ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第17章 人取り合戦
第160話〝行き先決定〟


 ざぱっ!と、空の彼方で作られた乗り物・ウェイバーが海に沈む。

 それに乗っていたルフィは、すぐさま仲間達に救出され、涙目でメリー号の甲板に帰還した。

 

「ぶへ‼︎ ぶほ‼︎」

 

 ずぶ濡れで倒れ込み、海水を吐き出して大きく咳き込むルフィ。

 その情けない姿に、救い出したゾロやウソップは呆れた視線を向けていた。

 

「っとに」

「だから無理なもんは無理っつったろ」

「空の海じゃダメでも"よ…………ゴッチの海ならって…思"っ……」

「医者〜〜〜〜〜!!! おれだ〜〜‼︎」

 

 がくっ、と頭から崩れ落ちるルフィにチョッパーが焦り、自分で自分にツッコミを入れる。

 諦めの悪い船長に肩を竦めてから、ウソップとサンジが欄干に身を預け、海の方を見やった。

 

「結局乗れるのは、この海でもナミだけか」

「ナミさ〜〜〜ん♡ 気をつけて〜〜〜♡」

 

 失敗したルフィとは正反対に、空島でやってみせた時と全く同じように、巧みにウェイバーを操るナミ。

 環境や浮力の違いから、上手く操縦できなくなるかと懸念していたようであるが、その心配は不要のようで彼女も一安心していた。

 

「チョッパー、引き上げて」

「ナミはすごいなー」

 

 一通り波に乗り、満足したナミが甲板に戻ってきて、チョッパーが尊敬の眼差しを送りながらウェイバーを回収する。

 ナミが向かう先では、ウソップが空島で集めた沢山の貝を広げて確認を行っていた。

 

「〝貝〟は…〝雲貝〟だけだめだ」

「ああやって雲が形になるには、空島の環境が必要なのね…」

「他のやつでも充分珍しいぞ、よかったじゃねェか…」

 

 すかっ、と何も出さない雲貝を前に眉間にしわをよせるウソップ。

 敵が使い、戦場を縦横無尽に走る姿を見て便利そうだと思ったが、使い物にならないのであればただの貝殻でしかない。

 残念がるウソップに、ゾロはパンの耳をかじりながら笑って言った。

 

「あっ‼︎ いいな、パンの耳っ‼︎ おいサンジ‼︎ おれも食うぞ‼︎」

「あとだあと‼︎ おれは今、エレノアちゃんのを作ってんだ‼︎」

「あ、悪ィ」

 

 途端に空腹を訴えだすルフィに、サンジがくわっとキッチンから声を上げ、それに素直に謝罪の言葉が返ってくる。

 そのやり取りを横目にチョッパーは、車椅子に腰かけ、遠くを見つめているエレノアの傍に近寄った。

 

「…具合はどうだ、気分悪かったりしねェか?」

「…………ん、ああ…大丈夫。どこも変じゃないよ…」

「…そうか」

 

 ぼんやりとしていたエレノアが応えると、チョッパーは小さく息をつき、安堵したように肩を落とす。

 が、次の瞬間、彼の目はギラリと鋭く光り、エレノアを睨みつけた。

 

「よしわかった、ベッドにぶちこむ」

「なんで!!?」

「おれはもうお前の大丈夫は信じないからな!!! お前が大丈夫とか言う時は、絶対なんか不調を隠してると思って接するからな!!!」

「私に対する信用の低さ!!!」

 

 普段の彼らしくない、凄まじい勢いで怒鳴りつけるチョッパーに、流石のエレノアも困惑で目を白黒させる。

 他の仲間達も同意するような視線を向けていて、救いはどこにもなかった。

 

「大丈夫だってば……変に動いたりしなきゃどうってことげぶはっ!!!」

「だから言っただろうがァ!!!!」

 

 チョッパーを宥めようと、微笑みながら話していたエレノアが突如大量に吐血し、目を剥いたチョッパーが即座に治療に入る。

 

「ギャー‼ エレノアが死んだー!!!」

「お前もうホントに死にかけじゃん!!! 頼むから何もするな!!! 絶対安静で引っ込んでてくれお願いだから!!!」

 

 ギャーギャーと騒ぐルフィやウソップ、チョッパーと、ぶくぶくと血の泡を吹くエレノア。

 他の者達はそんな彼らの姿を、引き攣った表情で見つめる他になかった。

 

「普通に過ごしてるだけでこれか…」

「これ……もうこの先の航海は無理なんじゃないの? 死ぬわよ、この子」

「………まだまだ死にゃあしないよ、くそったれ」

 

 真剣な顔で物騒なことを呟くナミに、どうにか意識だけ取り戻したエレノアが吐き捨てる。

 ガルルル…と獣の形相で睨みつけてくるチョッパーに冷や汗を流し、これ以上怒らせてたまるかと、重いため息をついた。

 

「まァ…次の島に着いたら充分休むさ………無茶はしない」

「だけど……」

「そもそも…無茶したのは私じゃなくて〝あの人〟でしょ。今後はああはならないよ」

「本当にそうかァ?」

 

 心外だ、と言わんばかりの字と目を向けるエレノアに、それでもウソップが疑わしげな視線を送る。

 信用が失墜している中、その空気を換えるようにエレノアは笑みを浮かべた。

 

「私のことはもういいさ……やる事は他にもあるでしょう?」

 

 彼女の視線の先にある船室、その中のあるもの。

 ナミはじっとエレノアを見つめ、やがて呆れたように嘆息した。

 

 

 

 かくして、船室に入った一同。

 その前に置いたテーブルの上に、ナミが大量の金銀財宝を置いてみせた。

 

「さて、お待ちかねっ‼︎ 海賊のお宝は山分けと決まってるわ‼︎ これだけの黄金だもの、すごい額よ‼︎」

 

 空島での大冒険の末、手に入れた大量の宝物。

 大蛇の腹の中と、探しても絶対わからなかっただろう場所から見つかったそれは、室内でも煌々と美しい輝きを放っている。

 苦労の末に手に入れたそれを前にし、若き海賊達の気分は一気に上昇した。

 

「イよォっ!!!」

「待ってたぞーっ‼︎ 銅像買うんだおれは!!!」

「本買っていいか⁉︎」

「新しい鍋とフライパンと………食器に巨大ねずみ取り」

「飲み放題だな、コリャ」

「義足の修理代に…治療費に……うっ、胃が…」

「それくらい普通に出すわよ…」

 

 欲しいものを夢想する者、必要なものを計算する者、欲を出す者、険しい顔で胃を押さえる者など、様々な反応を見せるルフィ達。

 ナミは彼らを前に、集めた財宝の大半をがさっと横にどけた。

 

「それとは別にまず、私のへそくりが8割」

「「「「「「いやちょっと…」」」」」」

「冗談よ」

 

 笑えない冗談に、途端に抗議の声が上がる一味。彼女の性格を考えるに、本気でそんなことを言っていてもおかしくはないと思えてしまう。

 戦慄する彼らに、ナミは自分の考えた本当の意見を口にした。

 

「船を? このメリー号をか?」

「そうよ――もうボロボロじゃない」

「そりゃいい!!! ゴーイングメリー号大修繕!!! 大賛成だ!!!」

 

 長く共に旅をしてきた、小さな海賊船の今の姿を思い返し、ルフィはナミの意見に強く同意を示す。

 サンジが作った軽食を口に運びながら、ゾロがどこかしみじみとした風に頷き呟く。

 

「そうだな、ウソップのツギハギ修理もさすがに限界だし」

「言っとくがな、おれは‼︎『狙撃手』だ‼︎」

「ああ…本格的に造船ドックに入れて、本職の船大工に修繕して貰った方がいい…」

「へ――‼︎ ウソップより直すのうまい奴がいるのか」

 

 一同方針が決まると、それに関する想像がどんどんと広がっていく。

 困難や騒動の方が目立ち、どうしても忘れがちだが、普段使っている船の状態を思い出すと問題が色々と出てくる。

 

「考えてみりゃ〝東の海〟のおれの村からずっとおれ達を乗せて航海してくれてんだ。たまにゃあしっかり労ってやんねェとバチあたるってもんだぞ」

 

 苦楽をずっと共にしてきたというだけではなく、幼馴染の厚意でもらった船という特別な思い入れもあり、ウソップも強く同意を示す。

 すると突如、ルフィが何か決心した様子で立ち上がり、口を開いた。

 

「だったらよ、〝船大工〟仲間に入れよう!!!」

 

 唐突な宣言に、一味は軽食を口に運ぶ手を止めて戸惑いの目を向ける。

 ぽかんと固まる彼らの前で、ルフィは今思い付いた自分の考えを語り出した。

 

「旅はまだまだ続くんだ。どうせ必要な能力だし。メリーはおれ達の〝家〟で‼︎〝命〟だぞ‼︎ この船を守ってくれる〝船大工〟を探そう‼︎」

「…………コイツはまた…」

「ホントまれに…核心をつくよ…」

 

 いつも思い付きで無茶苦茶なことばかり引き起こす、生粋のトラブルメーカー。なのに時々無視できない意見を口にするため、その落差に戸惑わされる。

 なんにせよ、船長である彼のその意見に文句をつける者は、誰もいなかった。

 

「そりゃそれが一番だ‼︎ そうしよう‼︎」

「じゃあその線で‼︎」

「エレノア、この先の島にそういう所ってない?」

「……おあつらえ向きのところがあるよ」

 

 ナミが尋ねると、少し考えた様子のエレノアが答えを返す。

 スッと指を立て、若干ぷるぷると痙攣しながら、メリー号の進行方向を示し、続けて口を開く。

 

「ちょうど……記録をいくつか越えた先に造船島―――〝ウォーターセブン〟がある」

「造船島⁉︎」

「ピッタリじゃねェか!!!」

「い〜奴が見つかるといいなー‼︎ あと〝音楽家〟とな‼︎」

「いや、それはおいとけ」

「な‼︎」

 

 もたらされた御誂え向きの情報で、より一層の期待を抱き、声を上げて騒ぎだす一味。

 エレノアはそれに、なぜか唇をきつく噛みしめ、そして物憂げな表情で虚空を見つめていた。

 

「……ただなァ、〝海軍本部〟と〝エニエスロビー〟の目と鼻の先なのが不安なんだよなァ」

 

 その呟きに反応したのは、話に積極的に関わらず、無言で佇んでいたロビンだけだった。

 

 

 ギシ…ギシ…と軋む音を立てる、真っ暗な船室の中。

 弾や食料、様々な物品が置かれたその部屋の中で、ある一つの人影が小さくため息をついた。

 

「イヤー……参ったネ」

 

 がしがしと頭を掻き、真っ暗中で困り顔になるその男。

 すぐ近くに感じる、お供の二人から呆れた視線が向けられるのを無視しつつ、その男は軽い口調で語り出した。

 

「まさかこっそり乗り込んだ船がこんな事になるとハ。悪い事はしちゃいけないっテ、お天道さんは見てるってわけダ」

「言うておる場合ではありませぬゾ、若‼ もはやこの船は沈むのを待つばかリ‼ 一刻も早く次の行動を決めねバ、我らも共に海の藻屑となりますゾ!!!」

「わかってるヨー…」

 

 少し変わった訛りで、お供の一人である老人の声が男を叱ると、男はそれに苦笑を返し、唸り声をあげて腕を組む。

 あまり反省の色が見られないその態度に、老人はピキッと血管を浮き立たせ、目を吊り上げて声を張り上げた。

 

「そもそモ!!! 何の手掛かりもなしにこの〝偉大なる航路〟に挑む事自体が無謀!!! これまで一体幾人の勇者が挑ミ、そして散っていった海カ!!! 知らぬ存ぜぬでは通りませぬゾ!!!」

「爺様………‼ もうそのくらいデ…でないと見つかりま」

 

 怒涛の勢いで詰め寄る老人に、もう一人のお供がおろおろと止めに入ろうとする。

 

 その時、彼らの頭上でギシッ…と比較的大きな軋みが響き、三人はピタッと硬直する。

 だらだらと冷や汗を垂らし、人の声を訝しんだ誰かが探りに来ない事を確認すると、三人は一斉に安堵の息をついた。

 

「…………仕方がないだロ。こっちはもう後先考えちゃいられないんダ……おれは我が一族50万人の命を預かってル。もう後には引けないのサ」

 

 先ほどまでとは違う、本気の信念を感じさせる声で告げる男に、老人は暗闇の中で目を細める。

 もう一人の音もが心配そうに見つめる中、老人は大きくため息をこぼした。

 

「……仕方がありませヌ、ならば急ギ、今後の方針を考えねバ」

「はい」

「そうだナー…どっか別の船に乗り移れればそれがいいんだけどナー」

「そんな都合のいい事……」

 

 後頭部で腕を組み、うんうんと考えこむ素振りを見せながら呟かれた案に、お供達からまた呆れた声が返ってくる。

 男はその咎めるような声に、不服そうに唇を尖らせた。

 

「だけド、今のところホントにそれ以外方法がないんだヨ。上があの状態じゃ、どこかの島に着く事もできるかどうカ…………」

 

 数時間ほど前に起こった、ある島におけるひと騒動。

 その結果起こってしまったこの船の悲劇に、男達はどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 その時、天井を仰いでいた男の目が、突如くわっと見開かれた。

 

「……フー、ランファン。聞こえたカ?」

「え…えェ、聞こえましタ」

「…………まさカ、若」

 

 ガバッと体を起こし、お供達の方に身を乗り出す男。

 急に顔を近づけてきた男に、もう一人のお供は戸惑うような、焦るような反応を返す。老人の方は、にやりと笑みを浮かべる男に嫌な予感を覚えた。

 

「世話になる船を変えようカ。ずいぶん小さ船だガ………相当デキる奴等が乗ってル。かなりの強者の集まりだナ」

「若‼ この辺りを行く船なド、正規の船はあり得ませヌ‼ また海賊船に乗り込むおつもりか!!!」

「まァ、それならそれでしょうがないじゃなイ?」

 

 男の考えを察した老人が、またも反対の態度を見せ吠える。

 だが、男はそれを宥め、お供達ににやりと不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

「吉と出るか凶と出るカ………人生ってのはそういう賭けの連続ってもんだロ」

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