ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第168話〝仲間は渡さない〟

「いケ――‼︎ 麦わらー!!!」

「………勝て、ルフィ」

『湧き上がる会場は‼︎ ルフィコール!!! ―――かつてこれ程までにオヤビンを苦しめた敵がいたでしょうか!!?』

 

 拳を構え、フォクシーを見据えるルフィ。

 満身創痍にもかかわらず、立ち向かおうとするその勇姿に、敵味方問わず大歓声が送られる。

 しかし、それを気に入らない男が一人だけ存在した。

 

「てめェら何、敵の応援してやがんだよう!!!」

「………‼︎ オヤビン‼︎」「オヤビン‼︎」「オヤビン‼︎」

 

 自分の手下のはずなのに、一瞬全員が相手である麦わらの応援をしていたことで、目を吊り上げたフォクシーが怒鳴りつける。

 すぐさま自分に対する応援に変わったところで、フォクシーはルフィに向き直った。

 

「見ていろ、すぐに決めてやる!!!〝ノロノロビームソ〜〜ド〟!!!」

 

 そう宣告し、フォクシーは懐から棒状の何かを取り出し、能力を発動させる。

 ビヨン、と伸びる光の鞭がゆっくりと動き、ルフィに絡みつく。その直後、通常のビームと同じくルフィの動きが鈍くさせられる。

 

 スローになったルフィに、船内のギミックを利用したフォクシーが迫り、強烈な一撃を食らわせる。

 真面に食らったルフィは血反吐を吐き、再び甲板へと倒れ込んだ。

 

『決まった〜〜っ!!! 全ての攻撃が!!! 麦わらを仕留めたァ!!!』

「なによ…………!!! そこまでしなくても………!!!」

 

 ナミが思わず呟くも、観客にフォクシーを詰る声は一つもない。フォクシーはまた拳を掲げ、声援を全身で受け止め続ける。

 だが、声援は再びどよめきへと変わった。

 

『た!!! た!!! た!!! …!!! また立ったァ〜〜〜〜!!!』

 

 先ほど以上に傷つき、フラフラになったルフィが、先ほど以上に鋭い目でフォクシーを睨みつける。

 さすがに慄くフォクシーの前で、何かに気付いたルフィが小さく呟いた。

 

「おれの、勝ちだ」

「んなにをォ〜〜!!? かろうじてそこに立ってる様な奴が――――てめェがその気なら!!! 倒れるまで殴り続けてやる!!!」

 

 苛立ちが生じたか、フォクシーがルフィに向かって駆け出す。

 それと同時に、ルフィも前に出て拳を振りかぶった。

 

「〝メガトン九尾…ラァ〜〜〜ッシュ〟!!!」

「〝ゴムゴムの銃乱射〟!!!」

 

 同時に放たれる、目にも止まらぬパンチの連打。

 双方、威力も速度も引けを取らない。ルフィの疲労や負傷具合を考えても、異常としか言いようがない凄まじさだ。

 

「ウゥ…!!!」

「ぬゥ………!!!」

『凄まじい〜〜〜〜!!! ここへきてなお!!! 両選手のもの凄いパンチの応酬〜〜!!!』

「ルフィ…!!! ルフィ〜!!! やっちまえ〜〜〜!!!」

「………このヤロ……!!! どこにこんな力が!!!」

 

 連打は徐々に、ルフィがさらなる加速を見せ、フォクシーの顔面に幾つも決まり始める。

 キッと表情を変えたフォクシーは、ある一発に自分の全力を込めた。

 

「この…‼︎〝ノロノロビ〜…〟!!!」

 

 次でケリをつける、そのつもりで放った、ビームを放つ一撃。

 それはルフィが繰り出した一発と激突し、両者の動きがピタリと停止した。

 

「え?」

「何だ?」

「動かない………‼︎」

 

 拳をぶつけた体勢のまま動かないルフィとフォクシーに、観客席に動揺が走る。

 ざわざわと騒がしくなる周辺ににやりと笑みを向け、エレノアが小さな声で呟いた。

 

「策士策に溺れる………いろんなものを事前に用意しておく財力と周到さは見習うべきものがあるけど……それが悪手に出たね」

「ど、どういうこと!!?」

 

 驚愕をあらわにし、振り向くナミ。

 彼女の視線の先で突如、固まっていたルフィがくりと膝をついた。

 

『た‼︎ ……倒れたのは麦わら………‼︎ いや!!! 違う‼︎ 動いたのが…麦わら!!! これは一体どういう事だァ!!?』

「くぅ〜〜〜〜……そぉ〜〜〜〜……」

「「「オ‼︎ …オヤビ〜ン!!?」」」

 

 動きがゆっくりになったフォクシーに、彼の一味から驚愕の声が上がる。

 

 その時、膝をついたルフィの手から、カランッと一枚の鏡の欠片が零れ落ちる。フォクシーが船内に用意した罠の数々、その一つに使われていたものだ。

 それをグローブで握りしめ、ノロノロビームを反射してみせたのだ。

 

「おぉ〜〜〜…のぉ〜〜〜〜……れぇ〜〜〜…」

 

 悔しげにぼやくフォクシーだが、鈍くなった体は動かない。

 焦りをゆっくりと顔に表すフォクシーに向けて、ルフィは自分の拳を振り回し、凄まじい加速を付与していく。

 

「〝ゴムゴムの…連接鎚矛(フレイル)〟!!!!」

 

 ドッ!と回転で威力を増した一撃が、フォクシーの顔面に叩き込まれた。

 ルフィの拳が離れても、フォクシーに異変はない。棒立ちのままのフォクシーに背を向け、ルフィがゆっくりとその場を後にする。

 

「……あと8秒」

「え?…………え⁉︎」

 

 ごくりと息を呑み、様子を伺っていたウソップの隣で、ゾロがぼそりと呟く。

 同じくサンジとロビンも、小さく笑みを浮かべてカウントダウンを開始した。

 

「7…」

「なに?」

「6…」

「うははは! 5ォ〜〜‼︎」

 

 戸惑うナミをよそに、カウントダウンの意味を察したウソップが威勢よく声を上げる。

 ウソップは顔を見合わせるフォクシー一味にも目を向け、高らかに告げる。

 

「何してんだ、おめェらもカウントしろー!!! 4!!!」

「3!!!」

「2!!!」

「1!!!」

「0ォ〜〜!!!」

 

 やがてフォクシー一味全員からもカウントダウンの声が上がり、そして最後まで到達する。

 その間、ゆっくりと顔が変形を始めていたフォクシーが、ついに限界を迎え、とてつもない勢いで上空に打ち上げられた。

 

「うおおおおお〜っ!!!」

『オヤビンが飛んだ〜〜っ!!!』

 

 吹き飛ぶフォクシーを背後に、ルフィが全身全霊で勝利の雄叫びを上げる。

 予想だにしなかったその光景に、フォクシー一味と司会のイトミミズが、同時に驚愕の悲鳴をあげた。

 

『落下地点は…………!!! 戦場の外ォ!!! デービーバックファイト三回戦!!! チームの運命を背負った船長同士の熱く壮絶な「コンバット」!!! オヤビン、920戦無敗の伝説はここに敗れ、ゲームを制したのはなんと…!!! 麦わらのルフィ〜〜〜〜!!!』

「やったァ〜ルフィ〜!!!」

「ルフィ〜〜〜〜!!!」

 

 汗を握り、息を呑み、見守り続けた最後の試合。

 それがついに勝利に繋がり、麦わらの一味はみんなで一斉に歓喜の方向を上げていた。

 

『フォクシー海賊団VS‼︎ 麦わらの一味‼︎ オーソドックスルール〝スリーコイン〟ゲーム、デービーバックファイト‼︎ ここで全試合終〜〜了〜っ!!!』

 

 試合終了のゴングが鳴り響き、戦いが終わったことが示される。

 

 そして、海中に沈んだフォクシー救出のために手下全員が殺到したため、観客席は崩壊し、全員まとめて海に落下する羽目となった。

 

⚓️

 

「―――…まったく無茶しやがって、こいつぅ‼︎ こいつぅ‼︎」

「つつきすぎだ!!! 重傷なんだぞ!!! コンニャロ―――ッ!!!」

「心配ばっかりかけて…‼︎ 何がアフロパワーよ」

「ナミさん、アフロはスゴイんだって」

「アア! 本物の野生のパワーだったヨ‼︎」

 

 戦いが終わり、陸地に戻ってきたウソップが、草原に寝かされたルフィの頭をつついて笑う。

 チョッパーがそれに怒り、リン達が無駄に暑苦しく語る中。

 

 眠りこけていたルフィが、パチリと目を開いた。

 

「………あ‼︎ 気がついた」

「ん…あ…あれ⁉︎ ゲーム‼︎ ゲームは⁉︎ ……おれ勝ったと思ったのに、夢か!!?」

「大丈夫、あんたは勝ったよ……」

 

 はっと体を起こし、慌てて辺りを見渡すルフィに、エレノアが穏やかな声で宥める。

 仲間達を見渡し、頷くのを確認したルフィは再び草原に倒れ込み、大きく息を吐いて安堵の笑みを浮かべた。

 

「よかった………」

 

 ホッと、緊張の糸が緩んだ一味が、ルフィを見下ろす。

 するとそこへ、仲間に支えられながら、全身に包帯を巻いたフォクシーが、険しい表情でルフィの元に向かってきた。

 

「オヤビン‼︎」

「まだ動かねェ方が…‼︎」

「おい麦わらァ………!!! てめェ、よくもおれの無敗伝説にドロをぬってくれたな」

 

 厳しい声で告げ、怒りを見せるフォクシー。

 じっ、と鋭い目でルフィを睨みつけていた彼は、おもむろに片手を差し出し、不敵な笑みを浮かべ出した。

 

「天晴れだ、ブラザー」

 

 ルフィはフォクシーの手を見つめ、やがてにっと笑ってその手を握り返す。

 ギュッと互いの手が固く握られた瞬間、フォクシーの目がギラリと不気味に光る。

 

「でりゃ――っ!!!〝くやしまぎれ一本背負い〟!!!」

 

 戦いに負けた悔しさをぶつけようと、ルフィの手を掴んで投げ飛ばしに向かうフォクシー。

 だが、相手がゴム人間であることを失念していた彼は、そのまま自ら地面に頭をぶつける事となった。

 

「バカかお前は」

 

 と、ゾロが呆れた呟きをこぼす中、フォクシーがガバッと体を起こす。

 立ち上がったルフィに向き直り、恥ずかしさを誤魔化すように声を荒げた。

 

「ルールだ、さァ早ェトコ選べ!!! 誰が欲しいんだ!!!」

『そうだ‼︎ 最後の取引が待ってるよ‼︎ 指名権は勝利チーム船長〝麦わら〟!!!〝船大工〟をご所望の様子だよ』

 

 イトミミズも試合の充実ぶりに満足してか、ノリノリで一味の船大工を紹介する。

 

 50人の船大工のボス、ソニエ。

 戦う船大工ドノバン。

 本能の赴くままのお色気船大工ジーナ。

 

 その他大勢の有能な部下達が、ルフィの決断を待っていた。

 

『誰を選ぶも自由!!! さァ決めてくれ〜!!!』

 

 期待と不安、様々な感情が渦巻く中、視線がルフィ一人に集中する。

 場が再び緊張感に包まれ出したその時、ルフィは一つの答えを口にした。

 

「海賊旗をくれ!!!」

「「「「「何―――っ!!?」」」」」

 

 予想だにしない返答に、フォクシー海賊団全員が戸惑いの声を上げる。

 麦わらの一味でも、サンジが信じられないといった様子でルフィに詰め寄っていた。

 

「お‼︎ おい、ルフィ‼︎ いいのか⁉︎ お色気船大工ジーナ姉さんはいいのか⁉︎ 後悔しねェか⁉︎」

「なんでその一択なのよ」

「欲しいもの貰ったら、何の為に決闘受けたんだかわかんなくなるもんな」

「よかった」

 

 船長の決定に、思わずほっと安堵の息をつくナミ。

 だが、フォクシー一味はその決断に納得できないでいた。

 

「…そんなバカな!!! 迷わずおれ達の誇りを奪おうというのか!!!」

「いいよ、帆は。それがねェとお前ら航海できねェだろ」

「えぇ!!? なんて慈悲深い……!!!」

「――だが帆にも印が入ってるんだ!!! もうあれをかかげるわけには……‼︎」

「情けは無用だ、奪うもんは奪って貰うぞ‼︎」

 

 そこまでして奪いたくない、と首を横に振るルフィに、フォクシー一味は食い下がる。

 少し考えたルフィは、代わりとなる案を一つ提示する。

 

「………わかった。じゃあマークだけ貰えばいいんだから、おれが新しいマークに描きかえてやるよ。そしたら帆まで取らなくてもいいだろ」

「麦わら………お前って奴ァ……‼︎」

 

 ルフィの優しさに、フォクシーの目にジワリと涙が滲む。

 一方的な戦いで傷つきながら、相手の事を思い遣るその心の広さに、一味全員が熱い眼差しを送る。

 

 が、その感情は即座に吹っ飛ぶ羽目となった。

 

「これでよし‼︎」

(((((最悪ーっ!!!)))))

 

 下手くそな狐の絵が描かれた帆を前に、満足げに腰に手をやるルフィ。

 予想以上にひどすぎる結末に、フォクシー一味が全員でがっくりと項垂れ、顔を伏せる。

 その様に、リンとエレノアが引き攣った声を漏らした。

 

「ひどいネ」

「まァ……迷惑料ってことで納得して貰おう」

 

 こうして、僅かながら遺恨を残したまま戦いは終わり、フォクシー海賊団は自分達の船の元に戻る。

 メリー号の進路を塞いでいた錨も回収され、ようやく自由が戻ってきた。

 

『勝者‼︎〝麦わら〟の一味!!! デービーバックファイト、これにて閉会〜〜〜!!!』

「はー、よかった‼︎ やっとメリー号が開放された‼︎」

「…おい‼︎ 麦わらァ」

 

 困難が一つ、ようやく片づいたと安堵を見せるルフィ達。

 そこへ、セクシーフォクシー号の甲板から顔を出したフォクシー達が、全員で目を吊り上げ、ルフィ達に向かって吠えた。

 

「おーぼーえーてーろ〜っ!!!」

「どこまで面白いんだあいつら」

 

 最後の最後までノリの変わらなかった彼らに苦笑しながら、ルフィ達は去っていくフォクシー達を見送るのだった。

 

 

 広い広い草原のど真ん中に、あるテントがあった。

 その家の主の名はトンジット。そして愛馬のシェリー。

 

 世界一高い竹馬に挑戦しているうちに降りられなくなり、10年もの間仲間から行方不明として扱われ、置き去りにされてしまった男である。

 

「シェリー………」

「ヒヒー…ン」

「わははは、いいんだ。お前はここで10年もおれを待っててくれたんだ。今度はおれが待つ番だ」

 

 ロングロングリングランドは、十の島が輪状に並んだ島で、満ち潮と引き潮の関係で1年に一度本来の姿、輪の形を取り戻す。

 その期間に移住を繰り返す遊牧民族である彼は、次の引き潮を待って仲間の元へ戻るつもりでいた。

 

「………ん? お前ら………」

 

 心配そうに見つめてくるシェリーにそう告げるトンジットは、近付いてくるルフィ達に気付く。

 ルフィはトンジットに、フォクシー海賊団から奪ってきた旗を見せた。

 

「ブッ飛ばしてきた!」

「…………ずいぶんケガしてる」

「………こんなの、いつもだ」

 

 快活に笑うルフィに、トンジットも笑みを浮かべる。

 

 傍らに座り込むシェリーは、フォクシーの悪意によって傷を負った。

 その敵を討つために立ち向かい、勝ってきてくれたのだと、トンジットは心の底から感謝の意を抱いた。

 

「ありがとうよ………」

「ヒヒーン」

「しし」

「成程ね、それで決闘を受けたの」

「何もなくても受けただろうけどね」

「そうね」

「失敬だな‼︎ お前ら‼︎」

 

 納得した様子で肩を竦めるナミとエレノアにルフィが食って掛かるが、二人とも呆れるだけで取り合わない。

 ただ、彼らしいことだと互いに顔を見合わせて笑うだけであった。

 

 その後、トンジットの事情を知らされたナミは、険しい顔で腕を組み考え込んでいた。

 

「――その移動しちゃった村へ、私達が連れてってあげられればいいんだけど」

「――それがよ、10の島はそもそもつながった一つの島だから、記録がとれねェんだと」

「いいんだ。そこまでやって貰う事はねェ…おれ達は気が長ェから大丈夫だ。それより…そうか、これがお前らの仲間達か」

 

 縁も何もない自分の為に、一戦やり合った後でも気を遣ってくれる青年達に、トンジットは満足げに首を横に振る。

 

「せっかく来たんだ、ウチへ入れ。もてなそう」

「もてなすもんねェだろ、もうチーズはいいぞ‼︎」

「あはは」

 

 せめてもの感謝を伝えねばと、トンジットがツッコミを受けながら一味をテントに案内する。

 その際、彼は入り口にあった何かにぶつかり、どさっと尻餅をつく。

 

 それは、白いスーツを纏った、驚くほどに長身な男だった。

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