ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第180話〝水の都の顔役達〟

 ばくばくガツガツバリバリもぐもぐっ!、皿の上に用意された料理が、あっと言う間に消えていく。

 目にも止まらぬ速さで、料理を口の中にかき込んでいく少女はその間ずっと、だばだばと涙を流し続けていた。

 

「助かりましタ…‼︎ あなたは命の恩人でス!!! ありがとウ!!! ほんとうにありがとウ!!!」

「わかったわかった………とりあえず落ち着いて食べなさい。色々飛んできてるから」

 

 半目で少女を見つめ、エレノアは引きつった表情でそう答える。

 ボロボロの身体で料理などできるはずもなく、仕方なく近くのレストランに連れてきた結果が、今のこの状況。

 

 あらためて、少女の恰好と訛り、そして連れている目立った色合いの獣を見下ろし、訝し気に眉間にしわを寄せる。

 

「あんた…その訛りはシン国の子だよね? こんな所で何で行き倒れになってたの?」

「大時化に巻き込まれ船が沈ミ…‼︎ 必死に泳いで流れ着いたこの島…だけど所持金は底をつキ!!! 危うく土に還る所でしタ!!! あ、海に還るといったほうがいいですかネ?」

「…あっそ」

 

 聞けば聞くほど、仲間の……いや、つい最近まで世話になっていた一味に、最近新たに加わった男と似たような境遇である。

 

「あんたみたいな小さい子が………よくもそんな大冒険を」

「年齢に関してはお互い様でハ?」

「お黙り」

 

 疑問をぶつける間も、少女と獣の食事の手は止まらない。

 皿の上を全て平らげ、汚れまくった顔をナプキンで拭ってから、少女は居住いを正してエレノアに向き直った。

 

「んンッ…ご紹介が遅れましタ。私はチャン・メイ………シン国の錬丹術師でス。こっちはシャオメイ」

「錬丹術師……ふゥん、そっか」

「失礼ながら、〝妖術師〟エレノアさンでハ⁉ 手配書を何度か見たことがありまス‼」

「そりゃどうも………」

 

 キラキラ、というか若干ギラギラした視線をぶつけてくる少女に、エレノアは辟易した様子でため息をつく。

 

 似て非なる技術である錬金術と錬丹術。

 片方において高名な術者に対し、他の術者が強い興味と関心を抱くことは多々あるが、エレノアとしては好ましい者ではなかった。

 

「…で? はるばるこんな所へ、何の用で? わざわざ死にかけてまで……」

「ええ、ちょっト…」

 

 胡乱気な視線を向けるエレノアに臆することなく、少女はにっこりと笑ったまま、その言葉を発する。

 

「不老不死の法を探しニ」

 

 瞬間、ピリッ…とその場の空気が張り詰める。

 表情はそのまま、鋭く貫くような視線を向け、エレノアは少女の一挙一動に気を張り巡らせる。

 

「……あんたもか。何? 流行ってんの?」

「むむム……こうしてお会いできたのも、もしかしたら天のお導きかもしれませン‼ あなたなら、知っていてもおかしくはないですしネ!!!」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべるが、エレノアは一つも笑顔を返さない。

 少女の手元、掌の裏に隠した刃物の気配を確信しつつ、虎の耳をピンと張り、自身の緊張を押し隠す。

 

「お尋ねしてもよろしいですカ?〝賢者の石〟についテ…………」

 

⚓️

 

 場所は変わって、ガレーラカンパニーの本社前にて。

 突然の襲撃事件の翌日、そこはアイスバーグとヴィルヘルムの安否を知ろうと、記者や一般人など多くの人々で溢れかえっていた。

 

「やっぱり…スゴイ人だかり…」

「そりゃあ、市長で社長な男と、その右腕が殺されかけたんだからネ…」

「造船所にも入れねェな…………どの道もっかい会わなきゃなんねェんだけどな…アイスのおっさんには」

 

 駅長ココロの紹介で、多少の融通を聞かせてもらえると聞いている。

 使える金が三分の一に減ってしまった以上、必要な経費は少しでも節約しておきたいため、何としても二人に会う必要があった。

 

「ねえすいません、〝本社〟の場所わかりますか」

「ああ、無駄だぞ。1番ドックの中から入るんだ。門内には関係者か、特定の記者達しか入れねェんだ」

 

 途中にいた男に尋ねてみるものの、彼も心配した様子で、二人の安否がわからない事に悔しさを覚えているらしい。

 

「なんとか一早い情報だけでも聞けねェかとこれだけ人が集まってる。みんな心配で…居ても立ってもいられねェのさ……」

 

 最悪の想像でもしてしまったのか、不安気な表情で黙り込む男。

 ルフィ達はそれ以上何も尋ねられず、本社を見上げて、神妙な顔で沈黙する。

 

 リンも同じく本社を見上げ、多くの人々に囲まれている様を見て、ぽつりとつぶやいた。

 

「…羨ましい限りだネ」

「?」

「仕方ない。そのうち新聞ででも安否はわかるわよ」

 

 謎の一言をこぼすリンにルフィが振り向くも、ナミが切り替え、ヤガラブルを移動させ始めたため、すぐにそちらに意識を向ける。

 

 その時、リンの背筋に凄まじい悪寒が走り、彼はさっと表情を変えた。

 

「……!!? 何ダ、この気配ハ…!!!」

 

 かつてないほど、恐ろしく寒々しい気配を感じたリンは、きょろきょろと辺りを見渡し目を瞠る。

 ルフィ達が彼の行動を訝しみ、首を傾げていると。

 

 どこからともなく、ズン、ズンと軽快な音楽が鳴り響き始めた。

 

「うわあ‼︎ こ…このリズムは!!!」

「まさか‼︎ そんなバカな!!!」

 

 音楽が耳に届くと、人々は何やら慌てだし、動揺の声を上げる。

 ざわざわと騒がしくなる人々をよそに、音楽は止まることなく、そしてある謎の声が響き始める。

 

「ヘイお前達。おれ達の名を、今呼んだのか?」

「呼んでねェよ!!! どっかいけー‼︎」

「どこにいるんだ!!! どこだ!!?」

 

 音楽と声、恐れ嫌われているらしいその人物を探し、人々は目を見開き、冷や汗を流して焦りを見せる。

 ルフィ達も何事かと困惑し、声の主を探してみる。

 

 そしてやがて、ある建物の屋根の上にいつの間にか用意された白い幕、そしてそれに四つの人影が映っている事に気付いた。

 

「恥ずかしがらずに聞いてみな‼︎ おれ達の名を!!!」

「聞きたくね――‼︎ 消えろ――!!!」

「ガッハハハハハ!!! そう遠慮するんじゃねーよ矮小なる野朗共!!!」

「遠慮なんてしてねー‼︎」

 

 囃し立てる二人の男の声に対し、人々の声は荒ぶる一方。

 大勢の人々の視線を浴びながらも、一切臆することなく、むしろ目立っていることを喜んでいるかのように、謎の男達は笑い続ける。

 

 そして男達は幕の向こう側でリズムに乗ったまま、人々の中に敵意を向け始める。

 

「ここに麦わらのルフィってのがいる筈だ‼︎ 出て来い!!!」

「おれ達ゃこの島に並ぶスーパーな男達‼︎ ウォーターセブンの裏の顔!!! そうだ、おれ達ゃ人呼んで、ワァオ!!!」

 

 直後、人影を遮っていた幕が、男達の手によって払い除けられる。

 カッ、と太陽に照らされ、男達の姿が露わとなった。

 

「フランキー・ア――ンド・グリ――ドっ!!!!」

 

 両腕が異様に膨らんだ水色のリーゼントに海パン姿の男と、ギザギザの歯に黒いサングラスをした男。

 見るからに真面では無い風貌の男が、左右に立った四角い髪形の女達と共に、奇妙なポーズをとってみせた。

 

「うわああ!!! ここで暴れ出すぞ――――!!! 逃げろー!!!」

「出て来い〝麦わら〟ァ!!!」

 

 右に体を傾け、両手の甲をくっつけるという謎のポーズを見せる、フランキー、グリードと名乗る男達。

 彼らが姿を現した瞬間、真下にいた人々は大慌てで、彼らから距離を取り、逃げ出し始めた。

 

「………何だあの変態達…」

「フランキーって…言わなかった!!?」

「………!!? あいつが………!!!」

 

 逃げ惑う人々の中で、ルフィ達ははっと目を見張り、次いで二人の男を睨みつける。

 すぐさまルフィはボートの上に立ち、大きく息を吸い込むと、頭上に立つ二人に向けて声を張り上げた。

 

「おい!!! 海水パンツ!!! 真っ黒サングラス!!!」

「あン!!?」

「おォ!!?」

「おれがルフィだ」

 

 ぎろり、と二人と一人、三つの視線が交差する。

 お互いにこめかみに血管を浮き立たせ、自身の連れに乱暴を働いた相手に、凄まじい殺気をぶつける。

 

「お前かァ…〝麦わら〟のルフィってのァ!!! 人の留守中にえらく大暴れしてくれたじゃないの、お兄ちゃん…!!!」

 

 いまだに鳴り響くリズムに乗ったまま、フランキーが先に口を開く。

 同じくグリードと彼らの左右に立つ女達も、フランキーと同じようにリズムに乗る。

 

「帰って来て目を疑ったぜおれァ…いやいや見事に原形ないんだもんなァ、おれ達の家がよ‼︎ 子分共もまァヒドイ目にあわせてくれやがってェ…」

「よくもまァ…相手がおれ様達の子分だとわかった上でああもやってくれたもんだと………逆に感心するぐらいだ!!! あの惨状はァ!!!」

「もォ〜〜ダメだおれ、今週のおれはもうホントに止められねェ。何言ってもおめェをボロ雑巾の様にするまでは!!! この怒りはおさまらねェ〜〜〜っ!!!」

 

 ばっ、と両手を交差させ、同時に怒りの声を上げるフランキーとグリード。

 そんな彼らに呆然としていたナミが、ハッと我に返ると、自身も彼らに負けないほどの怒りを乗せて叫んだ。

 

「ちょっと!!! あんた私達のお金どうしたの!!? 2億B!!!」

「あァ⁉︎ そんなもん………使っちまってもう、カラッケツよォ!!! どこぞで奪ってきた金を偉そうに守ろうとすんじゃねェ、海賊がァ!!!」

「人様から奪うんなら…てめェも奪われる覚悟くらい決めておけ。まァ………おれ達は奪われるようなヘマはしねェがよ!!!」

 

 にやぁ、とグリードの口角が異様に上がる。

 鮫のように鋭く尖った歯を見せつけながら、ギラギラと欲望に満ちた目で、ルフィ達を見下ろし吠える。

 その凄まじい威圧感は、まるで人ではないようだった。

 

「金も欲しい‼︎女も欲しい‼︎ 地位も名誉も、この世の全てが欲しい!!! なんせおれ様は……〝強欲(グリード)〟だからなァ!!!」

 

 ゲラゲラと豪快に笑うグリードに、ルフィはキッと怒りに満ちた目を向ける。

 元より、この男達と真面に話し合うつもりなどありはしなかった。

 

「そんなのはいい、とにかくおれはお前を‼︎ ブッ飛ばさねェと気が済まねェ!!!」

「気が済まねェのは、こっちだバカ野郎!!!」

 

 ルフィの宣告に、一際凄まじい声で吠えたフランキー。

 彼は唐突に大きく息を吸い込み出すと、眼下のルフィ達に向けて、口から真っ赤な炎を噴き出してみせた。

 

「火ィ吹いた!!!」

「何!!? あいつ!!!」

「能力者カ!!?」

 

 間一髪躱したルフィ達だが、いきなりの先制攻撃に驚愕し、次の挙動に送れてしまう。

 そうこうしているうちに、フランキーとグリードは屋根の上から飛び降り、ドボンと水中に落下する。

 

「どうりゃあァ!!!」

 

 事故で落ちたか、と訝しむルフィ達の前で、急速に浮上したフランキーとグリードが、強烈な拳を繰り出してきた。

 

「泳げんのかっ!!!」

「いや〜〜〜〜っ!!!」

「悪魔の実なんざ食っちゃいねェっ!!!」

 

 その一撃で、ヤガラブルの上に乗っていた船が粉砕され、ルフィ達は大きく吹っ飛ばされてしまう。

 ルフィは何とか別の船の上に降り立ち、反撃を加えようと、ゴムの腕を大きく背後に伸ばしていく。

 

「ゴムゴムの…」

「効かねェよ」

 

 しかし、繰り出した拳はグリードの掌に―――光沢のある黒に変色した手に止められてしまう。

 さらに次の瞬間、ルフィの腹に巨大な拳が―――フランキーの腕から放たれた、鎖につながれた手によって、殴り飛ばされてしまう。

 

「……あァ、知らなかったのかい…お姉ちゃん達。じゃあ教えとこうか…」

 

 建物の壁に激突し、ずるずると落下していくルフィ。驚愕で大きく目を見開くナミとリンに向けて、フランキーとグリードはにやりと不気味に笑ってみせた。

 

「おれは〝改造人間(サイボーグ)〟で…!!!」

「おれ様は〝人造人間(ホムンクルス)〟だ」

 

⚓️

 

 再び場所は変わり、ガレーラカンパニー本社、社長室の前。

 

 一堂に会し、重い沈黙に包まれていた職長達。

 暗い表情で俯いていた彼らは、社長室の扉を開け、顔を出したカリファにバッと振り向く。

 

「皆さん」

「カリファ」

「静かに…部屋に入って下さい」

「え…じゃあ」

「お二人が…たった今…意識を取り戻しました」

「よかった‼︎」

 

 カリファが涙目のままもたらした吉報に、わっと職長達は笑顔になる。

 普段は仏頂面のルッチでさえ、この時ばかりは頬が緩んでいる、ような気がした。

 

「アイスバーグさんっ‼︎」

「………ああ、ンマー…心配かけた……」

 

 ばたばたと騒がしく室内に駆け込み、アイスバーグとヴィルヘルムがそれぞれ寝かされたベッドを囲む職長達。

 意識が戻ったばかりの所為かぼんやりとしているが、受け答えにはしっかりと答えているため、大したことはないと全員安堵した。

 

「お父さん…!!!」

「すまない、お前を一人にする所だった…!」

「――――とにかく命があってよかったぜ、ゆっくりお休みんなって‼︎」

「造船所の事は、あたし達が何とかしますから‼︎」

「生意気言うな、ジャリガキめ」

「あでっ」

 

 パニーニャが胸を張って言うと、それを見咎めてパウリーが頭を小突く。

 痛みに呻いたパニーニャは、べーっと舌を出してパウリーを睨むも、すぐに破顔してアイスバーグ達に視線を戻す。

 安否が不安だったガレーラカンパニーの長の復活、これより喜ばしい事はない。

 

「ところで……………………昨夜、おれ達の部屋に侵入してきた犯人だが……」

「ああ……それならまだ捜査中で…」

 

 事件の調査がほとんど何も進まないままで、申し訳なさそうに頭を掻くパウリー達。

 だがそこで、アイスバーグもヴィルヘルムも険しい表情で首を横に振り、パウリー達に視線を向けた。

 

「いや……憶えているんだ」

「え…え!!?」

「二人いた。一人は仮面をかぶった大男……もう一人は…黒髪で長身の女。あの鋭い瞳は……」

 

 薄れゆく中に焼き付けた記憶、是が非でも犯人を逃すまいと、二人が執念で手に入れた唯一の手掛かり。

 途端に黙り込んだ彼らに届くよう、アイスバーグは逸る気持ちを抑え、焼き付けたその顔を脳内に映し出す。

 

 それによる混乱に胸を痛めながら、そしてこれから自分達が巻き込まれるであろう事件に背筋を冷やしながら、二人はその名を口にする。

 

「おそらく………ニコ・ロビン」

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