ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第113話〝サルベージ王〟

 ごぼりごぼりと、海中から気泡が上がってくる。

 海中深くに沈んだ船を目指す三人の生存を示すそれらを見下ろし、チョッパーは備えた管から声を届けた。

 

「こちらチョッパー、みんな返事して」

『こちらルフィ、怪物がいっぱいです。どうぞ』

『ここは巨大海ヘビの巣か⁉︎』

『こちらサンジ、うわっ‼︎ こっち見た‼︎』

 

 返ってくる声を聞き、不安気だったチョッパーはますます三人が潜った場所に心配そうな目を向ける。本当に無事で戻って来られるのだろうかと。

 しかし、命じた本人であるナミは、全く臆した様子もなく力強く頷いた。

 

「OK」

「OKか!!?」

「何とかなるわよ、くよくよしないの‼︎」

 

 自分が危ない目に遭っていないからと、ナミは無茶苦茶なことを平気で断言する。

 いろいろと物申したい他の仲間達だったが、本気の目をしたナミの気迫のためか、そういう気分になれずにいた。

 

「チョッパー、ブレーキしっかりね!」

「うん」

「いやあ、おれ行かなくてよかった」

「…あなたは行かなくてよかったの?」

「いやァ……行きようがないっていうか…………沈まないんだよね、軽さに特化しすぎて」

「そういうこと」

 

 ホッと安堵の息をつくウソップの後ろで苦笑するエレノアに、ロビンは納得の声をこぼす。

 しかしその時、エレノアは自身の能力である異常な聴力が、何かの声を捉えたのを感じた。

 

「……なんか近づいてきてるね」

「そうみたいね」

 

 エレノアが向いた方角に、ロビンも視線を向ける。ナミたちも、二人が別の方を向いていることに気づき、警戒を始める。

 そしてその声の持ち主が、離れた海の向こう側からその姿を現し始めた。

 

「サ〜〜ルベ〜ジ〜〜サルベ〜ジ〜〜♪ サ〜〜ルベ〜ジ〜〜サルベ〜ジ〜〜♪」

「何だありゃ…」

 

 奇妙な歌とともに、その船はメリー号の近くへと近づいてくる。

 シンバルを持った猿の上半身の船首が付いた、メリー号の数倍の大きさの船。それに乗った数十人の船員が、陽気に笑いながら現れたのだ。

 

「全体〜〜〜…止まれっ!!!」

「アイアイサー!!!」

「船が沈んだ場所はここかァ!!?」

「アイアイサー‼︎ 園長(ボス)!!!」

「園長⁉︎ つまりそいつァおれの事さ!!!」

 

 船員たちに呼ばれながら、猿の船首の海賊船のボスが声を上げる。

 シャツとオーバーオールを着こなした、ほとんど猿と同じ顔をした大男だ。

 

「引き上げ準備〜〜〜〜〜!!! 沈んだ船はおれのもんだァ!!!!! ウッキッキー!!!」

「「「「「ウッキッキィ〜〜〜〜!!!」」」」」

「また妙なのが出てきたわ、こんな時に…」

 

 異様なテンションで騒ぐ一味の登場に、ナミが呆れた調子でため息をつく。

 こういう派手で、意味不明な登場をする奴はろくな奴らではないと、ナミはこれまでの航海で学んでいた。

 その横で、大男の顔を見たエレノアがわずかに目を見開いた。

 

「〝サルベージ王〟マシラ…‼︎ 特定の海域をナワバリにしてる…懸賞金2300万Bの海賊だ!!!」

「ホホゥ…? お前、おれのことを知ってるのか。なかなか殊勝なやつだ…」

 

 懸賞金の額から言えば、大した海賊ではない。しかし名を言い当てられたことが気に入ったのか、マシラと呼ばれた大男はにやりと笑みを浮かべる。

 それどころか、心底嬉しそうにでれっと満面の笑顔にまでなっていた。

 

「な、なかなかみっ、みみ見る目があるじゃねェかウキキィ〜〜!!!」

 

 真っ赤になり、オイオイと手を振る彼からは、全く脅威というものが感じ取れない。船員たちが囃し立てているのが、余計に緊張感を削いでいく。

 そんな姿に、ナミはより一層ぐったりと肩を落としていた。

 

「なんなのアレ…」

「まいったなァ〜…この辺はあいつのナワバリだったのか……厄介なことになりそう…」

「ナワバリ?」

「そうとも…この海域に沈んだ船は全ておれのものだ。てめェら手ェ出しちゃいねェだろうな……‼︎ んん!!?」

 

 ポリポリと頬を掻き、困ったというよりは面倒くさそうに呟くエレノアに、マシラが強く反応する。

 そして今度は、ナミたちが何か邪魔になるのではないかと凄みをきかせ始めた、が。

 

「あの人…サルベージするつもりらしいわよ…?」

「あ…ああ、そんなこと言ってんなァ」

「マシラは二つ名の通り、サルベージにこだわってる変わった海賊なんだ。邪魔したり縄張りに入ったりする奴には容赦がないらしいよ」

「じゃあ何? これってチャンスなの?」

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねーっ!!! おれ様の質問に答えやがれウキ――っ!!!」

 

 マシラを全く脅威と感じていないナミたちは、どうしたものかと早速談議に入る。

 無視されたと思ったのか、マシラは怒号を上げて今にもメリー号に乗り込みそうになるが、それより先にウソップが手を挙げた。

 

「すいません質問してもいいですか?」

「おめェがすんのかよっ!!!」

 

 出鼻をくじかれたように、マシラが目を見開いて叫ぶ。

 だがすぐに平静になり、どこか得意げにウソップに向き直った。

 

「いいだろう、何でも聞いてみろ」

「これから船をサルベージなさるんですか?」

「なサル⁉︎」

 

 できるだけ刺激しないようにと、丁寧な言葉づかいで問いかけたウソップだったが、マシラは全く関係ないところに食いついた。

 

「おい…そんなにおれは〝サルあがり〟か?」

「サルあがり?」

「〝男前〟って意味だ!!! そう思うか?」

 

 一瞬、何を言っているのかわからず固まるウソップだったが、あまりにもマシラがうれしそうだったので、波風を立てまいと適当に頷いた。

 

「ええ」

「いやまいったなあ♡」

 

 適当な、しかも意味も全く分かっていないおべっかだったのに、単純なのかマシラは一層でれっと照れる。褒めれば褒めるほど、海賊マシラへの警戒心が薄れていった。

 

「………で、本当はどういう意味なんだ?」

「サルから成り上がったばかり…要するに猿と大差ないってこと」

「誰から教わったんだあいつ…」

 

 エレノアに耳打ちし、真の意味を知ったウソップは思わず呆れた目をマシラに向ける。果たしてその言葉を教えた者は彼に悪意があったのだろうか。

 気力を削がれかけた一味は、何とか気持ちを立て直しマシラに向き直った。

 

「――で? サルベージすんのか?」

「そりゃおめェ、するもしねェもそこに船が沈んでりゃ引き上げる男さ、おれァ‼︎ 浮いてりゃ沈めて引き上げる男さ!!! おれ達に引き上げられねェ船はねェ!!!」

 

 ウソップがまた問うと、マシラは先程とは打って変わって力強い声で答える。

 目的は不明のままだが、サルベージに並々ならぬ執念を燃やしていることがわかり、ナミ達に緊張が戻る。

 エレノアは少し考え、マシラに向けてもう一度声をかけた。

 

「じゃあ、見学させて貰っていいですか⁉︎」

「ん?」

「名高い海賊マシラさんのサルベージがどんなのか見てみたいんです!」

「………そうか! そんなにおれ達のサルベージが見たいか。よし、いいだろう。見学してくがいい‼︎」

 

 聞いたことがないくらい、媚びた可愛らしい声で問われ、マシラはまた気分をよくしながら了承する。

 船員たちも注目されるのが嫌ではないらしく、みるみるやる気を募らせていく。それを確認してから、素に戻ったエレノアがウソップ達に視線を戻した。

 

「…はい、とりあえず様子見しようか」

「なかなかに小悪魔ね、あなた…」

「エレノアはすげーなー」

 

 男心をくすぐり、狙い通りに操ってみせた天使に、ロビンは冷や汗を流し、チョッパーは感嘆の声を上げる。

 その時、マシラの船の方でさわがしい声が聞こえてきた。

 

「園長‼︎ 大変です」

「何だ」

「海底へ〝ゆりかご〟を仕掛けに行った船員が」

「海王類にやられたのか」

「いえそれが、何者かに殴られた跡が…‼︎」

 

 船員からもたらされた報告に、マシラだけではなくナミ達もぎくりと体を強張らせる。そんな事をする奴に、心当たりしかないからだ。

 何より、今この状況で自分達に関連があると疑われない方がおかしかった。

 

「何ィ…⁉︎ 誰か海底にいるってのか………!!?」

「あいつら……‼︎」

「まずい、まずいぞ」

 

 どんなに鈍い奴だって、出会った直後にそんな事態が起これば怪しむに決まっている。案の定、マシラの目がぎろりとナミ達に向けられた。

 

「おいお前らァ!!!!!」

「ひィ!!!」

 

 やっぱりバレた、そう直感し、ナミとウソップ、チョッパーが震えあがる。

 エレノアとロビンはすぐさま戦闘に備えて身構えるが、マシラが襲い掛かってくることはなかった。

 むしろ彼は、エレノア達にも案じる視線を向けてくれていた。

 

「海底に…‼︎ 誰かいるぞ‼︎ 気をつけろ!!!」

(バカでよかったァ…)

(りょ…良心が…)

 

 マシラのとんでもない鈍さに、ナミたちはほっと安堵のため息をつき、エレノアは罪悪感から明後日の方角を向いていた。

 

「さっさと〝ゆりかご〟仕掛けて来い、サルベージを開始する!!!」

「「「「「アイアイサ〜〜〜〜!!!」」」」」

 

 マシラの号令で、船員たちはバタバタと舟の上と中を走り回る。

 その間マシラは、見学を申し出たエレノアたちに人懐っこそうな満面の笑みを見せ、手を振っていた。

 その間もずっと、ウソップが空気を海中に送り続けているとも知らずに。

 

「おいおめェら!!! あいつらはカボチャだと思え!!! 見学がいるからって…キ…ウキキ…‼︎」

 

 キリッと表情を引き締めようとするが、どうしても照れがきてしまうのか顔がにやけてしまう。彼の部下たちも同じようで、ずっと緊張でガチガチに固まってしまっていた。

 

「緊張するココねェぞ、おめェら!!!」

「「「「「アアイアイアガ――――!!!」」」」」

「……何かプライドみたいなのがあんのかな」

「イイとこ見せてくれようとしてんのね」

 

 相変わらず騙し続けているため、申し訳なさを覚えてしまうウソップ。

 とうとう耐え切れなくなったのか、エレノアが作業を見守るマシラに思い切って質問を投げかけた。

 

「あの〜…準備に時間がかかるならもう一個だけ聞かせてもらえませんかァ?」

「ん? お、おう何だ。言ってみろ」

「こんな大掛かりな道具を使って、一体何を探してるんですか?」

 

 サルベージという事は、何か特別な物を探しているという事だろう。

 それも正規の組織ではなく、海賊という真っ当ではない身の上でならば、ただの調査ではないはず。

 するとマシラは、エレノアににやりと不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「おれ達はな………〝黄金郷〟を見つけるのよ‼︎」

「「〝黄金〟!!!?」」

 

 マシラの口から飛び出した言葉に、エレノアとナミが同時に反応する。

 だが詳しく聞こうとした丁度その時、海中からずしんと大きな音がして、エレノアの注意がそちらに移った。

 

『〝ゆりかご〟セット確認しました!!!』

 

 マシラ側の船の管から、部下の声が聞こえてくる。

 同時に、メリー号に備わった管からも、ルフィたちの驚愕の声が響き渡りかけた。

 

『何だコリ…』

 

 慌てて管を手で塞いだウソップとナミだったが、さすがに聞こえたらしいマシラが訝し気に振り向く。

 すぐさまウソップが誤魔化そうと、マシラの船で特に目立つ船首を指さして叫んだ。

 

「な…何だァ!!? そのサル‼︎ サルは何ですかァ!!?」

「おお…これか…ウキキ…お前…お目が高いな。そう、コイツはただの船首じゃねェ!!! 発進だ!!!〝船体ハンター〟!!!」

「アイアイサー!!!」

 

 誤魔化せたというより、丁度動かすタイミングだったようで、マシラは特に気にした様子もなく次の行程へ進ませる。

 すると、船首の猿が突然動き出し、船が沈んだ真上まで移動を開始すると、海中へ潜り始めた。

 

「わあ‼︎ すげェ!!!」

「本当にすげェ!!!」

「何が?」

「そっとしといてあげて…」

 

 男心をくすぐられ、目を輝かせるウソップとチョッパー。理解ができず、戸惑いの声を上げるナミの肩を、遠い目のエレノアがポンと叩いて宥める。

 そんなやり取りの間にも、マシラたちは着々と何かの準備を進めていた。

 

『〝船体ハンター〟結合完了!!!』

「よ――し!!!〝吹き込み〟行くぞォ!!!」

「「「「「アイアイサー‼︎」」」」」

 

 マシラが一本の管を持ち、部下たちに吠える。その管は海まで続き、海中に沈んだ何かまで届いているようで、その意図に気づいたナミがまさかといった顔で目を瞠った。

 

「まさか…息を吹き込んで船を持ち上げる気………⁉︎ そんなムチャクチャな……‼︎」

「…やるだろうね」

 

 力技にもほどがある、そしてなにより無謀すぎると絶句するナミの横で、エレノアが目を細めた。

 

「仮にも彼は……〝偉大なる航路〟の海賊だよ」

 

 その直後、海中から大量の泡が吹きあがり、徐々に巨大な影が浮き上がってくるのが見える。

 それを確認し、海中からまた興奮した声が上がってきた。

 

『船体、浮きました―――っ!!!』

「今だ引き上げェエ!!!」

「「「「「アイアイサー!!!」」」」」

「空気の追加‼︎ 遅れるなァ!!!」

「「「「「アイアイサー!!!」」」」」

 

 巨大なふいごのような装置を動かし、マシラの部下たちがどんどん空気を海中に送り込んでいく。

 そのまま浮力を得た船が、海面まで上がってくると思われたその時だった。

 

『ギャアアアア〜っ!!!』

 

 海中から響き渡る悲鳴に、マシラたちの動きが止まる。

 すぐさま確認に動いた部下が、戦慄の表情でマシラに叫んだ。

 

「園長‼︎ 海底の船員が‼︎」

「どうした!!? 何があった子分共!!!」

『船の中に何者かが!!! ああァ〜〜〜…』

 

 船長に助けを求める船員の声が、弱々しく消えていく。

 先ほども現れた、大事な部下を傷つけた何者か。それが再び手を出してきたという事実に、マシラは凄まじい形相で激昂の咆哮を上げた。

 

「おのれ、よくも俺の子分達を!!! 何奴だァア!!!」

 

 自身の怒りを表すように、天に拳を突き上げて吠えるマシラ。

 だがその目は、何かを待っているようにエレノアたちの方に向けられ、緊張感を台なしにしていた。

 

「……あの、別に撮影とかはしてないので」

「何!!?」

 

 どうやらシャッターチャンスをつくっていたらしく、申し訳なさそうにナミが謝るとショックを受けた様子で立ち尽くす。

 が、怒りは本物なのかすぐに我に返り、部下たちの方に目をやって告げる。

 

「引き上げ作業を続けてろ!!!」

「アイアイサ――」

 

 マシラはそう命じてから、自身は海に向かって勢いよく飛び込んでいく。

 ブクブクと泡が無くなってから、メリー号に残った面々はようやく顔を見合わせた。

 

「…大丈夫かしらあいつら。出くわしたら……」

「案外仲良くなってたりして」

 

 なかなかにお人好しの様だし、とエレノアはたいして心配することなく、楽観的に答える。実力的にも、後れをとりはしないだろうと。

 

「……ん?」

 

 だがその時、エレノアはまた新たな存在が近づきつつあることに気づき、訝し気に首を傾げる。

 それに気づいたナミが、不思議そうにエレノアに問いかけた。

 

「どうしたの?」

「…なんか海中から近づいて」

 

 一体何なのか、それを理解した時には。

 ルフィたちのいる沈没船は、バキバキと捕食されてしまっていた。

 

「あ」

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