ファランコス、このすばす 作:頭シー◯ス
クリスは女神エリスの地上での姿である。元は教会に通い詰めて、友達が欲しいと祈るダクネスと地上の持ち主が亡くなった神器回収の為に用意したモノである。
信者の願いを叶え、自分は地上を楽しでなはく、必要な仕事をできる素晴らしい案であった。流石に天界での仕事に支障が出ないように気を付ける必要があるが、そのくらいは許容範囲として流せる程度である。
そしていざ決行の直前で聞こえてきたのだ。「耳いるか」と。
自身に信者の声が聞こえるのは稀ではあるが、無い事はない。ただし、そういった場合は信仰が高まり、ごく短い間に交信に成功した結果だ。
まかり間違っても、気軽に電話を掛けてきたように、繋がるようなモノではない。相手も予想外だったのかすぐに切られたが、だからと言ってエリスも女神として放置する訳にはいかない。明らかな異常なのだから。つい先輩女神が関わっているのではと思ったが、調べてその方がいくらかマシだったと知るのだった。
人間、という種族は基本的に脆弱だ。中には強くある為に強者を血族に加え、積み重ねる内に生まれもっての強者もいるが、それはほんの一握りとなる。
ただし、生き物を殺す事で殺した相手の魂の一部を吸収し、俗にレベルアップと言われる方法で後天的に強者になる事も可能である。尤も、才能が存在する以上は、その強さの上限には隔たりが存在する。
そう、強さには上限があってしかるべきなのだ。それは魂の吸収に上限があるという事でもあり、無限と勘違いしそうな量の
そのあってはならない事を実行しているファランは、エリスには悪魔にすら見えた。体内に契約によって縛られた人を飼い、永遠に悪感情を絞りとっている悪魔に。
しかし、流石に女神の身体で種族を間違えるエリスではない。ファランが正真正銘の人間なのは間違いない。
だからと言って何もしないのは愚策だ。逸脱した存在が勇者のように魔王を倒すならいいが、もし第二の魔王になったら大問題になる。転生者を送りこんで、ようやく魔王軍と膠着状態の戦況を維持しているのだ。そこに第二の魔王など現れれば、人類の敗北に繋がりかねない。
故に、エリスは見極めなければならない、ファランの人間性を。地上での活動は必須とまでなったのだ。大義名分があれば動きが早いのは、神も人も同じであった。
そんなこんなで地上で活動を開始したエリス改めクリスは、ファランのパーティーメンバーとしてダンジョンを攻略していた。
キールのダンジョン。アクセルの近くにあるだけあって、初心者用のそのダンジョンは元は悪い魔法使いに作られたとされている。かつては凶悪なダンジョンだったかもしれないが、今や探索されて目ぼしいお宝は取り尽くされ、残っているのはダンジョンそのものと住み着いたアンデットと下級悪魔くらいである。
ダンジョンとしては体験版もいいところであるが、盗賊であるクリスの能力を見るには十分である。
クリス、ファラン、ダクネスの順番で縦一列に並ぶ、由緒正しき冒険スタイルでの探索である。先頭のクリスが索敵と罠感知を行い、真ん中のファランが幽鬼のトーチで照らしつつ必要に応じて戦闘、最後尾のダクネスは左手にたいまつ、右手に幽鬼のトーチのダブル明かりシステムしながら後方を警戒。尤も、ダンジョンのレベルが低すぎてどれも大した意味がないが。
「…なあ、おかしくないか?」
唐突に口を開いたダクネスに、ファランが首をかしげる。ダンジョンの構造はギルドで聞いた通りであったし、出てきたモンスターも同様である。
いったい何がおかしいのであろうか?自分の武器が普段使っているファランの大剣ではなく、狭い場所かつスケルトンが出るのを考慮してメイスを使っている事か。
「違う、なぜ私は両手に明かりなのだ。これでは剣が振るえないではないか!」
はて、当たらぬ攻撃しかできない奴が明かり役に徹する事のなにがおかしいか。
足を止めているクリスに先に進むように促す。
「流石に、それはないんじゃないかな…」
ダクネスへのあんまりな扱いにクリスも苦笑い。しかしファランはダクネスの扱いを変えるつもりはない。
クリスのバインドによって、ダクネスの攻撃が当てられる場面は増えこそしたが、だからと言って全てのモンスターをバインドする訳にもいかないのだ。なにより、好きに距離を取れない場所で剣を振るわせて、こちらに当たったらどうするつもりか。
ハッキリと言わねばならないか。自分は一撃は耐えるだろうが、クリスは死ぬ。
「~ッしかしだな!」
普段のように囮になって仲間の盾としても活躍できないからか、ダンジョン攻略がおきに召さないようである。このままもよくないかと、ファランはダクネスの肩を叩きながら、クリスに聞こえないように耳打ちする。
「…本当か?」
無論である。嘘を付いたこと無かろうに。
「わかった」
チョロい。あっさりと答えをだしたダクネスを心の中だけで笑い、嫌に静かなクリスを見る。気不味そうに、頬の傷を人差し指で掻いていた。
「あのさ、二人は付き合ったりしてないんだよね?
それにしちゃ~距離近くない?」
確認するような、或いは確信してるような物言いにファランは苦笑いだ。男女のあれこれなど解らないが、ダクネスが相手はない。
「そんな関係ではないさ」
ダクネスも笑いながら否定し、その話題は打ち切りとなった。
しかし、ファランは少しだけ先を考えた。まかり間違って結婚まで行ったら、契りの剣をダクネスに刺さねばならないのだろう。果たして、契りの剣はダクネスを貫けるのだろうか?アレは儀礼剣であるが故に、さほど鋭くはないのだが。
ロスリックとこの世界で時折見た目が似通ったモンスターの存在を確認できる。流石に性質までは同じではない。おそらく最も目にしやすいスケルトンだが、この世界のスケルトンは、ロスリックのより根性が足りてない感じがするのだ。
ロスリックのスケルトンは、普段はバラバラになって転がっており、ソウルを持つ者が近付くと殺そうと
ところがこの世界のスケルトンは、普段から人形で徘徊しており、構成する骨がバラける時は砕けたか死ぬ時だという体たらく。復活もないそうだ。
回復系の魔法で倒せるとの違いはあるが、それは奇跡にはアンデットを浄化する力が備わっていないのであろう。試したら一切ダメージを受けた様子がないので、ほぼ確定だ。
そして
ちなみに、
幸いと言うべきか、スケルトンはファランが手早く片付けるので、そんな場面が実演される事はなかった。
戦闘と呼ぶには一方的なものを繰り返し、特に語るような出来事もなくキールのダンジョンは攻略された。
ギルドで二人と別れ、ちょっとした準備をしたファランは再び合流したダクネスと、キールのダンジョン最深部にテレポートで訪れていた。
「誰もいないよう…」
すかさず辺りを窺うダクネスを、容赦なくバインドによって荒縄で縛り上げる。
「隙を突いた拘束!酷い事をするつもりか!?」
期待し過ぎて息の荒いダクネスに、最近濁りまくりなファランの目が逆に澄んでいく。この変態性は間違いなくダクネスだと安心感すらあるのだ。人はソレを達観と呼ぶ。
ファランがダクネスの対になる趣味に目覚めた訳ではない。ダンジョン攻略中の約束を実行しているだけである。
サービスだと言いながら、ファランはバインドしたと同時に自分から倒れたダクネスを足蹴にし、軽く転がす。
「なんという屈辱!っく…!」
言葉とは裏腹に、喜色で彩られた声音は清々しい位に心情を現していた。親が見たら泣く光景である。
そんな騒ぎに釣られてか、スケルトンが寄ってくる。
「っこ、このまま私はモンスターに嬲りモノにされるのか!?」
嬉しそうに言いながら、チラチラと期待の籠った視線をファランに向ける姿は、親は号泣確定である。
隠密を使ってファランが存在感を消せば、ダクネスは更に騒ぎだす。
「いいのか!?たの、ではなく、仲間を見捨てて!
何処まで鬼畜なんだ!?」
ちょうど仰向けになっているので、放置していたら涎を顔に垂らしそうな興奮の仕方…親はそろそろ悲しみから首を吊りかねないではなかろうか。
新しい盗賊スキルの確認も済んだ。ダクネスとの約束ももう果たしたと見ていいだろうと、ファランは迫っていたスケルトンにメイスを叩きつけて倒す。
ダクネスが残念そうな顔だったのを無視し、今度こそ帰路に着くのであった。
幽鬼のトーチ
ファランの幽鬼の武器の一つ。ほぼ松明だけどキチンと補正と戦技が存在する。ただし必要ステに理信10を要求してくるので、特化運用してるとたいまつで良いとなる。
原盤突っ込めば、四週目くらいまでは武器として使えるかな?
契りの剣
ロンドールの儀礼剣。使い方が伴侶となるアンリの顔面にぶっ差すとあって、不死人の結婚式はケーキ入刀ではなく伴侶入刀とネタにされる。
あくまで闇の王になる為の儀式だと思われる。
なお、アンリはプレイヤーが男だと最後のムービーで装備そのままで登場するので、どっかで復活してるとハッキリと判る。