ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第125話〝スカイピア〟

「うほーー!!! この島、地面がフカフカ雲だ!!!」

「ギャ〜〜!!! 空島〜〜!!!」

 

 目指し続けた島にたどり着いたルフィ達は、一目散に陸地に飛び込んでいく。

 そこで感じた初めての感触は、本当に自然のものか疑うほどの、凄まじい柔らかさ。全てがクッションでできているのかと思うほどの、弾力があった。

 

「おい、錨はどうすんだ⁉︎ 海底がねェんだろ、ここは!!!?」

「んなモンいいだろ、どうでも。早く来てみろ、フカフカだぞこの浜辺は!!!」

「どうでもってお前……」

 

 錨を下げようとするゾロが問うが、未知の体験に夢中なルフィはただ笑うだけ。

 船乗りとして、何より船長としてそれでいいのか、というような返答に、ともにはしゃぐウソップとチョッパー以外が呆れ返っていた。

 

「………しかしたまげたな、この風景にゃ…まるで夢だ……」

「私にとっては夢も同じさ。ずっと来たいと思ってたんだから………」

 

 ルフィ達ほどではないかもしれないが、ゾロも目の前の景色に感嘆の声を上げる。隣に立つエレノアに至っては、いまにも泣き出しそうなほどに感極まった様子だった。

 

「アイツらのハシャギ様ときたら…ハハ、しょうがねェなひゃっほ〜〜う!!!」

「おめェもだよ」

 

 余裕ぶるが、全く興奮を隠しきれていない様子のサンジが、浜辺に思いっきり飛び込む。ゾロの呆れの声も、今の彼には通用しなかった。

 その時甲板の方から、騒がしい悲鳴と羽ばたきの音が聞こえてきた。

 

「ジョ〜〜〜ジョジョ〜〜」

「痛い痛いっ、ごめんごめんっ‼︎」

 

 見るとそこでは、荒れるサウスバードと一方的に突かれるナミの姿がある。

 地震の怒りをぶつけまくったサウスバードは、そのまま何処かへ飛び去っていってしまった。

 

「あ、アイツか」

「逃がすの忘れてた………」

「人も住んでるみてェだ。別に、生きていけるだろ」

「錨は?」

「刺した……例の…フカフカの雲がこの島の基盤らしい」

 

 一仕事終え、ゾロは改めて雲に浮かぶ島を見る。

 驚きが強すぎて、もはやうまく言葉が出てこない。しばらく無言で佇んでいると、同じく島を凝視していたロビンが口を開いた。

 

「ねえ…〝スカイピア〟って…」

「ええ…ルフィの見つけた地図にあった名前よ! 空から降ってきたあのガレオン船は200年も前に本当に、ここに来てたのね」

 

 何があったのかは、誰も情報を残せなかったためにわからず終い。しかし、たった一つだけ残した真実があった。

 彼らは確かにこの海にたどり着き、長い長い旅をしてきたのだと。

 

「あの時は正直、こんな空の世界想像もつかなかったけど」

 

 笑みを浮かべ、ナミは思い切って甲板から海に降り立つ。

 ぱふっ、と明らかに軽い水飛沫を足に感じ、その心地よさにさらに満面の笑みを浮かべた。

 

「ほら‼︎ …ハハ、体感しちゃったもの‼︎ 疑い様がないわ‼︎」

「ズルいぞナミ…私も行く‼︎」

 

 モックタウンで嘲笑されて以来の、地上でのしかめっ面が嘘のようにはしゃぐ彼女の後を追い、エレノアも両手足を広げて海に飛び込む。

 激しい水柱が上がる光景を見やり、ロビンはふと背後に佇むゾロに振り向いた。

 

「………あなたは?」

「……………?」

「航海や上陸が………冒険だなんて考えた事なかった」

 

 くすくすと笑い、大騒ぎする一味を見つめる、謎多き美女。

 船長が許可したとはいえ、微塵も心を許す気になれないゾロは、険しい表情でロビンを睨み続けていた。

 

「は〜〜〜〜〜っ!!! ここは何なんだ!!! 冒険のにおいがプンプンすんぞ!!!」

「う〜〜…ん」

「ここなら海軍も追って来ないし羽を伸ばせる!!! ビーチなんて久しぶりっ」

「港ばっかとまってたからなァ‼︎」

「そもそもこうして穏便に到着することも珍しかったしね……」

「あ〜〜こちら船長、楽しすぎて何から始めたらいいのかわかりません、ドーゾ」

「こちらウソップ。ひとまずここでのんびりしねェか⁉︎」

「のんびりか…いいな‼︎ 却下‼︎」

「却下はダメな方だよルフィ」

 

 思い思いに過ごし、滅多にない穏やかな堪能するルフィ達。追ってくる敵はなく、戦う相手もいない、本当に珍しい静かな時間である。

 

「………やっと来れたんだな、私は……〝空島〟に」

「一番はしゃいでたものね、あんた…天族の憧れか何かだったの?」

「それは…‼︎」

 

 どこか遠くを見つめ、感慨深げに呟くエレノアに、そういえば今回はずいぶん熱心に取り組んでいたなと、ナミが苦笑まじりに尋ねる。

 その問いに、エレノアは待ってましたとばかりに勢いよく振り向き。

 

「…………なんでだったっけなァ?」

 

 と、心底不思議そうな表情で首を傾げた。

 

「オイ!!!」

「いや、ほんとに思い出せないんだよ。何かの昔話で興味抱いたんだったかな…?」

 

 先ほどとは打って変わって、エレノアは眉間にしわを寄せて虚空を見上げる。何かが自分の中で引っかかっているような、そんな気持ちの悪さを覚えながら、悩み込んでしまう。

 そんな時だった。あたりを散策し、珍しい木の実を見つけて食らいつこうとしたりしていたルフィ達が、何かを見つけた。

 

「おい、あそこに誰かいるぞ!!!」

「また…‼︎ ゲリラか⁉︎」

「笛‼︎ 笛は⁉︎」

 

 急に現れる人影に嫌な思い出しかない一味は、遠く岩場の上に立っている人影に向けて即座に身構える。

 だが、よく目を凝らしてみると、そのシルエットにハッと目を見開いた。

 

「待て違う‼︎ ………天使だ!!!」

「天使!!?」

「ん? 呼んだ?」

 

 視界に入ったのは、金色の変わった髪型の、背中に小さな翼を生やした少女。

 門にいた老婆とは比べ物にならないほど美しい彼女は、竪琴を鳴らしながら、驚愕の表情で固まっているルフィ達にニッコリと笑いかけた。

 

「へそ‼︎」

「あ!!?」

 

 唐突な謎の言葉に、ルフォは思わず目を丸くする。

 呆然と立ち尽くすルフィをよそに、少女は足元にすり寄ってきた白い小狐を抱き上げ、一味の方へと歩み寄ってきた。

 

「青海からいらしたんですか?」

「………下から飛んで来たんだ。お前、ここに住んでんのか?」

「はい、住人です」

 

 少女はルフィが四苦八苦していた硬い木の実を受け取ると、手慣れた様子で底をくり抜き、飲めるようにして渡してくれる。

 それだけで、彼女が心優しく気遣いのできる、まごうことなき善人だと言うことが理解できた。

 

「私はコニス。何かお困りでしたら力にならせてください」

「ああ、それが君の視線で心に火傷を…」

「邪魔」

 

 早速ナンパをしようとしたサンジを黙らせ、ナミが前に出る。

 せっかく出会った、いきなり襲いかかってこない、きちんと話を聞いてくれそうな貴重な存在。逃すわけにはいかなかった。

 

「知りたい事がたくさんあるのよ、とにかく私達にとってここは不思議な事だらけで……」

「はい、何でも聞いて下さい」

 

 まずは情報収集を、とナミが自らも歩み寄りかけた時だった。

 白い海の向こう側から、ザバザバと水飛沫の音が近づいてくるのが見えた。

 

「おい、海から何か来るぞ!!!」

「ナメクジだ!!!」

「あ、父です」

 

 少女がなんということはないように告げ、近づいてくる水飛沫に手をあげる。

 よく見れば、こちらに向かってきているのは、板の上にハンドルを取り付けたような奇妙な乗り物の上に立つ、少女と似たような格好の男性だ。

 

「コニスさん、へそ!!!」

「ええ。へそ、父上‼︎」

「イヤ何言ってんだおめェら‼︎」

「あれは何⁉︎ あの乗り物‼︎」

「よく見りゃカッコイイなアレ!!!」

「あ……〝ウェイバー〟の事ですか?」

 

 やはり奇天烈に聞こえる挨拶に面食らうルフィだが、他の一味はそれどころではない。

 初めて見る、帆も櫂もないのに動いている乗り物に、全員の視線が釘付けになっていた。

 

「はいすいません、止まりますよ」

 

 男性はくいっとハンドルを操作し、浜辺の上に乗り上げようとする。

 が、なんらかの操作を誤ったのか、勢いが死なないまま思いっきり砂の上に転び、そのまま近くの木々に激突していった。

 

「みなさん、おケガはないですか」

「おめェがどうだよ!!!」

 

 血だらけになった男性を前に、サンジが目を剥いて吠える。空の島での第一住民との遭遇がこれとは、なんとも締まらなくて仕方がなかった。

 

「ねェルフィ。あんたああゆうの海底から持って来なかった⁉︎」

「ああ、持ってきたな」

「あれが〝ウェイバー〟だったんだ……‼︎ ノーランドの日誌で読んだ風がなくても走る船…!!!」

 

 一方でナミは、日誌を読んでからずっと気になっていた乗り物の現物を前にし、興奮気味に目を輝かせる。

 言葉をなくす一味の元に、復活した男性が人の良さそうな表情とともに近づいた。

 

「お友達ですか、コニスさん」

「ええ、今知り合ったんです、父上。青海からいらしたそうで」

「そうですか、それは色々戸惑う事ばかりでしょう。ここは〝白々海〟ですいません」

「え⁉︎ いやそんな」

「申し遅れましたが、私の名は『パガヤ』ですいません」

「いやいやこちらこそ」

 

 なんとも無駄に低姿勢な彼に、思わずウソップがいちいち反応してしまう。

 男性の方も、ルフィ達が穏やかな害意のない人物と判断したのか、乗り物にくくりつけた網を手に親しげに話しかける。

 

「そうだ、ちょうどいい。今、漁に出ていたのですが、〝白々海〟きっての美味中の美味‼︎〝スカイロブスター〟など捕れましてね、家にいらっしゃいませんか。〝空の幸〟をごちそうしましょう」

「いいのか!!? 行く行く!!!」

「空島料理か、おれも手伝わせてくれ‼︎」

 

 食べ物を話題に出され、食に目がないルフィと道の料理に期待をするサンジが前のめりになる。

 そのまま一緒に何処かへ向かいそうになるが、その前にナミが手を挙げて二人を呼び止めた。

 

「その前に聞いていい? これどんな仕組みなの?」

 

 ナミが指差す方へ、少女が訝しげに視線を向ける。

 そして、父と呼んだ男性が乗ってきた乗り物を指しているのだと気づき、驚きの表情を返した。

 

「………まあ、〝ダイアル〟をご存じないのですか?」

「〝ダイアル〟⁉︎」

 

 

 

「うぅわわあ、おお!!? 走ったぞ!!!」

 

 浜辺で板の上に乗り、ハンドルを握ったルフィが、急な加速に目を見開く。

 ガタガタと凄まじい揺れに襲われ、なんとか耐えようとする彼だったが、奮闘空しく波でバランスを崩し、空中に天高く巻き上げられてしまった。

 

「こけた」

「この上ない大転倒だな」

「ああ大変、おケガはないかしら!!?」

「何て事だ、すいませんウェイバーをお貸ししてすいません」

「お気になさらず、自業自得ですので」

 

 盛大に海に突っ込んだルフィを見て、慌てふためく少女と男性、コニスとパガヤだが、ゾロ達の反応は非常に冷たい。

 やがて、地上の海と違うのならカナヅチの呪いは効くのだろうか、と誰かが言い出し、観察が始まった。

 

「あぷ…」

「沈んだ」

「ダメか」

 

 しかし案の定、僅かにも耐える様子もなく、ぶくぶくとルフィは白の中に沈んで行く。

 あっという間に大人しくなった船長の姿に、やれやれと肩をすくめていた一味は、しばらくしてからようやく我に返った。

 

「危ねェな‼︎ 下へ突き抜ける寸前だったじゃねェか‼︎」

「おめェがアホな事言ってるから出遅れたんだろ!!!」

「いえ、私が初心者にアレをお貸ししてすいません‼︎」

「何でおめェまで飛び込むんだよ!!!」

 

 あわや、ボーッと見ている間に死にかけたルフィを、慌てて救出しに飛び込んだゾロ達が、互いの迂闊さを叱り合う。

 なぜか一緒にチョッパーまで飛び込んでいたが、そちらも無事に救出された。

 

「〝ウェイバー〟の船体は、動力を充分に活かす為、とても軽く作られているのです。小さな波にさえ舵を取られてしまうので、波を予測できるくらい海を知っていなければならなくてすいません‼︎」

「……そういえば、ノーランドの船員も誰も乗れなかったって書いてたな」

 

 400年前の資料、ウェイバーについて書かれた些細な文面を思い出し、エレノアが納得したように頷く。

 不規則な海を進む、不思議な動力を持った一人乗りの船。確かに、それが簡単に乗れるわけがない」

 

「そんなに難しいのか⁉︎ おれも乗ってみたいのに〜〜」

「子供の頃から練習して、私も乗れたの最近なんです」

「訓練すれば10年程で」

「長ェよ!!! ものすげェ根気いるぞ!!!」

 

 まるで青春の全てを捧げなければ乗れない、とまで言われる代物の説明に、やってられるかとウソップが叫ぶ。

 自分たちには無理か、とため息をついていると、彼の肩をエレノアが叩き始めた。

 

「ウソップくん、あれ」

「ん?」

 

 仲間が示す方向に、ウソップがつられて振り向く。

 呆然と棒立ちになったエレノアの視線の先にあったのは、思わず二度見するような光景だった。

 

「おーい‼︎」

「乗っとる!!!!」

 

 ルフィはともかく、現地のよく知っている人間であるコニスですら10年かけてようやく乗れるはずのウェイバー。

 それを、なんとナミが片手を上げながら、自由自在に操っているではないか。

 

「何と…!!! すごいですね、信じられません…!!!」

「んナミさん、君がサイコー♡♡」

「何で乗れるんだ⁉︎ あんなのに!!!」

「考えてみりゃ、ナミが乗るためにできてるような乗り物だもんね…」

 

 航海士が見せた驚きの光景に、コニスとパガヤも唖然となる。

 移ろいやすい〝偉大なる航路〟の天候の変化さえ読み取ってみせるナミならば、確かに可能かもしれない凄まじい才能の片鱗だった。

 

「おいナミ!!! おっさん家にすぐ行くから早く下りろ‼︎ アホ〜〜‼︎」

「当たんな」

「先行ってて‼︎ おじさん、もう少し遊んでていい⁉︎」

「ええ、どうぞ。気をつけて下さい‼︎」

 

 すっかりウェイバーの乗り心地が気に入ったのか、満面の笑みを浮かべて手を振るナミ。

 パガヤも彼女ならば事故も起こさないと思ったのか、気前よく自身の相棒を貸し出した。

 

「……何でアイツ、あんなスイスイ…ものスゴイ揺れるんだぞ、アレ」

 

 それを面白くなさそうに見つめるのは、うまく乗りこなせなかったルフィ。

 扱いの難しい乗り物を、まるで自分の手足のように自在に操るナミをじっと凝視していた彼は、つばでも吐くように口を開いた。

 

「沈め"」

「ガキか!!!」

 

 が、言い切る前に叩き落とされたサンジのかかと落としで、ルフィは自分で噛んだ舌の痛みに悶える羽目になった。

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