ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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お待たせして申し訳ありません!
たぶん物語の根幹にかかわる要素が満載の新章の始まりです。


第13章 空へのロマン
第111話〝おしかけ考古学者〟


 砂漠の国を後に、船は進む。

 大切な仲間達を置いて行き、新たな冒険を求めて、一味は指針の指す方へ進んだ。

 

「もう追ってこねェな…海軍の奴ら…」

「ん――…」

「んー…」

「んー…」

 

 進行方向の安全確認を行っていたゾロが呟くと、彼の後ろから覇気のない声が聞こえてきた。

 

「つき離したんだろ⁉︎」

「ん――…」

「んー…」

「んー…」

「…あのな」

 

 耐えかねたゾロが、船室の前の欄干の下でうつぶせになっている、自分を除くほぼ全員を睨む。その全員が漏れなく、情けない泣き顔になっていた。

 ゾロを除けば唯一平常のエレノアが、呆れた様子で仲間達に横目を向けた。

 

「何よその気のない返事…決めたことでしょう?」

「「「「「さみし――……」」」」」

 

 ビビやカルー、エルリック兄弟との涙の別れを終えた一味だが、やはり寂しさは堪えきれなかったらしい。

 涙や鼻水でぐちゃぐちゃの顔のまま、何もする気になれずにいるようだ。

 

「めそめそすんな‼︎ そんなに別れたくなきゃ、力づくで連れてくりゃよかったんだ」

「うわあ野蛮人………」

「最低……」

「マリモ……」

「三刀流………」

「待て、ルフィ。三刀流は悪口じゃねェぞ」

「わかったよ、好きなだけ泣いてろ」

 

 やや乱暴なことをゾロが言うと、ルフィたちはここぞとばかりに蔑んだ目を向けてくる。

 呆れたゾロは、隣でぼんやりと佇んでいるエレノアに訝しげな目を向けた。

 

「……お前はあっちに混ざらなくてもいいのか?」

「そんな子供じゃないもの…それに、死に別れたわけでもないしね」

 

 やれやれと肩を竦め、エレノアはふっと微笑みを浮かべる。

 寂しさがないわけではない、だがそれを押し殺さず、抱えて前に進もうとする意志が、彼女の目には感じられていた。

 

「生きてこの世界のどこかでいてくれてるなら………それで十分じゃないのさ。違う? みんな」

「おお…」

「大人だ、大人がいるぞ」

 

 子供じみた駄々をこねる自分達とは違う、立派過ぎる男らしさを見せるエレノアに、ルフィたちは途端に恥ずかしさを覚えて頬を引きつらせた。

 そんな視線も無視し、海風を受けて別れの余韻に浸っていたエレノアだったが、不意にその眉間にしわが寄り始めた。

 

「……ていうかさ、いい加減出てきてくれないかな?」

 

 ギロリ、とエレノアの目がルフィたちに、ではなく、その下の船室の扉に向けられる。

 するとその声に答えるように、扉が開かれた。

 

「あら、もうバレちゃったの?さすがね」

「……?」

 

 聞き覚えのある、というかありすぎるその声に、全員の目がぽかんと見開かれる。

 そして、その声の主が―――バロックワークスのNo.2だったニコ・ロビンが姿を現した瞬間、一味はパニックに陥った。

 

「組織の仇討ちか!!? 相手になるぞ…」

「何であんたがここにいんのよ‼︎」

「キレーなお姉サマ〜〜っ♡」

『敵襲〜〜!!! 敵襲〜〜っ!!!』

「ああああああああっ、誰?」

 

 ある者は戦闘意志を全開にし、ある者は喚き散らし、ある者は見惚れ、ある者はひとしきり騒いで首を傾げたりと、その場は無茶苦茶になる。

 訝しげな目を向けていたルフィは、ようやく思い出したのか素直に驚きの目を向けた。

 

「あ! …何だ、お前じゃねェか‼︎ 生きてたのか」

「そういう物騒なもの、私に向けないで――って前にも言ったわよね?」

 

 ロビンは能力を発動させ、ゾロの剣やナミの天候棒をはたき落とす。

 武器を手放させられ、慌てて距離をとったナミは、物陰からきつくロビンを睨みつけて叫んだ。

 

「あんたいつからこの船に」

「ずっとよ――下の部屋で読書したりシャワー浴びたり。これ、あなたの服でしょ? 借りてるわ」

「何のつもりよバロックワークス‼︎ あんたも気づいてたなら言いなさいよ!」

「面倒だったのでつい」

「ついで済むか‼︎」

 

 ポリポリと頭をかくエレノアに、目を吊り上げたナミが怒鳴る。敵の組織の幹部がいたのに、それを報告しないなど何度自分の心臓を潰せば気が済むのかと。

 そんな大騒ぎの中、ロビンは気の抜けた顔で佇むルフィに色っぽい流し目をくれて口を開いた。

 

「モンキー・D・ルフィ」

「ん⁉︎」

「――あなた、私に何をしたか…忘れてはいないわよね…?」

 

 その言葉の直後、メリー号は妙な静けさに包まれる。

 波のさざめきのみが聞こえる奇妙な沈黙の中、不思議そうに首をかしげるチョッパーの横を通り過ぎ、エレノアがルフィに近づいた。

 

「おい、あんた何やった? お姉ちゃん怒んないから正直に言いな」

「ぎゃあああ!!?」

 

 ガッ‼とエレノアの手が、ルフィの顔面を掴んで指を食い込ませる。ルフィの顔は原型を留めないほどに変形し、船長は悲痛な悲鳴を上げてみ悶えた。

 

「な…ナニっておいルフィてめェ、キレーなお姉さんにナニしやがったんだオォ!!?」

『速やかに船を降りナサーイ』

「サンジくんウソップくんうるさい」

「おいお前‼︎ ウソつくな‼︎ おれはなんもしてねェぞ⁉︎」

 

 いらん想像をしたらしいサンジが羨望の眼差しで騒ぎ始め、無表情のエレノアとともにルフィに掴みかかる。

 身に覚えがないルフィは否定の言葉を吐くが、ロビンはそれにフッと笑みを浮かべて首を振った。

 

「いいえ、堪え難い仕打ちを受けました。責任…とってね」

 

 ビキィッ、とエレノアのこめかみに血管が浮き出る。

 その怒りはそのままルフィの顔を掴む手に伝わり、彼の頭蓋はめきめきと嫌な音をたて始めた。

 

有罪(ギルティ)

「まて‼︎ ほんとに待て‼︎ ほんとに知らねェぞ!!? それなんでかすげェ痛ェんだからやめろ!!!」

 

 真っ黒に染まったエレノアの手を掴み、必死に引きはがそうともがくルフィ。

 なんとか離してもらったルフィは、手の形に赤く染まり若干変形した顔をロビンに向け、咎める目を向けた。

 

「意味わかんねェ奴だな。どうしろっていうんだよ」

 

 そんなルフィの問いに、ロビンは笑みとともに答えた。

 

「私を、仲間に入れて」

「は!!?」

 

 呆ける一味にロビンは語る、自分は死ぬつもりだったのだと。

 望んだ情報は手に入らず、闇の世界に生き続けることに疲れ切った彼女は、崩壊する神殿と運命を共にしようとした。

 だが、青年はそれを認めなかった。

 死を求めるロビンの言葉を無視し、毒に侵された身体で、はるか上の地表まで登り続けたのだと。

 

「死を望む私をあなたは生かした…――それがあなたの罪…」

 

 ロビンはそう告げ、ルフィに自分の要求を伝える。

 死にたがっていた自分を生かしたのだから、最後まで自分の面倒を見ろ、と。

 

「私には行く当ても帰る場所もないの――だからこの船において」

「何だそうか。そらしょうがねェな、いいぞ」

「ルフィ!!!!」

「心配すんなって‼︎ こいつは悪い奴じゃねェから!!!」

 

 あまりの展開に待ったをかける仲間達に、ルフィは満面の笑みを浮かべて応えてみせた。

 

 

「8歳で『考古学者』、そして〝賞金首〟に」

「考古学者⁉︎」

「そういう家系なの。その後20年、ずっと政府から姿を隠して生きてきた」

 

 予想もつかない特殊な経歴に、取調室のように机と椅子を用意したウソップが感嘆の声を上げる。

 船長がいいと言ったからといって、はいそうですかとすぐには信用はできないと、急遽事情聴取の場が設けられていた。

 

「子供が一人で海に出て生きて行けるわけもなく…色んな〝悪党〟に付き従う事で身を守ったわ」

「…なかなかハードな人生経験をお持ちのようで」

「お陰で裏で動くのは得意よ? お役に立てるはず」

 

 謎多き美女は深くまで語らない。それ故に幼き頃から経験したであろう彼女の闇が創造され、エレノアは低い声で嘆息する。

 それに気づかないウソップは、興味を惹かれたのは少しずつ質問を増やしていった。

 

「ほほう、自信満々だな…何が得意だ?」

「暗殺♡」

「ルフィ!!! 取り調べの結果、危険すぎる女だと判明!!!」

 

 だが、やっぱり敵側にいた女という印象があり、そして何より冗談に聞こえないからかいにより、慌てて泣きながら逃げ出す。

 その下では、ロビンの出した手をじっと見つめていたルフィとチョッパーが、コロンと転がされ遊ばれていた。

 

「ぐわ‼︎」「うえ‼︎」

「聞いてんのかお前ェら!!!」

「軽くあしらわれちゃって情けない」

 

 くすぐられ、けらけらと暢気な笑い声をあげる二人にウソップが怒鳴りナミが呆れる。

 最初は押されていた彼女だが、次第に落ち着いて来たのか、今では一歩引いて監視するつもりになっているようだ。

 

「どうかしてるわ‼︎ 今の今まで犯罪会社の副社長やってたその女は、クロコダイルのパートナーよ!!? ルフィの目はごまかせても、私はダマされない…妙なマネしたら、私達がたたき出すからね‼︎」

「…えっ、私もやるの?」

「フフ……ええ…肝に命じておくわ」

 

 鋭い視線にも臆さず、ロビンはくすくすと笑い声をこぼす。

 その手がふいに懐に入り、じゃらじゃらと音を立てる袋を取り出して、ナミに見えるように机の上に置いた。

 

「そういえばクロコダイルの宝石、少し持ってきちゃった」

「いやん♡ 大好きよお姉様っ」

「「「おいおいおいおい」」」

 

 物欲を刺激されたナミが、すぐさま目をお金に換えてすり寄る。

 耐えられた時間はおそらく、1秒もなかったことだろう。

 

「ナミがやられた‼︎」

「悪の手口だ」

 

 こちらの性格が完全に把握されている、とゾロとウソップは戦慄の目でロビンを睨む。

 一味の弱点を知られているという事実に冷や汗を流す二人の横を、明らかに浮かれた様子である男がゆらりゆらりと通り過ぎていった。

 

「ああ恋よ♡ 漂う恋よ♡ 僕はただ漆黒にこげた体をその流れに横たえる流木…雷という名のあなたの美貌に打たれ、激流へとくずれ落ちる僕は流木…おやつです♡」

「まあ、ありがとう」

「あれは当然ああだしな」

「ああ、あれはもう最初からナシの方向で」

「よくもまぁ、即興であんな小っ恥ずかしいポエム考えられるもんだ…」

 

 予想通りといえば予想通り、そして情けない様を見せるサンジに、残った三人は頭を抱える。

 だがゾロとウソップはすぐに、こうしてはいられないと表情を引き締めた。

 

「おれ達が最後の砦ってわけだ」

「まったく世話の焼ける一味だぜ!!! なァエレノア‼︎」

「ん?」

 

 力強く、屈して生るものかとウソップが話しかける。

 だがエレノアの表情に危機感はなく、むしろ気張っている二人に呆れた目を向けていた。

 

「私は別にいいけど?」

「オイ!!!!」

「何もそう殺気立たなくたっていいじゃないのさ」

 

 何言ってんだ、とツッコミを入れるウソップに、エレノアはくすくすと肩を揺らす。

 そして一瞬のうちに、昏い笑みをたたえた寒気を催す雰囲気を醸し出し始めた。

 

「妙なことをすればその場で叩き潰せばいいんだから」

「うわ怖っ‼︎」

「……おめェが一番危険だわ」

 

 ククク、と凄まじい気迫を放つ天使に、ゾロとウソップは本能的な恐怖を感じて後退る。一味で最も恐ろしい彼女の言葉は、本気に聞こえて笑えなかった。

 

「悲しいわね。私はぜひ、あなたとも仲良くしておきたいと思っているんだけどね……天族の最後の末裔さん」

「それは奇遇だねェ……私もあんたとは話しておきたいことが山ほどあるんだ、〝オハラの悪魔〟さん」

 

 ロビンはエレノアのそんな笑みもものともせず、意味深な笑みを返す。同じくエレノアも、好敵手を見つけたような鋭い目を向けて口元を歪める。

 二人とも美しい顔立ちをしているがために、昏い雰囲気を纏うと恐ろしさが漂って仕方がなかった。

 

「…こんなんでこの先大丈夫なのか」

「ウソップ―――‼︎」

「ア!!?」

 

 先行きに不安を抱き、顔を引きつらせるウソップは、不意に声をかけてきたルフィに胡乱気な声で振り向いた。

 

「チョッパー」

「ぷぷーっ!!!」

 

 振り向いた先で、頭からロビンの手を生やしたルフィを見てしまい、思いっきり噴き出してしまう。つぼに入ったのか、ウソップはそれまでの警戒も忘れて笑い転げるのだった。

 

「どうせこうなると思ってたよ」

「…………いいわね」

 

 肩を竦めるエレノアの隣に立ち、ロビンは小さな声で呟く。

 いまだ警戒したままのゾロに、ロビンはどこか羨ましそうな表情で問いかけた。

 

「……いつもこんなに賑やか?」

「…………ああ、こんなもんだ」

「そ」

 

 そうしてロビンは、常人なら見惚れてしまいそうな笑顔を見せる。

 対するゾロは益々疑いの目を向け、美女の真意を探ろうと鋭い視線を向けて眉間にしわを寄せる。彼の手は未だ、腰の刀に添えられ続けていた。

 

「航海士さん、ところで…〝記録〟は大丈夫?」

「西北西にまっすぐ♡ 平気よロビン姉さん!」

「…お前…絶対宝石貰ったろ………」

「サンジおやつまだかァ!!?」

「ちょっと待て‼︎」

 

 新しい仲間が正式に加わったところで、一味は次なる島に向けての航海作業に入る。

 指針が差す方角へ船は進み、延々と続く航路の先を目指した。

 

「ナミ、次の島は雪が降るかなァ」

「…あんたまだ雪見たいの」

「アラバスタからの〝記録〟をたどると次は……〝秋島〟だね」

「秋かァ‼︎ 秋も好きだなー‼︎」

 

 さっそく次の島に期待しているらしいルフィは、船首の上に乗って前方を見つめる。

 久々に、大した騒ぎの起きないのんびりとした航海を堪能していた時だった。

 

「…………ん?」

 

 ピクリ、とエレノアの耳が何かを感じ取る。

 顔を上げた彼女は、何か大きなものが船に近づきつつあることを察し、仲間達に視線を向けた。

 

「…なんか来るね」

「なに?」

 

 危険察知においては百発百中を誇る天使の反応に、一味はすぐさま警戒態勢に入る。

 そうして身構えていた彼らが気付いたのは、欄干や甲板にぶつかる、コツンカツンという乾いた音だった。

 

「…雨か? いや、雨じゃねェ…」

「あられか…?」

「……そのどれでもないよ」

 

 雨粒とは異なる、小さな固形物に、一味は首を傾げる。

 そんな中で、エレノアだけが近づきつつある、空から降ってきているものの正体に気付いていた。

 

「船だ」

 

 メリー号を軽く超える巨船が落下してきたのは、そのすぐ後の事だった。

 

 ――人が空想できる全ての出来事は、起こりうる現実である。

物理学者ウィリー=ガロン

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