ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第174話〝一家とファミリー〟

「よく来た、おれはこの都市のボス‼︎ アイスバーグ」

「はじめまして、〝麦わら〟の一味の諸君……錬金術師エイゼルシュタイン・ヴィルヘルムという者だ。こちらは娘のセレネ」

「…よろしく」

 

 堂々と仁王立ちし、名乗るアイスバーグと、静かに頭を下げるヴィルヘルムという名の男。

 その傍らには、眼鏡をかけた長身の美女と、長い黒髪を垂らした美少女が、美しい姿勢で立っていた。

 

「そしてこのネズミはさっき拾った。名前は…そうだな、〝ティラノサウルス〟。エサとカゴを用意せねば」

「手配済みです、アイスバーグさん‼︎」

「ンマー‼︎ 流石だなカリファ」

「恐れ入ります‼︎」

 

 アイスバーグが思い付きを発すると、カリファと呼ばれた美女がすぐに頷く。きびきびとした態度は、彼女の生真面目さをこれでもかと表している。

 

 ルフィ達は彼女が口にした自分達の情報に、彼らが立場通りただものではない事を感じ取り、少し慄いた様子を見せていた。

 

「――それより10分後にチザのホテルでグラス工場の幹部と会食。その後リグリア広場での講演会。終わりましたら美食の町プッチの市長ビミネ氏と会談。その場で新聞社の取材を受けて頂き、本社へ戻り書類に少々お目通しをお願い致します」

「いやだ!!!!」

「では全てキャンセルします」

「おいいいのかそれで!!!」

 

 カリファが告げる今日の予定を、アイスバーグがばっさり切り捨てると、目の当たりにしたウソップが思わず声を挟む。

 同じくヴィルヘルムも、親友にして同僚である彼に呆れた視線を送っていた。

 

「まったく君は…」

「そういう父さ……教授もこの後テック鉄鋼重役と開発中の新素材についての会議。ビヤマナ産業校での講義についての打ち合わせ。午後19時よりボーエッキ会長との会食が予定されておりますのでご準備を」

「全てキャンセルで頼む」

「…………了解しました」

「あんたもか!!!」

 

 生真面目、というよりは黙々とした態度で予定を口にするセレネに、ヴィルヘルムも同じく拒否を口にする。

 全く同じ流れに、ウソップがまた鋭いツッコミを入れる。

 

「こんな事ができる程の権力者だ、おれ達は」

「娘と過ごすオフの時間の方が重要でね」

「市長失格じゃねェか完全に」

 

 一切悪びれる様子もなく胸を張る二人に、ウソップだけでなくルフィもナミもリンも呆れた目を向ける。

 唯一、エレノアだけがよく見知った様子のようで、苦笑をこぼすだけだった、が。

 

「無礼者っ‼︎」

 

 突如、激昂した声を上げたカリファとセレネが動く。カリファがルフィ達に向けて鋭い蹴りを放ち、手袋をはめたセレネが風圧の弾丸を放つ。

 間一髪、危機を察知した一味は、襲い掛かってきた二人に驚愕の目を向けた。

 

「何すんだお前ら‼︎」

「びっくりした………‼︎」

「……………………!!!」

「やるネ…」

「世界屈指の造船技術者と〝十賢〟に向かってアレだのコレだの何ですか!!!」

 

 怒りの声を返したルフィ達に、カリファもセレネも厳しい視線を向ける。

 しかしすぐに我に返り、慌てた様子で居住いを正し、ルフィ達に向き直った。

 

「はっ‼︎ 失礼、つい取り乱してしまいました。――ですがアイスバーグさんは市民の憧れ、あまり無礼のない様に‼︎」

「……申し訳ない…です」

「気をつけてよね。カリファさんもセレネも、見た目に反して結構激情家だから……敬愛する上司と父親に対する無礼に関しては」

 

 失態を見せ、冷や汗を流すカリファを見て、エレノアがくすくすと笑う。

 顔の半分をカリファとセレネにやられ、ボコボコにされて半泣きになりながら。

 

「見境がないから」

「「「「何でよりによってそいつに攻撃当ててんだよ!!!」」」」

「とりあえずコレ……ココロさんからの紹介状ね」

 

 怪我人に攻撃してしまい、カリファとセレネがはっ‼と息を呑むのを横目に、エレノアが懐からココロに渡された紹介状を取り出し、アイスバーグに手渡す。

 受け取ったアイスバーグは中身を確認し……突如それを、びりびりと破り捨ててしまった。

 

「ああっ!!!」

「ねぇ、お願い船直して‼︎ お金なら払えるのよ!!?」

「もう航海でボロボロなんだ、メリー号は!!! 頼むおっさん!!!」

 

 まさか先程のやり取りが気に障って、取り合う気を失くしてしまったのか、と慌てるルフィ達。

 しかし、アイスバーグは微塵も表情を変えず、彼らに答えた。

 

「いいよ」

「軽っ、いいのかよっ!!! じゃ、何で破くんだっ!!!」

「キスマークが不快だった」

「彼女とは昔からの飲み仲間だ……断る理由はないよ」

「ンマー‼︎ とはいえすでにカクが船を査定に行ってんだ。話は進んでる」

 

 どうやら、ルフィ達の態度ではなく、紹介状の内容そのものが気に入らなかっただけらしい。

 ホッと安堵の息をつく青年達の前で、アイスバーグはホジホジと鼻をほじりながら促す。

 

「どうせ今日は退屈な日だ。工場を案内しようか」

「仕事をキャンセルした男の態度かイ」

「よ――し‼︎ じゃ行こう造船工場」

 

 何はともあれ、これで船を直せると高揚した様子を見せるルフィ。

 社長であり市長でもある男の有様に、いろいろ言いたい事もあったが、全員全て呑み込んで、彼の後をついていく。

 

「あ、そうだ金金………」

 

 同じく歩き出そうとしたウソップが、ふと自分達の荷物を置きっぱなしにしている事を思い出し、立ち止まり振り向く。

 しかし、3億Bが入ったトランクを物色する何者かに気付き、ギョッと目を見開いた。

 

「え」

「あ、バレた急げ!!!」

 

 謎の集団、サングラスをかけた妙な格好の男達と、バラバラな格好の男女十数人は、ウソップが気付くと同時に脱兎のごとく逃走する。

 

「えっ、何!!?」

「おい待てェ!!! 誰だてめェら!!!」

「逃げろ――!!!」

「ドロボー!!! 金返せェェ!!! 2億B〜〜!!!」

 

 慌てて追いかけるウソップだが、もう追いつけそうにないほどに差を広げられてしまう。

 そして謎の集団は、岸につけておいたヤガラブルに飛び乗り、凄まじい速度で遠ざかっていった。

 

「フランキー一家!!! ……と、あっちは?」

「グリードファミリー!!!」

 

 エレノアが驚愕の声を上げ、すぐに困惑の目で、もう一つの手段を凝視する。

 彼女の疑問に答えるように、カリファが大きな声を上げて目を見開いた。

 

「待てェ!!! 待ってくれ―――!!!」

「うひゃ〜‼︎ 2億もあるらしいぜ!!!」

「ありがとよ――兄ちゃん!!!」

 

 ズドドドド…‼と全速力で陸地を走り、奇天烈な格好の集団―――フランキー一家とグリードファミリーを追うウソップ。

 それを嘲笑うように、男達は奪ったトランクを見せつけた。

 

「パ〜〜ス!!!」

「おうよ‼︎」

「取り返せるもんなら取り返してみな〜!!! ギャハハハ」

 

 海を泳ぐことに特化した生物と、狙撃に特化した男では、端から勝負は決まっていたらしい。ウソップは息も絶え絶えに、奪われたトランクに手を伸ばす事しかできずにいた。

 

「待てェパウリー!!! 今日こそは逃がさんぞ〜〜!!!」

「もうちょっと待ってくれっつってんだろうがよォ!!!」

「パウリーさんのバカ〜!!!」

 

 その時だった。

 一家が逃げる方向から、大勢の挙げる怒号と、ある一組の男と少女があげる見苦しい言い訳の声が聞こえてきていた。

 何事か、と視線を巡らせ、アイスバーグが眉を寄せる。

 

「あれは…」

「パウリーとパニーニャです。また借金取りに追われてます」

 

 カリファの報告に、エレノアがハッと息を呑む。

 そして車椅子から身を乗り出し、走る男女に向けて叫んだ。

 

「パウリー‼︎ パニーニャ‼︎ そいつら止めて!!!」

「あん⁉︎」

「エレノア⁉︎」

 

 名を呼ばれ、驚愕と困惑の視線を返してくる男女、パウリーとパニーニャ。

 向かう先にいる、一家とファミリーに気付いた二人は、橋の上に辿り着くと、勢いよく川に向かって飛び出した。

 

「〝ロープアクション〟!!!」

 

 続いて二人は、懐から太いロープを取り出し、ひゅんっと振りかざす。

 その途端、ロープはまるで自らの意思を持っているかのように動き、川の上を疾走する一家とファミリーの首に巻きついた。

 

「ちょっとその子達借りるよ〜‼︎〝ラウンドターン〟!!!」

「うぶげェっ!!!」

「ぐえェっ!!!」

 

 首を取らわれた男達は、男女が操るロープに引っ張られ、空中を縦横無尽に振り回される。

 そして最後には、全員が互いに頭をぶつけさせられ、ドボンッと激しい水飛沫を立てて、水中に落下することとなった。

 

「これでい〜い?」

「上出来‼︎」

 

 スタっ、と身軽な体さばきで、乗り手が消えたヤガラブルの上に乗ったパニーニャが、エレノアに向けて問う。

 エレノアはそれに、にっこりと満面の笑みを浮かべて頷いてみせた。

 

「くそーっ‼︎ また逃げられたっ!!!」

「そいじゃ元気で! みなさん、また走りましょう。イヤ、いい所に来てくれた」

「まったくも〜…あんたって人はいっつもこうなんだから」

 

 二人を追ってきた男達、話を聞く限り借金取りであろう男達は、去っていくパウリー達を睨んで歯噛みをする。

 一息ついた風に肩を竦める彼に、パニーニャは冷たく呆れた目を向けていた。

 

「よかった、アレあんたんとこの船大工なんだろ?」

「そうだ」

「お――いありがとう、その金おれ達のだ!!!」

 

 訳の分からない集団に、大金を取られる最悪の未来を回避し、ほっと安堵の息をつくルフィ達が、恩人であるパウリー達に向けて叫ぶ。

 

「え? 金?」

「あー…これか」

 

 今ここでようやく、ヤガラブルの背に乗ったトランクの存在に気付いたパウリーとパニーニャが、じっとそれを凝視して固まる。

 しばらくの間黙り込んでいた彼らは、無言のままヤガラブルの上に座り直し。

 

 そのまま、すい~っとヤガラブルを泳がせ、遠ざかっていった。

 

「いやオイ!!! 戻れ〜っ!!!」

「ふざけんなあんたらァ!!!」

 

 ネコババされた物をさらにネコババした二人に、ウソップとエレノアの怒号が響き渡ったのだった。

 

 

 

「おいおい離せっ!!! 何すんだてめェは!!! 逃げやしねェよ!!! もうわかったってんだろう!!! 耳をはなせ」

「ごべんなしゃいィ…」

 

 逃げたパウリーとパニーニャが戻ってきたのは、それから数分経ってからだった。

 一人のハットを被った長身の男が、まるで猫でも掴むかのように、二人の襟首を掴んで戻ってくる姿がそこにあった。

 

「せっかく大金が入ったってのに…‼︎ てめェ覚えてろルッチ!!!」

『人の金で借金を返そうとするな、愚か者』

「拾ったんだこの金は‼︎」

「あたしは巻き込まれたんです〜〜!!!」

「あっ‼︎ てめっ、ズリィぞパニーニャ!!!」

 

 ブランブラントぶらさげられたまま、わーぎゃーと責任の擦り付け合いをするパウリー達。

 そんな二人を見やり、エレノアは深いため息とともに肩を落とした。

 

「やれやれ…ルッチがいてくれて助かった」

「すごい大捕物だったネ〜」

「いやー、よかったなーウソップ」

「人事か‼︎ おれ達の大金2億Bだぞ‼︎」

「そうよ、だいたい何であんた一番に取り返しに行かないのよっ‼︎」

「だってあのハトが『おれが行く』って……」

 

 心底安心するウソップに、感嘆の声をこぼすリン。その傍で、ぎろりと目を吊り上げたナミが、動かなかったルフィに詰め寄る。

 それを見たアイスバーグ達が、苦笑交じりにルフィ達に頭を下げた。

 

「ンマー‼︎ 悪かった、身内のバカは身内でカタをつけさせてくれ。おめェらにとっ捕まりゃカドが立つからな」

「フランキー一家に盗られなくてよかったと思って、ここは一つ…」

「まァ…それはホントだけど…………」

「―――けど何者だイ? さっきの…あの妙ちきりんなカッコしたやつらハ」

 

 謝罪するカリファに、ふと疑問を抱いたリンが問いかける。

 公然の目もあるのに、平然と盗みを行っていた集団。相手が海賊だとしても、何の躊躇いもなかったように見えた。

 その問いに答えたのは、頬杖をついて振り向いたエレノアだった。

 

「フランキー一家は船の〝解体屋〟だよ……副業で〝賞金稼ぎ〟もやってるの。ウォーターセブンにやってくる海賊を討ち取って賞金を得て、残った船もバラバラにして材木を回収し、売りさばく。それがあの人たちの商売なの」

「タチ悪ィな、海賊団ごと解体しようってのか⁉︎」

「ンマー‼︎ エジキになりゃあ骨も残らんな」

 

 ギョッ、と後退るウソップに、アイスバーグも追加で語る。

 しかしルフィはあまり脅威と思っていないのか、けらけらと陽気に笑ったままだ。

 

「だけど、あんま強そうじゃなかったよな」

「あれは手下。頭であるフランキーは……たぶん、あんたでも手こずるよ」

 

 油断している青年に釘をさすように、エレノアがじろりと厳しい視線を向け、ルフィは困惑しながらも思わず居住いを正す。

 しかし、エレノアもやがて、アイスバーグ達に訝しげな表情で振り向いた。

 

「……でも私、グリードファミリーについては知らないんだけど、何者なの?」

「数年前、どこからかふらりと現れた〝グリード〟という男を頭目に結成された、同じく賞金稼ぎ集団です。フランキー一家同様、各地で諍いを起こしている迷惑な集団です」

「初めはライバル意識があったのか、ちょくちょくぶつかることもあったんだが………余程ウマがあったのか最近じゃ手を組んで暴れることが多くなってな。こっちも手を焼いてんだ」

「ふーん…」

 

 カリファとアイスバーグの説明に、少し興味を抱いた様子で頷く。

 河に落ち、流されていった奇天烈集団の姿を思い出しながら、誰にも聞こえないような小さな声で、彼女は呟いた。

 

「…まァ、フランキーが気に入った人なら、そんなに悪人ってわけでもないか」

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