ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第18章 ガレーラカンパニー
第171話〝海列車〟


「う〜〜…ん、い〜〜〜い天気!」

 

 燦々と輝く陽光の下で、デッキチェアに寝転んだナミが、心地よさそうに伸びをする。

 立て続けに起こった騒動から解放され、のびのびとした気持ちになっていた。

 

「んヌワ〜〜ミさァ〜〜〜〜〜〜〜ん♡」

「?」

「ジャガイモのパイユ、作ってみたのですマドモワゼル。よろしければ」

 

 そこへ、くるくると回りながら現れたサンジが、新しく作った料理を差し出してくる。

 もはや慣れたその様に、ナミは素直に料理を受け取り、パクリと一口頬張る。

 

「んん、おいしい」

「幸せー!!!!」

「うるせェなてめェ、眠れねェだろ‼︎」

 

 笑みを見せるナミの答えに、打ち付けた波と共に歓喜の声を上げるサンジ。

 彼の喧しさに、昼寝をしていたゾロが怒号を上げるが、サンジは全く気にせず馬鹿にした顔を浮かべて背を向けた。

 

「はいはいすませんでしたサボテン君」

「何だと!!?〝ダーツ〟コラ‼︎」

 

 売り言葉に買い言葉。恒例の二人の喧嘩を、ナミが呆れた目で見やる。

 するとその時、船室の方からどたばたと騒がしい足音が響いてくるのが聞こえた。

 

「ルーフィ〜〜っ、ルーフィ〜〜っ」

「だ―――っ‼︎」

「うお―――――っ‼︎ 待ってました――――!!!」

「〝凍ったおれのマネ〟!!!」

 

 バタンッ、と船室から飛び出して来たルフィが、頭から白い粉を被って全身真っ白になり、カチーンと硬直してみせる。

 その姿は、数日前に大将青キジに氷漬けにされた時とそっくりで、ウソップとチョッパー、リンが大笑いしていた。

 

「凍って死にかけといて…よくやるわよ、そんな事!」

「うはははは似てたか⁉︎ あれ⁉︎ おいナミ、お前何食ってんだ!!!」

「そっくり‼︎ そっくりだぜルフィ――‼︎」

 

 危うくバラバラにされて、冒険どころか何もかもが終わっていたかもしれないのに、とナミが半目を向ける。

 が、全く気にしていない当の本人を見て、ますます呆れかえる。

 

 すると今度は、同じく船室からロビンが顔を脱してくるのが見えた。

 

「ロビン‼︎ 気分はどうだ? ふさぎ込んでたみたいだけど大丈夫か?」

「お陰様で………もう平気よ。それよりあなたは妖術師さんに集中してあげて」

「おう、そうだな!」

「アイツったらほんっと無茶ばかりするんだから。……まァもっとえらい目にあったコイツがこんなにピンピンしてるのが癪に触るけど」

 

 突如、一味を襲った圧倒的強者の襲撃。

 それを乗り越えるため、今や立つ事もできないほどに傷ついていた仲間が、命懸けで戦いを挑もうとした。

 

 勇敢というよりも、命を投げ出そうとするような異常すぎる覚悟。

 ナミにはそれが、どうしても不安に思えて仕方がなかった。

 

「…んで、エレノアは?」

「まだ寝てるわ…………相当消耗したみたい」

「ああ、だろうな」

「サンジ、エレノアが起きたら胃に優しいもの作ってやってくれ。あいつまだ、固形物とか食えそうにないから」

「了解、ドクター」

 

 チョッパーに頼まれ、サンジはエレノア用の別の料理を作るために、船の中に引っ込もうとする。

 そこに、涎を垂らしたリンが待ったをかけた。

 

「おれも食っていいカ?」

「おめェはパンの耳でも食ってろ!!!」

 

 

 

「…ずいぶん進んだみたいだね」

 

 窓の外に見える海を見やり、エレノアが呟く。

 傍らには様子を見に来たナミと、診察に戻ったチョッパーがいて、ベッドに横になる天使をじっと見下ろしていた。

 

「航行に問題なし! 順調そのものよ」

「それは何より………………っていうかさ」

 

 何も心配するな、と笑うナミに、エレノアもホッと安堵の微笑みを浮かべる。

 が、すぐに彼女の目は、怒りで鋭く吊り上げられた。

 

「本当に鎖でベッドに縛り付ける奴があるかァ!!! ガチの囚人扱いじゃないのよこれェ!!!」

 

 ガッチャンガッチャンと、自分に巻きつけられた鎖を揺らして抗議の声を上げる。

 メリー号に戻り、即座に開いた傷の治療が行われたのだが、終わった直後にナミ達の手によってこの有様にされてしまったのだ。

 

「大げさなんだってば……!!! 妙な事はもうしないって何度も」

「前回それが大ウソだってわかっちゃったからね。チョッパー、奥においてある鎖と縄、全部持って来ちゃって」

「わかった」

「うおおい!!! それでいいのか船医ィ!!!」

 

 何のためらいもなく、患者を縛り付ける手伝いに向かう船医に吠えるエレノア。自業自得と言えばそうだが、文句は止まらなかった。

 

「とにかくおれの許可が出るまで絶対安静!!! ここから出さないからな!!!」

「え〜…」

 

 ふん、と鼻を鳴らし、チョッパーはエレノアの抗議を完全に拒否する。

 不満げに唇を尖らせるが、主治医と航海士はさっさと船室を出ていってしまい、ぶつける相手がいなくなってしまう。

 

 渋々諦め、暇をつぶそうと窓の外に再度目をやったエレノアだったが。

 

「……ん? この〝音〟は…」

 

 久々に自分の耳に届いた〝音〟に、ピクリと彼女の片眉が上がった。

 

 

 

 一方、甲板ではまた新たな騒ぎが起こっていた。

 風に任せ、順調に目的地に向かっていたはずなのに、突然ルフィ達がオールを漕ぎ、進路を変更してしまっっていたのだ。

 

「こら‼︎ あんた達何勝手に進路変えてんのよ!!!」

「それがおい、聞いてくれよナミ!!! でっけェ体中ケガしたカエルを見つけたんだ」

「おれ達は是非そいつを丸焼きで食いたいんだヨ!!!」

「食うのかよっ!!!」

 

 目を輝かせたルフィとリンが、懸命にオールを動かし続ける。

 メリー号の船首の方を見れば、確かに巨大な蛙が泳いでいるのが見える。しかも、見事なクロールでだ。

 

 何がなんだかわけがわからない、とナミが目を凝らしていると、彼女の視界にある建物の影が映った。

 

「ん? あれは………灯台……⁉︎」

「灯台だって…⁉︎」

「えェ…何であんな所に…………って!!! あんたいつの間に!!? 手品か!!!」

「んな事ァどうだっていいんだよ‼︎」

 

 いつの間にやらベッドの拘束を抜け出し、前を凝視するエレノアの姿に気付き、ナミがぎょっと目を剥く。

 エレノアはナミを放置し、雄叫びと共にオールを動かす男達に声を張り上げた。

 

「あんた達!!! 今すぐに漕ぐのやめてバック!!! 即座にっ‼︎ 迅速にっ!!!」

「何だよエレノア、うまそうなカエル飯食わせてやろうと思ったのに‼︎」

「私の為だったの!!?」

 

 まさかの理由に、エレノアは衝撃を受け一瞬だけ固まる。

 好き勝手やっている声ばかり聞こえたルフィだったが、なんだかんだ傷付いた仲間の事を想ってくれていたらしい。が、それとこれとは話は別だ。

 

「いや…マジでダメだから!!! 止まってってば!!!」

「カエルも灯台を目指してるわよ」

「カエルはまず白ワインでぬめりを消し、小麦粉をまぶしてカラッとフリート」

「ちょっとロビン‼︎ サンジ君」

「よっしゃ全速前進〜〜っ!!!」

「「「お――!!!」」」

「その団結力は何なのよ!!!」

 

 恐ろしきは食欲か、仲間への想いか。

 美しいフォームで泳ぎ続ける蛙を追い、男達の熱意ががっちりと一致する中。

 

 ボォォォッ…と、聞き慣れない音が聞こえてくるのに気がついた。

 

「あ⁉︎」

「え!!? 待ってよみんなストップ‼︎ 変な音がする‼︎」

「ん⁉︎ 何だ何だ⁉︎」

「遅かった…‼︎」

 

 ナミが声を上げると、その横でエレノアが頭を抱える。

 何事か、と一味が辺りを見渡していると、突如メリー号が真下から何かに突き上げられ、推進が止まってしまった。

 

「うわ‼︎ 何かに乗り上げた‼︎」

「バックバック‼︎ 180度旋回〜!!!」

 

 予想外の事態に慌てる一味に、エレノアとナミが必死に叫ぶ。そうこうしている間に、音の主は見る見るうちに距離を詰めてくる。

 何とかオールを振り回し、乗り上げた何かを押し、メリー号を海へと進めたその直後。

 

 ゴッ!と、凄まじい勢いで突き進んできた鋼鉄の何かが、メリー号の後ろを通り過ぎていった。

 

「どわあああ〜〜!!!」

「何だコリャ〜!!!」

 

 轟音を鳴らし、風を切り、煙を噴き上げ海の上を走る鋼鉄の塊―――いや、蒸気機関車の形をした何か。

 凄まじい速度で海を走り、何故か前に待ち構えていた巨大蛙を撥ね飛ばし、列車は遥か先まで走り去っていくのだった。

 

 

 しばらくの間、誰もが固まっていた。

 冷静なロビンでさえ、唖然とした表情で通り過ぎていった鉄の怪物を見送る事しかできずにいた。

 

「……船がけむり吐いてたぞ」

「もう…‼︎ だから止まれって言ったのに……」

「エレノア…あれが何か知ってるの⁉︎」

 

 呆れた様子でため息をつき、肩を竦めるエレノアに、ナミが詰め寄る。

 しかし、その問いにエレノアが応えるよりも前に、近付いていた灯台の方からにぎやかな声が聞こえてきた。

 

「大変だ‼︎ ばーちゃんばーちゃん、海賊だよ!!!」

「何!!? 本当かチムニー!!! よ――ひちょっと待ってりゃ」

 

 バッ、と振り向くと、灯台の下に建物を見つける。待合所の様に開けた底に、大小三つの人影が動いている事に気付く。

 

「あっ、あれは…」

「面倒だな、建物から誰か出てきた……‼︎ 応援呼ぶ気だぞ…」

「あー…‼︎ もひもひ!!?」

 

 騒ぎすぎたために、海賊である自分達の存在を知られてしまった。

 ここで海軍を呼ばれてしまえば面倒な事になると、ゾロが警戒しながら自分の刀を構える、が。

 

「え〜〜と‼︎ …………‼︎ 何らっけ⁉︎ 忘れまひた!!! ウィ〜〜ッ‼︎」

「「酔っ払いかよっ!!!」」

 

 脅威どころか、日常生活もままならなさそうな声の主、制服を纏った老婆のその反応で、全員がずでっとずっこける。

 思わず脱力した彼らの間を抜け、エレノアが欄干から身を乗り出し、大きく手を振ってみせた。

 

「おーい‼︎ ココロさ〜〜ん‼︎」

「んん…⁉︎ どっかれ見た顔らね」

 

 満面の笑みで、呼びかけてくる天使の顔を見て、老婆はしゃっくりをしながら首を傾げた。

 

 

 

「ご紹介……こちらシフト駅駅長のココロさん。そんでこっちの二人が…………えっと?」

「あたしはチムニー‼︎ ココロばあちゃんの孫だよ‼︎ こっちは猫のゴンベ」

「ニャー」

「うん、よろしくね。……ココロさんいつの間に孫が」

「んががが‼︎ そりゃあ前に会ってからもう何年も経ってるからね」

 

 灯台の建つ島に船を寄せ、地面に降り立ったルフィ達に、エレノアが老婆達の紹介をする。

 この島で駅長を務めるというココロは、酒瓶を手に豪快に笑ってみせた。

 

「おれはルフィ、海賊王になる男だ‼︎」

「ホント⁉︎」

「ああ」

「んががが、面白いねアンタ」

 

 ルフィがいつも通りの自己紹介をするが、ココロは然して驚きもしない。まるで慣れているかのようだ。

 一応の礼儀をこなすと、ナミが一味を代表して質問を投げかけた。

 

「ねーチムニー、あれは蒸気船でしょ? でもあんな形じゃ、普通航海なんて…」

「見た事ないでしょ、あんなの。世界中探してもここにしかないよ!」

「〝海列車〟『パッフィンング・トム』の技術はすごいからねェ……」

 

 しみじみと語るエレノアが、チムニーと一緒に説明を始める。

 

〝海列車〟とは、この先の島〝ウォーターセブン〟にしか存在しない蒸気機関車型のパドルシップ。

 海に浮かぶ線路を掴んで、毎日決まった道を進む。物資や人を運ぶ、島の住民達に必要不可欠な代物なのだという。

 

 そう語りながらチムニーは、ルフィ達に咎める視線を向け出した。

 

「〝仕切り〟もあるのに船で入っちゃ危ないじゃない、あなた達」

「ごめんごめん………止めたのに聞かないアホ共がいたもんで」

「「「「「すみませんでしたー!!!」」」」」

 

 ぎろり、と車椅子に映ったエレノアがルフィ達を睨む。

 忠告を聞かなかったせいで酷い目に遭ったためか、全員素直に深々と頭を下げていた。

 

 だがすぐに、ルフィがチムニーに反論を返した。

 

「危ねェつってもよ、カエルはそれわかんねェだろ。吹き飛ばすのはひどいぞ、お前。おれ達の獲物なのに」

「ああ…あいつは〝ヨコヅナ〟、このシフト駅の悩みの種なのよ」

 

 聞けば、〝角界ガエル〟という種のあの巨大蛙は、力比べが好きで頻繁に海列車に挑もうとするのだという。

 撥ね飛ばされても大概ピンピンしていて、時には排障器が破壊されて、乗客達に多大な迷惑をかけているのだとか。

 

 それを聞いてルフィは、不満げだった顔をすぐに改めた。

 

「そうだったのか…よ――し! おれ、あいつ食わねェ!!! 頑張り屋はおれ食わねェ‼︎」

「始めからそうしてよ、カエルなんて」

「えー」

「アンタは惜しがんな!!!」

 

 ルフィの決意に、全力で食う気になっていたリンが不満の声を上げる。人の心があるのか、非常に不安になる反応だった。

 

 一通りの説明が終わると、今度はココロがルフィ達に質問を投げかけてきた。

 

「そんで? おめェら一体どこへ行きてェんだい」

「いや……私達はこのままウォーターセブンへ。船の改修ができればと思って……」

「なるほろ…確かにボロボロら」

 

 エレノアの答えに、ココロもチムニーもゴンべも一斉にメリー号を見上げる。

 今にも沈みそうなほど、そして他人の同情を買うほど、メリー号は哀れで悲惨な様相だった。

 

「『水の都』つーくらいでいい場所だわ。何よりアンタ造船業でのし上がった都市だ。その技術は世界一ら!!! 造る船は世界政府御用達ときたもんだ、すげェらろ」

「へ――、って事はすげェ船大工もいるな‼︎」

「んがががが‼︎ いるなんてもんじゃないよ‼︎ 世界最高の船大工達の溜まり場だ、あそこは!!!」

 

 まるで自分のことのように、ココロが誇らしげに胸を張る。

 それを聞いたルフィは、ますますウォーターセブンに対する興味がわいてくるのを感じた。

 

「…よーし決めた!!! そこ行って必ず〝船大工〟を仲間にするぞ!!!」

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