ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第155話〝敵はもういない〟

「――よし、こっちはなんとか終わった」

 

 ふぅ、と汗を拭うチョッパーの見下ろす先で、エレノアが寝息を立てる。

 血塗れであちこち骨折し、火傷だらけだった身体にはきっちりと包帯が巻かれ、痛々しさが軽減されている。

 呼吸も穏やかで、一安心した一味全員がほっと息をついていた。

 

「こんだけボロボロになってんのに………ホントに丈夫だな、天族ってのは」

「傷痕は残りそうだけどね。無茶するんだから…」

「しばらくは目ェさまさないだろうな、ゆっくり寝かせてやろう」

「そうね」

 

 バクバクと、共に見つけてきた食糧を食いまくるルフィも、眠ったままのエレノアをじっと見つめて頷く。

 あらかた食い終えてから、ルフィたちは満足げに息をつき、互いに目を合わせあった。

 

「ふ――…食った食った」

「すっかり夜だな」

「どうする? 船に戻る」

 

 腹を摩り、夜空を見上げるルフィたちにナミが尋ねる。

 が、それを聞いたルフィとウソップは呆れたような半目になり、やれやれと肩を竦め始めた。

 

「ナミ、お前何言ってんだ?」

「どうしたの?」

「ウソップ、あんな事言ってるぞ」

「人間失格だな…」

「何なのよっ‼︎」

 

 意味深に馬鹿にされ、苛立つナミ。あれだけ大騒ぎがあった後なのだから、休むのが当然なのではないのかと怒りをあらわにする。

 ルフィ達はそれを真っ向から否定し、ある事を実行に移すのだった。

 

 

 

「ここは―――?」

 

 全身を襲う鈍痛に顔をしかめ、ワイパーが目を覚ます。

 辺りを見渡せば、同じように怪我を負った者達が寝具に横たわり、治療を受けている光景が目に映る。

 そしてすぐ近くには、ガン・フォールの姿もあった。

 

「シャンドラの遺跡内である」

「ガン・フォール…貴様‼︎〝空の者〟………‼︎」

「あっ、まだ動いちゃ………」

 

 思わず声を荒げ、飛び掛かりそうになるワイパーだが、傷の為かほとんど動く事ができない。

 そのうえ治療に当たっていたコニスにも止められ、渋々寝具に戻らざるを得なかった。

 

「安静にしていろ。戦いの負傷者に区別はない」

「酋長…‼︎ …黄金の鐘は…⁉︎おれ達にはまだ、アレを守り抜く使命が…」

「急ぐなワイパー…少し成り行きを待て…」

 

 諭すように語りかける酋長に、ワイパーがまた声を上げるも、彼はそれを冷静に宥める。

 まるで、喧嘩を終えて怪我をした悪ガキを窘めるように。

 

「遠い過去に、例えどんな壮絶な戦いの理由があったとして――――今生きる我々にはこの空が故郷…」

「酋長」

「聞け…ワイパー、少なくとも大地は、何者をも拒んではいない」

「………そうだとも」

 

 同意の頷きを見せるガン・フォールに応じるように、酋長は背を向けて歩き出す。

 進んだ先にある垂れ幕、それを大きく開き、その先にある光景を、戦いを終えた戦士達全員に見えるように晒してみせた。

 

「少なくとも………‼︎ 人々は今、誰一人、戦いなど望んではいない」

 

 そこで開かれていた饗宴に、ワイパーはひたすらに圧倒される。

 空の者も、シャンディアも、青海人も、大蛇も、挙句の果てに雲ウルフ達まで一緒になって、大きな炎を囲んで騒ぎまくっている。

 酒を躱し、美食を躱し、歌と踊りを躱し、いがみ合っていた全ての者達が満面の笑顔を浮かべている。

 

 その中心にいたのは、あの麦わら帽子の青海人だった。

 

「宴だ〜〜!!!」

 

 心の底から楽しむ、歓喜の声に、ワイパーは呆れて笑いしか出てこない。

 いつしかガン・フォールや酋長まで一緒になって大笑いする始末。

 

 そんな騒がしく、明るい宴の中。

 深い眠りにつく天使の少女が、フッと小さな笑みを浮かべるのだった。

 

 

「本当だ…‼︎ 本当にあったぞ!!! あの人の言った通りだ!!!」

 

 昼夜問わず続けられた宴の後、参加した誰もが力尽き、眠りこけていた翌朝の事。ある知らせを受けたシャンディアの者達が大声を上げ、続々と集まっていた。

 その目的は、失われたと思われた秘宝を引き揚げる事だ。

 

「おい‼︎ 力がある奴をもっと呼んで来い!!!」

 

 起きる気力もないほどに疲れ切っていた者、そして傷付いていた者達だが、かの鐘楼が戻って来るという想いで体を叱咤する。

 そのうち、空の民までもが笑顔で手助けに入り、鐘楼を引く人数はとんでもない数になっていった。

 

「おっしゃ…‼︎ おれも手ェ貸すか‼︎」

「感謝するぞ、青海のあんた!!!」

「お礼ならあの人………真祖様に。場所を知っていたのは彼女よ」

 

 アーレンも腕まくりをしながら向かい、シャンディアの一人が情報を齎してくれたロビンに感謝を述べる。

 それを軽く受け流しつつ、ロビンはやや険しい表情を浮かべていた。

 

 ―――求めなければ見つかる事のない石〝歴史の本文〟…。

    ここで…諦めがつくと思ったのに…。

 

 彼女が求める過去の遺物、それに刻まれた真実。

 果たしてそこにあるものは自分の求めるものなのか、と愁いを見せ、ロビンは戦士達の後を追いかけた。

 

 

 

「見るからに誇らしい………‼︎」

「だが、横の柱が一本折れてしまったな」

 

 数時間をかけ、巨大豆蔓の上から引き揚げ、大地に戻した黄金の大鐘楼。

 ただ美しさに圧倒される空の民とは逆に、シャンディアの戦士達は神妙な様子で、その神々しい姿を凝視していた。

 

「ほら、ここを見ろ。これが〝歴史の本文〟…」

「我らの先祖が…都市の、命をかけて守り抜いた石…‼︎」

 

 台座にあるのが、アラバスタのように青海で度々見つかる〝歴史の本文〟。

 今の世に読める者は一人もいない、いてはならないという古代の失われた文字が掘られたそれを、戦士達は息を呑みながら見つめる。

 好奇心に駆られたのか、戦士の一人が酋長に振り向いた。

 

「一体何が書かれているんです、酋長…」

「知らずともよい事だ…………我らはただ―――」

 

 酋長が若者の問いを一蹴しようとした時。

 まるで謳うように、その場を訪れた美女がある一文を読み上げてみせた。

 

「『真意を心に口を閉ざせ。我らは歴史を紡ぐ者、大鐘楼の響きと共に』」

 

 ギョッと目を見開き、酋長は声がした方へ振り向く。

 同じく戦士達も、じっと真剣な眼差しを鐘楼に、古代の遺失物に向けるロビンを凝視し、言葉を失くして立ち尽くす。

 

「おぬし…なぜその言葉を」

「シャンドラの遺跡に…そう刻んであったわ。あなた達が代々これを守る〝番人〟ね」

「まさか…読めるのか⁉︎ その文字が……!!!」

 

 酋長の問いに答えることなく、ロビンは鐘楼の文字に向かって近づく。

 空の民は何のことかと言った風な様子で、戦士達はごくりと息を呑み、文字に目を通す美女を凝視する。

 やがてロビンは、刻まれた長い一文を解読し、内容を語った。

 

「神の名を持つ〝古代兵器〟、『ポセイドン』…そのありか」

 

 ざわっ…!と場が騒然となり、戦士達は互いに顔を見合わせる。

 何故、古代兵器などと言う物騒なものが、大切なものとして刻まれ、守るよう言い聞かされてきたのかと。誰もが戸惑い、狼狽える。

 ロビンも、自分が求めた一文ではない事に落胆し、その場を離れようとした。

 

 だがそんな彼女を、鐘楼の一部を見つめてしゃがみこんだアーレンが呼び止めた。

 

「…おい嬢ちゃん、ここに彫ってあるのってよォ……」

「え?」

 

 老人が指さす物に、ロビンがすぐに踵を返し、一文に目を通す。

 そして驚愕で目を見開き、思わず数歩後退ってしまった。

 

『我らここに至りこの文を最果てへと導く

海賊ゴール・D・ロジャー』

 

 ロビンが読み上げた文章に、アーレンも同じく尻餅をつき、後退る。

 空島に来て数年、しかしそんな稀有な状況にあろうとも忘れたことがない、大犯罪者の名前がそこに刻まれていたのだから。

 

「〝海賊王〟じゃねェか…!!? ―――まさか、この空島に来ていたのか⁉︎」

「なぜこの文字を扱えるの………!!?」

 

 置いてけぼりにされている空の住民達をよそに、ロビンとアーレンは確かに刻まれた一文をこれでもかと凝視し、息を呑む。

 すると、様子を一変させた二人を見ていたガン・フォールが、訝し気に問いかける。

 

「………ロジャーと書いてあるのか?」

「知ってるの?」

「あ。そういやァ…昔、海賊のダチがいるっつってたな。それがか…‼︎」

「20年以上前になるが、この空にやってきた青海の海賊である。その名が刻んであるのか」

 

 当時のことを思い返しているのか、遠い目になったガン・フォールが虚空を見つめてこたえる。

 しばらく黙り込み、考えていた様子のロビンは、しばらくするとハッとした様子で目を見開いた。

 

「…………そういえば〝歴史の本文〟には2種類の石がある。〝情報を持つ石〟と…〝その石のありかを示す石〟……………まさか…〝真の歴史の本文(リオ・ポーネグリフ)〟とは…………!!!」

 

 何かに思い至った様子のロビンに、アーレンは困惑気味に視線を向ける。

 ロビンは彼に構わず、沈黙したままの酋長に向き直り話し始めた。

 

「酋長さん、この〝歴史の本文〟は、もう――役目を果たしているわ」

「…………役目を?」

「そう…」

 

 ロビンは語る。〝歴史の本文〟とは、その一部はつなげて読むことで、初めて意味を成す仕様になっているのだと。

 そうしてできる文章こそが、『空白の歴史』を埋める真の歴史を示すのだと。

 

「――だから、もう…」

「では…」

 

 この石の役目は終わっている、そう告げようとしたロビンの目の前で、酋長は突如膝をつく。

 ボロボロと涙を流し、安心しきった表情で、ロビンの告げた事実を受け止めていた。

 

「我々は…もう…戦わなくていいのか…? そうか…先祖の願いは…………‼︎ 果たされたんだな……!!?」

「ええ…」

 

 シャンディアの戦士達が心配そうに駆け寄る、歓喜を見せる酋長を見やり、ロビンはまた沈黙し立ち尽くす。

 ある人物の最期の一言が、脳裏に過ったからだ。

 

『君が〝真の歴史〟を望むのなら……君もまた、繋がなければならない』

 

 過去の天族の一人、かつてノーランドに付き従った女の告げた言葉の意味は、こういう意味だったのだ。

 そして彼女が伝えようとした遺志についても、ロビンは険しい表情で考え出す。

 

 ―――つまり私も、今までに読んだ〝歴史の本文〟の文章を…導かなければならない…。

   〝偉大なる航路〟の最果て―――『ラフテル』へ‼︎

 

 より一層、海賊王を目指すあの青年の旅についていく理由ができた。

 そう決意を新たにするロビンの元に、ようやく落ち着いたらしい酋長が笑顔と共に話しかけた。

 

「時に娘…………あんた達オーゴンをほしがっていたな。青海では〝大地〟よりも価値があるのだと…この折れた鐘楼をどうだ。鐘の方はやれんが…」

「あァ、それはいい考えだ。もともとあんた達には何とかして礼をしなきゃならんのだから!」

「いいの? それはみんな喜ぶわ!」

 

 酋長の提案に、空の民全員が同意の声を上げる。

 しかしアーレンはそれに渋い顔をし、にこにこと笑うロビンに耳打ちを行う。

 

「おいおい…適当言いやがって。こんなん乗せたらあの船沈むぞ」

「フフ…!」

「いや、フフ! じゃなくてよ」

 

 いくらお礼であっても、こんなでかいものを贈られても困るだろうと伝えたいが、完全な善意であるために断りにくい。

 どうしたものかと頭をかくアーレンをよそに、ふとガン・フォールが不思議そうにロビンに声をかけた。

 

「女よ…――あの麦わらの小僧だが、かつてのロジャーと似た空気を感じてならぬ。我輩の………気のせいか…?」

 

 顎に手を当て、首を傾げて訝しむ彼に、ロビンは答える。

 青海にいまだ残る謎であり、大いなる真実につながるであろうその一欠片についてを。

 

「彼の名はモンキー・D・ルフィ。私も興味が尽きないわ」

「〝D〟? 成程、名が一文字似ておるな……‼︎」

「そう…それがきっと…歴史に関わる大問題なの」

 

 ただ面白い事を聞いたというように笑うガン・フォールとは真逆に、ロビンは意味深な微笑みを浮かべ、そう呟いた。

 

 

 

「おい見ろ、ロビンとおっさんだ!!!」

「お〜い‼︎ ロビ〜〜〜〜ン‼︎ 急げ急げ‼︎ 逃げるぞ、黄金奪ってきた」

「アホ‼︎ 言うな‼︎ 後ろ見ろよ、みんな一緒に帰ってきてる」

「コリャ一気に帰ってきたな」

「ヤベーー‼︎ 巨大大砲だ‼︎」

「ギャ〜〜〜‼︎ 大勢いるぞ!!!」

 

 鐘楼の柱をえっちらおっちらと運び、麦わらの一味の元に向かう空の住民達。

 すると遺跡に着いた時には、既に大荷物を抱えたルフィたちが慌てて駆け出そうとする姿が目に映った。

 

「何騒いでやがんだあいつら…」

「船に乗れ‼︎ もうここにはいられねェ‼︎ ほら見ろ大漁っ!!! 金持ちになった!!! 袋にパンッパン」

 

 眉間にしわを寄せるアーレンは、ルフィが担いでいる鞄の中から覗く黄金に目を見開く。

 あのひと袋だけでも、相当な額になる量である。いつの間にそんなものを手に入れていたのか。

 

「ん? おいまさかあいつら、もうここを出る気じゃ」

「おい待てお前ら!!! 待ってくれ‼︎」

 

 お礼として持ってきた巨大な黄金の柱を持ったまま、空の住民たちは思わず声を荒げる。

 そんな彼らに、ウソップがいきなり格好良くポーズをとり、声を張り上げた。

 

「待て待て待てと呼ぶがてめェら‼︎」

「おォ‼︎ 言ってやれウソップ‼︎」

「命を賭けて!!! はるばる来たこの空島の!!! 世に伝説〝黄金郷〟!!! 誇り高き海賊様がっ‼︎ 手ぶらでオチオチ帰れるかってんだァ‼︎」

「ロビンちゃ〜〜〜ん、急げ、捕まるぜ〜〜〜!!!」

 

 言うが早いか、ルフィたちは一目散に走りだし、ぽかんと呆ける住民達を置き去りにしてしまう。

 その光景に、ロビンもアーレンも思わず声を上げて嗤ってしまった。

 

「捕まるって何の話だ⁉︎ おれ達は礼を……」

「おいあんた達…⁉︎ このオーゴン受け取ってくれるんじゃ」

「ふふっ、いらないみたい」

「ガッハハハ‼︎ そりゃそうだ‼︎」

 

 その返答に、空の住民達は皆そりゃないよばかりに目を見開き、固まる。

 苦労してここまで運んできたのに、それ以上に何もお礼を受け取ってもらえないなど、彼らの誇りが許さなかった。

 

「逃げろ〜〜〜〜っ‼︎」

「「「「「待てェ〜〜‼︎」」」」」

 

 片や誰も取り戻す気のない黄金を背負って逃げ出し、片やお礼として受け取ってほしい巨大な黄金の塊を担ぎ、あとを追いかける。

 何ともおかしな大捕物が始まるのだった。

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