ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第173話〝ガレーラカンパニー〟

 水の都・ウォーターセブンでの景色は、全てがルフィ達に凄まじい刺激を与えてきた。

 町中に張り巡らされた水路、水の道を進むために必要不可欠な不思議な生物ブル。美しく、そして高い技術力に満ちた町は、どこからも目を離せなくなる。

 

 あらゆるものに目を奪われ、そして時に戸惑いながらも、ルフィ達はエレノアの案内のもと、ブルに乗って町を進む。

 そして少し予定を変更し、山積みになった黄金の換金のため、専用のある店を訪ねた。

 

 

 

「いヤ~~!!! やっぱり外の世界はイイネェ‼ おれがまだまだ知らない事がたっくさん学べル!!! じかに見るのに勝るものはないって事だナ!!!」

「はいはい、そうですね……」

 

 換金所の外で暇を持て余す、エレノアとリン。

 かなりテンションの高い彼に辟易としながら、適当に相槌を返す。

 

 車椅子では入りにくいだろうという配慮と、自由に動けない彼女の護衛という名目で、二人は換金が済むまで待ちぼうけを命じられたのだ。

 

「時間かかってるネェ…? なんか揉め事でも起こってんのかナ?」

「さァ? どうせナミが、提示された鑑定額に納得できなくて文句つけてる処じゃないの?」

「ああ、そういウ………」

 

 暇そうに壁に凭れ掛かり、空を見上げて呆けるリン。

 エレノアはそんな彼に、じろりとやや鋭い視線を向け続け、しばらくしてから不意に口を開いた。

 

「ていうかさ………あんた、いつまであの一味にいるつもりなのよ。探し物があるって話じゃなかったの?」

 

 問いかけるエレノアの声は、厳しく嘘偽りを許さないという迫力に満ちている。

 車椅子に乗った重傷人のはずなのに、びりっと大気が震えて感じるほどだ。

 

 対するリンは、微塵も表情を変えないまま、やりと笑みを浮かべてみせた。

 

「……おれの事、警戒してるよネ。変なこと聞いたかラ?」

「…何の事だか」

「とぼけなくてもいいヨ。おれが最初っから怪しいってのは、自分でもわかってることだからサ」

 

 目を逸らすエレノアに、リンは不気味に笑ったまま続ける。

 二人の間に漂う空気は、あっという間に張り詰め、急激に重くなる。まるで嵐の前兆のような変貌である。

 

「最初に質問した時に確信したヨ………表面上は何にも感情を動かさなかったけド、目に動揺が現れてタ。おれくらい人の考えに機微じゃなきゃ、気付かなかっただろうけどネ…」

 

 そういうリンの細目が、僅かに開かれる。

 

 その瞬間、突如エレノアの喉元に、左右から一振りずつ刃が当てられる。

 彼女の背後に、何の前触れもなく現れた二人の黒装束が、無音のまま刃を抜き、突き付けていた。

 

 

「〝賢者の石〟……知ってるんだロ?」

 

 

 さすがに目を見開き、固まるエレノアに、リンが平然と告げる。

 エレノアの目はすぐにジト目に変わり、不満げにリンと、彼の呼び出した黒装束達を睨みつける。

 

「……シンの戦士か」

「世話になってる船の船員だガ………おれも色々背負ってるもんでネ。手荒な真似はしたくないから、素直に質問に答えてくれると嬉しいヨ」

「…………最初から、私が目的だったの?」

「いヤァ? 乗り込んだ船に天族がいたのは、ホントに偶然…………当たりくじを引いたと思ってるヨ」

 

 咎める視線は、リンとしても望まぬものらしい。困り顔で、やれやれと肩を竦めている。

 しかし、彼に退く気配はない。エレノアにどのような目を向けられても、どんな強引な手段であっても、やめるつもりは毛頭ないらしい。

 

「――わかっておろうが、逃げようとも、助けを呼ぼうとも思うナ。妙な事をすれば、我らはお前の首を容赦なく斬ル。若の問いに答えれば、それだけで話は済むのダ」

「……」

「ま、そういう事だかラ………話してもらえるかイ?」

 

 黒装束の一人、声からして高齢の男が強い口調で告げる。

 ポリポリと頭を掻きながら、リンは表面上は申し訳なさそうに頭を下げ、しかし開かれた鋭い目は有無を言わさない圧を放つ。

 

「〝不老不死〟―――そこに至るための方法を」

 

 強烈な緊張感が漂う中、エレノアとリン達が睨み合う。

 数秒か数分が、延々と続くかのような錯覚に陥る中、エレノアがついに口を開く。そして―――

 

 

 

「さ…3億Bっ!!!」

 

 換金所から、ルフィ達の驚愕の声が響き渡る。

 船にため込んだ黄金の山が、そっくりそのまま札束の山に変貌したのだ。貧乏海賊団だった彼らにとっては、信じがたい光景だった。

 

「夢じゃねェのか………‼︎」

「空島の冒険が遂に実を結んだわ!!! 大金持ちよ、私っ♡」

「私達だろ」

 

 机の上にドンと出された札束に、ルフィ達はわーわーと騒ぐ。

 喜びはしゃぐ彼らを、換金所の主はなぜか怯えた様子で、特にナミに恐ろしいものを見るような目を向け、見送っていた。

 

「ま…またのおこしを〜」

「さ…さ、〝3億〟になっちまった……‼︎ こ……こえェよ、おれ1億も持つのかよ」

「いや――ナミのおどしはコエーなー、あっはっはっは」

「元々これくらいの価値だとは踏んでたの、そこへ1億ですもの。あんた達がそわそわしてるからナメられたのよっ!」

 

 それぞれ1億ずつ、用意したトランクに詰め込んだルフィ達が、意気揚々と換金所から出てくる。

 ふとナミは、入り口の傍で固まっているエレノアとリンに気付き、訝しげな目を向ける。

 

「あれ? あんた達どうかしたの? なんか変な空気を感じたけど…」

「………アー」

「んにゃ…何でもないよ。どうでもいい話だから」

 

 言い淀むリンに変わり、エレノアがひらひらと手を振る。

 気になったナミだったが、リンはともかくエレノアに変わった様子が見えないため、まぁいいかと引き下がる。

 どうにも、妙な雰囲気が漂っていた気がしたが、放置することにした。

 

「ま――とにかくうまくいって……――あ‼︎」

 

 そんな空気に気付かないルフィは、大金にはしゃぎトランクをぐるぐると振り回す。

 するとふざけていた罰が当たったのか、彼の手からスポーンとトランクがすっぽ抜けてしまう。それが向かう先にある川に、ナミ達がぎょっと目を剥いた。

 

「わあ〜河に〜〜っ!!!」

「1億Bが水に沈む〜〜〜〜‼︎」

「よっ」

 

 せっかく手に入れた大金、その3分の1が失われる、と慌ててナミとウソップが、トランクを受け止めようと川に飛び込む。

 が、惨事が起こるよりも前に、いつの間にか仕込んだのか、エレノアがトランクに括り付けた糸をくいっと引き、トランクを受け止めてみせた。

 

「………どうせこうなると思ってたもんで」

「もう…‼︎ もう絶対よその船になんか行かないでください!!!」

「オラァ‼︎ 頭下げろォ!!! 怪我人に働かせてごめんなさいってよォ!!!」

「す……すぴ……すぴませんでした……!!!」

「…………船長にも容赦ないネ、君ら…」

 

 はぁ、とため息をつくエレノアに、びしょ濡れになったナミがきつく抱きつく。

 その横では、ウソップにボコボコにされたルフィが涙目で謝っていて、それを見たリンがドン引きした様子を見せていた。

 

「なァ、ナミ、エレノア。やっぱ一度船に置いて来ねェか?」

「――それは手間よ…大丈夫、船大工に会いさえすれば。修理代の査定のためにすぐ船に戻る事になるから」

「そうか、それもそうだな」

 

 一行はヤガラブルの背に戻り、次なる目的地である造船所を目指す。

 一応の用心として、ルフィをトランクから離れさせたまま、水路をすいすいと進ませる。何とも悲しい光景であった。

 

「おい見ろ、あそこ〝水水饅頭〟だってよ‼︎ 1000個買おう」

「黙れ…」

 

 当の本人は、あまり反省した風には見えなかったが。

 

 

 

「戻ってきたぞ、造船所の入り口‼︎」

「よかった、さっきの人だかりは消えてる」

 

 やっとたどり着いた造船所の前で、ナミ達はホッと安堵する。

 一度訪れていたのだが、その時は記者達が大勢で造船所を囲んでいて、どこにも入れる場所が見当たらなかったのだ。

 

 記者たちに囲まれたままでは、船の査定も修繕も、何も出来ないまま待たされる羽目になっただろう。

 

「とにかく探そうか、その……」

「〝アイスバーグ〟さん。ガレーラカンパニーの社長でこの町の市長さん。あと〝海列車〟の管理もしてる人だよ」

「最強かそいつァ!!! …んでいまはどこに」

「いろんな仕事してるからな〜……」

 

 驚愕するウソップを放置し、きょろきょろと造船所の向こうに目をやるエレノア。

 すると待ちきれなかったのかルフィがさっさと歩き出し、造船所の前に置かれた柵を乗り越えようとした。

 

「おじゃまします」

「また……」

 

 いう前に入るという、お約束の厚顔不遜さを見せるルフィに、仲間達から呆れた目が向けられる。

 だが、入り込もうとした彼を、ある一人の男が額を押して立ち止まらせた。

 

「おっと待つんじゃ、余所者じゃな?」

「ん?」

「とりあえず外で話そう。工場内は関係者以外立ち入り禁止じゃぞ」

 

 ぐいっ、とルフィを押し、下がらせるジャージ姿の男。

 工具を腰のポーチに収めた彼は、自ら柵を跨いでルフィ達の前に立ちはだかった。

 

「あ〜〜…どっこいしょ。このドックに用か?」

 

 問いかける男を目にして、ルフィ達は驚愕で目を見開く。

 その男―――カクという名の彼は、角ばってはいるが非常に長い鼻という、この場にいる仲間の一人と、非常に酷似した姿をしていたからだ。

 

「ああ…ウソップか」

「おれはここにいるぞ‼︎ ルフィ!!!」

「そうよ、この人四角いわ」

「似てるネ〜〜…生き別れの兄弟か何かカ?」

 

 まさかこんなに似た者がこの世にいるのか、とざわめくルフィ達。

 驚愕したまま動かない彼らを放置し、エレノアが自ら車椅子を押し、カクの前に進み出る。

 

「カク! 久しぶりだね!」

「ん? おお、エレノアか…久しいのう! しばらくお前さんの載った記事を見んかったからどうしたのかと思っとったが……元気そうでなによ……………」

 

 知人が話しかけてきたことで、カクはすぐに笑顔に変わり、挨拶を返す。

 しかし、久しぶりに会った知人の変貌した姿に一瞬固まり、ギョッと目を見開いて慄いた。

 

「おお!!? お、お前さん……その両脚はどういうことじゃ!!?」

「あははは……ちょっとドジっちゃって。今はリハビリの意味も込めて〝偉大なる航路(グランドライン)〟を一から航海してんだよ」

「ホー…そりゃまた難儀じゃな」

 

 痛々しく巻かれた包帯や車椅子を凝視していたカクは、心配そうに眉を寄せ、労わりの目を向ける。

 しかし、あまりじろじろと見つめるのも失礼と思ってか、すぐに切り替えエレノアと向き直った。

 

「それで? 今回は別の仲間を連れて何の用じゃ」

「そうだ、あの…アイスバーグさんに、会わせてほしいのっ‼︎」

「はいこれ」

 

 はっ、と我に返ったナミが答えると、エレノアが先に出会ったココロに渡された紹介状を見せる。

 中身を確認したカクは、すぐに納得の表情を浮かべた。

 

「ほう、シフト駅のココロばーさんの紹介状じゃな」

「結構な深手を負っちゃった子でね、一回診てあげて。カクならひとっ走り20分ぐらいで終わるでしょ」

「おいおい…ワシを甘く見過ぎじゃぞエレノア。10分じゃ。まァ、ちっとばかし待っとれ」

 

 にやり、と笑みを浮かべたカクは、自分の道具を地面に置くと、その場で何やら屈伸運動を始める。

 二人の会話の意味が分からず、ウソップとリンが訝し気に首を傾げる。一っ走り10分とはどんな行き方をするつもりなのか。

 

「ひとっ走りって…〝ヤガラブル〟で?」

「ワハハハ、そんな事しとったらお前達、待ちくたびれてしまうじゃろ」

 

 不敵に笑ったカクは、突如勢いよく走り出す。

 その速度は、ルフィ達でさえ一瞬反応が遅れるほど。瞬く間に彼は、造船島の端まで走り抜けていた。

 

「速ェっ!!!」

「え…でも待って、あっちにあるのは…」

「絶壁ダ!!!」

 

 驚愕の目で走り去ったカクを追うルフィ達は、続いて焦りで息を呑む。

 彼が向かった先には何も無い、遥か下に町並みが広がる空中だった。その様は、いきなり飛び降り自殺に走ったようにしか見えなかった。

 

「うわ‼︎ 落ちた!!!」

「ンマ――!!! 心配するな」

 

 悲鳴を上げるナミ達だが、背後からその心配を否定する声が響く。

 ハッと振り向けば、胸ポケットに一匹のネズミを入れた男と、白衣を着た深い顔立ちの男、そして彼らに寄り添う二人の美女達の姿があった。

 

「え? 誰⁉︎」

「彼は町を自由に走る、人は〝山風〟と呼ぶ」

 

 いきなり見知らぬ何者かに話しかけられ、ルフィ達は困惑の視線を向ける。

 それに構うことなく、謎の男達はどこか誇らしげな様子で、カクが飛び去った方向を見つめ、笑みを浮かべていた。

 

「『ガレーラカンパニー』1番ドック〝大工職〟職長〝カク〟!!!」

 

 宙を舞ったカクは、そのまま町並みの屋根の上を、軽々と跳躍していく。

 その姿、まさに風そのもの。真下から見上げる子供達に手を振り返しながら、彼は廃船島の方向へと跳んでいった。

 

 

 

「いや驚いた…」

「あそこから飛ぶとは思わなかったヨ」

「ンマー‼︎ ウチの職人達をナメて貰っちゃ困る。より速くより頑丈な船を迅速に造り上げる為には……並の身体能力では間に合わねェ」

「ね? 言ったでしょ」

 

 あっと驚く光景を見せつけられ、ルフィ達はもう開いた口が塞がらない。

 エレノアだけが平然と、それ見たことかと言わんばかりに、悪戯っぽい笑顔を見せつけた。

 

「お久しぶりです、アイスバーグさん、ヴィルヘルム教授…………アルモニ嬢には以前お世話になりました」

 

 唖然としたままのルフィ達を後回しにし、エレノアはキコキコと車椅子を動かし、謎の男達に向けてぺこりと頭を下げる。

 その声で、ようやくナミも思考が追い付き、ん?と訝しげに首を傾げた。

 

「ヴィルヘルム………そういえばどこかで聞いた覚えが」

「最近の君の噂は聞いているよ……〝妖術師〟エレノア君。そうか……娘に会ったのか。こちらこそ、随分世話になったようだ」

「ンマー…ずいぶん見ない間に雰囲気が変わったんじゃ…………ってその脚は何事だ!!?」

「なんでみんな二度見なの…?」

 

 最初は朗かに挨拶を躱そうとした男達、アイスバーグとヴィルヘルムだが、エレノアの姿を見たとたん驚愕をあらわにする。

 いい加減、全く同じ反応に飽きてきたエレノアだが、仕方がない事かと諦め、肩を竦めるだけにとどめた。

 

「そうか……よくは知らんが、随分無茶な旅をしてきたようだな。まーこの島の記録にはそれなりにかかる。ゆっくりしていけばいい」

「そうさせて貰うよ…」

 

 大体の事情を察したアイスバーグの気遣いに、エレノアはフッと疲れ切った苦笑を返すのだった。

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