ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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㊗️☆100話!


第100話〝漢を見せろ野朗共〟

 砂漠の向こうに、大きな砂埃が見える。

 その正体が、王宮に向かってくる反乱軍だと知りながら、ビビたちは決してそのから動こうとはしなかった。

 

「いいのよ? カルー、ここにいなくても…」

「グエッ」

「踏みつけられても知らないから…‼」

 

 ガタガタ震えるカルーも、ビビの言葉に首を横に振る。

 相棒として、友として、自分だけ逃げるなどあってはならない選択だった。

 

「…ペットは飼い主に似るってやつかな」

「ああ…確かにそっくりだ」

 

 エドワードとアルフォンスもそんな頑固者を見やり、自分たちも似たような物であると苦笑する。

 今の兄弟にとって、ここにいるのは自分の願いの為ではない。

 仲間の願いをかなえるためだ。

 

「全体散るな!!! 南門一点突破!!! 次いで全門内部から討ち崩す!!! 覚悟を決めろ!!!」

「「「「「ウオオオ――!!!」」」」」

 

 戦闘の馬に乗るコーザの声で、背後に続く反乱軍が咆哮を上げる。

 何があろうとも決して止まりはしない、退きもしない、そんな不退転の覚悟を感じさせる咆哮だった。

 そんな彼らの前で、ビビは一人、両手を広げて立ち塞がった。

 

「止まりなさい!!!! 反乱軍!!!」

 

 怒号が響き渡る中であっても、非常によくとおるビビの声が放たれる。

 だがそれは、突如背後から撃ち込まれた砲弾による爆発で、無残にかき消されてしまった。

 

「おい‼ 今あの辺りに人影がなかったか⁉」

「人⁉ …バカ言ってる場合か‼ それより奴ら、もう撃ち込んできやがった…!!!」

 

 進行方向上で突然起こった砂埃に、反乱軍は怒りをさらに募らせる。

 彼らにとっては、自分たちを近づかせまいとする国王軍側の牽制に思えたようだが、その実態は違った。

 

「なによ…なによ…これじゃ視界が…」

「しまった……!!! 敵はもう向こう側にも混じってるんだ!!!」

 

 狙いすましたかのように目の前で上がる砂埃に、ビビやエドワードが愕然とした声を上げる。

 だがもう遅い。唯一声が届きそうだったタイミングが、今の砲撃によって奪われてしまった。

 

「怯むな‼ 突っ込めェ!!!! ただの砂埃だ!!!」

「だめよ!!!! みんな止まって!!!」

「我らが国の為!!! 王を許すな!!!」

 

 視界は砂埃で、声は反乱軍の咆哮で妨げられ、ビビの制止の声は届かない。

 怒りに燃える反逆者達には、真実を伝えようと足掻く力なき王女の声は、あまりに遠すぎた。

 

 ―――リーダー!!!!

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ、コーザの耳に聞き覚えのある声が届く。

 だがそれは、耳鳴りか錯覚としか思えないほどか細く、遠い声だった。

 

「どうした、コーザ」

「………⁉ ……いや…何でもない…‼」

 

 知っている声に気をとられたコーザだが、すぐに首を振って視線をアルバーナに戻す。

 リーダーである自分が、こんな調子ではだめだと自分に叱咤し、進軍速度をさらに上げた。

 

「待って、話を!!!」

「いいか、これが最後の戦いだ!!!!」

「リ…――――――」

 

 誰か一人でもいい、と声を張り上げるビビだが、反乱軍の勢いは一切止まらない。

 無数の馬たちの蹄が迫る中、目を見開いた彼女に大きな影が覆いかぶさった。

 

「行くぞ!!! 反乱軍!!!」

「来るぞ、砲撃用意!!!」

「アルバーナを攻め落とせェ!!!」

「数に怯むな、打って出ろ!!!」

 

 王女の必死の叫びも虚しく、反乱軍は南門に辿り着き、長い階段を駆け上がり王都へと侵入していく。

 あっという間に、突破しようと咆哮を上げる反乱軍と、それを防ごうと武器を構える国王軍が激突する、泥沼の地獄が作り上げられてしまっていた。

 

 

「アル‼ アルフォンス!!!」

 

 誰もいなくなった砂漠で、エドワードが弟に呼びかける。

 エドワードもビビもカルーも無事だったが、唯一アルフォンスだけがその鎧の体をボロボロにしていた。

 

「アルフォンスさん………あなた………私達を庇って……!!?」

「クエー…」

「……‼ 平気…です………!!!」

「ごめんなさい……こうまでしても…!!! 反乱は始まってしまった…………!!!」

 

 迫りくる反乱軍に、ビビはいつの間にか巻き込まれ、危うく踏み潰されそうになった。

 それを身を挺して守ったアルフォンスに、ビビは申し訳なくて仕方がなかった。

 

「…だけど止めるわ!!! 何度はね返されたって…!!! 船でちゃんと学んだのよ!!! 諦めの悪さなら!!!」

 

 キッと涙をこらえ、ビビは顔を上げて首都を見据える。

 まだ止められる。ここで諦めたら、それこそすべてが終わってしまう、そう自分を鼓舞する。

 そこに、新たに蹄の音が近づいてきた。

 

「ビビ!!! こっちに乗れ!!!」

「ウソップさん!!!」

()()()のはもうダメだっ!!! 急がねェと反乱はひどくなる一方だぞ」

 

 白馬にまたがったウソップが、真剣な表情でビビを呼ぶ。

 だが、一瞬それに応じかけたビビは、ウソップが口にした言葉に違和感を覚え、表情を凍らせる。

 

「どうした、早くこっちに………!!!」

「………ウソップさん…⁉ 証明して………!!!」

 

 訝しげに尋ねてくるウソップに、ビビはかたい表情で問う。

 ウソップは得意げな顔で、ビビたちに布を巻いた左腕を見せた。

 

「おい、おれを疑うのか⁉ ほら」

 

 その行為で、ビビたちは違和感が正しかったことを確信した。

 

 ―――いいか、あのオカマ野郎の変身は完璧だ。

    いつ、この中の誰かになりすましてビビの命を狙ってくるかもしれねェ。

    仲間を少しでも妖しいと感じたら…………この包帯を()()()〝印〟を見せあう。

    それができなきゃニセ者だ。

 

 ゾロが提案した、仲間と仲間に変装した敵との見分け方。

 目の前のウソップがそれを完全にできなかったことで、ビビ達はすぐさま、目の前の彼が敵だと判断できた。

 

「カルー!!! いけ!!!」

「クエ――ッ!!!」

「アルフォンスさんっ!!? エドワードさん!!?」

 

 エドワードが前に立ち、それに応じたカルーがビビを背中に背負って走り出す。

 予定と違う反応に、ウソップにすり替わった敵は、にやりと黒い笑みを浮かべてエドワード達を睨みつけた。

 

「……全員が同じ印を巻いていたと0ちゃんから報告があったのにねい」

 

 その顔に左手が触れ、一瞬で変化が起こる。

 凄まじき変身能力を持つエージェント、Mr.2・ボン・クレーは、忌々し気に目を細めた。

 

「チィ…!!! 何でバ~~レたのカ~~~シラね~~~~い♡」

「やっぱり…!!! Mr.2…!!!」

 

 エドワードが右腕に刃を生やし、ボロボロのアルフォンスが無理矢理体を起こす。

 立ちはだかる一度は友と呼んだ青年たちの前で、Mr.2・ボン・クレーは独特な拳法の構えを取った。

 

「おどきなさ~~い!!! 友達(ダチ)でも容赦しないわよ~~~う!!!」

「ここから先には…!!! 王女様のところへは行かせない……!!!」

「かかってこいやオカマ野郎!!!」

「エドワードさん…‼」

「振り向くなァ!!!」

 

 ビビは遠くなっていく二人に、悲痛な声を上げる。

 だが、組織でも指折りの実力者である男を相手にし、エドワードとアルフォンスはとうに決死の覚悟を決めていた。

 

「あんたはただ…‼ 前に向かって進みやがれ!!! この反乱を…あいつらの野望を止めてくれ!!!」

「逃~~がさな~~~~いわよ~~~う!!!!〝オカマデャ――ッシュ〟!!!」

 

 優先すべきはビビの命だと判断し、Mr.2・ボン・クレーはとんでもない跳躍でエドワード達の頭上を跳び越えようとする。

 だがその足に、エドワードがすぐさま縋りついた。

 

「ぶべばっ!!!」

「行かせねェっつってんだろうが…!!! げふっ!!?」

 

 しがみつくエドワードは、強烈な蹴りを受けて吹っ飛ばされてしまう。

 すぐに向かおうとするアルフォンスも、歪んだ鎧ではうまく動けないのか簡単に蹴り飛ばされてしまった。

 

「コザかしいのようっ!!!」

「行かせるかよォ!!!」

 

 だがどんなに足蹴にされ、張り倒されようと、兄弟は決してMr.2・ボン・クレーから手を離さない。

 その懸命な努力は、ついに実を結んだ。

 

「デふっ!!!」

 

 しつこい兄弟の奮闘に苛立っていたMr.2・ボン・クレーが、突然後頭部に衝撃を受けて吹っ飛ばされる。

 奇妙な体勢で、砂地の上を顔面から滑っていった。

 

「だバダバださバダバダバダ…!!!」

 

 遠く離れた岩場に激突するMr.2・ボン・クレーを、着地した二匹のカルガモが睨みつける。

 満足げな彼らに、エドワードとアルフォンスは大きく目を見開いた。

 

「お前ら…!!!」

「よくやったな、エルリック兄弟。男だぜ…!!!」

 

 にやりと笑みを浮かべ、一味のコックが悠々と歩み寄る。

 兄弟を背にした彼は、敬礼するカルガモたちにちらりと視線を送った。

 

「おめェらも…さがっていいぞ」

「サンジさん…‼」

「おっせェよ…色男‼」

「そのオカマ、おれが引き受けた」

 

 サンジに促され、兄弟は傷だらけの体に叱咤して立ち上がり、王都に向かって走り出す。

 ちょうどそのタイミングで、Mr.2・ボン・クレーが復活して怒号を上げた。

 

「ジャマすんじゃないわよ――う!!! 誰!!? あんた誰!!?」

「行け!!!」

「おう…‼」

 

 振り向きそうになるエドワード達に吠え、サンジはMr.2に向かって駆ける。

 Mr.2・ボン・クレーもまた、新たな邪魔者に対し怒りを燃やし、突進を始めた。

 

「アァンタ!!! ジョ~~ダンじゃな――いわよ―――う!!! 死になサ~~~~~イ!!!」

「とりあえずてめェにゃ、ウチの狙撃手の大切なゴーグル…返して貰おうか」

 

 互いに面識のない、しかし敵対していることだけを理解している男二人が、激しくぶつかり合った。

 

 

「ウェあ!!!」

 

 兵士の一人を叩き伏せ、戦場を駆けていたコーザはいったん物陰に潜る。

 その顔が苦痛に歪むのを見た仲間の一人と傷の男は、コーザを案じる様子を見せた。

 

「コーザ!!! お前、まだナノハナでの銃弾が…‼」

「ここは戦場だぞ、そんな事はどうでもいい!!!」

 

 自分の痛みすら斬り捨てるコーザに、二人は何も言えず口を閉ざす。

 銃弾の飛び交う地獄を見やったコーザは、斃れてしまった自軍の馬を見やって眉間にしわを寄せた。

 

「馬を何とか奪いたい…‼ この通りを抜けて中心街を通れば、宮殿のある北ブロックへ入れる‼」

「宮殿へ⁉ 何をする気だ!!!」

国王(コブラ)に降伏を要求する!!!」

「バカ言え‼ 北ブロックにはチャカやペルを含んだ国王軍本体がいるんだぞ‼ 反乱軍(おれたち)だってまだ集結しきってない‼ 他の町からまだ援軍だってやってくるんだ‼ お前一人先走る必要はないだろ!!!」

 

 戦いはまだ始まったばかり、戦況も明らかになっていない状況下でそんなムリを通す必要はないと仲間は止めるが、コーザの決意は固かった。

 

「……もう遅いくらいさ。ここは任せるぞ、旦那!!! 手を貸せ!!!」

「おい、コーザ!!!」

 

 一人で向かってしまうコーザの背中を、傷の男は険しい表情で見やる。

 その時、背後から迫ってきた国王軍の兵士がいたが、傷の男は振り向きもせずに顔面を掴む。

 

「死にたくなければ大人しく寝ていろ…‼ 我は今……機嫌が悪い…!!!」

 

 ゴキィ‼と頭蓋骨をやられた兵士が、白目を剥いて倒れこむ。

 多大なダメージを受けているが、傷の男が加減したのかまだ死んではいなかった。

 コーザの願い通り、この場を引き受けようと腰を上げた傷の男だったが、その目にある乱入者の姿が映った。

 

「おらァ!!!」

 

 即席で作った槍を振り回し、エドワードが兵士と反乱軍を殴り飛ばす。

 どちらも腕にバロックワークスの刺青が見えたためだったが、周囲からすれば正気を疑う暴挙だった。

 

「クソッ…‼ ややこしくて仕方ねェ…王女さんともだいぶ引き離されちまった……‼」

「どこに潜んでるかわかったもんじゃない‼ もっと目立つような目印があればいいのに…!!!」

 

 戦いを煽る人間がいる以上、先にそちらを叩かねば止めることは難しい。

 そう思って戦場を走りつつ、ビビの姿を探す兄弟だったが、もはやそれすらも難しくなっていた。

 険しい顔で立っているエドワードに、兵士を装ったエージェントの一人が銃口を向けた。

 

「チッ…余計なマネしやがって…死……ねんっ!!?」

「ストライク‼」

「ボクの頭を弾代わりにしないでよ!!!」

 

 だが、とっさに反応したエドワードがアルフォンスの兜を投げつけ、見事に命中させる。

 頭を取り戻しに行くアルフォンスをよそに、エドワードは歯を食いしばった。

 

「とにかく追いつかねェと…‼」

「お…おい‼ き……君は‼ エルリック・エドワードか!!?」

 

 いざ動こうとしたエドワードに、兵士の一人が信じられないといった様子で声を変える。

 訝し気に眉を寄せたエドワードは、次の瞬間思わず目を見開いた。

 

「あ‼ なんか見覚えのあるような…」

「なんで君がこんな所にいるんだ⁉ ここは君のような子供がいていい場所では…‼」

「それどころじゃねーんだっての!!! さっさと王女さんのところに…」

 

 巻き込まれただけ、とでも思ったのか、親切心を働かせて近寄ってくる兵士にエドワードは焦りを見せる。

 ここで足止めを食っている場合ではないのだ、と伝えようとした時だった。

 

「エルリック・エドワード…鋼の錬金術師…!!!」

 

 凄まじい殺気が、エドワードに襲い掛かった。

 兄弟にはとんと見覚えのない褐色の男が、サングラス越しに濃厚な殺意を表していたのだ。

 だがその格好に、兵士の一人が愕然とした表情を見せた。

 

「国家錬金術師……世界政府の…狗……!!!」

「き…貴様‼ その額の傷……まさか…!!? 世界的指名手配犯の……国家錬金術師殺しの…〝傷の男(スカー)〟!!!」

 

 いつだったか王宮にもたらされた、凶悪な犯罪者の手配書。

 それと全く同じ顔が目の前にあることに動揺し、兵士は咄嗟に銃口を突き付けていた。

 

「よせ‼」

 

 いやな予感がしたエドワードが止めたが、すでに遅かった。

 ガシッと顔面を掴まれた兵士は、青い閃光を食らったかと思うと、全身から血を噴き出させて白目を剥いた。

 

「神の道に背きし錬金術師、滅ぶべし!!!」

 

 倒れこむ兵士を放置し、傷の男はエドワード達に向かってゆっくりと近づいていく。

 その姿は、まさに狂人のそれであった。

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