ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第11話〝最初の一歩〟

「ぜェ…ぜェ…‼ あの子なかなか根性あるな…‼ とうとう町一周しちゃった…‼」

 

 アルモニに追われ、敵と戦ったすぐ後に走り続ける羽目になったエレノアが、息切れしながらこぼす。

 本気で逃げ続けたのだから、振り切ったはずだろうと後ろを振り向く。

 

「さすがにもう追っては…」

「弟子にしてくれるまであきらめないっ‼」

「ふぎゃ――――っ!!?」

 

 必死の形相で、至近距離にまで張り付いていたアルモニを目にして、エレノアが悲鳴をあげた。

 おそるべき執念である。

 

「なんなの⁉ あんたのその底なしの根性は一体何なの!!?」

「だから言ってるじゃない‼ 私はパパみたいにみんなの役に立ちたいんだよ‼ そのためなら、私はなんだってやってやる!!!」

「……‼ 強情なっ‼」

「パパもお姉ちゃんも教えてくれない…‼ どうせ使えないって‼ 才能がないからムダだって‼ あたしは真剣なのに…真剣にパパやお姉ちゃんに認めてもらいたいのに!!!」

「…………」

 

 アルモニの慟哭に、エレノアはなぜか言葉に詰まった。

 心の底から悔しそうな表情や、握り締められた手に表れている感情に、何か思うことがあったらしい。

 しばらくしてエレノアは徐々に速度を落とし、途中で立ち止まった。

 アルモニは思わず笑顔になり、大きく肩を揺らして息を切らせながらエレノアを見つめた。

 

「はァ……はァ……教える気になってくれた⁉」

「………悪いけど、私はあんたの師匠にはなれないよ。その資格も暇もない」

「……ッ‼ 資格がないなんて思わない‼ あなたはすごい錬金術が使えるし、それをひけらかしたりしない!!! 暇がないなら、私があなたの行くところについていく!!! だからっ……!!!」

「…私は海賊だよ」

「じゃああたしだって海賊に……‼」

「いい加減にしろ!!! 軽い気持ちでその言葉を口にするな!!!」

「軽い気持ちなんかじゃない!!! 真剣にあたしは錬金術師になりたいんだ!!!」

 

 何度言っても、アルモニは諦めるつもりはないらしい。

 弟子を取るつもりも、況してや他人に錬金術の手ほどきをする気などないエレノアは難しい顔で黙り込み、真剣な表情を見せるアルモニを見つめ返す。

 やがてエレノアは、大きなため息をついた。

 

「しょうがない…これだけはあんたに見せたくなかったんだけど」

 

 エレノアは観念したようにつぶやくと、自分が履いていた長いブーツのジッパーをおろしていく。

 太ももまで覆う、刃を収納するためのスリットなどを備えた特殊なブーツをするすると脱ぎ、その下に隠された自分の足をアルモニの前に晒していく。

 露わになったのは、銀色の機械の足だった。

 

「……何? その、足……」

「…錬金術師の…私の業だよ」

 

 甲冑などではない、太ももから下がまるまる金属でできた足に成り代わっているのだ。

 エレノアが抱える想像以上の闇に、アルモニは言葉を失った。

 

「これはね、人として侵してはならない神の領域に踏み込んだ私の罪なんだ。師匠にだって禁じられていた、錬金術師の最大の禁忌…それを侵してしまったの」

「………‼」

「私は後悔なんかしちゃいない。こんな姿になってまで、取り戻したかったものがあるから…でもだからこそ、私はあんたに錬金術を教えるわけにはいかない。教えていいはずがない」

 

 アルモニに才能がないから、やっても無駄だからと否定したわけではない。

 罪を犯した自分にはそんな資格がないから、エレノアはアルモニに錬金術を教えようとは思わなかったのだ。

 

「教授があんたに教えないのもそう……錬金術は誰もが幸せになれる都合のいい力なんかじゃない。相応のリスクを覚悟しないと、命の危険だってありうる。あんたの父親や姉は、あんたにそんな風になってほしくないから禁じているんじゃないのかな」

 

 アルモニの父親も姉も、彼女を軽んじているのではない。

 娘を愛し、妹を心配しているからこそ、大きなリスクを背負う錬金術から遠ざけようとしていたのだと、エレノアはそう感じていた。

 

「…でなきゃあの人が、自分の娘にそんなことを言うはずがない」

「どうしてそんなことわかるの…?」

「…私が認めた、偉大な錬金術師だからだよ」

 

 エレノアは、かつて相対した偉大な術者を思い出す。

 賢者にふさわしき実力と人格を有したあの男を、エレノアは高く評価していた。

 

「私なんかに頼らなくても、きっとこの先素敵な師匠に出会えるよ。……海賊に教えを請おうなんて思わなくてもね」

 

 厳しいかもしれないが、これがアルモニにとっても最良の答えだとエレノアは思う。

 俯いてしまったアルモニを置いて、エレノアは先へ行こうと歩き出した。

 

「じゃあね」

「……でも‼」

 

 去っていく小さな背中に、アルモニは叫ぶ。

 自分を卑下し、アルモニを傷つけない断り方をしてくれた彼女を、アルモニは嫌えなかった。

 

「あなたは…助けてくれたよ? 海賊に殺されそうになった私を…助けてくれたよ?」

 

 エレノアは振り向かず、その場でアルモニの言葉を聞く。

 アルモニは惜しそうに唇を噛み締めながら、命の恩人にして尊敬する先輩に笑顔を向ける。

 

「あなたに弟子にしてもらうのはあきらめるよ………でもね‼ 錬金術はあきらめないよ⁉ いつか絶対すごい錬金術師になって、今日助けてもらった恩を返せるくらいになってみせるよ!!! …そんな事ぐらい、願ってもいいでしょ?」

「…そっか。じゃあせいぜい頑張りなよ」

 

 実に前向きなアルモニの決意に、エレノアは内心で微笑ましさを感じながら振り向く。

 そこまで固い決意と情熱があるならば、攻めてもの選別に言葉を送るぐらいはしてやろうと、優しい笑みを浮かべた。

 

「一つだけ教えてあげるよ。錬金術の基礎は『等価交換』…あんたが本気でそこまで錬金術師を志すなら、その思いを失わないで」

 

 言葉の意味を探るアルモニに苦笑し、エレノアは彼女なりの声援(エール)を送る。

 

「あんたの夢がその思いに釣り合うかどうかは……あんた次第だよ」

「………!!! うんっ!!!」

 

 アルモニは一瞬あっけにとられながら、エレノアのアドバイスに希望を抱いたのか満面の笑みを浮かべる。

 大きな一歩を踏み出しつつある少女をまぶしそうに見つめ、エレノアはアルモニに見送られながらその場を後にした。

 

 

 そこから時間をかけ、バギーたちがいた場所へと戻ってきたエレノア。

 もういい加減、ルフィたちも問題を解決して静かになっている頃だろう、と予想して、路地裏から顔を出した。

 

「やー、ただいま…」

 

 とりあえず労ってやろうと片手をあげる。

 が、帰ってきたのは仲間の声ではなかった。

 

「あっちにも仲間がいたぞ‼」

「捕まえろォ‼」

「ふぎゃ―――っ!!?」

 

 険しい形相で、槍やらモップやらで武装した町民らしき男たちに追われ、エレノアは悲鳴をあげながら走り出した。

 海賊ゆえに仕方がないが、あまりに急なことで理不尽にしか思えなかった。

 

「あんたたち何やってんのよォ⁉」

「文句はこいつに言ってよ‼」

「なっはっはっはっはっは‼」

 

 前を走る、財宝を抱えたナミやゾロを担ぐルフィたちを怒鳴りつけるも、ナミも不本意だったのか怒号が返ってくる。

 のんきに笑うルフィの笑い声が妙によく聞こえた。

 このまま港まで追いかけられ続けるのかと思った時、町民たちの前に割り込む影があった。

 

「ワン!!!」

「うおっ」

 

 思わず足を止めた町民たちの前で、ペットフード屋の番犬シュシュが勇ましく吠えた。

 思わぬ事態に町民たちは戸惑って立ち止まり、ルフィたちは驚きの声をあげる。

 

「シュシュ!」

「犬っ」

「おい、シュシュ‼ そこをどけ‼」

「あいつら悪い海賊なんだ‼」

「ワン‼ ワン‼」

 

 魚屋のオヤジや本屋の主人に言われても、シュシュはその道を譲ろうとはしなかった。

 宝物の仇をとってくれた恩人たちを逃がすため、忠犬は必死に時間を稼ごうとしてくれていた。

 

「グルルル…‼ ワンワン‼」

「どうして邪魔をするんだシュシュ‼」

「シュシュ‼ そこを通せ!!!」

「ワン‼ ワン!!! ワン!!!」

 

 怒鳴られても、シュシュは決して動こうとはしない。

 その姿は、かつてペットフード屋を一匹で守り続けていた時よりも大きく、たくましく見えた。

 

 

「はあー、怖かった。シュシュのお陰で何とか逃げきれたわ。なんで私達がこんな目にあわなきゃなんないの?」

「いいだろ、別におれ達の用は済んだんだから!」

「そりゃそうだけどさ」

 

 とんだとばっちりにぶつぶつ言いながら、ナミはバギーから奪った財宝を抱え直す。

 財宝にこだわるだけあって、バギーのお宝は質が良かったらしく、それなりに儲かって機嫌がいいらしい。

 そうこうしているうちに、一行は自分たちの船が停められている港にたどり着く。

 ルフィはナミが乗ってきたと言う船を見て目を輝かせた。

 

「これ、お前の舟なのか? かっこいいな―‼ いーなー」

「……そうは思わないけど、私は。バカな海賊から奪ったの」

「…ああ、あいつらの」

 

 ナミの言葉に、エレノアはこの島にくるきっかけとなった三人組のことを思い出す。

 そういえば今、どこで何をやっているのだろうか。

 

「待ってたぜ泥棒女っ!!!」

 

 そんなエレノアの考えが何か作用したのか、ナミの船の中から三つの影が立ち上がった。

 そのタイミングの良さに、エレノアは呆れてしまう。

 

「あ…あんた達は…」

「ここにいれば帰ってくると思ったぜ」

「ぐっしっしっし。まさか、この港で盗まれた船に出会えるとは思わなかった」

「おれ達を忘れたとは言わせねェぞ…‼」

「うん。よく覚えてるよ」

 

 頭痛を覚えながら、エレノアはバギー一味の三人組の標的となっているナミの前に立つ。

 何か言いかけていた三人組は、立ちふさがるエレノアを見てさっと顔を青ざめさせ、ついで驚愕と恐怖に引きつらせた。

 

「!!!? ぎいや~~~~~~~っ!!!」

 

 三人組はまるで悪魔か怪物にでも遭遇したかのように、泣き喚きながら叫び声をあげ、自ら海へ飛び込んで逃げ出していってしまった。

 後に残されたルフィは不思議そうに三人組が消えた方を眺め、首を傾げた。

 

「知り合いだったのか?」

「…さあね♪」

 

 何やら上機嫌のナミは朗らかに笑い、なぜか隣に立っているエレノアの頭を撫でた。

 

「よし、行くか!」

「ナミ、その帆、バギーのマークついてるけどいいの?」

「そのうち消すわ」

 

 血が減って動けないゾロを乗せ、財宝を積み込み、ルフィたちは出航準備を終える。

 風は良好、波も穏やか。絶好の航海のチャンスにルフィたちは早速船を出した。

 

「おい、待て小童共!!!」

 

 だいぶ沖に出た四人の方へ、大きな声がかけられる。

 意識を取り戻したプードルが、ルフィにやられた傷跡もそのままに波止場に立っていた。

 決死の覚悟を決めて突撃しようとしたらそれを妨害され、気絶している間になんの関係もない連中に大切な街を救われていた。

 その悔しさよりも先に、プードルの口からはこらえきれない思いが溢れ出していた。

 

「すまん!!! 恩にきる!!!!」

 

 滂沱の涙を流しながら、送られた感謝の言葉にルフィは明るく笑う。

 

「気にすんな‼ 楽に行こう‼」

「言葉もないわ…‼」

 

 自分の喜びを、感謝をそれ以上の言葉にすることもできず、プードルは「良い」海賊たちの姿が見えなくなるまで見送る他にない。

 その隣に、慌てて駆け寄ってきたアルモニが立ち止まり、息を切らせながらも声を張り上げた。

 

「エレノア―――っ!!!」

 

 名を呼ばれ、振り向いたエレノアは大きく手を振るアルモニに目を丸くする。

 何事かと首をかしげるエレノアに向けて、アルモニは大きく叫んだ。

 

「私っ!!! いつか立派な錬金術師になるからっ!!! その時また逢おうね―――っ!!!!」

「………そんな大声出さなくても、わかってるよ」

 

 呆れながらもエレノアは、後輩の希望に満ち溢れた表情を見て安堵のため息をつく。

 きっと彼女は、大きく成長することだろう。

 挫折も失敗も経験し、大きな夢を持った少女は高く羽ばたいていくことだろう。

 その光景を見られないこちは確かに残念だが、あの笑顔を見られただけで満足だ。

 

「しししし!」

 

 ルフィはそんなエレノアを愉快そうに笑い、エレノアはなんとなく腹が立って肘でつつく。

 遠く離れていく船の影を追い続けていたアルモニは、やがてぎゅっと強く拳を握りしめた。

 

「よし‼ やるぞ‼」

 

 ここに、大きな夢を持った少女の一歩が、踏み出された。

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