ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第108話〝裸の王様〟

「いや――――っ!!! よく寝た~~っ!!!!」

 

 開口一番、目覚めて早々に元気な青年の声が王宮に響き渡る。

 その騒がしさに、隣で深い眠りについていたエレノアも、ひどく鬱陶しそうに顔を歪めて体を起こした。

 

「あっ!!! 帽子は!!? 帽子!!! ハラ減ったァ!!! 朝メシと帽子は!!?」

「うるさいなァもう…!!!」

「起きて早々うるせェなァてめェは………それに朝メシじゃねェ、今は夕方だ」

「帽子ならそこにあるぜ。宮殿前で兵士が見つけといてくれてたんだ」

「おお、よかった‼」

 

 言われてルフィは、探せばすぐにあった帽子を手にとって頭にかぶる。

 約束の証であるこれがなければ、やはり締まらないようだった。

 

「よかった、二人とも元気になって…」

「元気? おれはずっと元気じゃねェか」

「バカね…熱とかスゴくて大変だったのよ!!? ビビとチョッパーがずっとアンタ達の事看病してたんだからっ!」

「そうなのか⁉ ありがとうな‼」

「手間かけてゴメンねェ……」

 

 ホッとした様子で片づけを始めている二人に、ルフィとエレノアは一緒に頭を下げる。

 するとそこへ、日課のトレーニングを終えて戻ってきたゾロが顔を出した。

 

「……おお、ルフィにエレノア。起きたのか」

「ああゾロ久しぶり‼ 久しぶり?」

 

 自分で言った言葉に、ルフィは不思議そうに首を傾げる。

 安静にしていなかったことや勝手に包帯を取ったことで、ゾロがチョッパーに叱られているの尻目に、ルフィは違和感を感じた。

 

「久しぶり⁇」

「ま、そういう気分にもなるだろうなァ」

 

 違和感の原因が分からず首を傾げたままのルフィに、ウソップやサンジはさもありなんとため息をつく。

 んん?と傾いたままの船長に、仕方がないと教えてやると、案の定ルフィは驚きで大きく目を見開いた。

 

 

「3日⁇ おれ達は3日も寝てたのか?」

「そりゃ重傷だわ……我ながらよく暴れたもんだ」

 

 あんぐりと口を開けて固まるルフィを見て、エレノアも納得の声を上げる。

 かくいう彼女も全身裂傷だらけ火傷だらけ、傷がないところを探す方が難しいという具合で、痛々しいことこの上なかった。

 

「……………………15食も食い損ねてる」

「何でそういう計算速いのあんた」

「しかも一日5食計算だ」

「フフフ…食事ならいつでもとれるように言ってあるから平気よ」

 

 しまった、と悔しげな顔になるルフィにナミたちが呆れ、ビビが苦笑しながら告げる。

 すると不意に扉が開き、一人の恰幅のいい女性が腰に手を当てて声を発した。

 

「船長さんが起きたって? あと30分で夕食だから待ってくれないかい? 一人で食べるよりみんなと食べた方がうまいからね」

「な……!!!」

 

 現れた女性を見て、ルフィがぎょっと目を見開く。

 大柄な樽のような身体に、くるくると巻かれた髪を持つその姿は、ウィスキーピークで犠牲になったイガラムと瓜二つだったからだ。

 だが、その顔にはしっかりと化粧が施されていたことに、一同は固まっていた。

 

「おお、ちくわのおっさん!!! 生きてたのか!!?」

「て……てめェやっぱりそんな趣味が………!!?」

「?」

「違うのみんな」

 

 最後に見た女装姿を、さらにグレードアップさせたイガラムらしき女性を前に一味が固まっていると、ビビがまた苦笑して間に入る。

 

「彼女はテラコッタさん。イガラムの奥さんでこの宮殿の『給仕長』なの」

「ビビ様と夫が世話んなったね」

「紛らわしいなオイ‼」

「似た者夫婦にもほどがあるぞ」

「姉か妹って言われた方が違和感ないですよ…」

 

 夫婦は次第に似てくると言うが、あくまでそれは内面についてだったような、とエドワードは人類の神秘について悩む。

 女装したイガラム、もといテラコッタは空腹なルフィににっこりと笑みを見せた。

 

「よく食べると聞いてるからね、夕食までのつなぎに果物でもつまんどいてくれるかい?」

「わかった」

「手品かよ!!!」

 

 言われるより早く、または言われた瞬間に机の上から消えた果物の山に、サンジやウソップがぎょっと目を剥く。

 当然ルフィは、この程度の量で満足するハズもなかった。

 

「おばちゃん、おれは3日分食うぞ!!!」

「望むところだよ! 給仕一筋30年、若僧の胃袋なんかにゃ負けやしないから存分にお食べ!!!」

 

 意気込むルフィに腕まくりをして答えるテラコッタ。

 そして彼女はその後、厨房という名の戦場で格闘することとなった。

 

 

「んん!!! んん‼ ん~~んん!!! んん」

 

 王族が使用する長いテーブルの上に、一杯に並べられた料理の数々を、ルフィがバクバクととんでもない速さで、しかし一つずつ味わいながら平らげていく。

 そこに気品などかけらもない、空腹を満たすためだけの食事だった。

 

「気品のかけらもない…‼」

「この大食堂での会食は、もっと静かなものであるハズ…」

「ほら、どいたどいた、邪魔だよ!!!」

「言うだけあるね、だが負けないよ!!!」

 

 唖然とする兵士たちを押しのけ、給仕の女性たちが忙しく料理の皿を運ぶ。

 テラコッタがどれだけ作っても、どれだけ運んでもどんどん追いついてくる。汗を流しながら、テラコッタは健啖家たちに闘志を燃やして鍋を振るいまくっていた。

 

「早く食え、なくなっちまう‼」

「おいルフィ、今おれの皿から取ったな!!!」

「んが!!!」

「そういうおめェもそりゃおれんだろが!!!」

「いいなァ…」

「さァ追加だよ!!!」

「いただきま~す!!!」

「クエー!!!」

「飛ばすな!!!」

「おいおい、そんなに慌てて食ったらお前」

「……………!!!」

「量ならあるから‼」

 

 ルフィに負けじと、というか自分の分を奪われまいと仲間達も皿に手を伸ばす。いつの間にか混ざっていたマツゲも笑い、騒がしさはみるみる高まっていく。

 何食も食べ損ね、抑圧されたルフィの食欲の凄まじさを知っている彼らは、ただ自分の分を奪われまいと必死になっていた。

 

「…なんて騒々しい食卓だ…」

「見てられん………」

「下品すぎる」

「ビビ様もよく笑ってられるものだ…」

 

 王族の優雅な食事風景に慣れた兵士たちにとっては、大騒ぎしながら口を動かす食卓はひどいものだったらしい。

 だが王女がそれを見て大笑いし、楽しそうにしているのを見ると、兵士たちの態度も徐々に変化していく。

 

 最後には兵士たちも一味の輪に混ざり、宴が行われ始めた。

 国王も、護衛達も、給仕長も、誰もかれもが愉快そうに笑い声をあげ、その時間を堪能していた。

 

 

 次に一味が案内されたのは、それはそれは大きく豪華な浴場だった。

 美しい彫刻が施された像から、滾々と湧き出るお湯がプールの様な広さの湯船に溜まり、真っ白な湯気を立ち昇らせていた。

 

「ウオ――‼」

「宮殿自慢の大浴場だよ。本来雨季にしか使わんのだがね」

「スゲ~~~!!! ゴージャス‼ ゴージャス!!!」

「こりゃすげェ」

「おれが一番だァ!!!」

「いやおれだァ!!!」

 

 一番風呂を目指して走りだすルフィとウソップ。

 だが濡れた場所ではしゃいだ代償か、二人ともずるっと足を滑らせ、後頭部をしたたかに打ち付けていた。

 

「へぶ‼」「ハバ!!!」

「楽しいかお前ら」

「おーい、ゾロ。アル洗うのちょっと手伝ってくれ」

「おう」

「おれもやるぞ‼」

 

 呆れた様子でため息をついたゾロは、エドワードに呼ばれてすぐに手を貸しに行く。

 兄弟二人して片腕をやられ、しばらくは日常生活もかなり不便になりそうだったため、チョッパーも率先して手伝いに行った。

 

「いや、会食は実に楽しかったよ。時期が時期だけに清楚にすますつもりだったが…君達にかかれば何でも宴にかわってしまう様だな」

「おいゾロ見ろよ‼‶修業〟ができるぞ‼」

「何のだよ」

 

 打たせ湯に向かい、水しぶきをあげながらにんにんと口にしているルフィたちにゾロはまたも呆れる。肩こり程度を癒す水量で何が鍛えられるというのか。

 その近くで、エロい顔のサンジがイガラムの肩に手を回していた。

 

「で? 女湯はどっちだ? ん? ん?」

「アホか‼ いえるわけなかろうが、ビビ様もおるのだぞ!!!!」

「あの壁の向こうだ」

「国王コノヤロー!!!」

「お‼ おっさん、イケるクチだな‼」

 

 誰よりも率先して覗きを望む国王にイガラムが咆哮するが、ウソップたちはむしろ親しみを覚え、彼の案内する場所へいそいそと向かっていった。

 

 

 一方女湯では、湯船に腰まで浸かったエレノアがホゥ、とため息をついていた。

 まだ痛む全身を沈めるわけにはいかないが、半身をつけておくだけでもずいぶん疲れが抜ける気がした。

 

「気持ちいい~~」

「ホントにね~…」

 

 洗い場でビビに背中を流してもらっているナミが、広い浴場を見て羨ましそうに笑う。

 長い航海のおかげで、こんなにゆっくりできたのは実に久しぶりの事だった。

 

「こんな広いお風呂がついた船ってないかしら」

「あるわよきっと、海は広いもの」

「ウチのモビーにはなかったなァ~…男所帯だったからみんなシャワーで済ましちゃうんだよ。こういうおっきなお風呂に入ってみたかったんだよねェ…」

「あはは…」

 

 最強の海賊団の船での生活も、女性にとっては意外と不服な部分もあったらしい。

 少しの間だけ湯船に前進を浸からせたエレノアが蕩けた表情で呟くと、ナミもビビも苦笑を浮かべた。

 

「巨人もいた、恐竜もいた、雪国には桜も咲いた…………海にはまだまだ想像を越える事がたくさんあるんだわ‼」

 

 ごしごしとナミの背中をこすりながら、高揚した様子でビビが呟くと、ナミがその顔をじっと見つめる。

 ハッと我に返ったビビは、ばつが悪そうに口を濁らせた。

 

「あっ、その…」

「交替」

「う…うん、ありがと」

 

 座る方向を反転させ、ナミがスポンジを手に取る。

 気恥ずかしさを感じながら、ビビがナミに背中を任せようと振り向いた。

 そして、仕切りである高い壁の上から覗く、いくつもの視線に気がついた。

 

「ん?」

「ちょっとみんな何してるの!!?」

「あいつら…………」

「ルフィやチョッパーまで混じってやんの」

 

 ゾロを除くほぼ全員が顔の上半分(チョッパーはほぼ全身)を覗かせているのを見て、ビビは顔を赤くし、ナミとエレノアはため息をつく。

 目を見合わせた二人は、おもむろに立ち上がると男たちの前でバスタオルに手をかけた。

 

「「ダブル幸せパンチ‼」」

「ぐあっ」

「一人10万よ♡」

「二人とも!!!」

 

 恥じらいを捨てた捨て身の攻撃で、男たちはバタバタと壁から真下に落下していく。

 ビビは顔を真っ赤にして抗議するが、ナミもエレノアもこの程度で臆するほどか弱くもなかった。

 

 男子たちを追い払ったナミとエレノアは、ビビを誘って湯船に体を沈める。

 そこでナミは、時折何かを考えこんでいるビビに思い切って尋ねてみた。

 

「………迷ってるんでしょ………」

「え?」

「今夜にでもここを出ようかって思っててね」

「え⁉ ほんと!!?」

「だってもう居る理由がないじゃない。船長も目を覚ましたし、港にはたぶん海軍も構えてる。船もそろそろ危ないわ」

 

 ナミの言葉に、ビビはハッと我に返る。

 忘れていたがナミたちはみんな海賊、いつまでもこの国にいられるわけではなく、いつかは旅立たねばならない。

 別れの時が、迫りつつあったのだ。

 

 

「…………ありがとう」

 

 浴場の床に大の字に寝ながら、コブラが呟く。

 鼻血を垂らして口にした言葉に、ルフィたちから軽蔑の視線が送られた。

 

「「「「「「「エロオヤジ」」」」」」」

「そっちじゃないわ!!!! ………………国をだよ」

 

 自業自得とはいえ、とんでもない風評被害にコブラは怒鳴る。

 だがすぐに表情を改め、床にべたッと手をついて、ルフィたちに深々と頭を下げた。

 

「オイオイいいのかよあんた! 国王がそんなマネして…!!!」

「これは大事件ですぞ、コブラ様………‼ 王が人に頭など下げてはなりません………!!!」

「イガラムよ、権威とは衣の上から着るものだ。…だがここは風呂場、裸の王などいるものか」

 

 慌てるイガラムを制止し、コブラは頭を下げることをやめない。

 礼として渡せるものは、今のこの国には何もない。食事や風呂ではとても返しきれない恩に報いるには、せめて態度で示さねば気がすまなかった。

 

「私は一人の父として、この土地に住む者として心より、礼を言いたい。どうもありがとう」

 

 一国をまとめる偉大な王、そんな彼が今この時だけみせる姿に、ルフィたちはまた笑う。

 こうして一味は、更けていく夜を笑顔で楽しむのだった。

 

 

 そんな時間も、やがて終わりが訪れる。

 王宮にもたらされたある情報が、イガラムとチャカに衝撃をもたらしていた。

 

「どうしましょうイガラムさん…………‼ すぐに彼らに伝えねば…‼」

「ああ勿論だ。しかし、これは大変なことになってきた。無事にこの島を出られるとよいのだが…なんという手回しの早さ…!!!」

 

 彼らが手にしているのは、海軍から渡されてきた三枚の手配書。

 見知った顔が三つ撮られたその手配書には、絶対に無視できない懸賞金の額が提示されていたのだ。

 

 ロロノア・ゾロ 懸賞金6千万(ベリー)――

 モンキー・D・ルフィ 懸賞金1億(ベリー)――

 アイザック・エレノア 懸賞金2億(ベリー)――

 

 その額はそのまま、恩人たちに向けられる敵意が跳ね上がることを示していた。

 

「この額ならば『海軍本部』の‶将官〟クラスが動き出す…‼ ……もう後には引けんぞルフィ君…!!! 君達は……〝七武海〟の一角を落としたのだ!!!」

 

 一刻も早くこの凶報を知らせねばならないと、イガラムは息を荒げさせながら走る。

 額をどうにかできるわけではないが、警戒を促すことぐらいはできる。そう思って、ルフィたちが休んでいるビビの部屋を目指したイガラムだったが。

 

「大変ですぞ!!!」

 

 バタン、と荒々しく扉を開けたイガラムは、窓際で椅子に座るビビと床に座り込むエルリック兄弟を見て言葉を失くす。

 恩人たちの姿は、その部屋のどこにも見当たらなかった。

 

「……⁉ ビビ様…‼ エドワード君…アルフォンス君……」

「……よう」

「こんばんは」

「彼らは……!!? ルフィ君たちは…どこへ…!!?」

「なあに? イガラム…そんなに慌てて…」

 

 微塵も驚いた様子のないビビたちに、イガラムは訝し気に眉を寄せる。

 逆に狼狽しているイガラムに、ビビはふっと困ったように笑った。

 

「海よ? 海賊だもん」

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