ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「砲撃手を探すって!!? どうやって!!!」
街中で戦いが繰り広げられる中、ビビの言葉にウソップが思わず目を見開く。
反乱を止めるという目的が果たされなかった今、大勢の人々を救うにはそれしかないのは確かだが、到着したばかりの彼らにはいきなりすぎた。
「考えてるヒマはねェだろ。時間はあと10分しかねェんだ」
「でもお前っ、直径5kmってことは、少なくともここから2.5㎞は離れた所から狙ってんだろ⁉」
「いいえ‼ 違う…‼ おそらく…砲撃手はこの広場の近くにいるわ…‼」
「なんでだよ、そんなことしたらその砲撃手ごとドカーンと…」
言いかけたウソップは、その可能性に気づいてハッと声を途切れさせる。
他の者も、ビビの言いたい事に気づいてその表情を険しくさせた。
「…………
「味方が死んでもいいのか………!!?」
「食えねェ野郎だ……!!!」
「………じゃあさっさと………‼」
部下の命すらもゴミのように扱うクロコダイルに呆れながら、一刻も早く役目を果たさなければと足を踏み出しかける。
だがその直前、ゾロとサンジが刀と足を突き出し、ビビの背後に迫っていた悪漢を叩きのめした。
「うげェっ!!!」
「見つけたぜビビ王女ォ!!!」
「おめェを殺せばどこまで昇格できる事やら!!!」
「〝ビリオンズ〟!!!」
最終作戦に関わっていたバロックワークスの雑兵たちが、ビビたちを取り囲んで下卑た笑みを浮かべていた。
その数は、戦乱の中であることを踏まえても把握しきれなかった。
「10分ひく…何秒だ」
「オイオイ、話してる時間ももったいねェぞ」
「「2秒だ」」
ならばとっとと片付けてしまおうと、ゾロとサンジが互いに顔を見合わせて示し合わせ、各々の武器を持って踊りかかる。
しかしその直前、包囲の後ろの方にいたビリオンズの何人かが、まとめて空中に吹き飛ばされるのが見えた。
「なっ…何だァ!!?」
突然のことに、ビリオンズだけでなくゾロとサンジも目を見開く。
煙が一瞬晴れ、倒れ伏す悪漢たちの中心に立っている、筋骨隆々の豪傑の姿を目にし、ゾロは言葉を失くした。
―――ダチ公…!!!
―――来い!!!
シグは立ち尽くすゾロに、手をくいっと曲げて挑発するように促す。
この国で出会った新たな友の無言の激励に、ゾロの胸にさらなる激情の炎が湧きあがった。
「ゥ…ウオオオオ!!!!」
雄叫びとともに、ゾロは残るビリオンズに襲い掛かる。
サンジが唖然とするのをよそに、あっという間にビリオンズは片っ端から叩きのめされ、悲鳴と破壊音があたりに響き渡った。
「先行くわ!!!」
「散り散りになれ‼ とにかくまず塵旋風の外へ出るんだ‼」
「逃がすかよォ!!!」
ゾロたちが気を引き付けている間にと、ビビたちは一斉に広場から駆け出した。
それを追おうと、ほとんど満身創痍のビリオンズたちが立ち上がろうとするが、それよりも先に突然地面が盛り上がり、手の形になって彼らを思い切りぶっ飛ばしていた。
「ギャ~~~~~!!!」
「人ん家の近くでドンパチドンパチ……あんた達は近所迷惑って言葉を知らんのか…!!!」
ぼたぼたと落下していくビリオンズたちを、からころとサンダルを鳴らしてその場を訪れた一人の女性がねめつける。
にやりと獰猛な笑みを浮かべつつも、隠しきれない苛立ちをあらわにしているその女性は、バキバキと拳を鳴らして彼らの前に仁王立ちした。
「若い奴らが頑張ってるんだから、わたしらもちっとは手助けしてやろうかと思ってきてみれば………あとはあんたたちみたいなザコばっかりとはね。がっかりだよ…‼︎」
馬鹿にされているとわかり、すでにボロボロのビリオンズに怒りの色がにじむ。
裏稼業の人間が、エプロン姿のどう見ても一般人にのされたとあっては、プライドが許さなかった。
「いきなり出てきて意味わかんねェ説教かましやがって…‼」
「てめー何者だ‼」
声会荒げて吠える、子供なら間違いなく鳴き喚く人相の悪い悪漢たち。
そんな彼らに、イズミは自分を親指で指しながら高々と名乗ってみせた。
「主婦だッ!!!!!」
「ヌゥッ!!!」
バリバリと閃光を走らせ、傷の男が破壊の右腕を振るう。
再生する手間を惜しんだのか、Mr.0.5はその場から飛び跳ねて躱すが、そこへマスタングが炎の槍を放ってくる。
だが危うくエドワードとアルフォンスを巻き込みかけ、エドワードが目を剥いた。
「あっっぶねェなオイ!!!」
「どけ、
「貴様の方こそ邪魔だ!!!」
「大佐、前‼ 前‼」
それぞれ、自分がこの異形を討ち取ると意気込んでいるため、まともな共闘もできていない。人数では非常に有利になっているはずなのに、軍配はどちらかといえばMr.0.5の方に偏って見えた。
「いたい~…あつい~………もうおこった」
しかしそれでも、何度も破壊され焼き焦がされを繰り返されたために、Mr.0.5はその丸い顔に怒りを滲ませていく。
すると不意にその口が大きく開かれ、その中で赤い閃光が走ったかと思うと、無数の瓦礫や焔が一斉に吐き出され始めた。
「〝
家屋の壁や、マスタングやエレノアの炎。今まで彼が飲み込んできた物の全てが吐き出され、弾丸としてエドワード達に襲い掛かる。
それぞれ傷を負ったエドワード達は咄嗟に動けず、攻撃を食らいかけるが、突然目の前に分厚い土の壁が作り出され、盾となってくれた。
「少佐!!!」
「無事であるか、お前達!!!」
メリケンサックを構えたアームストロングが、安堵した様子でエドワード達のもとに駆け寄ってくる。
そして、異様な力で暴れまわるMr.0.5に視線を移し、冷や汗を流した。
「…驚いた…‼ 食うだけでなく、食ったものを吐き出すこともできるのであるか…!!!」
「ナメるな、肉ダルマが…!!!」
「待て‼
怒りに振り回され、策を講じる事なく突っ込んでいく傷の男に顔をしかめ、マスタングもそれに続く。
しかし触れただけで破壊する手も、全てを焼き尽くす炎も、俊敏に動き回り何もかもを呑み込む不死身の化け物には通じていなかった。
「倒すどころか、攻撃をくらわせることもできぬとは…‼ 一体、どうすればよいというのか…!!!」
「…………別に、倒す必要はねェんだ」
「何……⁉」
何か思いついた様子で、エドワードが真剣な表情を見せる。
アルフォンスはそんな兄に驚愕の視線を向け、すぐに何をしようとしているのか察したのかハッと顔を上げた。
「おれ達がやらなきゃならねェのは……ビビを狙う敵を退けること…そして広場の爆破を防ぐこと……!!! とにかくあいつらを行動できなくすれば、事態を収束させられる…!!!
「だ、だが…‼ そんな事があれにできるのか……!!?」
「策ならある…!!! 少佐、手伝ってくれ‼」
王宮から移動した、アラバスタ王家に伝わる地下聖殿。
最強最悪の兵器についての情報があるというその場所に、コブラとクロコダイル、そしてミス・オールサンデーはいた。
今や読める者はいなくなったとされている古代の文字、
古代兵器についての情報は、何もないのだと。
激昂したクロコダイルは、用済みになったミス・オールサンデーを手にかけ、その場を後にしようとしたが、コブラがそこに最後の悪あがきとして聖殿を崩壊させる仕掛けを発動させる。
砂になれるクロコダイルはその無駄なあがきを嘲笑するが、訪れたもう一人の挑戦者に思わず目を見開いていた。
「てめェ…………!!!」
ガラガラと崩れていく聖殿に姿を現したのは、王宮でもう一度敗北を与えたはずの
腹の傷もまだ塞がっていないはずの、麦わら帽の青年だった。
「追いつめたぞ……‼ ワニ!!!」
「…………なぜ生きてるんだ。殺しても殺しても、なぜてめェはおれに立ち向かってくる、えェ⁉ ………麦わらァ!!!」
クロコダイルの脳裏に、得体の知れない恐怖に似た感覚が走る。
何度も死にかけ、地に伏せても立ち上がり食らいついてくるその執念は、なり立ての海賊とは思えないしつこさで、理解が追い付かなかった。
「何度殺されりゃあ気が済むんだ!!!?」
「………まだ返して貰ってねェからな…………‼ お前が奪ったものを……!!!」
「おれが奪った………?〝金〟か……?〝名声〟か………〝信頼〟か⁉ …〝命〟か? …………〝雨〟か!!?」
「〝国〟!!!」
馬鹿にしながら吠えるクロコダイルに、ルフィはたった一言告げる。
その答えに、クロコダイルはさらに呆れたように吐き捨てた。
「国……⁉ 可笑しな事を言う奴だ…国はこれから貰うのさ…おれがこの地の王となり支配する事でな…‼」
「おれ達がこの島に来た時には、もうとっくになかったぞ………‼ あいつの国なんて………‼」
ルフィの脳裏に浮かぶのは、嘆き悲しむビビの姿。
この島に着いてからの彼女は、まだ心からの笑顔を見せていない。道中何度も見せていた笑顔を、一切見せなくなってしまった
その元凶を睨みつけ、ルフィは赤黒く濡れた拳を握りしめた。
「ここが本当にあいつの国なら、もっと…!!! 笑ってられるはずだ!!!!」
「…………イキがったところで水も持たねェお前に何が…………」
馬鹿の一つ覚えの様に突っ込んで来るルフィを、クロコダイルは嗤う。
だが、その拳が自身の顔面に突き刺さったことで、その表情は途端に変わった。それも一度ではない、何度もルフィの放った拳は、クロコダイルの実体を捉えていた。
「てめェ…まさか………‼」
倒れ込んだクロコダイルは、ルフィの腕から滴っている赤色に目を見張る。
傷を負ったままこの場に来たと思っていたが、本当はわざと傷をふさがないままにしていたのかと、戦慄の表情を浮かべた。
「血で!!?」
「血でも砂は固まるだろ‼」
なんてことはないという風に言い放つルフィだが、流れる血は致命傷に近い。
これ以上流し続ければ命にもかかわるはずなのに、青年はそれをものともしていなかった。
「クッ………ハハハハハハハハハ、…………いいだろう。〝レインベース〟…〝王宮〟…そしてこの〝地下聖殿〟へと二度地獄を見てなお、このおれに挑んできたお前の執念に報いてやる……………!!!」
ただの若造ではない、確かな自身の障害となりうるイカレた存在であると認識し、クロコダイルは哄笑を上げる。
左腕のフックに手をかけると、蓋の様にかぶせていた部分を取り払い、液体の滴る別のフックを取り出した。
「
「とれた…何だ?」
「〝毒針〟さ」
「そうか」
やはりルフィは、動じた様子もなく答える。
卑怯だ何だと騒がない彼に、クロコダイルも好戦的な笑みを浮かべた。
「一端の海賊では、ある様だな…海賊の決闘は常に
次から次へ瓦礫になり変わっていく聖殿の中で、歴戦の猛者と若き勇者は、己の全てを賭けて相対するのだった。
「これが最後だ。
異なる場所では、町を破壊しながらエレノアとミス・リープデイが鎬を削っていた。
よく言えば、エレノアが一方的に攻撃し、ミス・リープデイはそれを軽々と躱し続けていた。
「……しつこい子ね…‼ まだ私に勝てる気でいるのかしら…!!?」
「あたり前だ…」
「言ったはずよ…‼ 私達は進化した人間……あなた達とはそもそもの格が違うの。根性だの気合いだのでは埋め尽くせない格の差があるのよ…‼」
「知ったことか…‼」
パンッと手のひらを合わせ、エレノアは両手に一振りずつナイフを生み出す。
そして目にも留まらぬ速さで接近し、ミス・リープデイの両腕を斬り飛ばした。
「〝
「だから意味がないって…………言ってるでしょう!!!」
斬り落とされた両腕を瞬く間に再生させ、ミス・リープデイは伸ばした鋭い爪を振るう。
スパッとエレノアの頬が斬り裂かれるが、押し寄せる痛みをものともせず、エレノアは地面に手を付ける。
「〝
生み出されたいくつもの大砲が、一斉に発射されてミス・リープデイに炸裂する。爆発が美女の肉体を吹き飛ばすが、平然とした様子でまた爪を振るってくる。
「〝
傷つけても殺しても再生し続ける敵に、エレノアは何度も錬成を繰り返し立ち向かう。その間に何度わが身に刃を受けても、決して止まろうとはしなかった。
「とうとう自棄になったのかしら? 仕留めることもできない大技ばかり放って……意味がないと教えてあげているのに」
「おおおおおお!!!」
敵の爪であちこちを切り裂かれ、血だらけになりながらもエレノアは猛進を止めない。
その鬼気迫る様子に、ミス・リープデイは内心焦りを抱き始めていた。
「策なんて何の意味もない…わかってるのさそんな事は!!! あんた言ったよね⁉『まだまだ死なない』って!!!」
獰猛な笑みを浮かべて向かってくるエレノアに、ミス・リープデイはハッと気づく。
エレノアが錬成を行った場所に、大量の塵が舞い上がっていることに。
「だったら死ぬまで焼き尽くすだけだ!!!」
パチン、とエレノアの指がならされ、大きな火花が散る。
それは辺りに舞う塵に引火し、あっという間に自身とミス・リープデイを包む炎の壁を生み出した。
「集え、騎士よ、我が元に‼〝
まるで城のように広く高く燃え上がる炎の壁の中で、エレノアはその手に業火の剣を握りしめ、ミス・リープデイに踊りかかっていった。
争乱の中を、ゾロがひたすら走る。
広場を狙う砲撃手を探し、相変わらずの方向音痴を発動させ、全く見当違いの咆哮へと爆走し続けていた。
「あ、見ろ!!! ロロノア・ゾロだ!!!」
「おお、あいつが…‼」
「くそっ‼ 海軍か、この町まで来てたとは。時間がねェってのに…………!!!」
気づけば、数人の海兵たちが集まっている場所に遭遇してしまう。
だがなぜか、海兵たちもゾロを見て驚きの表情を浮かべていた。
「お前何でこんな所に…………!!!」
「一体何をやってんだよ!!!」
「そりゃこっちのセリフだよ」
「戻れ!!! 一つ手前の角を北へ‼ 広場へ出られる‼」
「戻って右です!!! こっちじゃない‼」
「アホかお前は」
「アホ? 何だ⁇」
全く的外れの場所に来ているゾロに海兵たち、ハボック、ファルマン、ブレダ、フュリーは必死に道を示す。
ゾロはただ、困惑した様子で目を瞬かせるのだった。
「早くっ‼ ウソップさん!!?」
「あ……あり……ありが……ありが………………⁇」
ビビとその護衛を務めるウソップも、困惑した様子で振り向いていた。
襲い掛かってきたビリオンズを、純白の制服を纏う兵たちがたたき伏せてくれたからだ。
「あなた達を援護します!!!」
「広場の爆発を止めて下さいっ!!! さあ急いで!!!」
刀と銃をそれぞれ構え、たしぎとリザは真剣な表情で託す。
本来なれば敵同士の関係を踏み越え、事態の収束を願った彼らが、助太刀を買って出ていた。