ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR− 作:春風駘蕩
「あらあらあらァ〜〜? エレノアちゃんたら見ない間にとんでもない事になっちゃってるじゃな〜〜い?」
ウォーターセブンのとある店、機械鎧の技師がいる店。
車椅子に乗ったまま、楽な姿勢になるエレノアに、大柄な店主が野太い声で話しかけていた。
「今回は一体、どこでそんな大暴れしてきちゃったのォ?」
「………ちょっとね」
「惚れた男を助けるために、自分で両脚ぶった切ったんだってさ」
「あらァ!!? ちょっとヤダァ!!! その話もっとよく聞かせて!!!」
「うおィ!!!!」
興味を持つ店主・ガーフィールに、エレノアに代わってパニーニャが答える。
盛り上がる二人に思わずツッコミを入れるが、気怠さが勝ったせいでやる気をなくし、ぼすっと背もたれに凭れ掛かる。
静かになったエレノアに、話を区切ったガーフィールが呆れた視線を向ける。
「なんだかよくわからないけど…女の子なんだからもう少しおしとやかにならなきゃだめよォ?〝白ひげ〟のおじ様だって心配してるんじゃなァい?」
「たまに過保護になるからなァ…………正直、そういうのとは無縁の世界に生きてると思うけど」
自嘲気味に笑い、自身の手足を見やるエレノア。
今の自分の姿を見たら、家族はどんな反応を返すだろうかと、人ごとのように考える。
「とりあえず、これ以上傷付くことはないよ……そうだね、時間があったら買い物ぐらいは行こうかな」
「だったらあたし、付き合っちゃうわよ? あんたのコーディネートやってみたいって思ってたのよねェ~~♡」
「はいはい………」
ふぅ、と疲れた様子でため息をつくエレノアに、パニーニャがけらけらと笑う。
友人が養生の体勢に入るのを確認し、パニーニャがひょいっと歩き出した。
「じゃ、あたしはこれで。エレノア! お大事に!」
「うん、ありがとう」
店から出ていくパニーニャに、エレノアは片手を挙げひらひらと手を振る。それだけでぶるぶると痙攣が走るも、我慢してそれを押し隠す。
パニーニャの姿が見えなくなったところで、ガーフィールがポンッとエレノアの肩を叩いた。
「じゃあ、しばらくお世話になるよ……ガーフィールさん。パニーニャもありがとうね」
「まかせて頂戴♡」
「いいって事よ! 気にしなさんな。……じゃ、あたしはこれで」
そういって、ガーフィールも店の奥に引っ込み、エレノアは一人になる。
誰もいなくなった作業場に一人の頃、エレノアは天井を仰ぐ。
―――大金……全部奪られた……。
…………ナミ…み"んなに…会わせる顔がねェよ。
聞こえてくるのは、仲間のこぼした悲痛な声。
痛々しく、涙と血にまみれた声で、ウソップが己を責める声を上げていた。
―――やっとメリーを………‼
直してやれるハズだったのに…………!!!
胸の奥に突き刺さるようなその声に、エレノアは腕で目を覆う。
そして、もうあまり感覚の残っていない自分の四肢を見やり、深い深いため息をこぼした。
「…………潮時…かなァ」
「ウソップがいねェ‼ ナミさんが言ってたのはこの場所のハズだぞ‼」
「確かか⁉ 場所、間違ってんじゃ…」
「あんたじゃないんだかラ…」
「ウソップ――!!!」
町中でウソップの姿を探す、ルフィを除く麦わらの一味の男性陣。
一億Bを持ったナミがメリー号に戻る途中、傷だらけになったウソップを見つけたという場所に来たのだが、そこにウソップの姿はなかった。
「見て、血だ」
「あんにゃろ、勝手に動きやがったな⁉」
「…………まさかあいつ…………!!!」
残っていた血痕に、全員がまさかと嫌な予感を覚える。
そこに、どこかから悲鳴のような叫び声が聞こえてきて、全員で頭上を見上げる。
「ぶべっ!!!」
「よっ」
何故か空から落ちてきたルフィが、壁に激突しそのまま水路に落ちかける。
その前にリンが割り込み、どうにか受け止めてみせた。
「あ…ありがとう、助かったぞ糸目」
「いいって事ヨ」
「何やってんだお前…」
一体どこから、そして何をしていたのかと、ゾロ達が呆れた目でルフィを見下ろす。
仲間達の存在に気付いたルフィは、あっと慌てた様子で立ち上がる。
「あ‼ そうだお前ら大変なんだ、ウソップが金と一緒に連れてかれて…!!!」
「知ってるよ!!! 来い‼ 今、そのアジトへ向かうトコだ。ウソップはやられて金を奪られたんだ。もしかしてあいつ…責任感じて一人で一家とファミリーにケンカ売ってるかもしれねェ‼」
冷や汗を滲ませるサンジの呟きに、ルフィも顔色を変える。
そして全員で走り出し、ナミに聞いたウォーターセブンの厄介者達のアジトがある場所に急ぐ。
やがて、彼らは派手な外装が目立つ目的地・フランキーハウスに辿り着く。
そしてついに、探していた青年を見つけ出した。
「息はあるか、チョッパー………」
「死んじゃいない…‼︎ 大丈夫、助けられるよ‼︎ 完全に気を失ってるけど………‼︎」
そこにいたのは、血塗れで倒れ伏すウソップだった。
涙を流し、悔し気に歯を食い縛りながら、無残な姿で地に伏せる彼の姿が、そこにあった。
「ちょっと待ってろよ、ウソップ」
それが、ルフィ達に火をつけた。
ルフィが、ゾロが、サンジが、チョッパーが、そしてリンまでもが、その目に強烈な怒りの炎を燃やし、歩き出していた。
目指す先、フランキーハウスで騒ぐ敵に向かって。
「あのフザけた家……吹き飛ばして来るからよ…………!!!」
フランキーハウスでは、盛大な宴が開かれていた。
奪い取った2億B、そこからわけられた小遣いを盛大に使い、飲めや歌えやの大騒ぎを始めていた。
「おら、おめェの負けだァ‼︎」
「ギャ―――‼︎」
「ホラ、買い出し行ってこい‼︎」
「店の料理全部買って来いよ‼︎ 金はあるんだ、ぐはははははっ‼︎」
「チッキショー、覚えてろ。あとで負かしてやるからな‼︎ ウハハハ」
カードゲームに興じていた数人が、負けた一人にそう言い、買い出しに向かわせる。
敗けた男は渋々立ち上がり、しかし上機嫌なまま、町に食べ物の買い出しに行こうと、入り口を潜ろうとする。
その瞬間、男はすさまじい衝撃で吹き飛ばされ、フランキーハウスの床に叩きつけられた。
「ぶわ―――!!!」
「何だ――どうした―――!!?」
突然のことに、男達は驚愕をあらわにする。
そして全員で、壊れた扉を踏み越えてくる5人の男達を睨みつける。
「誰かいるぞ!!!」
「誰だァ‼︎ てめェらは〜〜〜〜!!!」
怒りに満ちた声で吠えると、砂埃の向こう側から、その5人の顔が明らかになってくる。
その一人、麦わら帽子を被った青年に気付き、目を見開いた。
「あれは……!!!〝麦わら〟のルフィ!!!
「ゴハハハ‼︎ 金を取り返しに来やがったな!!? バカめ、この人数を見ろ!!! たった4人でおめェら何しようってんだァ!!!ゴハハハ‼︎ だがまァ…‼︎ 来たからにゃ賞金の懸かったその首、置いていって貰うゴォ!!!」
明確な敵意があると判断した、一家の中でも大柄な一人が立ち上がる。
自前の分厚い装甲を纏い、ずんずんと進み出てくる青年に備え、余裕綽々と言った態度で仁王立ちする。
「あの貧弱長っ鼻野郎のいる一味の船長だ…!!! てめェの実力の程も知れるってモンだァ!!! 来てみろ、チビィ!!!」
弱者の頭は弱者と真っ向から見下し、嗤う大男。
彼に向けて、ルフィは突如その場でジャブを始め、徐々にその勢いを早く、強くしていく。
何を遊んでいるのか、と男達があざ笑っていた、その直後。
「〝ゴムゴムの〟…!!!〝
速度と威力を限界まで溜め、一気に開放した両手の拳が、大男の腹のど真ん中に炸裂する。
放たれた一撃は、分厚い鋼鉄の装甲に大きな穴を空け、纏っていた大男本人も、凄まじい痛みと苦しみをもたらした。
「三刀流……!!!〝鴉魔狩り〟!!!!」
「〝パーティーテーブルキックコース〟!!!」
「〝
「我が槍は是正に一撃必倒。神槍と謳われたこの槍に一切の矛盾なシ!〝
ルフィだけではない、怒りに燃える麦わらの一味が、次々に一家に襲い掛かり、コテンパンに叩きのめしていく。
反撃も全く届かず、男達は瞬く間に無力化されていった。
「こ…こいつら…⁉ あの長っ鼻野郎より全然強ェじゃねェか!!!」
「手強いな……おれ達の出番か」
「世話が焼けるぜ…」
「‼︎ おお…行ってくれるか、グリードファミリー!!!」
慄いていた一家の一人、ザンパノが鼻血を垂らしたまま後退る。
そこに、フランキーハウスの奥からのそりと体を起こす、異様な雰囲気を醸し出す集団が進み出た。
筋骨隆々の巨漢に、剣を持った小柄な男、妖艶に笑う刺青の女に、ガチガチと牙を鳴らす大男。
彼らの登場に、一家の男達がホッと安堵の表情を浮かべだす。
「わかっていないようだな……ここはおれ達の二人の兄貴達の縄張り!!! そう好き勝手暴れられては、あの方々の怒りを買うというものだ!!!」
「てめェら死んだぜ…可哀想にな」
暴れ回るルフィ達に、剣を持った男が憐れむように呟く。
新たな敵の出現に気付き、振り向いたルフィ達の前で、ファミリーの数人がギラリと目を光らせる。
「おおおおおおおお!!!!」
「…‼︎ 能力者か…」
凄まじい雄叫びと共に、筋骨隆々の大男の姿が変わる。
牛の角が生え、バキバキと筋肉がさらに隆起し、巨体がさらに威圧感を増す。
他の者達も、犬のように素早く駆けだし、蛇のようにしなる四肢を見せつけ、ワニのように鋭い牙と爪を振りかぶる。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
迫り来る、悪魔の実の能力者とも異なる雰囲気の異形達。
しかし、そんな彼らを前にしてなお、ルフィ達は一歩も退く様子を見せず、牙と爪と角が迫ったその直後。
ドカン!と、強烈な一撃を持って異形の集団を返り討ちにしてみせた。
「ギャアアアア!!! 全員大して見せ場もないままやられたァ〜〜〜!!!」
「余計なお世話だ……!!! ガフッ…」
悲鳴をあげるザンパノたちの目の前で、床に落下した剣を持った男が、吐血混じりに返す。
一家とファミリーの戦力が次々に討ち取られていく様に、残った者達はもう震えるばかりになっていた。
「――――もう喋ってくれるな………そういう事っちゃねェんだよ…………」
「そうだな……もう手遅れだ」
ゴキゴキと骨を鳴らし、鋭い目で彼らを睨むルフィ達。
その目は、決してお前達を逃がさないという、燃え上がる激情で埋め尽くされていた。
「―――お前ら、骨も残らねェと思え」
「追うか? フランキー」
「………どこへだよ…」
「――――まいったな。金の行方は本当にわからねェ様だ…」
数分の戦闘の後、そこはまるで廃墟になっていた。
辛うじてトレードマークだった三日月のマークは残っていたが、あとはもう木材と金属の破片、気絶した男達が転がるだけ。
戦いが終わった後なのに、あまりにも虚しい気分に陥っていた。
「…………ここで話してても仕方ねェ、とにかく船に戻ろう。船にナミさん一人、残してきてるし…ロビンちゃんの事も…船自体の問題もある」
「だってサ、船長」
何一つ解決していないと、サンジが気怠さを交えて呟く。
そして、今後のために一度みんなで集まろうと、ルフィに促した時だった。
「船よォ………決めたよ…」
ぽつりと、三日月の飾りの上に立っていたルフィがこぼす。
彼の呟きに、全員が驚愕で目を見開き、その場に立ち尽くす事となった。
「ゴーイングメリー号とは、ここで別れよう」
社長室の窓から、去っていく役人達を見送るアイスバーグとヴィルヘルム。
ふぅ、と重いため息がこぼれ、肩が凝るのを感じる。
社長とその右腕の男が、酷い疲労感に苛まれているのに気づいたカリファが、二人に話しかけた。
「お疲れ様でした、アイスバーグさん、ヴィルヘルムさん。お飲み物でも…?」
「そうだな、今日は紅茶を」
「入れて来ました」
「流石だね、カリファ君…」
「おそれ入ります」
相談するよりも前に準備を終えている、あまりに優秀過ぎる秘書に、アイスバーグが感嘆の声を上げる。
紅茶を入れながら、カリファがふと気になったことを問いかけた。
「毎度、何の相談……ですか?コーギー…氏はいつも怒ってお帰りになりますが」
「あァ、おれ達の持ち物を欲しがって、色々と条件を出して来る」
「何か大切な物なんですね」
「ンマーな、そんな物は知らんといつも突き返してる……」
ヴィルヘルムはそう呟き、また窓の外を見やる。
そこにはっきりとした嫌悪の感情が浮かんでいる事に気付き、セレネが訝しげに首を傾げる。
「面倒な男達だよ、まったく……」
彼の呟きに、アイスバーグも全く同じ表情になり、静かに紅茶を喉に流し込んだ。
バタンッ!と勢いよく扉が開かれ、チョッパーが顔を出す。
彼がもたらした報告と安堵の表情に、全員がほっと胸を撫で下ろした。
「お――い‼︎ ウソップが目を覚ましたぞ‼︎」
「ホントか‼︎ よかった―――っ!!!」
わいわいと騒ぎながら、一味はウソップが横になるベッドに向かう。
全身を包帯で撒かれたウソップは、ルフィ達の顔を視界に収めると、いきなりその場に土下座を行い出した。
「面目ねェ!!! 大事な金をおれは!!!」
「おいおいちょっと待て、落ち着けよ‼︎」
「だげど…!!! おれァせっかく手に入ったとんでもねェ大金をみすみすあいつらにィ!!!」
「ウソップ、まだ寝てなきゃダメだ!!!」
自分の犯した失態を悔やみ、ひたすらに泣きながら頭を下げるウソップ。
つい先ほど戻ってきたエレノアも、元気に動く彼に安堵の視線を向け、フッと微笑みを浮かべていた。
そこで、ルフィ達から奪われた2億Bについての説明が入る。
大金がほぼ戻って来ない事を知ると、ウソップは凄まじく落ち込み、悲痛な声を漏らした。
「……じゃあやっぱり…金は戻らねェのか…」
「いや、それもフランキーってのが帰って来ねェとわかんねェんだ。もしダメでもまだ1億Bもあるんだからいいよ! 気にすんなよ‼︎」
「――まったく無茶しやがる……‼︎ 命があったからよかったものの…‼︎」
「よくないわよ‼︎ お金は‼︎」
「………すまねェ………」
ナミの指摘に、ウソップが罪悪感に駆られ頭を下げる。ナミもそれ以上続けられず、ばつが悪そうに目を逸らす。
そこでウソップはハッと顔を上げ、必死の形相で仲間達全員に尋ねた。
「だけど…じゃあ船は…メリー号は1億ありゃ何とか直せるのか⁉︎ せっかくこんな一流の造船所で修理できるんだ。この先の海も渡って行ける様に、今まで以上に強い船に…!!!」
「いや、それがウソップ」
盛大に失敗した自分を誰も責めない事に、もしかしてそれでもどうにかなるのかと期待を抱くウソップ。
それにルフィは首を振り、ある決定事項を口にする。
「船はよ! 乗り換える事にしたんだ。ゴーイングメリー号には世話になったけど、この船での航海はここまでだ」
その一言に、ウソップの思考は凍り付き、大きく目を見開いたのだった。