ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第166話〝返せ!〟

「ぷぷっ‼︎ ミンチになれ――――っ!!!」

 

 縦に並ぶ三体の怪物達。

 その先頭に立つハンバーグが、ゾロ達を叩き潰そうと棍棒を振り回す。

 

 迫り来る鋼鉄の塊を前に、チョッパーが懐から取り出した丸薬を噛み砕き、呑み込んだ。

 

「ランブル‼︎ 脚力強化(ウォークポイント)‼︎」

 

 獣の姿に戻り、ザッザッと地面を掻く。

 蹄を地面に突き立てたチョッパーは、次の瞬間凄まじい加速を見せ、ハンバーグの目前に急接近した。

 

「!!? ぷ…速…」

「〝刻蹄〟『菱形(ダイヤモンド)』!!!」

 

 目を見開くハンバーグの前で、チョッパーはさらなる変形を見せる。

 両腕の筋肉を異様に膨張させた、必殺の形態。それから放たれる蹄の一撃がハンバーグの鳩尾に叩き込まれ、一瞬で彼の意識を刈り取った。

 

「リーダー!!!」

「〝木犀型斬(ブクティエール)シュート〟!!!」

 

 ハンバーグの後ろのピクルスが、ぐらりと体を傾がせるハンバーグを案じて叫ぶ。

 だがその時には既に、後ろに下がったチョッパーと交代する形で割って入ったサンジが、ハンバーグの顎に強烈な襲撃を食らわせ、空中に吹き飛ばしているところだった。

 

「まずいど…!!! おいビッグパン‼︎ クラッシュを止めろ!!!」

「………………………………は?」

 

 自分の頭上を越えていくハンバーグに、ピクルスが焦りの声を上げる。

 白目を剥いたハンバーグはそのまま、ガシャンガシャンと巨大円盤を叩き合わせるビッグパンの手元に向かっていく。

 

 直後、ハンバーグはビッグパンのクラッシュに巻き込まれ、真っ平らに叩き潰されてしまった。

 ひらひらと飛んでいくハンバーグを目にして、ようやくビッグパンは自分の失態に気付き、顔面を蒼白にさせ始めた。

 

「リーダー!!! おめェよくも!!!」

 

 味方が一人、あまりにあっけない形でやられたことで、怒りに震えるピクルスが刃の回転を加速させる。

 サンジとチョッパー、二人まとめて斬り刻もうとしたその時、不敵に笑うゾロが立ち塞がる。

 

「チーム戦だ、忘れるな」

「………!!! コノ!!! 刻んでやるどォ!!!」

 

 丸腰の剣士に一体何ができる、とピクルスは標的をゾロに変えて迫る。

 しかしゾロは一切慌てる様子を見せず、手に何も武器を掴まぬまま、まるで剣を手にしているかのように身構える。

 

「〝無刀流〟………〝龍〟!!!〝巻き〟!!!」

 

 カッ!と目を見開き、ゾロが引き絞った両腕を振るう。

 直後、ゾロを中心に凄まじい暴風が吹き荒れ、回転を続けるピクルスが勢いをそのままに空中に吹き飛ばされた。

 そして宙を舞ったピクルスの刃は、ビッグパンの前身をズタズタに斬り裂いた。

 

「ぶしゃアアアア!!!」

「!!? わあ!!!」

「ビッグパンが!!! ピクルスの回転剣の餌食に‼︎」

「うわ――――――っ!!! しまったど、チキショ〜〜〜!!!」

 

 味方を自分で傷つけてしまったピクルスは、激痛で意識を混濁させるビッグパンに酷く狼狽を見せる。

 グラグラとよろめく魚巨人が、ゆっくりと背中から倒れ込みそうになる寸前、傾いたビッグパンの背中にサンジの蹴りが炸裂する。

 

「〝反行儀キックコース〟!!!」

 

 凄まじい一撃に、倒れそうだったビッグパンが無理矢理起き上がらされる。

 意識も定かではない魚巨人。倒れていれば、巨体を引きずってゴールに叩き込む必要があったのにと、ピクルスが地面に着地し歯噛みする。

 ビッグパンの正面に回り込むサンジの前に立ちはだかり、ピクルスは再び刃を構えた。

 

「イヒヒ‼︎ ここは通さんど〜〜!!!」

「邪魔なんだよ、お前も審判も」

「え?」

 

 ぎろり、とサンジの目がピクルスを射抜く。

 かと思った時には、鋭い蹴りがピクルスの顔面に突き刺さり、勢いよくぶっ飛ばされていた―――審判に向かって。

 

『客席に‼︎ ……いや審判に直撃〜〜〜!!!』

「ハア…!!! 故意にだ……!!! く…ハア…審判に……ハア、よぐも。レッドカー……………あれ?」

 

 血反吐を吐き、ピクルスごと倒れ込んだ審判が、一度サンジに蹴り飛ばされたことを思い出し怒りに震える。

 退場処分として、レッドカードと笛を取り出そうとするが、どこを探しても見当たらない事で焦り出していた。

 

「手癖が悪くて、ごめんヨ?」

 

 わたわたと慌てる審判を見下ろし、ペロッと舌を出したリンが小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 そんな暗躍があったことなど知らぬまま、さらに変形したチョッパーが、ゾロの剛腕とサンジの剛脚の上に乗り、発射準備を整えていた。

 

「〝飛力強化(ジャンピングポイント)〟‼︎」

「〝空軍(アルメ・ド・レール)パワーシュート〟!!!!」

 

 二人の強力な助力により、チョッパーが真っすぐに宙を進む。

 最後の変形で、重量の強化を果たした彼は、未だ直立を保っているビッグパンの顔面にしがみつき、全体重をかけて体勢を崩させる。

 

 魚巨人が倒れ込む方向は勿論、相手チームのゴールのど真ん中だ。

 

「「オオオオオ〜〜!!!」」

「まさか‼︎ 無敵のグロッキーモンスターズがァ!!!」

「ウソだー!!!」

「ア〜〜!!!」

 

 正気を疑う信じられない光景に、フォクシーを筆頭とした海賊団全員が目を見開き、悲鳴をあげる。

 ルフィ達のみが、歓声を上げてその瞬間を待ち侘び、不敵な笑みを浮かべたエレノアが、雄叫びを上げるチョッパーに向けて鋭く吠える。

 

「行け!」

 

 やがてついに、魚巨人の巨体が地面に倒れ込み、頭頂部につけられたボールがゴールの真ん中に叩きつけられる。

 直後、戦いを見届けた男達の凄まじい怒号と喝采が、辺り一面から放たれたのだった。

 

『ゴ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ル!!!』

「やったー‼︎ 勝ったぞ〜〜〜〜!!!」

「やったぞー‼︎ うお―――‼︎ こんちきしょーうお――!!!」

 

 幾つもの苦難を乗り越え、仲間の失態を払しょくしてみせた三人に、ウソップが号泣しながら歓喜をあらわにする。

 悲喜こもごもの声が挙がる中、呻き声を上げる審判の元に、ナミが笛を手に近づいた。

 

「あら審判、お目覚めね。早く笛を吹いて!」

「ホラ早く早く!」

「お…おお、そうだ‼︎ あいつの審判に対する態度は大反則‼︎ 退場させてやる‼︎」

 

 促されるまま、もう片方の手にレッドカードを持たないまま、審判が力いっぱい笛を吹き鳴らす。

 これにより、この試合におけるフォクシー海賊団の敗北が決定され、さらなる悲鳴と喝采が湧きあがるのだった。

 

『そして今、試合終了のホイッスル!!! グロッキーリング決着〜!!!』

「……………⁉︎ え?」

「じゃ、ご苦労様♡」

「え?」

『デービーバックファイト二回戦‼︎ 無敵のチーム、グロッキーモンスターズをくだし‼︎ ゲームを制したのはな〜〜んと‼︎ 麦わらチ〜ム!!! 大勝利〜〜〜っ!!!!』

 

 イトミミズが興奮した声を上げ、敵チームであるにもかかわらず喝采が止む様子がない。

 耳に刺さる程のその声に顔をしかめつつ、エレノアは深く息をついた。

 

「やれやれ…これでやっと戻れる」

「オイオイいいのか⁉︎ あっちに戻ってホントにいいのか!!?」

「いーからいーから。あ、ちょっと押してくれる?」

「お、おう…」

 

 エレノアの身を案じ、心配する声をかけてくれる一味の一人にひらひらと手を振る。釈然としない気持ちのまま、男はエレノアの車椅子を一味の前まで運んでやった。

 

『さ――それじゃあ二回戦の勝者麦わらチームには、フォクシー海賊団から船員1名、もしくは海賊旗を奪う権利が与えられるよ〜〜っ‼︎ 麦わらの一味船長はだ〜〜〜れが欲しいのかな!!?』

「…………もう決まってんじゃねェか」

 

 イトミミズの疑問の声に、ルフィは今さら何を聞いているのかと険しい顔を向ける。

 最初の戦いに敗れた時から、ゾロ達は奪われた物を奪い返すために戦っていたのだ。今更別の者を欲しがるはずもなく、ルフィも最初からそのつもりであった。

 

「じゃあエレノ」

「ちょっと待って、ルフィ‼︎」

「え〜〜〜〜っ!!?」

 

 いざその名を呼ぼうとしたその時、突如ナミがルフィの口を塞ぎ、エレノアが愕然とした声を上げる。

 いったいなぜ、とどよめく衆目の前で、ナミは先程気付いたこの戦いにおける必勝法について語り始めた。

 

「三回戦は一対一の決闘よね。出場選手はルフィとオヤビンだけ。じゃあ今オヤビンを取っちゃえば三回戦は不戦勝になって…もうこれ以上戦う事もなく、エレノアを取り戻せるんじゃない?」

 

 何故こんな簡単なことに気付かなかったのか、と本気で訝しげな様子のナミ。

 彼女のその提案に、ルフィ達は勿論、フォクシー海賊団全員が唖然とした表情で固まり、一斉に声を上げた。

 

『ピ…ピーナッツ戦法だ〜〜!!!』

「見損なったぞおめェら〜〜〜っ‼︎」

「このピーナッツ野郎〜‼︎」

『信じ難い!!! 耳を疑う悪魔の提案、人に非らずその女‼︎ その名も「外道」!!! 航海士ナミ〜〜〜!!!』

 

 途端に向けられる批判の声に、傷付いたナミがロビンに縋りついて泣き始める。

 レディが責められる姿に、サンジが怒りをあらわにするが、女性陣以外の麦わらの一味も受け入れ難そうな表情を見せていた。

 

「まァ…気に入らんわなァ」

「向こうサンの言う通りだと思うゾ」

 

 エレノアとリンも同じ考えのようで、じとっとした目をナミに向けて眉間にしわを寄せている。

 卑怯・卑劣な手段は咎めずとも、勝負自体に譲れぬ矜持があるようで、そこら中からブーイングが飛んできていた。

 

「うるさいってのよあんた達!!! 調子に乗ってんじゃないわよ」

「「「すいませんでした」」」

 

 止まらない批判の声に、さめざめと涙を流していたナミがついにキレる。

 恐ろしい迫力に途端に声は止み、従わざるを得ない状況が出来上がってしまう。

 

 しんと静まり返ったその空気の中で、ふとロビンがあることを指摘した。

 

「ねえ航海士さん。あなたの提案、確かにここで決着をつけられるけど、同時にオヤビンが仲間になっちゃうわよ」

「え」

「「「「「あれはいらねえ」」」」」

 

 ロビンの言葉に、ナミはハッと目を見開き驚愕し、ルフィ達がそれにいやいやと手を振って拒絶を示す。

 激しいショックを受けた様子で膝をついたフォクシーをよそに、気持ちを切り替えたルフィがエレノアに向けて呼びかけた。

 

「エレノア!!! 帰って来い!!!」

「は〜い」

「いや軽ィな!!!」

 

 まるで少しばかり遊びに出ていただけのような気軽さで返事を返し、キィキィと車椅子を押して戻ってくるエレノア。

 その彼女の通り過ぎた後で、暗い顔で俯いたフォクシーが、がっくりと肩を落として重い雰囲気を醸し出していた。

 

「うわー‼︎ オヤビンが気持ちの重さで地面にメリ込んでるぞー!!!」

「あいつら口を揃えてオヤビンをいらねェなんて‼︎」

「いやんオヤビン、私達にはあなたが必要ですよっ!!!」

「オヤビーン‼︎」

 

 心無いルフィ達の拒絶の言葉で、戦いが始まる前から心を折られてしまった船長に、彼の部下達から励ましの声がぶつけられる。

 

「オヤビン‼︎ 三回戦のコンバットで目にもの見せてやりましょうぜ‼︎」

「そうだぜ‼︎ 楽しみだ‼︎ 三回戦‼︎」

「愛してるぜオヤビーン!!!」

「オヤビーン‼︎」

「…………おめェら…」

 

 数百人もの部下達、その全員が彼を必要とし、立ち上がって貰おうと声を上げる。その温かさに涙し、フォクシーの身体に徐々に力が戻って来る。

 

 が、そんな彼らに向けて、ゾロがボソッと冷たい言葉を吐いた。

 

「茶番はいいから次いけよ」

「「「オヤビーン!!!」」」

 

 途端にまた、フォクシーが地面に頭をめり込ませるほどに落ち込む。

 またしてもグダグダになる勝負の進行に、良い影泣き合騎士始めていたエレノアがため息をこぼし、フォクシーに向けて声をかける。

 

「やれやれ………オヤビンさーん! 私、早く次のオヤビンさんの戦い見たいなー!」

「よーし、そこまで言われちゃ仕方ねェ!!!」

「「「オヤビーン!!!」」」

 

 男心をくすぐる、媚びるような響きのその言葉に、フォクシーは一瞬で復活しシャキーンと天に指を突き上げる。

 わーわーと騒がしくなる一味に冷めた目を向けたエレノアは、フッと鼻を鳴らしながらルフィ達の方に向き直った。

 

「はい、復活」

「悪女ね」

「見習いたいわ」

「…女って怖エー」

 

 瞬く間に落ち込む男を奮い立たせてみせたエレノアに、ナミとロビンが思わず感嘆の視線を向ける。

 今後、彼女のやり口を何かしらに利用する気満々でいる女性陣に、顔を引き攣らせたリンが小さく呟いた。

 

 場の空気が落ちつき出した頃合、フォクシーがいつもの不気味な笑みを湛え、ルフィ達に振り向いた。

 

「ホイホイホイ、いいかお前ら……!!! 三回戦の〝コンバット〟、おれに勝つ事は〝不可能〟だと言っておく!!!」

 

 ビシッ、と人差し指を突き付け、自信満々に告げるフォクシー。

 根拠の知れないその態度に黙り込むルフィ達に、フォクシーはにやにやと小馬鹿にしたような笑みを浮かべてみせる。

 

「最終戦で取られた船員はもう取り返せねェ、誰が取られてもいいように…身支度を整えておけよ…」

「何をー⁉︎ おれがお前に敗けるかァ!!!」

「フェッフェッ…………ケンカとゲームは………違うんだぜ」

 

 勇ましく吠えるルフィを嘲笑う、意味深な台詞。

 異様ともいえるその自信の強さに、一味は思わず、ごくりとつばを飲み込んでいた。

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