ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第14話〝嘘つきの誇り〟

「………まさか、彼がヤソップの息子だったとはね。驚いたよ」

「おれもだよ。あいつと顔そっくりだったし、なんか懐かしい感じがしてたからさ。さっきはっきり思い出した」

「私も…いつも聞かされてたんだよねェ」

 

 ルフィと並んで歩きながら、エレノアは感慨深げにため息をつく。

 今はルフィの恩人の海賊、〝赤髪〟のシャンクスの船員(クルー)をやっているはずのヤソップ。その息子と偶然会えたなど、驚くほかになかった。

 

「『悲しい別れだったが仕方がなかった。理由は一つ、海賊旗がおれを呼んでいたからだ』‼ って、いっつも言ってた」

「ああ! ヤソップは立派な海賊だった‼」

「…それ、あいつに聞かせてやったら?」

「お! そうだな‼ 行ってくる!」

 

 エレノアの提案を即座に採用し、ルフィは風のように走り去っていく。

 行動の早い自由な船長を見送ると、エレノアはやれやれと言った様子で肩をすくめた。

 

「………さて」

 

 気になるのは、何やら辛い過去を持っている様子のロゼと、それに付け込んで何か企んでいる様子のコーネロ医師。

 ずいぶんあの医者を信頼しているようだったが、エレノアにはどうにも得体が知れない男のように感じた。

 

「あのヤブ医者…何か怪しいことやってそうなんだよなァ…。ほっとくのも後味悪いし…どうすっかなァ…」

 

 介入するべきか、放置するべきか。

 海賊である自分が割って入ったところでどうなるかなど目に見えている気もするが、何もしないというのも後味悪い気がした。

 

 ―――それで…計画の準備はできてるんだろうな。

 

「ん?」

 

 ふいに聞こえてきた、聞き覚えのある〝声〟に足を止める。

 場所はそう遠くない、船とは反対の海岸の方からだ。

 

 ―――いつでもイケるぜ。

   〝お嬢様暗殺計画〟

 

「…………場所は、こっちの方か」

 

 さすがにそこまで物騒な話を聞かされてしまっては、放置するという選択肢を取る気にはなれなかった。

 

 

「しかし、あんときゃびびったぜ。あんた()が急に海賊をやめると言い出した時だ。あっという間に部下を自分の身代わりに仕立て上げ、世間的(・・・)にキャプテン・クロは処刑された‼ そして、この村で突然船を下りて、3年後にこの村へまた静かに上陸しろときたもんだ」

 

 海岸で、サングラスにハットという変わった格好の男・ジャンゴが会話の相手にそう言う。

 その相手は何と、カヤの執事であるはずのクラハドール――いや、真の名をクロという、計画された略奪を行うことで有名だった海賊だった。

 

「それで、おれへの莫大な遺産の相続は成立する。ごく自然にだ。おれは3年という月日をかけてまわりの人間から信頼を得て、そんな遺書が残っていてもおかしくない状況を作り上げた‼」

「………そのために3年も執事をね。あいつ(・・・)も大概だが、おれなら一気に襲って奪って終わりだがな」

「…それじゃ野蛮な海賊に逆戻りだ。金は手に入るが政府に追われ続ける。おれはただ、政府に追われる事なく大金を手にしたい、つまりは平和主義者なのさ」

「ハハハハ。とんだ平和主義者がいたもんだぜ。てめェの平和のために金持ちの一家が皆殺しにされるんだからな」

「おいおい皆殺しとは何だ。カヤの両親はおれの仕業じゃねェぞ。あれはあいつの(・・・)…」

 

 続々と恐ろしい計画の内容が出てくるが、そこへもう一つの足音が近づいてきて二人の声が止まった。

 

「お呼びでしたかな?」

「! おっと…噂をすればなんとやらだ」

 

 ジャンゴは新たな参加者を面白げに出迎え、笑い声をこぼす。

 岩場の陰から姿を現した大柄な男は、にやりといやらしい笑みを浮かべていた。

 

「どうだいお医者様よ。金持ち夫婦や善良な市民を毒殺しておきながら、村の全員に慕われている気分ってのは?」

「そうだな……一言でいうなら、〝反吐が出る〟といったところかね」

 

 ロゼやクラハドールに向けていたものとは全く異なる、残虐性がにじみ出た不気味な笑みを浮かべたコーネロがそう言う。

 

「あやつらはみな、この私を立派な医者だと信じきっているからなァ…おまけに、中には『死者をも蘇らせられる』という噂まで信じている者もいる…まったく滑稽な話だ」

「その噂の大本が何言ってやがんだか…で? ほんとにできんのかよ」

「無論そんな神の所業ができるはずもない…だが、この石があればいずれそれも可能となるやもしれん。そんな面倒なことをするつもりはないがな」

 

 コーネロはそう言うと、自分の指にはめている紅い宝石が付いた指輪を撫でる。

 ルビーとは違う、濁った血のような輝きを放つそれは、得体のしれない不気味さを感じさせるものだった。

 

「伝説の中だけの代物とさえよばれる幻の術法増幅器…〝賢者の石〟‼ 我々錬金術師がこれを使えばわずかな代価で莫大な錬成を行える…‼ おかげで私はずいぶんと儲けさせてもらったよ‼」

「見た感じ、ただの濁った宝石にしか見えねェがな…そんなすげェもんなのか?」

「手に入れるのにずいぶんと苦労したがな…だが、それに見合う結果は確かに得られた」

 

 クロがそうつぶやき、コーネロの持つ指輪をじっと見つめる。

 こちらもまた、主に向けていたものからは考えられないほど心の醜さが表れた笑みが浮かんでいた。

 

「死者をも復活させられるという医者だ…その名は馬鹿にはできんだろうな」

「お前たちとは一度袂をわかったが、感謝はしているぞ。どんな難病であっても、死を目前にしていようと恐れることはない‼ 噂が噂を呼び、よその島からも私を頼る患者が誘い込まれ、私のもとにはがっぽがっぽと金も名誉も舞い込んでくるのだからなァ!!!」

 

 こらえきれなくなったように、コーネロは欲望に満ちた哄笑を上げる。

 ジャンゴは難しい話はよくわからん、といったふうに肩をすくめ、クロに視線を戻した。

 

「まァいい…そんな事はいい…とにかくさっさと合図を出してくれ。おれ達の船が近くの沖に停泊してから、もう一週間になる。いい加減野郎どものシビレが切れる頃だ」

 

 平和な島に、悪意の嵐が訪れようとしていた。

 

 

「……最悪。イヤな話きいちゃったなぁ」

 

 一部始終を聞いたエレノアは心底面倒くさそうに吐き捨て、がっくりと項垂れる。

 あの時感じたいやな感じはコーネロの悪意だけではない。あの紅い宝石――賢者の石の気配でもあったのだ。

 それを聞いてしまったあとでは、錬金術師として見逃すことはできなかった。

 

「しょーがない、とりあえずルフィ回収すっかな」

 

 崖の上で聞いていた船長がなぜか下に落ちているらしい。

 とりあえずはクロたちがいなくなるまで待たねばなるまいと、その場に腰を下ろして空を見上げるのだった。

 

 

「え―――――――――っ!!!」

「カヤさんが殺される⁉」

「村も襲われるって本当なの⁉ 麦わらの兄ちゃん‼ フードの姉ちゃん‼」

「ああ、そう言ってた。間違いねェ‼」

「…それでなんで、お前はここで寝てたんだよ」

「それがなー、おれは崖の上にいたと思うんだよなー」

 

 ゾロの指摘に不思議そうにルフィは首をかしげる。

 執事と医者の他にいた、もう一人の男が何かしてきたと思ったらいきなり強烈な眠気に襲われたのだ。

 何が起きたのか不思議でならなかった。

 

「ま、先に情報が入ったならよかったけどね」

「そうね。逃げれば済むもの、敵もマヌケよね!」

「そうか! それもそうだ! じゃ、おれ達も早く逃げなきゃ‼」

「そうだ‼ 大事なもの全部整理して‼」

「…貯金箱とおやつと…‼ 船の模型とそれから…‼」

「急げっ‼」

「やばいっ‼ 食料、早く買い込まねェと肉屋も逃げちまう‼」

「どうでもいいわ‼」

 

 慌てて自宅に向かうウソップ海賊団に交じり、走り出そうとするルフィの頭をはたきながら、エレノアは漠然とした嫌な予感に眉を寄せていた。

 

 

 数分後、エレノアたちが村の方に向かおうとしていた時。

 ピーマンが道の向こう側からとぼとぼと歩いてくる青年の姿に気づいた。

 

「あ‼ キャプテン!!!」

「…よお‼ お前らか! ってお前っ‼ 生きてたのか‼」

「生きてた? ああ、さっき起きたんだ」

「このアホ、ずっと寝てたのよ」

「そんな事よりキャプテン‼ 話は聞きましたよ‼ 海賊達のこと早く、みんなに話さなきゃ‼」

 

 せかすピーマンだったが、ウソップの反応はどこか鈍い。

 なぜかためらっている様子の彼は、やがて背をのけぞらせるほどの笑い声をあげた。

 

「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは‼ いつものウソに決まってんだろ‼ あの執事のやろうムカついたんで、海賊に仕立ててやろうと思ったんだ‼」

 

 その発言に、ウソップ海賊団だけではなくエレノアたちも目を見開く。

 どう考えても、それはウソだった。しかしウソップは、そちらが真実であるかのようにふるまっていた。

 

「え――っ‼ うそだったんですか⁉」

「な――んだ、せっかく大事件だと思ったのに」

「くっそー、兄ちゃんも姉ちゃんもキャプテンのさしがねか‼」

 

 悔し気にルフィとエレノアを睨む面々だったが、当然二人にそんな覚えはない。

 首をかしげる二人をよそに、ウソップ海賊団の少年たちは冷めた目でウソップを見やっていた。

 

「………でも、おれちょっとキャプテンをけいべつするよ」

「おれもけいべつする‼」

「ぼくもだ! いくらあの執事がやな奴でも、キャプテンは人を傷つける様なウソ、絶対つかない男だと思ってた…!」

 

 彼らなりの信念に反している今回のウソは気に入らなかったらしく、少年たちはウソップを避けるようにして家路につく。

 遠く離れていく少年たちの背中を、ウソップは思い詰めるような表情で見送っていた。

 

 

 その夜、クロとジャンゴ、コーネロが会話していた海岸でウソップはルフィたちを前に本当の思いを吐き出していた。

 

「おれはウソつきだからよ。ハナっから信じてもらえるわけなかったんだ。おれが甘かった‼」

「信じるも信じないも、甘い甘くないも事実は事実。黒猫海賊団はこの村に襲い掛かるよ」

「ああ、間違いなくやってくる。でも、みんなはウソだと思ってる‼ 明日も、またいつも通り平和な一日が来ると思ってる………‼ だから、おれはこの海岸で海賊どもを迎え撃ち!!! この一件をウソにする!!!! それがウソつきとして‼ おれの通すべき筋ってもんだ!!!!」

 

 決意の表情で立ち上がり、ウソップはルフィたちに宣言する。

 包帯の巻かれた左腕を握りながら、ウソップはあふれ出す思いをぽろぽろと口にしていった。

 

「エレノア………お前の言う通りだよ‼ ついたウソは、貫かなくちゃなァ……‼ 腕に銃弾ぶち込まれようともよ…ホウキ持って追いかけ回されようともよ…‼ ここは、おれの育った村だ‼」

 

 痛む胸を押さえながら語られる真剣な思いを、エレノアは黙って受け止める。

 無謀でも無茶でも、彼の意思は本物だった。

 

「おれはこの村が大好きだ!!! みんなを守りたい……!!! こんな…わけもわからねェうちに…‼ みんなを殺されてたまるかよ……!!!」

「とんだお人好しだぜ。子分までつき離して一人出陣とは…‼」

「でも…そんなお人好しは大好きだよ」

 

 青年の願いに、若き海賊たちは動いた。

 拳を鳴らし、剣を差し、屈伸をして各々で構え始める。

 

「よし、おれ達も加勢する」

「言っとくけど、宝は全部私のものよ!」

 

 思わぬ言葉を聞き、ウソップはあっけにとられた様子で顔を上げた。

 ただ自分の覚悟を聞き届けてほしくて口を開いたつもりだったのに、なぜ一緒に命をかけてくれるなどと言ってくれるのか全く分からなかった。

 

「え…お前ら……一緒に戦ってくれるのか……⁉ な…何で…」

「だって、敵は大勢いるんだろ?」

「怖ェって顔に書いてあるぜ」

「お‼ おれが怖がってるだと⁉ バカいえ‼ 大勢だろうと何だろうとおれは平気だ!!! なぜなら、おれは勇敢なる海の戦士キャプテン・ウソップだからだ!!!」

「キャプテン、足」

「あっ‼」

 

 エレノアの指摘に、ウソップは必死に震える自分の足をたたく。

 それでも止まらない震えに情けない気持ちになりながら、ウソップは虚勢の鎧を引きはがしてしまった。

 

「……‼ くく……くそっ‼ 見世物じゃねェぞ‼ 相手はキャプテン・クロの海賊団、怖ェもんは怖ェんだ!!! それがどうした‼ おれは同情なら…」

「同情や慰めがあんたへの侮辱なんてわかってるよ」

 

 ウソップと視線を合わせ、エレノアはフンと鼻で笑う。

 そんな安い理由で戦うつもりなど微塵もない、単純に自分の利害が一致したというものもあるが、男を見せようとしている者を放っておけないだけだ。

 

「笑ってやしねェよ。立派だと思うから手を貸すんだ」

「同情なんかで命懸けるか!」

「…お…お前ら………‼」

 

 感極まり、涙を流す青年に、エレノアはフードの下で優しく笑いかけた。

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