ONE PIECE −LOG COLLECTION : ELEANOR−   作:春風駘蕩

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第181話〝生死問わず(デッド オア アライブ)の意味〟

 ばたばたと、大勢の住民達がウォーターセブンを駆け回る。

 ガレーラカンパニーに張り込んでいた記者達、彼らから受け取った信じられない情報を、他の者達に伝えるためだ。

 

「特報だ!!! アイスバーグさんの証言から犯人がわれたぞ‼︎」

「町中に知らせて犯人達を追い込め!!! このウォーターセブンから逃がすな!!!」

 

 鬼の形相で街を走る男達。

 彼らから話を聞いた者は皆、即座に血相を変え、そして同じく険しい表情を浮かべていく。

 

「アイスバーグ氏襲撃事件の犯人は、海賊〝麦わら〟の一味だ!!!」

 

 その情報に、島で数少ない実力者達が、続々と腰を上げ始めた。

 

 

 

「ルフィ――――‼︎ ブッ飛ばすのよ‼︎ そんな海水パンツ!!!」

「アニキ――――‼︎」

「ファイトだわいな―――っ!!!」

 

 轟音が立て続けに響く造船島で、大勢の人々の悲鳴と三人の女達の囃す声が届く。

 

 巨大クレーンが傾き、建造中だったガレオン戦が破壊された、見るも無残な光景。

 その中心に立ち、ルフィとフランキー、グリードは大きく肩を上下させ、睨み合っていた。

 

「とにかくお前は…ブッ飛ばしてやるからな」

「ガッハハハ‼ 活きがいいな、〝麦わら〟ァ!!!」

「うははは‼︎ やってみろ、お前の攻撃なんざ効きゃあしねェ!!!」

 

 拳を構えるルフィに対し、フランキーとグリードは只管笑う。

 平和だった町を荒らし、互いの身内の敵討ちのため、再び激突しようと一歩踏み出しかけた、その時だった。

 

 突如真横から受けた衝撃によって、三人とも大きく弾き飛ばされてしまった。

 

「誰だァ!!!」

 

 地面を滑ったフランキーは、すぐさま起き上がって、衝撃があった方を睨み、吠える。

 ルフィとグリードも同じく、戦いに横やりを入れた何者かを探す。

 

「くだらねェマネしてくれたな、お前の狙いは何だ…!!! 麦わらァ!!!!」

 

 現れたのは、ガレーラカンパニーの職長達だった。

 ルッチ、パウリー、パニーニャ、カク、ルル、タイルストン。五人の職長と一人の弟子が、鋭い眼差しでルフィを睨み、進み出てきていた。

 

「昨日の船大工の人達…‼︎ こりゃこっちの味方ね‼︎」

「よかった‼︎ 職長達が来てくれたぞ!!!」

「あぶねェ‼︎ 造船所がフランキーとあの海賊の手で大破しちまうとこだった‼︎」

「とんだお邪魔だわいな」

 

 町で二人を除き、もっとも人気がある実力者達の登場に、住民達が安堵と歓喜の声を上げる。

 彼らならばこの状況を、原因であるあの三人をどうにかしてくれる、そんな期待で目を輝かせる。

 

 ただ一人、リンを除いて。

 

「……いやァ、どーにもそういう雰囲気じゃないネ…」

 

 ぼそりと呟く彼に、ナミが訝しげに振り向く。

 彼が見つめる先では、邪魔をされたことに苛立つフランキーが、さっそく職長達に絡んでいる光景があった。

 

「オーオー、ガレーラの兄ちゃん達、人のケンカに首突っ込んでくれたら困るじゃない。ケガしてェのか?」

「よく、そんな口がきけるもんじゃ。ウチの工場をこれだけ荒らされれば、理由がなくても止めにくるわい」

「ウォオ!!! そうだフランキー、てめェこの落とし前どうつける気だァ!!!」

 

 フランキーの返答に、邪魔なのはお前の方だと言わんばかりに怒りの声を返すカクとタイルストン。

 今にも殴りかかりそうな彼らを、パウリーが腕で制止する。

 

「ちょっと待てタイルストン、その話は後でカタをつけよう。今はもっと重要な用事があるハズだぜ…なァ〝麦わら〟のルフィ…」

 

 ギロッ、とパウリーは再びルフィに鋭い視線を向ける。

 仲間を制止しておきながら、彼もまたすぐにでも飛び出しそうな剣幕となっている。

 

「身に覚えがあるだろう…⁉︎ よく、またここへ顔を出せたもんだ」

「エレノアが世話になってる一味だっていうから見過ごしてたけど、大いに裏切られたよ……‼︎」

 

 パウリーに続き、パニーニャも鋭く睨みつけ、敵意を露わにしている。

 昨日とは打って変わって、まるで親の仇でも見るかのような目に、ルフィはただ困惑する他にない。あまりにも、彼らの態度は急変しすぎていた。

 

「…………何で? おれ達、おっさんのニュース聞いて…」

「ハァ……ウチの一家じゃ、コト足りず…ガレーラにもちょっかい出したのか。てめェら触れるものみな傷つける思春期か‼︎」

「ガッハハハハ!!! 若ェな、麦わら」

「なんもしてねェよ‼︎」

 

 フランキーの呆れた視線や、グリードの小馬鹿にした笑いも、ルフィにとっては身に覚えのない事で思わず怒鳴る。

 困惑しっぱなしの彼に、やがてパウリー達は我慢の限界を迎えたように、どっと得物を構えて飛び出した。

 

「とぼけるんなら……締めあげるまでだっ!!!」

 

 パウリーの自慢のロープが、真っ直ぐにルフィの首に向けて放たれる。

 蛇のように宙を舞ったロープは、ルフィの首に巻き付き、ギリギリと言葉通り締め上げていく。

 

「ウェエッ!!! 苦しィ…苦……!!! ア"…ぶへ!!!」

 

 呼吸を阻害され、うめくルフィは宙に引き上げられ、そのまま資材置き場に叩きつけられる。

 咳き込みながら起き上がろうとすれば、カクとルルが続け様に襲い掛かり、再び強烈な力で吹っ飛ばす。

 

「この野郎共!!! 邪魔すんなっつったのがわかんねェのか!!! そいつに恨みがあんのはおれだァ!!!」

「何だあいつら……完全に頭に血ィ登ってやがる」

 

 完全に無視される形になり、フランキーが抗議の声を上げるも、職長達は誰一人として取り合わない。

 ルフィ一人を執拗に狙う職長達に、グリードは胡乱気な目で鼻を鳴らした。

 

「やっちまえ――――‼︎ ガレーラカンパニー!!!」

「社内最強の5人のケンカだっ!!!」

「え⁇ 何で⁇ 何で船大工もみんな敵なの⁉︎」

「風向きが怪しくなってきたネ…」

「……お…‼︎ おい待てって‼︎ おれはお前らとケンカする理由が…‼︎」

 

 ナミが困惑し、リンがふつふつと湧いてくる嫌な予感に頬を引きつらせ、ルフィは攻撃の手を止めさせようと声を張り上げる。

 しかし、職長達の誰一人として、その手を止めようとはしなかった。

 

「あのなァ、おめェら人の話聞いてんのかァ⁉︎ そいつァおれの獲物だと言ってんだろうがァ!!!!」

 

 我慢が限界に達したフランキーが、左腕を変形させ、職長達を狙って銃弾を発射する。

 振り向きもせずにそれを躱したカクは、ずっと騒ぎっぱなしのフランキーに鬱陶しそうに顔を歪め、鼻を鳴らしながら告げる。

 

「お前につきおうとるヒマはないんじゃ、フランキー」

「何をこの…〝山ザル〟がァ!!!」

「兄弟!!! 後ろだ!!!」

 

 馬鹿にした物言いに頭に来たフランキーは、カクに狙いを定め再び左手を構える。

 しかしその瞬間、グリードが焦った様子で声を上げ、次いで彼ら二人に巨大な角材が叩きつけられる。

 

「むん‼︎」

「ぐぬァ!!!」

 

 強力な一撃を受けた二人は、角材の山に頭から突っ込み、倒れる。

 ルフィもまた、素早い動きで攻め込んでくるルッチに弾き飛ばされ、別の角材の山に突っ込まされる。

 

 全身スリ傷だらけになりながら、ルフィは職長達を睨み、冷や汗を垂らした。

 

「………‼︎ ホントに強ェなこいつら」

 

 襲われる理由もわからないまま、反撃もできないルフィの視界の端で、チカッと何かが光る。

 ハッと目を見開いたルフィは、パニーニャが左脚を開き、そこから露わになった刃を振りかざしていることに気付く。

 

 大慌てで飛び退けば、直後にパニーニャの義足から放たれた斬撃が、ルフィの背後の瓦礫を真っ二つに切り裂いた。

 

「くそォ――!!! 何なんだ、理由ぐらい言えェ!!!」

「理由を知りてェのはおれ達のほうだ…!!!」

 

 吠えるルフィに、パウリーがギリッ…と歯を食いしばりながら声を漏らす。

 荒い息をつくルフィに指を突き付け、血走った目で睨みながら、大気が震えるほどの凄まじい怒号を放った。

 

「昨夜、本社に侵入してアイスバーグさんを襲撃した犯人は、お前らだろうが!!!!」

 

 街中に響き渡りそうなその言葉に、ルフィは呆然と目を見開き、固まる。

 ナミやリン、その場に居合わせた住民達も同じく固まり、驚愕と動揺でパウリーを凝視した。

 

「な…何それ」

「ばか言え!!! 何でおれ達がそんな事するんだ!!!」

「〝犯人〟を二人覚えていると、目を覚ましたアイスバーグさんが証言したんだ。政府に聞きゃあ、お前らの仲間だって言うじゃねェか…『ニコ・ロビン』って賞金首はよ!!!」

 

 畳みかけるように放たれる情報に、ルフィ達は思わず息を呑む。

 昨日からずっと戻ってきていないロビン。彼女がどこで何をしていたのか知っている者はおらず、姿さえずっと見ていない。

 

 まさか、姿を消したその間に人を殺めたのか。

 そんな想像をしてしまい、ナミは真っ青な顔で棒立ちになっていた。

 

「もともとアイスバーグさんの命を狙ってこの島に来たのか、昨日、お前らが彼に会った後そんな気を起こしたのか、海賊の考える事なんざわからねェがな、犯人とわかってお前らを野放しににゃあしねェ…!!!」

「オイオイ、それでアイスバーグの奴ァ死んだのか⁉︎」

「こんなバカ共に殺されてたまるか!!! 生きてるからこそ…また、アイスバーグさんの命を狙いかねないコイツを、ここで始末するんだ」

 

 フランキーの問いに怒号交じりに応え、パウリーをはじめとする職長達が再び構える。

 この場で確実に仕留めるつもりらしく、常人では耐えられないような殺気を放つ。

 

「〝生死問わず(デッド オア アライブ)〟、指名手配の意味がわかるか。お前達海賊は、誰に何をされても文句は言えん。世界の〝法〟はお前達を守らんという事じゃ」

 

 カクの非情な言葉に、言葉を詰まらせるルフィ。

 しかしルフィはきつく拳を握りしめ、ぶるぶると肩を震わせながら、包囲してくる職長達を真っ直ぐに睨み返す。

 

「そうだ…おれ達は無法者だ、わかってるよ‼︎ だけどな、お前らロビンを知らねェくせに、勝手な事言うなァ!!!!」

 

 短くも長い時間を共に過ごし、数々の冒険を経てきた、大切な仲間。

 ここにいる者達の誰よりも、彼女の事を知っているつもりであるルフィは、彼らの仲間への疑いを否定する。

 どんなに証言や証拠があったとしても、信じたくはなかった。

 

「アイスのおっさんに会わせてくれ!!! 見間違いだそんなの‼︎ ロビンなわけねェ!!!」

「今度もまた何するかわからねェ奴を、アイスバーグさんに近づけられるか!!!」

「そうだ!!! 犯人達を縛りあげろ!!!」

「この町の英雄を殺そうとした奴らだ!!!」

「首切ったって構わねェ!!!」

 

 職長達のもたらした情報がようやく理解できたのか、住民達が一斉に、ルフィに敵意を向けて怒りの声を上げだす。

 怒号があちこちから上がり始め、ナミが不安気に辺りを見渡していると、唐突に彼女の手が引っ張られた。

 

「きゃっ…‼︎ ちょっと!!!」

「急げ!!! 逃げるんだヨ!!!」

 

 ナミの戸惑いの声も無視し、リンは人混みを掻き分け、大急ぎで走る。

 やがて住民達は、逃げ去っていくリンとナミに気付き、ハッと目を見開いて指を差し始める。

 

「見ろ‼︎ あいつら、麦わらのあいつと一緒にいたぞ」

「あいつらも仲間だな!!!」

「ホントか、逃がすな!!!」

 

 声が上がるや否や、住民達はリン達の後を追い、走り出す。

 実際に見たわけではない者も、見たと叫んだ者の言葉を鵜呑みにし、迷うことなく二人に手を伸ばす。

 

 あっという間に、町中は怒号と悲鳴が渦巻く惨状となっていった。

 

「ナミ!!! 糸目!!!」

「観念しろ!!! 情報はすぐ町中に広がる、逃げ場はねェぞ。一味全員、おれ達が仕留めてやる!!!」

 

 助けに向かいかけたルフィは、パウリー達の殺気に圧され、その場から離れられない。

 数十、数百もの追手に追われ、リンとナミは表情を引きつらせ、捕えようと伸びてくる手を必死に躱し続ける。

 

「捕まえろォ!!!」

「暗殺者共を逃がすなァ〜〜〜〜!!!」

「こりゃちょっとマズいネ…‼︎」

「やめてよ‼︎ 私達が何したっていうのよ‼︎」

「とぼけるな、暗殺者の一味め!!! よくもアイスバーグさんを、撃ちやがったな!!! 逃がさんぞ!!!」

「止まれェ!!!」

 

 追っ手は続々と数を増やし、右も左も囲み、どんどん逃げ場がなくなっていく。

 どんなに否定の言葉を吐いても、頭に血を昇らせた住民達は聞く耳を持たない。英雄の命を狙う敵への憎悪で、ほとんど我を失ってしまっていた。

 

「くそォ‼︎ おい‼︎ やめろお前らァ!!! おれ達はなんもしてねェ!!!」

「そうよ‼︎ だいたいロビンにだって、アイスバーグさんを狙う理由がないもの!!!」

「いつまでも言いはってるがいい」

 

 もう止まらない事を察しながらも、ルフィ達は必死に無実を訴える。

 悪党として最初から追われるのはいい。しかし、身に覚えのない罪を着せられるのは、どうあっても受け入れられない。

 

 しかしそんな彼らの反論を、パウリー達は一切受け付けることなく、鬼の形相で睨みつけるばかりであった。

 

「とにかくお前ら三人はここまでだ。あの人に害を与えるという事は、おれ達ガレーラカンパニーを敵に回すという事――そしてこの都市、ウォーターセブンを敵に回す事だと思い知れ!!!」

「このォ!!! 何でそんなありもしねェ事……‼︎ アイスのおっさんと話をさせろォ!!!」

 

 吠えるルフィに、再び職長達の魔の手が迫る。

 動けないように半殺しに、そんな勢いで迫る大工道具の数々を前に、ルフィは目を見開き、焦りで大量の冷や汗を流す。

 

 噴き出した人々の狂気は、最早留まる方法を知らなかった。

 

「観念しろ、海賊」

 

 喧噪の中で、パウリーのその宣言が、一際強く響き渡った。

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