ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

164 / 324
第163話〝何でもあり〟

『ここで一発、ル〜〜ル説明‼︎』

 

 男達の喝采が湧きあがり、波に揺れる樽ボートに乗った二組のチームに視線が集まる中、司会のイトミミズがマイクを使い語る。

 

 島をボートで一周する、ただそれだけ。

 その間如何なる妨害も策も違反にはならない、ひたすらにゴールをめざせという、実にシンプルなゲームであった。

 

『卑怯だ何だと抜かした奴ァ一海賊の恥と知れ!!!』

「レースになるのか?」

「おうコラウソップ‼︎ レディ達に何かあったらてめェオロすぞ!!!」

「盛り上がってきたネ〜」

「何でもありありってわけね……」

「負けんな〜〜〜!!! ウソップナミロビン〜!!!」

「ワクワクしてきたぞ……‼︎」

 

 周りの歓声に流されてか、ルフィ達もルールのあまりの単純さを全く気にせず、開始の合図を待つナミ達に声援を送る。

 ナミは揺れる樽ボートの上でため息をつき、キッと表情を改めて前方を見据える。散々文句を言った後だが、負けたリスクの大きさを考えても、本気にならざるを得なかった。

 

「――――とにかくやるからには、勝つわよ‼︎」

「相手を沈めてもいいのよね」

「おお、頼もしいな」

 

 意外とゲームに意欲を見せるロビンの台詞に、終始不安顔なウソップが感嘆の声を上げる。

 クールな女性という印象が強い彼女だが、こういった催しに対する興味は、意外にもそれなりにあるようだ。

 

 そんな彼女達の元に、司会から砂時計のような何か―――ロングリングロングランドの永久指針が投げ渡された。

 

『さて受け取れ、迷子防止の永久指針‼︎』

「迷子?」

『せいぜい、島から離れすぎないようにお気をつけて。幸運を祈るよ‼︎』

 

 何故、島を一周するだけなのにこんなものが必要なのか、と訝しげな顔をするナミ。

 そんな彼女を見ながら、エレノアがちらりと傍らにいたリンに目を向ける。

 

「ヤオ・リン。ちょっと…」

「ン?」

『位置について!!! レディ〜〜〜〜〜〜イ』

 

 小さな声で、エレノアがリンに何か話しかけるその後。。

 イトミミズの掛け声が始まり、それと同時にガチャガチャと無数の重火器が構えられる音が響く。

 気づいたナミが、戸惑いで大きく目を見開いたその瞬間。

 

『ド――ナツ!!!』

「「「「「ギャアアア〜〜〜〜ッ!!!!」」」」」

 

 イトミミズからの開始の合図が飛び、フォクシー海賊団の応援の場で、突然真っ赤な粉塵が巻き上がる。

 轟音や悲鳴と共に、もくもくとその煙は広がり、フォクシー海賊団がそれを吸い込まされる羽目になった、すると。

 

「目が…目がァ〜〜〜!!!」

「目が痛ェ‼︎ 鼻が痛ェ!!!」

「医者〜〜!!!」

 

 煙を吸い込んだ者達は、皆一斉に顔中から涙や鼻水を溢れさせ、激痛に苦しみ泣き叫ぶ。転げ回っても薄れない、感覚器官の全てを刺激するその苦痛に、誰一人立ち上がれなくなっていた。

 

「おらおらァ‼︎ キャプテン・ウソップ特製の催涙弾をしこたま食らいなァ!!! ほらヤオ・リン‼︎ 食べた分全力で働け!!!」

「了解サ‼︎ わははははは!!!」

「何やってんのよあんたら~~~!!!」

 

 見れば風上で、膝の上と車椅子のすぐ横に積み上げた真っ赤な団子のような弾を、エレノアとリンが片っ端から投げ込んでいる。

 ナミに驚愕の声を上げられながら、二人はその攻撃の手を止めなかった。

 

『両組一斉にスタート‼︎ しかしお――っと⁉︎ フォクシー海賊団お邪魔攻撃が麦わら一味の迎撃でしょっぱなから沈んだァ!!!』

「な…ちょ…ちょっとエレノア!!! 何やってんのあんた!!?」

「いや…あれでいい‼︎ チクショウ‼︎ 動かしちゃいけないやつに動かさせちまった!!!」

 

 どう見ても悪役側がやりそうな、とんでもない非人道的な妨害行為を働くエレノアに、ナミが思い切り待ったをかける。

 しかしそれに対し、ウソップは悔しそうに、ロビンは実に落ち着いた様子を見せていた。

 

「〝妨害〟は海賊競技の常識だ‼︎」

「助かったけど納得いかないっ‼︎」

「あの子の方がわかってたみたいね」

 

 憤然とした声を上げるナミだが、彼女以外に嘆く者はいない。

 海賊の催す遊戯において、正々堂々などと言う言葉ほど相応しくないものはないのだから。

 

「いいぞ〜〜〜!!! エレノア〜〜!!!」

「バカ‼︎ 応援してる場合じゃねェ、おれ達も奴等の妨害を妨害すんだよ!!!」

「あんにゃろう楽しみ独り占めしやがって…‼︎」

「だからお前は絶対安静だって言ってんだろうが!!!」

 

 楽しそうに声援を送るルフィに、サンジやゾロが急ぎエレノアの応援に向かい、チョッパーが鬼の形相で怒鳴りつける。

 当初に懸念していた、ゲームの観戦者からの妨害が失敗に終わったことを安堵しつつ、ウソップは遥か前を進む敵の船を見据える。

 

「よし、追い上げるぞ‼︎ エレノアが作ったチャンスを無駄にするな!!!」

「だいぶ先、行かれてる」

「早くギャラリーから離れよう‼︎」

 

 大急ぎで、満身創痍で働く仲間の手助けを生かそうとオールを動かす三人。

 そんな彼らを見ながら、フォクシーはにやりと、不気味な笑みを浮かべていた。

 

「フェッフェッ…ますます面白い一味だぜ…………‼︎ ……さて…我らの本領といこうか、ハンバーグ‼︎」

「へェ、オヤビン」

 

 

 

 

 敵のボートを必死に追う三人。

 それを横目に見ながら、エレノアは観戦の場から引き剥がそうとしているチョッパーに振り向いた。

 

「もーチョッパーってば…このくらいなら問題ないって」

「大ありだバカ!!! 次勝手に動いたらお前、鎖と手錠でベッドに縛り付けるからな!!?」

「どんどん過保護になってくねあんた………」

 

 くわっ、と普段のかわいらしさが消え失せた凄まじい形相で告げるチョッパーに、エレノアはうんざりした顔を見せる。

 チョッパーはそのままエレノアを観戦者達の輪の外に連れて行き、フンッと腕組みをして彼女の見張りに着く。是が非でも、この場から動かさない気らしい。

 

「やれやれ…」

「あそこまでレースが進むと、おれ達のやる事もなくなってくるネ」

「オイ兄ちゃん、休むんならこれでも食ってみろよ‼︎」

「オ‼︎ いいネェ‼︎」

 

 まるで囚人のような扱いだと、ため息と一緒に肩を竦めるエレノア。

 半目で肩を落とす彼女の元に、屋台の食べ物で両手や懐を一杯にしたリンが、上機嫌に近付いてくる。

 

「あんた………本気であの船に乗るつもり? 何の益があるんだか…」

「はっはっは。まーまーそう警戒しなくてもサ、仲良くやろうヨ天族サマ」

 

 馴れ馴れしく話しかけてくるリンに、エレノアは胡散臭そうな目を向けて目を逸らす。

 しばらく無言が続くが、やがて顔を上げたエレノアがリンに視線を戻した。

 

「………今のうちに聞いておきたいんだけどさ」

「ン?」

「あんた……いや、貴方はなんのためにこの海にいるの? 部下でも何でも使えばいいでしょうに…」

 

 リンの格好を見るに、船乗りには見えない。彼が当初に言っていた通り、色んな船に勝手にただ乗りして旅を続けていたというのも、真実なのだろう。

 それ故にわからない。見つかって叩き出される危険や、この過酷な旅で船と一緒に沈む可能性を受け入れ、一体何を求めてこの海に挑んでいるのか、と。

 

「あんたの探し物って………何なの?」

 

 エレノアの問いにリンは黙り込み、しかし徐々にその笑みを深めていく。

 まるで、エレノアにそう問われることを、ずっと待ち望んでいたかのように、意味深な笑みを浮かべて、次のように呟いた。

 

 

「不老不死」

 

 

 何のためらいもなく呟かれたその一言に、天使の少女は大きく目を見開き、凍り付く。

 エレノアのその反応を目にしたリンは、まるで探し物を見つけたかのように、細めた目を少し開き、鋭い視線を向ける。

 

 二人の間のピンと張りつめた空気に気付いた者は、周りに警戒し話を聞いていなかったチョッパーを含めて、誰もいなかった。

 

『さァデービーバックファイト一回戦『ド〜〜〜ナツレース』!!! 今まさに決着の時を迎えようとしているよ‼︎ さ〜〜〜勝者はどっちだ!!?』

 

 エレノアたちの会話をよそに、レースは終盤へと近づいていた。

 ウソップの根性、ロビンの奇策、そしてナミの天才的な航海術の駆使により、麦わらチームの船は大差をつけてゴールへと近づいていたのだ。

 

「ナミ達が勝ってるぞ!!! やった――!!!」

「んナミさ〜〜ん♡ ロビンちゃ〜ん♡ スピーディな君達も素敵だ〜〜〜〜♡」

 

 最初の勝負に、白星を挙げられることに歓喜の声を上げるルフィ達。

 だが、それにたいして、フォクシー海賊団の面々は、ニヤニヤと不気味な笑みをこぼすばかりであった。

 

「おしかったな、お前達」

「何で⁉︎ 勝ってるだろ‼︎」

「ギャハハハ、今はな…見ろ! オヤビンが来た‼︎」

 

 彼らの見る先、ゴールに向かうナミ達のちょうど真横で待つフォクシーに視線が向き、ルフィ達は訝しげに首を傾げる。

 そしてこの時ルフィ達は、彼の妨害を食い止めなかったことを激しく後悔する。

 

 もしもこの時、エレノアがすぐ近くに居たならば、この展開を防げていたかもしれない。

 

「オヤビンもお前と同じく…〝悪魔の実〟の能力者なんだ」

 

 しかしそんなもしもが起こる事はなく、ゴールを目指すナミ達に向けて、フォクシーの手から謎の光が迸った。

 

「〝ノロノロビ――――ム〟!!!」

 

 

 

『勝者!!! キューティワゴン号!!! デービーバックファイト一回戦『ドーナツレース』を制したのは!!! 我らがアイドルポルチェちゃ〜〜〜〜ん!!!』

「いやん♡ ありがとうみんな‼︎ 当然の結果よ!!!」

 

 どっ!と高まる歓声の中、拍手喝采を受けるポルチェが笑顔で大きく両手を振る。

 仲間の魚人カポーティとホシザメのモンダも、向けられる喝采に両手を挙げて応えていた。

 

「これでまずは船員一人いただきだぜェ!!!」

「ポルチェちゃん最強〜‼︎」

「ギャハハハ‼︎ 誰もこのフォクシー海賊団に敵わねェのさ!!!」

「おいお前ら〜〜〜‼︎」

 

 歓喜するフォクシー海賊団とは真逆に、ルフィ達は愕然とした様子で、樽ボートの上で項垂れる仲間達を凝視する。

 しかし絶句する彼らに構うことなく、フォクシーは愉快そうにルフィ達を見下ろした。

 

「ホイホイホイホイフェッフェッフェ〜〜〜〜〜〜!!! さァ〜〜〜〜〜差し出して貰うぞ、おめェらの仲間を一人よォ〜〜〜う!!!」

「……おい‼︎ ちょっと待て‼︎ 今、何しやがったんだ!!!」

 

 納得できず、サンジがフォクシー海賊団全員に待ったをかける。

 どう考えてもつじつまが合わない、あり得ない今の状況に対し、フォクシー海賊団の誰一人として疑問を抱いていない。

 つまりこの現象について、彼らは全てを理解しているという事だ。

 

「勝ってたじゃねェか…!!! ……寸前まで…」

「寸前までな‼︎」

「ぶははははははは!!!」

「ナミさん………!!?」

 

 食ってかかるサンジの、その狼狽ぶりが可笑しくてたまらないと、フォクシー海賊団がみなで爆笑し始める。

 ルフィはすぐさま、未だ立ち直れていないナミ達の元に駆け寄った。

 

「おい‼︎ ウソップ、ナミ、ロビン‼︎ どうしたんだ‼︎」

「大丈夫か!!?」

 

 ルフィ達の呼びかけに、ウソップもナミも何も答えられない。

 ロビンでさえ、愕然とした様子で項垂れ、冷や汗を流して黙り込んでいた。

 

「……………………何がどうなったのか」

「おい…‼︎ おれ達ァ敗けたのか!!?」

「勝ったと思ったらお前ら急にノロくなって…‼︎ 抜かれちまったぞ!!?」

「――ええ、勝ったと思った瞬間…」

 

 三人とも、そしてそれを目撃したルフィ達も、何が何だかと言った様子で立ち尽くす。

 そんな彼らに、高らかに嗤いながらフォクシーが語り始めた。

 

「フェ〜〜〜ッフェッフェッ…何も不思議がる事ァねェよ、その原因は〝ノロマ光子〟!!!」

「〝ノロマ光子〟だと…?」

「この世に存在するまだまだ未知の粒子だ‼︎」

 

 それは、まさに悪魔の力だった。

 生物でも液体でも気体でも、その粒子を受けた物体は他の全てのエネルギーを残したまま、物理的に一定の速度を失う。

 つまり、触れたもの全てがノロくなる力を持った粒子。

 

 それを体から発する事ができるようになったのが自分なのだと、フォクシーは語ってみせた。

 

「目を疑うだろう、これが…!!! ノロノ…」

 

 デモンストレーションとして、部下が放った砲弾をノロくし、空中でゆっくりにさせてみせるフォクシー。

 効果の持続時間である30秒が過ぎたその瞬間、速度を取り戻し炸裂した砲弾に吹っ飛ばされていたが、その能力の凄まじさは確かであった。

 

「オヤビーン!!!」

「…畜生。つまり、アレにやられたのか……」

「…あんなのでレースを妨害されたら…‼︎」

「こいつらのこのゲームへの妙な自信の根源はコレか…!!! フザケた能力、持ってやがる…‼︎」

「とにかくお前達‼︎ わかったでしょ⁉︎ お前達は敗けたのよ!!!」

「第一回戦『ドーナツレース』!!! おれ達の勝ちだ!!!」

 

 黒こげになったフォクシーが、どよめくルフィ達に告げる。

 最初から妨害行為が認められたゲームである以上、それに反論する権利は与えられていない。認めるしかなく、一味は悔し気に歯を食い縛っていた。

 

『第一回戦、決着〜〜!!! さァさァでは待望の戦利品‼︎ 相手方の船員1名‼︎ 指名してもらうよっ‼︎ オヤビン‼︎ どうぞ〜〜〜〜〜っ‼︎』

 

 イトミミズの進行で、仲間の交換が始まる。

 フォクシーは不気味に嗤いながら、緊張で身を固くし、あるいは不安で青い顔になる相手チームを見渡した。

 

「まずは一人目…おれが欲しいのは………!!! お前…‼︎」

 

 彼の指が、ゆっくりと一人を示す。

 リンに車椅子を押され、黙り込んでいるルフィたちを心配そうに見つめている、天使の翼を持った少女を。

 

「錬金術師!!! アイザック・エレノア!!!」

「……へ?」

 

 唐突に名を呼ばれたエレノアは、思わず間抜けな表情で固まってしまうのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。