ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第162話〝人取り合戦〟

「何だ、お前ら…‼」

「ああ………遅かったカ」

 

 巨大な海賊船の甲板から見下ろしてくる未知の海賊達に、ゾロが威嚇の視線を向け、リンが忌々しげに頭を抱える。

 警戒をあらわにする麦わらの一味に向けて、謎の海賊達の一人が名乗る。

 

「我々は〝フォクシー海賊団〟。我らの望みは…〝決闘〟だ!!!」

「……『デービーバックファイト』か…!」

「そうだ。その戦いの火蓋は、互いの船の船長同士の合意の瞬間、切って落とされる」

 

 エレノアの呟きに頷き、フォクシー海賊団と名乗る男達はにやにやと笑みを見せる。いかにも自信満々と言ったその態度に、ナミが思わず冷や汗を流す。

 

「今、おれ達の船長がお前達の船長モンキー・D・ルフィに戦いを申し入れている頃…‼︎」

「申し入れ…? 何を眠てェ事やってんだ。ケンカなら買うっつってんだろ‼︎」

「おい…お前知らねェのか? ケンカじゃねェ、『デービーバックファイト』は海賊のゲームだ」

 

 胡乱気に刀を構え、闘志を見せるゾロにサンジが呆れたように止めに入る。

 その隣でロビンが頷き、海賊としての時間がそう長くない年下の彼らに、丁寧に説明を行い始める。

 

「――そうよ、海のどこかにあるという海賊たちの楽園『海賊島』でその昔生まれたというゲーム…より優れた船乗りを手に入れる為、海賊が海賊を奪い合ったというわ」

「海賊が海賊を……?」

「ええ」

「そんな事も知らねェでよく海賊をやって来れたな」

「『デービーバックファイト』ってのは〝人取り合戦〟の事さ!!! おれ達が挑むのは〝3コインゲーム〟‼︎ 3本勝負だ!!!」

 

 何も知らないゾロやナミを嘲笑い、愉しげに声を上げ、フォクシー海賊団が高らかに語り出す。

 

 1勝負ごとに勝者は相手の船から好きな船員を貰い受ける事ができる。もらわれた船員は速やかに敵の船長の忠実な部下となる。

 敵船に欲しい船員がいなかった場合、船の命海賊旗(ジョリーロジャー)の印を剥奪する事もできる。

 それが、深海の海賊〝デービー・ジョーンズ〟に誓って行われるゲームであると。

 

「――賭ける獲物は〝仲間〟と〝誇り〟。勝てば戦力は強化されるが…負けて失うものはでかい…エゲつないゲームさ………!!!」

「じゃあ…もしかして…海で会ったあのまとまりのない妙な船…」

「そうサ……あいつらにやられたんダ」

 

 先に説明出来なかったことを申し訳なく思うように、リンはポリポリと頭を掻いて眉間にしわを寄せる。

 見れば、甲板には奪われたと思わしき船長に船員、さらには海賊旗も見えた。

 

「ここまで揃って移籍になると、もはや吸収合併だな」

「だな‼︎ ぎゃははは」

「…バカバカしい‼︎ 私達はそんなゲームの申し入れ絶対に受けないわ!!!」

「ムダだよ、ナミ…私達にそれを止める権限はない」

 

 奇しくも、道中でウソップが抱いた不安は的中していた。

 一度、行われた戦いに敗れた船を目撃したというのに、また仕掛けたのと同じ相手に見つかり、餌食にされているのだ。

 それを予測できなかったことに、エレノアが悔し気に歯を食い縛っていた。

 

「〝デービーバックファイト〟は互いの船の船長の合意によってのみ開戦する………ルフィが頷いてしまえば、私達全員がゲームの参加者となる」

「――その通りだ、ナミさん…これは海賊の世界では暗黙のルール…………‼︎ 逃げ出せばこの世界で大恥をかく事になるぜ‼︎」

「いいじゃない、恥かくくらい!!!」

「生き恥をさらすくらいなら死ぬ方がいい」

「右に同じ」

「何よそれ、二人共っ‼︎」

「だからムダなんだってば…」

「諦めなさい…男ってこういう生き物よ…」

「んもーっ‼︎ じゃ、ルフィを止めなきゃ!!!」

 

 危険を感じ、無理矢理にでも拒否の姿勢を取ろうとするナミだが、火がついてしまっているらしいサンジやゾロは引き下がらない。

 地団太を踏むナミに、ピクリと耳を震わせたエレノアが、深いため息をつく。

 

「………止めるのももう遅いみたい」

 

 彼女がそう呟いた途端。

 

 ドンッ! ドンッ!と。

 二発の銃声が、島の奥の方から響き渡ってきた。

 

「まさか………!!!」

「あ〜あ〜受けやがった………」

「望むところだ……」

「面白そうね……」

 

 島中に響いたであろうその音が示す、海賊の遊戯開催決定の合図。

 愕然とするナミや、好戦的に笑うゾロ達を見下ろし、フォクシー海賊団の面々が満面の笑みを浮かべた。

 

「ゲームを受諾した〜〜ァ!!!」

 

 

 

「さーさーフランクフルトはいかが⁉︎ ラムにチーズビスケットに塩漬け肉‼︎ 焼ソバもあるよ〜‼︎」

『開会式を始めまーす。みなさん静粛に』

「うるせー‼︎ てめェ黙れ」

「ギャハハハハハ‼︎」

「おいオッズつけろォ‼︎」

「出場メンバーは準備を‼︎」

 

 開催決定の銃声が鳴り響いて数十分後。

 島にはいくつもの屋台が並び、フォクシー海賊団の船員達が仲間を相手に商売を始める。

 何もない草原が、祭に御誂え向きの場所となっていた。

 

「さ――て野郎共っ‼︎ 騒いじゃいやん!!!〝敗戦における3ヶ条〟を今から宣誓するわよ‼︎」

 

 1つ『デービーバックファイトによって奪われた仲間・印・全てのものは、デービーバックファイトによる奪回の他認められない』

 1つ『勝者に選ばれ引き渡された者は、速やかに敵船の船長に忠誠を誓うものとする』

 1つ『奪われた印は二度とかかげる事を許されない』

 

 と、フォクシー海賊団のアイドル・ポルチェがマイクを握り、賑やかに騒ぐ男達に、祭のルール説明の為に注目を促す。

 

「あんた達なんで平然としてられるわけ?」

「悩んでも仕方ない事だからだよ」

「おめェまだウジウジ言ってんのか」

 

 そのすぐ近くで、がっくりと項垂れたナミが、島の奥から戻ってきたルフィ達に恨みがましげな視線を送っていた。

 リスクの高いゲームだというのに、全く悪びれる様子が無いのがこれまた腹が立つ。

 

 そんな彼女の悩みもよそに、開会の進行は順調に進められていた。

 

「以上、これを守れなかった者を海賊の恥とし、デービー・ジョーンズのロッカーに捧げる!!! 守ると誓いますか⁉︎」

「誓う」

「誓う!!!」

「さァ、このコインを見ろ!!!」

 

 ポルチェの再度の確認に、それぞれの一味の代表として二人の船長が告げる。

 フォクシー海賊団の船長、割れた頭に尖った鼻が特徴的な海賊・フォクシーが三枚のコインを懐から取り出し、海の中に放り投げた。

 

「オーソドックスルールによる〝3コインゲーム〟を…デービー・ジョーンズに報告!!! 開戦だァ!!!」

 

 途端にフォクシー海賊団から、盛大な雄叫びと歓声が上がる。

 相手が弱小海賊団であろうと関係がない、欲しいものがあれば奪いに行く、海賊冥利に尽きる遊戯の開催に、誰もが沸いていた。

 

「海賊が欲しいものを奪う事を……〝デービーバック〟っていうのは、このゲームからきてるんだよ」

 

 かつて実在した海賊、デービー・ジョーンズの名にちなんだ遊戯。

 悪魔に呪われ、深い海底に今も生きていると言われる彼のロッカーに、海底に沈んだ船や財宝は全てしまわれてしまうとされる、海の伝説。

 

 エレノアやロビンから詳しい説明を聞かされたチョッパーは、まだまだ広い海賊の世界に感嘆の声を上げていた。

 

「ん〜〜〜フェフェフェ…………」

「お気に入りは誰です? オヤビン」

「船長に剣士…航海士、狙撃手、コックに船医に考古学者、おまけに錬金術師か………さ〜〜〜てどいつから貰ってしまおうか」

 

 狙う獲物の8人を見やり、フォクシーは悠然と腕を組んで笑みを浮かべる。

 人数は少なくとも、それぞれなかなかの実力と能力を有していることは調査済みで、誰も彼もが欲しく思える。

 が、その中でも特に惹かれている存在に、フォクシーの視線が集中した。

 

「……やはりあいつかな〜〜〜!!! あいつが欲しいなァ〜!!!」

 

 その視線に晒されている一人は、背筋に走った嫌な予感に、ぶるりと全身を震わせていた。

 

「おい‼︎ オーソドックスルールはわかるな⁉︎ おめェら出場者は3ゲームで7人以下‼︎ 一人につき出場は1回まで、一度決めた出場者に変更はなしだ‼︎」

「わかってる、あっち行ってろ‼︎」

「まったく‼︎」

「えらい事してくれたわね、ルフィ!」

「勝ちゃいいじゃねェか!」

 

 親切心か、それとも勝利を確信しているがための余裕か、わざわざ近づき説明しに来る敵側の海賊を、サンジが適当にあしらう。

 その横で、未だ怒りが収まらないナミがルフィの鼻を掴み、事前の相談もなく勝負を受けたことを咎めていた。

 

「勝てば船大工貰えるかも知れねェぞ?」

「いらねェよ、あんな海賊団からっ‼︎」

 

 勝負自体は文句はないが、あの集団から新メンバーを受け入れる事はごめんだとサンジが思わずきつい口調で返す。

 やや刺々しい雰囲気になる一味の間に、ルールブックらしき冊子を手にしたリンがマイペースに割って入って来た。

 

「勝負種目はレース・球技・戦闘だってサ」

「あんた何さらっとウチの一味に加わってんのよ」

「いいじゃんヨ‼︎ 同じ釜の飯食った仲だロ!!?」

「要求しただけでしょうが」

 

 いつの間にやら、さも当然のように仲間に入り込んでいる謎多き青年に、エレノアがじとりと鋭い目を向ける。

 他の面々も胡乱気な視線を向ける中、ハッと振り向いたルフィが、凄まじい形相でリンに詰め寄った。

 

「何!!? 飯食っただと!!? ていうかお前誰だ!!?」

「遅っ!!!」

「おれはヤオ・リン。仲良くしようゼ」

「誰がするか!!! 帰れ不審者!!!」

 

 へらへら笑いながら握手の手を差し出してくるリンに、ウソップが目を剥いてツッコミを入れ、差し出された手を弾く。

 思いきり拒否をされた青年だが、全く堪えた様子もなく、馴れ馴れしい態度でルフィに話しかける。

 

「メシ食わせてくれたお礼になんか手伝うヨ、戦闘でも出ようカ?」

「バカ、それはおれがいく」

「なにー⁉︎ 待てよおれがやりてェ!!!」

「おれに任せとけ、足がウズウズしてんだ!!!」

「おれ、結構戦えるヨ。きっと役に立つからここに置いておくれヨ」

「「「うるせェよ!!!」」」

 

 ギャーギャーわーわーと、暴れたくて仕方がない男達の喚く声が続き、自分が自分がと手が挙がる。

 侃々諤々と、派手な戦いの場を求める話し合いは続けられ、十数分経ってから、ようやく次のように決着がつけられた。

 

 第一回戦『ドーナツレース』

   出場者ウソップ、ナミ、ニコ・ロビン

 

 第二回戦『グロッキーリング』

   出場者ゾロ、サンジ、トニートニー・チョッパー

 

 第三回戦『コンバット』

   出場者モンキー・D・ルフィ

 

   見学アイザック・エレノア、ヤオ・リン

 

 その決定に、約二名が即座に驚愕と困惑の声を上げる事となった。

 

「何でサ!!?」

「この人はともかく私も!!?」

「「「「「当たり前だろが!!!!」」」」」

「大人しくしてろ重症患者と部外者!!!」

 

 本気で麦わらの一味に世話になる気満々の様子のリンを押し退け、抗議の声を上げるエレノア。

 すると、ロビンを除く一味全員が一斉に目を吊り上げ、無茶を通そうとしている彼女に怒りの声を上げる。チョッパーなど、鬼と見間違わんばかりの形相だ。

 

「いいから、あんたはそこで大人しくしてなさい! それとあんた! 役に立ちたいんなら、その子ちゃんと見張ってなさいよね⁉」

「お、おゥ……」

「え~…………」

 

 ぎろっ!と鋭い目で睨みつけられ、リンは若干引きながらも頷く。

 エレノアは完全に荷物扱いされていることに不服そうにしながらも、仕方がないとため息をつく。

 

 が、ナミに見えない場所で、彼女の目は悪戯っぽく輝いていた。

 

「……ま、見学にもできる事はあるけどね」

「?」

『さァさァまずは海岸づたいの島1周妨害ボートレース「ドーナツレース!」!!!』

 

 意味深なエレノアの呟きに、リンが訝しげな表情になる。

 そんなやり取りの間にも、祭は進められ最初の協議の準備が行われていく。

 

 与えられた三つの空樽と二本のオールのみを使用した、手作りボートで島を一周するレース。

 南の海の珍鳥〝超スズメ〟の背に乗る司会イトミミズの進行で、最初の競技が紹介されていく。

 

『まずは麦わらチーム‼︎ 航海士ナミ‼︎ 狙撃手ウソップ‼︎ 考古学者ロビン‼︎ 乗り込むボートは『タルタイガー号』‼︎」

「これ沈まない?」

「だからおれは船大工じゃねェんだよ‼︎」

「きっと沈むわ」

『さァそしてフォクシーチーム代表は我らのアイドル、ポルチェちゃん‼︎ 率いるのはカジキの魚人カポーティ‼︎ ホシザメのモンダ‼︎ 乗るボートは『キューティワゴン号』〜〜〜!!!』

「いやん任せて♡」

 

 片やぎしぎしと軋み、今にも分解しそうな有様の、船大工ではないウソップ手製のいかだ。

 片やメンバーの一人?のサメが縄を引き、魚人とタッグを組むポルチェが乗る船。

 

 端から大分優劣に差がつく形となっていて、すかさずナミが抗議するものの、アウェイな状況もあって即座に封殺されてしまう。

 

「勝てよ〜‼︎ おめェら〜!!!」

『さァ両組スタートラインへ!!!』

「沈めてあげる」

「やってみなさいよ!!!」

 

 ルフィが呑気に応援の声を上げる先で、苛立つナミと挑発するポルチェがバチバチと火花を散らす。

 両者のやる気が十分に高まったところで、イトミミズが再び盛大な盛り上げを促した。

 

「さァさァ‼︎ お待ちかね、勝てば宴会敗ければ深海‼︎ 情け無用のデービ〜バック!!! 第一回戦『ドーナツレース』始まるよ〜‼︎』

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