ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第109話〝別れの時〟

「んー…快適だ」

 

 砂漠を走る六つの影、アラバスタ最速の超カルガモの背に乗った一味が、それぞれで道中を楽しむ。

 徒歩で砂漠を歩いていたころに比べれば、なんと楽なことか。

 

「砂の国ともお別れか…おれ様を筆頭に大変な戦いだったなァ。…おいルフィ、いつまで食ってんだ」

「アラバスタ料理は最高だぞ。サンジ、今度作ってくれよ」

「ああ、おれも興味あってな。テラコッタさんにレシピを貰ってきた。香辛料も少しな」

 

 バクバクとカルガモの背でメシを食い続けるルフィに、ウソップが半目を向けるが、ルフィはまったく気にしない。

 だが次第に一味は、黙り込んでいるナミとエレノアに気づきその表情を曇らせる。

 

「………ナミ? エレノア? ………具合が悪いのか?」

「肉一コやろうか、一コだけ」

「……ナミさん、エレノアちゃん。…ビビちゃんの事だろう…? 気持ちはわかるよ……でも……考えたって始まらねェ。…そりゃあれだけ仲良くしてたんだもんな……だけどホラ、顔を上げなよ…」

 

 今の一味に、ビビとエルリック兄弟の姿はない。

 それがどうにも、ぽっかりと穴が開いてしまったような寂寥感を味わわせているのだろうと、ルフィたちは女性陣を心配した。

 

「私達…諦める…ビビの為だもんね…」

 

 切なげに、ナミは微笑みを浮かべながら仲間に告げる。

 エレノアは目を逸らし、ナミの気持ちを案じて眉間にしわを寄せた、が。

 

「10億ベリー」

「「「っったりめェだァ!!!!」」」

「金の話かよ!!!」

「一緒にすんなァ!!!」

 

 ナミが全く異なることを後悔していると知り、全員が声を荒げてツッコミを入れる。特にエレノアは、私たちとひとまとめにされたことに不服を示した。

 

「ウソップく――ん!!!」

「うわ~!!! ウソップが落ちたァ!!!」

「ナミ‼ てめェ紛らわしいマネしてんじゃねェぞ」

「? なに騒いでんの? あんた達。ビビの事なら心配したって仕方ないでしょ?」

「おい‼ ウソップが落ちた」

「放っときなさいって……」

「お前のせいだろ‼」

 

 ギャーギャーわーわーと騒ぎながら、一味はメリー号に向かって疾走を続ける。

 三人の仲間を、置いて。

 

 

「カルー‼ カルーはおるか⁉」

「クエ~~?」

「ムダだよ、イガラムさん」

「なぜです、せめて自分達の立場を教えてやらねば…‼」

「カルガモ部隊に送らせてますから…カルーでも追いつけませんよ」

 

 決して見過ごせない知らせを伝えねばとイガラムはカルーを呼ぶが、エドワードとアルフォンスがそれを止める。

 知らせを聞いた彼らは、さしたる驚きを示しはしなかった。

 

「――それに同じよ。……それを知っても彼らは喜ぶだけで、何も変わらない」

 

 苦笑しビビは、納得しきれないイガラムをそうなだめる。

 ビビの言う光景が浮かんだのか、イガラムも唸りながら肩を落とした。

 

「みんなの事なら平気よ。さァ出てって」

「しかし………」

「私達、眠るから。明日は早いんでしょう⁉」

「ア……ああ…そうです…そうでした。明日は国中にあなたの声をお聞かせせねば」

「わかってる。おいでカルー、一緒に寝よ」

 

 どうしようもない話をいつまで続けるつもりか、とビビは退出を促す。

 ビビの口から王女の仕事についての言葉が出たことで、イガラムも我に返ったように頭をかいた。

 

「エドさんもアルさんも…お休みなさい」

「…ああ。おやすみ……ビビ」

「おやすみなさい……ビビ様」

 

 素直に応じるエドワードとアルフォンスだが、彼らの表情には悔しげな様子が浮かんでいる。

 やがてパタンと扉が閉じられ、カルーだけになると、ビビはベッドの中で彼の頬を撫でた。

 

「静かね……カルー……………こんな静かな夜は…久しぶり…」

 

 それに応える者は、誰もいない。

 先に眠りについてしまったカルーはいびきをかくだけで、広い部屋に一人きりになったビビの声が虚しく消えていった。

 

「ここには冷蔵庫荒らしと格闘するコックさんも、夜な夜なトレーニングを始める剣士も…寝ぼけて枕を投げてくる航海士も……誰もいない」

 

 大きな喪失感を抱えたまま、ビビはナミから告げられたことを思い返していた。

 

 

 ―――よく聞いてあんた達、『12時間』猶予をあげる。

 

 部屋でくつろいでいたルフィたちに、もたらされた一本の電話。

 海軍から逃げ延びたMr.2・ボン・クレーが、メリー号を預かっているという知らせだった。

 さっさと行かねば、何をするか分かったものではない。

 

『私達はサンドラ河で船を奪い返したら、明日の昼12時ちょうど‼「東の港」に()()()()船をよせる‼ おそらく停泊はできないわ……』

 

 ナミはそう言って、ビビとエルリック兄弟に選択肢を与える。

 三人とも一味にいた理由はもうなく、このまま一緒に行くかどうかは彼らの意志次第だったからだ。

 

『あんた達がもし…私達と旅を続けたいのなら、その一瞬だけが船に乗るチャンス‼ その時は…歓迎するわ‼ 海賊だけどね…………‼』

『一国の王女と国家錬金術師だからな、これがおれ達の精一杯の勧誘だ』

『来いよビビ‼ エド‼ アル‼ 絶対来い、今来い‼』

『やめろってルフィ‼』

『何だよお前ら、来てほしくないのか⁉』

『そういうんじゃねェだろ、あいつらが決めることなんだ‼』

 

 当然仲間達はともに行くことを望むが、ビビはその未来を大いに悩む。

 その横で、ビビ程の立場にないエドワードとアルフォンスは、その呼びかけに悔し気に首を横に振った。

 

『…悪いんだけどよ、おれ達はダメだ』

『うん……この旅で結構痛感しました』

 

 二人が見ているのは、なくなった自身の右腕と鎧の体。

 特殊な技術で作られた義手は航海中に用意できるわけがなく、アルフォンスの身体も直せるのはエドワードだけ。

 今の彼らには、〝偉大なる航路(グランドライン)〟の航海は危険が過ぎた。

 

『おれは腕がこんなんで、アルもボロボロのままだしな。今のおれ達がついて行ったとしても、絶対に足手まといになっちまう』

『ボクもこんな状態で……いつ何があるかわかったもんじゃない。本当は……一緒に行きたいとは思ってますけど』

 

 本気で悔しそうに、エドワードもアルフォンスも答える。

 今ほどかつて罪を犯した自分たちを恨んだことはないだろう、そんな表情だった。

 しかしエドワードは、残念そうに見つめるルフィたちににっと笑みを見せた。

 

『ただよ……おれ達がちゃんと元の体を取り戻したら、必ず追いつくって約束するよ。お前らとの旅は最高だった…‼ あんなに楽しい旅は生まれて初めてだった!!! できるならこのまま……お前らと一緒に行きたかったよ』

『うん…! ボクも…できるならもっといろんな冒険をして、いろんなものを見たい…‼ でも………今一番やってみたいのは…‼』

 

 期待に満ちた様子で、アルフォンスもルフィたちを見つめる。

 そしてその視線は、照れくさそうにサンジに向けられた。

 

『サンジさんのご飯……お腹いっぱい食べてみたい』

 

 サンジはアルフォンスの言葉に、思わず笑みを浮かべる。

 肉体を失い、感覚の全てを失った不便な身体の青年の願いに、自分の料理が望まれるというのは、料理人冥利に尽きるというものだ。

 

『国家錬金術師の資格も、元の体に戻るために必要だったから取っただけで思い入れもねェ‼ おれ達がやるべきことをやって、資格も捨てて、さっぱりした時には……お前ら、また仲間に誘ってくれねェか?』

『当たり前だ!!!』

『待ってるぜエド‼ アル‼』

 

 再びの仲間入りに意欲的な兄弟を、ルフィたちも当然歓迎する。

 エドワードは満面の笑みを浮かべると、続いてビビに視線を向ける。

 

 ―――そういうわけだ…おれ達はいったんここまでだが、あんたには選択肢がある……。

    行くか、ここに残るか…‼

    あんたの自由だ。

 

 ビビはその呼びかけに、非常に悩んでいた。

 王族としての責任を全うし、不自由なく暮らすのか。世間に後ろ指をさされながら、自由の世界に飛び出すのか。

 一朝一夕では出せそうにない決断だった。

 

(明日の昼12時……東の海なら…カルーの足で4時間…ここを8時に出れば間に合う…)

 

 遅くなれば、ルフィたちが海軍に捕まってしまう。

 自分の行動一つで、大切な人たちが窮地に追いやられてしまうのだ。

 

(自分が海賊になるなんて…考えたこともなかった……そんな人生の選択なんて…この機を逃したらもう一生有り得ない。王女であることをつまらないと思った事はないし、反乱が終わっても…国はまだ大変な時期…)

 

 行きたいという思いと、行きたくないという気持ち。

 胸の中で揺れ動くその想いに苦しみ、ビビは不安気にカルーの頬を撫で続けた。

 

「……私が行くなら…あなたも行くわよね……ねぇカルー……………あなたは…どうしたい?」

 

 

 メリー号の上で、バサッと純白のコートが翻る。

 それを纏った大柄なオカマが『オカマ道』の文字を一味に見せつけた。

 

「ん待っっっっっっっってたわよアンタ達っ!!! おシサシブリねいっ!!!!」

「さァ着いたぞ…………」

「よ――し荷物下ろせ。ありがとなお前ら」

「お前達ともここでお別れだ……気ィつけて帰れよ」

「王とかちくわのおっさん達によろしくなァ!!!」

「元気でなァ~!!!」

「「「「「「クエ~~~ッ‼」」」」」」

 

 一味は完全にMr.2・ボン・クレーを無視し、さっさと荷物を運びこむ作業に入る。

 ここまで運んでくれた超カルガモ部隊に盛大に感謝の言葉を投げかけ、走り去っていく彼らを見送った。

 

「また…‼ ……また‼ いつの日か会おうなァ~~!!! ――ってちょっと待てやァ!!!」

 

 カルガモたちの姿が見えなくなると、そこでMr.2・ボン・クレーの怒りが爆発した。放っておかれたのが相当不服の様だ。

 

「何だよ」

「何だじゃナ~~~イわよ―――う!!! そーゆー態度ってヨクないんジャナ~~イ!!? ダチに対して‼」

「ダチって何だよ。お前、敵だったんじゃねェか。ダマしやがって」

「ダマしてないわよ――う‼ あちしも知らなかったのよ―う!!!」

 

 一度は仲良くなったとはいえ、やはりルフィにも不信感はあるらしい。

 Mr.2・ボン・クレーもそれを詫びながら、やがて落ち着いた様子で船の縁に腰かけた。

 

「――――でもまァ…もういいジャナイ、そんな事」

「オイ、横にずれろ」

「あ、ゴメンねい。バロックワークス社は滅んだの、あちし達はもう敵同士なんかじゃない…」

「敵同士じゃなくても何でお前、おれ達の船に乗ってんだよ」

「はふー、コノスットコドッコイ」

「何だと!!?」

 

 心底呆れた、という様子で肩をすくめるMr.2・ボン・クレーの態度に、イラッとしたルフィが声を荒げる。

 だがオカマは、そんな彼の勘違いをただすように説明を始めた。

 

「いィい⁉ あちしが今、この船に乗ってなかったらこの船はドゥーなってたと思ってんの⁉」

「海軍に奪われてたかもね」

「かもねじゃないわ‼ 確実にやられてた‼ 今この島がドゥーいう状態にあるか知ってる!!? 海軍船による完全フーサよ!!! 封鎖っ!!! スワン一匹も逃げられない」

 

 オカマの語る状況に、ルフィたちはハッと息を呑む。

 彼の言う通りなら、自分たちは出航さえままならなくなるところだったのだ。

 

「……じゃあお前……海軍からゴーイングメリー号を守ってくれたのか…?」

「なぜだ‼」

「何で⁉」

「友達、だからよう」

 

 涙を滲ませて親指を立てるMr.2・ボン・クレーに、ルフィたちの警戒心はどこかに吹っ飛ぶ。

 恩人に対しいつまでも壁を作るなど、あってはならない事だった。

 

「やっぱりお前はイイ奴だったんだァ!!! ジョ~~ダンじゃないーわよーう‼」

「ジョ~~ダンじゃなーいわよーう!!!」

 

 いつぞやのように肩を組んで騒ぎ始めるルフィたちに、ゾロとナミ、エレノアは半目でため息をつく。

 お涙頂戴なやり取りに流されるほど、剣士や女性陣はお気楽ではなかった。

 

「――つまりMr.2…海軍の『海岸包囲』によってお前らも島を出られなくなり…」

「味方を増やしたかったわけだね?」

 

 図星を刺されたMr.2・ボン・クレーがびくっと反応し、船の欄干に背中をぶつける。

 しかしすぐに復活し、泣きながら開き直ったように拳を掲げた。

 

「そうよ!!? こんな時だからこそ!!! こんな時代だからこそ!!! つどえ!!! 友情の名の下に!!! 力を合わせましょ~~う!!!」

「「「うおおおお‼」」」

「………………もお」

 

 もはや何を言っても無駄だろう、そう結論を下してエレノアはナミとともに肩を落とす。

 ゾロやサンジに至っては、そもそも問題とも思っていない様子で作業を続けていた。

 

「よろしくお願いしまーす」

「いたのか…」

 

 近くに停泊していた白鳥の船首の船、その上に乗っているMr.2・ボン・クレーの部下たちを見て、エレノアは深いため息をつくのだった。

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