ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第127話〝不法入国者8名〟

「…う〜」

 

 空島で出会った父子の家を後にし、ナミを迎えに出向の準備を始める麦わらの一味。

 その途中、不意に頭を押さえたエレノアが、険しい顔で唸り声をこぼした。

 

「どうしたエレノア? お前ホントに調子悪そうだぞ」

「なんか頭いたい………めまいがする…」

「空島の環境の違いがいまさらきたか? とりあえず休んどけ」

「そうしたい…」

 

 いつになく弱った様子の彼女を心配し、ウソップがメリー号に引っ込むこと提案すると、エレノアは素直に言うとおりにする。

 相当に辛いらしく、ふらふらと覚束ない足取りでメリー号に向かっていく。

 

「本当に古いものですね」

「直るかな」

「さァ、解体してみなければ何とも…」

 

 その最中、ルフィは技師であると聞いたパガヤに、地上の海で拾ったウェイバーらしき残骸を見てもらう。場合によっては、修理して使える可能性があると聞いたからには、是が非でも自分で乗るつもりのようだ。

 

「おいルフィ行くぞ、早く乗れ!」

 

 神の事や不可侵の島の事を聞いた今、早く移らねば余計な火種を抱え込むかもしれない。

 いまだに戻って来ないナミもあり、さっさと出港しようとゾロがルフィを呼ぶ。

 

「ん? おっさん、あれ何だ?」

「え?」

 

 ふとルフィが、島の頂上まで続く階段を降りてくる複数の人影に気付き、パガヤに指し示す。

 ザッザッと規則的な足音が徐々に近づき、揃いの制服を纏った何者かの姿が、ルフィたちの視界に映った。

 

「そこの不審な船、待て!!!」

「誰だ? あいつら」

 

 何らかの組織の一員らしき彼らを前に、ルフィは訝しげな表情になる。

 すると次の瞬間、ルフィはすさまじく困惑した顔になり、近付いてくる一団を凝視した。

 

「全隊、止まれ〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 白いベレー帽をかぶった、軍隊らしき謎の集団。

 屈強な体つきの彼らが、障害物一つない砂地を匍匐前進で進み、ルフィたちの元に向かってきたのだ。

 

「へそ!!!」

「へそ‼︎」

「どうも、へそ‼︎」

「イヤ何言ってんだお前ら!!!」

「いい加減慣れなよ…」

 

 空の海におけるあいさつの、奇妙な響きにいまだ慣れないルフィが目を剥くが、エレノアはそれに冷たい声を返す。

 頭痛のせいか、船長に対する扱いがいつもよりぞんざいになっていた。

 

「何で匍匐前進してたんだあいつら」

「わからねェ…たぶんあいつら変態だ!!!」

「へ――あれが変態か」

「だから急いで船に乗れっつったんだ、ルフィの奴……」

「おいルフィ、放っとけ‼︎ 早くナミさん探しに行くぞ!!!」

 

 先にメリー号に乗り込んでいたゾロたちが、なかなか戻って来ないルフィと、それに絡んで見える男達に目をやって、顔をしかめる。

 だが、そんな彼らに集団のリーダーらしき男…マッキンリーが、大きな厳しい声で告げた。

 

「あなた達ですね!!?〝青海〟からやって来られた不法入国者8名というのは!!!」

「ええっ!!? 不法入国!!?」

 

 マッキンリーの台詞に、パガヤとコニスは驚愕で後退る。

 しかしルフィは、身に覚えがない罪状に首を傾げ、マッキンリーに訝しげな視線を返した。

 

「ん? 何だそれ」

「弁解の余地はありませんよ。〝天国の門〟監視官アマゾンより〝映像貝〟による写真が届いていますので‼︎」

「……まさか‼︎ そんなバカな‼︎ 何かの間違いでは⁉︎」

 

 自宅にまで案内し、うまい料理を共に楽しみ、ルフィたちの人柄を理解したつもりになっていたパガヤが、思わずマッキンリーに反論する。

 一方でメリー号の上の面々は、互いに目を見合わせ、ルフィと同じように訝し気に眉を寄せた。

 

「…………何だよ、不法入国って……」

「入国料一人10億Eだったかしら…確かに払ってないものね」

「……でもそれでも通っていいって……‼︎ あのばあさん」

「言い訳はおやめ下さいまし、認めて下さい」

 

 構わないと言われたのだから通ってきたのに、なぜ咎められる謂れがあるのかと食って掛かるが、集団のリーダーが耳を貸す素振りはない。

 思わずムッとなる一味に対し、マッキンリーは穏やか口調で続けて告げる。

 

「…ですがまだ、そうあせる事もありません。〝不法入国〟、これは『天の裁き』における第11級犯罪でしかありません。罰を受け入れればあなた方はその場で安全な観光客となれます」

「何だ、それを早く言えよ。心外にゃかわりねェが、罰ってのは一体何なんだ?」

 

 知らなかったとはいえ、確かに法を犯したなら罰があるのは当たり前。

 しかもそれを受ける事で難を逃れられるならと、理不尽とは思いながらも一応聞いてみることにする。

 

「簡単な事です。入国料を10倍払ってくださいまし。1人100億E――つまり8人で800億E。この場でお支払い下さればあなた方の罪は帳消しにさせて頂きます‼︎」

 

 が、提示された罰金の額の凄まじさに、驚愕と戸惑いが同時に押し寄せた。

 いまだに空における通貨の相場が分からないが、聞くだけでとんでもない額というのだけはなぜか伝わっていた。

 

「は…は、800億E……!!? ………だからそのEってのはBで言うといくらなんだ」

「B……〝青海〟の通貨ですね。Bだと…『1万E』で『1B』になります」

「つまり800万Bってこと!!?」

「高ェよ!!! 米何t買える額だコラァ!!!」

 

 真剣に食費と食糧について頭を悩ませ続けているサンジには、余りに見過ごせない額に思わず口から怒号が溢れる。

 しかしマッキンリーは、反対に困ったように顔をしかめ、ため息交じりに言葉を返す。

 

「何をおっしゃるのですか‼︎ ならば本来の入国時に80万Bお支払い下さればよかったのです」

「それでも高ェっつうんだよ!!!」

「先に言っておきますが、我々ホワイトベレーは神官の直属にある部隊、反論は罪を重くしますのでご注意を」

 

 国に入るだけで一味の、というかある一人の食費をどれだけ賄えることか、とさらにサンジが憤然となる。

 渋る彼らを前にし、マッキンリーは有無を言わさぬ雰囲気で凄み始める。これ以上文句を重ねるようならば、実力行使に訴えても構わないという意思表示のように。

 

「ちょっと待って!!!」

 

 その時だ。

 海の彼方からウェイバーを駆り、焦った様子のナミが戻ってきたのは。

 

「ああっ‼︎ ナミさん無事だったんだね♡」

「ルフィ!!! その人達に逆らっちゃダメよ!!!」

 

 何やら怯えたような、冷や汗を流した険しい表情で、ナミが凄まじい勢いで海を滑ってくる。

 ルフィはそんな彼女を訝しげに見ながら、不満げに眉を寄せて叫んだ。

 

「逆らうなって、オイナミ‼︎ じゃあ800万Bの不法入国料払えるのか⁉︎」

「……よかった、まだ罰金で済むのね」

 

 一瞬、ほっとした様子で肩を竦めたナミ。

 だが次の瞬間、ウェイバーのハンドルを目いっぱい回し、最高速度をそのままに砂浜の上に勢いよく飛び上がった。

 

「…800万Bって高すぎるわよ!!!」

 

 宙を舞ったナミと、彼女の操るウェイバーが、マッキンリーの顔面に炸裂し思いきり吹っ飛ばす。

 強烈な一撃を食らった彼はそのまま壁に激突し、血反吐を吐いて砂浜に倒れ込んだ。

 

「「「オイ」」」

「ハッ!!! しまった‼︎ 理不尽な多額請求につい……!!! あ、おじさんウェイバーありがとう。楽しかったわ!」

「いえいえどうもすみません。そんな事よりあなた方、大変な事に…‼︎」

 

 即座にしまった、と息を呑むナミは、すぐさまパガヤに向き直ってウェイバーを返す。

 慌てた様子で脂汗を流す彼をよそに、ナミはぼーっと突っ立っていたルフィの腕を掴んで歩き始める。

 

「さァ、逃げるのよルフィ‼︎」

「わ‼︎ 何でだよお前、ケンカ仕掛けたんじゃねェのか⁉︎」

「〝神〟とかってのにかかわるとヤバイのよホントに‼︎ 今のは事故よ‼︎」

「待て〜い!!!」

 

 身勝手で一方的な結論を残し、さっさとメリー号に戻ろうとする。

 しかしその途中、倒れ込んだマッキンリーが、血塗れの顔でルフィたちを睨み、怒りに満ちた声で呼び止めた。

 

「……逃げ場などすでにありはしない!!! 我々に対する数々の暴言、それに今のは完全な公務執行妨害、第5級犯罪に値している…!!!〝神〟エネルの御名において、お前達を〝雲流し〟に処す!!!」

「〝雲流し〟、そ……そんな!!!」

 

 ギラリと、マッキンリーの目が剣呑な光を発する。

 そして告げられた罪状と罰の名に、コニスとパガヤがハッと息を呑み、目を見開いた。

 何を慌てているのかわからず、ルフィは呑気な声でコニス達に尋ねた。

 

「何だそれ。〝雲流し〟って気持ち良さそうだな」

「良くありません‼︎ 逃げ場のない大きさの島雲に船ごと乗せられて、骨になるまで空をさ迷い続ける刑です、死刑です!!!」

 

 コニスの説明で、ウソップやチョッパーは思わずぞっと背筋を震わせる。

 彼らの脳裏には、何十年も空を漂い朽ち果て、そしていずれ地上へと落下していく自分達の姿が浮かぶ。

 それはまさしく、自分達が空島に至るまでに遭遇した船と、全く同じであった。

 

「成程…それで何もない空から船が…」

「引っ捕えろ!!!」

「「「「ハッ!!!」」」」

 

 納得したように、何度も頷くエレノアの前で、マッキンリーの指示のもとに軍人たちが動き出す。

 本気の体勢を見せる彼らを目にし、コニスが思わずルフィたちに叫んだ。

 

「逃げて下さい‼︎ 敵いません!!!」

「よしなさい、お嬢さん。それは犯罪者をかばう言動に聞こえますよ」

 

 マッキンリーがぼそりとこぼした一言に、コニスはっと口を噤む。

 その態度は、法の番人に逆らうことに対する忌避感よりも、また別の物に対する恐怖感が表れて見えたが、それに気づく者はこの場にいなかった。

 

「撃て!!!雲の矢(ミルキーアロー)〟!!!

「ナミ!!! 邪魔だ、船に行ってろ!!!」

「きゃ‼︎ …うんっ!!!」

 

 ナミを押し退け、前に出るルフィのもとに、幾本もの矢が迫る。しかし、矢は全くの見当違いの方向へ飛んでいき、ルフィにかすりもしない。

 それもそのはず、矢を放った目的は攻撃ではなく、矢に取り付けられた貝から発生した雲に乗り、スケート型のウェイバーで接近することだったのだ。

 

「な―――るほど‼︎」

 

 即席の雲の道を作るという、摩訶不思議な戦い方に、ルフィは思わず感嘆の声をあげる。

 だが彼は、それでやられるような軟な男ではない。急接近し振るわれる刃を躱し、ヤシの木に腕を巻き付かせたルフィが、不敵な笑みを彼らに返した。

 

「面白ェモン持ってんなァお前ら‼︎」

「何⁉︎」

「何だアイツは…!!?」

 

 目にもとまらぬ素早さで攻撃をかわされたことに、軍人たちは驚愕をあらわに表情を変える。

 ルフィはヤシの木から手をはなすと、ぐるぐると空中で回り、無作為に拳と蹴りを繰り出し始める。

 

「〝ゴムゴムの〟…」

「まさか…悪魔の実…!!!」

 

 思わぬ敵の能力を目の当たりにし、マッキンリー達は目を見開く。

 驚愕のあまり、自分達に迫る拳と蹴りが目前に迫るまで、何の反応も取れなかった。

 

〝花火〟!!!!

 

 どぱぁん!と文字通りの花火のような勢いで弾けた攻撃が、マッキンリー達を吹っ飛ばす。

 白目をむき、ばたばたと落下していく彼らのすぐそばで、深いため息を漏らす声が響いた。

 

「――ところでナミ…ウチの船の今の経済状況は?」

 

 キン、と刀を鞘に納め、靴を踏み鳴らし、義足に刃をしまい込み、他の軍人たちを瞬く間に片付けたゾロたちが息をつく。

 そんな最中にかけられた問いに、ナミは大きくため息をつきながら、肩を落として答えた。

 

「残金5万B」

「さんさんたる数字だな…そんなにないのか?」

「そうよ、もってあと一日二日ね」

「何でそんなにビンボーなんだ!!? 船長として言わして貰うけどな……おめェらも少し金の使い方ってもんを考えて」

「お前の食費だよ」

 

 憤然と危機管理能力について叱るルフィだが、自身がその原因となっている自覚がないことに逆に怒りをぶつけられる。

 倒れ伏す軍人たちのことなど、歯牙にもかけていないような様子だった。

 

「……あのホワイトベレーを」

「やっつけちゃった………‼︎ 青海の人は、ここでは運動能力が落ちるハズなのに…」

 

 見た目からは想像もできない、恐るべき強さを見せるルフィたちに、コニスもパガヤも開いた口が塞がらない。

 一波乱乗り越えたと息をつく一味だったが、そこに不敵な笑い声が響いた。

 

「ハハハハ、バカ者共め……我々の言う事を大人しく聞いていればよかったものを…我々ホワイトベレー部隊はこの神の国の最も優しい法の番人だ。彼らはこう…甘くはないぞ……‼︎」

 

 血を吐きながら、意味深な笑みを見せるマッキンリーに、ウソップやナミが思わず顔色を変える。

 負け犬の遠吠えなどではない。自分達を圧倒したルフィたちをも恐れぬ、確かな自信が、今の彼の言葉からは感じられたのである。

 

「これでもはや第2級犯罪者、泣こうがわめこうが…………〝神の島(アッパーヤード)〟の神官達の手によって、お前達は裁かれるのだ!!!! へそ!!!!」

 

 盛大な捨て台詞を吐き、集団のリーダーはルフィたちを鋭く睨み嘲笑する。

 意味深に嗤ったまま、よろよろと引き上げるために踵を返すマッキンリーだったが、彼の去り際の耳に、深いため息の声が届いた。

 

「……神か。ありもしない偶像にすがらねば、お前達は生きて行くこともできんのか…?」

 

 呆れ果てたような、つまらなそうな声の響きに、マッキンリーの足がつい止まる。

 同じくルフィたちも、唐突に挑発するような言葉を発した仲間の方を凝視し、眉間にしわを寄せ始めた。

 

「!!? 何…⁉︎」

「お…おい、エレノア!!?」

「いつの時代にあろうが、どの世界にあろうが、人間とはすがれるものがなければたやすく折れるもののようだな……くだらん」

 

 ふん、と鼻を鳴らしたエレノアは、半目で彼を見つめたままなおも続ける。

 その眼が放っていたのは、いつもの彼女では考えられないほどに冷たく、渇き切った、別人のような眼差しだった。

 

 

「お前達の〝神〟に伝えておけ………いや、もうすでに聞いているのか。お前がどれだけ偉いかなど知ったことではないが『私の邪魔だけはするな』と」

 

 呆然と立ち尽くすマッキンリー達に向けて、エレノアはそう告げるのだった。

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