超能力青年 ウ☆ホンフー   作:変わり身

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20´話 最悪の場合なんて、訪れない

『――ましては、非常に稀なケースと言わざるを得ない訳ですね。スーパーセルとは通常三種類に分類される事があるのですが、今回におきましてはそのどれとも――』

 

「ほーん……」

 

 

とある田舎町に居を構える診療所、その一室。

点けっぱなしのテレビから流れるニュースの声に、少女は気のない声を返した。

 

部屋の隅のソファに寝そべり、スナック菓子をぽりぽり齧り。

あからさまに興味の薄い様子ではあったが、しかし視線はテレビ画面から離れない。

妙にちぐはぐな空気が流れていた。

 

 

「……ごっそーさんっと」

 

 

そうする内にやがて菓子が底をつき、少女は菓子の空袋を丸めゴミ箱へと投げ捨てる。

 

が、テレビに気を取られていたせいか目測を誤ったようだ。

若干低く飛んだ箱はテーブル上の『ハピネス』と書かれた薬瓶を倒し、床へと落とす。

 

「おわやべっ」少女は咄嗟にソファから飛び出し、床に叩き付けられる直前でその薬瓶を掬い取る。

幸い蓋はなされており、中身が零れた様子は無い。少女は安堵と共に冷や汗を拭い――ふと視線を感じ顔を上げると、一人の男性がその姿を見下ろしていた。

 

 

「……何をしているんですか、佐倉さん」

 

「げ、センセ」

 

 

桧垣東児。この診療所の主である彼は呆れたような溜息をひとつ。

少女――佐倉杏子に半眼を向けつつ、床に転がる菓子の袋を拾い上げ、ゴミ箱に落とした。

 

 

「この家にある薬品類には、手を触れないよう言っておいた筈ですが。それも、何度も」

 

「……ちょっと手元が狂っちまったんだって。悪かったよ」

 

 

杏子は渋々といった様子でそう謝り、気まずげに頭を掻く。

しかしすぐに桧垣を睨み返すと、手持ち無沙汰に弄んでいた『ハピネス』をぐいと突き出した。

 

 

「だけどセンセもさァ、触れて欲しくないってんなら、こんなとこに置いとくなよな。あたしがここに来てから結構経ってんだし、そういうの分かんだろ?」

 

「……まぁ、確かにその辺りは私の不注意でもありますが」

 

「だろ? あたしも悪い、でもあんたも悪い。これからお互い気を付けようってコトで説教終わり!」

 

「…………」

 

 

若干筋が通っているだけに、反論し難かった。

桧垣は喉元の文句を溜息と共に流し、黙って杏子から『ハピネス』を受け取って――。

 

 

「……この薬品、あなたが摂取したら死んでいたのですけどね」

 

「あ? ……はぁ!?」

 

 

聞えよがしの呟きに上がる大声をさらりと無視し、桧垣はいそいそと片づけを始めた。

 

杏子が桧垣の護衛となってから数週間。互いへの理解もそれなりに深まっており、彼の扱う薬品がどういった類の物かも多少は知っている。

少なくとも、杏子にとっては冗談にならない一言であった。

 

 

「そんなヤベーもんだったらやっぱあたしのが正しいだろーが! そこらへんにホイっと置いとかねーで、もっとキッチリしまっとけ!」

 

「先日、急な依頼の調合で引っ張り出したままだったみたいですね。これはうっかり」

 

「冷蔵庫にジャム瓶戻し忘れたとかじゃねーんだぞ……!」

 

「ま、お気になさらず。これからお互い気を付けるという事で纏まった訳ですから」

 

 

杏子の口から「ぐぅ」と漏れた。

暫くそのまま唸っていたが、やがて不貞腐れたようにソファにごろりと転がった。言い返す事が面倒になったようだ。

 

 

「そもそも何の薬作ってんだよ……つーか毒だろそんなもん」

 

「友人に既存薬の調整を頼まれましてね。超能力を生み出す薬品なのですが、魔法少女が摂取すると魔法と超能力が反応し合い、肉体が――」

 

「やめろやめろ説明すんな知りたかねーってんだよそんなん」

 

「……そうですか。まぁ、あなたはその方が良いでしょう」

 

「あ?」

 

 

どこか含みのある声音に桧垣を見るが、彼は既に杏子に背を向け何某かの支度を始めていた。

杏子は何となく釈然としないものを感じたものの、すぐに忘れて新たな菓子の封を切る。

それきり口論も無く、テレビの音声だけが静かに流れた。

 

 

『――県、見滝原市を襲うスーパーセル。その勢力は今もなお増しており、住民の方々の安否が心配されます。自衛隊による救助も進んでおらず――』

 

「……今日はこのニュースばかりですね」

 

 

それを聞く内、桧垣の目線がテレビへと向かう。

そこに映るニュース番組曰く、とある地域に大規模な気象異常が発生し、街の一つを呑み込みつつあるそうだ。

今日は朝からどの局も同じニュースばかりを繰り返し流しており、結構な大事となっている事が窺える。

 

幸いこの田舎町から遠く離れた場所の事であり、桧垣は正しく対岸の火事としてこれを見ていた。

 

 

「しかし意外ですね、佐倉さんがこういったニュースに興味を持つとは」

 

「……何となくだよ。それよりまだ準備できないのかい? いい加減待ちくたびれてるんだけど」

 

「ああ失礼、お待たせしました」

 

 

では、行きましょうか――。

桧垣はそう言って、様々な薬品の入った鞄を携え玄関へと向かった。

 

その行先は、日課である街の住人達への往診だ。

当然、護衛である杏子もそれに同行する事となっている。杏子は残った菓子を急ぎ口へと流し込み――最後に一度、テレビを見つめた。

 

 

「……ま、台風如きでどうにかなるタマじゃないだろ」

 

 

己に言い聞かせるように、そう呟いて。

暴風雨により酷く荒らされている見滝原の風景を、黒に落とした。

 

 

 

 

 

 

舞台装置の魔女、ワルプルギスの夜。

全ての魔女の頂点とも称される彼女は、しかし他の魔女と違い己の結界というものを持っていない。

 

否、正確には必要としていないのだ。

その強すぎる力故に隠れ潜む意味は無く、そも魔女としての行動原理自体が噛み合わない。

世界全てを戯曲に変えるというその衝動は、現実世界でこそ叶えられるものなのだから。

 

……だが、逆に考えるとするならば。

この現実、この世界そのものが、ワルプルギスの夜の結界にして庭なのだ。

 

彼女が近付くだけでその地域の空は荒れ、激しい雨風が巻き起こる。

それは現実世界を己の世界へ塗り替えているに等しく、全ての人間は常に彼女の領域内に居ると言っていい。

 

極論だ。だが少なくとも、暁美ほむらはそう思っていた。

 

 

(……また、この日が来た)

 

 

さらさらと、砂の落ちる音がする。

 

降り注ぐ豪雨に掻き消されてしまう程に微かな、砂時計の音。

しかしほむらの耳底で大きく響き、決して途切れる事は無い。

揺らされるのは鼓膜では無く、積み重ねられたその記憶。それは幻でありながら、どこまでも現実に則した音だった。

 

 

「――あと、どれくらいなんだろう」

 

 

砂音に被せ、そう声をかけられた。

振り返れば、無人となった家の軒先で雨宿りをする保澄雫の姿が見えた。

 

もっとも、この豪雨を防ぐ事など出来ていない。纏う魔法少女の装いから水を滴らせる雫は、怯え混じりの瞳を曇天に向けた。

 

 

「すぐ近くまで来てるのは分かってる。でも気配が大きすぎて、逆にぼやけてるみたい……」

 

「目視できるまで、もう10分も無いでしょうね」

 

「……分かるの?」

 

「統計よ」

 

 

面倒な時によく使う、適当な誤魔化しだ。

当然雫の首が傾いだものの、ほむらは気にせず会話を続けた。

 

 

「それより、武器の方は本当にいいのね。普通のレーザー銃ならまだ幾つか渡せるのだけれど」

 

「……見慣れてはいるけど、扱い慣れてる訳じゃないから。私はこれでいい」

 

 

雫は両手にチャクラムを生成し、強く握る。

そこにはジャジメントに対する個人的な蟠りのようなものが窺えたが、それを突く意味は無い。結局のところ、自身の魔法で生み出した武器以上に馴染む得物などありはしないのだ。

 

先程の通り、敵はすぐそこまで来ている。ほむらは長く息を吐き、雫に続き小盾からレーザー銃を取り出した。

 

――現在、この見滝原市はワルプルギスの夜による襲撃を受けていた。

 

空は荒れ、川は溢れ、人々は安全な場所を求め方々へと散っている。

魔法少女達はそんな状況に逆らい、冠水の広がる河川敷にてワルプルギスの夜を迎え撃つ準備を整えていた。

 

そう――決戦の日が、訪れたのだ。

 

 

「あと6分」

 

 

ほむらの呟きが、激しい雨音に混じる。

 

 

「随分正確に言うけど……」

 

「妙な横槍も無いようだもの。間違える事なんてない」

 

 

あと5分。

 

 

「……巴さんからは?」

 

「さっきの配置についた連絡が最後よ。向こうも集中しているのでしょうね」

 

 

ワルプルギスの夜との戦いにおいては、先行して出現する使い魔達も厄介だ。

ほむら達よりも街を優先して狙い始める個体も少なからず居る為、まず手分けしてそれらを叩き、敵の注目全てを引き付けておく手筈となっていた。

 

 

「偽人の魔女の時よりは出てくる数も少ないでしょうし、早くに合流も出来る。気遣う必要は無いわ」

 

「うん……」

 

 

雫の頷きに覇気は無く、気もどこかに逸れている。

それきり会話はぱたりと止み、無言の時が続き――あと2分。

 

 

「……最悪の場合は、逃げなさい」

 

「えっ?」

 

 

ほんの少しだけ柔らかみのある声に、俯いていた雫の顔が上がった。

 

 

「もし――もう、どうしようもない状況に陥ってしまったら。そして、その時あなたが生き残っていたら。せめてあなただけでも逃げ延びて」

 

「……そんな」

 

「友達と話し合うのでしょう。『居場所』には、戻るべきだもの」

 

 

もっとも、『どうしようもない状況』になった時点でほむらは時間遡行を決行している。

ほむらにとっては、全くと言っていい程重みの無い励ましではあったが――雫にとっては、そうではなかったようだ。

彼女の目元から、ほんの少しだけ力が抜けた。

 

 

「……ありがとう、ほむらさん。でも――きっと、そういうのは必要ない」

 

「…………」

 

「だって、勝てるから。みんな揃って、絶対に……」

 

 

己に言い聞かせるようなその呟きは、雨音に紛れ消えていく。

ほむらはそんな雫を横目で見やり、ゆっくりと銃口を空へと向けた。

 

――あと、1分。

 

 

「……そうね。最悪の場合なんて、訪れない」

 

 

30秒。

 

 

「私達は誰も欠けず、ワルプルギスの夜を乗り越えられる」

 

 

5、4、 2、1――。

 

 

「――勝ちましょう」

 

「うん……!」

 

 

そして、0。

ほむらの胸裏で終の数字が切られた瞬間、天高くより音が落ちた。

 

それは荘厳でありながら、陳腐なる輪舞。

暴風雨や雷鳴の音さえ掻き消し、悪辣な劇場を構築する。

 

 

 

 

AHA、AHAHA、KYAHAHAHAHAHAHA――!!

 

 

 

 

――ワルプルギスの夜。伝説の大魔女が、その姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

(――あれが、ワルプルギスのっ……!?)

 

 

ほむら達より少し離れた、とある屋根の上。

降り落ちたあまりにも強大な気配に、巴マミは一人息を呑んだ。

 

天高くで逆さまに浮かぶそれは、豪奢に着飾った女性の形を取っていた。

放つ魔力は酷く禍々しく、荒々しく。分厚い曇を綿埃のように払い、降臨の道を開けている。

 

……ほむらから予め情報は聞いており、対峙する覚悟もとうに済ませていたつもりではあった。

しかし、いざ実際に目の当たりにすると、どうしようもない畏怖が沸き上がる。

マミは己の呼吸が浅くなっている事にも気付かぬまま、震えるその身を半歩引き――。

 

 

「っ、気圧されてる場合じゃないでしょう!」

 

 

――寸前に踵で地を叩き、その場に脚を縫い留める。

 

手にしていた端末をしまい顔を上げれば、荒れ狂う空を翔け回る少女の影絵が幾つも見えた。ワルプルギスの夜が使役する使い魔達だ。

踊るような足取りで方々へと散る彼女達を見た瞬間、マミは迷いなくマスケット銃を撃ち放つ。

その銃弾は暴風に乱される事も無く、寸分違わず標的を貫き――近辺の使い魔達の意識が、一斉にマミへと注がれた。

 

 

「来なさい。まずは、あなた達から――!」

 

 

更に目を引くように叫び、大きく跳躍。使い魔の群れに飛び込んだ。

一体一体は並の使い魔よりも手強くはあったが、数は以前相手にしたアンテナマークの使い魔に遠く及ばない。マミにとっては片手間で事足り、注意の大半はワルプルギスの夜へと向き続けていた。

 

 

(……使い魔ばかりで、動いて来ない。小手調べ……いえ、遊んでいる?)

 

 

多少プライドを擽られたものの、怒りの類は感じなかった。

むしろ本気を出して来ない事に安堵の息を一つ。マミはワルプルギスの夜がそのまま油断を続けてくれる事を祈りつつ、銃を乱射。頃合いを見計らい、その場から離脱した。

 

新しく現れる個体も含め、周辺一帯に居る使い魔の注目は全てマミへと向いている。

マミは影絵の群れを引き連れ街から引き離すように誘導し、あらかじめほむら達との合流地点として定めていた場所へと走る。

 

 

(暁美さん達は……うまくやっているみたいね)

 

 

川を挟んだ遠くに見える向かい岸。その上空に黒い帯が見えた。

マミと同じく、使い魔の注意を引き付けているほむら達だ。

 

時間停止と空間結合を併用しているらしく、その動きは非常に捉えにくいものだったが、合流地点に近づいている事は見て取れた。

マミも負けじと足を速め、大きく宙へ飛び出し――。

 

 

「――っ!?」

 

 

瞬間、背後から迫る殺意を感じ、咄嗟にマスケット銃を振り抜いた。

甲高い衝撃音と共に火花が散り、鋭い何かが空を舞う。楕円形の金属片――風力発電機のプロペラだ。

 

暴風で何処からか飛ばされてきたのだろう。正確にマミを両断する軌道であったそれは、弾かれた勢いのまま彼方へと吹き飛んだかと思うと、突然反転し再びマミへと飛来する。

 

 

(偶然――なんて訳ないわね!)

 

 

プロペラだけでは無い。宙を舞う瓦礫やガラス片、果ては風に引き抜かれた木々までもが等しくマミを狙っていた。

その余りにも不自然な動きからは明確な悪意が感じられ、ワルプルギスの夜の攻撃である事は明白だ。

 

マミは己に襲い掛かるそれらを迎撃するも、使い魔の妨害もあり全てを撃ち落とす事は出来なかった。

使い魔の影から現れたカーブミラーに反応が遅れ、咄嗟にリボンの壁を張る。しかしその隙を縫って瓦礫が殺到し、リボンを蹴って遠くへ跳んだ。

 

――丁度進路を塞ぐように、真っ逆さまに墜落する高層ビルへと体当たりする形となって。

 

 

「なっ……!?」

 

 

こんな建物すらも巻き上げるのか――。

 

一瞬呆然としたものの、マミは瞬時に我を取り戻し、反射的にビルの壁面に並ぶ割れ窓へとリボンを伸ばす。

そしてその内の一つに飛び込み、激突を回避。強引な侵入に窓枠が外れ、そこに残る僅かなガラスが飛散した。

 

 

「突然失礼っ!」

 

 

マミはすぐに暴れる家具の飛来を警戒するが、逆さまとなった部屋内は椅子の一つも無い殺風景な物だった。

空中で激しく振り回される中で、既に全てが外界に放り出されてしまったのだろう。

そこに人間が混じっていなかった事を願いつつ、マミはがらんどうの部屋を転がり抜けながら、廊下の窓からビルを飛び出し、

 

 

「っ!」

 

 

またも感じた殺気に乗り出しかけた身を引けば、直後に大量の瓦礫が窓へと突き刺さる。

否、そこだけではない。廊下に並ぶ窓の全てに鉄骨や電柱の束が次々と飛来し、外へ繋がる道を塞いで行く。

 

 

(まさか、閉じ込めたまま地面に落とすつもり……!?)

 

 

幾ら頑丈な魔法少女といえど、ビルごと潰されてはひとたまりもない。

総毛だったマミは一度先程の部屋へと引き返すも、やはりと言うべきかそこにあった窓は瓦礫で埋め尽くされていた。

外の光すらもが届かなくなり、薄暗闇が部屋に落ちた。

 

 

(……入ってすぐとんぼ返りすればよかった)

 

 

マミは奥歯で苦虫を噛み潰しつつ、足元に大きな砲台を編む。

 

ビルと地面の衝突まで、おそらく時間的な猶予は少ない。

廊下を塞ぐ瓦礫を掻き分け出口を探すよりも、壁を吹き飛ばし脱出口を作り出す方が容易だろう。

……しかし。

 

 

(このビル、砲撃の衝撃に耐えられるのかしら……)

 

 

逆さまとなって落ち続けているこのビルに、最早強度は期待できない。

下手をすれば砲撃を放った衝撃でフロアごと崩れ、建物自体が自壊する。最悪の場合、今度は降り注ぐ瓦礫の雨に呑まれてしまう。

 

だがこうしている間にも地面との距離は近づいている。迷っている暇は無かった。

 

 

(瓦礫が雪崩れを起こすより早く、外に出る……!)

 

 

マミは覚悟を決めると、せめてもの対策として部屋の壁をリボンで補強。

大砲の発射と同時に駆け出せるよう構え、魔力を注ぎ、そして、

 

 

「――無事かしら」

 

「きゃっ!?」

 

 

砲撃を放つ寸前、肩に誰かの手が乗った。

その聞き覚えのある声に反撃を堪え振り向けば、そこには何故かほむらの姿があった。

 

いつ、どうやってここに――マミはそう口にしかけたが、自身の目に映る世界が色褪せたものとなっている事に気付き、すぐに何が起きたのかを把握する。

 

 

「……ありがとう、時間を止めて助けに来てくれたのね」

 

「このビル、凄く目立っていたもの。あなたの様子も丁度見えたわ」

 

 

そうしてほむらは互いの身体をリボンで結ぶよう指示しつつ、とある窓に目を向ける。

 

否、そこに窓は最早無く、ただ大きな穴だけが開いていた。

時間を止めている間にレーザーや爆弾で破壊したのだろう。壁となっていた瓦礫の山が綺麗に吹き飛び、色褪せた外界の景色をぽっかりとくり貫いている。

そして今の状態のビルが崩れ落ちる道理も無く、余裕をもってあっさり脱出。無数の雨粒が浮き並ぶ空の姿に、マミの口からほうと息が落ちた。

 

 

「……便利なだけじゃなくて、素敵な魔法なのね。それで、そっちはどんな状況?」

 

「問題なし、上手く挑発は出来ているわ。……あなたの方も順調だったようね」

 

「ふふ。結果的にはだけど」

 

 

ケガの功名でもと言うべきか、飛び出したビルの周囲にはマミが引きつけていた使い魔の群れが集っていた。

マミとほむらはその全てに銃弾とレーザーを撃ち込むと、そのまま空中に張ったリボンの道を渡りビルから離脱した。

 

 

「このあたりの使い魔は、これで大体処理できたかしら」

 

「ならこのまま直接保澄さんの所に向かいましょう。集合場所に行くより、その方が早いわ」

 

 

ほむらの提案にマミは頷き、リボンの道を河川敷の対岸へと伸ばす。

そうして合流地点付近の空中で停止している雫を発見すると、彼女を囲む使い魔を銃撃しつつリボンを繋いだ。

 

 

「――っ、巴さん!? 何で……あ、そっか、ほむらさんの……」

 

 

時間停止の解けた彼女は、突然現れたように見えたマミの姿に数瞬ほど混乱した様子を見せたが、何が起きたかはすぐに察したようだ。

瞬時にマミ達の隣へと移動し、ぐるりと周囲を見回した。

 

 

「使い魔の方はもう良い、って?」

 

「ええ、運よくかなりの数を一気に減らせたの。今がボスを叩きに行くチャンスよ」

 

「…………わかった」

 

 

その言葉に雫の吐息が震えたが、それ以上のものは無く。

一度大きく深呼吸をすると、覚悟と共にチャクラムを構えた。

 

 

「じゃあ、作戦通りワルプルギスの夜の死角に繋げる。巴さん達は銃の準備を……」

 

「あ、ちょっと待って。せっかくだから、アレも使いましょう」

 

「え?」

 

 

きょとんと首を傾げる雫を他所に、マミの指先がとある一点を指し示す。

そこにあったのは、先程マミが脱出したばかりの高層ビル。逆さまのまま空中に留まる奇妙な光景は、遠方からでもよく見えた。

 

 

「……アレを?」

 

「ええ、アレを」

 

 

聞き返せど答えは変わらず、マミはにっこりと微笑みひとつ。

ほむらも特に異論は無いらしく、盾から取り出した大型レーザー銃の部品を手慣れた様子で組み立てている。

 

そんな二人に雫は小さく溜息を吐き、思い切り魔力を回した。

 

 

 





『暁美ほむら』
幾度となくワルプルギスの夜と戦い、タイミングは色々把握済み。
説明を統計の一言で押し切りがち。何度も繰り返す内に面倒くさくなっているのかもしれない。
雫への励ましに気持ちは籠っていない。でもそうであったらいいと思っているのは本当のようだ。


『保澄雫』
この時間軸では初ワルプルギスの夜。
気圧されてはいるが、前回と違って一人では無いのでまだイケる。
戦場を飛び回るプロペラの羽根を見て、何故かお腹が痛くなっているようだ。


『巴マミ』
こちらも初ワルプルギスの夜。突然失礼……。
もしほむらが助けに来なかった場合、降って来た瓦礫が頭にぶつかり地面に墜落していた事でしょう(アニレコ感)。
気付けばいつも携帯端末を持っている。


『桧垣東児』
田舎でまったり暮らしている。杏子とは結構うまくやっているようだ。
誰かの依頼でとある薬を調整した。


『佐倉杏子』
田舎でのんびり暮らしている。桧垣とは中々上手くやっているようだ。
さやか達とつるみつつも、最近とある高校球児が気になり始めているらしい。
ちょっぴりマミが心配。


『ワルプルギスの夜』
まどマギ世界のラスボス。普段は逆さまに浮いているが、本気を出すと正位置となり全てを滅ぼしてしまうらしい。
何か魔法ビームとか撃ってるイメージがあんまり無い。たぶん一番有名な攻撃方法は高層ビルを投げつけて来るアレ。
カウントダウンに3が無いのは様式美である。


遅くなってごめんね。
終わりまでもうすぐそこではありますが、これからもゆっくり待って頂けると助かります。
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