ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第175話〝一流の職人達〟

『連れてきました、アイスバーグさん』

「耳‼︎ いてェ‼︎」

「ごめんってばァ‼︎」

「手間かけたな、ルッチ」

 

 ずるずると引き摺られてくるパウリーとパニーニャ。

 唖然とした様子でそれを見つめるルフィ達に、ルッチと呼ばれた男……ではなく、その肩に乗ったハト―――ハットリが口を開いた。

 

『どうも、バカがご迷惑おかけしましたね』

「また喋った……!!!」

『クルッポー。ホラ、お詫びしろパウリー。パニーニャ、お前も師匠の手綱くらいしっかり握っておけ』

「ふげ‼︎」

「うぇ〜い…」

 

 ドサドサッ、と耳を引っ張られたパウリーとパニーニャが、アイスバーグの前に放り出される。

 二人とも、あまり反省した様子は見られなかった。

 

「…んん〜?」

「相変わらずだね、パウリーもルッチも…」

「喋りまくりだな、あのハト」

「帽子の男の代弁してるみてェだ。まァ……とにかく金が戻ってよかった」

 

 ハトが喋るという珍事に、ルフィ達は然して驚かない。

 もっと不思議な生物達が一味に居るのだから、その反応も当然だった。

 

「よォ、お前が持ち主か。拾ってやったぜ」

「ああ! ありがとう」

「礼なら一割よこせ」

 

 起き上がったパウリーが、ケースをルフィに渡しながらそう言う。

 すると、彼の背後に音もなく近づいたルッチが、ガツッとハンマーで頭を殴りつける。

 呻くパウリーを放置し、またハットリが喋り始めた。

 

『失礼、お客さん。コイツァギャンブルで借金が嵩張ってるもんで、金にガメつく礼儀を知らない』

「だから何でお前が喋るんだよ!!!」

「この野郎…ルッチてめェもう許さん!!!〝ロープアクション〟‼︎〝ボーラインノット〟!!!」

 

 頭を押さえるパウリーが、ぎろりとルッチを睨みつけ、そして襲い掛かる。

 勢いよく放ったロープでルッチの片手を縛り、凄まじい力で空中に引き上げると、地面に向けて振り落とした。

 

「また始まった…‼︎」

「ちょっと!!!そんな本気で…!!!」

「ンマー、いつもの事だ…」

「うお‼︎ おいおい‼︎ あれ見ろ!!!」

 

 突如始まった乱闘に、一味は驚愕の目を、アイスバーグ達は困り顔を見せる。

 その横で、息を呑んでいたウソップは、投げ飛ばされたルッチを見てさらに目を見開いた。

 

「腕一本で……‼︎ 今の衝撃受け止めてるぞ!!!」

 

 脳天から落下したルッチは、縛られている片方の腕で地面に降り立っていたのだ。

 指が地面にめり込むほどの力で、片手で逆立ちするその姿に、ナミやウソップ、リンはひたすら圧倒されていた。

 

 しかし、ルフィはそれに目もくれず、真っ直ぐにパウリーに食って掛かった。

 

「おいゴーグルのお前っ‼︎」

「⁉︎」

「あのなァ、よく考えろよ⁉︎お前の事バカにしたり挑発したりしたのは全部、ハトじゃん」

 

 ルフィの指摘に、パウリーは思わず呆れた目を向ける。ズレた反応を見せるルフィにどう反応するべきか、迷っているらしい。

 

「いいんだよそれは、おれを殴ったのはあのルッチの方だろ」

「ハトは自分で殴れねェからあいつにやらせたんだ‼︎ おいハト‼︎ お前ケンカは自分でやれよ‼︎ 何とか言え‼︎」

 

 ルフィは怒りの矛先をハトに向け、ギャンギャンと吠えたてる。

 しかしハットリは我関せずといった様子で宙を舞い、平然とした顔でルッチの肩に停まりに戻るだけ。

 

 見かねたエレノアが、ルッチに向けて話しかけた。

 

「相変わらず見事な腹話術だね、ルッチ。ハットリも賢いから、本当に喋ってるようにしか見えないよ」

『お褒めに預かり光栄だ、エレノア嬢。クルッポー』

 

 ルッチは無表情のまま、ハットリが大仰な素振りで礼をし、返答する。

 そのやり取りを見て、ルフィ達は全員ギョッと目を見開き、ルッチとハットリを交互に凝視する。

 

「え⁉︎ 腹話術なの!!?」

「え!!? マジでか!!! 何だ、じゃあ文句言ってたのお前じゃん」

「めちゃめちゃうめェ‼︎ 気づかなかった!!!」

「大した腕だネー!!!」

『……よせ、どうでもいい事だポッポー』

「あっはっはっは、そう‼︎ そいつァ人とまともに口が利けねェ変人なんだ、アハハハ!!!」

 

 つい拍手をしてしまうルフィ達に、照れたように手を振るルッチ。

 相変わらずまったく口を利かないルッチに、パウリーは心底可笑しいと言った様子で大笑いする。

 

 エレノアはパウリーにじとっとした眼差しを向け、ため息をついた。

 

「パウリーも似たようなもんでしょうに……ホレ」

「え?」

「――ってぐわァ!!!」

 

 不意に、くいっとエレノアが、ナミの方を指差す。

 何事か、とつられて振り向いたパウリーはナミの格好、脚を大きく露出しているがいたって健全な服装に気付き、顔を真っ赤に染めて噴き出した。

 

「おいおい待て何だその女は!!! ハレンチな!!!」

「?」

「足をお前………‼︎ 出しすぎだ!!! 何て格好してやがる!!! ふざけるな」

「まあパウリー、落ち着いて」

「ぶっ‼︎ カリファ‼︎ てめェもだ、また性懲りもなくそんな不埒な服を!!!」

「そんなのいつもの事でしょうに……ほれほれ」

 

 止めに入ったカリファも似たようなミニスカート姿のため、パウリーの羞恥は止まらない。

 それを見たパニーニャは、いきなりニヤニヤと意地悪に笑いだす。師を困らせようとでも思ったのか、自分のシャツの襟をパタパタさせ始めた。

 

 が。

 それを見たパウリーは、全くの無表情に戻ってしまった。

 

「あ? 何してんだお前」

「ブン殴るぞコラァ!!!」

 

 色気なしと判断されたパニーニャが烈火のごとく怒る。

 別に女として見られたくはないが、女扱いされない事は、それはそれで腹立たしかったようだ。

 

「何なんだ……」

「あいつも変人だ」

「にゃはははは…‼︎」

 

 一貫して、おかしな癖や弱点ばかり見せられ、ウソップはひたすら困惑する。

 ウソップとは真逆に、ルフィはけらけらと楽しそうに笑い、エレノアも同じく爆笑する姿を見せた。

 

「相変わらずのウブっぷりで逆に安心だよ‼︎ にゃははは―――ぶげらっ!!!」

「ぎゃー!!!」

「案の定また血ィ吐いたァ!!!」

 

 病み上がりで腹を抱えて笑ったことが悪かったらしい。またしてもエレノアの口から大量の鮮血が噴き出す。

 その光景に、目を吊り上げていたパニーニャがハッと顔色を変えた。

 

「ギャー!!! 血…血だー!!! あたし血はダメ…ムリィィ………………あふん」

「この島の船大工はこんなんばっかりか!!!」

 

 突如ばたばたと暴れ出し、最後にはどさっと仰向けに倒れ込む少女に、我慢の限界に達したウソップが叫ぶ。

 部下達の少し格好悪い姿に苦笑しつつ、ヴィルヘルムがコホンと、仕切り直すように咳払いをした。

 

「…まァ、とにかく…彼らはこれでも船に関してはプロフェッショナル。一つのドックに5人しかいない〝職長〟を務める程の優れた技術者だ。大いに期待していてくれ」

「ンマー、ここは職人の腕一本の世界。性格は妙でも気にするな」

「ホント妙だ」

「さァ入れ、中を案内しよう」

 

 アイスバーグが言うと、パウリーとルッチが造船所の扉に向かう。

 ルフィ達の案内が始まりかけたその時、あっと声を上げたエレノアが、申し訳なさそうな視線をアイスバーグに向けた。

 

「ごめんねアイスバーグさん、私はここで失礼するよ」

「ん? そうか…ンマーお前さんの怪我は深刻だからな、そっちを優先させればいい」

「あ! だったら私ついてくよ! パウリー、いいよね」

「おう、行ってこい」

「おれもついてこうカ?」

「けっこうです……悪いねパニーニャ」

「いいってことよ」

 

 うんうん唸っていたパニーニャが復活し、エレノアの車椅子を押してくれる。

 リンの誘いを断り、知人と共にどこかへと去っていくエレノアに、ルフィ達が手を振って告げる。

 

「じゃ、おれ達先行ってるよ」

「後でね〜」

「…あいよ」

 

 一時の別れを告げるルフィ達に、エレノアは一瞬、暗い表情を見せる。

 しかしルフィ達がそれに気付く間もなく、エレノアはパニーニャに後ろから押され、町の方へと向かって言った。

 

「さて、案内を続けようか…………この1番ドックには『ガレーラカンパニー』の主力が集まり、最も難しい依頼を引き受ける」

「おお‼︎」

「わあ‼︎」

 

 パウリー達の手で、造船所の扉が開かれると、途端にルフィ達が感嘆の声を上げる。

 広がっていた光景に、全員が目を奪われた。

 

「うわ〜〜〜〜っ!!! でっけ〜んだなァ!!! 造船所っつーのは近くで見るとまた‼︎」

 

 まず目に入ったのは、中心で動く巨大クレーン。資材を運ぶそれの向こう側には、建造中らしき巨大ガレオン船の姿もある。

 何より目を惹くのは、その地で働く職人の数だ。屈強な男達が木づちを鳴らし、力強く動き回る姿は、町の人達の誇りをわからされる。

 

「おお‼︎ アイスバーグさんだ!!!」

「おい、社長達がおいでになったぞ!!!」

「アイスバーグさん、ヴィルヘルムさん、おはようございます!!!」

 

 すると、アイスバーグとヴィルヘルムの姿を目にとらえた職人達が、笑みと共に出迎えてくる。

 全員、目には二人の上司に対する、底知れない尊敬の念が伺えた。

 

「社長、外板の出来を見て貰えませんか」

「オウ、後で回る」

「お疲れ様です、ヴィルヘルムさん」

「お疲れ様、順調かな?」

 

 次々に話しかけてくる職人達に、アイスバーグたちは短く、しかし決して雑にならない口調で返す。堂々としたその態度は、見た目よりも大きく感じられた。

 

「何だ、おっさん達ずいぶん人気あるぞ」

「当たり前です。父さ……社長達のカリスマの源は、その腕前にある…………ありますから」

「そう、この都市では〝腕〟が全て」

 

 不思議そうに呟くルフィに、カリファとセレネが誇らしげに語る。

 

 元々、造船業が発達していて7つの造船会社が競い合っていた時代。

 天才的な造船技術で職人達を魅了し、7つの造船会社を一つに束ね発足したのが『ガレーラカンパニー』。

 彼らの造船に対する熱意等はずっと変わらないまま、職人達は彼らへの尊敬を忘れないのだ。

 

「職人達はその腕に誇りがあるから、海賊にも権力にも屈しない…ここはそういう場所……です」

 

 働く父の姿を見つめ、熱っぽく語るセレネ。

 彼女の目には、父の背中は世界中の誰よりも大きく、立派に見えているのだろう。

 

 …約一名には、あまり響いていないようだが。

 

「おいおっさん達、すげェ船大工なんだってな‼︎ おれと一緒に海賊らやねェか⁉︎」

「突然何を言い出してんだ…ですか!!!」

「無礼者っ!!!」

 

 職人達の様子を見るアイスバーグ達の肩を叩き、遠慮のない勧誘を行うルフィに、秘書達の怒号が轟く。

 アイスバーグもヴィルヘルムもさして気にしていないようで、ルフィの呼びかけに驚きの視線を返した。

 

「ンマー!!! お前らの船には大工の一人もいねェのか!」

「そうなんだ。おれ達はよ、この島に船の修理と仲間探しにきたんだ」

「そりゃ船大工はごまんといるが…海賊船に乗りたいという者がいるかどうか。希望する者がいるのなら、引き抜いても構わないがね」

「ホントか―――⁉︎ やー話がわかるなー‼︎ おっさん達はダメなのか」

「市長とその右腕を堂々と引き抜きにかかるとは驚いたよ」

 

 苦笑をこぼすヴィルヘルムだが、ルフィはやはり気にしない。社長たちの勧誘も、本気だったようだ。

 ふと、アイスバーグはルフィに向けて、ある問いを口にした。

 

「――ところで、お前の船には『ニコ・ロビン』という女が?」

「いるぞ‼︎ 頭いいんだ、こいつがまた」

 

 暢気に笑うルフィだが、アイスバーグ達の向ける表情は何処か険しく見える。

 続けて質問をぶつけようとした時、ナミが二人の方へ歩み寄った。

 

「―――ところで…えっと…ヴィルヘルムさん? アルモニのお父さんって聞いたけど………」

「ん? ああ、君達のことは知っているよ……町からあのバギー海賊団を退けてくれたんだってね。感謝しているよ…」

「え? ああ…ううん、それは別にいいんだけど……」

 

 何故知っているのだろうか、という疑問を抱いたナミだが、手紙でも来たのだろうと自身を納得させ、自分の疑問を投げかける。

 

「なんだってあんな遠くの海に、アルモニ一人を置いて行ったの? もう一人の娘は一緒にいるのに…」

「うむ………」

 

 ナミの問いに、ヴィルヘルムは突如、気まずげに黙り込む。

 眉間にしわを寄せ、唇を噛む彼の変化に戸惑いながら、ナミはじっと高名な錬金術師だという男を見つめた。

 

「……そうだね。人から見れば、私はひどい親に思えるかもしれない…だが、この仕事は楽な道ではなくてね」

 

 ナミの視線が、責めるようなものに感じられたのか、ヴィルヘルムは困り顔で頬を掻く。

 自分の行いが、決して人に褒められるものではない事を自覚しているためか、ナミの視線に酷く居心地の悪そうな様子を見せる。

 

「私は私なりに、あの子を想って距離を置いているんだ…………ないがしろにしているわけじゃないんだと、誤解しないでおくれ」

「ふーん………まァ、他人様のプライバシーにあんまり首を突っ込む気はないから別にいいけど…」

 

 誤魔化された気がするが、理由があるのならと渋々、ナミはそれ以上の詰問、もとい質問を止めた。

 

「こんだけスゴイ造船所なら、船の修理もすぐに終わりそうだネー」

「そうだナー! 船大工も見つかりそうだナー!」

 

 ナミが一人、悶々とした気持ちを持て余している事も知らず、ルフィとリンは期待にはしゃぐ姿を見せる。

 するとしばらくして、査定に向かったカクが、アイスバーグ達の元へと戻って来るのが見えた。

 

「あっ! さっきの人‼︎ 船見てくれた?」

「ああ、見て来た。アイスバーグさん、ここにおったんじゃな」

「事情はわかってる、どうだった」

 

 アイスバーグが問うと、カクはやや険しい表情で黙る。

 言い辛そうな雰囲気を見せるカクに、ナミがハッと息を呑み、恐る恐る問いかけた。

 

「あっ…もしかしてだいぶ時間がかかる?」

「…いや」

 

 海賊である以上、金銭に限りがある状況で長居はリスクが上がる。

 その点を懸念しているのか、と不安になったナミに、カクは重く閉ざしていた口を開いて、告げた。

 

「はっきり言うが、お前達の船はわしらの腕でももう直せん……!!!」

 

 それはルフィ達の航海において、決して逃れられない重大な分岐路だった。

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