ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第116話〝海底探索王〟

「さっそく変なのに出くわしちまったな」

 

 地図に示された、はみ出し者の住まいに向かう一味は、その前にある奇妙な一団と遭遇する。

 その風貌は何というか、少し前に遭遇した一団と非常に類似した雰囲気を持っていて、一味を大いに困惑させていた。

 

「でもあいつじゃねェみてェだぞ」

「ああ、まァそれがよかったか悪かったかは別だがな」

「とにかく見たんだよおれ達は‼︎なァ‼︎」

「うん‼︎ あのサルベージの奴、やっぱりこの島の奴なんだよ。帰って来るとこ見たんだ」

「ふ――ん、別にまた会ってもいいけどな、おれは」

 

 慌てながら、ウソップとチョッパーが語る。どうやら彼らは、モックタウンの近くで件の海賊、マシラの船を見かけていたらしい。

 そんな彼らに痺れを切らしたのか、相対していた一団の長が声を張り上げた。

 

「オウオーウ‼︎ ニーチャンニーチャン‼︎ そっちでゴチャゴチャ言ってんじゃね――ぞォ!!! ウォ――ホ――!!!」

 

 椅子の上にふんぞり返り、ハラハラと息をつくその男の第一印象は、猩々(オランウータン)そのもの。

 声といい表情といい、人語を介していることを除けばかなり人間離れして見えた。

 

「フン…‼︎ まったく、どこの誰かと思ってハラハラしたぜ」

「〝海底探索王〟ショウジョウ…懸賞金3600万の海賊だよ」

「あのサルと似たような二つ名だな…顔も」

 

 なんとも言葉に表しにくい相手を見やり、ひそひそとエレノアたちは囁き合う。ルフィのみが、一切臆する様子もなく海賊ショウジョウと向き合っていた。

 

「思い切った顔してんな――何類だ?」

「人類だバカヤロー」

「ウォーホー‼︎ おめェら!!! ウチの大園長を怒らすんじゃねェぞ!!!」

 

 かなり失礼な質問だったが、幸いにもショウジョウはさほど怒りを見せない。

 が、先に部下の方がルフィたちに向かって怒りの声を上げ始めた。こちらはこちらで、全員がダイバースーツを着込んでいるという奇天烈な格好だ。

 

「ま――いーからいーから。おめーら海賊の様だな、知っとるか?〝七武海〟の一角、あのクロコダイルが落ちたんだ。実力的に言って、そのイスはまさかしておれに回ってくんじゃねェかって、もーハラハラして待ってるおれだ」

「へ――…お前七武海に入りてェのか」

「あ⁉︎ とにかくおれのすげェところはどういうとこかって言うと、生まれてこのかた25年髪の毛を切った事がねェってとこだ。なァ、お前びっくりしたか?」

 

 まったく関係のない話をされ、返答に困ったエレノアたちは黙り込む。

 そしてやはり唯一ルフィだけが表情一つ変えず、真顔で口を開いた。

 

「ばかみてェ」

「うわっ、びっくりした!!!」

「てめェ大園長に」

「いーからいーから、まったくお前の解答にはハラハラさせられるぜ」

 

 いきり立つ部下を制し、ショウジョウは深い息を吐く。しかし再びルフィたちに向けられたショウジョウの目は、全く笑っていなかった。

 

「い――か、おれの怒りという名のトンネルを抜けると、そこは血の海でした」

「……いちいちめんどくさいなこの人」

 

 回りくどい、脅しにユーモアを持たせたいのかよくわからない彼の言い回しに、調子を狂わされたエレノアが苛立ち交じりに呟く。

 同じく待ちくたびれたのか、心底面倒そうにルフィがショウジョウを睨んだ。

 

「どうでもいいけどおれ達、行きてェ場所があんだよ、どいてくれ‼︎」

「あほたれェ!!! ここらの海はこのおれのナワバリだ!!! 通りたきゃ通行料を置いてゆけ!!!」

 

 やはり、結局はそう言う事が目的で呼び止めたらしい。さっきとは打って変わって声を荒げ、ショウジョウが椅子から立ち上がって両腕を掲げだした。

 

「何だ〝ナワバリ〟って、マシラみてェな事言ってやがる」

「〝海底探索王〟はマシラと同じく特定の海域で長年活動してる海賊だよ。名前からして理由はサルベージじゃない?」

「そんな事言ってたか?」

「何ィ!!? マシラァ⁉︎ マシラがどうした‼︎」

 

 またひそひそと囁き合っていると、会話の内容が聞こえてしまったようでショウジョウが反応を示す。

 その変化を特に気にせず、ルフィは平然と答えた。答えてしまった。

 

「ん? あいつならおれ達が蹴り飛ばしてやったんだけど、でも」

「け…蹴り飛ば…!!! …トバ!!!〝兄弟〟をよくもォ!!!」

「え?」

 

 ルフィの答えを聞いた途端、ショウジョウはより一層の怒りをあらわにして騒ぎ出す。

 呆気にとられるルフィたちを放置し、ショウジョウは突然マイクを取り出し、大きく息を吸い込み始めた。

 

「おいちょっと待てって、蹴ったけどあいつまだちゃんと生きて」

「マシラの敵だァ!!! 音波!!!破壊の雄叫び(ハボック・ソナー)〟!!!

 

 ルフィの言葉も聞かず、ショウジョウはマイクに向かって大声で吠える。

 途端にすさまじい音が響き、ビリビリと強烈な振動があたり一帯に発生していく。その振動は、辺りにあるもの全てを徐々に破壊していった。

 

「………………‼︎ 船が…」

「うわあァ〜〜!!!」

 

 ウォ――ホ――と、声が響くと同時に、ベキベキと木材が端から解体されていき、あっという間に船がボロボロになっていく。

 船の上にいる者もその影響を受け、音の凄まじさに悶え苦しめられた、が。

 

「ぎゃああああ」

「大園長‼︎ その技を船の上で使っては…!!!」

「だめだ、怒りで我を忘れてる………‼︎」

 

 その影響下にあるのは、標的のルフィたちではなくショウジョウの乗る船で、今のところ巻き込まれているのは彼の部下だけだった。

 要するに、完全な自爆にしかなっていなかった。

 

「―――で、何やってんだあいつら」

「さ――。でもすげェな、声で船が壊れてくぞ!」

 

 ほぼ破壊音の影響を受けていないルフィたちは、ショウジョウの船が見る見るうちにボロボロになっていく光景をおかしげに眺め、けらけらと笑う。

 だが、彼らの方も全く問題がないわけではないと、次の瞬間気付かされた。

 

「ぎぃやあああああ!!! 耳が…耳があああ!!!」

「ヤベェ‼︎ 人より数倍耳がいいエレノアが‼︎」

「ああ…耳がいいのも考えもんだな」

 

 凄まじい聴力を有するエレノアが、耳を抑えて甲板の上を転げ回る。それに気づいたルフィたちは、しまったと彼女に同情の目を向ける。

 ナミはそれを見てやれやれと肩を竦め、一味全員に向かって声を張り上げた。

 

「みんな‼︎ ボーッと見てないで今の内に先へ進むのよ‼︎ エレノアが再起不能になる前に‼︎」

「ハ――イ♡」

「お! ナミがもう鬼じゃねェ」

「そりゃあれだけ発散すりゃな」

 

 いつもの調子にようやく戻った航海士に安堵し、びくびく体を震わせるエレノアを抱えて一味は動き出す。

 その時、ミシミシという嫌な音を耳にし、ウソップが表情を変えた。

 

「ちょ……待て、まずい!!! やっぱりこの船にも影響が!!!」

「修理箇所からみるみる崩れてく!!! ただでさえ船体はもうボロボロだってのに‼︎」

「全速前進!!!」

 

 気づかぬうちに、ショウジョウの船と同じように板が剥がれ始めているのを目にし、一味は慌てて船を漕ぎだす。

 周りの被害など一切見ず、吠え続けるショウジョウの破壊音から、一味は一目散に逃げていった。

 

⚓️

 

「まったく、あのオランウータンめっ!!!」

 

 ガンガンとくぎを刺し、ウソップが声を荒げる。

 せっかく修復を終えた愛するメリー号がまたボロボロになり、さらなる修復を強いられた彼は非常に不機嫌だった。

 

「船をさらに破壊してくれやがってよォ!!!」

「気がつきゃいつの間にかボロボロだな、この船も…かえ時か?」

「勝手な事言ってんじゃねェぞてめェまで!!!」

 

 くわっ、と目を見開き、ウソップが不穏な発言をこぼしたゾロに怒鳴る。

 そんな彼に、ウソップの隣で槌を振るっていたルフィがニッと笑みを見せた。

 

「文句言っても仕方ねェウソップ!ゴーイングメリー号もおれ達の大切な仲間なんだ、頑張っておれ達でよ!直してやろうぜ‼︎」

「私もできる限りやるからさ」

「ルフィ…‼︎ エレノア…‼︎ おめェらァ…………」

 

 物を直すのが苦手な天使と、最も船を壊している男からの言葉とはいえ、本気で船を想う言葉を聞けたことでウソップはほろりと涙を流す。

 が、つい力のこもったルフィの槌が、メリー号の一部をバキッと破損させてしまった。

 

「あ」

「てめ――――!!!!」

 

 

 ――そんなやり取りを交えながら、再び海を進むこと数時間。

 一味はついに、地図が示す目的へと辿りついていた。

 

「着いたわ、地図の場所」

「ここに例の…誰だっけ?」

「モンブラン・クリケット」

「――その夢を語る男が住んでるのね?」

 

 何かしらの情報さえ手に入れば、そんな軽い期待を持ってその場所を訪れたルフィたち。

 彼らの目の入ってきたのは、聞いていた話からは想像もできない、凄まじい大きさを誇る豪邸が聳え立っている光景だった。

 

「す…すげェ!!!」

「あれがそいつの家なのか!!? スッゲー金持ちなんじゃねェのか!!?」

 

 予想をはるかに超える展開に、ルフィとウソップ、チョッパーは目を輝かせながら歓声を上げる。

 だが、期待を上げまくる彼らとは真逆に、サンジとゾロは非常に冷めた表情を浮かべていた。

 

「バーカ、よく見ろよ」

「夢見る男ねェ…少なくとも見栄っ張りではある様だな」

「? なにが⁇」

 

 まるで違う反応を見せる二人に、訝し気に三人が首を傾げる。

 その間にも、停泊する位置を探すため、メリー号が少しずつ豪邸に近づいていく。そうすることで、ルフィたちは真実を目の当たりにすることになった。

 

「げ!!! ただの板!!?」

「なに――――っ!!?」

「当の家は半分だけ、あとはベニヤ造りだ」

「ずいぶんとケチな男らしいな…」

 

 豪邸に見えていた部分は、精巧に描かれたただの絵。裏側に回ると、比較にもならないほどこじんまりとした小さな家がぽつんと建っているだけという貧相な光景が広がっていた。

 その家も、半分だけでしかも崖のすれすれという、とんでもなく住み辛そうな立地だった。

 

「しかしまたなんでこんな微妙な建て方を………………」

 

 奇妙すぎる家に、その持ち主のひねくれ具合を想像して目を細めるエレノア。

 じっと、妙に古臭い造りをしたその家を見つめていた彼女だったが、不意に頭に鈍い痛みが走った気がして、眉間にしわが寄った。

 

「…?」

 

 前触れなく起こった頭痛、一瞬で消えてしまったそれを訝しく思いながら、エレノアは不思議そうに半分だけの家を眺める。

 そしてロビンに、一体こんな場所に住むのは何者なのかと問いかけた。

 

「一体、どんな夢を語って町を追われたの?」

「くわしくはわからないけど……このジャヤという島には、莫大な黄金が眠っていると言ってるらしいわ」

 

 その言葉に、いち早くナミが反応する。

 続いてウソップが、さらに続いて他の面々が振り向き、ロビンが呟いた言葉に興味深げな表情を見せた。

 

「黄金!!?」

「どっかの海賊の埋蔵金か何か!!?」

「さァ…どうかしら」

 

 そこまで詳しい情報は得られなかったとロビンは苦笑し、肩を竦める。

 一瞬で金に目がくらんだナミは、すぐさまあたりに鋭く目を走らせ、続いてチョッパーに視線を移して命じた。

 

「掘るのよチョッパー‼︎〝金〟が出るわ」

「え⁉︎ 掘ったら出るのか⁉︎」

「出ないよ」

「え!!?」

 

 ザクザクと角で地面を掘り始めるチョッパーを、すぐさまエレノアが止めて彼を非常に困惑させる。

 そんなやり取りに呆れた目を向けつつ、ウソップが家の周りを見渡してため息をついた。

 

「こんな辺境に一人暮らしかァ……」

「こんにちは―――‼︎ おじゃまします‼︎」

「おめェはイキナリかよ!!!」

 

 何もない平地を見ていたウソップは、遠慮なくドアを開けて家の中に入るルフィに目を吊り上げる。

 他人の家であろうと構わず上がるとは、相変わらずどれだけ図太い神経をしているのか。

 

「ん? 誰もいねェな…こんにちは――――!!!」

「ばか、待てって、ヤベェ奴だったらどうすんだ!!!」

「おいみんなー留守だ‼︎」

 

 自由気ままに、そしてそれぞれで勝手に辺りの散策を始める一味。

 そんな中、近くに置かれた切り株の上に置かれたあるものに気づいたナミが、近付いて覗き込み思わず笑みを浮かべた。

 

「! 絵本…――ずいぶん年季の入った本ね。『うそつきノーランド』だって、あはは」

「『うそつきノーランド』⁉︎」

 

 見つけたそれ、ボロボロの絵本に描かれていたタイトルを読むと、別の場所を見ていたサンジが振り向く。

 ナミが持っている本に気づいた彼は、描かれている絵を見て笑い声をこぼした。

 

「へー、懐かしいな。ガキの頃、よく読んだよ」

「知ってんの? サンジ君。でもこれ〝北の海〟発行って書いてあるわよ」

「ああ、おれは生まれは〝北の海〟だからな。みんなにゃ言った事なかったか?」

「初耳だな。お前も〝東〟だと思ってたよ」

「育ちはな、まァどうでもいいさ」

 

 思わぬ繋がりを知り、感嘆の声を上げるウソップにサンジは手を振って遮る。

 そして興味を示しているナミやほかの面々に、自身の知る情報を語ってみせた。

 

「こいつは〝北〟では有名な話なんだ。童話とは言っても、このノーランドって奴は昔、実在したって話を聞いた事がある」

「……本当だよ」

 

 サンジの説明を裏付けるように、エレノアがなぜか微かに険しい表情で頷く。

 

「モンブラン・ノーランドは数百年前、〝北の海〟のとある王国の探検家だったそうだよ。えーと…」

 

 一味の視線が集まると、エレノアは目を閉じ、覚えている内容を思い出しながら語り始めた。

 くすりと笑える、どうしようもない滑稽なある男のお話を。

 

 

 むかしむかしのものがたり

 それは今から400年も昔のお話――

 北の海のある国に、モンブラン・ノーランドという男がいました

 

 たんけんかノーランドの話は、いつもウソのような大ぼうけんの話

 だけど村の人達には、それがホントかウソかもわかりませんでした

 あるとき、ノーランドは旅から帰って、王様にほうこくをしました

 

『私は偉大なる海のある島で山のような黄金をみました』

 

 ゆうきある王様はそれをたしかめるため2000人の兵士をつれて、偉大なる海へと船をだしました

 大きな嵐やかいじゅう達との戦いをのりこえて

 その島にやっとたどりついたのは、王様とノーランド

 そしてたった100人の兵士達

 しかし、そこで王様たちが見たものは、何もないジャングル

 ノーランドはうそつきの罪でついに死刑になりました

 ノーランドのさいごの言葉はこうです

 

『そうだ!

 山のような黄金は海にしずんだんだ!!!』

 

 王様たちはあきれてしまいました

 もう誰もノーランドをしんじたりはしません

 ノーランドは死ぬときまでウソをつくことをやめなかったのです

(北海民話『うそつきノーランド』)

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