ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第131話〝引き裂かれた島〟

 目の前にあるソレに、ゾロたちは唖然と立ち尽くす。

 ソレは激しく見覚えがある物で、まず間違いなくここにあることは間違っていると確信できる代物で、訳がわからなくなっていた。

 

「…どういう事だ? ……何で地上にあったもんがここに…同じものだろ?」

「…いいえ、違うわ! これは地上で見たものの〝片割れ〟よ」

 

 愕然と声をこぼすゾロに、ロビンが強く否定の言葉を吐く。

 蔦に覆われ、細部がよくわからなくなっているものの、よくよく見れば異なる部分がわかると伝える。

 その事実によって、段々とソレの、いやこの島の正体が判明し始めた。

 

「つまりこの島はもともと地上にあった島なのよ…そもそも…この島は〝島雲〟でできていない事が不思議だった…」

「……おかしな家だとは思った…あの家には2階があるのに、2階へ上がる階段がなかったから……」

 

 思い返されるのは、空島に挑む前夜のお祭り騒ぎ。狭い室内に何人も入り、窮屈な思いをしながらも精一杯騒ぎまくった、あの夜のこと。

 夢を追い続けた男の住処は、あまりに異様な建ち方をしていたことが思い出された。

 

「……あんな絶壁に家を建てる理由もない……あの海岸は、〝島の裂け目〟だったんだ…………!!! ここは引き裂かれた島の片割れ、ここは………!!!〝ジャヤ〟なのよ!!!」

 

 崖のスレスレに、まるでケーキを半分に切り分けたかのような形で建つ、一軒の家。

 ジャヤのクリケットの住まいと瓜二つのそれがそこに悠然と建っていたのだ。

 

「…じゃあ昔、何らかの理由で…あの島は真っ2つに割れて……その半分が空へ来たと」

「───かつて地上にあって…ノーランドが確認した〝黄金郷〟は海に沈んだわけじゃない………!!!」

 

 海に潜り続けて、見つかるはずもない。音波で探っても、痕跡が見つかる訳がない。

 莫大な黄金を秘めた遺跡は、実在さえ今や疑われた空の海に、神が住む島として浮き続けていたのだから。

 

「400年間…ジャヤはずっと…!!! 空を飛んでたんだ…………!!!!」

 

 誰も予想しなかったであろうその真実に辿り浮き、ナミは思わずゴクリとつばを飲む。

 そして、両拳をブルブルと震わせたかと思うと、天に向かって勢いよく突き出し、満面の笑顔で歓声を上げ始めた。

 

「うお〜〜〜〜〜〜っ!!! ありがとう神様〜っ♡」

 

 見たことのないくらいの喜びようを見せ、航海士ははしゃぎまくる。

 モックタウンでバカにされ、〝築き上げる海流〟で危うく死にそうな目に遭って、妙な連中に命を狙われ、さまざまな災難に襲われ続けたこの旅。

 その苦労を帳消しにできるほどの感動が、今のナミを満たしていた。

 

「ああ…苦労の末行きついた空島…それが〝黄金郷〟だったなんて…日頃の行いがいい私への、これはご褒美ね♡ 神様」

「お前…この島の〝神〟が恐かったんじゃねェのかよ…」

「神⁉︎ …ああ…ナンボのもんよ‼︎ 金より値打ちあんの⁉︎」

 

 呆れた様子で半目を向けるゾロに、ころっと表情を変えてナミが返す。

 散々危険だと、さっさと脱出すべきだと騒いでいたと言うのに、いっそ清々しいまでの掌返しに、二人ともこめかみから冷や汗を流した。

 

「…あなたさっき『神様ありがとう』って…」

「言ってる事メチャクチャだな、コイツ…」

 

 頬を引き攣らせるゾロとロビンだが、莫大な黄金への欲に取り憑かれた今の彼女に、正論など意味をなさないだろう。

 一向に興奮が収まる様子のない彼女が、そのうち落ち着くのを待っていた時だった。

 

「うるせェガキ共だな…人ん家の前でよ……!!!」

「⁉︎ 誰だ!!?」

「ヒィッ‼︎ ゴメンナサイゴメンナサイ嘘ですちゃんと感謝してます神様っ!!!」

「…………」

 

 不意に、家の片割れの中から聞こえてきた声に、即座に警戒体制に入る二人。

 途端に頭を抱え、ゾロたちを盾にして泣き言を吐く波にまた呆れながら、家の中からのっそりと体を起こした相手を、油断なく睨みつける。

 

「さっきからギャーギャー…てめェらだな…? あの〝バケモノ海流〟に乗ってやってきやがったのは」

「‼︎ 何でそれを…」

 

 険しい視線を向けるゾロたちは、顔を出した声の主───白い髭とハットが目立つ、大柄な老人の発言に目を見開く。

 ここまでどうやってきたかを言い当てられ、ますます警戒を強めるゾロたちに老人は気難しそうな表情をさらに顰め、ため息混じりに語り始めた。

 

「おれの名は……グロースター・アーレン。お前達と同じで…〝突き上げる海流〟に吹っ飛ばされてこの天国まで来ちまった………黄金狂いの考古学者よ」

 

⚓️

 

 さぁっ、と静かな風が吹き抜ける夜の始まりの頃。

 島のあちこち、各々が司る領域に陣取る三人の男たちが、島からふたつの強者の声が消えたことに反応を示す。

 

「サトリとシュラが落ちたか…〝心剛(マントラ)〟を乱したな。未熟者め…………」

 

 仲間がやられても、彼らにそう狼狽する様子は見られない。

 むしろ、自分が強く目立つのに邪魔な存在が二つなくなったことに精製しているような、そんな響きを感じさせていた。

 

「哀しき戦士の声を感じるか、ホーリー…」

「ワン!!!」

「……何度戦り合おうと結果は明らか…」

 

 今の彼らが注目しているのは、島中の罠を打ち破って進んでくる無数の声の主たち。

 島を、空の海を支配する自分たちに、ただならぬ闘志を燃やして向かってくる、ゲリラの中でも選りすぐりの実力者達である。

 

「……妙な声を感じた気がしたが…所詮往き着く先はみな同じ…………」

 

 遺跡に腰を下ろし、小石を手で弄びながら佇んでいた長髪の男も、近づいてくる声に眉間の皺を深くさせる。

 その足元で、もこもこと島雲が一人でに形を変え、人に似た姿に形取られていく。まるで、神懸かった力で命が生み出されているかのように。

 

「おれの結末は…変わらない」

 

 ギン、と赤く血のように輝く目が、森の向こう側に向けられる。

 その直後、戦いの始まりを告げる合図として、凄まじい威力の爆発が島のどこかで起こった。

 

「来たなシャンディア」

 

⚓️

 

「チョッパー!!? エレノア!!? どこ!??」

 

 時と場所は変わり、メリー号のある祭壇まで戻ってきたゾロ達三人と、その後をついてきたアーレン。

 だが、視界に入った変わり果てたメリー号の姿に、ナミは顔を真っ青に染めて息を呑み、大声で呼びかけ始めた。

 

「何があったの!!? 2人とも!!!」

「メリー号のマストがねェぞ……‼︎ どんな奇抜な改造を施したんだ、あいつら」

「そんなわけないでしょ!!? 敵襲を受けたのよ‼︎」

 

 原型をほとんど留めていない船の姿に、呑気な感想をこぼすゾロにナミは怒鳴る。

 船番を務めているはずの仲間達の姿が見えないことに、まさかと言う考えを抱いたその時、アーレンが唸るような声を発した。

 

「……どうにか、敵は退けたようだがな。見ろ」

「!!? ヒィ!!!」

 

 アーレンが顎で示した方に目をやり、即座にナミが悲鳴をあげる。

 島雲と陸の境に浮いていた、血まみれになった見慣れない男の姿に、ゾロとロビンも僅かに表情を変える。

 彼の腹部に残る陥没したような傷跡に、ぞくりと寒気を覚えていた。

 

「神官の一人のシュラだ…だが、こうもこいつがあっさり………?」

「…チョッパー!!? 遅くなってごめん‼︎ エレノア!!! いるんでしょ!!? 返事して!!! 2人とも!!!」

「…………八つ裂きにされたのかしら」

「コワイ想像やめてよ!!!」

「おいおめェら!!! いねェのか!!? 何かあったのか!!?」

 

 神官というのはよく分からないが、この状況を見るにこの男に襲撃されたのは間違いない。

 それを撃退したのがどちらかは知らないが、二人とも無事では済まないだろうと、ナミは戻ってくるのが遅れたことを申し訳なく思いながら呼び続けた。

 

「…べ…」

 

 そしてやがて、メリー号の中からか細い声が聞こえる。

 恐る恐る顔をのぞかせたチョッパーは、ゾロ達の姿を目にすると、だーっと滝のように涙を流して声を発した。

 

「別にな″んもコワイ事ながったぞ」

「…………わかったわかった、あんたは強いから。あった事全部話しなさい」

 

 男の意地か、必死に虚勢を張るチョッパーに呆れるも、ひとまず安堵したナミが肩をすくめる。

 そして船に戻ろうとした時、祭壇に続くミルキーロードの一本から、聴き慣れた騒がしい声が聞こえてきた。

 

「おォ!!? ホラ見ろ‼︎ ゴーイングメリー号だ!!! あれが祭壇だァ‼︎」

「ア〜〜〜〜〜‼︎ ナミさ〜〜ん♡ エレノアちゃ〜ん♡ ロビンちゃ〜ん♡〝恋の試練〟越えてきたよホホ〜〜〜〜っ‼︎」

「恐かったか⁉︎ お前ら‼︎ このキャプテン・ウソップが来たからにはもう安心だ!!!」

「何だ…試練ってあれだけだったのか………」

 

 振り向けば、カラスの船首のついた小舟に乗ったルフィ達が向かってくるのが見える。

 続々と、計ったようなタイミングで仲間が集まってきたことに、ホッと安堵の息がこぼれた。

 

「あっちも元気みたいね…一安心」

 

 思わず呟き、未だ船の中から姿を見せないもう一人の仲間のもとに向かおうとするナミ。

 その際、小舟に乗るルフィが、ゾロ達と共にいる見慣れない老人に気付き、訝しげな表情を浮かべた。

 

「ん? 誰だ、あのおっさん」

 

 

 

「えェ〜〜〜〜!!? おっさんがひしがたのおっさんの友達〜〜!!?」

 

 老人が口にした正体に、ルフィ達は思わず一斉に驚愕の声をあげる。

 ナミ達が試練の生け贄に連れて行かれたり、実はそれはコニスが敵を呼んだからであり、それを告白したコニスが危うく殺されそうになったり、間一髪で空の騎士が助けに入ったり、試練に挑んで死にかけたり、神官と戦って辛くも勝利を勝ち取ったりと、目まぐるしく事態が動き続けた今日一日。

 それらに負けず劣らずの衝撃で、ゾロ達を除く全員が口をあんぐりと開けて硬直した。

 

「…ああ、クリケットの奴が世話んなったみてェだな」

「〝突き上げる海流〟に吹っ飛ばされて行方不明になったって……!!! こんなところで生きてたのか!!?」

「小船一つを犠牲にな…………流石にありゃあ、二度とゴメンだ」

 

 ぶるりと両肩を震わせ、アーレンが嫌そうに顔を歪める。

 それに深い同情を覚えるも、詳しい話を聞かなければとウソップが我に返り、アーレンと視線を合わせるために向き合った。

 

「それが何だってこんなところで…」

「バカやろ、おれの事より大事な事があるだろが‼︎」

「‼︎ そうだ、空の騎士とエレノアが!!!」

 

 アーレンの指摘で、チョッパーも衝撃から立ち直って動き出す。

 再集結を果たした一味は慌てて、船と仲間を守るために奮闘した二人が、静かに横になっている船室に駆け込んでいった。

 

「──ただでくれた笛一コの為に…ここまで戦ってくれたのか……‼︎」

「空の騎士が来てくれなかったら、おれ達も船もダメだった」

「色々聞きてェ事もあるが…眼を覚ますまで待とう。おめェもありがとな」

「ピエ〜〜」

 

 深い眠りにつく空の騎士を見下ろし、サンジが思わず感嘆の声をあげる。

 その義理堅い心がなければ、全員船を失ってどうしようもなくなっていたところだったのだ。感謝しても仕切れない行いである。

 

「…で、エレノアちゃんはどうしちまったんだ? 別人みたいになったっつってたが………」

「うん…今度は見間違いでも聞き間違いでもなかった。本当にエレノア……知らない奴みたいになってた。匂いも変わってたし」

「何がどうなってんのか………あとで本人に確かめるべきだな」

 

 困惑しっぱなしのチョッパーからそれ以上聞くことはできず、サンジは一旦追求をやめる。

 一旦全員で船室から出て、燦々たる有様を晒すメリー号を見渡し、やや億劫そうに肩をすくめる。とにかく、やることや確認することが山積みになっていた。

 

「船もこの状態、日も落ちてきてるしエンジェル島へ帰るのは明日になりそうだな──とりあえず森へ下りて、湖畔にキャンプをはろう。もしもの時はここよりいくらか戦い易いだろ」

「うおーつ‼︎ やったー!!! キャンプだ〜〜〜!!! 宴だ〜〜!!!」

 

 キャンプと聞いて、楽しいことが何より好きなルフィが途端にはしゃぎ出す。

 それに待ったをかけるのは当然、試練の間常にビビりっぱなしだったウソップである。

 

「えェ⁉︎ おい、ちょっと待てよ、ここは敵陣だぞ‼︎ キャンプって…」

 

 こんな危険な場所で、そんな目立つようなことをしていいのかと苦言をこぼす、一味で最も臆病な男。

 だが、それで一味の頭が止まるはずもなかった。

 

 

 

「よーーし…えーみんな色んな報告ご苦労‼︎ それぞれの情報で色んな事がわかってきたな」

 

 通常に戻ったウソップが、紙にまとめた情報を木の幹に貼り、ぱんぱんと棒で叩いて示す。

 ナミ達から、そしてチョッパーから集めた情報は、彼を怯えから解放するだけの力を有していたようだ。

 

「だが、何と言っても今回の目玉情報はコレだっ‼︎ この島は何と、猿山連合軍が探し求めていた〝黄金郷〟だったのだ‼︎」

「マジで──っ!!?」

「さっき言ったでしょ‼︎」

 

 焚き火で焼いた空サメをかじるルフィが、ウソップのセリフに驚愕を示す。

 が、それはすでにナミの事前の説明で明らかになったことであり、他の面々に驚いた様子はない。

 驚くよりも前に、強い興奮と期待が湧き上がっていた。

 

「黄金かァ、こんな冒険待ってたんだ‼︎」

「そう来なくちゃ、話が早いわ‼︎」

「コラコラルフィ‼︎ お前さっきのゲリラの忠告、忘れたのかよ‼︎」

「神が怒るぞ⁉︎」

「フフ……面白そうね………!」

「まァ、海賊がお宝目前で黙ってるわけにゃいかねェよな」

「敵も充分………‼︎ こりゃサバイバルって事になるな」

 

 急速に開けていく先の道に、一味は各々で好戦的な笑みを浮かべる。

 単なる好奇心から進んできた道が、莫大な財宝という海賊らしい獲物に繋がったのだ。おとなしくしていることなど、できるはずもなかった。

 

「ケッ…こんな状況でずいぶん気楽な連中だ」

「よ〜〜〜しやるか!!! 黄金探し!!!!」

 

 アーレンが呆れた様子で吐き捨てるのをよそに、ルフィはさらにやる気をみなぎらせる。

 その目は、まるで子供のようにキラキラと輝いて見えた。

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