ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第169話〝青雉〟

「うお‼︎ 何だこれは…」

「人⁉︎ ここにずっといたの⁉︎」

「デッカいおっちゃんだネ〜…」

 

 いつの間にかテントの入り口前に立っていた大男に、ルフィ達は驚きの声を上げる。

 立ったままアイマスクをし、寝息を立てていたその男は、やがて目を覚ましたのかピクリと身動ぎをした。

 

「んん!!? 何だお前ら」

「おめェが何だ!!!」

 

 思わぬ反応に、すかさずウソップからツッコミが飛ぶ。

 その時、一味の後ろにいたロビンが、どさっとその場にへたり込む音が響いた。

 

「ロビン⁉︎」

「どうした、ロビンちゃん」

 

 振り向くルフィ達だが、ロビンは息を荒げ、目の前の大男を凝視するばかりで何も答えない。

 大男はアイマスクを外すと、ロビンを見下ろして意味深に笑う。

 

「……あららら。コリャ、いい女になったな…ニコ・ロビン」

「ロビン‼︎ どうしたんだ!!! 知ってんのか⁉︎ こいつの事!!!」

 

 明らかに何かしらの繋がりがあると察し、ルフィが警戒し身構えながらロビンに問う。

 空気が緊迫し、誰かがごくりと息を呑む音が響いた、その時。

 

「あ、クザンじゃない。お久しぶり」

 

 大男の顔を見たエレノアが、暢気な声でそう呼びかける。

 その瞬間、辺りに巡っていた緊張感の糸が、ぷっつりと切れる音がした。

 

「軽っ!!!」

「ん?おー、〝妖術師〟じゃないの……ありゃ、引退して男作って田舎に引っ込んだって聞いてたんだが」

「まだまだ現役……ってちょっと待て。男のくだり誰から聞いた⁉︎」

「軽っ!!! ご近所さんかっ!!?」

「まーまー、そう殺気立つなよ兄ちゃん達………別に指令を受けてきたんじゃねえんだ。天気がいいんで、ちょっと散歩がてら…………」

 

 大男、クザンも面倒くさそうに告げ、両手を上げて嘆息する。

 先ほどの意味深な笑みは何だったのかと思うほどのダラけっぷりだった。

 

「指令だと!!? 何の組織だ!!!」

「海兵よ、海軍本部〝大将〟青キジ」

「〝大将〟!!??」

 

 ようやく少し落ち着きを取り戻したのか、ロビンがやや強張った声で告げた情報。ルフィ達はギョッと目を見開き、クザンから後退り距離をとる。

 

「何でそんな奴がここにいるんだよ!!! …もっと何億とか言う大海賊を相手にすりゃ………ってここにいた!!!」

 

 ウソップは思わず抗議の声を上げようとし、後ろにいたエレノアの事を思い出して目を剥く。

 エレノアはあまりのテンパり様の彼に、呆れた目を向けていた。

 

「今さらか…」

「ど…どっかいけーっ‼︎ エレノアに近づくなーっ‼︎」

 

 クザンに叫ぶウソップだが、車椅子に乗ったエレノアを盾に隠れているため、情けなさが非常に目立って仕方がない。

 だが、当の海軍大将の一人は、彼の事を見てもいなかった。

 

「あらららこっちにも悩殺ねーちゃんスーパーボイン‼︎ 今夜ヒマ?」

「何やってんだノッポコラァ!!!」

「話を聞けオラァ!!!」

「おい、あんまりふざけるようなら一発きついの食らわせるぞゴルァ…!!!」

 

 近くに居たナミに興味を持ち、軽い調子で軟派をかけるクザンに、男性陣から怒号が上がる。

 エレノアもあまりのクザンの気の抜けた姿に、ビキビキと血管を浮き立たせて怒りを滲ませていた。

 

「ちょっと待ちなさい、お前らまったく…そっちこそ話を聞いてた? おれァ散歩に来ただけだっっつってんじゃないの、カッカすんな。だいたいお前らアレだよ、ホラ…‼︎ ――忘れた、もういいや」

「話の内容グダグダかお前っ!!!」

「何なんだコイツ…!!! おいロビン‼︎ エレノア‼︎ 人違いじゃねェのか!!! こんな奴が海軍の〝大将〟なわけがねェ‼︎」

「いや、間違いないよ」

 

 全く強そうに見えない、何より海兵らしい正義感のかけらもないクザンに、一味は訝しげな目を向ける。だが、エレノアはその誤解に首を横に振る。

 

「〝大将〟青キジの海兵のモットーって、『ダラけきった正義』だし」

「ザッツラーイ」

「見かけ通りかよ!!!」

「――とにかくまァ…あァちょっと失礼…立ってんの疲れた…」

 

 目を剥く一味を他所にそう言うと、クザンはいきなり気怠そうにその場に寝転がる。ルフィ以上の自由人ぶりに、呆れた視線が消えなかった。

 

「――――そんでまあ早ェ話、お前らをとっ捕まえる気はねェから安心しろアラバスタ事後消えた、ニコ・ロビンの消息を確認しに来ただけだ。予想通りお前達と一緒にいた」

「ほんっとやる気ねェんだな、コイツ」

「ふてぶてしさはある意味〝大将〟だ」

「本部には報告くらいはしようと思う。賞金首が一人加わったら総合賞金額が……変わってくるもんな」

 

 全く別の意味で、クザンに対して戦慄の目を向けるウソップ達。

 クザンは億劫そうに話し、ルフィとゾロ、ロビンとエレノアを見やりながらそれぞれの賞金額を数え出し……すぐにやめた。

 

「――――わからねェが―――まボチボチだ」

「しろよ、計算」

 

 徹頭徹尾、やる気のなさを見せるクザンに、ゾロが呆れを孕んだツッコミを入れる。指摘するのも、最早面倒に思えてしまっていた。

 

「〝ゴムゴムの〟ォ〜〜!!!」

「ちょっと待て待てルフィストップ‼︎ スト〜〜〜〜〜ップ!!!」

 

 そこに、闘志に燃えるルフィの声が響き渡る。

 気付いたクザンが寝転がったまま目を向けると、目を吊り上げたルフィがクザンに向かおうとするのを、ウソップとサンジが止めているのが見えた。

 

「離せお前ら!!! 何だよ!!!」

「こっちからフッかけてどうすんだ!!!」

「相手は最強の海兵だぞ!!!」

「それが何だ!!! だったらロビンを黙って渡すのか!!!」

「いやだから、何もしねェって言ってるじゃねェか………」

「ブッ飛ばしてやる!!!」

 

 ウソップ達が止めても、クザンが何を言おうとも、ルフィはもう敵と見定めてしまったのか止まる気配を見せない。

 ようやく止まりはしたものの、クザンに対する態度は依然刺々しいままだった。

 

「なんだ散歩か‼︎ じゃこんなとこ通るな、お前‼︎ 出ていけ‼︎」

「めちゃくちゃじゃないっすか」

「何となくルフィが押してる…」

「何この状況」

 

 本来であれば、捕える側と捕まる側のはずの双方の立場。

 なのに今この様子を見ると、クザンの方が立場が弱そうに見えてしまうのだから、ルフィの勢いの凄まじさに驚かされるばかりだった。

 

「――じゃあわかった…帰るがその前に…さっき寝ながら聞いてたんだ………あんた」

「ん?」

「――おれは睡眠が浅くてね…話は大方頭に入ってる。すぐに移住の準備をしなさい」

 

 説得を諦めたのか、相手にするのをやめたのか、クザンは話題の対象をトンジットに変更する。

 キョトン、と目を丸くするトンジットに、ルフィは険しい顔のまま叫ぶ。

 

「おいおっさん‼︎ こんな奴の言う事聞く事ねェぞ!!! こいつは海兵なんだ!!!」

 

 ルフィがそう叫ぶと、辺りはしばらくの間、静寂に包まれる。

 妙な沈黙に包まれてから、かれこれ数十秒はたった頃に、トンジットが首を傾げながら口を開いた。

 

「いーんじゃねェのか?」

「い――んだ。そうだよ、い――んだ。普通海兵が味方でおれ達の方が悪者だよ」

「笑ってる場合かよ‼︎」

 

 おかしなことを言った自分を自分で笑うルフィに、ウソップが手刀でツッコミを入れる。今日は彼にとって、非常に忙しい日の様だ。

 

 とにかく、ルフィのクザンへの敵意は薄れたようで、いつも通りの暢気そうな顔で一味に振り向く。

 

「あいつ、おっさんを助けてくれるって」

「んなコト言ってもムリだロ、それハ」

「要するに…留守中に移住しちまった村を追いかけて、3つ先の島へ行きたい。引き潮を待ち馬で移動したいが、その馬が足にケガを負っちまったってんだろ。違うか?」

「……それがわかってんなら、今は移住なんてできねェのわかるだろ」

 

 先ほどその事で悩んでいたのに、と全員でクザンを睨み、どうするつもりなのかと問う。

 やや疑いが混じったそれらの視線を受けながら、クザンは相変わらず寝転がったまま、怠そうな声で答えた。

 

「大丈夫だ」

「説得力ねェよ‼︎ どうしても」

「……いや」

 

 覇気のかけらも感じられないクザンの姿に、顔を引き攣らせるルフィ達。リンも同じく、醜態をみせる男に冷や汗を流す。

 二人だけを除いて、全員がクザンの言葉を疑っていた。

 

「その人なら出来るよ、簡単に」

 

 平然と、当たり前のような顔をしてそう答えたエレノア。

 彼女の言葉で、一味のクザンを見る目が一瞬にして変わった。

 

 

 

「たまには労働もいいもんだ」

「ほんとだ、いい気持ちだ‼︎ お前、なかなか話せるなー‼︎」

「いやすまんな、手伝って貰って。さァチーズでもどうだ、お口に合うか」

「やめろそれ‼」

「じゃあおれが貰っていいカ?」

「やめとけ」

「結局打ち解けちゃった…」

「まァ……海軍の中でもけっこう穏健派だからね、青キジは」

 

 場所は変わり、一年に一度引き潮で道ができる、目印である柱が建てられた場所。

 トンジットのテントをまとめ、シェリーと一緒にそりに乗せた一味とクザンは、和気藹々と語りながら海に閉ざされた先を見やっていた。

 

「――で? どうすんだ? このままおめェが馬も家も引っ張って泳ぐのか?」

「んなわけあるか………少し、離れてろ…」

 

 ルフィの疑問に、クザンは静かに岸に歩み寄り、海水に手を浸し始める。

 

 その時、突如彼の目の前の海面が盛り上がり、見るからに凶悪な貌をした、巨大な肉食の生物が顔を出した。

 

「いかんっ!!! この辺りの海の主だ!!!」

 

 気付いたトンジットが叫ぶが、海の主は既にクザンに狙いを定め、鋭い牙を剥き出しにしている。

 だがそれでも、クザンは岸にしゃがんだまま動く気配を見せない。まるで主に気付いていないような―――あるいは、相手にしていないような、そんな態度だ。

 

「何だおい!!! お前、逃げろォ!!!」

「危ねェぞ!!!」

 

 やられる、と。

 血相を変えたルフィ達も叫び、危険を知らせる。

 

 だが、それらは全て無意味に終わった。

 

 

「〝氷河時代(アイス・エイジ)〟」

 

 

 海を、そして主を見つめながら、クザンがこぼした小さな呟き。

 

 その直後、彼を中心としたあらゆるものが真っ白に染まり、それら全てが完全に停止し―――凍りついてしまった。

 瞬きよりも早く、立った一瞬のうちにである。

 

「悪魔の実!!!」

「海が、凍っタ……!!!」

「自然系…〝ヒエヒエの実〟の氷結人間…‼︎」

 

 一気に下がる空気の中、冷や汗と共に寒さのせいではない震えを見せながら、エレノアが頬を引き攣らせて呟く。

 ロビンはそれ以上の怯えを見せながら、一味にはっきりと告げた。

 

「――これが〝海軍本部〟『大将』の能力よ…!!!」

「――一週間は持つだろ…………のんびり歩いて…村に合流するといい…………少々冷えるんで………温かくして行きなさいや…………」

「………夢か、これは…」

 

 クザンは気だるげに立ち上がると、サクサクと下野降りた草地を歩いて岸を離れる。

 

 注意を受けたトンジットは、目の前の光景にただ圧倒されるばかり。

 だが次第に彼の顔には、満面の笑みが浮かんでいった。

 

「あんた‼︎ ありがとうなァ!!! ありがとう‼︎ ありがとう!!! 何ちゅう奇跡だ!!! ありがとうなァ――!!!」

「ヒヒ――…ン‼︎」

 

 去っていくクザンに大きく手を振り、力の限り叫ぶトンジット。奇跡を起こした男は、照れくさそうに頭を掻きながら、黙って手を振り返す。

 その様子を、ルフィ達は満足げに見送るのだった。

 

 

 

「………じゃあよ、おれ達ァ行くから」

「おめェらにも何と礼を言っていいか…おめェらが来なきゃおれは、いまだに竹馬の上だった」

 

 言われた通り、氷の道を歩くために厚着をしたトンジットに、ルフィ達が別れを告げる。

 大切な家族を奪われていたかもしれない、そんな恐怖から救ってくれた青年達にも、トンジットは心からの感謝を抱き、何度も頭を下げた。

 

「ありがとうな―――!!! この恩はずっと忘れねェよー!!!」

「ヒヒー…ン!!!」

「気ィつけて行けよ―――――っ!!!」

「元気でな――――っ!!!」

「もう竹馬には乗るなよ―――!!!」

 

 シャリシャリと氷を滑るそりを引き、見送るルフィ達に手を振るトンジット。

 その姿が見えなくなるまで、ルフィ達は声をかけ、大きく手を振り続けていた。

 

「は――っ…よかったよかった」

「うほ‼︎ 寒ィ寒ィ‼︎」

「うわふ」

「すっかり冬だコリャ」

 

 さて、そろそろ行くかと引き返し、辺りの寒さに肌を摩り、跳ねるように岸に戻るルフィ達。

 そんな自分達を、草地に腰かけ、じっと見つめるクザンの姿に気付き、ルフィが訝しげに問いかけた。

 

「…何だ」

「何というか………じいさんそっくりだな…モンキー・D・ルフィ…」

 

 何となく、という様子でそんな言葉をこぼしたクザン。

 その瞬間、ルフィの顔から血の気が引き、顔中の筋肉が引き攣り始めた。

 

「……!!! ………じ……じいちゃん…!!?」

「…おじいちゃん? ルフィの?」

「ん⁉︎ おいどうしたルフィ‼︎ 汗だくだぞっ‼︎」

 

 船長の異変に、驚いて慌てて心配する声をかけるウソップだが、ルフィはなぜか誤魔化すように首と手を振る。

 様子のおかしいルフィをよそに、クザンはため息交じりに続けて口を開いた。

 

「お前のじいさんにゃあ…おれも昔…世話になってね。おれがここへ来たのは…ニコ・ロビンと…お前を一目見る為だ…」

 

 ルフィ達を一人一人、順々に見つめていくクザン。なぜか、見透かされている気になり、一味はだんだん落ち着かなくなってくる。

 妙な沈黙が漂い出し、やがてクザンははっきりとした声で告げた。

 

「――やっぱお前ら、今死んどくか」

 

 その目は、彼の能力と同じく凄まじい冷たさを宿したものとなっていた。

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