ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
『さーてさて第二回戦、誰も予期しなかった〝グロッキーモンスターズ〟の敗退により、両組メンバー移動はこれで0に戻ったよ‼︎』
拍手喝采が鳴り止まない会場で、イトミミズの司会が続く。
呆気なく終わるかと思われた戦いが、決して諦めない男達の奮闘により覆されたことで、次の試合への期待が高まっていた。
『波瀾のデービーバックファイト‼︎ 最後のこの一戦が運命の鍵をにぎる〜〜!!! 種目はそう、みんなもお待ちかね!!! ゲームの花形!!!「コンバット」ォ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!』
「待ってたぜ――!!!」
「早くやれ〜〜っ‼︎」
『さァ〜〜ア、フィールドメイクを始めるよ〜〜〜っ‼︎』
血まみれのゾロ、サンジ、チョッパーの負傷箇所に、エレノアが車椅子に乗ったまま包帯を巻いていく。
フォクシー達につけられた仮面を懐にしまいながら、ホッと安堵の視線を三人に向けていた。
「おつかれ、三人共。特にあんたはよく吠えたぞ、チョッパー」
「エヘヘ〜、ほ、ほめたってなんも出ねェぞコノヤロ〜〜〜‼︎」
「まあひとえに」
「おれのお陰だけどな」
「「あ⁉︎」」
「やめなさい」
またしても無駄な喧嘩を始めそうになるゾロとサンジに、ナミが険しい表情で拳骨を落とす。
呻く二人に苦笑しながら、エレノアはスッと目を細めて口を開く。
「……本当に、よくやったもんだよ。ごめんね、こんな大事な時に何もできなくって」
「怪我人が何言ってやがる」
「そうだぞ!!! お前はむしろ動くな!!! 黙って見てろっつただろ!!!」
「エレノアちゃんのためなら!!! おれはたとえ火の中でも水の中でもよォ!!!」
「ハイハイ………サンジ君、いい加減にしないとエースが殺しに来るわよ」
「そりゃこえェ」
「怒るだろうなァ、エースの奴」
神妙な声を漏らして俯くエレノアに呆れた視線を返し、一味はけらけらと上機嫌に笑う。最もボロボロの姿をした者が何を気に病んでいるのやら、と。
だがその輪の中に、エレノアはいない。
明るい空気の一味を見つめ、どこか思いつめたような顔をしている天使の少女に気付いたのは、リンだけしかいなかった。
「…ようやく始まるみたいだね」
『ライン設置完了、お待たせ致しましたァ‼︎ 本日のメ〜〜〜インイベントッ!!! 「コンバット」!!! ま〜〜もなくゴングだよ〜〜〜っ!!!』
第二回戦を終えてから始まっていた、次なる戦いの準備。
最初の砲弾で決まったフィールドを見やすくするように建てられる、巨大な観客席に案内されながら、麦わらの一味は船上を見下ろす。
『さ〜〜て今回の対戦はこの二人!!! 図らずも船長対決〜〜〜!!!』
最初から舞台に決まっていたセクシーフォクシー号の甲板上に用意された、二つのゲート。その奥からスチームが噴き上がり、それぞれ人影が進み出てくる。
陽の光の下に辿り着くと、人影は纏っていたマントを脱ぎ捨て、一対一の真剣勝負の為の聖なる装いをあらわにした。
『まずは来る者拒まず!!!「コンバット」無敗伝説920勝‼︎ 全ての勝負に勝つ男!!! フォックスヘッドのレフトコーナーより入場、我らがオヤビン!!! 〝銀ギツネ〟のフォクシー!!!』
「フェッフェッフェ!!!」
『さァそして対するは〝東の海〟出身‼︎ 少数派海賊団のリーダー!!! 懸賞金一億Bの男!!! ライトコーナーより入場‼︎ 通称〝麦わら〟!!! モンキー・D〜〜〜‼︎ ルフィ〜〜!!!』
「うが――――っ‼︎」
『デービーバックファイト、運命の第三回戦「コンバット」始まるよ〜〜〜〜!!!』
それぞれセコンドに見送られながら、甲板に現われたルフィとフォクシー。
二人ともボクサーパンツに上半身は裸、そしてグローブのみというシンプルな格好だ。
異なる点と言えば、ルフィが被っているアフロのカツラだけだ。
「ア――イエー!!!」
『さ〜〜〜‼︎ 待ちに待ったメインイベント‼︎ 両選手がバトルフィールドに足を踏み入れたよ!!!』
「ワキを締めてけ‼︎ そして見せてやれ‼︎ 黄金の右!!!」
「オウ‼︎ 早くゴング鳴らせ!!!」
「オイオイやるじゃねェか!!! ヒューウ、なんて野生的なスタイルだ!!! 敵ながら天晴れだぜ!!!」
一体どこの誰のマネなのか、奇妙な雄叫びを上げるルフィに、セコンドとなったウソップが激励を送る。
その姿を目にしたフォクシーは、思わずといった様子で感嘆と称賛の言葉を贈っていた。
「なんか通じ合ってるし…」
「…………ウソップがセコンドについたの間違いだろ」
「……………!!!」
「何ダァ…ありゃ⁉︎ スゲェ……なんかわからんけどスゲェ!!!」
「やるなァ‼︎ ブラザー、魂が燃えたぎってる」
「まじめにやってほしいわ」
「ウフフ、素敵じゃない」
「ハッハッハッハ、せいぜいノド元に食いつかれねェ様に気をつけない!!!」
呆れた表情のゾロに、頭を抱えるナミとエレノア、楽しそうに笑うロビン。
そのほかの男性陣は何やら衝撃を受けた顔で固まり、キラキラと輝く目を向けてわなわなと震えるばかり。何かが心に刺さったらしい。
『それではセコンド‼︎ 邪魔なので引っ込んでくれよっ‼︎』
「早ェな‼︎ もう終わりかセコンドの役目は‼︎」
「なんの意味があったのそれ!!?」
騒ぐだけ騒いで退場させられていくウソップに、エレノアが愕然とした声を上げる。
無駄としか思えないやり取りを終えてから、フォクシー号の甲板から人が引き上げ、最後の選手であるルフィとフォクシーの二人だけにされる。
『さて今回の舞台は偶然にも我らの船セクシーフォクシー号‼︎ 甲板も内部もその全てがバトルフィールドになってしまったよ〜〜〜っ!!! 直径100mの円から放り出されるのは一体どっちだ!!? 時間は無制限!!! 一本勝負!!!「コンバット」ォ〜〜〜〜!!!』
より一層の歓声が上がり、びりびりと空気が震える。
鬱陶しそうに自分の耳を塞ぐエレノアだが、不満を口にする野暮な真似はせず、黙って船長同士の戦いに集中する。
向かい合うルフィとフォクシーは、それぞれの闘志を高め続けていた。
『広い決闘場に残されたのはたった二人の海賊!!!』
「フェッフェッフェ…さて麦わらのルフィ…‼︎ 楽しく行こうじゃねェかよう‼︎この船まるごと戦場だ!!! 思う存分暴れて結構‼︎ ウチには優秀な船大工がたくさんいるからなァ‼︎」
「いいなー‼︎」
「頼むぜオヤビーン‼︎」
「コラ麦わらァ!!! ナイスファッショ…‼︎ ノされちまえェ!!!」
「ルフィ!!! 勝て‼︎ とにかく勝て!!!」
「ビームに気をつけるのよ‼︎ ビーム!!!」
「好きなだけ暴れろ船長ォ‼︎ …ゲッホ」
フォクシー海賊団の面々からは、野次なのか応援なのかよくわからない声が上がり、ナミ達もそれに負けじと声を張り上げる。
敵の声も味方の声も混じり合い、やがて巨大な轟音となって、会場中を駆け巡っていた。
『さァさァさァ、会場を熱気が包み込むよっ‼︎ 仲間を奪るか奪られるか!!! もう後がないっ!!! デービーバックファイト最終戦!!!〝銀ギツネ〟のフォクシー!!! VS!!!〝麦わら〟のルフィ!!! 両海賊団主力対決に、その全ての命運がかかるっ!!! ――そして今…!!!』
一瞬の間の後、カーン‼と甲高いゴングの音が響き渡る。
その瞬間、ピリピリと張りつめていた糸が弾け、船長達の闘志が解き放たれた。
『決戦のゴング〜〜〜ッ!!!』
「いくぜィ!!!」
「おう!!!」
大勢の歓声を浴びながら始まった、二人の船長による激突。
拳を繰り出すルフィと、ビームを放つフォクシーを様子を見下ろしながら、リンが隣に座るエレノアに話しかけた。
「どう思ウ? あのアフロ……だっケ? あの野生の力は確かに見事だが、ヤツを倒す決定打にはならないだロ」
「………あの髪型のどこにパワーアップ要素があるのさ」
完全に、チョッパーやサンジ同様にアフロの魅力にやられているらしい青年に、エレノアは険しい表情で肩を落とす。
深いため息をつきながら、エレノアは甲板に視線を戻し、難しい顔で語り始めた。
「ルフィは基本的に打撃が効かないゴム人間、相手は物体の移動速度が鈍くなるノロノロ人間………同じ能力者での対決の場合、本人の実力がモノを言うけど………それは同じ条件下にある場合のみ」
エレノアの解説に、ナミやウソップが頷き、近くに座っているフォクシー海賊団の者達もなるほどと顎を撫でる。
何故だか思っていた以上に視線を集めている事を訝しみながら、コホンと咳ばらいをこぼしたエレノアは再び口を開く。
「あそこは完全に向こうの陣地、何が出てきてもおかしくはない。それをどうやって攻略できるかが、この戦いの勝敗のカギを握るんだと思うよ」
それからの戦いは、エレノアの予想通りフォクシー側にばかり有利な展開が続いた。
ノロノロビームで鈍くされた身体に襲い掛かる、フォクシーのラッシュ。続けて襲い掛かる船内の罠の数々。
驚異的な身体能力で躱し続けるルフィだが、予想のつかない不意打ちの連発により、決定打を撃ち込めずにいる。
挙句、フォクシーが船内に入り込んでしまったために、戦いの様子が外からは全く分からなくなってしまったのだ。
『――さて、デービーバックファイト三回戦「コンバット」‼︎ 我々には状況がさっぱりわからず、船の中ではおそらく壮絶な一騎討ちが行なわれているハズだよ〜〜〜‼︎』
「オヤビン‼︎」「オヤビン‼︎」「オヤビン‼︎」
『姿は見えずとも会場に響くオヤビンコール‼︎』
戦いの様子が見えずとも、観客席はフォクシーの勝利を確信している様子を見せている。
対する麦わらの一味の間にとは、相手が相手であるためか、ひどく緊張した空気が流れていた。
「敗けやしねェよ………‼︎」
「そうさ、ルフィだもんな」
「ルフィで……‼︎ アフロだからだ‼︎」
「ルフィだからで充分だろ……あんなクソギツネ」
「アフロも重要だロ」
「なんでアフロをパワーアップだと解釈してるの?」
「知らない……私に聞かないで」
「だけど強そうに見えたわ」
ごくりと息を呑むチョッパーやウソップ、憮然と構えているゾロサンジとリン、それにツッコミを入れるナミとエレノア。
ロビンにいたっては、楽しそうにニコニコと笑みを浮かべていた。
「いつもよりだいぶ時間くってるな」
「ゴム人間だからな」
「ゴム人間で…アフロだもんなァ」
「だから何でそれ関係あるの?」
フォクシー海賊団の方でも、ルフィの底知れない力を察し始めてか、少しずつではあるがざわめきが広がっている。
勝利を確信していても、何かあるかもしれないと思い始めているようだ。
そして、姿の見えない戦いが始まってから数分が立った時、セクシーフォクシー号の甲板で大きな爆発が起こった。
『おっと甲板で動きがあったよ!!! さァ形勢はどっちだ!!? はたまた勝負がついたのかな〜〜〜〜⁉︎』
黙々と立ち上っていく煙、そしてその中から露わになってくる人影。
片方は立ち、片方は甲板に伏しているという、優勢が一発でわかるその様子に、敵味方双方からどよめきが上がった。
『影が二つ‼︎ 立っているのはオヤビンだ〜〜〜〜〜!!! オヤビ〜〜ン!!!』
両腕を掲げ、ニヤついた笑みを見せるフォクシーの姿に、観客席から大歓声が上がる。
反対に、黒焦げで倒れ込むルフィを見た麦わらの一味には、激しい動揺が広がった。
「うわー!!!」
「ルフィ〜〜〜!!!」
「ばかな…」
「どうしてただのパンチでコゲるのよ‼︎ 何したの!!?」
明らかに卑怯な罠に巻き込まれたことだけはわかったが、それを今更指摘したところで何の意味もない。
これで終わりなのか、と最悪の未来を想像し始める。
「! 見て」
しかし、ロビンがそれに気付き、ナミ達に伝える。
確定した勝利を宣言するように、悠々とその場に仁王立ちしポーズを取っていたフォクシー。
その背後で、ふらふらとよろめきながら、強い気迫を放つ目を光らせたルフィが、立ち上がって拳を構えていたのだ。
『立った〜〜〜〜‼︎ 麦わらのルフィ!!! もうK・Oかと思いきや、立ち上がったよ〜〜〜‼︎』
「――――ギリギリじゃねェかよう、麦わらァ……………」
満身創痍のルフィを嘲笑いながら、フォクシーは再びルフィに向き直る。
その手が向けられ、例の怪しい光が放たれた瞬間、エレノアがハッと目を見開いた。
「! まずい…!」
「〝メガトン九尾ラッシュ〟!!! ラ〜ッシュ!!!」
鈍くされた身体に、フォクシーの拳が連発で叩き込まれる。
鈍くなっている間の衝撃が蓄積され、30秒後に同時に炸裂。強烈な一撃となって、ルフィを吹き飛ばす。
立ち上がるだけで精一杯な彼への、無慈悲な追い打ちであった。
『今度こそ…!!! いやまだ!!!』
だが、それでもルフィは立ち上がった。
体を揺らしながら、目の焦点をやや失いながら、それでもなおフォクシーを見据え、拳を構え続けていたのだ。
『立ったァ!!! 麦わらのルフィ〜!!!』
「〝ノロノロビ〜〜ム〟!!!〝メガトン九尾ラ〜〜ッシュ〟!!!」
わずかに引き攣った顔で、フォクシーは再びビームを放ち、拳の連打を浴びせかける。
先ほどと同じように炸裂し、吹っ飛ばされるルフィ。だが、今度こそ終わったと思った矢先、彼は再びその身を奮い立たせ、立ち上がっていた。
「まだか⁉︎」
「…おれの仲間は…誰一人……!!! 死んでもやらん!!!!」
さすがに驚愕するフォクシーに、ルフィがフラフラの状態のまま告げる。
突けば今にも倒れそうな、しかしその度にも戦おうともがく不屈の意志で、青年はそこに立ち続けていた。
『恐るべき気力でまた立ち上がった、麦わらのルフィ〜〜!!! 倒されても…………!!! 倒されても立ち上がる!!!』
「何だつうんだ、おめェはよう…!!!」
『足元をふらつかせ………‼︎ 息も絶え絶えに…しかし‼︎ まだ目を光らせて、彼は立ち上がる!!!』
司会のイトミミズの声が、感涙で震え始める。
ちっぽけな海賊一味の若き船長が見せる、命を懸けて意志を貫き通そうとする漢の姿に、滾る気持ちを抑えられなくなっていた。
『仲間の為!!! そうだ、これが「デービーバックファイト」!!! 私、涙で…!!! 涙で前が見えばぜん!!!』
「ルフィ〜〜!!!」
『ルフィ〜〜!!!』
「ルフィ――!!!」
もはや、向けられる声援に敵も味方も関係がない。
全員涙を流し、心を震わせ、強敵に立ち向かう誇り高き青年の勇姿を、雄叫びと共に凝視し続ける。
それは、一味に上がり込んだかの青年も同じ事だった。
「……面白いじゃないカ、こんな男がいたとはネ………ああ、そうだ。おれはこういう奴が見たくて、この海に出てきたんだ…!!!」
それはまさに、仲間を、大切なものを己の全てをかけて守り抜こうとする男の姿。
数多の人々を魅了し、遥か遠き先を見据えて覇道を歩まんとする、類稀なる力を有して生まれ出でる逸材。
ヤオ・リンが求め続ける、王の在り方そのものであった。