ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第15章 神の住む島〈中〉
第134話〝スカイ・アドベンチャー〟


「見ろ!!! 言った通りだろ、ここに誰かいたんだ!!!」

 

 夜が明けて、さぁ今度こそメリー号を修理しなければ、と祭壇の上に集った麦わらの一味。

 しかしそんな彼らの目の前にあったのは、すでに一応の船の形を取り戻しているメリー号の姿だった。

 

「見たんだおれは、やっぱりあれは夢じゃなかった!!!」

 

 興奮と混乱でごちゃ混ぜになった顔で、ウソップがみんなに叫ぶ。

 昨晩、小用をたすために目を覚ました彼が、ふと祭壇の近くを寄った時、彼は見た。

 何者かがメリー号の元にいて、木槌を振るっていた。そしてウソップに気づくと、にこりと笑みを見せたのだ。

 

「確かに…折れきったマストまでちゃんと直ってる」

「………だが言っちゃ悪ィが下手くそだな」

「いいやつがいるもんだ」

「……おれァてっきり…オバケかと…………」

 

 即座に気絶したため、ウソップ自身夢かもしれないと思っていた。

 しかし現に目の前に、鉄板や材木が打ち付けられている、お世辞にも安心とまではいかないが、航海には十分な修繕跡がある。

 何者かがいて、メリー号を修理したことは間違いがなかった。

 

「……しかしこんな辺境で誰が船を直してくれるってんだ。この〝神の島〟におれ達以外敵しかいねェ筈だぞ……」

 

 訝しげに問うゾロに、ウソップを含め誰も答えられない。

 険しい表情で首を傾げていたナミはふと、黙り込んでいるエレノアに視線を移した。

 

「エレノア、あんた何か………ってそれどころじゃなかったわね」

「おれも何も感じなかった。誰かいたなんてありえねェんだがな……」

 

 謎の頭痛に苦しんでいた彼女の姿を思い出し、ありえないとナミが首を横に振ると、アーレンも心底不思議そうに首を傾げる。

 そこで、同じくメリー号を見渡していたルフィが、ある疑問を口にした。

 

「でもフライングモデルじゃなくなってるな、ウソップ」

「そこなんだ、それを考えてた」

 

 まさしくそこが一番の謎だと、顎に手を当ててウソップが考え出す。

 メリー号の今の姿は、地上で一旦クリケット達の手によって追加された、いわゆる強化形態。本来の姿は、空の海にいる以上一味しか知らないはずなのだ。

 仲間しか知らないのに、誰一人として関わっていない。あまりに謎が深すぎた。

 

「ホラホラ! あんた達何サボってんの⁉︎『脱出組』は昨日の後片付け!『探索組』は冒険準備!」

「よーーし‼︎ おれが食料のふり分けをやるぞ‼︎」

「ルフィ…それだけはおれがさせねェ」

「それより船を下へおろさなきゃ」

「そうだな、ロープ持って来い!」

 

 答えの見つからない疑問にいつまでもかまけていられないと、ナミが全員に促す。

 今優先すべきは、黄金を見つけ出して一刻も早くこの島を脱出すること。謎解きは後でいくらでも時間を見つけられればいい、と全員が動き出す。

 それでもウソップは、物言わぬ船首でしかないメリーを凝視し続けていた。

 

「なあ、メリー…誰だったんだありゃあ…」

「…………」

 

 そんな彼をじっと見つめ、エレノアがぎゅっと唇を噛み締めていたことに、誰も気づかずにいた。

 

 

 

 メリー号を海雲に移し、再び一味は一箇所に集まる。

 ナミはその中心にしゃがみ込み、アーレンが完成させたかつてのジャヤの地図を広げる。

 

「さてと、地図を見て!『探索組』のルートはこうね、南へまっすぐ。この〝右目〟に何らかの遺跡があるハズだから、まァ、敵もろもろに気をつけて黄金持って来て‼︎」

「簡単に言いやがって」

「何だお前、黄金黄金言ってるくせに来ねェのか?」

「そうよ、だってコワイじゃない」

 

 何を言っているのか、と真面目に返すナミに、チョッパーは思わず戦慄の目を向ける。

 今この場で最も黄金を求めている人物でありながら、自らは決してそこに向かわない歪んだ性格に、今更ながら恐ろしさを覚えていた。

 

「その間、私達はメリー号でこの島を抜けるわ。こっちも危険よ」

「神官もゲリラも、どっから現れるかわかったもんじゃねェからなァ…」

 

 ルフィ達とエレノア(?)の奮闘のおかげで、5人いるという危険な神官のうち2人が打倒されている。

 しかしだからと言って全ての脅威が去ったわけではない。宝を探す方も、逃げ道を確保する方も、それなりの覚悟を決めておく必要がある。

 

「なるべく早く遺跡付近の海岸へ行くから、そこで落ち合いましょう! そしてそのまま空島脱出、これで私達は『大金持ち海賊団』よ‼︎ 好きな物買い放題♡」

「やった〜〜〜!!!」

 

 すでに莫大な黄金を手に入れた未来を想像しているのか、目を輝かせたナミが高揚した声をあげる。他の者も同じく、まだ見ぬ栄光を夢想し、気の早い歓喜を見せる。

 準備を整えた彼らは、陸と海、未知の脅威が待つ二つの道を突き進み始めた。

 

「おーし‼︎ そんじゃ行くかァ!!!」

「おお!!!」

 

 

 

 そう、勇ましく進み出したルフィ達『探索組』だったが、事態は早速面倒なことになり始めていた。

 

「おい‼︎ どこ行くんだゾロ!!! そっちは逆だ‼︎〝西〟はこっちだぞ!!!」

 

〝髑髏の右目〟に位置する島の南側を目指すはずの一行。

 しかしゾロは先ほどから見当違いの方向に、そしてルフィは全く違う西を目指し、そして何故か東に向かおうとしていた。

 

「まったくお前の方向音痴にはホトホト呆れるなァ」

「おいルフィ、お前は何でそう人の話を聞いてねェんだ。〝ドクロの右目〟なんだから右だろうが!!! あっちだ!!! バカかてめェっ‼︎」

「バカはお前らだ」

 

 先ほどからずっと同じ調子で迷いそうになる二人に、アーレンが険しい顔で頭を抱える。

 本当にこんな奴らを信用してついてこさせてよかったのか、と。

 

「何だ南か、それを早く言えよ〜」

「言ったわバカヤロー」

 

 冒険に最も意欲的で屈強な男と、腕の立つ剣士。

 探索組の要とも言える二人が、今のところまるで役に立っていないことを嘆き、アーレンは深いため息とともに先に進む。

 流石のロビンも、肩を落とす老人に哀れみの視線を送っていた。

 

「でもおれはこの森、もっとコワイとこかと思ったんだけど、なーーんだ大した事ねえな〜〜がはは」

「へ〜〜〜チョッパー、お前今日は強気なのか」

「そうなんだ、がはは」

「ったく…気ィ抜きすぎだぞ」

 

 不調のエレノアとともにメリー号に残され、かなり恐ろしい目にあったチョッパーは、この時とても安心していた。

 アーレンはともかく、一味で最も強いルフィとゾロ、そして腕の立つロビンがいる以上、自分はそうそう危険に晒されることはないだろうと、たかを括っていたためだ。

 

「だが確かに、正直拍子抜けだよなァ。昨日おれ達が森へ入った時も別に何も出なかったぜ。神官の1人とも会わずしまい。お前の気持ちもわかるぜ、チョッパー」

「だ‼︎ だろ? がはは」

「…………おかしな人達ね、そんなにアクシデントが起こって欲しいの?」

「はっ……何も出て来ねェのは当たり前だ」

 

 緊張感のかけらもない、暢気な会話を続ける4人に、アーレンは呆れながらも笑みを見せる。

 彼自身も油断していた。通い慣れたこの道を、屈強な若者を護衛として連れているために。

 

「この森には神官もおいそれと手出しができねェ〝主〟がいるんだからな」

 

 ガハハ、と笑うアーレンと興味深そうに視線を向けるルフィ達。

 そんな彼らを見つめる、巨大な影が一つあったことに気づくまで、わずかばかりの時間を要した。

 

⚓️

 

「風よし‼︎ 舵よし‼︎ んーー実に快適。巡航は順調だ」

 

 穏やかな風を、船の先端に立って受け止めるウソップが呟く。

 欄干に背を預け、昨晩よりはマシな顔色になったエレノアが聞き流していると、ウソップは不意に眉間に皺を寄せ始めた。

 

「しかしノロイなコリャ。おい航海士! 何とかしろ」

「何ともなりません、キャプテン・ウソップ」

 

 雲の道を進むメリー号だが、着実とはいえその速度はあまりに遅い。

 起伏が激しいために、今の所(ダイアル)の力で推し進めるほかになく、ナミの技量で同行できる者ではない。

 急ぐ旅なのに、随分とのんびりした航海に、ウソップが不満をこぼしていた時だった。

 

「この国の…歴史を少し…………話そうか…」

 

 唐突に、空の騎士ガン・フォールが口を開き、ナミ達の注意を引く。

 何をいきなり、と訝しげに見つめてくる青年達に、ガン・フォールは虚空を見つめたまま語り始める。

 

「我輩…6年前まで〝神〟であった…」

「頭打ったか、おっさん」

「………………この〝神の島〟がスカイピアに姿を見せたのは…おぬしらの知る通り400年も昔の話だと聞く」

 

 余計な一言を口にしたウソップが、馬に変形したピエールに噛みつかれるのをよそに、ガン・フォールは続ける。

 その際、エレノアが鋭い視線を向け出していることには、気づいていなかった。

 

「それまでの〝スカイピア〟はごく平和な空島だったそうだ。たまに〝突き上げる海流〟に乗ってやってくる青海の物資は、空の者にとってはとても珍しく重宝される」

 

 空島にある地面は全てそうやって得られたものだという。

〝神の島〟ほど巨大な大地が空に来ることはまずあり得ず、奇跡と称されるほどである。当然空に生きる者達はそれを喜び、〝聖地〟として崇めた。

 それゆえに、先に〝神の島〟に住んでいた者達を認められず、戦いは始まってしまったのだとも。

 

「アーレンさんが言ってた………」

「うむ」

「なのに島を追い出しちゃったって事⁉︎」

「そうだ。〝空の者〟が私欲の為に彼らの故郷を奪い取った…」

 

 本気で後悔している様子で、ガン・フォールはうなずく。

 間違っているのは空の住民で、神であった自分で、正しかったのは島の先住民達、シャンディアなのだと。

 この戦いは、彼らにこそ正当性があるのだと。

 

「それ……ちょっと切ないわね」

「なのに我が物顔で、神官達が好き勝手してるわけか……胸クソ悪いね」

「「じゃ、おめェらが悪ィんじゃねェかよ‼︎」」

 

 ビシッ、と指を突きつけて詰るサンジとウソップ。

 次の瞬間、起こったピエールにまとめて頭に噛みつかれる様を横目に、ガン・フォールは思わず悲痛げに俯いていた。

 

「ーーーーそうだな。おぬしらの………言う通りだ…」

「……今更後悔したって、遅いのにね」

 

 自身を嫌悪するようにそう呟く老人に、エレノアが吐き捨てるようにこぼす。

 ふと目にしたその目の冷たさに、ナミはぞくっと背筋を震わせると、慌てて話題を変えさせようとガン・フォールに視線を向けた。

 

「エネルは? 何なの?〝神〟エネル」

「我輩が神であった時……どこぞの空島から突如、兵を率いて現れ、我輩の率いた『神隊』と『シャンディア』に大打撃を与え、〝神の島〟に君臨した…6年前の事だ」

 

 さらにガン・フォールは語る。

 彼の部下であった神隊はいま、何らかの労働を強いられている。それが何かはわからないが、少なくとも碌でもないことのはずだと。

 しかしシャンディアにとっては、誰が神であってもやることは変わっていないのだとも

 

「ーーなぜシャンディアは、私達に攻撃を?」

「今、労働を強いられていると言った『神隊』、時に船を手に入れ逃げ出す事があるのだ。シャンディアにとっては当然敵である、逃さず排除しようとする…‼︎ それと間違えたのだろう」

「何だ、間違いで命狙われちゃたまんねェな」

 

 呆れた調子で、サンジが吐き捨てる。最初の邂逅で痛い目を見たことを、いまだに根に持っているのかもしれない。

 それが勘違いや、よその下衆と混同されてのことなら尚更のことだ。

 

「聞いてりゃ〝神〟エネルってのはまるで恐怖の大王だな」

「コラコラコラお前滅多な事言うもんじゃねェぞ!!? 全能なる〝神〟は全てを見ているのだ!!!」

「…いつからあんたスカイピアの人間になったのよ」

 

 ビクッと全身を震わせ、サンジに大きな声で吠えるウソップに、エレノアが半目でボソリと呟く。

 しかしガン・フォールは、そんなサンジの評価でさえ生ぬるいというように、重苦しい表情で言葉を続けた。

 

「恐怖か…いや、それよりも性質が悪い。エネルはお前達の様に国外からやって来る者達を犯罪者に仕立て上げ、裁きに至るまでをスカイピアの住人達によって導かせる。これによって生まれるのは、国民達の〝罪の意識〟」

 

 ガン・フォールの言葉に、サンジとウソップはある娘のことを思い出す。

 エンジェル島で出会ったコニスは、まさしくガン・フォールの言った通りの行動をとった。ルフィ達を騙したことを悔やむ彼女の姿は、とても痛々しく見えた。

 

「己の行動に罪を感じた時、人は最も弱くなる。エネルはそれを知っているのだ」

「……『迷える子羊』を己で生み出し支配する、〝神〟の真似事ってわけか」

「そう…食えぬ男よ…」

「…エンジェルビーチへ着いた時は、ここは楽園にさえ思えたのに、とんでもない……」

「かつての黄金郷も、随分な所に飛んで来たものよ……」

 

 口元を手で覆い、戦慄を抱くナミに、その隣でエレノアはやれやれと肩をすくめる。

 ロマンを求めて来てみれば、遭遇したのは血みどろの戦いと、考えるだけでも唾棄すべき悪意の所業。気分がなえて仕方がなかった。

 そんな彼らに向けて、ガン・フォールはふと気になったことを問いかけた。

 

「……おお、そうだおぬしら。その……昨晩から騒いでおるオーゴンとは一体……何なのだ?」

「……え⁇」

 

⚓️

 

「悪ィ‼︎ ミスった!!!」

「逃げろ〜〜!!! 大蛇(ウワバミ)だ〜〜〜〜!!!」

 

 バキバキバキッ!と背後から大木がへし折られる音が聞こえてきて、ルフィ達をおいたてる。

 人間が10人も輪になっても届かないほど太い巨体をうねらせ、巨大な密林を突き進む巨大な生物に追われ、5人は必死に走り続けた。

 

「ギャ〜〜!!!」

「何でてめェがここにいんだよ〝空の主〟!!!」

「何て大きさ、これも空島の環境のせいかしら」

「ジジイふざけやがって…‼︎」

 

 ギャーギャーと喚くも、それで背後の怪物が止まってくれるわけではない。

 異様な巨体を誇る大蛇は、鋭い2本の牙を見せつけながら、ルフィ達に迫った。

 

「ジュララララララララ!!!!」

 

 背後から聞こえてくる咆哮に、咄嗟の判断で、全員がバラバラに飛び退る。

 直後、彼らがいた場所を大蛇が勢いよく通り過ぎ、そのまま直進上に聳えていた大木の幹に、牙がずぶりと突き立てられる。

 

「あの巨体で‼︎ 何て動きしやがる」

「牙に触れるな!!! 猛毒で骨まで溶かされるぞ!!!」

「毒…………!!?」

 

 アーレンの忠告で、ゾロはハッと大蛇が噛み付いた幹を凝視する。

 ジュウジュウと音を立て、牙が突き立てられた箇所が腐り、溶けていく光景が全員の目に映る。思わず、男達全員の顔が引き攣った。

 

「こりゃ逃げた方が………」

「良さそうだな」

「確かに」

「コエ〜‼︎」

 

 もはや、まとまって逃げることは得策ではない。

 ルフィ達はなりふり構わず(一人は泣き叫びながら)走り出し、迫り来る巨大な怪物から逃げ続けるのだった。

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