ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

16 / 324
第15話〝坂道〟

「この海岸から奴らは攻めてくる。だがここから村へ入るルートは、この坂道1本だけだ。あとは絶壁‼」

「つまり、この坂道を死守できれば、村が襲われることはない…と。よくできた島だね」

「そうか、簡単だな」

「口で言うのはな! あとは戦力次第…お前ら、何ができる?」

 

 前方に見える坂とそこから先で広がる海を前にし、ウソップが全員にそれぞれ確認する。

 規模もまだわからない海賊団と戦うには人数は今一つ不安だが、武器がそろっていればまだ希望はあるとウソップは考えていた。

 

「斬る」

「のびる」

「盗む」

「創る」

「隠れる」

「「「「お前は戦えよ‼」」」」

 

 しかし、この場では彼が最も非力かもしれないが。

 

 

 その数分後、作業を終えたウソップは額に流れる汗をぬぐい、その出来栄えに満足げに笑みを浮かべた。

 唯一村に通じる坂道、そこは一面大量の油に覆われており、てかてかとわずかな光も反射して輝いていた。

 

「よし、完璧だ‼ これでもう、奴らはこの坂道を登れない‼」

「こんな大量の油、どっから調達したのよ…?」

「奴らが、この坂でツルツル滑ってもがいてるスキにブチのめす作戦だ。とにかく何が何でもこの1本の坂道は守り抜く‼」

「逆に自分達が滑り落ちなきゃいいけどね」

「ま、それはそれぞれ気を付けるってことで」

「お前、よくこんなちょこざいな事思いつくなー」

「そりゃそうだ‼ おれはチョコザイさとパチンコの腕にかけては、絶対の自信を持ってる!!!」

 

 自信満々に、ウソップは作戦の成功を確信する。

 しかし、エレノアは何やらじっと海岸を見つめ、ふいっと坂に背を向けた。

 

「…ちょっと私お手洗いに行ってくるよ」

「あ、おれも便所」

「お前ら…もっとこう緊張感て物をだなァ」

 

 せっかく希望が見え始めたのに、その気分に水を差すなというようにウソップが抗議するが、エレノアもルフィも気にしない。

 催してしまったのだから仕方がない、そんな風に坂を上っていくと、エレノアはまっすぐ村の方に向かっていった。

 

「おい、エレノア? 便所じゃねェのか?」

「んー…ちょっとした保険かなァ?」

 

 あいまいに答え、エレノアは用を足しに行ったルフィといったん別れる。

 そしてエレノアが戻ってきたときには、東の空はすでに明るみ始めていた。

 

「おまたせー」

「遅いぞお前ら‼ 夜明けまでもう時間ねェぞ!!?」

「レディのお手洗いは長いのよ…仕方ないでしょ? むしろあんたも肝心な時に漏らしたりしないでよね」

「するかっ!!!」

 

 ナミの冷やかしにウソップが怒鳴って返し、エレノアは「そっちの方が緊張感ないでしょ…」と言わんばかりのジト目を向ける。

 ふと、その視界の端で光がさす。

 時間は、刻一刻と迫っていた。

 

「夜明けだ。来るぞ…」

 

 今、大切な場所を守るため、たった五人で一海賊団に挑む無謀な戦いが始まる――。

 

 

 

 ところがどっこい、明るくなっても何も来なかった。

 

「来ねェなァ…朝なのに……」

「寝坊でもしてんじゃねェのか?」

「そんなバカな…」

 

 誰かがこぼしたあほな予想にエレノアが呆れる。

 一方でエレノアは、自身のいやな予感が的中していたことに焦りを感じていた。

 ナミもまた、同じ予感を抱いていた。

 

「あのさ、気のせいかしら。北の方でオーッて声が聞こえるの……」

「北⁉」

 

 ナミの指摘に、ウソップは顔色を変える。

 予想外の事態に、ウソップの脳裏は真っ白になった。

 

「おい、どうした⁉」

「き…北にも上陸地点がある…‼ まさか…」

「海岸間違えたのか⁉ もしかして‼」

「だってよ、あいつらこの海岸で密会してたからてっきり‼」

「急ごう‼ 村に入っちまうぞ‼ どこだ、それ‼」

「忘れたの? 私たちの船があるところだよ‼」

「あっちか!!!」

「まずいっ‼ 船の宝が取られちゃうっ‼」

 

 自分たちの予想が大幅に外れたことで、一同は激しく狼狽する。

 若干一名別件で慌てていたが、ウソップはなるべく冷静になるように努めながら別の策を必死に考えた。

 

「ここからまっすぐ北へ向かって走れば3分でつく。地形は、こことほぼ変わらねェから、坂道でくい止められればいいんだが‼」

「20秒でそこ行くぞ!!!」

「ちっきしょおせっかくの油作戦が台なしだ‼」

「急げ!!!」

 

 一斉に走り出そうとした五人だったが、一人だけ遅れている者がいることにゾロとエレノアが気付いた。

 振り向けば、ナミが坂道でツルツルとこけそうになっていた。

 

「おいナミ‼ 何やってんだ」

「きゃあ助けて落ちるっ‼」

「あんた自分で落ちたらやばいって言ってたじゃないの!!?」

 

 まさか味方が仕掛けた罠に自分がはまるとはと、エレノアはナミに呆れた視線を向ける。

 するとナミの手が、ゾロの腹巻きとエレノアのフードをがっしりと掴んだ。

 

「は⁉」

「え⁉」

 

 不意にかかった力で二人はバランスを崩し、そのままナミの方に引きずり降ろされていく。

 そのまま油のワナに足を取られ、三人仲良く坂の下の方に滑り落ちていった。

 

「うわあああっ‼ 手ェ離せバカ‼」

「うにゃあああ⁉」

「あ、ごめん。……‼ しめたっ」

 

 対して悪びれていないような謝り方をするナミが、何かを思いついた。

 そのままゾロを引っ張り、その体を足場にして油の罠の上を乗り越えていったのだ。

 

「‼ ……うがががががっ‼」

「ありがとゾロ‼」

「何してんのさ―――っ⁉」

 

 ナミの思わぬ暴挙に、滑り落ちるエレノアが抗議の声を上げる。

 罠の向こう側に着地したナミは一度だけ二人の方に顔を向け、

 

「わるいっ! 宝が危ないの‼ なんとかはい上がって‼」

 

 それだけ言って、自分の船のある海岸に向かって全力で走りだしていってしまった。

 

「あの女殺す‼」

「あとで覚えてろよォ!!!」

 

 足蹴にされたゾロは怒り、放置されたエレノアも怒りの声を上げる。

 なんとか追いつこうと必死に坂を上ろうとするが、どうやっても滑ってまっすぐ進むこともままならない。

 

「くっそーっどうすりゃいいんだ登れねェ!!!」

「ゾロ‼ 正面突破は無理だ‼ 別の方法を考えよう!」

「べつったって…もう敵は来てるんだぞ⁉ あいつらだけでどうにもなんねぇだろ⁉」

「大丈夫。そのための保険は準備してあるから」

 

 エレノアは不敵な笑みを浮かべると、いったん油の坂を滑り降り、海岸の波際にまで下がった。

 

「とりあえず先行くよ‼ どりゃあああああっ!!!」

 

 エレノアはそのまま全力疾走し、坂に向かって突撃する……と思いきや途中で方向を変え、坂の両脇にある崖を駆け上がっていった。

 切り立った壁面を斜めに走り、落ちる前に足を踏み出して上りきる。

 そして油の仕掛けられていない場所で降り、ウソップたちを追って走り出していった。

 

「その手があったか……ん?」

 

 置いて行かれはしたが、感心したような声を上げるゾロだが、ふと気づく。

 

「っつか飛べよお前なら!!!」

 

 

「踏み潰して村へ進め野郎どもォ!!!」

「ウオオオ―――っ!!!」

「きた―――――っ!!!」

 

 場所は変わって、本当の襲撃地点で会った北の海岸。

 キャプテン・ジャンゴに率いられたクロネコ海賊団が、なぜか先に到達していたウソップとナミを蹴散らさん勢いで迫る。

 二人はほとんど何の準備もしていないうえに、主戦力が行方不明という絶体絶命のピンチに陥っていた。

 

「ぎゃあああああ!!!!」

 

 だが、海賊たちの凶刃が届くことはなく、男たちの悲鳴が響き渡った。

 

「いてェ‼」

「うぎゃ――っ‼」

「な…何だァ⁉」

 

 見れば、坂を上っていた海賊たちの足元で無数の罠が炸裂していた。

 落とし穴に落ち、虎ばさみに挟まれ、トゲを踏んで刺さり、起き上がった板に顔面を強打される。

 

「いたたたた! 見てるだけで痛いっ‼」

「何だあの大量のワナ…おれは知らねェぞ⁉」

 

 あちこちで上がる悲鳴や血しぶきにナミが目をそらし、ウソップは危険な罠の数々に目を丸くする。

 戸惑う二人のもとに、少女の呆れた声が届いた。

 

「もー、どうせこうなるとは思ってたけど、もうちょっと考えて行動しなよ。ナミ」

 

 振り向けば、ようやく二人に追いついたエレノアがため息をつく姿が見えた。

 罠に驚く様子はない、という事は、あれらは全部彼女が仕掛けたものだという事だ。

 

「保険がきいてよかったよ」

「お前の仕業か‼ いやちょっと待て! あんなもの仕掛ける時間なんて…ってトイレか‼」

「せいかーい」

「あんたってやつはもー♡ ホント頼りになるんだからも~♡」

「現金だなァ…」

 

 手際の良さ、というか用意の周到さにウソップが驚愕し、他二人よりも役に立つとナミが嬉しそうに抱き着いてくる。見事な手のひら返しであった。

 

「…ってあれ⁉ ちょ、ちょっとエレノア‼ あいつらは⁉」

「まだ来てないってことは……たぶん迷ってるな。あいつら揃いも揃ってバカだから」

 

 深いため息をつくと、ナミも納得したように落胆の様子を見せる。しかし言っておくが、約一名はナミの自業自得のせいで遅れていた。

 ジャンゴは思わぬ邪魔が入ったことで、その顔を怒りに歪める。

 たかが子供一人に邪魔されたこともだが、()()()()()()()()()()()状況での邪魔が最も腹立たしかった。

 

「あのガキのしわざだと…⁉ 舐めやがって!!! 罠がどうした‼ 仕掛けられる数にも限りがあんだろ‼」

「このガキどもがァ―――っ!!!」

 

 それは手下たちも同じようで、憤怒に顔を歪めながら傷ついた足を引きずって襲い掛かってくる。

 残った罠は自分の武器などを使って解除し、見る見るうちにエレノアたちに迫っていった。

 

「余計怒らせちゃってんじゃないのよ!!?」

「やれやれ…」

 

 できればここで引いてほしかったのか、エレノアは面倒くさそうに自分のブーツを脱ぐ。

 そして、その下から露わになる金属の輝きに、ナミとウソップは言葉を失った。

 

「え」

 

 エレノアは金属でできた自分の足を地面に突き立て、すねの部分を左右に開く。

 すると、その中から黒い三つの筒が起き上がり、その先端を海賊たちに向けて回転を始めた、次の瞬間。

 

 ドガガガガガガガガガ!!!

 

 突如筒が火を噴き、無数の弾丸を海賊たちに向けて吐き出し始めたのだ。

 咄嗟に引いた海賊たちはかすった程度で済んだが、突然発砲された恐怖のせいか完全に引け腰に担っていた。

 

「ぎゃああああああああああ!!!!」

「な、なんだァ!!?」

「あのガキ…足に何仕込んでやがんだァ!!?」

 

 悲鳴を上げて避難する海賊たちは、容赦なく銃器を使った少女を目にしてゾッと顔を青くさせる。

 それは、ナミとウソップも同じだった。

 

「0.7ミリ連射式機関銃……初めて使ったけどなかなか使い勝手いいな」

「ど、どうなってんのよその足⁉」

「なんつー危ねェモン持ち出してきてんだよおめェはァ!!!」

 

 至近距離で機関銃を使われてビビったウソップが抗議する。ナミは幼い少女の足に機関銃が仕込まれていたことを知って、驚愕で腰を抜かしかけていた。

 エレノアはもう少しお見舞いしてやろうとスイッチを押すが、銃口はそれ以上弾丸を吐き出すことはなかった。

 

「あり?」

「弾切れか‼ 今の内だァ!!!」

 

 チャンスと見たジャンゴが命令を下し、海賊たちが再び向かってくる。

 しかしエレノアは慌てることなく、もう一方の足を出して同じように銃口を差し向けた。

 

「おかわり!!!」

「ぎゃああああああああああ!!!!」

 

 再び乱射を食らい、海賊たちは這う這うの体でエレノアから距離を取る。

 しばらく回転を続けた機関銃が動きを止めると、エレノアはそれを足の中に戻した。

 

「今度こそ弾切れ…………でも、だいぶ戦意は削れたかな?」

 

 そうつぶやくと、エレノアは今度は両手をパンッと打ち鳴らす。

 青い光とともにエレノアのシルエットが大きく伸び、大人の姿となった彼女が身構えると、海賊たちは引きつった顔でジャンゴに助けを求めた。

 

「あ、あのガキムチャクチャだ!!!」

「何しでかすかわかんねぇぞ!!?」

「チッ」

 

 情けない部下もそうだが、こんな場所で足止めを食らっていることにいら立ったジャンゴが舌打ちする。

 そう、こんなところで時間を浪費している場合ではないのだ。

 

「おいてめェら!!! そんな奴らにかまってねェでさっさと村を襲え!!!! これはキャプテン・クロの計画だという事を忘れたか‼ あの男の計画を乱すような事があったら、おれ達は全員殺されちまうぞ!!! わかってんのかバカヤロウどもっ!!!!」

 

 ジャンゴの発破に、海賊たちは一斉に顔を青くする。

 一人、一人とその表情に恐怖による活力をみなぎらせ、自身を奮い立たせるような雄たけびを上げて突撃を再開する。

 今度は、引き返すことはなかった。

 

「やばいな…どんだけ恐れられてんのさ、キャプテン・クロ…‼」

 

 恐怖による統率のすさまじさに、エレノアは冷や汗を流す。

 銃を使い切った以上、エレノアに残されているのは錬金術と体術のみ。

 しかし、それを使うには敵の数はあまりにも多すぎた。

 

「てめェら邪魔だァ、そこをどけェ!!!」

 

 応戦するナミとウソップだが、一人を止めたところでまた別の敵が襲い掛かるため手に負えない。

 不意をつかれ、ウソップは石斧の一撃を頭部に受け、その場に膝をついてしまった。

 

「ウソップ君‼ くっ…‼」

 

 助けに行きたいのはやまやまだったが、エレノアも自分の目の前の敵の相手に忙しくその場を離れられない。

 悠々と先へ進もうとする海賊の一人。

 その足に、昏倒しかけたウソップが必死の形相で縋り付いた。

 

「……………‼ ……この…‼ この坂道!!! お前らを通す訳にはいかねェ……!!! おれはいつも通りウソをついただけなんだから!!! 村ではいつも通りの一日が始まるだけなんだから」

「クソガキ黙れ!!!」

 

 容赦なく蹴り飛ばされ、血を流しながらウソップは地を転がる。

 援護しようと棍棒を振り回すナミだが、別の海賊に殴り飛ばされて崖に叩きつけられてしまう。

 

「あゥっ!!! い…たァ………!!!」

 

 残るはエレノアだけだが、応戦している間にわきを通られてしまい、すべての人数を止めることができずにいる。

 決壊した関止めのように、次々に海賊たちが村へと向かっていってしまう。

 

「畜生、待て…!!!! 村へ行くな!!!」

「うるせェ邪魔だァ!!!」

 

 妨害しようと必死に掴みかかるウソップだが、脳を揺らされて力が出ず、軽く足蹴にされてしまう。

 ナミも当たり所が悪かったのか、しばらくその場から動くことができずにいた。

 

「やめてくれ頼むからっ!!! みんなを殺さないでくれェえ!!!」

 

 悲鳴にも似た懇願をあざ笑うかのように、海賊たちは続々と村へと侵入していった……かに思われた。

 エレノアが、ふと小さくつぶやくまでは。

 

「私の役割は…もうほとんど終わってるんだよね。…………遅いんだよあんたたち」

 

 ウソップやナミが、エレノアに聞き返そうとした時だった。

 

「うっぎゃああああ!!!!」

 

 大きな悲鳴とともに、先へ進んでいた海賊たちが吹き飛ばされてくる。

 ジャンゴのもとまで落ちてきた海賊たちは、ジャンゴに抗議するような引きつった形相でまくし立てた。

 

「何なんですかジャンゴ船長…‼ この村にあんなのがいるなんて…‼ 聞いてません!!!」

 

 怯える海賊たちの視線の先。

 そこには、腹立たしげに剣を構える腹巻きの剣士と、肩を怒らせる麦わら帽の男がいた。

 

「何だ今の手ごたえのねェのは」

「知るか! これじゃ気が晴れねェ‼」

「ナミ、てめェ!!! よくもおれを足蹴にしやがったな!!!」

「ウソップこの野郎!!! 北って、どっちかちゃんと言っとけェ!!!」

 

 ナミに対して怒りを燃やすゾロと、涙目でウソップに抗議するルフィ。

 本命の戦力の到着を見越していたエレノアは、にやりと不敵な笑みを浮かべて腕を組んだ。

 

「…何だ、あいつら……」

 

 呆れたような、戸惑うような言葉を漏らすジャンゴに、エレノアは自信たっぷりに答えて見せた。

 

「うちの主戦力の、アホ船長とアホ剣士です」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。