ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第142話〝恐怖こそが神〟

 ざわっ、と古代都市に集った戦士たちの間に戦慄が走る。

 エネルが口にした還幸という言葉の意味、それが表す残酷な未来を創造し、表情を驚愕と怒りに変えていた。

 

「国を消す気か!!!」

「それが自然…」

「思い上がるなエネル!!!〝神〟などと言う名はこの国の長の称号にすぎんのだぞ!!!」

「今まではな……」

 

 誰よりも強く激昂するガン・フォールの叫びに、エネルは全く気にした様子もなく続ける。

 人の命を余りに軽んじ、踏みにじろうとする男の狂った思考に、かつての神は荒ぶる声を止める事ができなかった。

 

「人の生きるこの世界に〝神〟などおらぬ!!!!」

「…元・神ガン・フォール、〝神隊〟を心配していたな……。6年前…我が軍に敗れ私が預かっていた、お前の部下650名……」

 

 肩を上下させ、鋭い目で睨みつける老人に、狂人は意味深に嗤いながら告げる。はっ、と息を呑んだガン・フォールは、嫌な予感を覚え、エネルを睨む目の力をより強めた。

 

「今朝ちょうど、私の頼んだ仕事を終えてくれたよ……――この島の中でな……――そしてさっき言った筈だ。今、この島に立っているのは……ここにいる6人のみだ………残念な事をした」

 

 その瞬間、ガン・フォールの表情は凍りつき、その場に立ち尽くす。

 一瞬頭が理解することを拒むが、すぐに凍った思考が怒りで煮立ち、さらなる憎悪が目の前の男に対して芽生えていく。

 

「おぬし…」

「別に好きで手にかけたわけではない…………私のこれからの目的を話してやったら…ヤハハハ、血相かえて挑んできたのだ…」

「…………エンジェル島に…家族のおる者達だぞ……!!!」

 

 ギリッ、と食いしばった歯を軋ませるガン・フォールの前で、エネルは嗤う。

 神とはとても言えない、異質な化け物のような顔で。

 

「そうだな…早く家族も葬ってやらねば…」

「貴様、悪魔かァ!!!!」

 

 怒りが限界に達したガン・フォールが、エネルに向けて槍を振るう。

 技術も何もない、怒りのみによる力任せの突進は、バリバリと雷に変化したエネルの身体を容易くすり抜けていく。

 すぐ横を通り過ぎた時、彼の頭の上下に、エネルの両手の指が突き出された。

 

〝2000万V…放電(ヴァーリー)〟!!!

 

 エネルの指の間を、2000万Vの強烈な電流が迸り、老人の頭を容赦なく貫く。

 ガン・フォールは声すら上げられずに沈黙し、ガシャンと槍を手放して、力なく頭から倒れ込む。

 

「ガン・フォール、この世に〝神〟はいる…私だ」

 

 不敵に、そして何より不気味に嗤いながら、エネルは邪魔な老人を見下ろし、不遜に語る。

 そして、その場に集った戦士達に向けて、己が手に入れた大いなる力を、存分に見せつけた。

 

「雷…!!? …………そんなの、人間が敵うわけないじゃない……‼︎」

「たわけが」

 

 怯え切った表情で、思わず後ずさるナミ。幾度も見せられた、セツナに終わるエネルの攻撃の正体に、どうしようもない絶望を抱く。

 だが、そんな彼女を背に庇い、エインシェンが吐き捨てるように言ってのける。

 

「奴は……〝神〟などではない――ただのクソガキだ!!!」

 

 ぎろりと、憤怒の目を向け、犬歯を剥き出しにして唸るエインシェン。ゴキリ、と拳を鳴らした彼女は、余裕の顔で佇むエネルを見据えると、突然凄まじい勢いで加速し拳を振り上げる。

 ナミが我に返った時には、エインシェンは既にエネルの目と鼻の先にまで迫っていた。

 

「ムリよエレノア!!! そいつに勝てる奴なんて、この世界のどこにも…」

「……これだけ力を見せてまだあらがうか………なんと愚かな女よ」

 

 ガン・フォールと同じく、無謀に向かってこようとする存在を返り討ちにしてやろうと、放電する掌を向けるエネル。

 だが、その表情は突如驚愕に固まり、目が見開かれる。

 

 次の瞬間、エネルは顔面に拳を食らい、砲弾の如き勢いで吹っ飛ばされていた。

 

「!!??」

 

 何が起こったのか、と目を剥くエネルは、漆黒に染まった拳を振り抜いて睨みつけてくる天使を凝視し、遺跡の中に突っ込んでいく。

 エネルが激突した瞬間、衝撃で遺跡全体が震え、無数の破片が辺りに散らばった。

 

「…そんな…ゴロゴロの実の………自然系(ロギア)の能力者を素手で殴った…!!?」

「………!!! なんつー怪力してやがる…!!!」

 

 ビリビリと地震のように震える足場に、ロビンとゾロが戦慄の表情を向ける。たった一撃の見せた威力に、その力の凄まじさを感じて言葉が出なくなる。

 だが突如、エインシェンの振るった腕に裂け目が生じ、夥しい量の鮮血が噴き出した。

 

「何だ…⁉︎ どうした⁉︎」

「…やはり全力での戦闘には耐えられんか、情けない…‼︎」

 

 どくどくと溢れる血を押さえ、エインシェンが忌々し気に自身の身体を見下ろす。真っ赤に濡れた腕は、まるで凍えているかのようにぶるぶると痙攣を繰り返している。

 その様に、唖然としていたエネルの顔が、またしても嗜虐的なものに戻った。

 

「ヤハハハ……驚いたぞ。まさか私に傷をつける者がいようとは…‼︎ だが…それなりのリスクがあるようだな………」

「この程度がリスクになるものか……確かに私がこれ以上力を振るえば、この器は容易く壊れよう…だがな」

 

 嘲笑を向けるエネルに、エインシェンはにやりと不敵に笑みを返す。見ているだけで痛々しい、血が滴る腕の震えを無理矢理に抑え、再びエネルに拳を構えた。

 

「それより先に貴様を潰せば済む話だ!!!」

 

 ずしん、と地面にヒビが入るほどに踏みしめ、自身を固定する。

 先ほどとは異なり、今度は警戒するように黄金の棒を構えるエネルに狙いを定め、エインシェンはその場で強烈な正拳突きを放った。

 

三星の狩人(グリーク・トライスター)〟!!!!

 

 大気が尋常でない威力で叩き出され、まるで砲弾の様にエネルに向かって飛ぶ。

 しかしそれは、エネルが寸前で雷に変化し移動したことにより、誰にも当たらず遺跡を破壊するだけで、不発に終わってしまう。

 

「ぐぬぅ…!!!」

 

 さらなる傷を負ったエインシェンが、ビキビキとこめかみに血管を浮き立たせて呻く。

 それを押し殺し、すぐさま第二射を放とうとした天使の目前に、不気味に嗤うエネルが立ちはだかった。

 

「〝5000万V〟…」

 

 ドンッ、とエインシェンの胸に、エネルの掌が押し付けられる。

 すぐさま押し退け、離れようとした刹那、エネルの全身が強く放電し、彼の手から雷が迸った。

 

雷象(インドラ)〟!!!!

 

 焦りに目を見開いたエインシェンの胸を、凄まじい量の雷が突き破り背中まで貫く。

 象の姿を模って雷が飛び出し、エインシェンは黒煙を噴き上げさせ、仰向けに倒れてしまった。

 

「ヤハハハ…さすがに驚かされた。だが……それだけだ。〝神〟に敵う道理などなし……これで5人だ」

 

 殴られ、赤く染まった頬を殴り、若干の冷や汗を見せたエネルが、安堵した様子を見せながら呟く。

 気を取り直すように、動けずにいたゾロ、ナミ、ロビン、ワイパーに向けて大きく手を広げ、声を張り上げた。

 

「ヤハハハ、よくぞ生き残った‼︎ これから私が旅立つ夢の世界〝限りない大地〟へ、お前達を連れて行こうじゃあないか!!!」

 

 突如提示された、戯言としか思えないエネルの誘い。

 当然頷く筈もなく、胡乱気な表情となったゾロがエネルを睨みつけた。

 

「…何だと」

「私はこれより、そこに紛れもない〝神の国〟を建設しようというのだ。その地に住めるのは選ばれた人間のみ!!! こんな数時間のサバイバルにも耐えきれない今までの部下共では、居て貰っても国のレベルを下げるだけなのだよ!!!」

 

 ゾロたちの返事も聞かないまま、エネルは自分の理想に寄ったまま、雄弁に語り続ける。

 冷ややかな、しかし警戒をさいだ現に混ぜた視線が向けられる中、比較的冷静なロビンが、いつもと変わらない調子で口を開いた。

 

「それをもし断ったら…………?」

「断る……? なぜだ、私の決定だぞ。ここに居れば、この国と共に奈落の底へ落ちてしまうのだ」

「確かに…あなたの能力なら、それもできるのでしょうけど、むやみにこの国を破壊してはあなたの欲しがる物も落としてしまうのでは?」

「…………〝黄金の鐘〟か…」

 

 ロビンの問いに、エネルはスッと目を細めて黙る。

 何故だか、その沈黙にいやな予感を覚え、ロビンのこめかみを一筋の汗が伝っていく。何かを、見透かされている気がした。

 

「心配に及ばん、すでに目安はついている…お前のとった行動を思い返せば、考えられる場所は一つ。………きっとお前と同じ場所を、私は思い描いている…………‼︎」

 

 ロビンの目が、驚愕と焦りで大きく見開かれる。

 彼女の態度が変化したことに、エネルはにやりと意味深に笑みを浮かべる。

 

「…………意外そうだな。――その条件を使えば、うまくおれを出し抜けるとでも考えたか? おれを甘く見るな………‼︎ ………浅はかなり!!!」

 

 ハッと我に返り、ロビンが能力を使おうと手を交差させる――その寸前で、エネルはロビンの目の前に移動していた。

 

「ロビン!!!!」

「おれは打算的な女が嫌いでね」

 

 息を呑み、硬直するロビンに、エネルが人差し指を突き出す。

 彼の手から雷が一直線に放たれ、ロビンの胸を貫く。ナミが悲鳴を上げ、顔色を変えたゾロがすぐさま倒れ込むロビンを受け止め、鋭く睨み上げた。

 

「女だぞ」

「……………見ればわかる」

 

 小馬鹿にした、どうでもよさそうな態度に、ゾロの中で何かが切れる。

 激情のまま刀を抜き、棒立ちのエネルに斬りかかるも、エネルは黄金の棒を振り回し、首を狙ったその斬撃を容易く受け止める。

 

「…んん…いい腕だ」

「イカレてんのかてめェは!!!」

「〝燃焼砲〟!!!」

 

 効いていない事を理解しながらも、ゾロは立ち向かうことを止められない。

 ゾロがもう一本の刃も抜き、再び切りかかろうとした時、ワイパーが持つバズーカが火を噴いた。

 

「〝電光(カリ)〟!!!」

 

 だが、爆炎の砲撃が炸裂する寸前で、エネルが轟音とともに雷を放つ。

 大木を貫く威力を誇るはずの一発が、たやすく掻き消されてしまう光景に、砲撃を放ったワイパーが絶句する。

 

「…まだわからんか。お前達の扱えるエネルギーなど、私にとっては無に等しいのだ!!!」

 

 圧倒的な力、人が抗っても何の意味も持たない力を見せつけているのに、一向に膝をつかない戦士達に、エネルは心底呆れた様子を見せる。

 唯一恐怖で固まっているのは、ナミ一人だけだった。

 

「やれやれ…………これから共に〝限りない大地〟に旅立とうと言うのに…何もそう殺気立つ事もあるまい……」

「誰がそこへついていくって言ったんだ⁉︎」

 

 以下に凄まじい力があろうとも、そして自身らの攻撃が通らなくても、それで屈する理由にはならないと、ゾロがまた突っ込んでいく。

 

「お前の言う〝夢の世界〟にも興味はねェしな!!!」

「ダメよゾロ!!! 相手が悪すぎる!!!」

「体に教えねばわからんのだろう…〝神の定義〟…………!!!」

 

 ゾロの振るう刃が、エネルの身体を両断する。

 だが、雷そのものである体は、一度霧散するだけで、しばらくすると元の形に戻っていく。棒で受け止める事さえ、彼にとっては戯れでしかないのだ。

 

「お前達がどう足掻こうと太刀打ちできない圧倒的な力……そこで覚える〝絶望〟」

 

 不意に、ゾロの両手の刀をエネルが掴む。

 武器と言えど、金属には違いない刃に、エネルから発せられた電流が伝わり、ゾロの全身に襲い掛かった。

 

「全ての希望が絶たれる事は、〝死〟に同じ……」

「く……うあァ!!!!」

「ゾロ!!!」

「人にとって…死は最大の〝恐怖〟!!! だから人は地に顔をうずめ、神に慈悲を乞う‼︎」

 

 黒煙を上げて膝をつくゾロの頭を、エネルが異様な力で踏み潰す。まるで万力で頭を潰されているかのような重さに、傷付いたゾロは起き上がる事ができない。

 

「仕方のない事さ、生物は恐怖の前にひれ伏すようにできている。本能というものだ」

 

 ピクリ、とゾロを踏み潰すエネルのこめかみが震える。

 振り向いたエネルの顔面に向かって、大きく跳躍したエインシェンが左の拳を振りかぶる姿に、エネルの目が細められる。

 

「小童ァ〜〜〜〜!!!」

「それに従わぬ亡霊は、とっとと消えろ」

 

 漆黒の拳が炸裂する直前、エネルの雷化した腕が、エインシェンの心臓に突き刺さる。

 肉体を貫いた腕は、爆発のような膨大な放電を始め、エインシェンの身体ががくがくと痙攣した。

 

「エレノアァ!!!」

 

 仲間に襲い掛かる、余りにも残酷な責め苦に、ナミが泣きそうな声で叫ぶ。

 腕を抜き取られたエインシェンは膝をつき、それでも意識を保ったまま、地面に手をついて項垂れる。

 その様を、エネルは実に愉快そうに見下ろしていた。

 

「ヤハハハ…意識を保っているのはスゴイが、もはや立つこともままならんようだな‼︎ ただの人がよくぞここまで見苦しくあがいた!!!」

「………!!!」

「だがもう終わりだ…いい加減消えろ」

 

 歯を食い縛るエインシェンに、エネルが再び手を向ける。

 だが、その手がエインシェンの頭部に触れようとした直前、バズーカを捨てたワイパーがエネルに組み付いた。

 

「何のつもりだ………自ら殺されに………………?」

 

 足を腰に回し、自分にしがみつくワイパーに、エネルは訝しげな目を向ける。

 しかしそこで、エネルの表情が固まる。突如、自身の身体から力が抜け、立つことも苦しくなってきたのだ。

 

「何だ…」

「〝海楼石〟ってモンを知ってるか、エネル!!!」

 

 告げられたその物質の名に、エネルはハッと目を見開く。

 海の力を持ち、能力者を完全に無効化させてしまう謎多き物質が、自分の腰に触れているシューターに仕込まれていると聞かされては、慌てざるを得ない。

 途端に態度を変え、慌て始めるエネルを見上げ、エインシェンが不敵な笑みをこぼした。

 

「……いけ、カルガラの子よ」

「くたばれ‼︎〝排撃〟!!!!

 

 ドンッ!と、自らをも殺しかねない一撃が、再びワイパーの手によって放たれる。

 心臓部分に正確に炸裂したその一撃により、エネルは大量の血を吐き散らし、どさっと仰向けに倒れた。

 

「まさか………倒したの………⁉︎」

 

 しんと静まり返った戦場で、ナミが恐る恐ると言った様子で尋ねる。

 利き腕を押さえ、膝をついたワイパーに、エインシェンが肩を揺らして声を漏らす。

 

「にははは………やってくれたな、カルガラの子よ…」

「ロビン……‼︎ エレノア…変な騎士………‼︎」

 

 ようやく、本当に片が付いたのだと安心し、倒れた仲間の元へ向かおうと歩み寄ってくるナミ。

 

 だが、その安堵は長くは続かなかった。

 倒れたエネルに向けて、突然巨大な雷が降り注いできたからだ。

 

「……え?」

「…まさか自分の心臓をマッサージして…」

 

 ドクン、どくんと、倒れたエネルの身体から、止まっていたはずの脈動が再開する音が聞こえる。

 やがて、エネルは何事も無かったかのように起き上がり、ぐいっと口元に付いた血を拭い取ってみせた。

 

「――人は…〝神〟を恐れるのではない…〝恐怖〟こそが〝神〟なのだ」




もし、今話の間にエレノアに意識があったら〜
「フギャアアアア!!! 腕っ…腕ェェ〜〜〜!!! 私の腕が裂け………割れたァ〜〜!!!! 風船っ!!! 風船みたいにパァンってェ!!! 人の体で何してくれてんのこの人ォ〜〜〜〜!!??」
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