「この前は地下室の屋根作ってたな。家具はどうするんだ?」
「家具は業者に発注するよ。竈門と調理場は広めに取りたいから注文するけど」
「その方が楽だな」
「その通り。のんびりな生活をしていた俺達だが、少しの間はそうも行かないかもしれない……」
「あ~。屋根はこれで良いか」
「いや。この辺潮風があるから屋根は瓦にした方が良いんじゃないか?」
「また発注か……」
「まぁ瓦に関しては在庫がある。そろそろ処分しようかと思ってたから、この際全部使うか」
「そりゃあ助かるよ」
屋根の板を柱に張り付けて、このまま塗料を塗って完成にしようとしたのだが、ここは海に面した街。いくら金属製の物ではないとは言え、木でも影響をいくらかは受ける。ルーカスの提案で瓦を張り付けることにして、今日の作業は終わりを迎えた。
「王国の連中はいつまでいるんだろうな」
「そもそも何で来たかだよ」
「俺らには関係ねーだろ。お前はスライムだし、俺はそもそもこの世界の人間じゃない。あの国王もだけどな」
「俺はツッコミを放棄する」
「ツッコミがツッコミを放棄するなよ。誰がこれからツッコミの役割をするんだ?」
「モブやその他の誰かがやってくれるだろ」
まだ王国の兵士達や国王が来てから1日も経ってないが、既にスライムはうんざりしている。今は夜になっているのだが、どう言う訳か兵士達はドンチャン騒ぎをしている。煩き事この上ない。
「お邪魔します」
「あら?フリザさん?どうした?」
「行き着けの店が占領されたので、何か作って貰おうかと。代金は出します」
「いや別にいらねーけど」
王国の兵士達に店を占領されたと言うことで、直輝の家で食事をしに来た様だ。そして今の今まで対応をしていたのか疲れた顔をしている。そして機嫌も悪そうだ。
「魚料理で良いか?それしかない」
「お願いします」
「はいよ」
冷蔵庫から魚を取り出し、適当に捌いてからサラダとして皿に野菜と一緒に盛り付けていく。時間も遅いためこれ1品でも十分だろうが、サラダだけと言うのも味気ない。残ってるパンも焼いてだした。
「ほら。できたぞ」
「ありがとうございます」
出されたものを食べ始めると。適当な飲み物を出しながら何故王国の国王が大量の兵士を連れてこの街にやって来たのかを聞いてみた。
「これが原因です」
「龍血結晶?これ目当てか?」
「いえ。これは原因です。ご存知の通り、龍血結晶はドラゴンの力が血液と共に流れ出し結晶化した物です。当然これだけでも強力な力を放っている訳ですが、強い力と言うのは磁石の様に強い物を引き寄せます。同族ならなおのこと」
「つまり、ドラゴンが来るって事か?」
「はい。レベルで言うところ、500ですかね。それくらいのドラゴンがここに向かってます。それを討伐するために来たんだとか」
レベルが500と言うことは、龍血結晶の元となったドラゴンよりもレベルが高いことになる。それを知ってか知らずかは定かではないが、王国の兵力の殆どを注ぎ込んできたのだろう。
「王国の兵力で倒せるのか?」
「無理ですね。そもそも、ドラゴンの平均レベルは60程です。それですら大国が最低でも4つ同盟を結び総戦力を注ぎ込まないと難しいです。あの程度の兵力ではとても勝てるとは思えません」
バッサリと切り捨てた。しかしそれなら何故王国が討伐をしようと言うことになったのかだ。だがそれもフリザの次の言葉で少し納得した。
「国王の持っていた武器、あれは聖剣アスカロンです。ドラゴンにもっとも有効な属性を持つと言われる武器。恐らく神からでも与えられたんでしょう。後は持っている攻撃魔法の数ですかね。先程見てきましたが、数は多かったです。殆どが強力な物ですし」
「でも倒せないんだろ?」
「はい。魔法は使う人間の力が大きく影響しますからね。たとえば、基本的な炎を出す魔法。レベル1の魔法使いとレベル100の魔法使いが使うのでは天と地の差が生まれます。と言うか、そもそもどこでアスカロンを手に入れたのかと言うことです。神が与えたにしても、あれはゲオルギオスに魔女カリブが与えた物です。サイクロプスが造り上げたどんなに硬い火打石でも鋼でも斬ることが出来る剣。そちらの世界にも伝承が残っているはずです」
「あぁ~……まぁ、俺はその方面詳しくないから何とも言えないが、名前くらいなら聞いたことあるな」
曖昧な答えだが、直輝のいた世界にもその伝説は存在する。数多く存在する聖剣伝説の1つとして。その伝承では、サイクロプスが匠の技で極上の金属から鍛え上げ、どんな硬い火打石でも鋼でさえあろうと断ち切り、柄頭に込められた加護によって剣を帯びる限り、如何なる裏切りにも、魔法にも、暴力にもさらされることはない。と言う様に語られている。しかし伝説は伝説。事実と言うわけではない。そもそも直輝の世界ではゲオルギオスが存在したのかさえ怪しいのだ。
「あの剣は、この世界からそちらの世界に迷いこんだドラゴンをゲオルギオスが討伐した後に行方不明になっていました。こちらに帰ってきたゲオルギオスの様子を見るからに、甲冑と共に破壊されたとの噂が流れましたが、アスカロンがドラゴンごときの攻撃で破壊されるとは思えません。神が自身の所有物として扱っていたとしたら、あの剣は回収する必要があります」
「ふ~ん。ま、難しいことは置いといて、ドラゴンはいつ此方に来るんだ?」
「今日から2日後とのことです」
「アイツら街に迷惑かけないと良いけどな」
「その辺はさっき約束を取り付けてきました。ドラゴンを撃退、もしくは討伐した時に多額の報酬を払うことを条件にですけど」
「アイツら金欲しがってんのかよ。王国の住民のくせに」
「いえ。お金もありますけど、それはおまけみたいな物です。本命は私と直輝さんの身柄だそうですよ。直輝さんには個人的な恨みを返し、私は8人目の妻にするんだとか」
「見境なしかよ……と言うか個人的な恨みって何だ?」
「魔法を避けられた事じゃないですか?」
「イヤに理不尽だな」
「愚王なんて大体そんなもんですよ」
酷い言われようだが、目の前に現れてしまえばそうも言ってられない。実際街には迷惑をかけないと言うのがここでの滞在条件なのだが、既に騒音で迷惑をかけている。これを静め兵士全体を統治し指揮を取るのが1番上の立場にいる王のやるべき事なのだが、そんな様子は全く見られない。宿の一室に連れてきた女性たちと籠っているだけだ。
「今日どこで寝るか……」
「寝床まで占領されたのか?」
「いつもは冒険者ギルドで寝てますけど、宿の部屋が足りなかったようでギルドでも兵士が寝泊まりしてます。私の部屋、汚されてたら使った兵士の葬式挙げよ」
「物騒なこと言うなよ……寝る場所がないなら、アイツらが帰るまでこの家で過ごすか?」
「狭くないですか?」
「スライムと俺だけだ。それに俺は洞窟で過ごす時間が最近は多かったから、ベッドより床の方が寝やすい。スライムはこの時期冷蔵庫の中で寝てるから場所は問題ないぞ」
「なら、少しの間は厄介になります」
「おう」
と言う訳で、少しの間フリザがここで過ごすことになった。因みに、スライムが何故冷蔵庫で寝ているかだが、この時期から微妙に暑くなってくるからだ。寝ているときに気を抜いてしまうとすぐに融解してしまう。それを防ぐための一手。
夜が明けると、朝から騒がしくなっていた。国王達が来たときとは別の意味でだ。いろんな場所から怒鳴り声や奇声、何かが壊れる音、女の人の悲鳴等々。迷惑行為はこの街では御法度。それが滞在条件なのだが一切守られている様子はない。
「たった数時間で無法地帯になったな~」
「滞在条件取り付けたのに、それでこれだとしたら国王の才能だな」
「俺達の行き着いた街がここで助かったよ」
屋根に瓦を貼りながらぼやいていた。フリザは朝からこの事態を鎮静化するために動き回り、ルーカスは瓦を置いていくと店に戻って兵士の相手をしている。自分達の立場を使って無理矢理値下げさせているようだ。
「冒険者で良かったな」
「ほとんど冒険してないけどな」
現在進行形で地下室を作っている辺り、冒険者と言うより建築士に見える。と言っても、冒険者としての確かな実績を上げているため文句は言えないし言われない。
「おいお前」
「なんだスライム」
「いや俺じゃなくて下からだ」
「ん?何だ国王か」
「何だとはなんだ!?一国の主に向かってその態度はどう言うつもりだ!!」
態々王自らが出向いたようだが、直輝には歓迎されなかった。と言うか作業中に来られても歓迎しようと言う気にはなれない。
「はいはい。で何の用ですか?」
「ふん。お前も僕と同じ異世界から来た人間だと聞いたから来てやったんだ。それに冒険者だそうじゃないか。腕が良いかどうかを見に来てやったんだ。が、見るまでも無さそうだな。確実に僕の方が実力が上だ」
「なんとでも言え。俺には関係のないことだ」
「一々癪に触るヤツだな……王に対する忠誠は無いのかお前には」
「アンタに誓う忠誠なんてねーよ」
どうやら、まともに取り合うつもりは無いようだ。国王の言った言葉に対して短い答えを返す。そもそも忠誠と言われても、大国とはほとんど無縁の街。何か物資を送ってもらっていると言う訳でもなければ資金援助をしてもらってる訳でもない。自給自足の街に住んでる人間に忠誠を誓えと言う方が無理だ。
「そうか。なら、僕と勝負しろ」
「は?」
「僕が勝ったら、お前は僕に対して忠誠を誓え。勝敗はどちらかが戦闘不能になるまでだ」
「あのなぁ、自分の勝利に対する報酬を決めといて、こっちの報酬を決めないのに何が勝負だ。んなもん勝負として成立しねーよ。互いに報酬なしだったら別だけどな」
「万が一にもお前が勝つことは有り得ない。僕の勝利は揺るがないからな」
「だとしたら尚の事勝負として成立しないだろ。何が悲しくて勝敗の分かる出来レースに参加せにゃならんのだっての」
至極当然の判断だ。この場合、多額の報酬があれば別なのだろうが、相手が提示した内容の中には直輝への報酬は一切なし。自分の絶対的な勝利を確信しているが故にだ。だとしたらそんな物に参加する必要はない。どう考えても頭の中お花畑の痛い人間の提案に乗る方がおかしい。
「勝負しないと言うのなら、貴様が必死に作っているその家を破壊するぞ?神から力を授かった僕の魔法でね」
「それは困るな……仕方ない。乗ってやるよ」
「ふん。良い度胸だ。その度胸だけは認めてやる。しかし、無事でいられるとは思うなよ」
地下室の屋根部分から降りた直輝は、国王の目の前に立つ。武器になりそうなのは持っていたトンカチと釘。他の武器は持っていない。ギルドに置いてある。まともな勝負になるのか、判断に困るところだ。
「おい王さま。気を付けろよ。ソイツはあるステータスが数値異常を起こしてる。その辺にいる普通の人間相手に挑む程度の覚悟なら、戦わないことをお勧めするぞ」
「スライムごときの忠告を受けるつもりはない。弱小モンスターが。黙ってお前の主人が倒されるところを見ていろ」
武器をまともに持っていない相手にフル装備で挑んでる人間とは思えないほどの言い草だ。これでは実力に差があるのか装備で差があるのかが分からない。
「喧嘩するのは構いませんが、街に被害は出さないでくださいね?出したら王国に請求します」
「フリザさん?」
「ギルドの受付嬢?」
「どうぞ。トンカチと釘じゃ、勝てる勝負も勝てませんからね。あと、少し街を空けます」
「なにかあった?」
「いえ。少し神と話してくるだけですが夜には帰ってくるので、また部屋を借りますね」
「あぁ。食事も用意しとくよ」
そう言ってフリザを見送ると、鞘から剣を抜き出して構えた。いよいよ2人の勝負が始まる。
「話は終わったようだな。なら……死ね!!下級冒険者!」
勢いを着けて構えた剣を振り回す。しかし国王の斬撃は直輝に当たる様子がない。全て当たる直前で避けられてしまう。
「チッ!おりゃあ!!」
「よっと……」
「このっ!死ね!!」
「ほい」
「ガハッ!?」
全く当たらない。斬撃のスピードを速めるが全く当たらない。それどころか直輝が適当に突き出した拳に自分から鳩尾を押し付けて苦しんでいる。
「なら……ライトニング!」
「うわっと!?」
「ヴォルケーノ!」
「あっち!熱!?」
ライトニング。光速で敵を襲う雷。スピード、範囲、威力を設定可能で、覚えれば幅広い用途で使うことが出来る使い勝手のいい呪文。そのスピード故、避けることは不可能。初めて使用したときは直輝に掠りもしなかった。
ヴォルケーノ。火山の噴火の様な激しい炎が敵を襲う呪文。広範囲魔法で、炎に対する耐性が無い場合大ダメージは避けられない。
「まだだ!ウォーターフォール!!」
「グッ!」
「ブリザード!!」
「ッ!?動けないっ!」
「終わりだ。エクスプロージョン!!」
ウォーターフォール。激しい滝の様に流れ落ちる大量の水で相手を押し潰す魔法。しかし使った後は周りが荒れてしまうのが弱点。
ブリザード。凍える程に冷たい風で相手の動きを鈍らせる魔法。濡れている状態の相手や、体の殆どが水で出来ているようなモンスターは簡単に凍らせることが出来る。
エクスプロージョン。指定した範囲を強烈な爆発が襲う攻撃魔法。かなりの上位クラス魔法で、威力も範囲も桁違いに大きい。
「僕の勝ちだ。ハハ」
「あぁ~。ビックリした」
「なッ!?」
「いったろ。あるステータスが数値異常を起こしてるって。数値異常を起こしてるのは運だ」
「運、だと?戦闘に全く意味のないステータスが何故!!」
一般的に運は戦闘の役に立たないステータスとして扱われるが、実際は運以上に戦闘を左右するものはない。相手の防御力を無視して大きいダメージを与えられるのも、相手の攻撃力を無視して最小限のダメージに留めるのも全て運が絡んでくるのだ。アイテムのドロップや敵との遭遇率以上に、運は戦闘を左右することがある。
「たかが運ごときで……!なら!運も防御も攻撃も関係ない!これで終わらせてやる!最大火力、エクスプロージョン!!!」
呪文を唱えた直後、直輝を中心に半径10メートル程の炎の円が出来上り、数秒後に巨大な火柱を産み出しながら爆発した。
「これなら……!」
勝利を確信した。しかし、勝利で清々しい表情をしていた顔は、すぐに絶望で青ざめた物へと変わってしまう。
「たく……街に被害出すなよ」
「やっぱ生きてたか」
「当たり前だろ」
「そんなことだろうとは思ってたけどよ。後ろ見てみろ。地下室壊れかけてるぞ」
「なに!?」
スライムに言われて後ろを振り返ると、貼り付けた屋根と瓦が一部消し飛び、部屋の中は水浸し、壁には亀裂が入っており柱も焦げて一部が炭になっている。
「あぁ……作り直しか……」
「アイツにやらせればいいだろ?」
「俺はこれでも社会人。子供相手に仕返しするつもりは微塵もねーよ」
「どこまでも僕をコケに……ゼアァァァァァア!!」
「少しは静かにしろ!!」
手をかざすと、無意識に魔法を発動し国王を吹き飛ばしてしまった。見たところ規模は小さいがエクスプロージョンの様だ。吹き飛ばされた国王は伸びている。
「エクスプロージョン?」
「いや。多分それはコピーだな。最後に見た魔法を再現し発動を可能にする魔法。と言えば聞こえは良いが、コピー出来るのは敵が最後に使った魔法で、コピー故に威力も範囲も随分弱体化される」
「なんだよ。勿体ねー魔法覚えちまったな~」
「まぁ使いどころが難しいだけで、使えなくはないだろ」
覚えたての魔法の説明を受けながら、ボロボロになってしまった地下室の修繕に入ろうとした。だが、国王が周りに置いていた女性が集り、各々なにかと直輝に文句を大声で言い始めた。
「待ちなさい卑怯者!一体どんな手を使ってケンジに勝ったの?!」
「アンタみたいな下級冒険者風情に、ケンジが負ける筈無いわ!!」
「早く何をやったのか言いなさい!」
「そうよ卑怯者!!」
「卑怯者!!」
女性達からは卑怯者コールが始まるが、当の直輝は風か何かの様に受け流していた。が、すこし煩く感じたのか、コピーでエクスプロージョンを放って黙らせた。
「女に対して容赦無さすぎるだろ?!」
「俺は男だとか女だとか、そんな下らん物で人への対応を変えるつもりはない。これでも男女平等を唱ってる側の人間だからな」
女性達を丸々無視して、屋根を取り外し柱を治し、そして溜まった水を取り除いていく。これだけの作業で1日が終わってしまった。
そして夜になり、フリザが街に戻ってくるとすぐに直輝の家に向かって食事をご馳走になる。
「何でそんなにボロボロなんだ?」
「天界に行って神とアスカロンについて話してきたんですが、やはり自身の所有物としていたようで。それで少し喧嘩になりました。私としても少ししばきたかったので、問題は無かったんですけどね」
この人の底知れぬ力に恐怖を覚え、この日は寝るだけとなった。明日は朝からドラゴン討伐で忙しくなるだろう。
あ、国王の一人称を俺から僕に変更しました。
次回もよろしくお願いします。感想とかもついでにどうぞ。