ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第167話〝麦わらVS銀ギツネ〟

『さーてさて第二回戦、誰も予期しなかった〝グロッキーモンスターズ〟の敗退により、両組メンバー移動はこれで0に戻ったよ‼︎』

 

 拍手喝采が鳴り止まない会場で、イトミミズの司会が続く。

 呆気なく終わるかと思われた戦いが、決して諦めない男達の奮闘により覆されたことで、次の試合への期待が高まっていた。

 

『波瀾のデービーバックファイト‼︎ 最後のこの一戦が運命の鍵をにぎる〜〜!!! 種目はそう、みんなもお待ちかね!!! ゲームの花形!!!「コンバット」ォ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!』

「待ってたぜ――!!!」

「早くやれ〜〜っ‼︎」

『さァ〜〜ア、フィールドメイクを始めるよ〜〜〜っ‼︎』

 

 

 

 血まみれのゾロ、サンジ、チョッパーの負傷箇所に、エレノアが車椅子に乗ったまま包帯を巻いていく。

 フォクシー達につけられた仮面を懐にしまいながら、ホッと安堵の視線を三人に向けていた。

 

「おつかれ、三人共。特にあんたはよく吠えたぞ、チョッパー」

「エヘヘ〜、ほ、ほめたってなんも出ねェぞコノヤロ〜〜〜‼︎」

「まあひとえに」

「おれのお陰だけどな」

「「あ⁉︎」」

「やめなさい」

 

 またしても無駄な喧嘩を始めそうになるゾロとサンジに、ナミが険しい表情で拳骨を落とす。

 呻く二人に苦笑しながら、エレノアはスッと目を細めて口を開く。

 

「……本当に、よくやったもんだよ。ごめんね、こんな大事な時に何もできなくって」

「怪我人が何言ってやがる」

「そうだぞ!!! お前はむしろ動くな!!! 黙って見てろっつただろ!!!」

「エレノアちゃんのためなら!!! おれはたとえ火の中でも水の中でもよォ!!!」

「ハイハイ………サンジ君、いい加減にしないとエースが殺しに来るわよ」

「そりゃこえェ」

「怒るだろうなァ、エースの奴」

 

 神妙な声を漏らして俯くエレノアに呆れた視線を返し、一味はけらけらと上機嫌に笑う。最もボロボロの姿をした者が何を気に病んでいるのやら、と。

 

 だがその輪の中に、エレノアはいない。

 明るい空気の一味を見つめ、どこか思いつめたような顔をしている天使の少女に気付いたのは、リンだけしかいなかった。

 

 

 

「…ようやく始まるみたいだね」

『ライン設置完了、お待たせ致しましたァ‼︎ 本日のメ〜〜〜インイベントッ!!! 「コンバット」!!! ま〜〜もなくゴングだよ〜〜〜っ!!!』

 

 第二回戦を終えてから始まっていた、次なる戦いの準備。

 最初の砲弾で決まったフィールドを見やすくするように建てられる、巨大な観客席に案内されながら、麦わらの一味は船上を見下ろす。

 

『さ〜〜て今回の対戦はこの二人!!! 図らずも船長対決〜〜〜!!!』

 

 最初から舞台に決まっていたセクシーフォクシー号の甲板上に用意された、二つのゲート。その奥からスチームが噴き上がり、それぞれ人影が進み出てくる。

 陽の光の下に辿り着くと、人影は纏っていたマントを脱ぎ捨て、一対一の真剣勝負の為の聖なる装いをあらわにした。

 

『まずは来る者拒まず!!!「コンバット」無敗伝説920勝‼︎ 全ての勝負に勝つ男!!! フォックスヘッドのレフトコーナーより入場、我らがオヤビン!!! 〝銀ギツネ〟のフォクシー!!!』

「フェッフェッフェ!!!」

『さァそして対するは〝東の海〟出身‼︎ 少数派海賊団のリーダー!!! 懸賞金一億Bの男!!! ライトコーナーより入場‼︎ 通称〝麦わら〟!!! モンキー・D〜〜〜‼︎ ルフィ〜〜!!!』

「うが――――っ‼︎」

『デービーバックファイト、運命の第三回戦「コンバット」始まるよ〜〜〜〜!!!』

 

 それぞれセコンドに見送られながら、甲板に現われたルフィとフォクシー。

 二人ともボクサーパンツに上半身は裸、そしてグローブのみというシンプルな格好だ。

 異なる点と言えば、ルフィが被っているアフロのカツラだけだ。

 

「ア――イエー!!!」

『さ〜〜〜‼︎ 待ちに待ったメインイベント‼︎ 両選手がバトルフィールドに足を踏み入れたよ!!!』

「ワキを締めてけ‼︎ そして見せてやれ‼︎ 黄金の右!!!」

「オウ‼︎ 早くゴング鳴らせ!!!」

「オイオイやるじゃねェか!!! ヒューウ、なんて野生的なスタイルだ!!! 敵ながら天晴れだぜ!!!」

 

 一体どこの誰のマネなのか、奇妙な雄叫びを上げるルフィに、セコンドとなったウソップが激励を送る。

 その姿を目にしたフォクシーは、思わずといった様子で感嘆と称賛の言葉を贈っていた。

 

「なんか通じ合ってるし…」

「…………ウソップがセコンドについたの間違いだろ」

「……………!!!」

「何ダァ…ありゃ⁉︎ スゲェ……なんかわからんけどスゲェ!!!」

「やるなァ‼︎ ブラザー、魂が燃えたぎってる」

「まじめにやってほしいわ」

「ウフフ、素敵じゃない」

「ハッハッハッハ、せいぜいノド元に食いつかれねェ様に気をつけない!!!」

 

 呆れた表情のゾロに、頭を抱えるナミとエレノア、楽しそうに笑うロビン。

 そのほかの男性陣は何やら衝撃を受けた顔で固まり、キラキラと輝く目を向けてわなわなと震えるばかり。何かが心に刺さったらしい。

 

『それではセコンド‼︎ 邪魔なので引っ込んでくれよっ‼︎』

「早ェな‼︎ もう終わりかセコンドの役目は‼︎」

「なんの意味があったのそれ!!?」

 

 騒ぐだけ騒いで退場させられていくウソップに、エレノアが愕然とした声を上げる。

 無駄としか思えないやり取りを終えてから、フォクシー号の甲板から人が引き上げ、最後の選手であるルフィとフォクシーの二人だけにされる。

 

『さて今回の舞台は偶然にも我らの船セクシーフォクシー号‼︎ 甲板も内部もその全てがバトルフィールドになってしまったよ〜〜〜っ!!! 直径100mの円から放り出されるのは一体どっちだ!!? 時間は無制限!!! 一本勝負!!!「コンバット」ォ〜〜〜〜!!!』

 

 より一層の歓声が上がり、びりびりと空気が震える。

 鬱陶しそうに自分の耳を塞ぐエレノアだが、不満を口にする野暮な真似はせず、黙って船長同士の戦いに集中する。

 向かい合うルフィとフォクシーは、それぞれの闘志を高め続けていた。

 

『広い決闘場に残されたのはたった二人の海賊!!!』

「フェッフェッフェ…さて麦わらのルフィ…‼︎ 楽しく行こうじゃねェかよう‼︎この船まるごと戦場だ!!! 思う存分暴れて結構‼︎ ウチには優秀な船大工がたくさんいるからなァ‼︎」

「いいなー‼︎」

「頼むぜオヤビーン‼︎」

「コラ麦わらァ!!! ナイスファッショ…‼︎ ノされちまえェ!!!」

「ルフィ!!! 勝て‼︎ とにかく勝て!!!」

「ビームに気をつけるのよ‼︎ ビーム!!!」

「好きなだけ暴れろ船長ォ‼︎ …ゲッホ」

 

 フォクシー海賊団の面々からは、野次なのか応援なのかよくわからない声が上がり、ナミ達もそれに負けじと声を張り上げる。

 敵の声も味方の声も混じり合い、やがて巨大な轟音となって、会場中を駆け巡っていた。

 

『さァさァさァ、会場を熱気が包み込むよっ‼︎ 仲間を奪るか奪られるか!!! もう後がないっ!!! デービーバックファイト最終戦!!!〝銀ギツネ〟のフォクシー!!! VS!!!〝麦わら〟のルフィ!!! 両海賊団主力対決に、その全ての命運がかかるっ!!! ――そして今…!!!』

 

 一瞬の間の後、カーン‼と甲高いゴングの音が響き渡る。

 その瞬間、ピリピリと張りつめていた糸が弾け、船長達の闘志が解き放たれた。

 

『決戦のゴング〜〜〜ッ!!!』

「いくぜィ!!!」

「おう!!!」

 

 

 

 大勢の歓声を浴びながら始まった、二人の船長による激突。

 拳を繰り出すルフィと、ビームを放つフォクシーを様子を見下ろしながら、リンが隣に座るエレノアに話しかけた。

 

「どう思ウ? あのアフロ……だっケ? あの野生の力は確かに見事だが、ヤツを倒す決定打にはならないだロ」

「………あの髪型のどこにパワーアップ要素があるのさ」

 

 完全に、チョッパーやサンジ同様にアフロの魅力にやられているらしい青年に、エレノアは険しい表情で肩を落とす。

 深いため息をつきながら、エレノアは甲板に視線を戻し、難しい顔で語り始めた。

 

「ルフィは基本的に打撃が効かないゴム人間、相手は物体の移動速度が鈍くなるノロノロ人間………同じ能力者での対決の場合、本人の実力がモノを言うけど………それは同じ条件下にある場合のみ」

 

 エレノアの解説に、ナミやウソップが頷き、近くに座っているフォクシー海賊団の者達もなるほどと顎を撫でる。

 何故だか思っていた以上に視線を集めている事を訝しみながら、コホンと咳ばらいをこぼしたエレノアは再び口を開く。

 

「あそこは完全に向こうの陣地、何が出てきてもおかしくはない。それをどうやって攻略できるかが、この戦いの勝敗のカギを握るんだと思うよ」

 

 

 

 それからの戦いは、エレノアの予想通りフォクシー側にばかり有利な展開が続いた。

 

 ノロノロビームで鈍くされた身体に襲い掛かる、フォクシーのラッシュ。続けて襲い掛かる船内の罠の数々。

 驚異的な身体能力で躱し続けるルフィだが、予想のつかない不意打ちの連発により、決定打を撃ち込めずにいる。

 

 挙句、フォクシーが船内に入り込んでしまったために、戦いの様子が外からは全く分からなくなってしまったのだ。

 

『――さて、デービーバックファイト三回戦「コンバット」‼︎ 我々には状況がさっぱりわからず、船の中ではおそらく壮絶な一騎討ちが行なわれているハズだよ〜〜〜‼︎』

「オヤビン‼︎」「オヤビン‼︎」「オヤビン‼︎」

『姿は見えずとも会場に響くオヤビンコール‼︎』

 

 戦いの様子が見えずとも、観客席はフォクシーの勝利を確信している様子を見せている。

 対する麦わらの一味の間にとは、相手が相手であるためか、ひどく緊張した空気が流れていた。

 

「敗けやしねェよ………‼︎」

「そうさ、ルフィだもんな」

「ルフィで……‼︎ アフロだからだ‼︎」

「ルフィだからで充分だろ……あんなクソギツネ」

「アフロも重要だロ」

「なんでアフロをパワーアップだと解釈してるの?」

「知らない……私に聞かないで」

「だけど強そうに見えたわ」

 

 ごくりと息を呑むチョッパーやウソップ、憮然と構えているゾロサンジとリン、それにツッコミを入れるナミとエレノア。

 ロビンにいたっては、楽しそうにニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「いつもよりだいぶ時間くってるな」

「ゴム人間だからな」

「ゴム人間で…アフロだもんなァ」

「だから何でそれ関係あるの?」

 

 フォクシー海賊団の方でも、ルフィの底知れない力を察し始めてか、少しずつではあるがざわめきが広がっている。

 勝利を確信していても、何かあるかもしれないと思い始めているようだ。

 

 そして、姿の見えない戦いが始まってから数分が立った時、セクシーフォクシー号の甲板で大きな爆発が起こった。

 

『おっと甲板で動きがあったよ!!! さァ形勢はどっちだ!!? はたまた勝負がついたのかな〜〜〜〜⁉︎』

 

 黙々と立ち上っていく煙、そしてその中から露わになってくる人影。

 片方は立ち、片方は甲板に伏しているという、優勢が一発でわかるその様子に、敵味方双方からどよめきが上がった。

 

『影が二つ‼︎ 立っているのはオヤビンだ〜〜〜〜〜!!! オヤビ〜〜ン!!!』

 

 両腕を掲げ、ニヤついた笑みを見せるフォクシーの姿に、観客席から大歓声が上がる。

 反対に、黒焦げで倒れ込むルフィを見た麦わらの一味には、激しい動揺が広がった。

 

「うわー!!!」

「ルフィ〜〜〜!!!」

「ばかな…」

「どうしてただのパンチでコゲるのよ‼︎ 何したの!!?」

 

 明らかに卑怯な罠に巻き込まれたことだけはわかったが、それを今更指摘したところで何の意味もない。

 これで終わりなのか、と最悪の未来を想像し始める。

 

「! 見て」

 

 しかし、ロビンがそれに気付き、ナミ達に伝える。

 

 確定した勝利を宣言するように、悠々とその場に仁王立ちしポーズを取っていたフォクシー。

 その背後で、ふらふらとよろめきながら、強い気迫を放つ目を光らせたルフィが、立ち上がって拳を構えていたのだ。

 

『立った〜〜〜〜‼︎ 麦わらのルフィ!!! もうK・Oかと思いきや、立ち上がったよ〜〜〜‼︎』

「――――ギリギリじゃねェかよう、麦わらァ……………」

 

 満身創痍のルフィを嘲笑いながら、フォクシーは再びルフィに向き直る。

 その手が向けられ、例の怪しい光が放たれた瞬間、エレノアがハッと目を見開いた。

 

「! まずい…!」

「〝メガトン九尾ラッシュ〟!!! ラ〜ッシュ!!!」

 

 鈍くされた身体に、フォクシーの拳が連発で叩き込まれる。

 鈍くなっている間の衝撃が蓄積され、30秒後に同時に炸裂。強烈な一撃となって、ルフィを吹き飛ばす。

 立ち上がるだけで精一杯な彼への、無慈悲な追い打ちであった。

 

『今度こそ…!!! いやまだ!!!』

 

 だが、それでもルフィは立ち上がった。

 体を揺らしながら、目の焦点をやや失いながら、それでもなおフォクシーを見据え、拳を構え続けていたのだ。

 

『立ったァ!!! 麦わらのルフィ〜!!!』

「〝ノロノロビ〜〜ム〟!!!〝メガトン九尾ラ〜〜ッシュ〟!!!」

 

 わずかに引き攣った顔で、フォクシーは再びビームを放ち、拳の連打を浴びせかける。

 先ほどと同じように炸裂し、吹っ飛ばされるルフィ。だが、今度こそ終わったと思った矢先、彼は再びその身を奮い立たせ、立ち上がっていた。

 

「まだか⁉︎」

「…おれの仲間は…誰一人……!!! 死んでもやらん!!!!」

 

 さすがに驚愕するフォクシーに、ルフィがフラフラの状態のまま告げる。

 突けば今にも倒れそうな、しかしその度にも戦おうともがく不屈の意志で、青年はそこに立ち続けていた。

 

『恐るべき気力でまた立ち上がった、麦わらのルフィ〜〜!!! 倒されても…………!!! 倒されても立ち上がる!!!』

「何だつうんだ、おめェはよう…!!!」

『足元をふらつかせ………‼︎ 息も絶え絶えに…しかし‼︎ まだ目を光らせて、彼は立ち上がる!!!』

 

 司会のイトミミズの声が、感涙で震え始める。

 ちっぽけな海賊一味の若き船長が見せる、命を懸けて意志を貫き通そうとする漢の姿に、滾る気持ちを抑えられなくなっていた。

 

『仲間の為!!! そうだ、これが「デービーバックファイト」!!! 私、涙で…!!! 涙で前が見えばぜん!!!』

「ルフィ〜〜!!!」

『ルフィ〜〜!!!』

「ルフィ――!!!」

 

 もはや、向けられる声援に敵も味方も関係がない。

 全員涙を流し、心を震わせ、強敵に立ち向かう誇り高き青年の勇姿を、雄叫びと共に凝視し続ける。

 

 それは、一味に上がり込んだかの青年も同じ事だった。

 

「……面白いじゃないカ、こんな男がいたとはネ………ああ、そうだ。おれはこういう奴が見たくて、この海に出てきたんだ…!!!」

 

 それはまさに、仲間を、大切なものを己の全てをかけて守り抜こうとする男の姿。

 数多の人々を魅了し、遥か遠き先を見据えて覇道を歩まんとする、類稀なる力を有して生まれ出でる逸材。

 

 ヤオ・リンが求め続ける、王の在り方そのものであった。

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