ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

133 / 324
第132話〝髑髏の右目〟

 グツグツと、熱された石で煮込まれた空サメのシチューが、あたりに香ばしい匂いを漂わせる。

 サンジが主導で料理を完成させる中、一味はそれぞれで薬を作ったり船を修理したり、各自の分野で明日のための準備を行なっていた。

 

「…やっぱりね‼︎ こういうことだったのか…‼︎」

「大した腕だな……おれが数年かけて辿りついた真実にたった一日で追いつくとは」

 

 二枚の紙を見比べ、満足げな笑みを浮かべるナミに、アーレンが感嘆の眼差しを送る。

 彼と情報を比較しあったナミは、いくつか問答を繰り返すと、散らばっている仲間達を呼び集める。

 

「じゃあみんな! 明日、どう行動すべきか‼︎ 作戦会議を始めるわよ‼︎」

「おォ‼︎」

 

 チョッパーやウソップは一時作業を中断し、ナミの元に集まる。

 サンジの用意したシチューの周りに輪を描くように腰掛け、互いに顔を合わせる形をとる。が、約一名いまだに顔を見せていないことに全員が気づいた。

 

「エレノアは?」

「船室で寝てる。うなされてるけど、さっきよりはだいぶましになってた」

「そうか…寝て治りゃいいがな」

 

 主治医のチョッパーの診断に、ゾロは一応の安堵を見せる。

 あまりにも唐突な体調の悪化で油断は禁物だが、具合が多少よくなっているのならそこまで不安になることもないだろう。

 

「んまいですね〜〜‼︎ このシチューはまた」

「お前さん、さっき空サメ丸々一匹食ってなかったか」

「まァあれはつなぎだな」

 

 空の騎士もまだ目を覚さないため、一味はエレノアに申し訳なさを感じつつも、先に夕食を取ることにする。

 そんな空気の中でも相変わらず呑気なルフィを放置し、ナミが咳払いで仲間の注目を集めた。

 

「いい? まずノーランドの絵本のおさらいよ。彼が初めて〝黄金郷〟を見たのは400年前。それから数年後、再びジャヤを訪れた時には…もう、黄金遺跡はなかった。そうよね、アーレンさん」

「………あァ」

 

 一味の輪に加わり、シチューの注がれた皿を手にしたアーレンが神妙な表情で頷く。

 気難しい印象を覚えるこの老人だが、礼儀さえきちんと弁えていれば、そう話しにくい相手でもないようだ。

 

「──つまりその数年の間に、ジャヤの片割れであるこの島は上空へやってきた」

「〝突き上げる海流〟に乗ってか」

「ええ、それしか考えられない。海底での爆発位置は毎回違うとクリケットさんが言ってたから」

「あの規模だもんな…島も飛ぶぞ」

 

 実際に天空を登ってきたウソップは、今や感心した様子で十数時間前のことを思い出す。

 本来は絶対に避けるべき災害と称される自然現象。それが島の真下で起こったとならば、どれだけの被害が生じるかなど、想像するだけで恐ろしい。

 しかしそこで、納得いかない様子でゾロが口を挟む。

 

「──でもよ、ジャヤでおれ達が入った森とこの森が同一とは、とても思えねェが」

「それは…きっと〝海雲〟や〝島雲〟を作る成分のせいね。この空島を包む環境は動植物を異常な速度で育む力があるみたい」

 

 ジャヤと同一の島だと言われても、あまりにもかけ離れた景色であるため、ゾロはいまだに信じられない気分でいるらしい。

 そこにロビンが予測を立てるが、検証する暇がないため、ああそういうことかとなんとなく理解するくらいしかできなかった。

 

「だとすれば森にのみ込まれた文明にも納得がいくわ」

「空の騎士を助けてくれたサウスバードもこんなにでかかったんだ」

「それだが…そのサウスバードがエレノアちゃんの命令を聞いてそいつを助けたんだ?」

「それがわかんねえんだ。サウスバードはみんな、空の騎士を〝神様〟、エレノアを〝真祖様〟って呼んでて…」

「神⁉︎」

 

 困惑気味に当時のことを思い出すチョッパー。

 その際に聞こえた単語に、シチューを口いっぱいに頬張ったルフィが思わず目を見開く。

 

「じゃ何だ、このおっさんブッ飛ばしたらいいのか⁉︎」

「いいワケあるかァ!!! このスットンキョーが!!!」

 

 ピエールがビクッと震えるが、その前にウソップが鬼の形相で怒鳴りつけ、空の騎士はなんとか危機を乗り越える。

 続いてサンジが、先ほどから黙り込んだままのアーレンに目をやり、訝しげに問いかける。

 

「あんたは何か知ってんのか? この島に長ェこといるんだろ?」

「さてな……調べようにもあたりはみんな連中のナワバリだ。うかつに調査に行ったらじき餌食にされらァ」

 

 ガツガツとシチューをかきこんでから、アーレンは肩をすくめる。

 相変わらずの険しい表情だが、話を聞いている間に警戒心が薄れたのか、際ほどよりは柔らかい雰囲気になり始めた気がした。

 

「だが……あたりに点在する遺跡を調べてわかったことはいくつかある。〝空島〟の民には、〝元から空にいた連中〟と〝後からやって来た連中〟がいる……そして元々〝神の島〟には、〝後からやって来た連中〟が住んでいたって事だ」

 

 アーレンがスプーンで示すのは、メリー号が置かれた祭壇の側面部分。

 何やら生物と人が描かれたような、奇妙な模様が彫られたそれを示すが、ルフィたちにはそれが何を表しているのか全くわからない。

 しかしそれを疑う必要がないほど、長年この島に潜み続けた男の言葉は重く感じられた。

 

「島にいた連中の名は〝シャンディア〟。この島に…つまりはジャヤに住んでいた先住民族が、奴らの祖先だって事らしい」

 

 一通り語り終えて、アーレンはまたシチューにがっつき始める。

 あまり急かしても意味はない判断したナミは、それ以上問いただすことはせず、さっきまで見ていた二枚の紙を持ち出しながら、一同の目を見渡した。

 

「────とにかく、ノーランドの航海日誌に書かれてた〝黄金郷〟についての情報を思い出して!」

「黄金を見た」

「っっタリめェだこのスットコドッコイ!!!」

 

 今更すぎる一文を自慢げに声に出すルフィに、またウソップが鬼の形相で怒鳴る。

 一味の頭の知能に関しては既に諦めているゾロたちは気にせず、何か真実をつかんでいるらしいナミに注目しながら、自身の記憶を掘り起こした。

 

「それも〝巨大な鐘型の黄金〟だって言ってたな」

「……日誌の……最後のページに理解できない言葉があったわ。ノーランドが死ぬ間際に残したという文章」

 

 一日があまりに濃厚だったために、そしてかなり抽象的な表現だったために、あまり重要そうには思えなかった不思議な一文。

 思い出すのに苦労しているゾロたちを見かねてか、アーレンがため息混じりにその単語を口にした。

 

「…『髑髏の右目に黄金を見た』」

「それよ‼︎」

「おれもどうにかその謎については解決できてな………ジャヤの地図と、何とか手に入れたスカイピアの地図の縮尺を合わせて、おれが今住んでる家の位置を合わせてみた。するとだ…」

 

 アーレンに視線で促され、ナミが全員の目に入るように二枚の紙を置く。

 一枚は、沈没船の中からルフィが見つけ出したスカイピアの地図。もう一枚は、ロビンが手に入れてきたジャヤの地図。

 二枚の地図をアーレンが重ね合わせ。かつての姿を取り戻させていく、すると。

 

「ほれ、こいつが400年前のジャヤの姿よ!!!」

 

 わかたれていた二つの島が一つとなり、過去の姿が描き出される。

 スカイピアの丸い形の陸地に、ジャヤのコの字型の陸地。それらが合わさり現れたのは、海上からおどろおどろしく空を見上げる、骸骨の顔だった。

 

「…………ドクロに見える!!!」

「どう?」

「スゲェ‼︎」

 

 なんともスケールの大きな謎解きに、ルフィたちは思わず感激した様子で絶句する。

 その謎に一人でたどり着いたアーレンの隣で、つい先ほど知ったばかりで興奮したままのナミは、誇らしげに笑みを浮かべている。

 賞賛の言葉も求めないほどに、気づいた真実に驚愕しているようだ。

 

「……じゃ『髑髏の右目』ってのは…」

「ここだ!」

「ノーランドが言いたかったのは島の全形の事よ‼︎ だけど今島は半分しかないんだもの、この謎が解けるわけがなかった」

 

 今ならノーランドの当時の絶望も、それをホラだと笑った者たちの気持ちもわかる気がする。地上にないものをどれだけ探そうとも、わかるはずのない壮大な真実なのだから。

 

「明日は真っすぐにこのポイントを目指せばいいのよ。その間、船も放っとけないから2班に分かれて動きましょう‼︎」

「位置はおれが把握してる。案内してやっから何かあったら頼むぜ」

 

 みるみるうちにやる気をみなぎらせていく一味に、アーレンがニヤリと不敵な笑みを見せる。

 友と共に黄金郷を探し続け、災害に巻き込まれた先で出会った千載一遇の機会。アーレンにとっても、願ったり叶ったりの状況のようだ。

 

「間違いない‼︎ この場所で莫大な黄金が私達を待ってる!!!!」

 

 それまでの不満や苛立ちを帳消しにする勢いで、期待をあらわにするナミたち。

 そんな中、ふとした疑問を抱いたウソップが真顔に戻り、アーレンに訝しげな視線を向けた。

 

「おっさんは何で……初対面のおれ達にそんなに手を貸してくれんだ? 一応は黄金探しのライバルだぜ?」

「………クリケットはおれの…まァ幼馴染みてェなもんでな、あいつの苦労は昔から知ってた」

 

 アーレンはやや言いづらそうに目を逸らすも、すぐに観念したように語り出す。

 はしゃいでいたナミたちも、クリケットから聞いた過去を思い出し、思い出しながら話し続ける老人を見つめて黙り込んだ。

 

「ヒデェもんだったよ……顔も知らねェどっかのクソガキが、あいつを見て笑いやがる…『見ろ、うそつきの末裔だ』『関わったら一緒に死刑にされるぞ!』…………親もそれを一緒になって笑いやがる。先祖の因果だっつってな…」

 

 吐き捨てるようにつぶやくアーレンに、ナミたちも思わず表情を険しくさせる。

 迫害を受けた本人の話もだが、それを見ていた関係者の話も、十分に心を抉る内容である。老人たちがこうもひねくれた性格になったのも、わかる気がした。

 

「おれァ偶然この島に流れ着いたが、気分は今の方が断然マシだ………あいつを笑うバカがどこにもいねェからな。だがそれ以上に……あいつを一人にしちまった後悔が残った」

 

 眉間に皺を寄せていたアーレンだったが、不意にその口元に笑みが浮かぶ。

 訝しげに見つめるルフィたちに、アーレンは先ほどとは真逆の、心底嬉しそうな笑みを返し、優しい声で告げた。

 

「だからアイツの夢を笑わなかったおめェらにゃ……ちっとだけ借りがあんだよ」

 

 

 

 カラン、と空になった鍋の中で、用の済んだ器と匙が投げ込まれる。

 一切の残しがなくなったそれを片付けるサンジを横目に、ぽんぽんと腹を叩いたルフィが、待ち遠しくて仕方がないといった風に夜空を見上げた。

 

「ふ〜〜食った食った〜。明日は黄金‼︎ 晴れるかな」

「そりゃ雲の上だからな」

 

 空を覆う雲がないのにどうやって曇るのか、と冷静なツッコミを受けるが、能天気な彼が気にした様子はない。

 敵に追われているとは思えない、だらけた様子のルフィたちを見ていたロビンは、まだ煌々と燃えている焚き火を見下ろして口を開いた。

 

「夜も更けたわ。用のない火は消さなくちゃ、敵に位置を知らせてしまうだけよ」

 

 それは一味の安全を考えた彼女なりの、世間一般的な最善の判断である。

 しかし、それを聞いた途端ルフィとウソップは顔を顰め、呆れた様子で肩をすくめた。

 

「バカな事を…聞いたかウソップ、あんな事を言ってらァ…火を消すってよ」

「仕方ねェさ、そう言ってやるな。ロビンは今まで闇に生きてきた女…知らねェだけだ」

「………どういう事…?」

 

 何か、自分の知らない重要な目的があるのか、と戦慄の表情になるロビン。

 戸惑い立ち尽くす彼女の前で、ルフィとウソップががっくりと両膝をつき、まるで人生そのものを否定荒れたかのような嘆きの声を上げ始めた。

 

「キャンプファイアーするだろうがよォ普通!!!」

「キャンプの夜はたとえ、この命尽き果てようともキャンプファイアーだけはしたいのが人道」

「バカはあんたらだ」

 

 大声でアホなことを宣う二人に、ナミの冷酷なツッコミが飛ぶ。

 十人に聞けば、十人がロビンと同じ答えを返すであろう当たり前の考えのはずだが、騒がしく楽しむことが大好きな彼らにはそんな常識は当てはまらないようだ。

 軽く頭痛を覚えながら、ナミはギロリとルフィを睨みつけた。

 

「いい加減にしなさいよ!!! この森がどれほど危険な場所かって事ぐらいわかってるでしょ⁉︎」

「知らん」

「神官もいる‼︎ ゲリラもいる‼︎ エレノアだってまだ復活してない‼︎ それ以前に夜の森はただそれだけで危ない所なのよ‼︎ 猛獣だって化け物だっているかも知れない‼︎」

「化け物も〜〜〜!!?」

 

 一戦力がダウンしているのに、これ以上厄介な敵を増やしてたまるか、とナミが強く警戒を促す。

 当のルフィは全く胃に解した様子はなく、宴を邪魔されることに不満を表していたが、これだけは譲れないとナミは続けて言い放とうとした。

 

「オイ!!! 小僧!!!」

 

 その時、アーレンが凄まじい形相で声を上げる。

 その荒々しい声にナミは、長年この島でサバイバルしてきた彼なら、自分の味方をしてくれるはずだ、と振り向くが。

 アーレンはゾロとサンジと共に、綺麗に組まれた太い枝を背に親指を立てていた。

 

「組み木はこんなもんか?」

「あんたらもやる気満々か!!!」

 

 満足げに確かめてくるアーレンに、裏切られたとばかりにナミが叫ぶ。

 まともな思考の男は他にいないのか、と頭を抱えるナミに、アーレンは火種である松明を掲げながら笑って告げる。

 その背後に輝く無数の目と、唸り声に気づかないまま。

 

「心配すんな、猛獣はむしろ火を恐れんだ。おれはそうやって生きてきた」

「後ろ後ろ!!! もうなんかいるわよ!!!!」

 

 涙を流して恐怖をあらわにするナミ。

 が、事態は彼女の想像もつかない状況に変化していくとは、誰も思わなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。