ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第110話〝切れない絆〟

「撃て、撃てェ!!!」

 

 海軍の軍艦から放たれた砲弾が弧を描き、メリー号とスワン号に降り注ぐ。

 片方から降り注いだそれらを全て叩き落とす一味だが、同時に船の反対側に砲弾が突き刺さり、さらなる傷を負わせてしまった。

 

「くっそ~~~‼ 砲弾で来い!!! はね返してやるのに‼」

「まったくジョ~~ダンじゃナーイわよ―う!!!」

「こんな鉄の槍を船底にくらい続けたら、沈むのは時間の問題だぞ!!!」

 

 飛来してくるのは、丸い砲弾ではなく黒い槍。

 破壊ではなく穴を開けることに特化したその砲弾は、獲物を捕らえる狩猟具のようであった。

 

「何とかしてよあんた達!!!」

「おい‼ もう穴防ぎきれねェよ!!? エドもアルも戻ってきてくれェ!!!」

「一度には一面を守るのがやっとだ!!!」

「8隻相手じゃ手数が違いすぎる!!!」

「白兵戦ならこっちに分があるってのに!!! 追おうが逃げようが…コイツら絶対にこの陣営を崩さねェ!!!」

 

 軍艦は二隻ずつ並び、メリー号とスワン号を前後左右から取り囲み、一定の距離を保って完全に包囲している。敵を捕らえることに集中した陣営だった。

 その様子を、南側の陣営の軍艦に乗る海兵達が喜ばしげに嘲笑っていた。

 

「黒檻部隊名物『黒ヤリの陣』」

「てめェらごときに破れるかァ!!! アホ―――!!! ア~~~~~ホ~~~~っ!!!」

「ムカつくあいつら」

「おいおいっ‼ 催眠術師‼ お前海賊だろうが!!!」

「左の奴誰だっけな……」

 

 ルフィは軍艦に乗っている海兵、ジャンゴに怒鳴り、ゾロはもう一方の軍艦に乗っているフルボディに首をかしげる。

 どういう経緯で二人がコンビを組んでいるかなど、彼らは知る由もなかった。

 

「ここで会ったが100年目だ!!! その一味…!!! 今日ここで沈めてやる!!!」

「さァこの輪をじっと見ろ! 今日こそおれが変じゃねェ事を証明してやる!!!」

 

 意気込むジャンゴとフルボディだが、突然ジャンゴの乗る軍艦が爆発で傾き、フルボディの方を巻き込んで沈没していく。

 ブクブクと沈む軍艦に、大砲を撃ったウソップが唖然となっていた。

 

「あーあー」

「ウソップ君やるねェ……」

「あーあー」

 

 感心した声を上げるエレノアだが、賞賛している事態ではない。完全だった包囲に、確かな隙が生じていた。

 

「よ…よォし‼ 計算通りだ、おれにかかりゃあんなモンああだぜ!!!」

「鼻ちゃんスゴイわ‼ やったわねい‼ 南の陣営が崩れたっ!!! あそこを一気に突破よう!!!」

 

 歓喜の声を上げるMr.2・ボン・クレーが、急いでその突破口へ急ごうとする。

 そこへ慌てた様子の部下が駆け寄り、彼を驚愕させた。

 

「ボン・クレー様、大変です‼」

「ナ~~~ニよ――う!!!」

「〝黒檻〟です」

「ウゲッ‼」

「〝黒檻〟のヒナか!!!」

 

 耳に届いた報に、Mr.2・ボン・クレーだけでなくエレノアも表情をひきつらせる。

 彼女に取っては最悪の相性の相手が登場したと聞けば、焦るのも仕方がなかった。

 

「何なんだ!!?」

「この海域をナワバリにしてる本部大佐だよ‼ 昔マジで捕まりかけたんだ!!!」

「厄介な奴が出てきたわ!!! さっさとトンズラぶっコクわよう!!!」

「ハッ‼ Mr.2・ボン・クレー様!!!」

 

 すぐさま逃亡の用意を始めるスワン号の乗組員。

 だが麦わらの一味は、前進の姿勢を崩そうとはしなかった。

 

 

「ずいぶん弱らせたようね……」

「我らの〝黒ヤリの陣〟で落とせぬ船はありません」

「調子に乗るんじゃないの。ああいう輩はナメると最後に噛みつかれるのよ」

 

 メリー号の北側を進む軍艦の上で、状況を見定めていたタバコをくわえた美女ヒナが呟く。

 メリー号に乗る一味、その中でも白虎の耳を持つ天使を見つめ、その視線を鋭くさせた。

 

〝妖術師(ウィザード)〟……今度こそ逃がさないわよ」

 

 

 一方メリー号では、Mr.2・ボン・クレーとの間で一悶着が起きていた。

 せっかく切り開いた突破口に向かわず、一味は前を向いたまま進もうとしていたからだ。

 

「何やってんのアンタ達ィ!!! 逃ィ――ゲルのよう!!! あの南の一点を抜ければ被害を最小限に逃げ出せるわ!!! このまま進めば必ずやられるわよう!!?」

「行きたきゃ行けよ。おれ達はダメだ」

「ダメだってナニが!!?」

「ボン・クレー様急いでください、おれ達だけで逃げましょう!!!」

 

 焦るMr.2・ボン・クレーにそう言い、一味は前方を、アラバスタの方を目指す。

 

「〝東の港〟に12時…‼ 約束があるの。回り込んでる時間はないわ、つっ切らなきゃ」

「ハン‼ ………バカバカしい!!! 命はる程の宝でも港に転がってるっての⁉ 勝手に死になサイ」

 

 何をこだわる必要があるのか、とあきれた様子で背を向けるMr.2・ボン・クレーに、ルフィは東の港を目指したまま笑って告げた。

 

「仲間を、迎えにいくんだ!!!」

 

 その言葉に、Mr.2・ボン・クレーは愕然とした表情で硬直する。

 しばらくの間黙り込んだ彼は、やがてメリー号の縁の上に立つと、自身の部下達を見下ろして仁王立ちした。

 

「ボン・クレー様……!!?」

「……ここで逃げるは、オカマに非ず!!!」

 

 戸惑いを見せる部下達にMr.2は、いや、ベンサムは覚悟を決めた表情で告げる。

 これから自分が行うわがままに、彼らを巻き込むことを詫びながら。

 

「命を賭けて友達(ダチ)を迎えに行く友達(ダチ)を…見捨てておめェら、明日食うメシが美味ェかよ!!!」

 

 ハッと息を飲む部下達を満足げに見やり、ベンサムはルフィ達に振り向く。

 滂沱の涙を流しながら、彼は自分の覚悟を彼らに示した。

 

「いいか野郎共及び麦ちゃんチーム、あちしの言う事よォく聞きねい!!!」

 

 有無を言わせぬその姿に気圧されたルフィ達は、頷かずにはいられなかった。

 

 

 着実に包囲を狭めていたヒナの部隊。

 だがの動きに、不意に変化が訪れた。

 

「ヒナ嬢!!! 奴ら2船に分かれました‼『あひる船』が南下!!!」

「『あひる』はどうせ囮でしょ?」

「いえ…それが………!!! 麦わらの一味は全員『あひる船』に乗ってます!!!」

「ヒナ嬢‼ 囮は『羊船』の方です!!!」

 

 一味のものではないスワン号を狙う必要はないため、さほど脅威とは見ていなかった。

 だが麦わらの一味がそれまで乗っていた船を捨て、スワン号に乗り換えるとは予想外だった。

 

「追いなさいすぐに‼ もう一度陣を組むのよ‼」

 

 若干慌てながら、ヒナは標的の乗るスワン号に狙いを移し、全隊に命令を下す。

 さしたる時間もかけず、再び船を包囲し直した時だった。

 

「が――っはっはっはっはっはっはっ、アンタ達のお探しの〝麦わら〟のルフィってのは……あちしの事かしら!!?」

 

 メリー号に対する警戒を完全に捨て、スワン号にのみ注目していたヒナ達の目に飛び込んできたのは、麦わらの一味。

 だがその誰もが、それらしく変装を施したスワン号の船員達であった。

 

「なんてねい」

「ヒナ嬢‼『羊船』が東へ抜けます‼」

「が――っはっはっはっはっはっは‼」

 

 ルフィの顔をした、派手な格好の男が頬を叩くと、一瞬でその姿は大柄なオカマのものに変化する。

 騙された、と気づいた時にはもう遅かった。

 

「ヒッ、かかったわねい…あちしたちは〝変装〟のエキスパート、そして…麦ちゃん達の()()………‼」

 

 自ら囮となることを買って出たベンサムが、怒りと悔しさに顔を歪めるヒナ達の前に出る。

 カカン、と彼は勇ましく四股のような構えを取り、ヒナ達を睨みつけた。

 

 ―――男の道をそれるとも

    女の道をそれるとも

    踏み外せぬは人の道

 

    散らば諸友

    真の空に

 

    咲かせてみせよう

    オカマ(ウェイ)

Mr.二・盆暮

 

 あやふやこそが彼の信条。

 それ故に、固く貫き通さねばならぬ道があると、己の生き様を見せつけるように。

 彼は、友の敵の前に立ち塞がった。

 

「かかって来いや」

「ヒナ屈辱」

 

 海上で、業火が昇る。

 砕け散っていくスワン号、消えていく男達の怒号、その全てを目に焼き付けながら、ルフィ達は涙を流した。

 

「ボンちゃん‼ おれ達、お前らの事絶っっ対、忘れねェがらな"ァ~~~!!!」

 

 もう涙のせいか遠さのせいか、友の姿は見えやしない。

 だが彼らの目にはしっかりと、最後まで勇ましく戦い続ける彼の姿が映っていた。

 

 ―――散らば水面に

    いとめでたけれ

    友の華

 

 

『少しだけ、冒険をしました』

 

 少女の声が、拡声器を通して国中に響く。

 国を救うため、傷だらけになりながらも戦い続けた王女の語りに、国民全員が真剣に耳を傾けていた。

 

『―――それは暗い海を渡る〝絶望〟を探す旅でした…国を離れて見る海はとても大きく…そこにあるのは信じ難く力強い島々。見た事もない生物…夢とたがわぬ風景。波の奏でる音楽は、時に静かに、小さな悩みを包み込むように優しく流れ。時に激しく、弱い気持ちを引き裂く様に笑います』

 

 若者も老人も、男も女も、みんながそれを優しい笑顔で聞き届ける。

 その中には国王や、反乱軍のリーダーだった青年、枯れた町の町長と肉屋夫婦の姿もあった。

 

『……暗い暗い嵐の中で一隻の小さな船に会いました。…船は私の背中を押してこう言います。「お前にはあの光が見えないのか?」』

 

 王女の言葉は、彼女の気持ちを表した詩のようで、当事者ではない国民達には全ては理解できない。

 だが王女の瞼には、その光景が広がっていた。

 

『闇にあって決して進路を失わないその不思議な船は、踊る様に大きな波を越えて行きます。波に逆らわず、しかし船首はまっすぐに…たとえ逆風だろうとも』

 

 王女の瞼の裏には、ともに旅をしてきた9人の姿が浮かぶ。

 過酷な海を陽気に、笑顔を絶やすことなく突き進んできた彼らの姿が。

 

『―――そして指を差します。「見ろ、光があった」――――』

 

 人はそれを信じないだろう。

 だが誰かに認められなくても、一笑に付されようとも、この真実だけは否定させたくなかった。

 

『…………歴史はやがて、これを幻と呼ぶけれど、私にはそれだけが真実』

 

 

 東の港に近づいていくメリー号にも、その演説は届いていた。

 それが示す結果に、ルフィは焦りをにじませた表情を浮かべていた。

 

「聞こえたろ、今のスピーチ。間違いなくビビの声だ」

「アルバーナの式典の放送だぞ。もう来ねェと決めたのさ…‼」

「ビビの声に似てただけだ…‼」

「行こう、12時を回った…」

「来てねェわけねェだろ!!! 下りて探そう‼ いるから!!!」

 

 別れを嫌がるルフィやチョッパーに、他の仲間もどこか寂しげな表情を見せる。

 仕方がないこととはいえ、もう顔も見られないのかと思うと、やはり悲しみがよぎった。

 

「おい、まずい‼ 海軍がまた追って来た‼」

「一体、何隻いるんだよ」

「船出すぞ!!! 面舵!!!」

 

 いつまでも待ってはいられない、と一味はすぐさま出航の準備を進める。

 待ち続けようと、しかし辛そうに眉間にしわを寄せるルフィに、エレノアがポンと肩に手を置いた。

 

「諦めなよ、ルフィ…みんなの時とはワケが違うんだ」

 

 姉貴分のその言葉で、渋々アラバスタの方から視線を逸らしたルフィ。

 その時響いた声に、全員がハッと息を飲んだ。

 

「みんなァ!!!」

 

 振り向いた先に見えたのは、美しく身を飾ったビビの姿。

 護衛としてか、左右にエドワードとアルフォンスを立たせた彼女が、大きく手を振りながらルフィ達に笑顔を見せていた。

 

「ビビ!!!?」

「カルー!!!」

「ホラ来たァ!!!」

「エドとアルもいるぞ!!!」

「船を戻そう、急げ!!!」

「ビビちゃん♡」

「海軍もそこまで来てるぞ!!!」

 

 急ぎ迎えに行かなくては、と一味が慌てて港に向かおうとする。

 だがその前に、ビビは一味に向けて大きく声を張り上げ、告げた。

 

「お別れを!!! 言いに来たの!!!」

「⁉ ……今、何て…⁉」

 

 距離のせいか、ビビの声は波と風の音に遮られ、上手く聞き取れなかった。

 いや、わずかに聞きたくないと思ってしまったためか。

 

『私…一緒には行けません!!! 今まで本当にありがとう!!!』

 

 カルーに持たせた拡声器を使い、ビビはルフィ達に最後の言葉を伝える。

 言えずにいた想いを伝えるため、ありったけの感謝の気持ちをぶつけるため、ビビは笑顔で叫んだ。

 

『冒険はまだしたいけど、私はやっぱりこの国を愛してるから!!!! ――だから行けません!!!』

「………そうか!」

『私は―』

 

 ルフィはその言葉に、ようやく納得の表情を見せる。

 言葉を続けようとしたビビは、不意にこぼれてきた涙で思わず身を震わす。

 遠くなっていく一味の姿に、怒涛の勢いでこれまでの思い出が駆け抜けていったのだ。

 

『…私は、ここに残るけど……!!!』

 

 決して友好的ではなかった出会いと、そんな自分を信じてくれた優しさ。

 危険な旅路なのに絶えることのなかった笑い声と、もたらしてくれた喜び。

 大変なことも多々あったけれど、その全てがビビにとっての宝物で、忘れられないものになっていた。

 

『いつかまた会えたら!!! もう一度、仲間と呼んでくれますか!!!?』

 

 返事はない。王女が海賊とつながりがあると知れれば、立場が危うくなる。その優しさが今は、寂しくて仕方がない。

 

「…! おい、王女さん」

 

 だが隣から声を発したエドワードに、ビビは気づかされる。

 遠く去っていくメリー号の後部で、一味が左腕を天高く掲げて並んでいる光景に。

 

 ―――これから何が起こっても、左腕のこれが仲間の印だ。

 

 そう言って刻んだ、×印。他の誰も知らない、仲間だけが知っている絆の証。

 言葉はいらない、言う必要もないほどに当たり前のことだと、仲間達は告げていた。

 

 ビビはそれに、自身も左腕を掲げることで応じる。

 隣でカルーが、エドワードとアルフォンスが、雄叫びをあげながら応じているのを感じながら、ビビはずっとその場に立ち尽くしていた。

 一味の船が見えなくなるまで、ずっと。

 

 

「…行っちゃったね」

「なァに、すぐに追いつくさ………」

 

 一味を追い、海軍の船もその場からいなくなってようやく、兄弟は語り合う。

 しばらく感慨深げに海を見つめていたエドワードは、やがて神妙な顔で再び口を開いた。

 

「……アル。おれはさ…姉弟子の話を聞いて、確かめておかなきゃならねェことを思い出したんだ」

 

 訝しげに振り向くアルフォンスに、エドワードはやや険しい表情で呟く。

 逃げていた事柄に立ち向かう覚悟を決めた、そんな真剣な表情だった。

 

「おれ達は何か……大きな勘違いをしている。それをただしておかねェと、この先の道でまたつまずくことになっちまうと思う」

「勘違い…⁉」

「一度、戻ろうと思うんだ……おれ達の故郷〝リゼンブール〟に…おれ達の原点に」

 

 それは兄弟にとって、忘れてはならない戒めのようなもの。

 もう二度と振り返らないと決めていたそれを、エドワードはあえてもう一度暴くつもりになっていた。

 

「……うん。一緒に行こう」

 

 さほど迷うそぶりも見せず、アルフォンスもそれに頷く。

 自分たちの悲願を叶えるため、そして新たに持った夢を叶えるために。

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