分けてupしてしまいました。
最初から日本行きに賛成だったわけではないし、何かを期待していたわけでもない、本国での舞台公演の評価が決してよい評判とはいえなかったからだ。
人気がなければ予定公演がすぐに打ち切りなんて事も決して珍しくはない、だが、どこでどんな評価をしてくれる人間が以内とも限らないし、外国で人気が出て、それが本国に入ってくる逆輸入パターンというのもある、昔の古い映画をリメイクして舞台に、手がけた監督が日本贔屓だったこともあり、舞台がヒットしたしたのは驚きだった。
この映画の大ファンが日本にいて海外まで観に来たのがきっかけとなり、ネットで噂が拡散した。
日本上演が決定したとき、気分転換だ、行ってみようと思ったのは気分転換といつてもよかった、そして今。
隣の席で彼女は幕の内弁当とビールを前にして、こちらを見ている、この展開に戸惑っているのはわかるが、それは自分もなのだ。
遠慮しないで、さあ、食べてと勧めるとようやく、彼女は食べ始めた。
CDショップから駅まで、そして今、新幹線の自由席の中、先程通りかかった車内販売で駅弁とビールを買い渡すと彼女は随分と恐縮して、代金を払おうとしたが断った。
ずっと話して歩き続けていたので、喉も渇いただろうし、夕方なので食事にはいいタイミングだと思った。
「んっ、うまい」
思わず声に出すと隣の彼女も美味しいですねと頷き、箸をつけるが、その時、気づいた、見られているような、視線を感じるのだ。
ああ、煮物って久しぶりだわ、箸で摘んだこんにゃくを口に入れて噛みしめた瞬間、何とも言えない気分になった彼女はふと視線を感じて顔をあげた。
すると通路で立ち止まった若い男性が、じっとこちらを見ているのだ。
「リョウちゃん」
少しハスキーな声で名前を呼ばれて驚いた。
「すごい偶然、で」
青年は隣の席の外人を見た、いや、見たというより、その視線は何か言いたげな視線だ。
すると、急かすように邪魔したらダメでしょうと若い女が男の肩をつついた、」
「気になるじゃない、もしかしてナンパとか」
男の言葉に木桜涼はげんなりとした。
「今、食べてる最中だから」
構わずに、あっちに行ってくれと思った感情を男の隣にいた女も読みとったのだろう。
「ほら、お邪魔だよ、行って、行って」
背中を押すような言葉にようやく静かに鳴ると内心ほっとし、箸を動かし食べようとしたとき。
「もしかして、彼氏、恋人ですか」
いきなり隣から声をかけられて驚いた。
「ち、違いますよ、ただの知り合いです、ちょっとイケメン、ハンサムでしょう、売り出したばかりだけど、彼、役者なんです」
なんで、こんな場所で知り合いに会うのか、もしかして舞台、仕事の帰りだろうかと思いながら彼女は隣を見た。
美味しそうに食べている様子に自分も食べ始めた、そして食べ終わると話の続きだ、しばらくして車内放送、会話が途切れた。
「もうすぐ、ですね、着いてしまいます」
「はい、色々と話しができて楽しかったです」
弁当とビールの代金はうけとってもらえず、ホームで待っている間、正直、妙な気まずさを感じてしまった。
「あ、あのー」
「なんです」
ついさっきまでは色々なことを話していたのに、この居心地、気まずさは何だろうと思ってしまう。
「色々とありがとうございます、初対面なのに」
「そうですね、でも、あなたは、いい人ですし」
正直、いい人なんて言われても返答に困ってしまう、いや、あなたのが、いい人でしょうと思いながら、それを言葉にしようとして、はっとしたのは相手が笑っているからだ。
「沢山、話せて、お弁当も美味しかった、とても楽しかったです」
「あっ、それは私もです」
「だったら、今度デートしましょう」
「デートしましょう」
今まで学生の頃、何回、この言葉を口にしたのか、卒業してからはどうだろう、大抵、その場では「いいわ」と返事をもらっても、そこから先がうまく続かないのだ。
ところが返事を聞く前に視線を感じて振り返ると先程の青年だ、おっさん、ナンパかよ、この台詞には聞こえないふりだ。
彼女は驚いた顔を見ていると嬉しくなった、多分、断ることはないだろうと思ったからだ、自惚れだといわれたら、それまでだが。
突然、閃いた、ポケットから出した携帯を彼女の手に握らせたのだ。
「電話しますね」
ドアの向こう、窓から見える彼女は慌てていたが、反対に自分は驚く程冷静だった、何故なら、これでまた会って話ができるという確実な約束ができたからだ。
新幹線の座席に腰を下ろして、ほっと一息つく、正直、自分でもどうしてと思わずにはいられなかったが、新幹線もだが、自分の行動もそれと同じくらいの速さで走り出したのではと思わずにはいられなかった。