ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「お………お前らこんなに強かったのか……‼」
「うん」
「あんた達おっそいのよ、来んのが‼」
「てめェが、おれを落とし入れたんだろうがよ‼」
「あれは事故よ、仕方ないでしょ。三人とも落ちるより一人でも助かった方がいいじゃない」
「じゃあお前が落ちろ‼」
「戦闘力ほぼないでしょうがあんたは‼」
「だいたいだなー‼ 北とか北じゃないとかそうゆうのでわかるわけないだろ‼」
「何ィ⁉ お前自信持って、まっ先に走り出したろ」
「あれは何となくだよ、何となくっ‼」
喧々囂々と、仲間内でもめている若者たちを見てジャンゴは眉間にしわを寄せる。
あんな輩に邪魔されるのは癪だが、とにかく先へ進まなければならない。
「おい野郎ども。まさか、あんなガキ二人相手にくたばっちゃいねェだろうな」
「……‼」
「…お…おう…‼」
すでに強烈な一撃を食らい、足に力が入っていない海賊たちは、かろうじてジャンゴの方を見る。
ジャンゴは懐からひもの結ばれたリングを垂らし、それを自分の前でぶらぶらと左右に揺らした。
「いいか、おれ達はこんな所で、グズグズやってるヒマはねェ。相手が強けりゃこっちも強くなるまでだ…‼ さァ、この輪をじっと見ろ………‼」
奇妙な行動に、ルフィたちは怪訝な顔で首をかしげた。
「何やってんだ、あいつら」
「…さァな」
「催眠術よきっと…‼ 思い込みで強くなろうとしてんの! ばっかみたい!」
「……ヤバイかも」
「え?」
嘲笑するナミの横で、真剣な声でエレノアが呟く。
訝しげな視線を受けたエレノアは、冷や汗を流しながら動作を続けるジャンゴを睨みつけた。
「人間ってね、普段は身体に負担をかけないために、自分自身に
「そんなバカな…‼」
思わずそう返すナミだが、エレノアの言う事だと万が一という事もある。
ジャンゴはそれにこたえるように、海賊たちに揺れるリングをかざしながら集中する。
「ワーン‼ ツー‼」
そして最後に自分がそれを見ないように、帽子のつばを勢いよく下げた。
「ジャンゴ!!!」
「ウオオオオオ――――――ッ!!!!」
その途端、疲労困憊の様子を見せて言った海賊たちが一斉に起き上がり、凄まじい雄叫びを上げて見せた。
ルフィとゾロにやられた傷も、エレノアから受けた負傷も微塵も感じさせなかった。
「うそっ‼ あんなにフラフラだったのにっ‼」
予想外の事態にナミが目を見張る。
勢いづいた海賊の一人が近くにあった崖を殴りつけると、硬い岩に大きな亀裂が入っていき、轟音を響かせながら表面が粉々に砕け散った。
「崖をえぐりやがった………!!!」
「そんな…‼ 本当に催眠が、かかってる!!!」
「一人でも崖をえぐるってのに、あの人数じゃ…!!!」
敵の勢いが増し、ナミたちは撤退を余儀なくされる。
ゾロとエレノアが壁となるように前に出て、やや焦燥を感じながら構えた。
「お前ら坂の上へ上がってろ‼ ここはおれ達がやる…‼」
「ちょっとキツイかもだけど…やるっきゃないか‼ ルフィ‼ …ルフィ?」
不安は残るが退くことはできないと戦闘準備を整える二人だが、もう一人の反応がないことに気づく。
呼びかけられたルフィが、その場で大きく両腕を掲げた。
「うおああああ――――――っ!!!!」
「お前も催眠にかかってんのかァ!!!!」
阿修羅のような形相で、ものすごい咆哮を放つルフィの目に理性はない。
遠く離れた場にいるはずのジャンゴの催眠を受け、潜在する力が100%発揮されていた。
「そうだった…ルフィってばああいう暗示とかにムッチャクチャ弱いんだった…」
「そ…そうにしてもなんて単純な奴なの。人の催眠にかかるなんて…」
「アホですから」
呆れたようにつぶやくナミに、エレノアは自分が恥を感じる。
そうこうしているうちに、ルフィは一斉に向かってくる海賊たちに一人突進し、ジャブのように拳を繰り出す。
その勢いにゴムの伸縮が加わることにより、猛烈な連撃が繰り出された。
「〝ゴムゴムの
まさに、拳の機関銃による圧倒的な攻撃が炸裂し、海賊たちがさっきよりも盛大に吹き飛ばされていく。
木っ端のように空中に投げ出される海賊たちを、ルフィはなおも追いかけた。
「ぬああああ!!!」
「いやあああ!!!」
催眠を受けて力を増したところで、相手も同等の力の底上げがなされれば意味がない。
しかし悲鳴を上げて逃げ惑う海賊たちを無視し、ルフィはクロネコ海賊団の海賊船の船首に貼りついた。
そして彼は、硬い船首を力づくで引きはがし始めたのだ。
「ぬうあああああああっ!!!」
「いけ―っルフィ―っ‼」
「まさにアホの一念…‼」
即席の武器を手にしたルフィが、再び海賊たちにずんずんと迫っていく。
そのごり押しに、エレノアは呆れるほかになかった。
「おれ達を殺す気だァ~~~っ!!!」
「船長なんとかして下さい―――っ!!!」
「ワン・ツー・ジャンゴで眠くなれっ‼ ワーン、ツーッ‼」
今度はルフィ一人に向けて、窮地を逃れたジャンゴがリングを見せる。
理性を失っている相手に聞くかは疑問だったが、あの化け物に対する対抗手段はそれ以外になかった。
「ジャンゴ!!!」
「すかーっ」
奇しくもジャンゴの術は成功し、ルフィは船首を抱えたまま深い眠りに落ちる。
しかし巨大な船首はゆっくりと傾ぎ、海賊たちのいる方へと倒れこんでいった。
「うわああ~~~っ‼」
「ぎゃああ――――――っ!!!」
ズシィィン‼ と船首が起こした風圧が海賊たちを吹き飛ばし、より甚大な被害をもたらす。
こんな状況で、立ち向かおうとするものはさすがにいなかった。
「やりやがったあのガキ…‼ これじゃ計画もままならねェ…!」
キャプテン・クロの完璧な計画が狂いつつあることに、ジャンゴは焦りで顔を真っ青にさせる。
一方でナミたちは安堵の表情を浮かべ、一休みするようにわき道に腰を下ろしていた。
「なんか、ほぼ全滅って感じするわね」
「おい…そんな事よりあいつが船首の下敷きに‼」
「大丈夫死にゃしねェよ。お前は自分の出血の心配してろ」
「…ゾロ君。構えてた方がいいよ」
「あ?」
余裕の表情で刀を担ぐゾロに、エレノアが警告する。
彼女の耳は、海賊船の中に要る二つの気配を捉えていた。
「船の中に誰かいる」
「…そうか」
強さはともかく、動ける敵はまだ残っていると知ったゾロは表情を引き締める。
油断して傷を負うなど、剣士にあってはならない恥だ。
「おいおいブチ‼ 来て見ろよえれぇこった、船首が折れてる!!!」
「なに、船首がァ!!? おいおい、どういう理由で折れるんだ‼」
そしてエレノアの言う通り、船の中で待機していたらしい別の声が響く。
その声を聴いたジャンゴは安堵の笑みを浮かべ、計画はまだ失敗していないことを喜んだ。
「今さら何が飛び出すんだ……⁉」
警戒するゾロをよそに、ジャンゴは両手を大きく広げて、船の中のもう二人にの戦闘員を呼び寄せた。
「下りて来いっ!!!〝ニャーバン
ジャンゴの呼び声に、彼らは船の上から大きく跳躍して海岸に降り立った。
猫の耳とカギヅメを付けた、細身の男と太っちょの男。デコボコの組み合わせながら、降りるタイミングはぴったり同じだった。
「およびで、ジャンゴ船長」
「およびで」
数メートルはある高さから着地しても、二人の番人はびくともしていない。凄まじい身軽さだ。
「なにあれ」
「すげェ…あの高さから着地した…‼ ねこみてェだ」
「見た目からネコだもんね」
ウソップやナミが驚愕の声を漏らすと、エレノアも感心したように二人の門番を見やる。
見た目はかなりふざけているが、油断ならない相手なのは確かだった。
「ブチ、シャム。おれ達はこの坂をどうあっても通らなきゃならねェんだが、見ての通り邪魔がいる‼ あれを消せ‼」
「そ…そんなムリっすよォ、ぼく達には。なァ、ブチ」
「ああ、あいつ強そうだぜまじで‼」
しかし、呼び出された番人たちは困惑したようにそう答え、ぶんぶんと首を横に振る。
さっきまでの自信満々な態度がウソのようだった。
「な…‼ なんだ、あいつら切り札じゃなかったのか⁉」
「…完全にびびってる………‼」
予想外の反応にウソップたちは戸惑い、ゾロは戦意をそがれたのか呆れた顔になる。
番人ブチとシャムは肩をすくめながら、呼び出したジャンゴに困り顔で苦言をぶつけていた。
「だいたいぼくらはただの船の番人なんだから」
「そうそう、こんな戦いの場にかり出されても」
「シャム‼ さっさと行かねェか!!!」
「え⁉ ぼくですかァ!!?」
「急げ‼」
「わかりましたよ行きますよっ‼」
ジャンゴの剣幕に押され、シャムはどたどたとみっともない走り方でこちらに向かってきた。
べそまでかいて、こっちが悪い気さえしてきてしまう。
「おい、お前ら覚悟しろ―――っ‼ このカギヅメでひっかくぞーっ」
「……‼ あれをおれにどうしろっつうんだよ……‼」
「ゾロ君、油断大敵」
「あ?」
毒気を抜かれてしまうゾロだが、エレノアはそんな彼に忠告する。
最初から最後まで、エレノアは敵を侮ることはなかった。
「奇襲・騙し・嘘…卑怯な戦法は海賊の
「!!?」
ゾロはハッとなり、とっさに刃を盾にする。同時にエレノアも右足を振るい、隙を見せたゾロをかばう。
勢いを増したシャムの鉤爪が襲いかかったのは、それとほぼ同時であった。
「こいつ…!!?」
「貴様おれを、今見くびってただろ……!!! だが、そのガキの助言に救われたな‼ おれは今ネコをかぶっていたのに!!!」
常人であればまず騙され、奇襲を受けていたであろう演技にゾロは冷や汗を流す。
ギン、と甲高い音とともに鉤爪を弾き、距離をとった両者がにらみ合った。
「やっぱり…そんなこったろ―と思ったよ」
「まさかあいつ…弱くねェのか!!?」
「ゾロ⁉ 刀は!!?」
ナミの指摘に、ゾロは軽くなった自分の腰を見下ろす。
刀と鉤爪をかちあわせている間に、ゾロは残り二本の刀を失っていた。
「やられた…‼ なら私が…‼」
眉間にしわを寄せ、代わりに相手をしようと前に出ようとしたエレノアだったが、その足がガクンと沈んだ。
「え…!!?」
エレノアの表情に、初めて驚愕が現れる。
力の入らない自分の足を呆然と見下ろし、ついで何かしたはずのシャムを睨みつけた。
「まァ、てめェらもちったァやるようだが、クロネコ海賊団〝ニャーバン兄弟〟のシャムを甘くみねェこった…」
ゾロの刀を背中に背負ったシャムが、片手でボルトらしき金属を弄ぶ。
その様に、エレノアの目に怒りの火が灯った。
「ネコババってやつか…なかなかシャレがきいてるじゃないの‼」
「…ウソップ君、昨日はどうしちゃったんだろう。いつもの彼らしくない…」
紙袋いっぱいに食材を詰め、ロゼは定時の食料品の配達に向かう。
その間も気になっているのは、昨日暴行事件を起こしたという青年のことだった。
「メリーさんに撃たれたって聞いたけど…クラハドールさんがそこまでひどいことするなんてやっぱり考えられない……。やっぱり何か誤解があるんじゃないのかしら…?」
いつもの道を歩く途中、ロゼは見覚えのある燕尾服を目にし、立ち止まった。
「……? クラハドールさん…? こんな朝早くから海岸の方に何の用だろう…?」
普段なら朝早くに屋敷での業務にかかっているはずの彼が、用のないはずの海岸方面に向かっている。
気にはなったが、ロゼは配達の方を優先した。
「メリーさーん、今日のぶんの食材持ってきましたよーっ」
裏口の扉を叩き、ロゼは執事長を呼ぶ。
しかし今日は、すぐに出てきてくれるはずの彼からの返事はなかった。
「開けてくだ…カヤ⁉」
首をかしげるロゼ。
すると、扉を押しのけるように開き、荒い呼吸のカヤが倒れかかってきた。
「ちょっ…何考えてるのよ⁉ こんな時間に一人で出歩くなんて…‼」
「お願い…行かせて………ウソップさんのところにいかないと…‼」
「……⁉ で、でもウソップ君…カヤに乱暴したって噂になってて…⁉」
「ウソじゃなかった!!!」
血を吐くように、カヤは叫んだ。
目を見開くロゼにすがるように、カヤは今しがた知った真実をロゼにまくしたてるように語った。
「今‼ この島に…海賊が来てるの!!! あの人が……クラハドールが‼ 海賊だったの!!!」
「………!!? 嘘…でしょ…?」
信じられない言葉に、ロゼは絶句する。
しかしカヤの表情は嘘を言っているようには見えず、そんな嘘を言う理由も考えられなかった。
「メリーも襲われた…‼ 部屋で、血まみれになって倒れてたのっ!!! メリーが全部…本人の口から聞いたって………!!? 私……ウソップさんになんてことを…」
「カヤ…‼ 落ち着いて…まずは冷静になって」
「クラハドールの目的は…この屋敷と財産だって…村のみんなが死んでしまうくらいなら………そんなものもういらない!!! お願いよ、ロゼ‼ ウソップさんはきっと…クラハドールの所にいる!!!」
「…………」
涙を流しながら、カヤは通せんぼしている体になっているロゼに懇願する。
無理もない、彼女は大切な友人であるウソップの言葉を信じず、ひどい罵声をぶつけてしまったのだから。
しかしそれでも、ロゼは縦に頷くことはできなかった。
「カヤ…悪いけど私…そんな話を聞かされてあなたを行かせるわけにはいかない…‼ あなたは私の友達だから…そんな危ない海賊の所へあなたを一人で行かせるわけにはいかない…‼」
カヤの肩を掴み、ロゼは真剣な表情で決意する。
カヤに罪があるのなら、村のみんなの言うことをまんまと鵜呑みにしてしまっていた自分にもあるはずだ。
「私も行く‼ 私だって…この村が大好きだから!!!」
大切な友達をみすみす死なせるものかと、ロゼの目は燃えていた。