ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第172話〝船大工の島〟

「ほいじゃあコレな‼︎ 簡単な島の地図と〝紹介状〟、しっかり船を直して貰いな。ウォーターセブンは広いからね、迷わねェこった」

 

 さらさらと、小さな紙に絵と文をしたためたココロが、それをエレノアに手渡す。

 駅長とその孫達は、メリー号に乗り込んだルフィ達を見上げて笑顔を送った。

 

「あたし達も近いうち、ウォーターセブンに帰るのよ」

「あァそうさ、もしまた会ったら行きつけの店で一杯おごるさ、んががが」

「そうか! んじゃまた会えるといいな‼︎」

「ウォーターセブンでの記録は一週間らよ、ゆっくりしていきな!」

 

 海賊相手でもまったく退かない、何ともつかみどころのない老婆たちに見送られ、ルフィ達は大きく手を振る。

 少ししか話していないが、彼女達が実に気前のいい人柄であることがわかり、さっそく再会が楽しみになっていた。

 

「じゃ、行くわ!」

「ココロさん、また会ったらじっくり話そう」

「野郎共‼︎ 出航準備‼︎」

「おォ!!!」

 

 バサッ、と帆を広げたメリー号が、指針の示す先へと進みだす。

 遠くなっていく羊の船首の海賊船を、ココロ達は賑やかに見送り続けた。

 

 

 

「やっほ――う!!! 行くぞ肉の都〜〜‼︎」

「お前何聞いてたんだよ」

「完全に〝美食の町〟の引っ張られてるネ」

「アンタも何よそのヨダレは!!?」

 

 目的地は違うというのに、イメージを完全に食に引っ張られているルフィに、ナミとリンが呆れた目を向ける。

 かくいうリンもほぼ同類だったため、ナミからの鋭いツッコミが飛んだが。

 

「ルフィ‼︎ 船大工探しはおれに任せろ‼︎ ものすごい美女を見つけてみせるぜ!!!」

「バカか‼︎ 大工だぞ⁉︎ 山みてェな大男に決まってんだろ。5mだ」

「おいルフィ、あんまりデケェとこの船で生活できるかどうか」

 

 まだ島にもついていないというのに、新たな仲間を想像し興奮する男達。

 そんな彼らに、ゾロが呆れた視線を向けて告げる。

 

「腕がありゃ誰でもいいだろ。その前に海賊船に乗ろうって物好きがいるかどうかが問題だ」

「やっぱりそこだよネ〜」

 

 自らこの船に乗り込んできた、同じもの好きであるリンがそう言うと、全員が何とも言えない微妙な表情になる。

 それを他所にチョッパーは、新たな出会いがある事に期待の目を見せていた。

 

「楽しみだな、また仲間が増えるのか」

「先に駅についてラッキーだったわね、地図描いて貰えたから。地図の場所に行って、アイスバーグという人を訪ねれば」

 

 ナミもだいたい同じ気持ちのようで、チョッパーにフッと笑いかける。

 できれば常識人に来てほしいと思いながら、懐から先ほどココロに渡された手紙を取り出し、中身を確認してみる。

 

 そこに書かれた下手くそな地図に、ナミの表情が固まった。

 

「成程、わかるか‼」

「あーあーいいよいいよ、私が案内するから」

「それはそれでダメでしょ!!!」

「理不尽!!!」

 

 怒りのあまり、地図をその場に叩きつけるナミにエレノアが苦笑をこぼし、宥めようとする。

 が、とことん彼女を動き回らせたくないナミの非情な言葉に、エレノアは思わず涙目で叫ぶ羽目となった。

 

「だから、こういう奴をみんなで探すんだ‼」

「もしいたら、おれは逃げる」

「ああ、おれもだ。船があれば海へ逃げる…だが、タコの血を引いてそうだから海でも追ってきそうだ」

「………うまそうだネ、そいつ」

「オメーはどんだけ食い意地はってやがんだ!!!」

 

 甲板では、新しい仲間はどんな奴になるかという予想大会が、妙な方向になりつつあった。

 原因はルフィが書いた不気味な人物像で、それを見て恐怖を抱いたり、涎を垂らしたり、一言で言い表しがたい混沌が生み出されている。

 

 そんな彼らを、ロビンは一人穏やかに笑いながら、じっと見つめ続けていた。

 

「エレノア、ウォーターセブンについて詳しいなら、知ってる人で乗ってくれそうな人とかいない?」

「う〜ん……あそこに集まる職人達はみんな、たった一人について行くために精進してるような人ばかりだからなァ」

 

 ふと上がったナミの質問に、エレノアは険しい表情で首を傾げる。

 彼女の返答の意味が分からず、訝し気に眉を寄せるナミだったが、ふと視界に映ったウソップの行動に、つい意識が逸らされた。

 

「どうした? ウソップ」

「――このブリキの継ぎ接ぎもよ…戦いと冒険の思い出じゃねェか…これからきれいに直っちまうのかと思うと、感慨深くもあるわけだ、おれァ…」

 

 メリー号のマストに抱き着き、頬ずりをするウソップ。

 

 木板を当て、鉄板を張り、釘を打ち、メリー号が傷付くたびに何度も何度も修繕を施してきたのは、他ならぬ彼だ。

 船に対する想いも、誰より強く持っていた。

 

「それもわかるが…特に〝偉大なる航路〟に入ってからのメリー号への負担は相当なもんだ。甲板のきしみも船底の水洩れもひどい。このまま放っときゃ、船もおれ達も危険だぜ」

「ああ‼︎ でも今はいっぱい金もあるしよ‼︎ 完璧に元気にしてやれるよ‼︎パワーアップもできるぞ‼︎」

「よし、大砲増やそうぜ‼︎」

「じゃ銅像ものせよう」

「それはいらん」

 

 危険な冒険の末、手に入れた財宝の山。それさえあればきっとメリー号も強化できると、一味全員で期待に胸を躍らせる。

 

 そしてやがて、船の進む先に目をやったゾロが声を上げた。

 

「おい、アレじゃねェのか」

 

 その声に、ルフィ達は一斉に振り向き、徐々に見えてきた島の影に目を輝かせた。紆余曲折ありながら、ようやく目的地に辿り着いたのだ。

 

「島だ〜〜っ!!! 島が見えたぞ〜〜っ!!!」

「よしみんな!!! 漕げ!!!」

「ムダな力を使わすな」

 

 流行る気持ちを抑えられないのか、ルフィがオールを担いで無茶を言うのに、サンジが冷静にツッコミを入れる。

 ギャーギャーとまた騒がしくなりながら、メリー号は着実に島に向かう。

 

 そして一味は、近付いてきた島の全景に、ハッと目を奪われた。

 

「うおお〜っ!!! 何だコリャ〜〜〜〜!!!」

 

 まず目に入ったのは、島の頂上から噴き出す大量の水。

 弧を描き、下の水路に入った水流は、さらに下の水路に向かって流れ落ちていく。そうして島全体に、水が流される構造になっている。

 

 その光景はまさに、巨大な噴水を中心とした、美しい島であった。

 

「でっっっけ〜〜〜噴水だ!!!」

「うは〜〜‼︎ こりゃすげー、まさに産業都市‼︎」

「〝海列車〟も走るわけだ」

 

 キッチリと作られた水路、規則正しく並んだ町並み。

 使用されている技術の高さを表しているかのような、美しく整然としたそれに、ルフィ達は皆感嘆の言葉しか出てこなかった。

 

「正面にあるのが駅ね。ブルー駅って書いてある。港はどこかしら……」

「この辺は政府の船も使うから、裏町に回らないとダメだよ」

「なるほど…そりゃそうか」

 

 まっすぐ進みかけたところで、エレノアの忠告が入り、すぐさま方向転換が行われる。

 

 そうして進んだ先の景色。

 町全体が水の上に浮いているかのような、道の全てが水路になっている光景に、またも感動の声が上がった。

 

「わ――っ‼︎ すごいっ‼︎ 水上都市⁉︎」

「すげー‼︎ いいなここ、きれいな町だ」

 

 これまで通ってきた島とは大きく異なる、人の営みが大きく現れた島に、一味は目の輝きを止められない。どうしてもあちこちをきょろきょろと見渡してしまう。

 

「町が…‼︎ 水浸し!!! 家が海に沈んでるぞ⁉︎」

「違うわ、もともと沈んだ地盤に造られた町なのよ。家の下の礎を見て」

「本当だ、柱だ」

「成程…それで〝水の都〟」

「うほ――‼︎ おい、早く船着けろ‼︎」

 

 チョッパーの驚愕の声に、ロビンが冷静に分析を行うのをよそに、ルフィがよりはしゃいだ声を上げる。

 さっそく停泊させようとしたその時、彼らを呼び止める一つの声があがった。

 

「コラコラおめェら‼︎ ここはダメだ、海賊船は」

 

 見れば、釣り人らしき中年の男が、ルフィ達に向かって叫んでいる事に気付く。

 彼もまた、しっかりと海賊旗を示しているルフィ達を恐れることなく、むしろ親しげな様子で話しかけている。

 

「何しに来た? 略奪か?」

「普通に船を修理して貰いにですよ。この町に略奪しに来るようなのはとんだバカでしょ〜?」

「ははは、そりゃそうだ!」

「略奪かって聞くかフツー…」

 

 エレノアと釣り人の男が朗らかに笑いあう様に、ゾロが思わず冷や汗をかく。傍から聞けば、こんなにも親しげに話す内容ではまずなかった。

 

「それならこの先に岬がある。とりあえずそこに停めるといい」

「ありがとうございます!」

 

 親切にも案内をしてくれた男に礼を言い、麦わらの一味は再びメリー号の進路を変える。

 そして言われた通りの場所、港から少し離れた、船の残骸らしき無数の木片が積み重なった箇所に、一味は到着した。

 

「ここがいい…よし! 帆をたため〜」

 

 丁度いい箇所を見つけ、指示に従ったゾロがロープを引こうとする。

 

 しかしその瞬間、メリー号のマストが半ばからへし折れ、ぐらりと大きく傾き始めた。

 一瞬固まったウソップが、その光景にぎょっと目を向いて叫んだ。

 

「わ――!!! 何やってんだてめ――〜〜〜!!!」

「違……‼︎ おれはただロープを引いただけで」

 

 さすがのゾロも慌て、自分の握るロープとマストを交互に見やる。

 全くそんなつもりなどなかった、軽い力で起こった惨状に、彼は冷や汗を垂らして立ち尽くした。

 

「おどろいた…………ここまでガタがきてたのか、ゴーイングメリー号…」

 

 呆然としていたゾロは、ウソップに後ろから何度も叩かれ、ようやく正気に戻る。そして大急ぎで、折れたマストを戻す作業に入った。

 

「――ところで、島の人達何で海賊を恐れないの?」

 

 ゾロ達が必死にマストを押すのを横目に、ナミがふと疑問を口にする。

 麦わらの一味が無名の海賊であることを考えても、あまりにも自分達に対する敵というものが弱すぎると思ったのだ。

 

「海賊だって〝客〟だからだろ、造船所の」

「海賊に暴れられても構わないくらいの強い用心棒がいるとか…」

「いるだろうな、それぐらい…これだけの都市だ」

「理由はそれだけじゃないよ」

 

 それぞれで考察を語る一味に向けて、エレノアが口を挟む。

 視線が自分に集中すると、エレノアはどこか誇らしげな、悪戯っぽい笑みを浮かべて語ってみせる。

 

「ガレーラカンパニーの船大工達はね、み〜んな〝戦う者〟なんだよ。現場で鍛え上げた腕、精神力、体力、全てが海賊にだって引けを取らない職人の中の職人なんだ」

「へー…! じゃあ強ェ奴がいっぱいいるんだな」

 

 エレノアのもたらす情報に、ルフィとウソップはさらに期待に胸を弾ませる。

 大切な船を修復してくれる心強い仲間、それも強いものが入ってくれるのなら、これほど望ましい事はない。

 

「よし‼︎ ほんじゃ行ってきます‼︎」

 

 流行る気持ちをそのままに、ルフィ達はさっそく外に向かって歩き出す。

 が、一歩踏み出したその直後、ナミがルフィ達の頬を掴み、無理矢理その場に引き留めた。

 

「待ってルフィ‼︎ ウソップ‼︎ あんた達私についてきてよっ!!!」

「どこに」

「――まずはココロさんの紹介状を持って〝アイスバーグ〟という人を探すの。その人を頼って船の修理の手配と…あと、どこか黄金を換金してくれる所を探さなきゃ」

「……そうか」

 

 今すぐにでも町に行きたいルフィだったが、そうした方が確実なのだと理解すると、ぐっと我慢する。

 

 ふぅ、と問題児達が先走らずに済んで安堵するナミ。

 そこに、はいっと勢いよく、エレノアの手が挙げられた。

 

「アイスバーグさんなら、私面識あるよ。だいたいいそうな場所も知ってるし」

「う〜〜…ん…あんたには船でおとなしくさせとく予定なんだけどな〜」

「…………あの、義足の修繕くらいは行かせてくれてもいいんじゃないの?どんだけ私信用ないの?」

「自分のやったことはちゃんと認めろ、バカ」

 

 あまりに過保護が過ぎる、とエレノアがやんわりと抗議の声を上げるが、ゾロがそれをバッサリと切り捨てる。

 

 遥かに格上の海兵を相手に、重症の身体を酷使し、足止めを担おうとしたことは、一味の中で酷くトラウマになっているらしい。

 エレノアを見つめる目は、完全に疑惑で一杯になって見えた。

 

「今度また無茶しやがったら、お前本当に死んじまうだろ。おれは許さん」

「まーまー、何かあってもルフィがいるし、大丈夫だろ。いざとなったらおれ達で抱えて逃げりゃいい」

「何ならおれも一緒に行くヨ〜」

「……そうね、じゃああんたの伝手、頼らせてもらうわ」

「よしきた!」

 

 ドンッと胸を叩くウソップと、ひらひらと手を振るリンの説得で、ナミは少しだけ留飲を下げる。

 確かに、いつまでも船室に閉じ込めていては、そちらの方が悪化しそうだ。

 

「ウォーターセブンは広いから………先に貸しブル屋で二頭……いや、三頭借りていこう。こんだけの黄金の換金なら、中心街に行かないとね」

「…なんかもう、いろいろ教えて貰う事にするわ」

 

 何の話をしているか全くわからないが、街中で不都合がないよう、色々と考えてくれている事はわかる。質問は道中にしようと諦め、ナミは肩を落とす。

 

 それぞれの役割が決まったことを察すると、ルフィはニッと笑みを浮かべ、今度こそ町に向かって歩き出した。

 

「よし‼︎ じゃあまァとにかく‼︎ 行こう〝水の都〟!!!」

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