ファランコス、このすばす 作:頭シー◯ス
冒険者は危険なほどに稼ぎやすい。
アクセル近くまで流れてきたマンティコアを討伐しながら、ファランはそんな下らない事を考えていた。
討伐の報酬は人類への危険度から算出され、採取の報酬は往復の危険度で算出される。なので、マンティコアの討伐はアクセルではかなりの値段となる。
だからアクセルで受けられるパーティーは限られ、ステータスだけなら高レベル冒険者なファランにこの話が来たのだ。緊急性はなく、塩漬けになる前に達成出来そうだから、一応声を掛けた程度であるが。
ライオンをベースに、コウモリの羽とサソリの尻尾が追加されたようなマンティコアは強敵である。そもそも、空を飛べて大型の肉食獣くらいの攻撃力があれば、だいたい強敵だ。人間ならそう判断するのが正しい。
だからファランも、普段使わないミルウッドの大弓と竜狩りの大矢を使ってマンティコアを撃ち落とした。地面に落ちれば、あとは解体しながら殺すだけである。飛ばれさえしなければ、大型の獣など慣れたものだ。
場所が山岳とあって、狩りよりも移動の方が大変との有様である。帰りなら一瞬で移動出来ていたのにと思えば、如何に篝火に助けられていたかが解る。
解決手段はテレポートの魔法を覚える事なのだが、アクセルにはファランが知る限りではテレポートの使い手はいない。これでは教わりようがない。
帰ったらギルドで使い手がいないか聞こうと決め、マンティコアの首を落とす。
生き物からただの物になったマンティコアをソウル化し、回収してからファランは帰路につくのであった。
物質のソウル化とその還元は不死人にとって基本的な能力と言える。素手だったのに、次の瞬間には特大剣が握られてるなど、よくある事だ。
なので大きいとは言え、マンティコアの死骸をいきなり取り出して驚かれるとは、ファランは考えもしなかった。ジャイアントトードの時は持ち帰るとの発想すらなく、今回が初のお持ち帰りであった。
「テレポートを使える方、ですか?」
物の出し入れは独自の魔法と処理されて、ようやくファランは帰路につく際に考えていた事を聞けた。テレポートさえあれば、格段にフットワークが軽くできる。
「でしたら、現役は引退されてますが、ウィズ魔法店の店主さんならお教えできるはずです」
おもいっきり知り合いに使い手がいた。そもそも私的な知り合いはウィズしかいないが。
あのいい人なら、あっさりと教えてくれるだろうと、意気揚々とウィズの店に足を向けるのだった。
特に語るような話もなく、テレポートを習得したファランは鍛冶屋に来ていた。消費した竜狩りの大矢を補充しようと思ってだ。
「コレと同じのをのぉ…」
鍛冶屋の主人が竜狩りの大矢を調べているが、その表情は険しい。矢と言うより鈍器染みた形状に加え、良質の金属が使われているのが軽く調べただけで判るからだ。竜狩りに使われていた品なのだから然もあらん。
似たような物は作れはするが、どうしても劣化したような品質になってしまう。神代故に揃えらえた素材に、全く違うルーツの鍛冶。この2つはどうしようもないのだから。
高くなる上に劣るとなれば、ファランには今日のところは帰るしかなかった。それでも普通の矢であれば、問題はないとの確認を取れたのは幸いか。
あちらから個数制限をしなければ、一定の値段でいくらでも売ってくれる。祭祀場の侍女を初めとした面々が、なんとありがたい事か。代わりに入手経路の謎は止まるところをしらないが。
消耗品の補充が難しいと思い知るのは、さして時間が掛かる事ではなかった。矢にボルトは普通の物なら問題ないが、裏返せば普通の以外は金を高く積まなければ手には入らないか、そもそも類似品すらない。消耗品のほとんどが、そんな有り様であった。
よもや糞団子が貴重になるとは、と嘆きながらギルドに併設されている酒場でクリムゾンビアなるものを呷る。
一杯引っかけて、別に困るものではないかと考え直す。幸いにも消耗品の代わりとなる手段は存在する。ただほとんどが魔法の枠を使うのが難点なのだが。そして魔法を使えるようにするのには篝火が必要となる。
天然の篝火は存在しないと判っているが、手持ちの品で代用は出来なくはないであろう。
ただし、ファランが一度でも触れれば知る事になる。篝火が元の場所への寄る辺になるか否かを…
街の外の草原で帰還の骨片を軽く盛り、中心付近に火継ぎの大剣を突き立て火を灯す。そうやって出来た篝火は、弱々しく燃えるも不思議と消えそうな気配はない。
傍に座れば体力と魔力が回復し、装備も修復される。そして感じるのは、この篝火が他の篝火と繋がっていないとの事実。考えてみればあたり前だ。火継ぎを終わらせてこの世界に流れ着いたのだ。かつて灯した篝火の火は、消えてしまうに決まっている。
不死人の寄る辺たる篝火も、世界まで違えばどうしようもないのだろう。他の機能は問題なく使えるので、他に篝火があれば移動自体はできそうではある。火継ぎの大剣が一本しかないので、他に篝火を作れないから意味がないが。
確認は済んだと、火継ぎの大剣と帰還の骨片を回収して森に足を向ける。今日はコボルトと初心者殺しの討伐依頼を受けているのだ。
毎日のように初心者に不向きな討伐依頼を消化し、酒場で酔えない酒をてきとうに飲む。順調な冒険者生活。そう、スキル集め以外は順調な生活である。
「ソードマスターやアークウィザードに成れますよ。なんでしたらアークプリーストにも」
良い方法がないかギルド職員に相談すれば、ジョブ冒険者から他のに成れと言われるのだ。いかに純度100%の営業スマイルで言われようとも、変えるつもりは毛頭ない。どんなスキルでも習得可能は、レベル的に成長できないであろうファランには必要なのだ。誰がなんと言おうとも。コミュ障で周りの冒険者と仲良くなれずに教われなくてもだ。
そう、ファランは友人のなり方や友人との会話とはどんな事を話せばいいか判らなかった。たまに会うなら、近況などを話せばいいが、アクセルでは毎日のように会うから話す内容がないのだ。
それだけ近い人間が多いのは喜ばしい事ではあるが、いまだに戸惑いの方が大きい。残念な事に、味方の作り方が助ける以外やったことがないので、会話から協力関係になるのはファランにはハードルが高い。
「相席いいだろうか」
凛とした雰囲気に、金髪碧眼の美人。見てくれだけなら問題はないので、ファランは了承する。
チラチラとこちらの様子を伺っているのを尻目に、ファランは装備からして女騎士っぽい相手のソウルに目を細めていた。ウィズとは真逆に近い白さを感じさせるソウルは、異形のソウルに変質しそうである。何より気掛かりなのは、何処と無く双王子のソウルと似ている事か。
もし異形のソウルと成ったら、是非とも回収したいところである。
「……その、いいだろうか?」
よもや頭の中で
「私とパーティーを組んでくれないだろうか!」
緊張からか上ずり大きな声での頼みに、ファランは軽く了承する。
「本当か!?今さら無しはないぞ!」
今度は嬉しさから声を張り上げるのは、端から見ていれば微笑ましいものだ。なのに、幾つものパーティーから可哀想なモノを見る目を向けられている。しかもファランに。
「……まあ期待させておいて、いきなり突き落とすような真似もそれはそれで…」
まるで蛆をぶっかけられても放置してるような発言に、ファランは苦言を呈する。自分は―――必要さえなければ―――そんな不誠実な真似はしない。
欲しいモノの為なら、
「ああ、いや。別にそんな事をしてくれそうに見えるとか言いたかった訳じゃない。気を悪くしたらすまない」
バツが悪そうに視線をずらしながら苦笑する女騎士であるが、気持ちを切り替えたのか真面目な顔になる。
「私はクルセイダーのダクネスだ。気軽にダクネスと呼んでくれ」
まさかの上位職にファランはの顔は自然と笑みを浮かべる。これならばスキルの方も期待出来そうだと。
いかれた世界の存在に似てる奴に、真っ当な保証など何処にもないというのに。
双王子のソウルに似ている
先王が発狂ものの血の営みがあったとの事。恐らくは外部から優れた血を家系に入れるのは、とうの昔に通過したと思われる。