ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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珍獣の島は飛ばします。
内容ほぼ丸々コピーになりそうなので。


第3章 海賊旗が呼んでいる
第12話〝キャプテン・ウソップ〟


「無謀だわ」

 

 二艘並んで海を進む船の上で、真剣な表情のナミがそう呟く。

 それに真面目に頷いたのは、悲しいことにエレノア一人だけであった。

 

「まァ……そうだよね」

「何が?」

「このまま〝偉大なる航路(グランドライン)〟に入ること!」

「冒険に耐えられるだけのちゃんとした船…装備…食糧…船員の数…数えだしたらきりがないよ」

 

 ローブの下から手を出し、指折り必要なものを数える旅にエレノアの表情は険しくなっていく。

 一直線に〝偉大なる航路(グランドライン)〟を目指してきたものの、あらゆる物資が不足している今の状態で挑めばたちまち返り討ちにされるだろうことは明らかだった。

 

ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を求める猛者がうようよしてる海だし、そいつらが乗ってるのも強力なやつだよ」

「あんた、あの変な力で船作ったりできないの?」

「ムリムリ。錬金術師っていうのはどっちかっていうと研究者寄りだからさ、修行を積んだ本業の人にはかなわないよ」

「どっちにせよ、ちゃんとした準備が必要不可欠ってことね」

 

 頼りにはできないと察したナミはため息をつき、肩をすくめて進行方向に目を向ける。

 ともかく今は、次の島に到着することが先決だ。

 

「ここから少し南へ行けば村があるわ。ひとまずそこへ! しっかりした船が手に入ればベストなんだけど」

「小さな村みたいだし…望みは薄そうかなァ」

「肉を食うぞ!!!」

 

 不安げに舵をとるナミとエレノア、能天気に腹を鳴らすルフィに眠りこけるゾロ。

 連携が取れているようで取れていない一行はやがて、周囲を崖で囲まれたある陸へとたどり着いたのだった。

 

「あったなー。本当に陸が!」

「なに言ってんの。当然でしょ。地図の通り進んだんだから」

「それにしても正確だよ。これから頼りにしてるよ」

 

 ルフィの感想に呆れながら、ナミは自分の船のマストをたたむ。

 今の今まで眠っていたゾロも目を覚まし、船を岸につける用意にかかった。

 

「村はこの奥だっけ?」

「うん。でもあんたの言う通り小さなところね」

 

 地図を確認しながら陸の方を見ると、確かに崖の一箇所に坂道がある。エレノアが耳を傾けると、その先から何やら人の声が聞こえてくるのを感じた。

 しかし、それとは別に気になる声も聞こえてくる。

 ヒソヒソと何人かの子供と、年長らしい男性が囁きあっているものだった。

 

「ところで、さっきから気になってたんだが」

「…ああ、あれ?」

 

 ゾロも気配か何かで気づいたのか、エレノアが見つめている方に胡乱げな視線を送っている。

 見れば、岸にある草むらが妙にガサガサと揺れていた。

 

「あいつら何だ」

「!!!」

 

 つい口に出した時、ガサガサと草むらをかき分けて三人の男の子たちが飛び出して行くのが見えた。……一番年上らしい青年を置いて。

 

「おいお前ら!!! 逃げるな!!!」

「うわああああ見つかったァ~~~~~っ!!!」

 

 青年が手を伸ばすも、子供達は一目散に逃げていって振り返りもしない。

 一人取り残された青年は呆然と立ち尽くすも、ジッと自分の方に向けられている視線にハッと我に返り、堂々と仁王立ちして視線を受け止め始めた。

 

「おれはこの村に君臨する大海賊団を率いるウソップ!!! 人々はおれを称え、さらに称え〝我が船長〟キャプテンウソップと呼ぶ!!! この村を攻めようと考えているならやめておけ‼ このおれの八千人の部下共が黙っちゃいないからだ‼」

「その八千人の部下、さっき尻尾巻いて逃げてっちゃったみたいですけど? キャプテン」

「ゲッ‼ ばれた‼」

「せめて嘘は貫き通そうよ。ばれたって言っちゃったし」

「ばれたって言っちまったァ~~っ‼ おのれ策士め!!!」

「はっはっはっはっはっはお前面白ェな―っ‼」

「おい、てめェおれをコケにするな‼」

 

 急によくそこまで話せるもんだと感心しながら、エレノアは妙に鼻の長い青年をじっと見つめる。

 ただの村人のようだが、どこかで見た覚えがするのが不思議だった。

 

「おれは誇り高き男なんだ!!! そのホコリの高さゆえ人が、おれを〝ホコリのウソップ〟と呼ぶ程にな‼」

「ほ~う…」

 

 嘘を見破られてなお、大口を叩いて自分を大きく見せようとする胆力に興味がわく。

 いたずら心が湧いたエレノアはつい調子に乗って、強者のような低い声を発して青年ーーーウソップに向けてフードの下から目を光らせた。

 

「ならば答えてもらおうか…ホコリのウソップ殿。私の質問に…」

「………!!!」

 

 異様な気配を感じたのか、ウソップはゴクリと唾を飲んで後ずさる。

 他のものも息を呑み、風もないのにローブの端を揺らすエレノアに視線を集め、発せられる言葉を待った。

 

「お腹すいたんだけど、ごはん屋はどこ?」

 

 シリアスな声で告げられた間抜けな質問に、その場にいた全員がずっこけたのはいうまでもない。

 

 

「なに⁉ 仲間とでかい船を⁉」

 

 坂を越え、村の食事処に入ったルフィたち。

 訪問の目的を聞いたウソップは驚きながら、どこか羨ましそうに興奮しながら身を寄せてきた。

 

「ああ、そうなんだ」

「は――っ、そりゃ大冒険だな‼ まァ、大帆船ってわけにゃいかねェが船があるとすりゃ、この村で持ってんのはあそこしかねェな」

「あそこって?」

「この村に場違いな大富豪の屋敷が一軒建ってる。その主だ」

 

 ウソップは言いながら、視線をどこか別の方に向ける。おそらくその先に、件の屋敷があるのだろう。

 

「だが主といっても、まだいたいけな少女だがな。病弱で…寝たきりの娘さ…‼」

「え……どうして、そんな娘がでっかいお屋敷の主なの?」

「ワケありみたいだね」

「おばさん‼ 肉追加‼」

「おれも酒っ‼」

「は~い!」

「てめェら話、聞いてんのか!!?」

「あーいいからいいから。こいつらのぶん私とナミが聞くから」

 

 放ったらかしにされて怒るウソップをエレノアとナミが抑える。

 いちいちこのくらいで説明を中断されては、いつまでたっても本題に入れない。

 怒りを収めたウソップは、渋々二人に説明を再開する。

 

「……もう1年くらい前になるかな。かわいそうに病気で両親を失っちまったのさ。残されたのは莫大な遺産とでかい屋敷と十数人の執事たち…‼ どんなに金があって贅沢できようと、こんなに不幸な状況はねェよ」

「ふーん……」

 

 重い話を聞かされ、ナミは頬杖をつきながら考え込む。

 何か思うところがあるのか難しい表情の航海士の様子が気になり、エレノアが視線を向けていると、ややあってからナミは机を叩き、体を起こした。

 

「………やめ! この村で船のことは諦めましょ。また別の町か村をあたればいいわ」

「さんせー。まだそんなに資金がたまってるわけでもないしね」

「そうだな。急ぐ旅でもねェし! 肉食ったし! いっぱい買い込んでいこう!」

「…ナミ、こいつの首輪は任せるよ」

「うん…大変ね。あんたずっとこいつと一緒だったんでしょ?」

「…もう慣れたよ」

「ところでお前ら」

 

 遠い目になるエレノアの肩を、ナミが憐れみの目になりながらポンと叩く。

 すると、勇敢なる海の戦士を自称するウソップがずいっと身を乗り出してきた。

 

「仲間を探してると言ってたな……! おれが船長(キャプテン)になってやってもいいぜ!!!」

「「「「ごめんなさい」」」」

「はえェなおい‼」

 

 即座に拒否されたウソップは、若干涙目になりながら叫び声を上げてうなだれる。

 そこへ、前髪の色素が薄い、長い黒髪の女性がパタパタと駆け足で近づいてきた。

 

「ウソップ君! そろそろじゃない?」

「ん? …おっといけねェ。もうこんな時間だ。ありがとな、ロゼ!」

「なに?」

「悪ィな、おれはこれから用事があるんだ。まァ何もねェ島だが、出発までゆっくりしてればいいさ。じゃあな!」

「おー」

 

 先ほどとは打って変わって明るく、それもどこか使命感を感じさせるキリッとした表情で立ち上がり、どこかへと去っていくウソップを見送る面々。

 急なことで、エレノアは不思議そうに首を傾げて青年が去った方を見つめた。

 

「…何しに行ったんだろ、あの人」

「さァ?」

「彼にしかできないことだよ。ほら、追加のお肉とお酒っ‼」

 

 他人のはずなのに、どこか誇らしげな笑みを浮かべている給仕が気になり、エレノアは思い切って尋ねてみることにした。

 

「店員さん…ロゼ、だっけ? ウソップにしかできない事っていったい何なワケ?」

「それは私の口から言うには野暮かなァ…」

 

 ニコニコといたずらっぽい笑みだけ返し、肝心なことは教えてくれないロゼにますますわからなくなる。

 すると、食事処の扉が開き、三つの小さな人影がルフィたちの席の前に立ちはだかった。

 

「「「ウソップ海賊団、参上っ‼」」」

 

 突然のことにルフィたちは目を丸くし、小さな乱入者たちを思わず凝視した。

 

「なにあれ…」

「さー、何だろうな…」

「…この声って確かさっきの」

「? ……‼ おい…キャプテンがいないぞ…」

「まさか…やられちゃったのかな…‼」

「お…おい海賊たちっ‼ われらが船長キャプテンウソップをどこへやった‼ キャプテンを返せ!!!」

 

 座っている面々の中にウソップがいないことに気がつき、ウソップ海賊団のメンバー・ピーマン、にんじん、たまねぎがざわつき始めた。

 ロゼはそんな三人を見やると、クスクスと微笑ましそうに笑みをこぼしていた。

 

「は――っ、うまかった! 肉っ‼」

「‼」

「え…肉…って⁉」

「まさか…キャプテン……‼」

「小骨が引っかかるのが難点だよねェ…」

「ほっ、骨ェ~~⁉」

 

 ルフィが特に意味もない感想を口にすると、面白いように勘違いして慌て始める。

 ついエレノアが便乗すると、さらに顔を青くして狼狽し始めた。なんとも素直で想像力豊かな少年たちである。ナミも思わず笑いそうになるほどだ。

 

「お前らのキャプテンならな…」

「な…何だ‼ 何をした……‼」

「さっき………喰っちまった」

 

 さらなるゾロの悪ノリで、少年たちは今度こそ恐怖で真っ青になって震え上がった。

 

「ぎいやあああああ鬼ババア~~~っ!!!」

「なんで私を見てんのよ!!!」

 

 ナミを凝視ながら悲鳴をあげ、そのままぶっ倒れる三人。

 余計なことを言って笑うゾロに抗議するナミの横で、こらえきれなくなったロゼが腹を抱えて大笑いしていた。

 

 

 しばらくして、目を覚ましたウソップ海賊団に事情を確認し、ようやく和解がかなった。…目を覚ました時、ナミの顔を前にしてまた一悶着はあったものの。

 

「あんた達のキャプテン…何しに行ったの? 時間って言ってたけど」

「あ、そうか。キャプテン、屋敷へ行く時間だったんだ」

「屋敷って病弱な女の子がいるっていう?」

「うん」

「何しに行ったんだよ」

「うそつきに!」

 

 誇らしげに答えるにんじんに、ナミもエレノアも思わず呆れる。

 あの男らしいといえばあの男らしいが、それが自慢できることかと言われればそうは思えなかった。

 

「ダメじゃねェか」

「だめじゃないんだ! 立派なんだ! な!」

「うん‼ 立派だ‼」

「そうよ、立派なのよ?」

 

 ピーマンやたまねぎが嬉しそうに言うと、ロゼもそれに同意する。

 詳しい話を聞いてみれば、確かに胸を張ってもいいと言える行為であった。

 両親を失い、自身も病気がちになって屋敷にこもりっぱなしになった屋敷の主人の少女。

 夢見る少年ウソップはそんな彼女の元へ毎日のように通い、想像できうる限りのホラ話を聞かせているのだと言う。内容は常に、勇敢な海の戦士である自分が主人公の冒険譚だ。

 悩んでいることも馬鹿らしくなるほどのホラ話に励まされ、少女の顔にも笑顔が戻ってきたそうだ。

 

「いいやつじゃん」

「へー、じゃあお嬢様を元気づけるために、1年前からずっとウソつきに通ってるんだ」

「一途でしょ。カヤお嬢様も最初はふさぎ込んで本当に体調も悪かったんだけど…ウソップ君のウソに励まされて随分体もよくなったみたいよ」

「うん。おれはキャプテンのそんなおせっかいな所が好きなんだ」

「おれはしきり屋なとこが好きだ」

「ぼくはホラ吹きなところが好き‼」

「とりあえず慕われてんだな」

「敬われてんだか貶されてんだか…」

 

 思わず半目になって、呆れるべきか感心するべきか悩むエレノア。

 話を聞いたナミは、ニヤニヤしながらロゼの方に身を寄せていた。

 

「1年もずっと通いつめるなんて、大した奴じゃないの」

「『病は気から』っていうぐらいだしね…一緒にいてくれる人がいるってだけで、お嬢様も救われたんじゃないかな?」

「そうだといいね。だからこの村も、ウソつきな彼に怒ったりするだけで疎んだりはしないの。むしろ毎朝騒いでくれるお陰で、はたらく時間だーってやる気になる人もいるくらいなのよ」

「へー……」

 

 嘘つきの意外な信頼に声が漏れる。

 塵も積もれば山となるというか、誠実さはともかく愛されているらしい。

 

「…………私も、彼には救われてる」

「?」

 

 不意に聞こえてきたロゼのつぶやきに、エレノアが聞き返そうとするが、ロゼはハッとして愛想笑いを返す。

 気にはなるが、聞かれたくないことでもあったのかと、エレノアは気にしないことにした。

 すると、急にルフィがその場で立ち上がって告げた。

 

「よし‼ じゃあやっぱり屋敷に船をもらいに行こう!!!」

「なんでそうなった!!?」

 

 思わぬ船長の決断に、エレノアは目を向いて驚愕した。





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オリジナル主人公「アイザック・エレノア」のイメージです。
なぜ大人バージョンと子供バージョンがあるのかは、今後の本編で語ります。

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