔法少女の願いも劣化するようだ。
最低でも28人以上の魔法少女が、彼の糧となっている。


明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
次回からやっとVSワルプルギス。最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
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