ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第102話〝白旗を振れ〟

 時は少し遡り、ビビ達がレインベースを後にした少し後。

 とある高い塔のような建物の最上階で、ミス・チューズデイことホークアイ・リザは窮地に陥っていた。

 

「くっ…‼」

 

 ギリギリとMr.0.5の大きな手で上半身を掴まれ、拘束されたリザは苦悶の声を上げる。

 数百メートルは離れて狙撃していたのに、簡単に居場所を嗅ぎつけられたことが今だに信じられない。

 

「もうおわり? おわり? 食べていい?」

 

 (ピストル)で頭部を撃ち抜かれながら、Mr.0.5は痛がる様子も見せず、がぱっと大きく口を開く。

 するとそこへ、小さな黒い影が勇ましく吠えながら飛びかかった。

 

「ハヤテ号!!?」

「あううぅうるさい~~~~じゃま~~~~~~~」

 

 黒い犬に噛み付かれ、鬱陶しそうにMr.0.5が振り払おうとする。

 その隙にリザが拘束から逃れると、ハヤテ号と呼ばれた犬と一緒にやってきた同僚の方へ駆け寄った。

 

「中尉!!!」

 

 援護にやってきたフュリー少尉は、リザとともにハヤテ号に翻弄されるMr.0.5に向けて発砲し、窓際に追い込んでいく。

 だが、多少よろけさせることはできても、しばらくして弾切れを起こし、突き落とすことは叶わなかった。

 

「弾切れ? 弾切れ? それじゃいただきま~~~す」

 

 やっと鬱陶しい邪魔がなくなったと、Mr.0.5が満面の笑みでまた口を開く。

 だが次の瞬間、その顔面に岩石のような拳が突き刺さり、Mr.0.5はあっという間に窓の外へ吹き飛ばされた。

 

「少佐…‼ 今までどこに!!?」

「民間人と兵士に偽装した連中に邪魔されてな……片づけるのに時間がかかってしまった」

 

 目を見開くリザとフュリーに、ところどころから血を流すアームストロングが、荒い呼吸で顔をしかめた。

 異形の男と戦闘を繰り広げていた二人に、アームストロングは悔しげに歯をくいしばる。

 

「この様子では、真相については我輩が伝えるまでもなかったようであるな……」

「大佐とエレノアさんが今、エージェントの一人と交戦中です」

「ならば、あの怪物の相手は我輩が担わねばならぬな」

 

 未知数である、敵の組織のNo.2の実力者達。

 味方の最大戦力が対応していると聞けば、自分も力を振るわねばと、アームストロングは拳を鳴らす。

 

「あゥ~…痛い~…」

 

 一方、塔の真下に墜落したMr.0.5は、全身に赤い閃光を走らせながら泣き喚く。

 しばらくわめいていた彼だったが、ふとした瞬間に黙り込み、ガバッと体を起こして立ち上がった。

 

「…………わかった~」

 

 その声は、アームストロング達には届かなかった。

 彼らには、Mr.0.5がいきなりどこかに向かって走り出したように見えていた。

 

「ぬ!!?」

「移動した…?」

「追うぞ!!!」

「え、ぎゃああああああああああああ!!?」

 

 突然動き出したMr.0.5に嫌な予感を覚え、アームストロングは突然リザとフュリーを抱えて塔から飛び降りた。

 ズシン、と地面を陥没させてアームストロングは着地し、リザとフュリーを下ろして走り出した。

 

「この方向は……もしや王宮か!!? 先に向かった王女ビビを狙うつもりか!!!」

「急ぎましょう…‼」

 

 突然の落下でヘロヘロになったフュリーを引きずり、アームストロング達はものすごい速度で走っていくMr.0.5を追い続けた。

 

 

「チャカ様…!!?」

「悪夢だ………何て事に…………!!!」

「後方には、もう反乱軍が迫ってきてるぞ…!!!」

 

 王宮の外に締め出された兵士たちが、目の前に広がっている光景に絶句する。

 王国最強の戦士が、それに助太刀しようと立ち塞がった鎧の大男が、たった一人になすすべなく叩きのめされているのだから。

 

「チャカ!!!! アルフォンスさん!!!!」

「弱ェってのは…罪なもんだ…」

 

 クロコダイルは血に濡れたフックを掲げ、血まみれのジャッカルの獣人と鎧の大男を踏みつける。

 誰も、この男に傷をつけることさえ叶わなかった。命を削る水を飲んだ四人の戦士も、同じ悪魔の実の能力者も、錬金術師も、誰も触れることさえできなかった。

 

「ビビ!!!」

「王女さん…‼」

 

 そこへ、息を荒げさせ、困惑した様子のコーザと機械鎧を破壊されたエドワードが姿を現わした。

 

「コーザ!!! エドワードさん!!!」

「…………これは、どういうことだ…!!!」

 

 エドワードは弟の体がボロボロにされていることに、コーザは国王コブラが磔にされ、血を流している姿に絶句していた。

 自分の目が信じられないと、大きく目を見開きながら。

 

「お前……‼ 昔使った〝抜け道〟から…………!!?」

「……おれの目はどうかしちまったのか…………!!? …………国王軍を説得に来たつもりだったが…………!!!」

 

 戦場を駆け抜け、国王の最後の良心に訴えかけるつもりだったコーザ。

 だが今目の前に広がっている光景は、そんな考えや自分の根底を吹き飛ばしてしまうほどに衝撃的だった。

 

「その国王が…〝国の英雄〟に殺されかけてる…!!! 信じ難い光景だ………!!!」

「クハハハ‼ 面白ェ事になったな‼」

 

 ワナワナと震えるコーザを、クロコダイルは実に愉しそうに嘲笑する。この状況を、本気で喜んでいるようだった。

 ミス・オールサンデーもまた、コーザにクスリと笑みを浮かべていた。

 

「今まさに、反乱の最中だってのに…!!! 互いの軍の統率者(リーダー)がここで顔を合わせちまうとは、もはやこの戦争は首をもがれたトカゲの殺し合いだ…………!!!」

「困惑してるみたいね…簡単よ? あなた達がイメージできる『最悪のシナリオ』を思い浮かべればいいわ」

「コーザ、あのね…」

「ネフェルタリ・ビビ……‼」

 

 どこから説明すれば、と悩みながら口を開くビビだったが、それを阻むもう一つの声。

 エドワードを追って、王宮内へ侵入を果たした傷の男までもが、肩を震わせながら立ち尽くしていた。

 

「何がどうなっているのかは我にもわからん…!!! だが一つだけ聞かせろ……この国の雨を奪ったのは、誰だ…!!!?」

「………‼ 何もかも」

「おれさ‼ …コーザ、スカー、お前達が国王の仕業だと思っていた事全て―――我が社の仕掛けた〝罠〟だ」

 

 自慢げに語るクロコダイルに、コーザと傷の男は太く血管を浮き立たせる。

 怒りに燃える二人の姿さえも、クロコダイルは愉快そうに眺めていた。

 

「お前達は、この2年間…面白い様に踊ってくれた。王族や国王軍が必死におれ達の影をかぎ回ってたってのにな…!!! お前はこの事実を知らねェ方が幸せに死ねただろうに…!!! クハハハハハ!!!」

「聞くなコーザ…!!!」

「国王……!!!」

 

 杭で両腕を貫かれ、王宮の壁に磔にされたコブラが、愕然としているコーザに語りかける。

 多くの血を流しながら、彼の目から力は失われてはいなかった。

 

「お前には、今やれる事がある……!!! 一人でも多くの国民を救え!!!」

「アと…半時モせズ、宮殿広場が吹き飛ばされるノだ!!!」

「何だと……!!?」

「まだ息があったのか…………‼」

 

 余計なことを言うな、とでも言いたげにクロコダイルがチャカを見下ろす。

 思わず飛び出しかけたコーザだが、その前にビビが飛びついて押し倒した。

 

「ダメよ!!!!」

「おい!!! どけビビ、何のつもりだ!!! これから戦場になる広場が爆破されたら」

「戦場にはさせないっ!!!」

 

 一刻も早くみんなに知らせねばとコーザは焦るが、ビビはそれをあえて遮る。その必死な表情に、頭に血を昇らせていたコーザは思わず口をつぐんだ。

 

「あなたはまだ気が動転してるのよっ!!! 広場が爆破されることを今、国王軍が知ったら……!!! 広場はパニックになる…………!!! そしたらもう戦争は止まらない!!! 誰も助からない!!!! そうでしょう⁉」

「ホウ、ご立派な判断だ………‼」

 

 逼迫したこの状況下で冷静にものを考えられるビビに、クロコダイルは思わず感心した声を上げる。

 それを無視し、ビビは真剣に耳を傾けるコーザに懇願する。

 

「やるべき事は始めから決まってるの………!!! この仕組まれた反乱を止める事よ……‼ それはもう、あなたにしかできない!!!」

「それをおれが、黙って見てるとでも思ってるのか?」

 

 さらりと砂が舞い、ニヤリと笑みを浮かべるクロコダイルがビビの背後に現れる。

 だがそこへ、青い閃光を迸らせる傷の男の掌底が迫り、クロコダイルはチッと舌打ちしながらビビから離れた。

 

「ウオオオオオオオ!!!」

「おっと危ねェ……流石のおれもそいつは効くぜ」

「貴様は……!!! ただ殺すだけでは事足らん!!!」

 

 怒り狂う傷の男が、余裕の表情で立ちふさがるクロコダイルを執拗に狙い、右腕の掌底を振るう。

 その時、鬼の形相で元凶に襲いかかる傷の男に迫る影があった。

 

「失せろ…!!!」

 

 傷の男は振り向くことなく、近づいてきた存在の顔面を掴み、人体破壊の力を容赦なく振るう。

 だが襲いかかった存在・Mr.0.5は止まらず、目を見開いた傷の男の脇腹を握りつぶし、力尽くで放り捨てた。

 

「スカー!!!」

 

 血を吐いて、王宮の壁に叩きつけられる同志にコーザが声を上げるが、クロコダイルは構わずビビ達に近づいていく。

 フックを振り上げ、今度こそビビを狙うクロコダイルだったが、その寸前で立ちはだかる二人の姿があった。

 

「エドワードさん!!! チャカ!!!」

 

 甲高い音を立てて、クロコダイルのフックが剣と機械の左足に防がれる。

 いまにも倒れそうな二人は、血反吐を吐きながら鋭くクロコダイルを睨みつけた。

 

「我…アラバスタの守護神、ジャッカル!!! 王家の敵を、討ち滅ぼすものなり………!!! 命寸分でもある限り、私は戦う」

「ウチの姫さんに手ェ出そうとしてんじゃねェよ…!!!」

「…………そういうのを、バカってんだ………」

 

 鬱陶しそうに葉巻から煙を吸うクロコダイル。

 そのこめかみに突如銃弾が食らいつき、一瞬クロコダイルの意識が脇にそれ、エドワードが思わず振り向いた。

 

「中尉!!!」

「サー・クロコダイル…‼ これ以上の手出しは許さないわ…!!!」

 

 王宮の壁の上で銃を構えているリザに、エドワードやアルフォンスはニッと笑う。

 エドワードの位置からは見えないが、壁の向こう側にはリザを押し上げたアームストロングの姿もあった。

 

「コーザ、ビビ様、思うままに‼ ……まだ私にとて数分の足止めくらいはできましょう!!!」

「うん」

「チャカ……‼」

 

 クロコダイルからビビを守るため、チャカとエドワードは満身創痍の体で立ちはだかる。

 ビビは頷き、扉の外にいる兵士たちに向けて声を張り上げた。

 

「降伏の白旗を!!!! 今すぐ降伏しなさい!!!『国王軍』!!!!」

 

 ビビに告げられた命令に、兵士たちは困惑する。

 それはつまり、王が国民に屈したと認めるようなもの。いまだけなら事態は収束するかもしれないが、どんな影響があるか分かったものではなかった。

 

「ビビ様‼ 何て事を………!!! 降伏!!?」

「そんな事をしたらこの国は一体どうなるんだ!!!」

 

 ドヨドヨとざわめく兵士たちだが、ビビの隣に立つ青年に気づくと目を見開く。

 まだここにたどり着いていないはずの、反乱軍のリーダーの姿に、誰もが驚きの目を向けた。

 

「おい見ろ、あれはっ!!!」

「コーザだ!!!」

「反乱軍のリーダーがなぜここに!!?」

「言う事を聞いてくれ!!! おれ達はもう勝利も‼ 勝負も望まない!!! この戦いを止めてほしいんだ!!!」

 

 疑惑の目を向けられながら、コーザは必死に兵士たちに叫ぶ。

 立ち位置からすれば、この場で殺される可能性もある敵軍のリーダーの声に、兵士たちは口を閉じざるを得なかった。

 

「反乱軍にはおれが知らせる、この戦いは無意味なものだったと!!! これ以上戦う理由はない!!! もうムダな血を流さない為にだ!!! 白旗を振ってくれ!!! 頼む!!!」

 

 命をかけたその懇願に、反論する兵士は誰もいなかった。

 

 

「王の首は目前だ!!!」

「時計台が見えた‼」

「宮殿広場に出るぞォ!!! 攻撃準備‼」

「撃ち込み用~~意!!!」

 

 防衛陣を突破し、王宮のすぐ目の前にまで迫った反乱軍。

 津波のような勢いで走り続けていた彼らは、宮殿広場を挟んだ先に見えた光景に気づき、目を見張った。

 

「待て!!!」

「え!!?」

 

 何人かが気づき、隣を走る仲間にその異様な光景を伝える。

 コーザを先頭に整列した兵士たちが、一斉に白い旗を掲げている姿に、反乱軍の誰もが驚愕の声をあげた。

 

「白旗!!? 国王軍が白旗を掲げてるぞ!!!」

「コーザさん!!?」

「戦いは終わった!!! 全体、怒りを治め武器を捨てろ!!! 国王軍には、もう戦意はない!!!」

 

 ビビが必死の思いで願う中、反乱軍の歩みは徐々に落ち着き、やがて完全に停止してしんと静まりかえる。

 ホッと安堵の息をつくコーザは、反乱軍の先頭にいる同志の一人を見つめた。

 

「本当に…⁉ コーザさん…!!!」

「ああ…もう戦いは――…」

 

 泣きそうな顔になる仲間に、コーザが真相の全てを伝えようとした時。

 コーザの背後から放たれた銃弾が、彼の体を貫いた。

 

「おのれ国王軍!!!」

「コーザ!!!!」

「コーザさァん!!!」

 

 白旗を血で染め、倒れていくコーザに敵味方双方から悲鳴が上がる。

 煙を吐く銃を手に、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる兵士に、すぐ近くにいた兵士が掴みかかった。

 

「貴様、なぜコーザを撃った!!?」

 

 彼は知らない。奇妙な刺青を刻んだその男が、国を脅かす組織の工作員の一人であることを。

 そして突然吹き荒れた砂まじりの風により、それを知る機会は失われることとなってしまった。

 

「何だ、急に砂塵が…!!?」

「ハ……反乱軍……‼ 聞け……!!!」

 

 混乱に陥る宮殿広場で、コーザが必死に呼びかけようと途切れそうな声をこぼす。

 だがそれは誰にも届かず、砂塵の中から放たれた別の銃弾によってさらなる混乱が呼ばれた。

 

「撃って来やがった!!! あいつら…!!!」

「この塵旋風は一体何なんだァ!!? 前方が見えねェっ!!!」

「奴ら…!!!」

「どうにもならねぇよ、バロックワークス(おれたち)ァ両軍に潜入してんだ…‼」

 

 視界を完全に遮る塵旋風の中、反乱軍にいた別の工作員が嗤う

 もう止まらない、止められない。疑惑は疑惑を呼び、止まりかけた怒りをさらに強く燃え上がらせていった。

 

「………!!! いけない…!!!」

「何が降伏だ…………!!! これが『国王軍』のやり方か…!!? 汚ねェマネしやがって!!!」

「お願い!!! みんな止まって!!! 戦わないで!!!」

「止まれ…………!!!『反乱軍』!!! ………コの戦イは…!!!」

 

 ビビが叫ぼうと、コーザが呼びかけようと、もうその炎は収まりはしない。

 歩み寄る決意を踏みにじられた両軍は、もはや互いを敵としか認識できなくなった。

 

「迎え撃て、『国王軍』!!!」

 

 アラバスタ史上最悪の戦いは、こうして始まってしまった。

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